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第32話 DT英雄に滅ぼされる

第32-7話 魔法使いの死

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○魔法使いの死
 私は、戦っている間に心の中でこれからの段取りを思い返している。そして、キャロルがついに私に近づき、顎に切っ先を向けて止まる。私は両手を広げる。キャロルは剣を持ったまま私に近づき、私の目の前まで来ると、迷わず胸に剣を刺す。体格差があるので斜め下から胸を刺すことになる。私は、のけぞるように崩れ落ち地面に倒れた。
「DT様これでよかったのですね」
 キャロルは、倒れた私に崩れ落ちるように覆い被さり、泣きながらつぶやいた。
 その様子を見て3勇者は駆け寄り、その死体を眺める。ジャガーが膝をつき脈をとる。見上げて首を振る。フェイも見に来て胸に耳を当てたあとその場で泣き崩れた。
 やっと3国の多分指揮官たちが到着したので、キャロルは、
「この通り辺境の魔法使いは私が刺しました。ご検分ください」
 3国の指揮官たちが互いに胸に耳を当てたりして確認し、納得したように3者が互いに目を合わせて頷きあっている。

 そこにモーラが近づいていく。本来なら子どもが近づいているのだから不審に思わなければならないが、モーラはオーラを放出しながら手前でとまり、その3人を見る。しかし恐怖からなのか3人とも何も言わない。
「この死体をどうするのじゃ。わしらが丁重に弔うつもりじゃが」
「残念ですが念のためここで焼きます。よろしいでしょうか」とキャロルが言った。
「灰はもらっていってもよいか。さすがに何か弔いが必要じゃ。問題ないな」
 これには、誰も文句は言わなかった。
 しかし、3人の司令官らしき人達は自分達が焼くと言い。魔法使いを呼んで、3方からその死体に向けて火を放った。一瞬にして燃え上がり、しばらく燃えた後、人の形をした黒い塊だけになった。
 モーラが四角い土の棺桶をその場で用意して、キャロルとエーネそして、3人の勇者が灰を入れはじめる。3人の司令官達はそれぞれ一握りだけ持っていた小袋に入れた。
「さて、わしらも戻ろうか」
 モーラはそう言ってドラゴンになって、横にいた魔族の子どもと棺桶を乗せて空の彼方に消えた。

 3勇者のパーティーにそれぞれの国の兵士が駆け寄り何かを話している。
「魔族が国を襲っているだと」
 すでに勇者を擁しない国の兵士達は、自分の国への帰還準備に入っていた。勇者達も急ぎ、各国へ戻って行こうとする。しかし、地面にできた死体の焦げ後を凝視してイオンは動けない。
「イオン様」
「ああ、すぐに国に戻るぞ」その声を聞いて、他の国も速やかに撤退を始める。
 兵士達が各国に戻っていった時には、すでに魔族は撤退した後だった。魔族側も戦力が十分ではないため敗走し、元魔王アモンは、敗戦の責を負ってルシフェルから追放ではなく更迭された。

 暗闇に紛れ燃えカスの残った場所に近づく者たちがいた。装束で顔を隠していて誰かはわからない。しきりに燃え跡のある場所の周囲の土を掘ったりして、痕跡を探している。しばらくして頷き合うと姿を消した。

 その場所から「英雄」は消えた。勇者たちと帰路についていたはずが、いつの間にか消えていた。その名前も素性もわからないまま消えた。金髪のややウェーブのかかった長い髪と水色の瞳が印象的だった少女という事だけが兵士の中で時々思い出されている。しばらくすると、屈強な兵士であったとか、細身の優男だったとか。色々な噂が流れていった。3組の勇者のグループの者たちは、いずれも風貌を話そうとはしなかった。

○ 家族の元へ
 私の死は、その場にいた各国の魔法使いからの知らせによりこの世界すべてに知れ渡った。もちろん私の家族の元にも。
 モーラは、私をあの平原に送ってきて、一部始終をエーネと共に見届け、亡骸にすがりついていたキャロルを残し、エーネと共にその死体の灰を持って帰ってきた。
 死体の灰は、メアが確認してみたが、確かに私の体の燃えかすだったようで
「死体ではなくなっていますが、これは本物です。一体どうやって作ったのでしょうか。ああそういえば、こんな事ができる人がひとりいました。私の父ですけど」
「そうなのか。それにしてもどうやってあの場所で入れ替えたのかのう」
「・・・・モーラ様申し訳ありませんが、元魔王様のいた隠れ里までお願いできませんか」
 エーネがすまなさそうにモーラにお願いしている。
「ああ、すぐにあの里に戻らねばならぬな」
 その後すぐに全員で隠れ里の方に向かった。そこには、石の上に座り込んだユーリと立ち尽くすパムがいた。
「結局どうなったのじゃ」
「私達と戦っていた兵士達は、魔族の襲撃に遭い、散り散りになりました。魔族達は、兵士を追ってここからいなくなり。残された里の者達も家を焼かれて今は野宿生活になっています。結界を張っていたシュトリ様も亡くなられましたので、ここには住み続けるのはもう無理でしょう」
 パムがユーリの様子を心配しながらそう言った。
「しばらくの間、ユーリとレイとパムは、エーネと共にここで里を守って、生き残っている者をまとめておいてくれぬか。それと移転用の馬車の確保をしてもらおうか。こちらまで来るための準備をしておいてくれぬか」
「モーラ様いいのですか?」
「元魔王も妻もいなくなったのだから、言い方は悪いが、移動を妨げるものはなくなったからな。しかたなかろう。その前にファーンやベリアルに連絡を取る。さすがに魔族も、となると事前に話して、承諾をもらわねば問題も出よう」
「わかりました。私は残ってみんなを説得します」
 エーネがひどく憔悴した表情を浮かべながらも気丈にそう言った。
「とりあえず、それぞれの集落から誰かここに呼んで説明するがいい。その後おぬしは、わしとともにファーンの町長に会わねばならぬ」
「しかし他の者を残しては・・・」
「すぐ戻ってくるから心配するな。それとおぬしの命とて狙われていることを自覚せい。ここに残ったらまた襲われるぞ」
「わかりました」
 そうして、アンジーとメアがエーネを連れてファーンとベリアルの町長に挨拶に行き、ファーンは問題なく。しかしベリアルは、少し難色を示した。そのため魔族のエリアは、ベリアルとは反対の方。ビギナギルに近い方に集落を築くことで了承された。
「あそこは、綿花と牧畜が主ですからねえ、近くにいてもトラブルになりそうですし」
「そうかもしれぬな」
 里に戻ってその説明をして、ディガートとパンシアがとりまとめを行うことになり、ユーリ、レイ、パムはモーラと共に戻ってきた。もちろん馬たちも一緒だ。
 到着して厩舎前に置かれた土の箱に入れられた黒焦げの灰を目にする。馬たちもそばに来てその灰を見ていた。
「本当に死体ですね。これは私達たちでも信じられる出来です」パムがその灰を手にして言った。
「隷属の首輪がなかったら多分信じていたでしょう」
「匂いは、少し違う気がします」
「にしてもこのまま置いておくわけにもいきませんよ」
「あそこに埋めておきましょうか」
「一体どこに?ああ、あそこですか」
 あそことは、光の柱を防御した元の家のあったところで、地下室のあったところが掘りやすかったのでそこに埋めました。
「結局、私達は蚊帳の外だったわねえ」
 アンジーがモーラに向かって言った。
「ああ、って蚊帳ってなんじゃ。この星にはいない生物をよける網か。その外ってどういう意味じゃ」
「しまった言うじゃなかった。説明が面倒だったわねえ。それにしても、公式に死んでしまうなんてねえ。予想外の展開だわ」
「まあ、エルフィもあきらめて泣き止んだし、これからあの里の者達をこちらに移送しなければならん。まだまだ事後処理が大変じゃ」
 そうして、モーラの縄張りへの移動が始められ、魔族が大半なので、道中襲われるわけでも無く順調にモーラの縄張りに到着して、魔族領との境界の森に沿って集落を築いていった。
 しばらくは、全員が静かにいつも通りの暮らしをしている。
 まるで、私がいないのが当たり前のように暮らしている。
「もうそろそろ良いじゃろう」
「潮時かしらねえ」

○ アンジーさん天界に戻されそうになる
 私が死んで数日経過した頃、アンジーの部屋にガブリエルが現れる。
「アンジーさんそろそろ良いですか、天界に戻っていただきましょう」
「いやです、というかだめです。まだそのような時期ではありません」
「まだそんなことを言っているのですか。あの男は死んだのでしょう?隷属も解けて自由の身、あなたがルシフェルから与えられていた役目も終了したでしょう。あの男がいないこの家や家族に未練があるとも思えませんが」
「ああ、あの時の様子に天界もだまされてくれているのですねえ」
「何を言っていますか。まさか」
「ええ、これが見えますよね」
 アンジーが自分の体を少しだけ透明に光らせその首に掛かった首輪と鎖を浮かび上がらせる。
「あの男、まだ死んでいないのか」
「ですから、私を連れて天界に戻ると天界が大変なことになりますよ」
「どういうことですか」
「こういうことですよ」
 私は彼の真後ろに現れ、振り向いた彼を殴る。簡単に吹き飛び、扉のある壁に張りついた。
「話はすべて聞きましたよ。今回の事はすべて天界が仕組んだことだと」
「ルシフェルが言いましたか」
 ガブリエルが顎をさすりながらそう言った。
「もちろん殺されるか殴られるかと問いましたよ。さすがに彼は殴られましたけどね」
「貴様、私を殴るとは、天罰が下るぞ」
「これだから天使は。自分たちが絶対的強者だと思っている。いいかげん目を覚ましなさい。あなた達も私達と同じようにもてあそばれている一種族なんだと。それを自覚しなさい」
「もてあそばれている。そんなことはありませんよ」
「頭が固いですねえ。そんな事だからいいように使われているんじゃないですか。さすが馬鹿種族の筆頭ですねえ」
「アンジー、一度天界にもどります」
「一応言っておきますが、この事を神に知らせたらわかりますよね」
「だが、神は見ているぞ」
「ならば、私が生きている事も知っているはずでしょう。ですが何も起きてはいません。その人には、全てが見通せているわけではありませんよ」
「確かにな。それでも神は私の記憶も覗けるからな。いつまでも隠すことはできない」
「ああそうなんですか。では」私は指を鳴らす。
 時が止まったかのように静止しているガブリエル。私は彼の頭の中を覗き、私と会った事実を探して消した。
「全く、この後どうするのですか」
 アンジーがガブリエルを指さして私に聞いた。
「行方不明のままですよ。やはり殴ったくらいでは心は晴れませんねえ」
「殺したとしても再生復活しますよ。私達は死にませんからね」
「だからこそ壊そうと思いましたが、再生したらこれまでの記憶が残っていないかもしれませんしねえ」
「だから殺さないのね。でも、ほかの天界の者が探せばいずれはばれるでしょう。大丈夫なの?」
「必要なのは時間ですから。では、数分たったら彼は動き出しますからよろしくお願いしますね」
「家族には会っていかないの?」
「別れるのがつらくなりそうですから。それにしても隷属の首輪のおかげで、こんなこともできるんですねえ」
「何か伝えておくわ」
「皆さんには、私は死んだので、ここにいる意味がありませんから、しばらくしたらそれぞれの住みたいところに移動してください。また会える日までは、できれば隷属はそのままにしておいて欲しいのですが。私から解除はしませんので、皆さんの意志で解除してくださいと」
「どこに行くつもりなの」
「まあ、一定の場所に長くいるとバレそうなので転々とします。できれば数年でなんとかしたいと思っています」
「みんなを一緒に連れてはいけないのかしら」
「皆さんと一緒なら生きていると明らかにバレてしまいます。こんな騒ぎをまた起こしたくはないので」
『みんな、今の聞いていたでしょう』
『ああ、聞こえていたぞ。わしは、しばらくしたら洞窟に戻ることにする。そこに来れば連絡も取れるじゃろう』
『私は、ここの孤児院の世話があるからこの町にいることにするわ』
『私は、アンジー様とともにお待ちしています』
『しばらくしたら自分のふるさとへ行っています』
『私は~ここではなくて森の中のエルフ達のところですね~』
『私もここではなくてベリアルのドワーフたちのところに住みます』
『僕もここではなくて森の中の獣人達のところに住みます』
『私は父のいた里をここで再建します』
『私はビギナギルに暮らします』
『そうでしたか。皆さんお元気で。では、私は消えます』
『『『『『『『『『はい』』』』』』』』』ああ、心が揃っていますねえ。
 そうして私はこの世界から消えた。
 消えた後、ガブリエルは目を覚まし、
「私は何か夢を見ていましたか?」
「静止していましたけど、意識がなかったのですか?」
 とアンジーが尋ね、
「大丈夫です。あなたを天界に戻すのを今回は諦めます。どうやらそうしなければならないようです」
「ありがとうございます。ガブリエル様の温情に感謝いたします」
 そうしてガブリエルは帰って行った。

○世界のその後
 魔族と人族の全面戦争については、お互いの準備が進んでいないことから、互いの領地の境界線での小規模な小競り合いに終始している。
 まあ、当然しわ寄せは、モーラの所にくることになる。
「今回の事で、人と魔族の確執がひどくなったからのう。わしのところに逃げ込む獣人や魔族も多くなったわ」
 モーラが頭を抱えている。
「そうねえ、あの時にマジシャンズセブンの代わりを立てたのが成功してしまったわね。私達の身代わりが獣人や魔族を保護して、大活躍しているわ。おかげで、マジシャンズセブンの名前は、全く違う者を意味するようになってくれて万々歳だわ」
 獣人達や魔族のはぐれ者達がここに流れ込むようになってしまっていて、魔族の王の娘であるエーネが隠れ里を作ってそこに集めていたが、それでは収まりきらず、魔族領との境界に沿って転々と集落を作っていった。もちろん、人との交流を前提としている。その集落は、ビギナギルの方までもうじき到達しそうで、ファーンとビギナギルの間の街道の安全がより一層図られるようになっていった。
「迂回ルートを作るというのは、良い発想じゃったなあ」
「あの馬鹿が言い残していたのよねえ。ここまで考えていたのかしら」
「違います。ハイランディスが攻めて来ようとした時にビギナギルを経由しないで私達の家に誘導するつもりだったみたいです。大量の兵士が通常の道を使ってビギナギルを通過する場合には、その道を使って横から襲撃するつもりだったようです」メアがそう言った。
「そういう発想だったのか。別に道など無くてもどこからでも攻撃できるじゃろう」
「人間というのは、道があればそこを通って進軍するのですよ」メアが付け加えた。
「なるほどなあ」
「つまり、今は人の側の流通と魔族獣人側の流通を分けているのね」
「厳密ではありませんが、途中の集落に行商しながらの商隊と物流速度優先の輸送隊との違いですね」パムが答えた。
「最近道路を頻繁に馬車が走っているのはそういうことか」
「問題も発生しています」メアが真剣な顔をしている。
「なんじゃ」
「魔獣の肉が手に入りづらくなっています」
「なるほどな。人や魔族が増えたからか。人や魔族の繁殖力はすさまじいからなあ」
「現在は、エーネのところの魔族達が魔獣を畜産向けに飼い慣らしているらしいです」
「せちがらいのう」
「それってこの地方だけよねえ」
「そのようです。他の国ではまだ、人族が優位を保っていますから」パムが言った。
「ここが異常なだけなのよ。あの町長には感謝しなければいけないわねえ」
「あ~モーラ様、もういいですか~あそこに~連れて行ってください~」
「ああ、そうか。ちょっと行ってくるわ」
「どこに行くつもりなの。」
「黒い霧の森じゃよ。成長が芳しくなくてなあ。今はドリュアデスにも手伝ってもらっておる」
「それでも、ドリュアデスに手伝ってもらえるくらいには~なったのです~」
「はいはい、いってらっしゃい」
「夕食までには戻られますように」

○解散会
 そうして夕食にみんなが揃います。中央の席だけはぽっかりと空いたままです。ええ、私の席ですね。誰も座らないようです。
 お祈りの後、食事が始まりモーラが言った。
「そろそろ別れて暮らすことにせんか」モーラのその言葉に全員がビクリとする。
「もう少しここにいては、まずいですか?」ユーリが寂しそうに聞いた。
「まずいと言うより、まだ噂が絶えないのよ。あいつが生きているのではないかとね」
「私達があの方の帰りを待っていると思われているということですか」
「まあそうなのよ。定期的に他国から偵察に来ているくらいにね」
「間者達もいいかげん飽きるとは思うが、あいつが戻る前にけりを付けておきたいと思っているのじゃ」
「わかりました。私はあの集落に住みます」エーネが言った。
「私は、フェルバーンに暮らそうと思います。気になりますので」ユーリが言った。
「あそこは、フェルバーン独立自治区になったのでしょう?」
「はい、だからこそ気にかけなければならないと思います」
「あなたが国を作れば良いんじゃないの」
「私は、父と同じで外交能力は皆無ですし、統治能力などもありませんので」
「私は、ベリアルにまいります。ちょうど、同族が集落を作りましたので」パムが言った。
「私も~このそばのエルフの集落で~」
「僕も~このそばの獣人族の集落で~」
「私は孤児院と教会があるから、遊園地の所の家に住むわ」
「私はアンジー様にご一緒させていただきます」メアが言った。
「私は・・・」キャロルは迷っている。
「あんたはね、ビギナギルで冒険者をやりなさい」
「でも・・・」
「気持ちはわかるわよ。でもね、あそこの人たちがあんなことを気にすると思うの?見てもいない英雄の姿を信じて」
「そういえば、ビギナギルは軍隊もないし誰もあの場所には行っておらん。少なくともおぬしがあの英雄だとは知らんはずじゃ」
「そうでしょうか」
「私と一緒に行きましょう。もし雰囲気が悪かったら私と一緒に私の所で暮らせば良いのではありませんか」ユーリが言った。
「わかりました。そうします」
「まあしばらくの間は、そうしようではないか」
 食事も終わり、いつもどおりお風呂です。ここでもモーラとアンジーの間には少しだけ隙間があります。全員で入って窮屈でもその隙間だけは空いています。
「不謹慎ではありますが、一つ提案があります」パムが言った。
「お墓と言うのを作ってはどうでしょう」
「あいつの机の上に置いてあったメモの箇条書きの中にあったわねえ。墓を作れと」
「ええ、墓という概念はこの世界にはないのですが、何かを作るのですよねえ」
「知っている範囲なら十字架かしらねえ。あと石とか。そうね、石を置きましょう。なんでそうしなかったのかしら。まあ、私にとっては死んだことを認めるようで嫌だったというのもあるのだけれど。確かに効果的かもしれないわね。出立前に作ろうかしらね」
 そうして翌日、全員で山の中に入り、巨大な石を見つけ、モーラに手伝ってもらって、森の中まで移動してもらい、そこから全員で以前家があった場所に移動させる。その下にはすでに私の遺体が埋まっている。
 そこの場所の草を少しだけ刈り取り、長方形の石を横たえる。全員が一列に並んでその石の前でお祈りをする。誰かに見せるように長い時間をかけて。
「これでいいわ、効果が出ることを祈りましょう」アンジーが言った。
 家に戻って、全員が旅支度を始める。
「この家には、勝手に出入りしても良いからね。その無線機が鍵になるようになっているらしいから必ず持ってくるように。まったく、あいつは、予備機が3個も作ってあったわよ。キャロルとエーネの他にまだもう一人隷属させる気だったみたいねえ」
「アンジー様、単に10個というご主人様の好みの数字だったからではないですか?」
「ああ、そうか。今9人だものね」
「わかりませんよ~旦那様のことですから~」
「エルフィ、これまではおぬしがいつも予言しているから増えたのであろう」
「え~魔族までは言いましたけど~キャロルまでは想定していませんよ~」
「私は、想定外だったのですか・・・」
「違うの~そう言う意味じゃないの~」
「あんまりエルフィをいじるな」
「いじられるのは、ユーリの役回りだわねえ」
「もう卒業しました」
「いや、卒業って学校じゃないですよ」
「ああ、あやつは学校の先生になりたかったらしいのう。だれか学校を作れば良いではないか」
「それは、先生が戻ってきてからにしましょうね」
「ああそうじゃな」
 そして翌日、全員でその家を出た。モーラは洞窟へ、アンジーとメアは、遊園地の所の家に。エルフィ、レイ、パムはそれぞれの種族の元にユーリとキャロルはフェルバーンとビギナギルに向かう。馬たちは、エルフィがアをユーリがクウをパムがウンをキャロルがテンをそして、メアがカイを連れていった。

 そして、それから一月ほどすると間者も来る様子もなく、私が不死身ではないかという噂も消え。あっという間に世間から辺境の魔法使いの噂は聞かれなくなった。もちろん英雄の噂も無くなっている。
 たまにあの石のところに花が捧げられていたりしているのを除けば。

○再会です
 しばらくして、ファーンの街の居酒屋で顔を合わせた家族一同。ユーリとキャロルが遊びに来ました。
 いつもの指定席をメアがちゃんと予約していました。簡単な乾杯の後、それぞれの近況の話になる。
「キャロルは、ちゃんとビギナギルに住んでいるのだな」
「はい、皆さん知らないフリをしてくれています。それに、DT様のことも聞かれません」
「そうか。何か困ったことはないか?」
「領主様のお屋敷に戻れとうるさくて。それがしつこくてちょっと困っています」
「今はどこに住んでいるのだ」
「以前住んでいたところのそばに小さい家を作りました」
「ほほう、自分で作ったのか」
「エルフィさんが相談に乗ってくれましたので」
「行ってきました~」
「どうせ、エルフィはあの街の居酒屋に行きたかったのじゃろう?見え見えじゃ」
「まあそれもありましたけどね~」
「生活はどうじゃ」
「実は、あそこに家を建てたのは、後ろの森に薬草畑があったのです」
「あの時は、採取が主だったような気がしたが、エルフィ?」
「旦那様が~テスト栽培していた場所が~あるのですよ~」
「あやつはそういうところは、まめだからなあ」
「あまり冒険者として生活しなくても良くなりました。豪炎の魔女さんからもその方がありがたいと言われていまして」
「マッケインあたりが泣いているじゃろう」
「そうですね、でも人手が足りない時などは、ちゃんと手伝っていますよ。あと、ヒメツキさんの洞窟の管理もやっています」
「ああ、念願が叶ったようじゃのう」
「ヒメツキさんは嫌がっていますけど。ヒメツキさんだけだとお供え物とか腐らすので行かないわけにはいかないのです」
「ふむふむ、してエルフィはどうなんじゃ」
「私は~木工製品の指導と材木の製材が主ですね~」
「木工製品は、長命人族の方ではないか」
「木工といっても~椅子とか家具の方ですよ~」
「棲み分けか」
「はい~結構良い値で売れていますよ~」
「レイはどうじゃ」
「牧畜が主ですから。でも、飼っているのに家畜を食べたそうにするのでそれが問題で」
「しかたがないわな。エーネはどうじゃ」
「魔獣の管理は結構面倒ですね。柵の破損が問題で魔法による結界を試行錯誤しています」
「そうか、パムは」
「はい、革製品のほうは順調で何も問題ありません。あと、ぬし様に教わっていた鉄製武器や防具もあわせて製作していますね」
「あやつの知識は日常特化型とはいえ、万能じゃからなあ。さて、パムは、いろいろととびまわっているようじゃが、やつは今どこにいる」
「残念ですがわかりません。どうやら転移魔法を使ったり、放浪者のような格好で辺境の種族を回ったりしているようです」パムが残念そうだ。
「転移魔法まで使っているのか」
「はい、足跡をたどってはいるのですが、忽然と消えるのです。空間転移魔法を使っているとしか思えません」
「それに辺境の種族に一体何をしに行っているのだ」
「レイと私で行った先を確認して何カ所か回ってみたのですが、どうやら顔を覚えてもらっているようです。いつもどおり相手と食事をともにして、しばらく共に暮らして、色々手伝って、まるで部族に溶け込もうとしてなじむまで生活しているみたいです」
「一体何をしているのじゃろうなあ」
「わかりません。一度だけ戦争の情報収集がてら各国を回りましたが、探そうにも出没地点が広範囲すぎて、目撃されたあたりの近隣の部族しか回れませんでした」
「その他のところで目撃されたのはどの辺じゃ」
「よく目撃されるのは、あのセリカリナの街です。そこからどこかに消えています」
「ふむ、あそこで何かしておるのは間違いないなあ」
「しばらくメアさんがあちらで両親と暮らしているときに見かけたと言っておりました」
「メアよ、会っておらんのか」
「はい、私とご主人様の「約束」ですから」
「それは仕方がないのう」
「私の住んでいるフェルバーンにも来ていたようです。きっと私の様子を見に来たのでしょう。姿は現してくれませんでしたが、気配はしました」
「私が酔っ払って寝ているときにも頭を撫でてくれましたよ~」
「結構現れているじゃないか。わしのところには・・まあ、来ているのじゃろうなあ」
「縄張りに入れば、判るのではありませんでしたか?」
「あやつとアンジーはなあ、ちょっと判りづらいのじゃよ」
「来ているらしいわよ。私は気付いていないけれど、レイが気付いていたから」
「はい、匂いだけが残っていました。とても臭い匂いが。そしてすぐいなくなっています」
「ふむ、これだけ姿を現しておいて、死んだというのもおかしな話だ」
「イメージが違いすぎるのではありませんか、汚い放浪者と威厳のある辺境の魔法使いでは」
「そういえば、たまにあの家に明かりがついていることがあるのよねえ」
「アンジーは、そこに住んでいるのではないのか」
「あそこはねえ、メアと2人で住むには広すぎるのよ。でも、最初はあの遊園地の所の家に住んでいたのだけど、メアと2人ならあの最初に作った家がちょうど良いのよ。もっともエルフィに作り直してもらったけどね。だからモーラもこっちに来れば良いじゃない。最初に作った家なら、3人で暮らすにはちょうど良いわよ」
「あやつが戻って来てみんなで住めるようになるまでは我慢しようと思ってなあ。わしらだけ暮らしているのも他の家族に悪いと思うし」
「それもそうね。そう言えば、天界もあいつを探しているらしいわよ。もっとも魔法使いの里を使って探しているらしいけどね」
「まあ、見つかるわけもないじゃろうがなあ」
 そうやって、定期的に情報交換のために集まっていて、私の生存だけは確認して、あの家に一泊をしてから自分の暮らす地方に戻っていったようです。


続く


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秋野 木星
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3歳の時に川で溺れた時に前世の記憶人格がよみがえったセリカ。 魔法が使えることをひた隠しにしてきたが、ある日馬車に轢かれそうになった男の子を助けるために思わず魔法を使ってしまう。 それを見ていた貴族の青年が…。 異世界転生の話です。 のんびりとしたセリカの日常を追っていきます。 ※ 表紙は星影さんの作品です。 ※ 「小説家になろう」から改稿転記しています。

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