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第32話 DT英雄に滅ぼされる

第32-2話 魔族の鼓動

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○ 獣人さん来る
 パムが各国の調査に出た数日後。珍しくユーリだけが家にいました。エルフィとレイとエーネが肉の調達のために獣を狩りに行き、私とメアが薬草を納めに、モーラは自分の洞窟に、アンジーがキャロルを連れて孤児院と教会の打ち合わせに出かけていた。
 コンコンと扉を叩く音がする。ユーリは、静かに扉を開ける。そこには、ボロボロの服を着た、獣人が立っていた。その姿形には見覚えがある。
「どうしましたディガートさん。何があったのですか」
 ディガートは、元魔王様のところにいる獣人だ。
「ああ、ユーリさん。久しぶりだな。元気にしていたか」
 そう言って、崩れるように部屋の中に倒れ込んだ。ユーリの肩を借り、椅子に座り込む。
「そんなにボロボロになって一体どうしたんですか。けがしていないんですか?」
「大丈夫だ、ここまで急いて来たのと、この扉に到着するまでに色々とあって服が持たなかっただけだ」
 確かに獣人も扉の前の結界には引っかかるのだった。
「そうでしたか。でもそんなに急ぎの用とは一体どうしたんですか」
「実は、俺たちの住んでいる森は、人間の領地ではなかったはずなんだが、俺たちが暮らしている事を嗅ぎつけて、税を払えと言ってきたんだ」
「そうでしたか」
「しかも断ってしばらくしたら、何の警告もなく、森の中の広場に設置していた直売するための小屋を夜に焼き討ちしやがった」
「証拠はあるのですか」
「いや、盗賊のようにも見える格好をして襲ったつもりなんだろうが、携帯していた武器は、兵士用の剣だったからな。たぶん間違いない」
「剣なら一般にも売られているでしょう」
「あそこの剣は独特な作りをしているのですぐ判るんだよ。あそこの兵士にしか扱えない珍しい刀なんだ」
「ああ、そういえばそうでしたね。それで、どうなさりたいのでしょうか」
「税をとられるほど豊かではないし、あそこは生活しやすいけど、人間と揉めるのも嫌だからな、以前話していたこともあるし、モーラ様の縄張りの方がまだ安心ではないかと移住の相談に来たんだ」
「モーラは、自分の洞窟に行っていますので、少し待ってください。もう少し待って、戻らなかったら連絡を取ります」
 ユーリが台所でお茶を入れて持ってきて、しばらく待っている。馬車の音がして、私とメアが町から戻ってきた。
「おや、こんにちは、ディガートさん。どうしました急に」
「DTさん。実は・・・」さきほどユーリにしていた話を聞かせてもらった。
「なるほど、それは大変ですねえ。相手の国もあせっているのでしょう。軽々に事を運んでは、後々に影響が出ますねえ」
「どうしたらいいんだい」
「移住よりも定住していたいのなら条件交渉をした方が良いのでしょうね。その販売店の売り上げの1割を税として納めるとか」
「そんなに売れているわけではないし、その先また税率を上げてくるだろう。どうも相手が欲しいのは土地じゃないのか。体のいい厄介払いをしようとしているような気がするんだが」
「そっちでしたら、どうしますかねえ。とりあえず考えてみませんとね」
 そして、しばらくすると、モーラが扉を開けて入ってくる。
「ああ、おぬしじゃったか。獣人が家に入って来たから、殺されていないか心配したぞ」
 そう言ってモーラが入ってくる。
「殺されるって俺がですか?」
「ああ、不審者が入って来たら、強盗だと思って倒すだろう」
「いや、ちゃんとノックしたけどなあ」
「そうか?この家の玄関まで来られただけでも、すごい事だからなあ。まあいい。わしを待っていたようじゃから、何が用件じゃ。話してみい」
「そこまでわかるのですか。さすがですねえ。実は・・・」
 ディガードは、同じ話を3回目です。まあ、仕方が無いですけどねえ。
「わしのところに来る?ああ、あの親書配達事件を知っているはずだろう。現在ここは、天界、魔族、獣人族、エルフ族、魔法使いの里から不干渉地域になっておる。つまり、何が起きても誰も手を出せないことになっておる。それは、エーネをこちらに寄越した時に説明をして、元魔王だって知っているはずなんじゃが」
 モーラはそう言って首をかしげている。
「だったら、むしろ好都合じゃないか」
「逆じゃ、元魔王なんかがここに来たら、毎日襲撃されるぞ。前に匿っていた時より露骨にな。公式には不干渉でも非公式には何でもありの地域になったのでな。こんな所にいたら、狙われる危険度はさらにあがるぞ。それよりも里の位置をもっと森の奥に移動したほうがよいのではないか」
「それも考えたんだが、そうやって逃げ回るのもなあ。やっとあそこで落ち着いたんだよ」
「あそこに暮らせるのがベストなんですね」私がそう確認をした。
「ああ、まあそうなんだ」
「私が行ってきます」少し考え込んでいたユーリが私を見ながら言った。
「ユーリどうしてあなたが?」
「あの国には、ちょっと貸しもありますから交渉次第ではなんとかなるかもしれません。」
「知っているのですか。」
「あそこの国のさる領主が悪さをしていて、それを告発して、国王から感謝された事があります。たぶん貸しになっていると思いますので、交渉のテーブルにつけるかもしれません」
「一緒に来てくれるのか」
「はい、それとレイも一緒に連れて行きたいのですが」
「どうしてですか?」
「国王に会うことになった時には、獣人のレイの活躍の方が大きかったと思いますので」
「ああ、そうしてもらえるならそうしてくれ。そういえばエーネはどうしているんだい?」
「立った今戻ったようじゃ」
 馬の足音が聞こえ、レイが扉にぶつかる音がする。
「全く、静かにできませんかねえ」
 私が扉を開けると獣化したレイがハアハア言いながら獣化を解きながら飛び込んできて、その後ろからエーネが入って来る。
「里に何かあったのですか?」
 エーネが真っ青な顔でディガートに聞いた。
「話は、聞こえていなかったのか」
「はい、レイがその方の気配を感じて、里に何かがあったのではないかと思ったので急いで戻ってきました。あの、両親に何かあったのでしょうか」
「あ、ああ今のところは大丈夫だから」びっくりした表情でディガートが言う。
「そうでしたか」ほっと一息ため息をつくエーネ。
「も~2人とも~獲物を置いて走っていったらだめだって~」
 エルフィが扉から顔を出し、中に入らずに声をかける。
「やっぱり~ディガートさんだったんですね~お元気でしたか~」
 エルフィは、ユーリとメアに声をかけ、一緒に倉庫の方に向かう。獣を解体して血抜きをするためだ。レイもショボンとして倉庫に向かった。
「ユーリは、パムとレイと一緒に旅していたときに何をしたのですかねえ」
「あの時の旅の話は、ほとんどしてくれんからなあ」
「そうなんですよ。何をしていたんですかねえ」
「勇者会議の後に3人でもう一度各国を回ってこいと言ったら、パムが嫌がったからなあ。どれだけやらかしたのかのう。聞いてみたら、きっと面白そうな話何じゃろうが、本人達として、話したくない黒歴史なんじゃろうなあ」
「モーラ様、その・・俺は早く戻りたいんだが」
「まあ待て、ユーリは行くと言っているが、レイとエーネが行くのか聞いていないからな、行くとしても準備がいるであろう。準備が整い次第わしが送っていく。しばらく待っておれ」
「本当かい。それは助かる・・・かります。」
「ああ、移動の時に何かあっては困るのでな」
「エーネ、里に戻りますね」
「はい。行きます」
 そうして、しばらくして血抜きから干し肉までの一連の作業を終えて、4人がもどってくる。メアは台所に行き、肉などを片付け始め、ユーリとレイが自室に行って用意を始める。エーネはすでに準備が出来ている。エルフィは、少し時間をおいてからレイの準備を手伝いにレイの部屋に向かった。
「すまねえなあ。あんた達を頼るのは筋違いだっていうことはわかっていたんだが。どうにも元魔王様の不安そうな顔を見るとついなあ」
「誰が言い出したんですか?」
「誰だろうな・・・辺境の3賢者なら相談に乗ってくれるかもと言い出したんだよなあ」
 頭をかきながらディガートが変なことを言い出した。
「辺境の・・・」私が思わずモーラを見ます。
「3賢者じゃと?」
「あんたらそう呼ばれているんじゃないのか?」
「初めて聞きましたよ。そんな言葉」
「ああ、わしの二つ名とおぬしが王女に呼ばれていた呼び名・・・じゃが・・」
 そこで玄関の扉がキャロルの手で開けられて、アンジーが入ってくる。
「ただいまー。あらあんた。えーっとそうそうディガートだったかしら。久しぶりねえ。かなり体が汚れているけど何かあったの?」
「アンジーおぬしも賢者と呼ばれているのか?」
「賢者?ああ、昔ねえ。天界にいたときに呼ばれたことがあるわね。それもたった一度だけ、「あなたは賢者になれる器ですねえ」とかなんとか。そういえば誰に言われたのかしら。よく憶えていないわ。でも、なんであんた達がそんなこと知っているのよ。というか私は賢者なんて呼ばれた事、それ以外は一度もないわよ」
「そもそもそう言われた事を簡単に思い出しているのはなぜですか?」
「んー、どうしてかしら。賢者と言われてふっと連想できたのよねえ。・・・それってもしかして」
 アンジーの目が急に鋭くなる。
「今、そこの獣人が「辺境の3賢者ならなんとかしてくれる」と言って相談に来たのじゃよ」
「3賢者?誰よそんなことを言ったのは。そもそもモーラが辺境の賢者と呼ばれているのは、ドラゴンの里でのことじゃない。今回の一連の出来事も・・・ふうん?そういうことなのね」
 そこに旅装をしたユーリとレイとエーネが降りてくる。エルフィも降りてきた。
「あるじ様、念のため確認しますが、行ってきてもよろしいでしょうか」
「親方様、僕も行ってきます。いいですか?」
「私は里帰りしてきます」
「気をつけて行ってきてくださいね。くれぐれも周囲に気をつけて。もしかしたら・・」
「ええ、もしかしたらですね」
「なんだいその・・・もしかしたらってのは」
「まあ、もしかしたらですよ」
「よくわからんが。とりあえずすぐ戻るわ。何かありそうなんだな」
「では、馬の準備をして参りますので」
 ユーリが先に席を立ち、エルフィもその後を追う。
「おぬしどう思う」モーラが私に質問した。
「あの勇者会議の後ですから、国王がそう考えるは自然のような気もします。しかし、今回の事と連動しすぎていて、気になりますねえ。まあ、気になったからといってどうにもなりませんけれど」
「行かせてよいのか?」
 モーラがエーネとディガートを見てそう言った。
「私には止められません。止めようと思えば止められるのでしょうけれど、ユーリがそれで止まるとも思えませんし」
「確かにそうじゃなあ」
 厩舎から戻ってきたユーリを見てアンジーが、
「どうせ止めても行くんでしょうけど。ユーリ、気をつけなさい。それから元魔王様家族も巻き込まれることになるから、できれば守ってあげるのよ」
「ああ、そうかもしれぬなあ。じゃが自分の身が最優先じゃ。わかっておるな」
「大体しかわかっていませんが、元魔王様夫婦とエーネの身を第一優先として守ります」
「念のため言っておくがユーリ。それからレイ、エーネ。おぬしらが死んだらこやつが何をしでかすかわかったものではない。絶対死ぬなよ」
「ああそれもありましたね。わかりました。我が身優先に考えます。それと、あるじ様、しばらく不在となります」 
 ユーリは、膝をついて私を見上げる。あわててレイもその横に膝をつく。エーネまでが膝をついた。
「そうですね、ユーリの安全を祈願して・・」私は額にキスをする。
「レイにも安全を祈願して・・・」レイにも額にキスをする。
「たまにご両親に甘えてくるのですよ。ついでに里のご両親をあなたが守るのです」エーネにも額にキスをする。
 そうして、ユーリは静かに立ち上がり、レイもエーネも真似をして立ち上がる。3人は、ディガートを見て、ディガートが立ち上がるのを待っている。
「待ってくれ。話について行けてない。どういうことか説明してくれないか」
「簡単よ。あなたは自分の意思でここに来ているつもりでも、誰かにそそのかされてここに来ているの。その誰かは、あなたの周囲の人も里の人達もすでに巻き込んでいて、特に元魔王夫婦が一番危険になっているという事が、たった今わかったという事よ」
「今の会話だけでどうしてそこまでの話になるんですか?」
「ああ、あなたは知らないものね。状況を話してあげるから元魔王様にも話しておいて欲しいのだけれど。今、人間の3つの国には、神託がおりて、辺境の魔法使いを倒せと言われていて、各国は兵を集めているの。そんな騒動の最中にあなた達の所で騒動が起きたの。もしかしたらこの2つの事件は連動していて、この混乱に乗じて元魔王夫婦を殺すつもりかもしれないのよ」
「話が飛躍し過ぎだろう。たまたま事件が重なっただけだろう?」
 ディガートがそれはないという顔をした。
「いいえ、あなたは「辺境の3賢者に相談してみたら」と言われたのよね」
「ああ、誰かにそう言われた・・・と思うんだが」
「そもそも誰も私達のことを3賢者なんて呼んだことなんてないのよ。一度もね」
「そうなのか?」
「わしはドラゴン、こやつは天使、こやつは魔法使い。どこに共通点があるというのじゃ」
「あ、ああ。言われてみれば確かにな」
「わしは、ドラゴンの里から、こやつは元王女からそれぞれ賢者と呼ばれておる。じゃからあながちわしら2人だったら言われても納得できるのじゃが、アンジーが昔そう言われていたのを知っているとなれば、どこからその情報を知ったのか。ということなのじゃよ」
「あ、ああそうか。しかし偶然ということはないのか」
「今回に限って言えば、それはないわね。これは、あなたを使った私達への挑戦状、いや果たし状なのよ。たぶんね」
 アンジーがディガートを睨んで言った。
「ああ、相変わらず豪胆じゃのう。何度も失敗しているのにわざわざこんなことをして、といってもこれまでも全部相手の手のひらで踊らされていたがのう」
 モーラも勘弁してくれという顔をしている。
「ええ本当に。最後の最後で少しだけ手のひらから飛び出して躱していますけど、今回も敵は自信満々ということですかねえ」
 私はげんなりした顔をして言いました。
「!と言うことは、すぐ戻らないとまずいのじゃあねえのか」
 そこでディガートは急に焦り出す。
「今すぐに殺すわけがないじゃろう。慌てるな。ただ、これまでの経験からどうあがこうと事態は確実に悪い方へ進むからな。用心して動かないといかんぞ。覚悟しておけよ」
 モーラがディガートにオーラのこもった目で言った。
「問題はそこなのよねえ。さてモーラ。ユーリとレイ、エーネそしてディガートさんをその国へ送り届けてちょうだい。どうやらそれが開始のゴングね」
「ゴングってなんじゃ」
「ああ、開始の鐘ね」
「行ってくるわ」
 そうして、ディガート、ユーリ、レイ、エーネそしてクウと馬車を乗せてモーラは飛び立った。
 アンジーとメアとエルフィとキャロルと私は、その姿を見送った後、家に入り、メアが運んできたお茶を手に取る。
「本当に静かな時間はあっという間にすぎるわね」そう言ってアンジーは、お茶を一口飲んだ。

○勇者達と会うパム
 少し前に戻ります。パムが周辺国の調査のため、ウンと一緒にモーラに送ってもらっていました。
「モーラ様この辺で下ろしてください」
「ジャガーの気配がわからないがこの辺でよいのか?」
「大丈夫です」
さすがにウンと一緒に高いところから降りるわけには行かないので、地上に静かに降ろしてもらう。
「気をつけてな」
「モーラ様ありがとうございます。行ってきます」
 モーラはそこからあっという間に消えた。
「さて、まずはジャガーさん達ですねえ」
 パムは、つぶやいてから、しばらく馬を走らせる。坂道にさしかかり、少し登って、小高い丘まで来たときに花火を打ち上げる。魔法の花火だ。あるじ様に教えてもらった連絡方法で、昼間なら結構遠くまで見ることができる。ほどなく同じ魔法がかなり遠くで打ち上げられた。パムはそこに向かってウンを走らせる。
 川べりに見覚えのある荷馬車が止まっていて、レティが手を振っている。パムは、手前で降りて、ウンとともにその荷馬車に近づく。
 河原にあった大きな石にジャガーが座り込んでいる。そのそばにフェイが座っている。パムが近づくとフェイが心配そうな顔をしてパムを見上げる。
「ジャガーは憔悴しています。自分の中の正義と、国への恩、義理などの関係について悩んでいます」
「国を諫めるだけの状況にはないのですね」
「はい、DT様へのこれまでの恩と人を守る勇者としての責任とに挟まれて苦しんでいます。私としてはもう少し簡単なのですがね」
 フェイはあっさりと言った。
「簡単ですか?」
「はい、国王の存在が国民のためになっていないからです」
「でも、ぬし様を国の安全を脅かす者として認識しているのでしょう」
「それは、国益ではなく国王の恐怖を取り除き、利益を守ろうとしているだけです。今回の事を利用して、今のうちに脅威を排除しておこうと思っているのではありませんか」
「確かにそうかもしれません」
「DT様が怖いのでしょうね。それと問題はジャガーにもあります。ジャガーが国王を説得しているのですが、国王は、DT様を脅威と感じていて、ジャガーも少なからずDT様を脅威と感じているので、言葉に詰まってしまうのです」
 フェイはため息をついた。
「なるほど、国王の説得に力が入らないと」
「それと他の勇者の動向も気にしています。どうやら他の勇者は動かなければならない状況に追い込まれているようですから。そちらとの足並みをそろえないとならないとも考えています」
 フェイはどうにもならないと思っているようだ。
「なるほどわかりました。また会いに来ますので、状況が変化したら教えてください」
「このままでは、多分DT様と戦うことになります。私達には不利な・・・いえ無理な戦いですけれど」
「ぬし様は、戦いたくないと言っておられます」
「そうでしょうね。それでも間違いなくその時は来ます。引き延ばしにも限界もあります」
「私も他の勇者に会うのを急ぎましょう」
「お気をつけて」
 パムは、その足で元王女のところに向かった。噂では、すでにロスティアに戻っているようだ。
 ロスティアの城塞都市に到着してから、しばらくは街中の噂を確認して、夜にサフィに連絡をとり、元王女と会うことができた。
「お久しぶりですイオン様、立ったままご挨拶することをご容赦願います」
 パムは周囲に警戒をしながら立ったままでイオンに言った。
「パム様お久しぶりです。私はすでに王女ではなく一介の冒険者となっております。普通に挨拶をしてください。それで、ご家族の皆様はご壮健でいらっしゃいますか」
「はい、皆元気にしております。取り急ぎで申し訳ありません。今回の神託の関係ですが・・・」
「現国王である私の妹が強硬派となってしまい。討伐に積極的なのです」
 イオンは悲しそうにそう言った。
「それはなぜですか」
「単純に賢者様の実力を実際に見ていないからです。放逐した剣士のメリカイが、妹に賢者様の周囲の皆様方が強いのであって、あの方が強いわけではないと吹き込んでいまして、それを信じているのです。それと、3千人対1の時の事は、周囲の兵士達も、私は負けていないと妹に話していて、私の方が賢者様より強いはずだと妹は思い込んでいます」
 イオナはため息をついた。
「なるほど」
「私が諫めても神託に従い国を守るために私に戦い、そして勝てと申しております」
「元国王様は、どうしていらっしゃいますか」
「神託とDT様のどちらに対しても怯えています」
「なるほど、本当に現国王を諫められる者がいないのですね」
「残念ながら。すでに私は死ぬ覚悟はしております」
「ぬし様がそれを望まれるとでも思いますか」
「それは無いと思います。でも私が倒されれば妹もその強さを納得するでしょう」
「そんなことになれば、現国王は、ぬし様を恨んで、再び争いになりそうですね。怪我ではダメなのですか?」
「そうですね、たぶん再戦しろと言い出しそうです。手足の一本でもなくなったらそれでもDT様を恨むでしょうし」
「国王、いや妹様に愛されていますね」
「正直なところ困惑して、いいや、迷惑だと思っているくらいです」
「そうでしたか。差し出がましいことを申しました。状況はわかりました。ありがとうございます」
「賢者様は、DT様は、どうなさるおつもりですか」
「私は独自に動いています。ぬし様のお考えはわかりません」
「正直私は、戦いたくはありませんが、国のために戦うことになります。それだけはお伝えください」
「承知しました」
 そして、パムは、最後のパーティーに会いに行く。こちらもすでにハイランディスに到着していた。城塞都市に入った時からすでに忍者は、パムの事を見つけてコンタクトを取ってきた。パムは街中の噂を確認してから、忍者に連絡をして、勇者とライオットに会うことができた。
「ユージ様、ライオット様、お久しぶりです」
 パムは丁寧にお辞儀をした。
「正直に言わせてもらっていいか。俺は逃げ出したい。だがそうもいかないんだよ」
 ユージがくやしそうに言った。
「そうなのです。私達も抜き差しならない状態にあります。宣託の勇者として、名が売れてしまっている以上、神託があったのですから戦わなければなりません」とライオットが付け加える。
「ああ、それだけはどうにもならない。これが運命なんだ。きっとそうなのだろう」
 ユージの言葉に悲壮さが現れている。
「あなた達の置かれている状況はわかりました」
「なあ、あんたならあいつが、DTがどうするのか聞いているんじゃないのか」
 本当に切なそうにユージが言った。
「私は、独断でここに来ています。ぬし様のお考えは判りません。ただ、私は、ぬし様には戦うつもりはないと思っています」
「そうだとしても、戦うことになりそうだ。俺は勇者としてもここまでかな。今はまだあいつに勝てるとは思えない。でも戦うしかないだろうしなあ」
 そうつぶやくユージとその姿を心配そうに見守るライオットを置いて、パムはその場所から移動した。
「まったく、どの勇者もふがいないですねえ。懊悩、運命、死への恐怖、ああ、ぬし様と比べるのはいけませんね。ぬし様は特別なのですから。勇者さえも超えているお方なのですから」
 パムはそうつぶやくと、ウンに乗ってそこから移動を始める。他の国の様子も探るために違う国に向かった。

○ユーリが到着
 ユーリ達はその国の一番端の町に着いた。親書を届けた時以来、久しぶりだ。ディガートと共にそこに立ったが、まだ先に行かなければならない。里は山の奥だ。
「ここからは、少しペースを上げるぜ。ユーリさんついてこられるかい?」
「クウならば、大丈夫でしょう」
「ヒン」どうもなめるなと言いたいようです。レイは、まだ獣化さえしていない。エーネは羽を出している。
「じゃあ行こうか」そうして、ディガートが獣人のまま走り出す。
「迂回してから足跡を消して結界に入っているんだ。場所が何カ所かあって、見られていたら違う場所から入っている。だからさすがに兵士達も入り口の場所を知らないし、入っては来られない」
「結界は誰が張っているのですか」
「元魔王の奥さんさ。すごいぜ、魔族でも高位の者以外は拒めるらしいのさ。だから、結界の入り口だって一度閉めたら誰も入れない」
「高位の魔族なら入り込めると言っていましたが、魔族が人間に手を貸す可能性はありませんか?」
「無いとは言えないが、さすがに現魔王が手を出さないと決めたのに高位の魔族が従わないとことはないだろう」
「なるほど」
「そろそろ着いたぜ」
「人がいますよ」
「ああ、ここはだめだな」
 そうして、入る場所を変えようと移動する。しかし、どこもかしこも人が待ち伏せている。
「なるほど、これは厳しいな」
「殺さないように倒しましょうか」レイが言った。
「レイ、やめてください。敵に攻撃の大義名分を与えることになるとモーラ様に言われました。やめましょう」ユーリは言った。
「そういうことか。人との関わりは難しいなあ」
 そうして、見張られていない入り口を発見し、ディガートに連れられて3人は、その集落に入っていった。
 一瞬だけ人の気配がしたような気がしたが、気にせず入った。
『レイ、何か感じましたか?』
『子どもだと思います。悪意は感じませんでした』
「ディガートさん、もしかしたら入るところを見られたかもしれません」
「兵士か?」
「いや、子供らしいとレイは言っていますが」
「ああ、出入り口を見られたとしても、子供なら問題ない。この辺に住む人たち、特に子供達は、俺らに出会っても大人に話すなと言い含めてあるからな。それに、出入り口の位置を正確に覚えてもいられないんだ。なんせ、入り口自体は、下から広げないと見つからないようになっているからな。さらには奥様の結界がある」
「ああ、それで何やら布のようなものをめくるような格好をしていたのですね」
「それは、魔力を持つ者だけが手に触れられる結界でね。子供が魔力を持っていれば、掴むことができるのだが、魔力のある子どもは魔法使いの里に連れて行かれるのだろう?」
「魔法使いの里に知られていない魔力のある子どももいますけどね」
「めくったとしても高位の魔族がいなければ、封印は破れないよ。もっともそんな偶然が重なるのなら仕方が無いだろう」
「そうでしょうか」
「さて、里へはまだかかるぞ」
「はい」
 そして、しばらく開けた道を走ると、集落が見えてくる。

Appendix
なんや、今度はカイも出掛けるか。
そうらしいわ、でも距離は走らんみたいやし、つまらなそうや
まあ、その方がいいか。
無事に帰ってこいよ、姫さん達も一緒にな
まあ、そこそこ頑張るわ
行ってくるわ

Appendix
それで本当にあの方は戻ってこられるのでしょうね。
多分ね。今の王では不満なんだろう?
私はあの方の側近でしたので、戻られる事を待っています。
ならば、戻れるようにするだけだね。
はい


続く
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