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第32話 DT英雄に滅ぼされる

第32-1話 属性:英雄

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○属性:英雄
「そういえば、キャロルが属性:英雄ではないかと言っていましたが、やっぱりそうなのですか?」
「今回の特訓でより一層確信したな。団体戦の時のあの子の天稟を見たであろう?」
「確かに成長も早かったですし、レイのスピード、ユーリの剣、パムの力、魔法はそこそこですが、互角に渡り合っていましたね」
「そこじゃ。万能過ぎるのじゃ」
「勇者だってそうですよね」
「確かに勇者は成長限界がないと言われているから、もっと伸びしろがあるだろうが、キャロルはそれを遙かに凌駕している」
「それでも、家族の中では万能ではあっても、平均ではありませんか」
「確かにな、でもこれだけ短期間で成長しているのがなあ。」
「どこにですか、どうしてですか?」
「英雄の定義じゃよ。元魔王から聞いた話だが、勇者と英雄には明確な違いがあるのだそうじゃ」
「似たようなものですよねえ」
「確かにな」
「ちょっとリッチーさんに聞いてきますよ」
「そうかわしらでは、伝わり方がどうも主観的になってゆがんでいる場合もあるからな」
 私はリッチーさんのところに来た。
「こんにちは、いらっしゃいますか」
「出歩かぬ私に「いらっしゃいますか?」は、ないだろう。おるぞ」
「知っていたら教えて欲しい事があるのですが」
「やけに丁寧だな」
「対価も無しにお尋ねするので、ちょっと」
「ああ、今の魔法使いは対価を要求するのであったなあ。わしは対価など要求せん。おぬしとの話が対価みたいなものじゃしなあ」
「そう言っていただけるとありがたいです。早速ですが、英雄についてご存じですか?」
「確かに知っておるが、英雄の何を知りたいのかな?」
「これまで英雄とはどんな時に現れていますか?」
「簡単じゃな。戦争だよ。他種族との戦争、人類同士の戦争、災害との戦いなどが当てはまる」
「災害と戦うのですか?」
「風水害の時にたまたま英雄が発現した事があるそうじゃ。もっとも災害に隠れた何かが現れていたかもしれないがな」
「発現すると言いましたが、突然現れるというのですか」
「まあ、素質を持つ者が結果的に劇的な勝利をもたらして、そう呼ばれている。ほれ豪腕ゴルディーニの例もあるであろう?あやつは素質があってそれなりの地位にいて種族を救った」
「それ以外の例ではなにかありますか?」
「魔族をたったひとりで撃退した事もあるし、ドラゴンを追いやったというのもある。まあ、素質があって機会があればそうなるべくしてなるというところかのう」
「素質を持っていれば必ず英雄になりますか」
「その機会が必ず現れるだろうからな。もっとも平和な時代など今まではほとんどないからな。素質があれば英雄になるだろう」
「そうですか」
「おぬしのところの金髪の美少女の事を気にしているのか?」
「どうしてそれを」
「ワームと戦った時はたいした活躍もしていなかったが、素質持ちなのであろうなあ」
「わかるものですか」
「さあな、じゃがこれから何かが起きた時には必ず担ぎ出されるだろうな」
「それを阻止することはできますか?」
「英雄にしてしまえばよい。ゴルディーニのように名声がでてからでは、英雄として祭り上げられるが、無名の時に活躍すれば、記憶から消える。わしが知っている災害を救った英雄はそうだったからな。その後は静かに暮らしていたはずじゃ」
「それは良い事を聞きました」
「大きな事件でも小さく事を収めるだけで関係者がほとんど見ていなければ、人の記憶など簡単に薄れるものだからな」
「ありがとうございました」
 私は礼を言ってそこを辞した。

 私がいなくなったのを確認してリッチーさんは呟いた。
「その子が成した英雄譚を聞かせてもらうのがわしへの対価じゃ」

○ 平穏な日々
 そしてしばらくは平穏な日々が続いている。私は薬草を育て、乾燥して出荷する。家族達は、それぞれが仕事を持って働いている。モーラは、自分の洞窟へ行き、アンジーは教会へ、メアは、エーネと一緒に家事全般、ユーリとキャロルは、町で冒険者や傭兵ギルドの手伝い。パムやエルフィ、レイはそれぞれの種族の世話などでそれぞれの集落に足を運んでいる。そうやって田舎暮らしはゆったりと進む。毎日忙しく働いたりしていない。畜産の方々は、毎日が大変だ。私達にはない苦労がある。
 それでも何かが少しずつ動き始めている気がする。私はこの幸せな時間をなんとか維持していきたいと思っているので、悩みすぎでハゲそうです。
「なにやら夜は、地下室に籠もっているようじゃな。いったい何をしとるのじゃ」
「ええと、調べ物です。あと新しい魔法の開発ですねえ」
「みんなが寂しがっているぞ。少しは夜もまったりしておれ」
「確かにそうですねえ」
 皆さんと一緒の時間を作っていない自覚はあります。そしてあせりもある。だが知られる訳に今はいかないというジレンマがある。この呪いを解くタイミングをはかっているのもある。
「そういえば、昼間は昼間で、薬草の育成もエルフィに任せきりにして、鍛冶場に入り浸っているみたいだし、薬屋から鍛冶屋に転職でもするのかしら」
 朝食の後にアンジーが冷たいジト目で私を見ながら言った。
「鍛冶屋は仕方ないでしょう。勇者たちに作ったせいで、皆さんの武器の更新も必要になりましたから。彼らの武器を作ったおかげで新しい発想も生まれましたので」
「それから、ふいに出かけて行ってファーンやらベリアルやらさらには長命人族の所にも行っているじゃない。一体何を始める気なのかしら?」
 アンジーさん、だんだん言い方が詰問口調になっていますよ。
「少し前には、エルフ族の所にも来ていましたよね~。」とエルフィが言った。
「そうそう、獣人族の所にも来ていました」とは、レイだ。
「あんた、本当に何をする気なのかしら」アンジーさんマジ顔で私を見るのはやめてください。恐いです。
「と、言われましても、セリカリナ以降、こちらに移住してから最近まで、あの方達には、まったく関われていなかったのです。ようやく皆さんのケアができるようになったので、ケアに回っていただけですよ」
「本当なのかしら」アンジーの疑り深い目にそうではないと言い返したい。
「そう言われても、そうだとしか言えませんが。ベリアルには、綿花と羊毛の状況を聞きに行ってきましたしねえ」
「あの魔法使いとも結構話し込んでいたようじゃが」
 モーラまでそこで尋問ですか。
「私にとっては初めての師匠でしたから、今はお弟子さんもいるようですし、私にも何か教えてくれないかなあと思いまして。結局無理でしたけど」
「まあ、おぬしが相手では、見せた瞬間に憶えられてしまうからなあ」
「はい。エリスさんがそのことを教えたおかげで教えてくれないのです。でも、面白いことも教えてもらいました。例えばエリスさんの・・・」
「何を教えてもらったのかしら」いきなり現れてそう言うのをやめてもらえませんかねえ。
「おや、エリスさん突然現れましたねえ、転移魔法ですか?」
「私を呼んでおいてそう言うことをいうのかしら。さて、何を聞いたのか話してもらおうかしら」
 さっきから私にはこういう口調で話す人ばかりで、悲しいです。
「エリスさんの二つ名である薄氷の魔女の名前の由来ですかねえ」
「あんの馬鹿。まあ、それくらいなら良いわ。他には何を聞いたのかしら」
「残念ながら、その先を聞きたければ、対価を払えと。そして、この次に会った時までと言われましてねえ。それ以上は聞かされておりませんよ」
「これ以上は私のことを尋ねないようにね」
「はあそうします」
「さて、私を呼びつけたのはどうしてなの。いつもは、私の店に来ていたわよねえ。何か店では話せないことなのかしら」
「相変わらず頭は良く回るのう、まあ座るがよい」モーラが嫌な笑みを浮かべている。
「え?ええ」
 エリスはそう言って、ただならぬ雰囲気を感じながらも座った。レイ、パム、ユーリが扉の側に移動して、エリスの背中の側に回った。
「でも間抜けよねえ」アンジーが笑っている。
「馬鹿にするために呼びつけたわけなの」
「いいや、前回会ったときにおぬしが言っていたことが気になってなあ。確認したかったのじゃよ」
「私が何を言ったのかしら」
「わしらが、家族に対して憧れがあると言っていたであろう?」
「ええ言ったわ。それがどうしたのかしら」
「その話どこで聞いたのか思い出さぬか?」
「どこって、あなた達から聞いたわよ」
 何を言っているの?という顔です。
「どこで聞いたのかしらねえ」
 アンジーが冷ややかに笑って言う。
「どこだったのかしらねえ。憶えていないわ」
 エリスがあせっているのだが、シラを切っている。 
「わしらがその話をしたのは、たったの一度きり。おぬしがいないところで話をしていたのじゃよ」
「そ、そんなはずないでしょ。私は確かに聞いているわよ」
「盗み聞きしかありえないのですけどねえ」私はそう言った。
「さて、ここで素直に話すかそれとも手足を切り落とし、その後、傷口を焼いて死なないようにしてから白状させられるかどちらがいいかのう」
「何を話せば良いのかしら」
「盗聴方法ですね。厳重な結界の中の会話をどうやって聞いたのか。それが知りたいですよ」
「もしかして直接聞いていたの?壁に耳をそばだてて。まあ、そんなことをしていたら、誰かわかるでしょうね」
 アンジーがひとりでボケてひとりでツッコミを入れました。ノリツッコミとか高度な技です。
「教えても良いけど、対価がいるわよ」
「なるほどさすがは魔法使いじゃ。対価、対価とうるさいわ。何が欲しいのか言うてみよ」
「私の命の保証かしらねえ」
「あんたわかっていないわね。命が保証されても生かしておくだけで、一生牢獄だってこっちは別に良いのよ?」
 アンジーが笑って言った。
「ちなみにその時の事は、魔法使いの里の指示ですか?」
「そうとも言えるわね」
「話す気は無いのですね。わかりました」
 私は、指を鳴らしました。ゴトリという鈍い音がして、エリスの胴体だけが床に落ちる。
「え?」
 エリスの視線から私達の姿が消えて、テーブルと天井が見えている。何が起こったかわからないが、自分の体が床に落ちて、天井が見ている事にようやく気づく。
「何をしたの?」
 エリスは意外に冷静に私に尋ねる。
「対価を払いましたよ。命の保証はしています。でも、命に手足は必要ありませんよねえ」
 私の言葉にエリスは体を動かそうとするが、手も足もないので、ただ、体を揺すっているだけだ。
「ちょっと待って、本当に手足を切り落としたの」
「はい、手足は切り取りました。さあ、対価は払いました。話を聞かせてください」
「ねえ、このままじゃないわよね、元に戻すのよねえ」
「あなたの度重なる裏切り、寝返りには、ほとほとうんざりしましたので、ここで縁を切らせていただきます。手足とともに、魔法使いの里に送り込みますので、そちらで直してもらってください。ではお答えを」
「ちょっと、手足は戻してよ、元に戻らなくなるかもしれないじゃない」
「そんなの知りませんよ、さあ早く話してください。対価は払いましたよ」
「お願いよ元に戻して、死にたくない!!」
 エリスは、涙を流しながら叫んだ。とたん意識が戻り、テーブルに肘をついて両手で顔を覆い涙を流していた。
「おい、どうした?意識でも失ったか?」
 モーラがけげんそうな顔でエリスを見ている。
「私、どのくらい意識を失っていたのかしら」
 両手を見つめながらエリスが言った。
「両手で顔を覆ったほんの一瞬だが、どうしたのじゃ」モーラがエリスを見て言った。
「まるで何か見せられたみたいねえ」アンジーがエリスの様子を見てそう言った。
「アンジーさん私の見たものを見たの?」
「いいえ見ていないわ。あんた何かを見せたのね?」
 アンジーが私を見て言った。
「さあ知りませんよ」
 私は、冷たい目でエリスをにらんで言った。
「たった今ね、私にこれから起きる未来を見せられたのよ」
 絶望的な青い顔でエリスは言った。
「ほう。どんな未来じゃ」
「手足が切られて胴体だけが床に転がり落ちて、天井しか見えない体にされて泣き叫ぶところまでね」
「なるほどね。そう言う効果もあるのねえ」
 アンジーがちょっとだけ驚いている。
「何の効果なの?」
 エリスがアンジーをジッと見る。
「3国の戦争の時にね、とある魔法使いが道に変な魔法を蒔いたのよ。その魔法は感情を著しく増幅させて、自分では制御できなくするのよ。しかもその魔法は、嗅覚に作用する魔法なのよね」
 アンジーは優しく諭すように話している。
「感情を増幅して制御できなくするの?」
 エリスは驚いている。
「今のあなたの場合は、死への恐怖が増幅されて、手足を切り落とされるというのがイメージになってその先を勝手に作り出したのでしょうね」
 アンジーが丁寧に解説している。
「ああ、そう言うことなのね。でも、あなたやりそうだものねえ」
 そこでようやく私を見た。
「まあ、手足を切り落とすところまでは実際やるつもりですけど。今までも散々やってきましたから」
 私の表情は変わらない。
「なら話しても話さなくてもおんなじじゃない」
 エリスはあきれてそう言った。
「話さないなら、脳の中をいじるだけですけどね。死ぬ覚悟があるなら痛くても大丈夫そうですね」
 私はなおも表情を変えずにそう言った。 
「ああおぬし、以前魔法使いの頭を覗いたことがあったなあ。あの魔法使いは絶叫していたが、気絶から目が覚めた時には、気分爽快な顔をしていたな。あれはどうやったのじゃ」
 モーラがそう話すと、エリスは実際にその場所にいた魔法使い達からその話を聞いていたので、ちょっとだけ怯えた表情になった。
「それはアフターケアをした場合ですねえ。ケアしない場合はその痛みの記憶も残りますよ。今回は当然ですが後者ですね」
「だそうよエリスさん。話しても話さなくてもじゃなくて、話さないと絶叫を伴う激痛が待っているんですって」
 アンジーがさらりとそう言った。
「まあ、おぬしがいなくなっても魔法使いの里は代わりに誰か送り込むじゃろうし、日常は変わらぬからなあ」
 モーラがそう言って笑っている。
「そうですねえ、薬の卸し先を大手に変えれば良いだけですし。そうすると魔法使いの里は大打撃でしょうね」
 私はモーラの方を見て言いました。正直、それもいいかもしれないとちょっとだけ思いました。
「ああ、そうじゃろうなあ」
「だけど、私はどうせ死ぬのだから変わらないでしょ」
 エリスは私を睨み付けて言いました。
「私は、人を殺したくないので生かしておきますよ。しゃべるまで痛い思いを繰り返して、気が触れるかもしれませんがね」
 私はそう言ってうす笑いをした。
「痛いのは嫌ね。わかったわよ、今更あの時の事を蒸し返されるとはね。式神よ、一度家に入るたびに式神を脱衣所に忍ばせていたの」
「入るたびにですか」
「そうしないとだめなのよ。溶けるから」
「ああ、そういうことか。薄氷の魔女だったものなあ」
「今更思い出さないでよ」
「一度きりしか使えないのですか」
「さすがに常駐させるだけ魔力は持たせられないわよ。家の中をちょろちょろ移動したらばれるでしょ。現にレイちゃんには食べられているしねえ」
「食べたのですか?」
「まあ、溶けるしねえ。そして、その後は、結界も強化されたから、使えなくなったからね。数回だけよ」
「わかりました、それなら仕方がありませんね」
「昔の悪事が今頃バレるとはのう」
「エリスさん。今はやっていないわよね」
 アンジーが本当に冷ややかな目でそう言った。
「やっていないというか、やれないが正解ね」
「でも、式神が通るくらいの隙間は、作ってあるわよねえ」
 アンジーが私を見る。
「式神は窓を通って居間にしか来られませんよ」 
「じゃあ今は大丈夫なのね」
「はい。今回エリスさんをお呼びしたのだって、現在もまだ抜け道があるかどうかの確認のためでしたから」
「この後も何かやっていたらどうするのじゃ?」
「これからなら褒めますね」
「はあ?」
「今後風呂場での会話が盗み聞きされていたら褒めます。だって、私の想定を超えてくるのですよ。拍手して、その方法を教えてもらいますよ。その後はその人をどうするかはわかりませんが」
「とことん研究バカじゃなあ」
「ハイハイ、この件はこれでおしまいよ」
 アンジーが私をあきれた顔で見て言いました。
「でもね、やられたから言うわけじゃないけど、相手の心を壊すような魔法はやめておきなさい。自分自身も壊れていくわよ」
「はい、そうします」私は、全く反省のない、カラ返事をしました。
 そうしてエル四が納得できないままその話は終わった。
「ああ、本題は別じゃ。来てもらったのはなあ、魔法使いの里の魔女達の動きじゃ。割とこちらに細かいいたずらを仕掛けてきているが、あれは全部里の長の仕業でよいのじゃろうか。他の奴らは加担していないのか?」
「ああ、調べてみるけど。それなら紫に聞いた方がいいんじゃないの?」
「あやつは、直接聞きに行くからなあ。直接聞かれたら、はぐらかすに決まっておるわ」
「でも、里の動きを調べてどうする気なの」
「いや、よくそんな事やらせておくなあと思ったのじゃ。普通誰かやめさせないか?」
「今の主流派は好き勝手にやるという魔女ばかりだから止めもしないじゃないかしら」
「セリカリナの街の時は、破壊すると言ってみたり、一年間猶予を用意したりとまとまりがなかったみたいだけど、そのせいなのかしら」
「あれは、連絡系統でしょうね。話を聞いた人によって対応が違っただけじゃないかしら。勝手にやるわ。すきにすればみたいな感じじゃないかしらね」
「関心が無い事柄には、適当な答えが返ってくるとな」
「話が二転三転したのはそのせいだと思うわよ」
「なるほどのう」
「他には?」
「しばらく動向を探って欲しいのじゃが」
「何か理由があるの?」
「何か起きたときの対処のためと言えば良いのか。この町のためじゃ」
「この町のためなら対価は良いわ。探りはしないけど、いつも通り情報収集しておくわ」
「すいませんが、よろしくお願いいたします」
「さっきの脅しの後によろしくと言われてもねえ」
「すまんがよろしく頼む」

○3王への宣託
 その声は、ほとんど同時に3国の国王に聞こえた。まず、鐘が鳴り響き、それぞれの従者が駆けつける中、謁見の間などの大勢が集まるところを中心に城全体に声が響いた。
「私は神である。かの辺境に住む魔法使いは邪悪である。この世に害を為す者である、心ある者よ、かの者を滅しなさい」
 その声は、その後2回同じ言葉を繰り返し、静かになった。
 ハイランディスの王は言った。
「我々だけでは無理だ。勇者を探して協力をお願いして、兵士と共に辺境の魔法使いを滅するのだ」
 ロスティアの王女は言った。
「姉様を呼び戻すのよ。至急居場所を確認しなさい。そして隣国がどうなっているのか情報を取って。同時に隣国といつでも連絡を取れるような体制を作るのよ。大至急!」
 マクレスタ・チェイス公国の王は言った。
「勇者を呼び出さねば事は収まらぬ。どこにいるかすぐ探して参れ。それからじゃ」
 そうして、それぞれの国は、それぞれの国に縁のある勇者を探し始める。
 もちろん他の国にもその声は聞こえたらしく、カロリンター古王国やデューアリス、ロスティアと対立しているヨルドムントでも王城内で騒ぎが起きた。しかし、そもそも辺境の魔法使いと関わりが無いため、他国に送り込んでいる密偵に情勢を確認させるにとどまっていた。
 その神託の事実は、瞬く間に市民の間にも広がることとなり、辺境の魔法使いは、マジシャンズセブンの中心人物と同じ人物ではないか。いや、魔王と呼ばれる人だ、その人に違いないと断定され、噂が広がり始める。
 しかし、噂が広がれば広がるほど、それまでのマジシャンズセブンの噂があまりにも常識を外れていることから、国がまとめてかかっていっても、到底太刀打ちできるわけがないと騒ぎ、一方で、滅ぼさないと今度は自分たちが神に滅ぼされるに違いないと騒ぎ出した。
 不思議なのは、そもそもこの世界での神は、信用されていないはずなのに急に神の存在が浮かび上がってきているのだ。そして皆、神の存在を信じてしまっている。
 そして、辺境の魔法使いに似た人を知っている人達。例えば、実際に出会い、助けられた人達は、その理不尽な神託に疑問を持ち、討伐に否定的な意見を言っていた。

 私は、エリスに呼び出された。
「あんた大変なことになっているわよ」
「何が起きているのですか?」
「ロスティア、ハイランディス、マクレスタ・チェイス公国の3国があんたを殺しに来るそうよ」
「私は何もしていないのですがねえ」
「なにやら各国同時に神託があったそうよ。辺境に住む魔法使いを滅せとね。それで今、戦力増強のためにロスティア、ハイランディス、マクレスタの3大国が、縁のある勇者を連れ戻そうと奔走しているようなのよ。そうなればいずれここにあなたを滅しにくるでしょうね」
「困りましたねえ。神託とかそんな理不尽な理由で滅されるのは。」
「とりあえずその神託は、確かにあったみたいよ」
「情報をありがとうございました。対価は必要ですか」
「そうね。この町をいや、モーラの縄張りを戦火から守ってちょうだい」
「それはもちろんですよ。というかここを戦場にはしたくありませんねえ」
「そうして欲しいのだけれどできるの?できるならぜひそうしてちょうだい」
 私は、エリスの薬屋を出たところで、町長に出会った。
「おぬしちょっといいか」
「ああ、町長さんどうしましたか。また何か問題でも・・・もしかして私が問題なのでしょうか」
「ああ、その噂もう聞いているのか。そうではない。その噂にある辺境の魔法使いとはおぬしではないのであろう?ならば問題なかろう」
「ですが、他国の人はそれを信じてくれませんよ。私も色々な地方でやっかいごとを押しつけられて片付けていたもので、その噂の主を私だと信じ込んで必ず滅しに来ますよ」
「辺境の魔法使いは、たくさんおるじゃろう」
「ああ、この地方は、確かにたくさんいますね。そういえばそうでした」
「おぬしだと信じ込んで、おぬしの身を案じている者もいる」
「そうですか」
「実はなあ、聞いたところによると、町で働いている獣人、エルフ、長命人族が、休憩時間とかに自発的に戦闘訓練を始めているらしいのじゃ。仕事場の者が理由を聞いてみると、おぬしが狙われていて、いつ襲われるかわからない。当然、この町も狙われているから、今からでも戦いに備えたいと言っているそうだ。
 おぬしもこの町もそんな事にはならないとは思うのじゃが、周囲の者達がやめるように言ってもやめんのだそうじゃ。どうやらかたくなに信じ込んでいてなあ。もっともおぬしがやめろと言ったところでやめはしないと思うのだがな。
 ああすまん、おぬしに聞かせるような話ではなかった。だが、おぬしに話しておかないとそれはそれでまずいと思ったのでなあ。
 まあ、おぬしならやめさせに行くかもしれんので、念のため釘を刺しておきたかったのもある。説得に行くのはよした方がいいじゃろう。
 あと、町の者達は、おぬしが否定しても、おぬしなら絶対遠慮していると言われて訓練は続けるじゃろうし、これはどうしようもないことなのじゃろうか。何か止める手立てはないのだろうか」
「私が止めさせようとしても無駄なのだとしたら、そもそもその噂をなんとかするしかないですね。モーラやアンジーに相談してみます」
「そうか。誰ぞに相談できるなら相談して見てほしい」
「家に戻ります」
「ああ、今のはわしの愚痴じゃ。すまんなあ聞かせてしまって。おぬしにしか話せない内容なのでなあ、当事者に愚痴るとかわしも老いたのう。すまんが忘れてくれ」
 そう言って、町長と別れて家に戻った。

○作戦会議
「さて、家に戻ってきましたが、皆さんお揃いですね。私を待っていましたか」
「当然よねえ、神託なんてあり得ないんだけど。見えない手もついにあんたが邪魔になって直接排除に動いた訳ね」
「しかしなあ、本当に神託を信じて動くだろうか、そもそも神の存在は否定的だったのではないか。今代になってからは、アンジー教ができるくらいの規模じゃし、信じられているのは、存在しているドラゴンぐらいじゃろう」
「神の復権ですか」
「今更?ありえないわね」アンジーは否定的だ。
「ですが、勇者を呼び戻していると言います。何かしら行動を起こさなければまずいと思っているのではないでしょうか」とパムが言った。
「ああそうか、天罰が落ちない程度にというところか」
「しかし、「滅せよ」と言っているようですから、滅される何者かが必要になるのではありませんか」とメアが言った。
「とりあえず、誰かの陰謀の線もあると思うからそれぞれ聞いてみてくれんか?」
「私は、いつも通りルシフェル様に聞いてみるわ」
「私はもう一度エリス様に聞いてきましょう。ご主人様に言いづらいことが何かあるのかもしれません」
「わしもちょっと行ってくるわ」
「私は、各国を回ってきます。」パムがそう言って馬の用意をしに外に出て行く。
「用意ができたら声をかけるんじゃぞ。乗せていくから」
「いつもありがとうございます」
 アンジーとメアが町から戻ってきたところ、ルシフェルは不在、エリスからは、今のところ魔法使いの里も静観しているということだった。
「変ねえ。いつもならいるはずのルシフェル様がいないなんて。とりあえず連絡をくれることにはなっているから聞けるとは思うけど」
「しばらくは様子見ですねえ」
 その後、パムの準備が遅れていて、一度ドラゴンの里に飛んでいったモーラが戻ってきて、ドラゴンの里も何も聞いていないとのことでした。
「またパムに頼りっぱなしじゃなあ」
「私も行ってきます」ユーリが言った
「僕も~」レイも行きたいらしい
「行ってきますね~」そう言ってエルフィも行くつもりらしい。
「あんた達は駄目に決まっているでしょ。そもそも3人とも隠密行動なんてできないだから。特にエルフィ。あんたは酒場で余計なことばかりしゃべるんだから、むしろ家にいてちょうだい」
「ちぇ~旅したかったのに~」
「僕も~」
「あ、あるじ様と一緒に旅したいです」ユーリが私を上目遣いでジッと見ています。おお!めっさかわいい。
「も~そうやっていつも抜け駆けする~ユーリずるい~」
「ずるい~」
「いいから全員家で静かにしていてちょうだい」
「アンジー様、私が行ってきます」メアがめずらしく言った。
「あなた、メイド姿で隠密できるのかしら」
「はい、こうやって」メアは頭に手ぬぐいでほっかむりをしている。
「そういうしゃれにならないしゃれはやめなさい。いてもらわないと、この腹ぺこ軍団を御しきれる自信ないから。メアは絶対居てちょうだい」
「ご主人様ご命令を」メアがそう言って私を見る。
「いや、もう補助脳じゃないのですから、ネタでもやらないでくださいね」
「いえ、本体はすでに仮眠モードです」
「うまいこと処理しておるのう」
 くだらない話をしている間にパムが準備を終えて、部屋から出てくる。
「どこに連れて行けば良いのか」
「とりあえず、マクレスタにお願いします。ウンと一緒に行きます」
「では、行こうか」
「その前におまじないをしますから。パムさん」
 私は立ち上がって、パムの前に立つ。
「ええとその、お、お願いします」そうして、パムは跪いて顔を上げる。
「行かせたくないのですけど。充分気をつけて」そうして私は額に少しだけ長めにキスをする。
「ええと、キスが少し長いです」
『少しでも私の思いがパムを守るようにちょっと長くします』
「いいな~」
 他の人達に不満もあるようですが、私は気にしませんよ。ええ、あとでしてあげるとか思っていません。
 さて、全員でお見送りです。なんと馬たちも出てきています。
「行ってきます」
 モーラがウンとパムを手に抱えて飛び立って行きました。すでに羽ばたきの音さえ聞こえません。
「本当にモーラも無音になったわねえ。」
「風情がありません」メアが嘆かわしそうに言いました。
『何を言っておる。見られたらまずいのだから仕方がないであろう』
 そうして、パムは独りで情報収集の旅に出ました。

○ 元魔王様のいる里
 サクシーダ王国。ここには、元魔王様が山奥にひっそりと里を作り、少数の多種族とともに暮らしていた。
 しかし、3国騒乱の後、サクシーダ王国は、隣接する国々からの侵略に対する危機感が募り、今後の戦争に備えるためにあることを始めた。それは、隣国と接していない、森林などを自国の正式な領地とするため調査を始めたのだ。そして、調査の途中で、森林の中にどうしても近づけない地域があることに気付いた。監視を行ったところ、そこは、見知らぬ多種族が住んでいるらしく、出入りも厳密にしていて容易に侵入できなくなっている。
 その報告を受けた王は、その居住民から税を徴収することを決定し、それを宣告したのである。
 一方的に通告された方は当然反発する。数回行われた話し合いは、物別れに終わり、しばらくは静かになった。しかし、森の中に設置されていた直売場が襲撃されて小屋が破壊された。夜間は無人であったため死傷した者はいなかったが、集落の者達に動揺が走ったのは言うまでもない。

Appendix
神が動き出しましたよ。
動き出したわけではありません。天界を動かしたですよ。
そうですが、浮かない顔ですね
アンジーにどう言えば良いのか
それで逃げているのですか?
そういうわけではありませんが、どう言ったものか
言わない方が得策ではありませんか
そうなりますね

Appendix
おう出番らしい、行ってくるわ
気いつけてなあ。
ああ、着地が問題や。
そこかい
まあ、あの人とは長いから大丈夫やろ
せやな。でも気いつけてな
あいよ


続く
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400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
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私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

異世界転生はどん底人生の始まり~一時停止とステータス強奪で快適な人生を掴み取る!

夢・風魔
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若くして死んだ男は、異世界に転生した。恵まれた環境とは程遠い、ダンジョンの上層部に作られた居住区画で孤児として暮らしていた。 ある日、ダンジョンモンスターが暴走するスタンピードが発生し、彼──リヴァは死の縁に立たされていた。 そこで前世の記憶を思い出し、同時に転生特典のスキルに目覚める。 視界に映る者全ての動きを停止させる『一時停止』。任意のステータスを一日に1だけ奪い取れる『ステータス強奪』。 二つのスキルを駆使し、リヴァは地上での暮らしを夢見て今日もダンジョンへと潜る。 *カクヨムでも先行更新しております。

俺だけに効くエリクサー。飲んで戦って気が付けば異世界最強に⁉

まるせい
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異世界に召喚された熱海 湊(あたみ みなと)が得たのは(自分だけにしか効果のない)エリクサーを作り出す能力だった。『外れ異世界人』認定された湊は神殿から追放されてしまう。 貰った手切れ金を元手に装備を整え、湊はこの世界で生きることを決意する。

ボッチになった僕がうっかり寄り道してダンジョンに入った結果

安佐ゆう
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第一の人生で心残りがあった者は、異世界に転生して未練を解消する。 そこは「第二の人生」と呼ばれる世界。 煩わしい人間関係から遠ざかり、のんびり過ごしたいと願う少年コイル。 学校を卒業したのち、とりあえず幼馴染たちとパーティーを組んで冒険者になる。だが、コイルのもつギフトが原因で、幼馴染たちのパーティーから追い出されてしまう。 ボッチになったコイルだったが、これ幸いと本来の目的「のんびり自給自足」を果たすため、町を出るのだった。 ロバのポックルとのんびり二人旅。ゴールと決めた森の傍まで来て、何気なくフラっとダンジョンに立ち寄った。そこでコイルを待つ運命は…… 基本的には、ほのぼのです。 設定を間違えなければ、毎日12時、18時、22時に更新の予定です。

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