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第30話 特訓しましょうか
第30-4話 それではまた
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○馬上訓練
馬たちは、ほとんど訓練に参加していませんでしたが、必要性もあるかと、馬上での剣さばきなどを、イオンから手ほどきを受けています。さすが元王女様、馬上でもきれいでかっこいいです。だからといって、皆さん私の心の感想にそうやっていちいち反応しないでくださいね。
見惚れるほどに精悍で美しいです。障害物を越え、馬を進みたい方向に進ませ、そして剣を振るう。その技量の高さには、ため息しか出ません。
「確かに、敵陣突破には優れていますねえ」
「練習はしますが、たぶん使わないでしょう」パムが言った。
「はい、馬が殺されるのは嫌なので」ユーリも言った。
「馬ですよね」馬を少し遠くに止めてからこちらに戻ってきたイオンが首をかしげる。
「はい、馬です。でも私達の家族なので」
「言葉が解りますしね~」
「馬が言葉を理解するだと?」今度は、ユージがびっくりしている。
「そうですよ~」
「そ、そんな。実際見せてもらえませんか」
見学していたライオットが言った。さすがは、見たものしか信じない人ですねえ。
「いいよ~。アーちゃんおいで~」アがこちらに来る。
「まあこれくらいは」
「ウン」とパムが
「クウ」とユーリが声をかける。
それぞれがそれぞれのところに寄ってくる。
「リク」ジャガーが呼ぶ。しかし、フンと首を横に振り、聞こえているのに行かないのだと主張する。
「リク」今度はレティが声をかける。すると走ってくる。
「では私も カイ」じーっとこっちを見てからとととととゆっくり近づきそーっと横に来る。
「どうやったらこうなりますか」ライオットが私に尋ねる。何か考えていますね。
「愛情ですかねえ」
「はあ」微妙な回答に困惑するライオット。
「嘘を言うな。こやつらは魔力量が高くてなあ。たぶんそういう馬なんじゃよ」
モーラが近づいても馬たちは黙って立っている。
「わかるか?わしはドラゴンじゃ。普通の馬なら尻込みして萎縮するか、気配を感じた時にすぐ逃げる。イオンの馬を見てみよ、こちらに来られんじゃろう。さらに、おぬしらの馬は厩舎に入らんかったじゃろう。わしの気配が染みついているからなあ」
もっと言えば、エーネの魔族の匂いもありますからね。
「そういえば、怯えて手がつけられなかったですねえ」
「それになあ、これだけの異種族相手に黙っていられる馬などそうそうおらん」
「どうやって手に入れたのですか」イオンも興味津々です
「最初は、この町の厩舎にいた手のつけられない馬をわしが脅して馴らした」
モーラがアを見て言った。縦に首を振るア
「モーラ、アーちゃん脅かしちゃだめ」
「ふん。して次もそうじゃな」
ウンを見て言った。同じように首を縦に振る。
「次が勝手に遊びに来たんじゃったなあ」
モーラがクウを見て言った。同じように首を縦に振る。
「リクも厩舎で持て余していた馬でしたね」レティが馬をなでながら言った。
「ヒン」とリクが啼いた
「後は、どっちもここに呼ばれたらしいな」
カイは、近づいてモーラをなめる。
「よさぬか。カイは少しわしを怖がれ」私がモーラから引き離した。
「まあ、探すのなら、そういうわがままな馬がいないか色々な厩舎を回って見てみるがいい」
「そうします」イオンはそう言った。
「でも~大変ですよ~」
「ええ、話せると言うことは、わがままを聞いてやることになります」
「どういうことですか」早速ライオットが食いつきました。
「うちの厩舎には鍵がありません」
「それでも逃げないのですか?」
「彼らの要望なのですよ。勝手に走りに行くから鍵をつけるなとね。あとは、まぐさは良い物を用意しろ、馬具は痛くないようにしてくれとか最近はシャワー付けろですからねえ」
「全部叶えたのですか?」
「今話したのは、叶えた要望ですね」
私がそう言うと、カイがエルフィの所に行った。
「そこまでしますか」
「最初の頃ですけど、私達が戦っている時に彼らは、そばでだまって待っていてくれるのです。逃げ出さずに。危険を承知でね。すでに家族なのですよ」
「旦那様~お願いがあるって~」
「今ですか?」
「しばらく乗ってもらってないって~」
「うわ、それをみんなの前で言いますか。まあわかりました善処します」そう言うとカイはうれしそうに「ヒン」と啼いた。
「みなさんの言葉がわかるのですか?」
「エルフィだけがああやって会話できるんだけど。ただ、こいつの言葉だけはわかるみたいよ。なぜかは知らないけど」
「わたしのはどうしてなのでしょうねえ?」私が首をかしげたら、馬が全員首をかしげました。
「あははははは。DT様おもしろすぎます。本当に底が知れぬお方だ」イオンが大笑いをしています。珍しいですねえ。
「確かにそうだ」ユージは腹を抱えて笑っている。
「我が輩もそう思います」ジャガーは腕を組んでウンウンと頷いています。
「さて、休憩も終わりじゃ。もう少し騎馬訓練を行うが良い」
「はい」
○ お別れ
あっという間に一ヶ月が過ぎ、訓練自体はだいたい終了した。
何度も魔力を暴走しかけた転生者達。それを制御させたり、魔力量をできるだけ抑えて適切な量で相手を倒していく事などに重点を置いて訓練をしていた。
「そこまでさせる必要は無いとは思わんのか」
「いや、体力と違って、結局最後まで魔法を振り絞れるのは、温存していた魔力だけなのです。もっともエルフィみたいにすぐに回復を始める人は別ですけど」
エルフィがガッツポーズをする。いや、レイまでマネしなくていいから。レティまでマネしているのはどういうことでしょう。気が合うんですかねえ。
「さて、一ヶ月がたちました。ここで訓練は終了です」
「まだ憶えたいことがいっぱいありますが」イオンは不満そうな表情だ。
「ええ、勉強になることばかりで、まだ訓練し続けたいです」ライオットがそう続ける。
「いいですか、訓練の成果を実践という経験で修正しないと成長しませんよ。訓練だけだと考えることをしなくなりますから。与えられる技術なんてたいしたことなくていいんです」
私は偉そうにそう言ってみました。
「その努力があって賢者様がお強いんですね」
パトリシアが尊敬の目で私を見ながらそう言った。洗脳されやすそうですねえ。
「違うわ」「違うな」アンジーとモーラが同時に言った。
「お二人ともいきなり否定ですか」
フェイがビックリしながらそう言った。
「ああ、こやつは実践をほとんど経験しておらんのでなあ」モーラが偉そうな事を言った私をジト目で見ながら言った。
「あんた自身、今言ったことを実際できていないわよねえ。今の発言は、単に先生したかっただけでしょ」
アンジーも同様に冷たい目で見て言いました。
「では、DT様はどうやってこの技術を研鑽されたのでしょうか」
イオンが真剣な目で聞き返す。
「単に技術バカだからよねえ。あんた」アンジーが笑って言った。
「でも、シミュレートは、ひとりで何回も繰り返していますよ。人知れず」
一応言い訳しておきましょう。ちゃんと訓練していますよ。頭の中でですが。
「あるじ様の実戦経験は確かに少ないです。でも濃密です。そのいきなりの実戦であれだけの結果を出せるのは、すごいことだと思います」さすがユーリ。私の信奉者だけの事はありますね。
「まあ、それはそうじゃな」モーラも言い返せないようです。
「認めざるを得ないわねえ」アンジーも認めていますね。
「あの魔族の死体の山を見たときには、さすがにあり得ないと思いましたよ」パムが思い出してあきれていった。
「3人いたのですから。3分の2はメアさんとユーリが片付けたのですけど」
「残念ながら私は、ご主人様の周囲の敵で精一杯でした」
「私もそうです。大半はあるじ様が倒しています」
「そ、そんなはずは。ごほん、とりあえず皆さん一度旅をしてその成果を実感してください。これで終了です。今日はゆっくり休んで明日出発しましょう」
「居酒屋行くよ~」エルフィのその声に全員がお疲れ様でしたと頭を下げて挨拶をしました。
そうして野営を片付ける。今日は町に宿を取ってあるのです。
私は、キャロルと一緒に家に戻る。
「キャロルよく聞いてください。あなたはついに克服しました。両手で魔法を制御することができるようになりました。私が教えられることはもうありません。これで、訓練は終わります」
「DT様ありがとうございます。こうやって私のために手を尽くしていただいて」
「たまたま、皆さんを呼んだ方が都合がよかったからですよ」
「確かにそうなのかもしれません。でも、多様な生き方を魔法を武芸を見せたかったのではありませんか、色々な人が世界にはいるということを教えてくれたのではありませんか」
「そこまで考えていたわけではありませんよ、ただ結果的にそうキャロルが思ってくれたのであれば、この訓練もしてよかったと思います。あなたにも他の皆さんにもね」
「本当にありがとうございました」
そうして、居酒屋に行って。皆さんとともに騒ぎました。ええ、騒ぎまくりでした。
キャロルは、以前、ここの収穫祭の時にメイドをしていたのでみんなが憶えていて、それ以外の人たちは、勇者会議の噂で顔も広まっていたので、違うと言っていても、結局ばれてしまい、どんどん酒を飲まされて酔い潰れていきました。
私は、いつもどおり店を抜けて、コーヒーを飲みに出た。
その店は、ポツンと存在しています。薄ぼんやりと。今度は、商店街の行き止まりにドアがありました。
私はドアを開け、ドアノッカーのチリンという鈴の音がして、カウンターの中のマスターがこちらを一瞥すると、アルコールランプに火を入れる。私はカウンターの一番奥に座って、静かに待つ。
「久しぶりだな」マスターが私に声をかける。
「ええ、最近忙しくて来られませんでした」
「良い事じゃないか。稼ぎに追いつく貧乏なしと言うしな」
「稼ぎで忙しいなら良かったのですけど」
「そうか、家族はみんな良い笑顔になっているか」
「はい、今度の家族も良い笑顔です」
「そうか。それは良かった」マスターがそう言うと、コーヒーが出てくる。しばらくは香りと味を楽しみながら静かに過ごす。
「まだ時間はありそうか?」
「いえ、もうあまり時間はなさそうです」
「どうするつもりだ」
「どうもできません。成り行きに任せるしか」
「そうか、無理はするな。家族に悲しい思いはさせるなよ」
「そうですね。残された家族は悲しいですからねえ」
「話しすぎたな」
「ああ、そうですねえ。こんなに長く話したのは初めてですね」
「気をつけてな」
「また来ます」
「ああ待っている」
そう言って、お金を払って、そこを出る。
『やっと見つかった。ずいぶん長かったな。またあの店か』
『ええそうです。すいませんついつい話し込んでしまって』
『エルフィのあれが始まったのじゃ。早く納めにこぬか。みんなも待っておる』
『わかりました』
そうして、振り返ると店はなく、私は居酒屋に向かって走り出す。
「残された家族は、本当に悲しいし、むなしいんですよ。今度はそうはしませんよ。絶対に」
私はそう呟いて、居酒屋の裏口から中に入る。
いつもの恒例行事である、メアとエルフィの応戦が終わっていて、私が到着すると拍手で迎えられ、みんな囲んでいるテーブルに独りで突っ伏しているエルフィがいる。私は、そっと彼女を抱き上げ、その段階で、おーーっと声がかかり拍手され、メアさんが開けてくれた扉から私は一礼して居酒屋を出た。
私達家族は一緒に家に向かう。
「エルフィ、そろそろ降りてください。腕がしびれてきました」お姫様抱っこはさすがに疲れるのですよ。
「え~おんぶして~」エルフィが抱かれながら両腕を伸ばしてきました。ちょっとだけそのまま地面に落とそうかと考えてしまいました。おっと、エルフィがひどい!と思ったようです。女の子にはさすがにしませんよ。
「しかたないですねえ」私はゆっくりとエルフィを降ろす。
「キャロルはよいのか?」モーラがキャロルをニヤニヤ笑いながら言った。
「今回はやめておきます」キャロルが思い出して、顔を真っ赤にしています。
「さあどうぞ」私は腰をかがめて背中に背負おうとしましたが、いつもとは違う感触のものが背中に当たっています。
「おやパムさん珍しいですねえ」私は背中に乗ったのがパムさんだとすぐにわかりました。
「エルフィがいつも占領しているのでちょっとうらやましくなりました。よろしいですか?」
照れくさそうなパムさんの気持ちが伝わってきます。
「エルフィたまには代わってやれ」
「は~い」エルフィが意外とあっさり引きました。
「今回は段取りから何まで色々と大変でしたでしょう?ありがとうございました」
私はパムにそう言いました。
「どうなるか不安でしたが、集めて良かったと思います」パムが恥ずかしそうに言いました。
「彼女達の成長が楽しみですね」
「はい」パムの声が小さくなっています。どうしましたか?
「ちょっとあんたねえ。どうして「彼女達」なのかしら」アンジーさん細かいところに突っ込みますね。
「確かにな。勇者は男が多いであろうが」
「変なところに突っ込みますねえ。全体では女性の方が多いでしょう?」
「それはそうだけど。結局睨んでいたユーもパトリシアもあんたを見る目が変わっていたわよ」
「おや、そうでしたか。ちっともそんな感じじゃありませんでしたが」
「相変わらず、関心の無い事にはそんな対応よねえ」
「なんじゃアンジー。パトリシアが心変わりしたのが気に入らんのか」
「別にそうじゃないけど、どうにも女の子達があんたにばかり注目していて・・・他の男達が可愛そうでね」
「ああ、それは大丈夫でしょう」メアが言った。
「どう大丈夫なのよ」
「尊敬と愛は別物です」
「そうかしら」
「さて、ようやく到着したか。パムが真っ赤になっているから話をそらしたが、パム、こやつの背中を堪能したか?」
「・・・・はい。またお願いしたいです」
パムはそう言って顔を見られないように下を向いて玄関に向かおうとする。
「だったらいつでも・・・」
「だめーそれはダメー」エルフィが両手でバツを作って叫んでいる。レイも真似している。
「ほほう、まあ次はじゃんけんで決めるか?」モーラがエルフィを見て笑っている。
「そ、それは仕方ないかも。でもダメ」エルフィがそう言ってパムの後を追う。
「おぬしはどうなんじゃ」
「みんな頑張ってくれましたからねえ。おんぶくらいでいいのなら、全員しても良いですよ。エーネを含めてね」
私達はお風呂に向かった。
「やっぱりお風呂は全員で入りたいわね。一人足りないのはちょっと寂しいわ」アンジーがボソリと言った。
「あやつは大丈夫なのか?」
「きっとすごく成長して戻ってくると思いますよ」
「おや?この辺がか?」
モーラが下卑たおっさんのような言い方で胸の前に手を動かしていた。エロじじいか!
「モーラ様!」
キャロルが怒っている。しかし、自分の胸に両手を当てて少し寂しそうだ。大丈夫!十分ありますよ。
「ダー様!」
キャロルが叫んだ時には、すでに桶が私に直撃していました。
おや湯船には桶は持ち込まないはずではありませんでしたか。それにしても大変痛いです。誰ですかそばにあった桶をキャロルに渡したのは。ブクブクブク。
「あ、親方様が沈んでいきます」
そう言いながら、レイが後ろ足で私をさらに底の方に蹴りました。やめなさい。浮き上がれないじゃないですか。
○お土産のお渡し会
翌早朝。私はあるものを馬車に積んで宿屋に向かった。
「皆さんおはようございます。来られる時にお土産を用意すると言っていましたが、それをお持ちしました」
「大体察しはついているよ」ユージが言った。
「ではこれをユージさん」私はそう言って、彼用の剣を渡す。
「訓練中に使った剣よりさらに使いやすそうだな」さっそく剣を鞘から抜いてみるユージ。
「使ってみてダメならどこがダメかだけ教えてください。そして、剣は捨ててくださいね」
「そんなもったいない事できねえよ。折れもしねえだろうしな」
私は次々と名前を呼んで、剣か杖を渡していく。忍者さんにはナイフをジョアンナさんには弓を渡しました。
「ジャガーさんにはこれを」
「これは、指にはめるナックルと腕につける防具ですか」
「代わりになりますかね」
「ありがたい。これで少しはフェイさんの負担も軽減されるでしょう」
「はい、ありがとうございます」
「皆さんとは別れの挨拶はしたのですか?」
「ええ、皆さんとても魅力的な方ばかりですね」
「あら、何か言いましたでしょうか」フェイがジャガーの後ろからにらみつけている。
「い、いえ、すいません、すいません」
「あーまた土下座してるー」と、レティとバーナビーがそれをみて踊っている。一緒にエルフィもレイも踊っている。友達というより仲間が増えましたねえ。
「賢者様、いえ、DT様、いろいろとありがとうございました。有意義な時間でした。それと、サフィと再会させてくれたこと感謝しております」
イオンがサフィと共に現れて頭を下げる。
「私も感謝しております。このような形でなければ、イオン様と再会できなかったと思います」
「あなた達は、きっと親友同士なのです。これからもお互いを信じてパーティーの仲間を信じて頑張ってください」
エルフィは、踊っていたかと思えば、いつの間にかジョアと泣きながら抱き合って別れを惜しんでいる。忙しい人ですねえ。
「DTさん。あんたのおかげで、頑張っていけそうだ。あり・・がとう」ユーは照れながら言った。
「あなたは、このパーティーを守る要なのです。なんたって心は男なのですから。最後に踏ん張れるのはあなたなのですよ。きっと」
「ありがとう・・・ございます」女の子の顔で泣かれると、周囲の目が冷たいです。中身は男ですよー。
そして、ユージ
「俺は必ずあんたを超えてみせる。待っていて欲しい。俺の成長を」
「ええ、その意気です。待っていますから」
「アンジー様といいあなたといい。どうしてそんなにいい人なのですか。憎めないじゃないですか」
そう言いながら泣いているのは、ライオットです。
「あなた達は勇者ですよ。本当にね。私はそうではない。それだけですよ。だから頑張ってください」
「はい、ありがとうございます」
寡黙なデリジャーは、それでもレティに声をかけ、一緒にいたレイやエルフィと話している。パトリシアは、アンジーにべったりして、フェイににらまれている。女剣士のサヨリナは、ユーリと剣の柄を接して再会を誓い合っているし、忍者はパムに何かを話していた。
「さて、そろそろ出かけよ。次の街に着くまで距離はある。早く出発せんとそれだけ日数がかかるぞ」
モーラの声にみんな名残惜しそうに、馬車に乗り、手を振って出発した。途中までは、3両とも同じ道だ。
「行ってしまいましたねえ」
「ああ、寂しくなるのう」
「みんな優秀でしたねえ」
「そうじゃな。資質は秘めている者ばかりじゃ。それにしてもキャロルは別格じゃな」
「本当にそうですねえ」
「もったいないと思うべきなのか、それとも」
「適性は、時にとんでもないことをさせるかもしれないから不安よねえ」
「まったく不憫な適性を持ってしまったものじゃのう」
「本人に知らせた方が良いのではありませんか」
「知ったからと言って、ブレるわけもない。言わんでもよかろう」
「そうですか」
そうして、慌ただしく勇者達は散っていった。それぞれの目標を見つけてそれに向かって努力しようと決意して。
「私たちも何か得るものがありましたか」
「人に教えることで得るものは多々ありました。自分がこう少し考えて動くようにしなければならないとか、いろいろ考えさせられました。」
「伸びしろはどうですか」
「目指す目標ができたのはよかったのではありませんか」
「早くエーネちゃん帰ってこないかな~」エルフィがそう呟いた。
Appendix
今度は勇者教育か
ええ、特訓だそうです。
色々考えているねえ
すぐに戦闘になりますか?
それはないな。まだ先になるだろう。勇者の力がまだ未熟そうだから。
今のうちに潰しておかないとまずいのではありませんか?
あの3組が集合して襲ってこないうちは大丈夫だよ。
返り討ちにするにしても殺さないようにしないとね
殺さないのですか?
人の恨みは恐いからね
なるほど
Appendix 馬時系列でまとめ
1) テンが出掛ける
なんや出掛けるんか
ええ、魔族のお嬢ちゃん乗せてちょっと旅に行ってくるわ
おお、金髪のお嬢ちゃん抜きかいな
そうなのよ、魔族のお嬢ちゃんが一人で可愛そうに見えてね
走りたかったんちゃいますの?
まあ、それもあったけどねえ
気をつけてな。あんさんもあの子もどっちもな
もちろんそうするけどねえ、あの子そそっかしいから。
そうやな
それに
それになんや
多分私の世話は出来ないから、私が自分で管理するしかないのよ
確かにそうなりそうやな
2リクが来る
おーリクやないかい、久しぶりやな。元気してたか
あーほんまやーひさしぶりー
あら、新入りがいるじゃない。初めまして、私はリク。よろしくね
カイです。お久しぶりです
おや、あの鼻っ柱の強い出戻りはどうしたのかしら
ああ、魔族の姫さんと長いお出かけや
あらそうなの。いつもどおり大変なのね。また増えないかしら。
まあ、いつの間にかここに入って来たるするからなあ。それを拒む旦那でもないしなあ。
ああ、あの魔法使いね。いい男じゃない。肝も座っているし。あの人の頼みじゃなかったら私だって今の役目引き受けていないわよ
いや、おまえ、エルフィ姐さんのおっぱい目当てで出てきおったやろ
そういえばそう言うこともあったわねえ
とんだエロばばあやで
あんた憶えおくからね
しもた、言い過ぎたわ
そうそう、私の所にもう一頭紹介してくれないかしら
うちら馬の斡旋所やないで
乗せる人数が4人になったのよ
姐さんなら大丈夫やろ
最近、ジャガーが一人で飛び出すのよ。その時に乗って走ってくれる子が必要なんだけど。いい子いないかしら
まあ、エルフィ姐さんには、言うとくわ
よろしく頼むわね。それと、ここいる間に馬具の調整もして欲しいのよ。できればあの旦那にお願いしたいわ。
確かになああの旦那はわしらの言葉はわからんけど、ちゃんと聞いてくれるしなあ。
そうだったわねえ。いつもやさしく声をかけてくれて。優しくなでてくれて、ブラッシングも丁寧だったわ
カイ。おまえも大変なときに来たからなあ。おかげでわしらはずいぶん助かったわ
せやけど、わし、まだだんなに乗ってもろうてないんですよ
練習では乗ってもらってたやろ
ですが、まだ一緒に旅してません
あーそうか
あーそうやったか
あーかわいそうに
どうしたんですか、急に
ちゃんと精進しとき。たぶんごっつやばいことになるで
そうなんすか?
ああ、一度はそういう目に遭うことになっとるからなあ。なあ
あんた憶えてなさい
しもた、矛先こっちに向いてもうた
おまえ本当にやらかしてないやろ、わざとやっとるん違うか
本音で生きとりますんで
続く
馬たちは、ほとんど訓練に参加していませんでしたが、必要性もあるかと、馬上での剣さばきなどを、イオンから手ほどきを受けています。さすが元王女様、馬上でもきれいでかっこいいです。だからといって、皆さん私の心の感想にそうやっていちいち反応しないでくださいね。
見惚れるほどに精悍で美しいです。障害物を越え、馬を進みたい方向に進ませ、そして剣を振るう。その技量の高さには、ため息しか出ません。
「確かに、敵陣突破には優れていますねえ」
「練習はしますが、たぶん使わないでしょう」パムが言った。
「はい、馬が殺されるのは嫌なので」ユーリも言った。
「馬ですよね」馬を少し遠くに止めてからこちらに戻ってきたイオンが首をかしげる。
「はい、馬です。でも私達の家族なので」
「言葉が解りますしね~」
「馬が言葉を理解するだと?」今度は、ユージがびっくりしている。
「そうですよ~」
「そ、そんな。実際見せてもらえませんか」
見学していたライオットが言った。さすがは、見たものしか信じない人ですねえ。
「いいよ~。アーちゃんおいで~」アがこちらに来る。
「まあこれくらいは」
「ウン」とパムが
「クウ」とユーリが声をかける。
それぞれがそれぞれのところに寄ってくる。
「リク」ジャガーが呼ぶ。しかし、フンと首を横に振り、聞こえているのに行かないのだと主張する。
「リク」今度はレティが声をかける。すると走ってくる。
「では私も カイ」じーっとこっちを見てからとととととゆっくり近づきそーっと横に来る。
「どうやったらこうなりますか」ライオットが私に尋ねる。何か考えていますね。
「愛情ですかねえ」
「はあ」微妙な回答に困惑するライオット。
「嘘を言うな。こやつらは魔力量が高くてなあ。たぶんそういう馬なんじゃよ」
モーラが近づいても馬たちは黙って立っている。
「わかるか?わしはドラゴンじゃ。普通の馬なら尻込みして萎縮するか、気配を感じた時にすぐ逃げる。イオンの馬を見てみよ、こちらに来られんじゃろう。さらに、おぬしらの馬は厩舎に入らんかったじゃろう。わしの気配が染みついているからなあ」
もっと言えば、エーネの魔族の匂いもありますからね。
「そういえば、怯えて手がつけられなかったですねえ」
「それになあ、これだけの異種族相手に黙っていられる馬などそうそうおらん」
「どうやって手に入れたのですか」イオンも興味津々です
「最初は、この町の厩舎にいた手のつけられない馬をわしが脅して馴らした」
モーラがアを見て言った。縦に首を振るア
「モーラ、アーちゃん脅かしちゃだめ」
「ふん。して次もそうじゃな」
ウンを見て言った。同じように首を縦に振る。
「次が勝手に遊びに来たんじゃったなあ」
モーラがクウを見て言った。同じように首を縦に振る。
「リクも厩舎で持て余していた馬でしたね」レティが馬をなでながら言った。
「ヒン」とリクが啼いた
「後は、どっちもここに呼ばれたらしいな」
カイは、近づいてモーラをなめる。
「よさぬか。カイは少しわしを怖がれ」私がモーラから引き離した。
「まあ、探すのなら、そういうわがままな馬がいないか色々な厩舎を回って見てみるがいい」
「そうします」イオンはそう言った。
「でも~大変ですよ~」
「ええ、話せると言うことは、わがままを聞いてやることになります」
「どういうことですか」早速ライオットが食いつきました。
「うちの厩舎には鍵がありません」
「それでも逃げないのですか?」
「彼らの要望なのですよ。勝手に走りに行くから鍵をつけるなとね。あとは、まぐさは良い物を用意しろ、馬具は痛くないようにしてくれとか最近はシャワー付けろですからねえ」
「全部叶えたのですか?」
「今話したのは、叶えた要望ですね」
私がそう言うと、カイがエルフィの所に行った。
「そこまでしますか」
「最初の頃ですけど、私達が戦っている時に彼らは、そばでだまって待っていてくれるのです。逃げ出さずに。危険を承知でね。すでに家族なのですよ」
「旦那様~お願いがあるって~」
「今ですか?」
「しばらく乗ってもらってないって~」
「うわ、それをみんなの前で言いますか。まあわかりました善処します」そう言うとカイはうれしそうに「ヒン」と啼いた。
「みなさんの言葉がわかるのですか?」
「エルフィだけがああやって会話できるんだけど。ただ、こいつの言葉だけはわかるみたいよ。なぜかは知らないけど」
「わたしのはどうしてなのでしょうねえ?」私が首をかしげたら、馬が全員首をかしげました。
「あははははは。DT様おもしろすぎます。本当に底が知れぬお方だ」イオンが大笑いをしています。珍しいですねえ。
「確かにそうだ」ユージは腹を抱えて笑っている。
「我が輩もそう思います」ジャガーは腕を組んでウンウンと頷いています。
「さて、休憩も終わりじゃ。もう少し騎馬訓練を行うが良い」
「はい」
○ お別れ
あっという間に一ヶ月が過ぎ、訓練自体はだいたい終了した。
何度も魔力を暴走しかけた転生者達。それを制御させたり、魔力量をできるだけ抑えて適切な量で相手を倒していく事などに重点を置いて訓練をしていた。
「そこまでさせる必要は無いとは思わんのか」
「いや、体力と違って、結局最後まで魔法を振り絞れるのは、温存していた魔力だけなのです。もっともエルフィみたいにすぐに回復を始める人は別ですけど」
エルフィがガッツポーズをする。いや、レイまでマネしなくていいから。レティまでマネしているのはどういうことでしょう。気が合うんですかねえ。
「さて、一ヶ月がたちました。ここで訓練は終了です」
「まだ憶えたいことがいっぱいありますが」イオンは不満そうな表情だ。
「ええ、勉強になることばかりで、まだ訓練し続けたいです」ライオットがそう続ける。
「いいですか、訓練の成果を実践という経験で修正しないと成長しませんよ。訓練だけだと考えることをしなくなりますから。与えられる技術なんてたいしたことなくていいんです」
私は偉そうにそう言ってみました。
「その努力があって賢者様がお強いんですね」
パトリシアが尊敬の目で私を見ながらそう言った。洗脳されやすそうですねえ。
「違うわ」「違うな」アンジーとモーラが同時に言った。
「お二人ともいきなり否定ですか」
フェイがビックリしながらそう言った。
「ああ、こやつは実践をほとんど経験しておらんのでなあ」モーラが偉そうな事を言った私をジト目で見ながら言った。
「あんた自身、今言ったことを実際できていないわよねえ。今の発言は、単に先生したかっただけでしょ」
アンジーも同様に冷たい目で見て言いました。
「では、DT様はどうやってこの技術を研鑽されたのでしょうか」
イオンが真剣な目で聞き返す。
「単に技術バカだからよねえ。あんた」アンジーが笑って言った。
「でも、シミュレートは、ひとりで何回も繰り返していますよ。人知れず」
一応言い訳しておきましょう。ちゃんと訓練していますよ。頭の中でですが。
「あるじ様の実戦経験は確かに少ないです。でも濃密です。そのいきなりの実戦であれだけの結果を出せるのは、すごいことだと思います」さすがユーリ。私の信奉者だけの事はありますね。
「まあ、それはそうじゃな」モーラも言い返せないようです。
「認めざるを得ないわねえ」アンジーも認めていますね。
「あの魔族の死体の山を見たときには、さすがにあり得ないと思いましたよ」パムが思い出してあきれていった。
「3人いたのですから。3分の2はメアさんとユーリが片付けたのですけど」
「残念ながら私は、ご主人様の周囲の敵で精一杯でした」
「私もそうです。大半はあるじ様が倒しています」
「そ、そんなはずは。ごほん、とりあえず皆さん一度旅をしてその成果を実感してください。これで終了です。今日はゆっくり休んで明日出発しましょう」
「居酒屋行くよ~」エルフィのその声に全員がお疲れ様でしたと頭を下げて挨拶をしました。
そうして野営を片付ける。今日は町に宿を取ってあるのです。
私は、キャロルと一緒に家に戻る。
「キャロルよく聞いてください。あなたはついに克服しました。両手で魔法を制御することができるようになりました。私が教えられることはもうありません。これで、訓練は終わります」
「DT様ありがとうございます。こうやって私のために手を尽くしていただいて」
「たまたま、皆さんを呼んだ方が都合がよかったからですよ」
「確かにそうなのかもしれません。でも、多様な生き方を魔法を武芸を見せたかったのではありませんか、色々な人が世界にはいるということを教えてくれたのではありませんか」
「そこまで考えていたわけではありませんよ、ただ結果的にそうキャロルが思ってくれたのであれば、この訓練もしてよかったと思います。あなたにも他の皆さんにもね」
「本当にありがとうございました」
そうして、居酒屋に行って。皆さんとともに騒ぎました。ええ、騒ぎまくりでした。
キャロルは、以前、ここの収穫祭の時にメイドをしていたのでみんなが憶えていて、それ以外の人たちは、勇者会議の噂で顔も広まっていたので、違うと言っていても、結局ばれてしまい、どんどん酒を飲まされて酔い潰れていきました。
私は、いつもどおり店を抜けて、コーヒーを飲みに出た。
その店は、ポツンと存在しています。薄ぼんやりと。今度は、商店街の行き止まりにドアがありました。
私はドアを開け、ドアノッカーのチリンという鈴の音がして、カウンターの中のマスターがこちらを一瞥すると、アルコールランプに火を入れる。私はカウンターの一番奥に座って、静かに待つ。
「久しぶりだな」マスターが私に声をかける。
「ええ、最近忙しくて来られませんでした」
「良い事じゃないか。稼ぎに追いつく貧乏なしと言うしな」
「稼ぎで忙しいなら良かったのですけど」
「そうか、家族はみんな良い笑顔になっているか」
「はい、今度の家族も良い笑顔です」
「そうか。それは良かった」マスターがそう言うと、コーヒーが出てくる。しばらくは香りと味を楽しみながら静かに過ごす。
「まだ時間はありそうか?」
「いえ、もうあまり時間はなさそうです」
「どうするつもりだ」
「どうもできません。成り行きに任せるしか」
「そうか、無理はするな。家族に悲しい思いはさせるなよ」
「そうですね。残された家族は悲しいですからねえ」
「話しすぎたな」
「ああ、そうですねえ。こんなに長く話したのは初めてですね」
「気をつけてな」
「また来ます」
「ああ待っている」
そう言って、お金を払って、そこを出る。
『やっと見つかった。ずいぶん長かったな。またあの店か』
『ええそうです。すいませんついつい話し込んでしまって』
『エルフィのあれが始まったのじゃ。早く納めにこぬか。みんなも待っておる』
『わかりました』
そうして、振り返ると店はなく、私は居酒屋に向かって走り出す。
「残された家族は、本当に悲しいし、むなしいんですよ。今度はそうはしませんよ。絶対に」
私はそう呟いて、居酒屋の裏口から中に入る。
いつもの恒例行事である、メアとエルフィの応戦が終わっていて、私が到着すると拍手で迎えられ、みんな囲んでいるテーブルに独りで突っ伏しているエルフィがいる。私は、そっと彼女を抱き上げ、その段階で、おーーっと声がかかり拍手され、メアさんが開けてくれた扉から私は一礼して居酒屋を出た。
私達家族は一緒に家に向かう。
「エルフィ、そろそろ降りてください。腕がしびれてきました」お姫様抱っこはさすがに疲れるのですよ。
「え~おんぶして~」エルフィが抱かれながら両腕を伸ばしてきました。ちょっとだけそのまま地面に落とそうかと考えてしまいました。おっと、エルフィがひどい!と思ったようです。女の子にはさすがにしませんよ。
「しかたないですねえ」私はゆっくりとエルフィを降ろす。
「キャロルはよいのか?」モーラがキャロルをニヤニヤ笑いながら言った。
「今回はやめておきます」キャロルが思い出して、顔を真っ赤にしています。
「さあどうぞ」私は腰をかがめて背中に背負おうとしましたが、いつもとは違う感触のものが背中に当たっています。
「おやパムさん珍しいですねえ」私は背中に乗ったのがパムさんだとすぐにわかりました。
「エルフィがいつも占領しているのでちょっとうらやましくなりました。よろしいですか?」
照れくさそうなパムさんの気持ちが伝わってきます。
「エルフィたまには代わってやれ」
「は~い」エルフィが意外とあっさり引きました。
「今回は段取りから何まで色々と大変でしたでしょう?ありがとうございました」
私はパムにそう言いました。
「どうなるか不安でしたが、集めて良かったと思います」パムが恥ずかしそうに言いました。
「彼女達の成長が楽しみですね」
「はい」パムの声が小さくなっています。どうしましたか?
「ちょっとあんたねえ。どうして「彼女達」なのかしら」アンジーさん細かいところに突っ込みますね。
「確かにな。勇者は男が多いであろうが」
「変なところに突っ込みますねえ。全体では女性の方が多いでしょう?」
「それはそうだけど。結局睨んでいたユーもパトリシアもあんたを見る目が変わっていたわよ」
「おや、そうでしたか。ちっともそんな感じじゃありませんでしたが」
「相変わらず、関心の無い事にはそんな対応よねえ」
「なんじゃアンジー。パトリシアが心変わりしたのが気に入らんのか」
「別にそうじゃないけど、どうにも女の子達があんたにばかり注目していて・・・他の男達が可愛そうでね」
「ああ、それは大丈夫でしょう」メアが言った。
「どう大丈夫なのよ」
「尊敬と愛は別物です」
「そうかしら」
「さて、ようやく到着したか。パムが真っ赤になっているから話をそらしたが、パム、こやつの背中を堪能したか?」
「・・・・はい。またお願いしたいです」
パムはそう言って顔を見られないように下を向いて玄関に向かおうとする。
「だったらいつでも・・・」
「だめーそれはダメー」エルフィが両手でバツを作って叫んでいる。レイも真似している。
「ほほう、まあ次はじゃんけんで決めるか?」モーラがエルフィを見て笑っている。
「そ、それは仕方ないかも。でもダメ」エルフィがそう言ってパムの後を追う。
「おぬしはどうなんじゃ」
「みんな頑張ってくれましたからねえ。おんぶくらいでいいのなら、全員しても良いですよ。エーネを含めてね」
私達はお風呂に向かった。
「やっぱりお風呂は全員で入りたいわね。一人足りないのはちょっと寂しいわ」アンジーがボソリと言った。
「あやつは大丈夫なのか?」
「きっとすごく成長して戻ってくると思いますよ」
「おや?この辺がか?」
モーラが下卑たおっさんのような言い方で胸の前に手を動かしていた。エロじじいか!
「モーラ様!」
キャロルが怒っている。しかし、自分の胸に両手を当てて少し寂しそうだ。大丈夫!十分ありますよ。
「ダー様!」
キャロルが叫んだ時には、すでに桶が私に直撃していました。
おや湯船には桶は持ち込まないはずではありませんでしたか。それにしても大変痛いです。誰ですかそばにあった桶をキャロルに渡したのは。ブクブクブク。
「あ、親方様が沈んでいきます」
そう言いながら、レイが後ろ足で私をさらに底の方に蹴りました。やめなさい。浮き上がれないじゃないですか。
○お土産のお渡し会
翌早朝。私はあるものを馬車に積んで宿屋に向かった。
「皆さんおはようございます。来られる時にお土産を用意すると言っていましたが、それをお持ちしました」
「大体察しはついているよ」ユージが言った。
「ではこれをユージさん」私はそう言って、彼用の剣を渡す。
「訓練中に使った剣よりさらに使いやすそうだな」さっそく剣を鞘から抜いてみるユージ。
「使ってみてダメならどこがダメかだけ教えてください。そして、剣は捨ててくださいね」
「そんなもったいない事できねえよ。折れもしねえだろうしな」
私は次々と名前を呼んで、剣か杖を渡していく。忍者さんにはナイフをジョアンナさんには弓を渡しました。
「ジャガーさんにはこれを」
「これは、指にはめるナックルと腕につける防具ですか」
「代わりになりますかね」
「ありがたい。これで少しはフェイさんの負担も軽減されるでしょう」
「はい、ありがとうございます」
「皆さんとは別れの挨拶はしたのですか?」
「ええ、皆さんとても魅力的な方ばかりですね」
「あら、何か言いましたでしょうか」フェイがジャガーの後ろからにらみつけている。
「い、いえ、すいません、すいません」
「あーまた土下座してるー」と、レティとバーナビーがそれをみて踊っている。一緒にエルフィもレイも踊っている。友達というより仲間が増えましたねえ。
「賢者様、いえ、DT様、いろいろとありがとうございました。有意義な時間でした。それと、サフィと再会させてくれたこと感謝しております」
イオンがサフィと共に現れて頭を下げる。
「私も感謝しております。このような形でなければ、イオン様と再会できなかったと思います」
「あなた達は、きっと親友同士なのです。これからもお互いを信じてパーティーの仲間を信じて頑張ってください」
エルフィは、踊っていたかと思えば、いつの間にかジョアと泣きながら抱き合って別れを惜しんでいる。忙しい人ですねえ。
「DTさん。あんたのおかげで、頑張っていけそうだ。あり・・がとう」ユーは照れながら言った。
「あなたは、このパーティーを守る要なのです。なんたって心は男なのですから。最後に踏ん張れるのはあなたなのですよ。きっと」
「ありがとう・・・ございます」女の子の顔で泣かれると、周囲の目が冷たいです。中身は男ですよー。
そして、ユージ
「俺は必ずあんたを超えてみせる。待っていて欲しい。俺の成長を」
「ええ、その意気です。待っていますから」
「アンジー様といいあなたといい。どうしてそんなにいい人なのですか。憎めないじゃないですか」
そう言いながら泣いているのは、ライオットです。
「あなた達は勇者ですよ。本当にね。私はそうではない。それだけですよ。だから頑張ってください」
「はい、ありがとうございます」
寡黙なデリジャーは、それでもレティに声をかけ、一緒にいたレイやエルフィと話している。パトリシアは、アンジーにべったりして、フェイににらまれている。女剣士のサヨリナは、ユーリと剣の柄を接して再会を誓い合っているし、忍者はパムに何かを話していた。
「さて、そろそろ出かけよ。次の街に着くまで距離はある。早く出発せんとそれだけ日数がかかるぞ」
モーラの声にみんな名残惜しそうに、馬車に乗り、手を振って出発した。途中までは、3両とも同じ道だ。
「行ってしまいましたねえ」
「ああ、寂しくなるのう」
「みんな優秀でしたねえ」
「そうじゃな。資質は秘めている者ばかりじゃ。それにしてもキャロルは別格じゃな」
「本当にそうですねえ」
「もったいないと思うべきなのか、それとも」
「適性は、時にとんでもないことをさせるかもしれないから不安よねえ」
「まったく不憫な適性を持ってしまったものじゃのう」
「本人に知らせた方が良いのではありませんか」
「知ったからと言って、ブレるわけもない。言わんでもよかろう」
「そうですか」
そうして、慌ただしく勇者達は散っていった。それぞれの目標を見つけてそれに向かって努力しようと決意して。
「私たちも何か得るものがありましたか」
「人に教えることで得るものは多々ありました。自分がこう少し考えて動くようにしなければならないとか、いろいろ考えさせられました。」
「伸びしろはどうですか」
「目指す目標ができたのはよかったのではありませんか」
「早くエーネちゃん帰ってこないかな~」エルフィがそう呟いた。
Appendix
今度は勇者教育か
ええ、特訓だそうです。
色々考えているねえ
すぐに戦闘になりますか?
それはないな。まだ先になるだろう。勇者の力がまだ未熟そうだから。
今のうちに潰しておかないとまずいのではありませんか?
あの3組が集合して襲ってこないうちは大丈夫だよ。
返り討ちにするにしても殺さないようにしないとね
殺さないのですか?
人の恨みは恐いからね
なるほど
Appendix 馬時系列でまとめ
1) テンが出掛ける
なんや出掛けるんか
ええ、魔族のお嬢ちゃん乗せてちょっと旅に行ってくるわ
おお、金髪のお嬢ちゃん抜きかいな
そうなのよ、魔族のお嬢ちゃんが一人で可愛そうに見えてね
走りたかったんちゃいますの?
まあ、それもあったけどねえ
気をつけてな。あんさんもあの子もどっちもな
もちろんそうするけどねえ、あの子そそっかしいから。
そうやな
それに
それになんや
多分私の世話は出来ないから、私が自分で管理するしかないのよ
確かにそうなりそうやな
2リクが来る
おーリクやないかい、久しぶりやな。元気してたか
あーほんまやーひさしぶりー
あら、新入りがいるじゃない。初めまして、私はリク。よろしくね
カイです。お久しぶりです
おや、あの鼻っ柱の強い出戻りはどうしたのかしら
ああ、魔族の姫さんと長いお出かけや
あらそうなの。いつもどおり大変なのね。また増えないかしら。
まあ、いつの間にかここに入って来たるするからなあ。それを拒む旦那でもないしなあ。
ああ、あの魔法使いね。いい男じゃない。肝も座っているし。あの人の頼みじゃなかったら私だって今の役目引き受けていないわよ
いや、おまえ、エルフィ姐さんのおっぱい目当てで出てきおったやろ
そういえばそう言うこともあったわねえ
とんだエロばばあやで
あんた憶えおくからね
しもた、言い過ぎたわ
そうそう、私の所にもう一頭紹介してくれないかしら
うちら馬の斡旋所やないで
乗せる人数が4人になったのよ
姐さんなら大丈夫やろ
最近、ジャガーが一人で飛び出すのよ。その時に乗って走ってくれる子が必要なんだけど。いい子いないかしら
まあ、エルフィ姐さんには、言うとくわ
よろしく頼むわね。それと、ここいる間に馬具の調整もして欲しいのよ。できればあの旦那にお願いしたいわ。
確かになああの旦那はわしらの言葉はわからんけど、ちゃんと聞いてくれるしなあ。
そうだったわねえ。いつもやさしく声をかけてくれて。優しくなでてくれて、ブラッシングも丁寧だったわ
カイ。おまえも大変なときに来たからなあ。おかげでわしらはずいぶん助かったわ
せやけど、わし、まだだんなに乗ってもろうてないんですよ
練習では乗ってもらってたやろ
ですが、まだ一緒に旅してません
あーそうか
あーそうやったか
あーかわいそうに
どうしたんですか、急に
ちゃんと精進しとき。たぶんごっつやばいことになるで
そうなんすか?
ああ、一度はそういう目に遭うことになっとるからなあ。なあ
あんた憶えてなさい
しもた、矛先こっちに向いてもうた
おまえ本当にやらかしてないやろ、わざとやっとるん違うか
本音で生きとりますんで
続く
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