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第28話 併走する厄介者達の話など

第28-4話 遺跡群と何か

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○三番目の遺跡
 二番目の遺跡の埋め戻し作業をしてから、ファーンに戻って、翌日早朝に再集合です。
 メンバーは、昨日と同じで、キャロルとエーネを含めた私達家族が10人と魔法使いさん達4名です。
「さて、それでは、2か所のうちどちらに先に行きますか?」
「近いほうから行きましょうか」
「どの辺ですか」
「長命人族の集落よりさらに下のほうよ砂漠に近い」
「ちなみにもう1か所は」
「魔族の境界に近いわねえ」
「ここが最も遠いところだったんですね」
「そうなのよ。 あっちが中心なのかしらね」
「では、行きますか」

 現場に到着する。意外にあっけなく到着しました。まあ洞窟ですからねえ。
「さて、誰も入れないように草が茂っていますが、その前に骨がバラバラと落ちています」
「前回と同じじゃのう」
「また、蜘蛛が住み着いていますかねえ」
「レイどうじゃ」
「わかりませんが、何かがいる事は間違いないです。でも、魔獣や魔族ではないみたいです」
「ふむ、やはり蜘蛛かのう」
「あの時は、洞窟の中に骨が山積みでした。違う魔獣かもしれませんよ」
「虎穴に入らずんば虎子を得ずでしょうが」
「わかりました。嫌な予感がしますが、行きましょう」
「珍しいわねえ、あんたが怖気づくなんて」
「そうなんですよ。私も珍しいんです」
「さて進むぞ」
「今回も見張りを立てますか」
「前回と違って寒くないですか?」
「しかもやけに距離がありませんか。しかも足元の感触が曖昧になっています」
「いったい何を言っておる」
「いや、前回の洞窟と違和感がありまくりなんですよ」
 私は周囲を見ながらそう言って、ビクビクしながら歩いている。
「すでに敵に遭遇しているかもしれないわよ」
 アンジーが左右を見ながらそう言った。
「どういうことじゃ」
「私も違和感があるの。どうやら違うところにいるわよこれ」
「止まりましょうか。 いや、引き返しましょう」
「そうもいかなさそうですね」
 紫がそう言ってそこで立ち止まります。
 やや右にカーブしている洞窟の先に、真っ黒な穴が見える。私達がその穴を認識した途端、風が吹き、我々を吸い込もうとしている。いつの間に生えたのか、穴の周囲には長い触手が穴を囲むようにウネウネと動いている。まるで我々に近づいて来いと誘っているように。
「強風ですね吸い込まれそうです」
 徐々にではあるが、目の前の穴に引っ張られていて、端の人達は、壁に触ってとどまっているが、真ん中に立っている私達は、後ろに下がろうにも掴まるところがない。しゃがんで張って戻ろうとし始める。
 ふいに黒い穴の中心に目が開き、強い光を放っている。
「あの目を見てはだめよ。催眠効果があるわ」
 紫が叫んだが、みんなはすでに見てしまっている。
「エーネ!!」
 キャロルが叫ぶ。後ろにいたエーネがふらふらと近づいていこうとする。
 先頭近くにいたアンジーがかろうじてタックルをして、体ごと倒れ込んだが、抗うように体だけ前に進もうとする。パムが壁にワイヤーを食い込ませて2人のそばに行く。エーネの頬をたたいたが、反応がなく、しかたなく殴って気を失わせた。しかし、体はまだ動いて近づこうとする。パムは、エーネを抱え上げてワイヤーをたぐって後ろに戻りはじめる。
 メアが後ろを見たまま、目に向かって短剣を投げつけ、目に命中する。目が閉じられたとたん風が止み、穴の周囲でうごめいていた長い触手もばたりと動きをとめてダラリと垂れ下がった。しかし黒い空間はそのままそこにある。ランタンの明かりに照らされている周囲の風景は、普通の洞窟に戻った。
「とりあえず戻りましょう」
 そうして全員で洞窟の入り口まで戻った。
 気を失っているエーネのそばにはキャロルがついて、心配そうに見ている。
「これはやっかいですね。一度戻りましょう。ロープなり用意してから明日来ましょう」
「あんなのがいるとは思っていないからこの装備では役に立たないわね」
「どうしましょうかねえ」
「洞窟の外からロープを使って命綱を作りましょう」
「エーネの様子も心配なので」
 今は動きをとめて眠っているが、起きる気配はない。
「あの怪物をうまく倒さないと眠ったままになりそうですね」
 私は、エーネの周囲を分析するが、魔法の片鱗も見当たらない。
「これはやっかいそうですねえ」
 私は、とりあえず洞窟の手前に土壁を作ったあと、パムとレイにお願いして、洞窟の入り口を見張ってもらうことにしました。

○対策会議
 長命人族のところにベースキャンプを置く事にして、人が立ったまま出入りできる大きなテントを設営した。
 テーブル置いて、その上に洞窟の位置を記した地図、洞窟の長さなどを地図に記入して、さらに、地図の上の横の方にイメージ図を描いて、みんなと共有している。
「エーネの監視はキャロルにお願いします」
「はい。それにしても檻を作ってその中に入れるのはひどくありませんか?」
 キャロルは、テントの横に作られた檻の中にエーネが入れられているのを見て、私を睨んだ。
「あの状況を見たでしょう。意識がなくなっても体が動いてあの目に向かって歩いて行こうとしたのを」
「そうですけど」
 キャロルは恨めしげに私を見て、寂しそうにエーネを見ている。
「メアさん相手が現われた時のことを記憶していますか?」
「記録しています」
「遺跡の入り口が見えた時に入り口をふさぐように突然黒い空間が現われました。そして風が吹き始めて黒い空間の周囲に触手が現われ中心が渦を巻き始めて目が・・・・」
 メアがそこで言葉に詰まる。
「メアさんどうしました」
「映像がそこで中断して、その後逃げるところから復活しています」
「なるほど。メアさんはその時補助脳が身代わりになっていたのですね」
「はい」
「この件が終わったら、一度メンテナンスしましょう」
「はい」
「あ、エーネが目を覚ましました」
 目を開けてもうつろな顔をして、立ち上がろうとしても檻が狭いので立ち上がれず、這って檻から出ようとするが、出られるわけもなく、むなしく両手を檻の外に出してもがいている。
「やはり暗示は解けていないようですね」
 私は言った。
「催眠魔法は効果ありますか?」
 私がそう言うとアンジーがエーネにかけようとして、エルフィに向かって言った。
「私ではまずいかもしれないからエルフィお願い」
「はい」
 エルフィは、催眠魔法ををかける。おとなしくなって眠り始める。
「さて、エーネの様子ですが、これは魔法ではありませんね。思念波に近いです」
「でもDT様。皆さんあの目を見ましたよね、なぜエーネだけ?」
 キャロルが私を見て言った。
「エーネが何かを探ろうとして凝視したのではないか?」
「それで逆に乗っ取られたと」
「あくまで可能性じゃ」
「実は風にまぎれて、声も聞こえていたのです」
 エルフィがそう言って、レイも頷いています。
「なるほど、暗示と催眠か。それなら納得できるわ」
 全員に沈黙がおとずれる。
「ああ!!エーネがいない!!」 
「なんとあの檻を抜け出しています。誰の目にも触れずに」
「もしかして転移魔法を使えたのですか」
「そんな話は聞いていません」
「使えていたのを自覚していなかったということですか?」
「ああ、それはありそうです。そうかもしれませんね」
『突然エーネが現われました』
『魔法を阻害するワイヤーで拘束してください。彼女は転移できてしまいます』
『捕まえてどうしますか?』
『遺跡から離れてこちらに向かってください。途中で合流します』
「さて、私たちは遺跡の洞窟に向かいます」私はキャロルに説明してから移動する。
 合流してアンジーがエーネにマインドシールドをかける。しかし、一時的に影響が軽減されてもすぐ操られている状態に戻る。
「どうしますか?」
「強力なマインドシールドを全員にかけて勝負しましょうか。見えた瞬間にモーラには、持参した土で土壁を作ってその間に全員が攻撃をするという手はずで」
「結構安易ですねえ。遺跡は壊れたりしないのかしら」
「あそこだけ空間の色が違っていますから、大丈夫でしょう」
 そう言いながら、私達は洞窟に入っていく。モーラは大量の土を背中に背負って先頭を歩く。
 右カーブにさしかかり、見えるか見えないかギリギリの所から奥に向かってモーラが土壁を作る。モーラの合図でその土壁に横並びになる。
「吸い込まれないように各自ワイヤーで保護してください」
 私はそう言って事前に渡していたワイヤーを壁にくくりつけさせる。
「メアと私で行きます。パムはメアをレイは私を引っ張ってください。目をつぶったまま全員でまっすぐ前に手をかざして合図で攻撃してください。アンジーはマインドシールドを繰り返し唱えてください。 モーラは遺跡全体を揺らしてください。それでは突入」
 私とメアが風が吸い込もうとする中を走る。途中でワイヤーが体に食い込む。
「今です立ち上がって、魔法を全力斉射!」
 全員が壁から身を乗り出し、手を前にかざして魔法を打ち出す。メアは持っていたナイフを次々と黒目の部分に投げていく。私とメアの間を極太の矢が一瞬で通り過ぎる。瞳孔に矢が突き刺さり、一瞬だけ動きが止まった。
「エルフィの矢でもダメですか」
「エルフィ!今の攻撃をもう一回だけお願いします」
「矢が魔法に負けちゃうの!」
「とりあえず相手の攻撃を止めたいのです。全員で一斉に魔法を打ち込んでください3,2,1今です」
 全員の一斉射撃が私達の間を駆け抜ける。その間に私は魔力を充填する。両手の中に矢を作る。
「うおお。 光の矢」
 私は、作った光の矢を左手に構えてその目に投げつける。
 刺さっていたエルフィが打ち込んだ矢に光の矢はさらに突き刺さり瞳孔を真っ二つにして、その目は動きを停止した。風は止んで風景も元に戻り、目の前の黒い闇も消えて、その先の遺跡もほんのりと見えている。
「いつの間にそんな技を覚えたのかしら」
 エリスにそう言われて、あ・・・やっちまったと思う私でした。
「エーネは?」
 私は振り向いたが、キャロルがエーネのそばで手を振っている。
『大丈夫です。意識は戻っています。一瞬起きてすぐ眠ってしまいました』
 安心して敵のいたところを見ると、紫やエリスなどが、何かを囲んでいる。私もワイヤーを解いて、そこに近付いた。そこには、ぼろきれのようなものが落ちていて、誰もそれを拾い上げようとはしない。
「ゴーストだわ」
「ああ、魔法使いの成れの果てね」
「さまよっていてどこにいるか知れなかった一人が見つかったわ」
「行方不明の魔法使いはいなかったのではありませんか?」
「死体は見つかっていたのよ。これは精神体として」
「私がとどめをさすわ」
 紫が何か魔法を使ったようで、そのぼろ布を囲んで魔方陣が発動して、そのぼろ布は塵になって舞い上がって消えた。どうやら浄化の魔法のようだ。
「エーネが起きました」
 今度はエーネの元に集まった。
「はっ私は? 私は魔法使い。里の魔女たちに殺されて死んだはずでは?」
「記憶が混乱しているわね」
「何か覚えているかしら?」
 紫が優しくエーネに聞いた。
「いえ、記憶はありません。ただただ里の魔女達に殺された恨みだけを覚えています」
「そうなのね。それは申し訳なかったわねごめんなさい。もっとも謝ってすむ問題ではないですけど」
 そう言って紫は頭を下げた。

 この後、遺跡を調査したが、一番目の遺跡と全く同じ構造だと判明して、何もわからないことがわかりました。
「結局ここはどうするのじゃ?」
「一番目の遺跡と同じようにダミーの洞窟を作って入り口を埋めておきます。あのゴーストはイレギュラーだったと思いますが、前の蜘蛛みたいに何が住み着くかわからないので。パープルさんそれで良いですか?」
「そうね、次の四番目を調査して、それから結論を出しましょう」

○元魔王様の動揺
 念のため、一日休養することにして、エーネの事を元魔王様に連絡を入れました。
「エーネが襲われたのですか?」
「無事だったようですが、精神攻撃を受けたと聞いています」
「あの子は感受性が高いから、どんな影響が出るかわかりません。至急里に戻るように言ってください」
「あ・な・た」
 奥様の眉間に血管が浮いています。
「これだけはお前が何といってもダメだ。すぐに戻ってくるようにする」
 元魔王様が、悲しそうな顔でそう言ったのです、
「それはわかりましたから。その護衛にキャロルをお願いしませんか」
 奥様は悪巧みをしているような目で元魔王様を見て言いました。
「あ、ああかまわんが。 どうしてだい」
「あの子と一緒に旅をしていたのです。その時のことを色々聞かせてもらいたいので。お願いできますか?」
「それも伝えてもらおう」

 その連絡はすぐにエリスの所に入り、エリスは呼び出すのが面倒だったので、夕食の頃めがけて我が家に来た。
「エーネには里帰りして欲しいそうよ。それとキャロルにはエーネが心配だから一緒についてきてほしいそうよ」
「私もですか?」
 キャロルがポカンとして言った。
「とことん親馬鹿ねえ、あのダメ親父」
 アンジーがあきれている。
「普通なら一人で飛んで帰るのであろう?確かに精神不安定な時に一人で旅させるのは問題じゃな」
 モーラはなぜか納得しています。
「そうでしょうか?キャロルを同行させるのは、違う目的があるのではありませんか?」
 メアが何かを察したように言った。
「キャロルどうしますか?」
「かまいません。むしろ隠れ里に私のような部外者が行ってよいのでしょうか」
「問題ないでしょう。たぶん歓迎してくれますよ」
「わかりました。 お姉ちゃんが心配なので一緒に行きます」
「一緒に行ってくれてありがとう。でもお姉ちゃん言うな・・・・」
 ぼそりとエーネが言った。

 その後キャロルとエーネが二人きりになった時の会話
「でも、キャロルが一緒に行ってくれれば、怒られなくて済むかもしれないのです」
「私は、剣技と魔法の扱いを訓練しているつもりだったのよ」
「もう十分じゃないですか」
「大体の事は、あんたが魔法で何とか出来て、たまに魔法の制御が出来無い時だけ、私の剣を使っているの。私はあまり活躍できていないのよ。不公平じゃない」
「不公平なんですか?」
「まあいいわ。里であなたの父上に魔法を習う事にする」
「習うのは無理ですよ」
「そんなはずはないでしょう?あ、それってもしかして」
「はい、何でもできる人は出来て当たり前なので、普通の人がどうしてできないのか不思議なんだそうです」
「それか。だからあんたは魔法が下手なのね」
「はいそのとおりです」
「これは無理か・・念のためDT様にはお願いしておくことにするわ」

○四番目の遺跡
「四番目の遺跡の洞窟にきました」
「誰が入りますか?」
「レイとエルフィが嫌な顔をしています。 何かあるのでしょうか?」
「どうしました?」
「変な音がしています」
「そうです~耳に嫌な音がしていますね」
「私も感じています」エーネも嫌な感じらしい。
「メアさん」
「確かにゆらぎのある低周波が観測されています」
「地震の前兆ですか?」
「そんなわけあるか。わしがここにおるのじゃ。それはないわ」
「どうするの?」挑発的な顔で紫は私に聞く。
「土穴にいらずんば、モグラを得ずですよ」
「そこはトラではないのね」アンジーとエリス、シンカが笑っている。
「土の竜ならモーラを得ているからもういらないでしょう」
「なんじゃそれは、」
「あとで意味を教えてあげるわよ」アンジーがモーラに言った。
そうして、鈍感な私達魔法使い組とアンジー、ユーリ、メア、パムが中を進む。
いつもの洞窟なら、しばらく行くと遺跡の長い通路に変わるのだが、一向に現れず、土が掘り起こされたように色が変わっている。さらにしばらく行くと土の壁になった。
「洞窟はありますが遺跡がありませんよ」
「そうねえ確かに洞窟はあるのに穴があるだけだわ」
「モーラどうですか」
「位置はかなりずれているなあ」
「どの辺ですか」
「この位置から言うと、長命人族の所に・・いやファーンの方に近づいているな」
「モーラさんお願いがあるのだけれど」
「ああ、メアを連れて上空から4か所の位置を地図に落としてほしいのだろう?」
「さすがねえ」
「メア、ここの場所はわしが地上で位置を示す、その後上空に連れて行くので、他の4か所の位置を覚えられるか?」
「できます。すぐに行きましょう」
「あ?うん。では行こうか」
「皆様もここから早くお出になられますようにお願いします」
「急ぎましょう。確かにかすかにですが振動があります」
「わしにも感じるが、これは地面の異変ではないな」
「震源が地面ではなく、その遺跡なんだと思います」
「地崩れならわしが何とかできるが、とりあえず出よう」
「はい」
 モーラはメアを乗せて飛び立った。
「さて、どう思いますか?」
「断片すぎてねえ」
「地中を移動されると色々問題がでますか」
「気持ち悪いじゃない?」
「確かにそうですね」
「さて、ここで待っていても意味がなさそうですから、長命人族のところに作った対策本部に行きましょうか」
「私はもう一度中に入ります」
「あら、気になるの?」
「どうも気になる事は確かめたくなりますよねえ」
「おもしろそうね、ついて行っても良いかしら」
「念のためワイヤーを這わしながら行きますから大丈夫ですよ」
「なら安心ね」
「という事でちょっと行ってきますね」
「わかりましたお気をつけて」
 パムが細いワイヤーを手にしている。私の鼓動が伝わるようになっている。
「さて、 何が気になるのかしら」
「最初の遺跡を私たちは動かしたじゃないですか。さらに怪物を倒しました。で、この洞窟の土の状態を見る限り、あの怪物を倒した途端、 動き出したような気がしたんですよ。どうして急に動き出したのでしょうか」
「そういえば、そうね」
「なぜ、2番目の遺跡は、洞窟がなくなり土の中に埋まっていたのでしょうか」
「関連があるというのかしら」
「関連がないと思いたいですが、気になりますね」
『エルフィとレイから頭痛がなくなったと言っています』
『わかりました。こちらは問題なく進んでいます』
「エルフィとレイの頭痛が治ったそうですよ」
「それはもしかして、止まったからなの?あなたは、止まることが予想できたのかしら」
「止まったとしたら、どうして止まったのでしょうかねえ」
「動けなかったのが動けるようになって移動したい位置に移動できた。もしくは、私たちが第1の遺跡を起動したおかげで移動することになったということかしらねえ」
「私たちが動力源を供給してしまったということになりますか」
「そうなるかもしれないわねえ」
「ならばどこに動いたというのでしょうか」
「多分正しい位置に戻ったのではないのかしら」
「災害があって位置が変わったけれど動力源が失われて動けなくなったとも考えられますし、遺跡が強制停止したあとに大規模な地震が起きて、位置が変わったのかもしれませんがね」
「前後関係はどうでもいいわ。遺跡が起動するという事ですか」
「振動もなくなったということは、動力源がなくなったか正しい位置についたか。正しい位置に戻ったのなら、動力源があるけれど、サスペンドモードに戻ったのかもしれませんね」
『ぬし様。モーラ様が戻られました』
『わかりました。すぐ戻ります』
「さて、戻りますか」
「そうした方が良さそうね。ああ、一つだけ質問があるのよ。答えてくれるかしら」
「なんでしょうか」
「あなた、メアとはどこまで進んでいるのかしら」
「進んでいません」
「あら、さすがDTね」
「ほっといてください」

○五番目の遺跡
「おう、やっと戻ってきたか」
「成果はありましたか?」
「ああ、ここの遺跡が動いた理由もな」
「対策本部に戻りましょうか」
「おぬしが洞窟に入ったからみんなが心配してここにとどまったのではないか」
「それはすいませんでしたねえ。地図と照合しましょう」
 移動して対策本部に戻った。地図を広げて位置を確認する。4か所の位置は、それをつないでも台形にしかならない。
「皆さんもこれを見たらもう一つある事はわかりましたねえ」
 私が魔法陣を見えるように作って、その4か所をつなぐように丸い円を描いて見せる。
 全員が頷く。私は魔法陣を使って五芒星を浮かび上がらせる。
「5か所目があるのね」
「5か所目を特定しましょう。 もしかしたら洞窟になっていて中に入れるかもしれません」
「では行くか?」
「この森林を進むのは難しいですが、 皆さん行きますか?」全員が頷く。
「では、モーラに近くまで連れて行ってもらって、周辺を捜索しましょう」

○第五の遺跡
 意外に簡単にその場所が特定できた。その場所には木が生えておらず、上空から見ると、ぽっかりと穴が開いたように見える。実際に降りてみると少しだけ隆起していて、熱を持っている。
「動いていますか?」
 私はモーラに聞いた。
「動いてはいないようだ」
「土を剥がしませんよ。規模がわかりませんから」
「それはしかたないわね」
「この後は、文字を解読してからにしましょう。専門家に解読してもらわないとなりませんね」
「ここで一度調査を終わらすのかしら」
「実際中に入られませんし、一つ目の遺跡も操作の仕方がわからないので、調査のしようがありませんよ。ここを含めて3つ、重力制御で無理矢理持ち上げて地上に出しますか?」
「それはちょっと荒っぽいわね。かえって何か起きそうだわ」
「操作の仕方がわからないとどうにもなりませんし、動かしたらわかるようにはしておきますので、それで様子を見てください」
「そうするしかなさそうね。対策本部はこのままにしておくのかしら?」
「撤収しましょうか?」
「そうね。こんなものを置いておくと住んでいる人の不安をあおりそうだわね」
「撤収しましょう」

○怪しい七人と遭遇
 四番目の遺跡をみんなが調査している頃、エーネと私は、エーネのご両親に会うために故郷に向かって走っていた。
「正直あまり行きたくないのです」
「どうしてそうなるのよ。胸を張って帰れば良いじゃない」
「一応私は家出娘なのですよ。しかも精神をやられて、心配だからすぐに戻ってこいと言われているのです」
「そう言われればそうね。それでも両親に会えるのだから嬉しいでしょう?」
「でも、複雑なのです」
「お姉ちゃん。ちゃんと話して」
「わかりました。だからそれはやめて欲しいです」
「複雑の中身よ」
「キャロルはたまに厳しいです」
「厳しい?」
「そうやって睨むじゃないですか」
「目つきが悪いのは昔からよ」
「それは嘘です」
 そんなくだらない話をしながら馬車を走らせていました。
「おや。珍しい人達が歩いているわね」
「珍しいですか?」
「ええ、魔族とバラバラです」
「やりすごすわよ」
「はいです」
 そう言って向かって歩いてくる人達をやりすごす。しかし止められた。
 回り込まれて、行く手を遮られる。
「ちょっと待て。馬車から変な匂いがするじゃないか。お前達誰だ」
 そう言ってそのフードを被った人達は馬車を囲むように立っている。どうやら上空にも一人飛んでいるようだ。
「あの~魔族の人たちですよねえ。通してもらえませんか」
「そうはいかないんだよ。最近この辺の盗賊たちが変な噂にビビッてしまってなあ。噂を確認して欲しいと言ってきたのさ」
「あくまで噂でしょう?そもそも女の子の2人旅なのにどうしてそんなのに怯えているのかしら」
「確かにそうなのさ。ビビりすぎだとね」
「それにしてもたった2人の若い女の子を相手にその数はなんなのかしら」
「ああ俺たちは今、ちょっとした訓練をしながら渡り歩いているんだよ。強い奴とは戦いたいと言うのもあるんだよ。それにその魔族の匂い。誰なのか話してもらおうか」
「それは言えません」エーネが言った。
「まあいいさ。力ずくで教えてもらうからな」
「逃げるわよ」キャロルは手にネックレスを握る。
「そうは行かないさ」その魔族は、テンを捕まえて離さない。
「ほう、この馬すごいな。俺に怯えもしない」
「テンを・・馬を離しなさい」キャロルは馬車を降りる。
「ようやく戦う気になったか」
「どうしても戦いたいのですか」
「あんたのその気迫だけでもかなりのものだ、まあ俺たち全員じゃああんた達に勝ち目はなさそうだがな」
「それはどうですかね」エーネも降りてくる。そこでその魔族はようやくテンから手を離す。テンは少しだけ魔族から離れるように後ろに下がった。
 キャロルは、相手の速度を測りきれなかった。服をチェンジする間に攻撃されるのではないかと思っている。さすがにこの服では勝てるとは思っていない。
 エーネが思ったのは、傷つけずにどう倒すかだった。だが、人数が多いので、自分が殺されるかもしれない、どうしたら良いのかと思っている。
「最初から合体技よ」キャロルの焦りが言葉から伝わってくる。
「はい」そう言って2人でクイック詠唱をして、流星の棘と「風の舞」を展開する。しかし、流星の棘は、簡単に躱されてしまうが、風の舞の方はけっこうなダメージを与えている。
「なるほど、今後成長すればかなりできるな。まあここで出会ったのが不運だと思え。練習台になってもらうぞ。黒い大地をしかけろ」
「わかった」ローブを被った小柄な男が杖を振り上げて詠唱を開始する。キャロルとエーネを囲むように魔方陣が作られて、黒い液体に満たされていく。
 キャロルは瞬間的にまずいと考えて、エーネに言った。
「ご免とっておきをお願い」
「最終奥義。いきまーす」
 エーネが叫ぶ。天高く差し伸べた手には、黒い球、赤い球、青い球、黄色の球が手を中心に回っている。
「まずい逃げるぞ」魔族の男がそう叫んで全員に逃げるよう手で合図した。
「暗黒に落とす沼は、もう少しで完成する」杖を振って詠唱をしていた男は不満そうに言った。
「ありゃあとんでもねえ技だ。あいつらを沼に落としたとしても、俺たちもただじゃすまない」
「でもキャンセルして逃げるしかない。むしろ落とした方が良い」
「あのままあいつらを落としても、制御の効かなくなったあの魔法の球が俺たちを狙うに決まっている。そうなれば確実に死ぬ」
「わかった」残念そうにその男は魔法をキャンセルした。
 そうして底なし沼は消え、そこにいた魔族たちもどこかにいなくなった。エーネはほっとした表情で魔法をキャンセルして、作られた四つの球はゆっくりと霧になって消えていく。
 キャロルは怖い思いをした。さすがにそうそう出会う相手ではないはずだが、魔王の匂いはまずいのだろうか。いやエーネのおかげで逃げられたのも事実だ。こうして一度恐怖を味わうと足がすくみ手が震える。パムさんからはそれでも剣を持ち、立ち上がれるようにならなければなりません。と言われている。だが今は怖い。
 魔法発動中、エーネはそうでもなさそうに見えたが、私はエーネの手が震えているのを見た。あの時手が震えていたのは、加減ができないからなのか、怖かったのか。それを聞きたいが聞けない。怖かったと言われた時にどう反応していいのか。一緒だよと言えばいいのか、大丈夫と答えるのがいいのか。おかげで助かったと言えばいいのか。答えがみつからない。
「おかげで助かったわ。ありがとう」私がエーネに対してとっさに出たのはこの言葉だった。
「怖かった~殺してしまうんじゃないかと。あと、自分も死ぬんじゃないかと。でもキャロルを守れてよかったです」
「そうだったのね。私を守ってくれて本当にありがとう」私はその時、守るという事は大事なのか。これまで私は、守る戦いは出来ていなかったのだ。前に進み敵を倒してさらに進んでいく。でも違う。守る戦いが大事なのだ。だから、相手も傷つけず自分も傷つかない戦い。不殺という考えに至るのか。この子は無意識にそうしているのか。強大な力を持つがゆえにそうせざるを得ないのか。手加減できるのか?

 その場所から移動した魔族達はしばらく移動してから集まっていた。
「最後まで見ていたかったが、あの罠はこの子には効かない。あれは魔族だから、取り込んでも干渉されて壊されていたかもしれない」
「そうか。それは改善できるのか?」
「多分。事前に罠として発動できれば」
「そうか。本戦の相手までにはまだあるから、じっくり調整しよう」
「わかった」

 そうして、エーネとキャロルは、元魔王様の里に到着した。当然元魔王夫婦の質問攻めに辟易している2人だった。

○エーネの想い
 私はこれからどうすればよいのかとぼーっと馬車に揺られているときには考えてしまう。生まれを呪う気持ちも少しはあるし、あきらめられてもいない。だからといって今を生きていくしかない。私に対して偏見がないあの家族と共に生きてみたいとも思うし、私のような者では足手まといなのかもしれないと思う事もある。あの皆さんは、この世界でその能力を存分に使っている。特にあの方は自分の家族を守るためだと言っているが、そんな事はないのだと私でもわかる。結果的にこの世界のためになっているのだから。そんな事には関わりたくはないと私は思うが、それでも役に立つことが何かあるのではないかと思っている。僭越すぎるとは自分でも思うけど。ああ、こうやって言い訳をグダグダして時間だけを引き延ばしている。告白するのが怖い、拒絶されるのが怖い、そして皆さんの所に遊びにさえ行けなくなるのが怖い。怯えているのだ。そうしてどんどん時間は過ぎていく。そして、なぜかわからないが焦っている。
 そして、キャロルにはこう言われている「私はあなたと一緒に隷属するつもりはないわ。私は気持ちに整理がついたら、あなたの事は気にせずに先にお願いすると思うから。その時は恨まないでね。逆にあなたがその気になったのなら私を気にせずお願いしてね」と言われているからなのか。きっとそんなつもりはないのだ。でもそう言っておかないとどちらかが隷属した時に裏切られたと感じるかもしれないという不安があったのだと思う。でも彼女の方がきっと先だと思う。私はこうやって怖がって焦って、ただ立ち止まっているだけなのだから。

Appendix
「メアのメンテナンスをしたのですが。記憶容量の再整理とかはできませんねえ。定期的に記憶の再構成をしているようですが、今回の事がどこまで影響しているかわかりません」
「ご主人様。自己点検では影響は出ていないようです。ご心配をおかけしました」
「そうですかそれは良かった。でも、メンテナンスは製作者にちゃんと聞きたいですね」
「各国は動いていますか?」
「人を派遣するのも躊躇しているようですよ」
「辺境の魔法使いと土のドラゴンのところは、人間でも魔法使いの里でも手を出しあぐねていますから、しばらくは大丈夫でしょう」


Appendix
テン、また旅かいな。ええなあ
そうかしら嫌な予感しかしないわ
珍しいな普通の旅になりそうやが
あの魔族の姫だけどね、結構なトラブルメーカーなのよ
そうか。難儀な姫さんやなあ。前の旅がそうだったんかい
まあ、素直なだけに巻き込まれるので可愛そうなのよねえ。応援してあげたくなる感じね
なるほどな。気をつけてな
そうするわ
わしらも旅したいなあ
しばらくはありそうもない気もするなあ
そうやな

続く
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「もう大丈夫だから。もう、大丈夫だから……」 生死を彷徨い続けた子供のジルは、献身的に看病してくれた姉エリスと、エリクサーを譲ってくれた錬金術師アーニャのおかげで、苦しめられた呪いから解放される。 三年にわたって寝込み続けたジルは、その間に蘇った前世の記憶を夢だと勘違いした。朧げな記憶には、不器用な父親と料理を作った思い出しかないものの、料理と錬金術の作業が似ていることから、恩を返すために錬金術師を目指す。 しかし、錬金術ギルドで試験を受けていると、エリクサーにまつわる不思議な疑問が浮かび上がってきて……。 これは、『ありがとう』を形にしようと思うジルが、錬金術師アーニャにリードされ、無邪気な心でアイテムを作り始めるハートフルストーリー!

【完結】父が再婚。義母には連れ子がいて一つ下の妹になるそうですが……ちょうだい癖のある義妹に寮生活は無理なのでは?

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父が再婚をしました。お相手は男爵夫人。 平民の我が家でいいのですか? 疑問に思うものの、よくよく聞けば、相手も再婚で、娘が一人いるとのこと。 義妹はそれは美しい少女でした。義母に似たのでしょう。父も実娘をそっちのけで義妹にメロメロです。ですが、この新しい義妹には悪癖があるようで、人の物を欲しがるのです。「お義姉様、ちょうだい!」が口癖。あまりに煩いので快く渡しています。何故かって?もうすぐ、学園での寮生活に入るからです。少しの間だけ我慢すれば済むこと。 学園では煩い家族がいない分、のびのびと過ごせていたのですが、義妹が入学してきました。 必ずしも入学しなければならない、というわけではありません。 勉強嫌いの義妹。 この学園は成績順だということを知らないのでは?思った通り、最下位クラスにいってしまった義妹。 両親に駄々をこねているようです。 私のところにも手紙を送ってくるのですから、相当です。 しかも、寮やクラスで揉め事を起こしては顰蹙を買っています。入学早々に学園中の女子を敵にまわしたのです!やりたい放題の義妹に、とうとう、ある処置を施され・・・。 なろう、カクヨム、にも公開中。

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西野桃(にしのもも)35歳の独身、オタクが神様のミスで異世界へ!貪欲に通販スキル、時間停止アイテムボックス容量無限、結界魔法…さらには、お金まで貰う。商人無双や!とか言いつつ、楽に、ゆるーく、商売をしていく。淋しい独身者、旦那という名の奴隷まで?!ズボラなオバサンが異世界に転移して好き勝手生活する!

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飯屋の娘は魔法を使いたくない?

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3歳の時に川で溺れた時に前世の記憶人格がよみがえったセリカ。 魔法が使えることをひた隠しにしてきたが、ある日馬車に轢かれそうになった男の子を助けるために思わず魔法を使ってしまう。 それを見ていた貴族の青年が…。 異世界転生の話です。 のんびりとしたセリカの日常を追っていきます。 ※ 表紙は星影さんの作品です。 ※ 「小説家になろう」から改稿転記しています。

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