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第30話 特訓しましょうか

第30-2話 課題と鍛冶と過去

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○ 魔法使いの戦い方
 魔法使いの戦闘のレクチャーを始めました。
「そもそも魔法使いは、自分一人では戦えません。1対1なら一撃必殺ですが、大勢と戦って近接戦闘に持ち込まれたら、かなり殺される確率が高くなります」
「相手が一人でも大人数でも、相手を惑わすなら、最初は小さい魔法攻撃で様子を見ます。そして、徐々にではなく一気に数段レベルの高い攻撃をします。もし最初の攻撃で属性耐性があるのなら、違う属性の魔法に切り替えなければなりません」
「属性の違いはどうにもならないと思いますが」ライオットが首をかしげる。
「火が効かないなら、手近な水を沸騰させて、風に乗せて熱風にするとか、自分の使える属性を増やしていかないとだめです」
「魔力量が厳しいなら、小技で相手を混乱させて動揺を誘い、隙を作るとか、やり方は色々あります」
「小さい炎を作って大きくしたり小さくしたり、氷を針みたいに極細に作ってみたり、自分の持てる魔法を本当の意味での自由自在に扱えるようになってください」
「例えばこうやって」
 私は、指の先に小さな炎を作り、それを指の先で操るように自分の体の周囲を回らせる。指との間には糸はない。炎を指の数センチ先に灯して、それを消さないように動かしてみせる。話しながらしばらく体の周りを回した後、今度は、炎を大きくしたり小さくしたり、体から離してみたり近づけてみたりする。
「距離感をつかむのです」私は、炎を回すのをやめて、指先に灯したままにする。
「そうすると、こういうこともできます」その炎を自分の視線のかなり先にいるユーのところまで、すごい速度で移動させその目の前で静止させる。
「こんなことできても仕方が無いだろう。こうすればいいのだから」ビックリさせられて怒ったのか、ユーは、そう言って私に向かって火炎放射器のように炎を吹きかける。
「どうだ。こうやって敵を倒せばいいだけじゃないか」ユーは得意げに言う。しかし、炎は私まで届いていない。
「え?どうして届かない?」ユーは炎が消えても私にまったく届いていないのを見て驚いている。
 私の指の周りで細かい炎が多数回っていて、ユーの炎を拡散させていたのだ。
「いいですか?無駄な魔力を使うということは、魔力切れを起こす心配があります。どれだけの数の魔族と戦うことになるのかわからない状態で無駄な魔力は使えません。できるだけ効率よく相手を倒さなければならないのですよ」
 私は、回転する炎を再びその子に向かって進める。ユーの直前で炎はクルクルと回っていてやがて消えた。
 ユーは悔しそうな目で私を見ているが、私は気にせずに次の話を始める。
 その私にいきなり雷撃がほとばしる。その子の顔にいやらしい笑みが見える。
「一撃で倒せば問題ないだろう。そうやって消し炭に・・・」ユーは目の前にいたはずの私にそう言ったが、私が彼女の背後から頭をわしづかみにしていたた。
「ど、どうして後ろに」振り向こうとするが、私が頭を押さえているので、後ろを振り向けないでいる。
「ユーさん。あなたは、この世界に女性の姿に乗り移って転生してきたのでしょう?」私はその頭をギリギリと締め上げながら持ち上げてそう言った。
「なぜそれを」ユーは頭に食い込む私の指をなんとが引き剥がそうともがいている。当然、私を蹴ろうとしているが、痛みで動けなくなっていく。
「みなさんが知らないふりをしてくれているだけです」
「みんなで俺のことをだましていたのか」
「違いますよ、わかってしまっただけですよ。あなたがあまりにも粗暴だから」
「なんだと」
「まあいいでしょう、転生してきたあなたは、どうしたいのですか?」私は少しだけ力を緩めて言いました。
「そりゃあ、面白く楽しく生きられれば良いにきまっている」
「そのためには、どうすれば良いと思いますか?」
「そりゃあ力だよ、力さえあればすべてを屈服させられる」
「すべてを屈服させた後、どうなるか想像してください」
「そりゃあ、俺が命令してすべてをやらせるさ」
「服も食事も畜産も狩猟も農耕もすべてですか?」
「ああ、そうだ」
「命令を聞かなくなったらどうするのですか」
「そりゃあ・・・殺すと脅して・・」
「あなたに従わず、全員死んだらどうしますか?」
「あ?誰も死にたくないだろう」
「あなたに従うくらいなら死んだ方がましだと思ったらどうしますか」
「・・・・」
「そうやってすべてを屈服させて命令に従わせて、みんなの苦しそうな顔を見てあなたは幸せなんですね」私は耳元でささやくようにそう言った。
「・・・・」
「今の話を聞いて、あなたがこの世界のすべての人、種族を殺して死体の山の上に立ち、高笑いをした後、絶望に襲われ跪き、泣きわめいている姿が見えますね」
「・・・・」
「あなたの考えている事は、そういう結果しかないのですよ」
「じゃあ、どうすればいいんだよ」
「簡単ですよ、この世界に暮らしているすべての人と対話をして、あなたの行為がわがままかどうか考えてください」
「そんなことできるわけ無いだろう」
「だったら、あなたの周りにいる人たちの言葉を聞いて、自分の行いが正しいのか考えるところから始めませんか」
「わかった、とりあえずここにいる全員と話をしてみるよ」彼女がそう言ったので、私は締め上げていた頭から手を離した。
「そうしてください。それと、こんな事を他の人にもしたら、あなたの手足を刈り取りますからね」地面に足をつけた彼女の顔を私の方に無理矢理むけて、顔を近づけて私は言った。
「刈り取る?」彼女はすでに怯えている。
「そして、手足を切り取った部分を焼いて、死なないようにして、そのまま転がしてみんなに披露しますよ。バカな転生者の末路だとね。理解しましたか?」私を見る彼女の顔が真っ青になっている。
「わ、わかった。いえ、わかりました」
「あともう一つだけ、どうせあなたのような人は時が経過すると忘れるようですから、手の甲にある文字が浮き上がるようにしておきますね。ほら」
 彼女の左手には、「豚」と言う字が浮かび上がる。そしてすぐ消えた。
「私はいつでもあなたを見ていますからね」
 そうして、私は彼女から離れて、再び話し始める。全員がシーンとなった。
「おぬし、いつも通りにやり過ぎじゃ」モーラが頭を抱えている。
「ほかの人たちまで怯えさせてどうするのよ。懲りない人ねえ」アンジーも私を見てあきれている。
「いきなり私に雷撃を打つような人にどう言えと言うんですか!」私はつい、魔法を打ち込まれた怒りをアンジー達に向けてしまいました。
「まあ、確かにねえ。あれをくらって生きているあんたもおかしいのだけれど」
「しかも、すごい顔して楽しそうに耳元で話していたじゃない。それにみんな怯えているのよ。あんた本当に楽しそうな顔していたわよねえ」
「まあ、演技するのは楽しいですからねえ」
「悪趣味よのう」
 それからは、皆さんちょっと暗めに練習を始めました。私が近づくと避けるのは、勘弁してください。
 その日は、全員の状態がわかったので、そこで終了しました。そして、キャロルに怒られました。

○説教されるDT
「DT様、あのような事をしてはいけません。彼女はかえってDT様を恨むと思います。そして、殺そうとするかも知れません」
「そうですねえ、どうやっても恨まれそうですから。最初から恨んでもらっていた方がこちらもやりやすいので」私は説教されてふてくされてそう言いました。
「どうしてそんな極端な考え方なのですか!」キャロルが額に血管が浮き出そうな勢いでそう言います。
「彼は転生者なのですよ。そしてわがままです。でも、魔族に対しては絶対外せない魔法使いなのですよ。調子に乗らせて暴走されても困るので。釘を刺しておきました」私はとりあえず言い訳を連呼します。
「それに、ほかの人たちを怯えさせてどうするのですか」キャロルは私への説教を継続しています。
「その方がいいのですよ。私に関わらない方がいいのですから。もっともあなたは、関わってしまった側になりますけどね。さて、この後、魔法の訓練をしましょう。おっと今日はやめておきますか?」
「それは、大丈夫です」
「では、今日は、この訓練をやってください」私は両手の指を顔のあたりに持って来ました。キャロルも真似して同じポーズをしています。
「左手の人差し指に集中して火の魔法を使います」私は、炎を左手の人差し指に灯す。
「そして、火を消してから、今度は右手の人差し指に風の渦を作ります」
「今度は、風の渦を消して、左手で稲妻を作り、それができたら、左手の稲妻を消して、右手で水の渦を、そうして、左手で氷を作ります。今度は、右手で火をつけて、逆の手で風をこれを最初はゆっくりとやってみてください。
 いいですか、ゆっくりですよ。それを10回繰り返したら今日は終わりです。決してそれ以上はやらないように。小さい炎とかは、実は脳にかなり負担をかけるのです、魔力量はそう使わないですが、脳が疲れますので、やりすぎると失敗しますから注意してくださいね」
 私は、キャロルの横に立って一緒にやっていましたが、ついつい背中から覆い被さるような形で一緒にやってみせていました。モーラが後ろから背中をつついてきて、振り向くと、みんながうらやましそうに見ています。いや、イオンまでうらやましげに見ますか。
「なんか、微笑ましくなってなあ。ああ、わしらはいいのじゃが。ほれ、一応おぬしは、魔法使い達の憧れらしいのじゃ。それを手取り足取り教えてもらっているキャロルをうらやましげに見るのは当然じゃろう」
「解説ありがとうございます。キャロルも急に照れないように。みなさん明日は、皆さんの適性にあわせた訓練をひとりずつしますから、安心してください」
「いや、そう言うことでは無いと思うのだけれど」アンジーがため息をつく。
「え?だって私恐い存在ですよねえ」
「さっきと全然顔が違っておるであろう。まあ、朴念仁にはわかるわけ無いか」

○夕食
 そうして夕食前に獣をハンティングに全員で行ったようです。エルフィが見つけ、レイが追い立てて、彼らが連携をしながら倒す。それぞれのパーティーが倒したところで、戻ってきた。夕暮れになり、それぞれが調理して、みんなで食べる。食事後は、私は、川のそばに大きな風呂を構築する。
「相変わらずいい手際じゃのう」
「さきほど久しぶりに魔法で細かい作業をしましたからねえ」
「なるほど、やはり訓練は大事じゃなあ」
「というか、どうしてモーラは男湯に入っているのでしょうか」
「あ?混浴ではないのか」
「当たり前のように私の隣で話しているので、周囲の男性陣がドン引きですよ」
「それはすまなかった。おいとまするわ、おぬしらすまんかった」
「そうしてください」
「ふーっ」
 私の周りにみんな寄ってくる。ジャガーさんは、私の腕をもんでいます。
「あまり筋肉質ではないのですねえ」
「私、体育会系ではないので。どちらかというと引きこもりなので」
「俺は、引きこもりではなかったが、友達はいなかったぜ」ユージが威張って言いました。なんですかそれは。
そういえば、男性陣ってほとんど、彼のパーティーでしたねえ。
「あ、そうそう忍者さん、のぞきに行かないでくださいね」
「せっしゃには、さすがにできません。エルフィさんとか私を察知した瞬間に絶対弓で攻撃してきますよねえ」
「ええ確実に。しかも敵が現れたと勘違いして殺すつもりで射ってきますから。気をつけてくださいね」

 そして、女湯
「どうして私だけ目隠しなんですか」ユーがそう言ってタオルをはずそうとする。
「あんた、外見はかわいい女の子だけど、中は男なんだから当然でしょ」アンジーがそう言ってタオルをさらに強く縛り上げる。
「そうなんですか?」
「そうよ。転生前は、小汚い大柄なデブだったからねえ」
「ど、どうしてそこまで知っている」おっと男の台詞に戻っていますよ?
「まあ、色々とわかっているわ。あんた。何かしようものなら、ほかの誰が許しても私が許さないわ。あんたの前世の情報全部さらすからね」
「ふん、何を知っていたってもうこの世界に来たんだ。関係ないだろう?」
「あ~らそうなの。じゃあ、ピー田ピーさん、引きこもり、趣味は・・・」
「わかりました、もうやめてください。お願いします。あと、このタオルなんとかなりませんか」
「じゃあ、私が魔法をかけましょう」弓使いのジョアンナさんがそう言って周囲に魔法をかけた。
 その魔法は、上半身と下半身に霧がかかる仕組みになっていた。まあ、光でないだけましなのかもしれない。
「これって、かえってエロくないかしら」
「彼女には、全く見えませんから。彼女の視線が人に向けられると、顔以外見えなくなっているはずです」
「そんな都合のいい魔法あるのかしら」フェイがそして、サフィーネが首をかしげている。
「王女様の・・いいえイオン様のために研究しました」
「そういえばそうだったな。私達だけがこの子の中身は男だと知っていたからな」
「苦労するわねえ」
「でも、魔力量はものすごいし、使える魔法も多いのです」
「それでもあの男、DT・・・さんには勝てなかった。どうしてなんだ?」
「そうじゃなあ。修羅場をくぐった数というところか」モーラが戻って来て言った。
「数はそう多くないわよ、修羅場の質ね」
「濃い修羅場ばかりじゃからなあ」
「ぜひお聞かせください」イオンがそう言って近付いてくる。
「明日からの楽しみにしておけ。なあキャロル。おや、のぼせたか、顔が赤いぞ」
「いえ、のぼせてはいません。ぶくぶくぶく」
「なんじゃ久しぶりにあれだけくっついていたので、興奮したか」
「そんな事、言えません」
「そういえば、キャロルさんは、DT様と家族になられたのか?」イオンが尋ねる。
「はい。最近ですけど」
「何か条件でもあるのか?」
「それは・・・」キャロルがアンジーを見る。
「事情は話せないけど、まあ今となっては条件があるようなものかしらねえ」
「わしに振るな。身寄りの無いキャロルは保護者が必要になったからとでも言っておくか」
「保護者ですか?」
「はい、私、両親に捨てられた子供なので」
「そういう事ですか」
「ああ、そういえばそうだったわねえ」
「しかし、あれから成長したのう、どれ」モーラがキャロルの柔らかい何かをムニっと掴みました。
「モーラ様なにをなされますか」
「なあに成長具合をなあ。確かに育っておるわ」
「モーラ様、わざと大きい声で話すのはおやめください」キャロルが胸を隠しながらモーラから離れる。
「モーラ様、男湯が妙に静かです」メアが冷静にそう言った。
「おおそうか、すまなかった。キャロル、背は伸びたが、胸はたいしたことな・・・」
 ガコンと桶をモーラに投げつけるキャロル。キャロルは涙目です。しかし、さらに桶を持っているところはさすがです。それにしても桶はどこから持って来ましたか。
「キャロルやりますね。モーラ様に桶を投げつけるとは、罰が当たってもしりませんよ」メアがその横でさらっと言いました。
「モーラ様ひどい」キャロルからやっと言葉を発しました。
「まあ、悪いのはモーラだし罰はないわねえ」アンジーも何もない感じで静かにしています。
「当たっても痛くもないしなあ」とモーラ。さらに2投目の投球姿勢になるキャロル。
「まあ、わしも悪かった。ほどよく成長しているのにたいしたことないとか言ってしまってなあ」
「もう、もう、もう」そう言ってキャロルはお湯をモーラにかける。
「こら、やめんか反撃じゃ」そう言ってモーラも反撃し、全員がその戦いに巻き込まれていった。

 対して男湯は、静かなものです。 
「楽しそうですねえ」
「まあ、男湯なんてこんなものだ」ジャガーがそう言って空を見上げる。
「そういえば、ジャガーさんもユージさんも転生者なのですよねえ。いつの時代の人なのですか?」
「DT様の質問でも言えません」ジャガーがすまなさそうにそう言った。
「私も言えません。ここに連れられてきたときに約束させられて、言うと何かあるらしいのですよ」
「なるほどねえ。私は、記憶が無いのでその辺はわかりませんが、言ってはいけないのですね」
「申し訳ない」ジャガーが頭を下げた。
「あのー全く関係ありませんが、このお風呂の作り方を教えて欲しいのですが、だめですか」ライオットがそう聞いてきた。
「水さえ出せればできますよ。一応術式を教えますので、やってみてください」私は、今入っている露天風呂の術式を見せる。
「この術式・・・ここが、なるほど」ライオットがそう言って術式に見入っている。
「どれどれ」デリジャーさんも興味があるのか近付いて来て、つい術式に触ってしまう。
「いや、今触っちゃだめですよ。術式が崩れます。あっ」ライオットがデリジャーを止めようとしてデリジャーの手が術式に触る。
「それはまずいです」私は叫びましたが、一度動き出した術式は一瞬で終了した。
 お湯が吸い上げられ、土の壁が土に戻りました。そして、裸の男女が呆然と立ちすくんでいる。ああ、座っている人もいますね。
「DTおぬし」モーラが私を見て言いました。ええ、言いたい事はわかりますよ。
「残念ながら私ではありませんが、不注意でした。すぐ再構築し直します」
 そして、少し違う場所に作り直し、入り直した。
「後で言い訳を聞かせてもらおうか」モーラが、そして女性陣全員が私の事を恨めしげに睨んでいます。
「はい」
 その日もこうして夜は過ぎていきます。もちろん女性陣にもこのお風呂の作る術式を教えておきました。

○翌日
 翌日は、一人ずつの魔法適性についてアドバイスをした。その前には属性の相関図とその相反する属性を考えながら、隣り合う属性を糧に次の属性へとつなげていく方法を説明していく。
「地道ですが、それが早道です」
「よく勉強されていますが、どうしてそんなにお詳しいのですか?」パトリシアさんがめずらしく聞いてきた。
「私の属性は、圧力とか重力なのです。。そこから火や水や氷、風を使うためには工夫が必要なのです」
「苦労しているのですね」パトリシアさんの目がなにやらアンジーのそばにある汚物を見る目から少しだけ尊敬の目に変わったような気がしました。ほんの少しだけですけど。
 剣技の方は、ユーリとイオンがメインになって基本となる型から始めていた。基礎が大事であることをみんなわかってきてからは、格段に剣速があがり、正確な剣さばきになってきている。
 私は、キャロルにつきっきりになった。どうも顔が赤いし、集中していない。
『キャロルが昨日と違って少し変ですが、昨日のお風呂でのハプニングが影響していますか?』
『ああ、まあそれもあるが、しばらくおぬしではなく違う者が関わろう』
『私が変わります』メアが助け船を出してくれた。ああ、メアさんとならなんともなさそうですねえ。私、だめですか。それにしては、集中できずに私を見ています。私に気を遣ってくれているのでしょうか。
『こればっかりは仕方ないわねえ。あんたに慣れるまでは、ちょっとかかるわね』アンジーが言った。
『慣れるって、今、一緒に暮らしているのに慣れてないのですか』
『あきらめなさい』
『ああ、おじさんは嫌われますからねえ。ショボン』
 そうして私は、そこを離れる。
「どこへ行くのじゃ」
「皆さんの武器を作りに行きます」その声に、みんなが反応した。
「その前に私に教えてください」フェイが私に声を掛ける。
「私も~だめ~?」レティまでが私を呼んでいる。
「とりあえず先ほど言ったことを練習して、明日その成果を見せてもらいます。できたからとそこで満足しているようではいけませんよ。自分のパーティーだけになったときに、自分でどう工夫していくかも今回の訓練で習得しなければなりませんよ。先生はどこにもいません。自分の興味が工夫が先生なのですから」全員がショボンと戻っていく。
「おぬし、相手をしてやらんか」モーラが近付いて来てそう文句を言った。
「それは明日にします。基本は教えました。後はどう工夫するか見てから方向性を考えないと。何でもは教えません」
「だそうじゃ。聞こえているか、精進せい」
「あんたは、本当に先生向きなのねえ」
「前世でもなりたかったのかもしれませんね」
「先生ではなかったのか」
「残念ながら。後輩を教育していましたが、先生ではありませんでしたからねえ」
「そうか」
 私は、厩舎の横にある工作室に入っていく。
 そこは、工具が壁に掛けられ、かまどが設置されて、炭がかまどの横に積まれていて、ふいごや金槌が無造作に置かれている。反対側の壁の前には、剣や防具の失敗作が山と積まれている。
 かまどの前にあぐらをかき、まずはイオンの剣のイメージを頭に浮かべる。体格と腕力。特に肩から腰の動きを思い出す。ああ、やや重めにしないと他にアタッカーがいないんだった。振り疲れないが、それでいて重さもある剣。大剣よりやや短くそして軽い長剣がイメージされた。両手でも持てるし、柄に片手を添えられる形がいいだろう。
 私は、そばに置いたままだった失敗作のうち、大剣を重力制御を使って、軽く引っ張り出す。そして、かまどに火を入れて、火力を上げる。かまど自身が少しだけ赤くなる。石炭のそばにはコークスが置いてあり、それをさらにかまどに投げ込む。
 火の温度を目で確認して、大剣を無造作に突っ込む。そして、一気に火力を上げ、そこから真っ赤になった大剣を取り出し、鉄の台の上に置いて、重力制御の力を使って叩き始める。金槌で叩くような金属音はしない。ボコッボコッと平べったくなっていく。それを折り重ねてまた叩く。かまどに戻しては、また叩く。私はそれをただ見ているだけです。焼き入れの後、水に入れしばらく様子を見る。そしてまた火に入れて叩き、折り返す。後半からは、徐々に成形に入る。
 問題は、柄から横に出る部分だ。握れるほどの長さが欲しい。いつもの刀とはそこが作り方を帰る必要がある。イメージを作りながら、自分で剣の位置を変えながら剣を叩き続け、頃合いを見計らって水に入れてしばらく様子を見る。
 そこから、今度は研ぎだ。かなり大きい砥石の上で最初は荒くそして、きれいに研いでいく。金属の光沢と地紋が出始めたころでやめる。手袋をしてそれを持ってみる。イメージよりやや小ぶりだが、習作としては、できは良さそうだ。壁に作り置きしてある木の柄を細工して、剣の握り部分を押し込む。剣の十字に作った柄の部分と握りを布で縛ってみる。そして軽く振る。
「しばらくはこれで様子を見てもらいましょうか」
「おう、できたか」後ろでモーラの声がした。
「ああ、モーラ来ていたんですか」
「というか、みんな来ておるぞ」私が後ろを振り返ると、狭い出入り口には、入りきれなかった人たちの頭がのぞき込んでいる。
「練習をサボってですか」
「いや、これも勉強じゃろう。鍛冶屋の見学じゃ」
「全部自動ですよ?しかも失敗作を下地にしているので、鉄鉱石から精製する工程は省略していますし」
「いや、そんなことわしに言われてもなあ」
「ぬし様、私達ドワーフでもそんなに簡単には作れませんよ」パムはため息をつく。
「だから、前処理を省略していますってば。鉄の塊から作るときには、もっと大変ですよ」
「それにしても、相変わらず強くてしなやかな剣に仕上がっていますね。さすがあるじ様です」ユーリが近づいてきてその剣を見る。私はその剣を持って作業場から出る。
「これは習作です。重量配分とか微妙な所は、振ってもらわないとなりませんから簡単に作ってありますよ」
「でも」ユーリが、私が持ったその剣の刃先にわらを落とす。すっと2つに分かれて落ちていく。
「こ、これはまあ、最後の仕上げの工程でそうなるようにしていますから」
「この大剣は、誰が使うことを想定して作られましたか?」パムはそう言いながらイオンを見る。メアも同じようにイオンを見ていた。
「わ、私ですか?」視線が集まりイオンがびっくりしている。
「え、ええまあ、あなたのパーティーは、物理攻撃はあなただけですから、一番時間をかけなければいけませんので」私は、観念してその剣を渡す。受け取ったイオンは、両手でその剣を握る。そしてゆっくりと持ち上げ縦に振ってみる。長さの割に軽く、切り替えしも楽なようだ。そして、剣の横から伸びている長い柄を持って振り回す。
「ああそうです。イメージできます。戦いの間に腕が疲れ、それでも戦わなければならない時にこの取り回しができる。そうなのです。どうして気付かなかったのでしょう。ありきたりな長剣を持ち、それを両手で振り回していました。そうではないんですよ。ありがとうございます。この剣さえあれば」
「いや、それ習作ですよ。未完成品です」
「これ以上どう直すというのですか?」イオンは私と剣を見比べながらそう言った。
「重量配分だとか持ち手の長さとか、色々ありますよ。あと5本は作らないと」
「必要ありません。これがあれば」
「その剣は、軽くて弾性が高いですが、もろいのです。ええと、より強い力には、簡単に折れます。だからそれでは長く戦えません」
「そうなのですか?」
「パムさんかユーリお願いします」
 パムが無言でユーリを促し、ユーリが「はい」と返事をして、背中に背負っていた大剣を構える。
「イオンさんどうぞ」
「ふんっ」イオンは、その剣を華麗に振り上げ、風のようにユーリの大剣に向かって振り下ろす。
キン ユーリはその音とともに跳ね返す。
「剣を狙わず私を狙って打ち込んでください」ユーリは、すっと剣を持ち上げ、イオンを切る構えに入る。
「いやあああ」
 イオンは、野太い声でユーリを袈裟斬りにしよう剣を振る。ユーリは、その剣を受け止める。「いなす」ではなく受け止める。
ギン 鈍い音がする。そしてユーリはイオンに斬りかかる。
ギン またも鈍い音がして、イオンは受けきれず剣をはじかれる。しかし、後ろに飛んで間合いをとる。ユーリは追わず待っている。すかさずイオンは左右から交互に斬りかかる。
ギン ギンと鈍い音が響き、ギシッというもろい音とともに剣が折れて、その場に剣先が落ちた。
「そんな・・・簡単に折れた」膝から崩れ落ちるイオン。
「私は、あなたの剣を受け流さず、互いの剣の刃が当たるようにわざと剣に負担がかかるように受けていました。そしてこうなりました」
「そんなことができるのですか」イオンは顔を上げてユーリを見ながらそう尋ねる。
「あるじ様は、物を大事にする方です。私の剣に負担がかかるならそれをさせなかったでしょう。ですが、やらせたということは、私の剣の堅さに簡単に折れると確信していたからなのです。もしその剣で、そのまま魔獣と戦っていたら、数回で戦闘中に折れてしまったかもしれないのです」
「だからあんなに簡単に作ることができたのですね。でも、切れ味はすばらしかったではありませんか。どうしてそこまでするのですか」
「それはこだわりですねえ」
「こだわりですか」
「はい。剣は、とりわけ刀は、美しくなければいけないのです」
「はあ」
「ユーリ見せてあげてください」
「はい」ユーリは脇差しを抜いてみせる。短いながらも日本刀だ。
「これは、何という剣ですか」
「あるじ様の世界のニホントウと言います。きれいでしょう?」
「ああ確かに、しかし、剣にも同じようにする必要があるのですか?」
「剣というのは、強くしなやかでそれでいて折れない。まるで女性のようでしょう?だから美しくあらねばならないのですよ」
「おぬしの持論はよい。とりあえず、みんなは、こやつのように作れるようになれとはいわんが、自分で手入れができるようになれということじゃ」
「しかし、あんたよくこれだけ試行錯誤できたわねえ。これまでいろいろ忙しかったでしょうが」
「まあ、夜更かしはよくしていましたねえ」
「あんた不規則な生活しているとハゲるわよ」
 アンジーがそう言うと。ユーが思わず頭に触った。何か覚えがあるのだろうか。
 当然、日は暮れてしまい、その日も訓練は終了してしまいました。
 私はその後も一晩に2振りほど作って、それぞれの人に実際に振ってもらい、調整をしていった。私にとっては訓練よりもそっちの方が楽しい時間でしたねえ。
 翌日の夜。アンジーとモーラと私がキャロルを呼び出した。当然例の件だ。
「さて、おぬしが2種類の魔法を同時に扱えない理由を一度聞かせてくれないか」
「交互に魔法を使う練習も上手になってきたし、ここで失敗しないように話をしておこうと思ってね」
「・・・・はい」
「まあまあ、もしかしたら話さなくてもちゃんとできるようになるかもしれませんし」
「それほど簡単ではないぞ。現に練習中に何度も動けなくなっておる。このままでは無理じゃ。のう、つらい話は分かち合えば心も軽くなる、話してみよ」
「はい・・・」そうしてしばらく沈黙が続く。もちろん3人ともキャロルを急いたりしない。
 しばらくして、キャロルの重い口が開いた。
「その記憶が無いのです。物心ついたときには、できなくなっていて、その・・・たぶん無意識に両親を殺していたのだと聞かされていました」
「おぬしに記憶が無いとしたら、誰かがおぬしにそう伝えたのだな」
「はい、両親が亡くなった後、育ててくれていた叔父がそう言っていました。その叔父も顔や手にやけどを負っていました。それはその時のものだと言っていました」
「他に身よりはいなかったのか」
「はい。いませんでした。「お前は仕方なくここに置いてやる。だから勝手なことをするな」と言われていました。そして、朝から酔っ払っている叔父の世話をするようになりました。叔父は、お酒が醒めれば私を殴り、酒を飲んでは私を殴っていました。
 今から思えば、叔父は働かずにどうやって生活していたのでしょうか。どこかに行っては、お金を持ってきてくれたので、とりあえず食事はできました、機嫌のいい時には、何かを買うようにお金もくれました。そして、酔っ払うと両親を殺したおまえはひどい奴だ。だが俺は、そんなお前でも生かしてやっているのだから感謝しろと。殴られることは仕方が無い事だと、そうして、魔法は使わず静かに暮らしていましたが、やはり周囲の家との違いを感じるようになり、疑問に思っていましたが、穀潰しだった私は、魔法を使える厄介者として、小屋に閉じ込められて過ごしていました。それでも・・・」
「それでも?」
「食事と衣類だけはもらえていました」
「なるほど」
「納屋では暇だったので、魔法を使って遊んでいました。それが原因で納屋を焼いてしまって。それで、折檻されて、そう何度も何度も折檻されて、ご飯も服も与えられずについにヒメツキ様のところに置き去りにされました」
「記憶が無い事が、逆に怯えにつながっているんですねえ」
「その叔父とやらにすり込まれているのは間違いないわねえ。でもそれなら魔法自体を怖がるはずなのに、同時に使えないだけとなるとまたちょっと違うわよねえ」
「わからんが、記憶がよみがえった時に何か起きる不安もあるなあ」
「同時に両親を攻撃したのですかねえ」
「そうなのでしたら無理に覚える必要もないのではありませんか」
「そうではありません。現に一緒に旅をしたエーネも守り切れませんでした。私は守りたいのです。エーネも、あの洞窟も。私のこの手で。そのためには、自分の持てる能力のすべてを使いこなさなければなりません。どうしても複数の魔法が使えるようになりたいのです」
「気持ちはわかりました。今は、2種類の魔法をそれぞれ同時に使えるように練習しましょう」
「はい」

Appendix
そういえば、勇者達の特訓とか言っていたがどうなっておる
赤が連絡を遅らせたやつでしょう?今のところ順調に訓練しているらしいです。
まああのくらいの嫌がらせでは、対した影響にはならないわな
だったら無理にそんなことしなくても良かったのではありませんか?
まあ、その位はさせてもらわないと意識してくれんじゃろう?わしらの存在をな。
そういうものですかねえ



続く



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神の力によって異世界に転生した長倉真八(39歳)、転生した世界は彼のよく知る「異世界小説」のような世界だった。 転生した彼の身体は20歳の若者になったが、精神は何故か39歳のおっさんのままだった。 こうして元おっさんとして第2の人生を歩む事になった彼は異世界小説でよくある展開、いわゆるテンプレな出来事に巻き込まれながらも、出逢いや別れ、時には仲間とゆる~い冒険の旅に出たり 授かった能力を使いつつも普通に生きていこうとする、おっさんの物語である。 ◇ ◇ ◇ 本作は主人公が異世界で「生活」していく事がメインのお話しなので、派手な出来事は起こりません。 序盤は1話あたりの文字数が少なめですが 全体的には1話2000文字前後でサクッと読める内容を目指してます。

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
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400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

異世界転生はどん底人生の始まり~一時停止とステータス強奪で快適な人生を掴み取る!

夢・風魔
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若くして死んだ男は、異世界に転生した。恵まれた環境とは程遠い、ダンジョンの上層部に作られた居住区画で孤児として暮らしていた。 ある日、ダンジョンモンスターが暴走するスタンピードが発生し、彼──リヴァは死の縁に立たされていた。 そこで前世の記憶を思い出し、同時に転生特典のスキルに目覚める。 視界に映る者全ての動きを停止させる『一時停止』。任意のステータスを一日に1だけ奪い取れる『ステータス強奪』。 二つのスキルを駆使し、リヴァは地上での暮らしを夢見て今日もダンジョンへと潜る。 *カクヨムでも先行更新しております。

俺だけに効くエリクサー。飲んで戦って気が付けば異世界最強に⁉

まるせい
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異世界に召喚された熱海 湊(あたみ みなと)が得たのは(自分だけにしか効果のない)エリクサーを作り出す能力だった。『外れ異世界人』認定された湊は神殿から追放されてしまう。 貰った手切れ金を元手に装備を整え、湊はこの世界で生きることを決意する。

ボッチになった僕がうっかり寄り道してダンジョンに入った結果

安佐ゆう
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第一の人生で心残りがあった者は、異世界に転生して未練を解消する。 そこは「第二の人生」と呼ばれる世界。 煩わしい人間関係から遠ざかり、のんびり過ごしたいと願う少年コイル。 学校を卒業したのち、とりあえず幼馴染たちとパーティーを組んで冒険者になる。だが、コイルのもつギフトが原因で、幼馴染たちのパーティーから追い出されてしまう。 ボッチになったコイルだったが、これ幸いと本来の目的「のんびり自給自足」を果たすため、町を出るのだった。 ロバのポックルとのんびり二人旅。ゴールと決めた森の傍まで来て、何気なくフラっとダンジョンに立ち寄った。そこでコイルを待つ運命は…… 基本的には、ほのぼのです。 設定を間違えなければ、毎日12時、18時、22時に更新の予定です。

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