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第26話 メアの事情

第26-2話 出発

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○朝食の時間
「いただきます」
 アンジーのお祈りの後、満面の笑みを浮かべているレイとユーリ。やっぱりあなた達が食事を作ったのですね。ですが、作ってもらってうれしそうなはずのメアさんが苦笑いをしています。
「ああ、台所がすごいことになってなあ。あとでおぬしが片付けろよ。言い出しっぺ」モーラが食事をしながら私に言った。
「そうでしたか。この子達の成長度合いが知りたくてお願いしましたが、まだ片付けまでは、できませんでしたか」
「ああ、まだ無理のようだな」
 そうして、食事の内容は問題なかったのですが、片付けに台所に行くとそれはもう大惨事になっていました。
「食事のレパートリーの割に洗い物が多いのはなぜですかねえ」私は一緒に連れてきたユーリとレイを見ながらいいました。
「あははは」とレイとユーリの2人は笑ってごまかします。
「まあ、修行中という事にします。料理は片付けまでが料理ですからね」私は腕まくりをしてそう言った。
「はい」2人とも良いお返事ですね。
 そうして片付けを終えた頃。全員の準備が終わりました。外には、昨日突貫工事で作った大きい荷馬車に連結器をつけて、小さい荷馬車を後ろに追加してあります。
「さて、出発しましょうか」
 ユーリがクウに乗り、他の3頭が馬車を引く。先頭の馬は、ア、両サイドをウンとカイとしています。
「では、出発~」エルフィが御者台で声を上げ、馬は走り出す。
「少し揺れておらんか?」
「しばらくは我慢してください。道の状況と揺れから適切なセッティングを模索します。2~3日もあれば快適になりますよ」
「これまで静かに走っていたのは、おぬしの調整のたまものとはなあ。やはりすごいのう、おぬしは。ただし」
「「「「「「「日常生活特化型だがなあ」」」」」」」
「ああ、みんな気持ちが揃ってますねえ。ってそんなことで揃えないでください」
 みんなで笑いながら旅は始まりました。

 以前なら3週間近くかかったはずのビギナギルまで、1週間かからずに到着しました。
 もちろん途中で4頭立ての馬車にもしました。
「あっという間じゃなあ」
「そうねえ、確かに魔獣にも猛獣にも会わないってこんなに楽なのねえ」
「馬のスピードも段違いですよ。荷馬車もスイスイでしたしねえ」
 そうして、ビギナギルの街に近づくとこちらも大規模な城壁工事を行っていました。道はかなり迂回しています。
「こちらも随分儲かっているのですねえ」
「おぬしの頭の中にある戦争特需というやつじゃなあ」
「久しぶりにベッドで寝られるのかしら」
「簡易ベッドは硬かったですか」
「そうではないわよ。ちょっと狭かっただけよ。しかし、折りたたみ式のベッドとか、あんた本当に生活便利グッズの塊ねえ」
 そう言いながらも星空が綺麗な時には、みんなで並んで寝たりもしています。もっとも私の腕枕はメアさんの指定席に今回はなっていますけど。
「ぬし様、街の入り口に人がたくさんいます。何かあったのでしょうか。」御者台にいたパムが、馬車の速度を落としながら言った。私は御者台に行き、モーラとアンジーも御者台に、他の人も幌から顔を出してその様子を見ました。

○ビギナギル再び
私は、特に危険はないと判断して
「大丈夫そうですのでそのまま進んでください」と言いました。
城壁工事の中に入ると、本当に人が一杯立っていてこちらの方を見ています。なにがあったのかと思ったら、私達が入ってくるのを見てみんなで拍手しています。中央には、領主のオズワルドさんと商人のレイモンドさん、傭兵団長のマッケインさんが並んで立っています。
 私達があっけにとられていると、馬車のそばに皆さんが集まってきて、降りてくるように言われます。私は、おどおどと領主さん達の前に降り立ちます。すると領主さんが私と握手して同時に拍手が沸き起こります。
「お久しぶりです。元気でしたか」全員が促されみんなの前に並ばされてそれぞれが、握手を求められています。御者台にはパムとレイが寂しそうに座っていましたが、それぞれ手を差し伸べる人がいて、御者台から降ろされて、こちらも握手を求められ、温かい歓迎を受けています。もちろん二人は困惑して苦笑いしている状態ですけど。
 街の皆さんも落ち着き、私達は、馬車を停車場に預け、馬たちは、領主さんの厩舎へとエルフィ同伴で連れて行かれました。
 それを待って領主様のお屋敷に・・・お屋敷がでかくなっていますよ。ええ、一回りほど大きくなっていました。
 全員揃ったところで、客間に案内されました。豪華な椅子があります。ちょっと旅装で座るのはもったいない感じで座れないでいると。領主さんは、察したのか
「気にしないで座ってください。あなたがこの魔法のコーティングをしたのでしょう?ですから汚れませんよ」
「そうですか・・って私が魔法を?」
「え?知らないんですか?私がファーンを訪れた時に、この椅子に座って絶賛したら、ファーンの町長さんからいただきましたよ。あなたのお手製で汚れが付かずに、付いてもすぐおちる不思議な椅子だと。おかげで重宝していますよ」
 よく見ると、この凝った椅子の装飾は確かにエルフィが施したものだ。あの時町長には、
「人の出入りが多くてなあ汚れの落ちやすいものにしてくれぬか、それと部屋が大きくなるので二回りくらい大きいのにしてくれるとうれしいなあ」とかぬかしていましたねえ。そうですか、そう言うことですか。「特別室」ってそう言うことでしたか。帰ったら・・・まあ、いいです。町長の役に立ったのなら。
「そうでしたかお役に立っているようで何よりです」
「いや、たくさん作って是非こちらで販売させていただきたいくらいです」
「いや、申し訳ありません。ハンドメイドなので大量に作れません」
「この生地の作り方だけでも教えてもらえませんか」
「企業秘密です」
「年に何反かだけでも作れませんか」
「持ち帰って検討します」
「良い返事を期待しています」
 だから嫌なのですよ。他の人に譲るなら、そう言ってもらわないと。町長への感謝の気持ちだったのに。とほほ。
「あの~。今回のこのお出迎えなのですが・・・」
「街の人があなた達が来るのを知ってしまいましてねえ。是非ともご挨拶したいと言い出しまして。貴方たちはそういうのを嫌っているのは、知っていましたから諫めたのですが、どうしてもと。」商人さんが頭をかいている。
「ここには、少しの間だけお世話になっていましたが、あまり貢献した覚えはありませんが。」
「なにをおっしゃいます。あの魔獣の襲撃の際、一番に活躍されていたではありませんか。」
別な椅子に座っていたマッケインさんが言いました。
「あれは、エリスさんが・・・」
「ですが、そこまで食い止めていただいたのは、ユーリ・・さんとメアさんエルフィさんの活躍があったおかげです」
「団長さん、私に敬称は必要ありません、私の恩師に敬称をつけられては私が困ります」とユーリが言った。
「ああ、すまんユーリ、まったくその辺は変わっていないな」
「それに、今回の城壁工事をご覧になりましたでしょう」と今度はオズワルドさんが話し出す。
「はい、これはあの戦争のせいですよね。困ったものです」
「ですが、以前から検討はしていたのですが、資金を調達できずにいましたが、ファーンやベリアルとの交易が莫大な利益を生み、物流、人流どちらも活発になったおかげで、ようやく作ることが出来ました」
「それはおめでとうございます。この街一丸となって頑張ったからですね」
「あなたは本当に・・・あなたのおかげでここまでになったのですよ。こちらからは感謝しかないのです」
「はあ、そうなんですか。実感がまったくありません」
「あなたがここから旅立たれた時、一時ハイランディスとの間がギクシャクしましたが、ロスティアの王女とお会いになられて、ハイランディスもこちらの心配をしていられなくなりました。その後、ファーンに戻られて、ファーンとの道路に魔獣が出なくなり、加えてあの町と隣のベリアルが生産性を向上させて、こちらにどんどん物資が運ばれるようになって物流が安定して、私達の街は潤ったのです。聞くところによると、あなたが生産性を指導されたとか」
「いいえ、アドバイスしただけです。彼らが努力したおかげであって、私はその後なにもしていませんよ」
「いいえ、あちらに話を聞くたびにあなたの名前が出てきます。それだけ感謝されるようなアドバイスをしているのですね」とは領主様です。
「なんか、褒め殺されている気分になってきました」
「それからアンジーさん、いえアンジー様」今度はまた商人さんです。
「あの~、子どもに何を言おうというのですか」アンジーも少し引きながら身構えています。
「あなたの教えを守って彼らは孤児院を作りその横に小さな教会を作りました」
「あいつら~。やらかしてくれたわね」おっとアンジー地が出ていますよ。
「その中のひとりが教会の師となって、人を殺さない、人を許すという教義のもとに活躍しています。おかげで、街の人々の心が安定しております。あの時私が殺すと言った盗賊達が今や、人の手助けをして生きているのです。これは、あなたがこの街に残してくれた財産です」
「言いたいことはいろいろありますけど、あとで行ってみますね」額に血管が浮き出ているように見えるのも演技のうちですか。
「モーラ様、その加護をありがとうございます。この地にいらっしゃった時にこの街の大人達相手に子どもの戯れ言といいつつ考え方を示唆していただきありがとうございました」
領主は深々と頭を下げる。
「なにを言っているのか~よくわかりません」
「いえ、噂通りならあなたは土のドラゴンであらせられると。後から街の者達との会話の中で、あなたの言葉が語られるのです。そういえばあの子から聞いたことを素直に従っていれば、そのように事は運ぶと、いなくなった当時は、皆、指南を求めて私に相談に来たものです」
「それは、たまたま子どもの戯れ言があたっただけです」
「お隠しにならなくてももうよろしゅうございます。先の壺の件、そして黒い霧の事件、他国の天使帰還事件、全てにあなた様のご加護があったことは、承知しております」
「なるほどのう、搦め手か。おぬしが話したわけではあるまいな」そう言って、団長をにらむモーラ。
「私は何も申し上げておりません」
「おまえ、知っていたのか。あれだけ何度も繰り返し尋ねたのに」
 商人さん結構怒っています。
「宝石の件にて同行した折に。もちろん口止めされておりましたもので口外できませんでした」
「許してやってくれ、わしから脅されて話せる者などおらん。なあお二人さん」
 久しぶりに見ましたモーラのオーラです。さすがに二人とも怯えています。
 ハンカチを出して汗を拭く領主さんと商人さん。
「他言無用じゃ。たとえ死んでもな」二人とも声もなく頷くだけです。
「さて、賛辞はこのへんで聞き飽きた。それだけの用件なら宿に戻るぞ」モーラさんいたくご立腹ですね。
「いえ、ここに暮らしていた皆さんには全員に感謝の言葉を申し上げたくてこちらに起こしいただきました。まず、ユーリさん。あなたには、傭兵の斡旋、剣技の伝授など、兵士の能力の底上げにご尽力いただき、メア様には、挨拶、マナーなどの礼儀をお教えいただき、エルフィさんには、傭兵や冒険者の手伝い、共同クエストの橋渡しにご協力いただきまして、それぞれ、本当にこの街の文化の高進や防衛力の増強に貢献いただいています。そして、ここに住んでいなかったお二方」
「パム様には、薬屋の魔法使いの所に来られた際に、この街に入っていた間者を間引くことに協力をいただき、さらには、間者を育成してもらいました。レイ様には、獣人との交流に力をお貸しいただいております」
「ほう、レイも協力していたのか」
「え~わかりません」
「そんな、獣人の人たちをこちらに向かわせてくれたのはあなたではないのですか。おかげで冒険者登録のない方でも協力して魔獣討伐とかしてくれています」
「あ~、そういえば、モーラの縄張りに入って悪さをした人達のうち数人には相談されたので、改心するなら隣の町に行きなさいと言ったことはありました。それのことですか?」
「ファーンの町外れの魔法使いの所の獣人から言われてきたと言っていましたけど・・・そのくらいあの獣人達は感謝していたと言うことです」
「まあ、わしの領地追放じゃからなあ。そやつらは改心して頑張っておるか?」
「はい、頑張りすぎて休ませるのに一苦労です」
「レイや、あとで顔を出して話してこい。だまされやすそうな奴ららしいからな。モーラが許可したから何か相談があったら顔を出せと」
「ラジャー」
「ひととおり終わりましたね。では・・・」
「お待ちください。最後に一つ質問と最後にお願いが」
「答えられる質問で、私達が明日立つ前にできるお願いであれば」
「はい、質問は、貴方たちは噂のマジシャンズセブンなのですか?」
「今更それを聞きますか。先ほどネタばらしをしているのに?」
「所詮は噂です。確証はありません」
「ではお答えします。マジシャンズセブンという人達は知りません。誰かが勝手に噂しているだけです。ここにいるのは、私とその家族、決してそんな変な名前の集まりではありません。これでいいですか?」
「ありがとうございます。これで周囲から聞かれても違うと答えられます」
「ああそう言うことでしたか。そうです。私達は家族です。そうですね皆さん」全員が頷く。
「さて、お願いの方は何ですか?」
「お願いは、一つと言えばひとつなのですが・・・言いにくいのですが」
「良いからはよういわんか」モーラがイライラしている。
「今日の夜の宴会に参加して欲しいのです。そして・・・」
「あーそういうことなのね」アンジーが察した。さすが賢者。
「はい・・・お客様にお願いするにはちょっと・・・」
「おぬし、わからぬか」モーラも気付いたようだ。そして片手でお盆を持つ真似をする。
「あ!また着るんですか?」
「そうなんです。ファーンの町へのツアーの後、けっこう催促されまして、こちらに来られると昨日聞いたばかりなのに、こうして嘆願書がすぐ届きまして」テーブルにドンと分厚い紙が置かれています。紙がもったいない。
「昨日一日でこれだけ・・・どれだけノリが・・・もとい団結力があるんですか」
「と言うことなので、ですね、できればお願いをしたいと」
「皆さんどうしますか?」皆さんあっちを向いています。
「しようがないわねえ、その交渉術のうまさに免じてやってあげるわよ。みんな良いかしら」
「アンジーさんいいのですか?」
「もうね、こんな事をするようなバカな人間だと思わせておいた方が良いのよ。たぶんね」
「ああそうか。マジシャンズセブンがこんなバカな事をする訳がないはずだ。そんな事をしていたらイメージががた落ちじゃ。だからそんな事する奴らは違うと宣伝することにしようということか。な?」自分に言い聞かせるようにモーラがみんなを見る。
「私は~別に気にしませんよ~前も楽しかったし~」
「僕も割と気に入っていました」
「まあ、仕方ありませんね。こちらの街には色々とお世話になっていましたから。」とメア
「また着せるとか言っていましたけど、どういうことするのでしょうか」
「いいえ、ただ座ってみんなと飲んでいただければそれで良いのです」
「でも、衣装を持ってきていませんよ」
「来ることがわかってから夜なべをして仕立屋が作りました。型紙はすでにありましたので」
「型紙があったのですか」
「はい、ファーンの収穫祭の時にあちらの仕立屋の方に交渉してお譲りいただいておりました」
「え?それってなぜですか?」
「以前こちらの収穫祭で着られたメイド服は、焼けてしまったと聞きまして、それなら、こちらの収穫祭に参加いただく時には、現在の体型に合わせて、同じ物を作って記念に差し上げようかと思っておりました」
「個人情報保護というものは、この世界にありませんねえ」
「なんでしょうかそれは」
「いいえ何でもありません。ということは、その時のデザインのメイド服を作られたと言うことですね」
「はい、キャロルの衣装もありましたし、収穫祭の時にあの店に行ったことのある人達のイメージを総合しましたので、ほぼ同じ物になっていると思います」
「その情熱を他に活かせたのではありませんか」
「そういうのが好きな人達もおりますので」領主さんが笑いながらそう言った。
「まあよいではないか。あの時の衣装が焼けた時、家族全員かなりへこんでおったであろう。よかったではないか」
「そう思うことにします。では、皆さんどうしますか。着ても良いですか?」全員がうなずいている。
「私のは、どうなっていますか?あとパムさんとレイの分は」ユーリは、男装しなければならないのか聞いてみたようだ。
「申し訳ないのですが、女性票が多数を占めて男装になっております」商人さんがすまなさそうに言った。
「ああ、やっぱりですか」ガクリと肩を落とすユーリ
「もちろんメイド服の方も用意してあります。そちらがよろしければ」
「けっこうです。よく考えたら、この街には傭兵団の皆さんとか知り合いが多すぎて、メイド服を着ると冷やかされそうです」ユーリは冷静になってそう言った。
「パムさんもレイさんもよろしいのでしょうか」商人さんが再確認をする。
「私は、給仕の方がよろしいと思っています」
「僕は、着たくないです。ごめんなさい」
「仕方ありません。獣化した時用のも作ってみたのですが」
「獣化した時のですか?」なぜかレイの表情が明るくなってそう言った。
「はい、着てみますか?ああ、ひとりでは着られないと思いますので、どなたかに手伝ってもらって」
 そう言って、全員の分のメイド服をいただいた。
「では、夜になったら着替えて居酒屋さんに行きますね」
「実は、移転しまして、かなり大きなホールになっています」
「そうですか。先に案内してもらってそこから宿に帰りますね」
「ありがとうございます」
 領主様の部屋を出ると、キャロルとエーネがそこにいました。
「久しぶりですね、キャロル、エーネ」
「お久しぶりです」二人は頭を下げる。
「今回は、急いでいますので明日出立します」
「私達は、一緒に行ってはいけませんか?」
「領主様との約束もあるのでしょう?残念ですが一緒に連れて行くことはできません。その話は改めて夜にでも話しましょう」
「「はい」」キャロルとエーネはガックリと肩を落として、メイド長の方に戻っていく。
 そうして、屋敷の中を歩くだけでもかなりの距離のある大邸宅から出て、アンジーはメアと一緒に孤児院に向かい、小腹の空いているレイ、エルフィ、ユーリは露天商街を目指し、私とモーラ、パムは薬屋に向かう。さすがにここは移転させないみたいだ。
「こんにちは」そう言って扉を開けては行っていく。
「いらっしゃい、何のご用ですか」そう言って奥のカウンターの裏の方から女の子が顔を出す。豪炎の魔法使いがそこにはいた。
「お久しぶりです。私です。パムです」パムがそう言って手を上げる。
「ああっパムさん。寄ってくれたんですね。ああっそれから魔法使いさんとモーラ様も一緒ですか。お久しぶりです。ええと、ファーンの収穫祭の時以来ですね」
「あれから元気にしていましたか」
「皆様の方こそ色々とありましたよね。大変でしたねえ、本当に色々と」なぜか感慨深げに魔女さんが言った。
「おぬしどこまで知っておるのじゃ」
「そうですねえ、氷のドラゴンさんの件から、元魔王さん一家の自殺、ロスティアの派兵、天使の帰還、皆さんの家が破壊されたところまでですねえ」
「なんじゃほとんど知っておるのか」
「魔法使いの里に情報が入ると街の魔法使いには、たいがい連絡入りますから」
「特に3千人を相手にしている時は私も見に行ったのです」嬉しそうにそう言った。
「え?見に来ていたんですか?」私はちょっと引き気味に言いました。
「ええその通りです。とっても素敵・・いや格好良かったですよ。エリス様にはかないませんけど」
「すまんが、教えて欲しいことがあるのじゃ」モーラはそこでこちらの用件を切り出す。
「ああすいません。つい興奮してしまって。なんでしょうか。教えられることであれば何でも。もちろん対価が必要になりますが」急に真面目な顔になって豪炎の魔法使いさんが言いました。
「メアの以前仕えていた魔法使いを知りませんか。男性の方なのですが」
「残念ながら私はお会いしたことはありません。ああ、男性の魔法使いと言えば、雪山を目指した魔法使いがいると言うのを聞いたことがあります。その方かどうかはわかりませんが。ああ、噂話ですので対価は必要ありませんよ」
「そうですか、それでもこれを」私は薬草を一束渡した。
「ナンバリングなしの薬草ですか」
「気をつけて使ってくださいね」
「ありがとうございます。助かりました。実はこの薬草が意外に高騰しているのです」
「はあ?」
「今回の戦争でけが人を直した際に今まで知らなかった魔法使いも知ってしまって、私のような田舎の魔法使いにまで昔の恩を返せとばかりに、無理を言ってくる人が増えまして、自分の分が取られてしまったのです」ションボリして豪炎の魔法使いさんは言った。
「なるほどそうでしたか。でも保存期間が短かったと思いますが」
「そうなのですよ。でも、実際の薬草を持っている人からは、もっと優秀なのがあると聞かされて、強奪されました」
「魔法使いも大変ですね」
「仕方がないのですが、それで今夜の宴会は、出席されるのでしょうか?」
「え、ええ」
「よかった。私も今夜の宴会は出席します。ユーリさんの姿も拝見したいので」
「そうでしたか。では今夜また」
 そうして薬屋を出る。
「さすがに若い魔法使いでは知らんか」
「そうでしたねえ」

 露天の出店でみんなと合流して一度宿屋に戻る。
「あいつら~。私の名前を出すなと言っているのに」アンジーさんがご立腹です。
「彼らの言い訳が「私達はアンジー様から救われ、そしてここにおります。アンジー教などと名乗っておりません」と言っていましたから。確かに仕方がないと思います」一緒に行ったメアがそう言った。

 そうして、宴会に例のメイド服を着て仮装行列のように到着し、まあ、飲んでばかりはいられませんので給仕を手伝い、宴会はお客が3交代もするくらい入れ替わって、深夜まで続いたが何とか終了しました。
 宿屋も大きくなっていたので入浴可能な水風呂が設置されていて、お湯にも出来るようになっています。石造りの浴場で、浴槽は半身浴程度の高さになっていて、木桶と木を輪切りにした椅子が何個か置いてあります。当然男女混浴ではありませんのでひとりで入っています。
 ちょろちょろと水が出ていて、この水をためているのでしょう。私は浴槽にたまっている水をお湯に替えます。
「旅の途中でも入りましたが、やはりお風呂は良いですねえ」
 半身浴のお湯の高さとはいえ、寝そべると全身がお湯につかるので、体が暖まります。人が少ないとこんなことが出来て良いですねえ。
「そっちはひとりなのかしら」アンジーが私の声を聞きつけて私に声をかける。
「ええ、広々していますねえ。でも半身浴でも寝そべれば全身つかれますよ」
女性の方もここと同じ大きさなら3人は寝そべっていられそうです。
「とう!!」そう言って、男湯と女湯の間の壁を飛び越えてきた3つの影。タオルを腰に巻いているとはいえ、上半身裸はいけませんよ。まあ、1人は獣化しているので恥ずかしくないのでしょうけど。
「やっぱりこっちの方がちょっとだけ大きいわ」アンジーが浴槽に寝そべっている私の隣に滑り込む。
「確かにな、あっちじゃ3人がやっとだからのう。」そう言ってモーラが私の反対側に滑り込む。レイは、そのまま私の足下に入った。小さくなっているとそれも可能ですねえ。
「ユーリとメアとパムとエルフィでは、あちら側は大変そうですねえ」
特にばいんばいんな2人がいるので、寝そべってもはみ出そうですけどね。
「ああ、4人が互い違いに並んで寝そべっているが、話がしづらそうじゃ」
「でしょうねえ」あなたたちは、わざと弾かれてこちらに来ましたね。確かにこちらにメアとパムとかエルフィがきてしまうといろいろやばいですねえ。男の人が入ってきたりしたら騒動になりそうです。
「まあ、あの宴会。悪い気はしないが、やり過ぎじゃなあ」モーラがお湯に体を沈めてそう言った。
「確かにそうですねえ。悪意がない分だけこちらとしても断りづらいですし」
「でも、久しぶりに色々な人に会えてうれしかったわねえ」
「そういえば、以前モーラが彼女は英雄ではないかと言っていましたね。」
「・・・そうじゃな」
「そんな話をしていたの?」
「ええ、今回彼女を見て、モーラの言ったことが信憑性を帯びてきた気がします。」
「わしとて不本意だがそう感じているわ。しかし、前にも言ったとおり、資質があるからといって英雄になる必要はないのだから」
「はい、私としてもそうあってほしいと思います。これで彼女の本意ではなく、英雄にされてしまったら、彼女の望む幸せは永遠に手に入らなくなってしまいます。」
 そして、その夜はゆっくりと睡眠を取り、翌朝日の出る頃に出発した。門にはすでに領主様と他数名が待ち構えていた。
「昨日の宴会は、ありがとうございました」私はゆっくりとお辞儀をする。
「こちらこそ無理なお願いばかりをいつもしております。今度の旅は長いのですか」
「わかりません。なるべく早く戻りたいと思っております」
「お帰りの際にはぜひまたお立ち寄りください」
「その時はまたお世話になります」
「お気をつけて」
 私達は、馬車に乗り込み手を振ってその街を離れた。
 そうして馬車は、ハイランディスを目指します。

Appendix
クウがユーリと戻って来た時の話
ただいまかえりました
おう久しぶりやなあ。元気にしてたか
はい・・・ってこいつ誰ですか?
初めまして新入りです
ああ、このパターン久しぶりや。どっから来たん?
はあ、リクはんからここ紹介されまして
なるほどな。で、アさんこいつどんな感じですか
おう、すごいやっちゃ。ようけ走るし、速い。こいつは掘り出し物や
そうですか。すごいやっちゃなあ
これはだんなさんが乗るにはピッタリや
褒めてもらって何ですけど、まだまだお二人にはかないません。これからよろしゅうたのんます。
みんなで走るのが前提やからうまくあわせてくれや
はい


続く
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