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第20話 魔族の子

第20-10話 DT美人さんに会う

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○もうじき解決か?
『周辺から魔族が消えたぞ。どういうことじゃ』モーラから脳内通信が入りました。あれ?使わない約束だったのでは?ああ、聞いている人がいないからですか?
『あの獣人さんが到着しまして、最終シナリオへと向かう事になったからですねえ』
『そうか。それなら使者を呼びに行く必要があるな。そちらに合流しようか』
『この後、魔法使いの里とドラゴンの里から使者が来ることが知れ渡っているのでしょうね』誰が教えたかは知りませんが、情報が早いですねえ。
『なるほどな。証人がいるところで襲ったらばれるか。どれ、ドラゴンの里に連絡を取るか』
『お願いしますね』
「モーラ様~連絡を取る必要はなさそうですよ~」エルフィが外から戻ってきた。一緒に2人ほどついてきています。
『ああ、2人揃ってお出ましか』
「こんにちは」と家に来たのはミカさんです。相変わらず軽いノリですねえ。
「来たわよ」一緒にエリスさんも来ました。
「早かったですね。彼が来たのは数分前ですが、それぞれの里にはもうお話しが?」
「そうよ。どちらも早く終わらせたいようね」エリスさんがあきれて言いました。
「そうみたいです。連絡が取れ次第急いで行けと」ミカさんも面倒くさそうに言いました。
「それであなた達がお越しになったと」
「代わりの者をお願いしたけど、最後までやってこいと言われたわ。まあ、あなたに関わるとろくな事にならないと里も学習してしまったから、しょうがないことだわねえ」エリスさんが私を見ながら嫌そうに言いました。
「わたしですか?」
「あと辺境の賢者のせいですね」ミカさんが同意している。
「わしのせいじゃと」後ろにモーラが現れる。
「あ、まずい」
「ミカ。なぜヒメツキがこんのだ」子ども姿のモーラは久しぶりです。しかも怒っているので、腹黒さが全面に出ていてせっかくの可愛い顔が台無しです。
「それが、本当に別件に追われていまして」ミカさんは視線を合わせないように上を向いて頭をかいています。
「風の奴は、・・・まあつかまらんか」
「あの方は、こういう時にはどこにいるかつかめません」
「ミカとエリスじゃあ、証人としても信憑性がないのじゃがなあ」モーラは2人を見ながらガッカリしてそう言った。
「そうですね。身内で嘘をついていると言われかねないのですよ」私も同意してしまいます。
「他の種族の族長ではどうですか?」ミカさんがそう提案しました。
「これまで関わってきた族長はほとんどが利害関係者じゃからなあ」
「エルフ族は、感謝してないと思いますから大丈夫じゃないかしら」アンジーがそう言った。
「孤狼族は感謝されているから無理じゃろうが、エルフ族はいけるかもしれんな」
「私達に敵対しているくらいの族長の参加が必要ですよねえ」
「ドワーフ族はどうなんじゃ。まあ、あれだけのことをしでかしておいて今更じゃが、敵対しているとは言えよう」
「突飛な考えですいませんが、聞いてもらえますか」パムがめずらしく口を開く。
「なんじゃ改まって」
「それだけ他種族と関係を持っているのであれば、族長会議を招集してはどうですか」パムがそう言った。
「ふむ、大胆な発想じゃな」モーラが顎に手を当てて考え込んでいます。
「いかがでしょうか」言いながらもパムも多少は不安があるようです。
「集めてからはシナリオ通りか」モーラは顔を上げてパムを見る。
「はい。悲観して一家焼身心中というシナリオに持ち込めるかと思います」パムが言いました。
「全種族が集まっていないから、まあ会議といっても小規模になるでしょうけどね。会議の主催はドラゴンの里でするのよねえ?」アンジーがそうモーラに尋ねる。
「そうなるかな」
「私から提案があります。ドラゴンの里にモーラが、「ここに元魔王一家がこれ以上いることは、迷惑じゃ。なんとかしてくれ」と族長会議の依頼をして、開催地をここにする。ここで開催する理由は、元魔王一家を他の地に移送するのは襲撃が恐いから。そして極めつけは」パムがそこで言葉を切る。
「ほう極めつけは、なんじゃ」
「若い族長候補を全権委任代理人として立てること。なぜなら、長老達が死んでからも元魔王達は生きている可能性があるからです。約束を憶えていてもらおうと。どうせじじい共は出てきませんから」パムは忌々しそうに言った。
「でも、さすがにエルフ族やドラゴンは出てこないのでは」
「決まったことは、持ち帰って一族の会議に掛けて可否を決めるとすれば、納得もしましょう」パムが言った。
「第1回代理人交渉というところか」
「出てくるのは、たぶん。ドラゴンは・・・」
「持ち帰るとなるなら、わしがそのまま議長をやらされるな。誰も出てこないじゃろう」
「でしょうねえ」私もそう思いますよ。
「エルフ族はどうなの?」アンジーがエルフィを見て言った。
「そうですね~、うちのいとこですかね~実際は腹違いの兄らしいのですけど~」エルフィの言葉から「あいつ嫌い~」なオーラを感じました。
「面倒くさそうなやつじゃな」モーラも感じ取ったようです。
「そのほうが良いのでしょう?」アンジーはむしろ乗り気だ。
「まあそうじゃが、あってそうそうケンカとか始めるなよ」モーラがエルフィを見て言った。
「あ~ありそう~」エルフィが笑って言った。
「獣人族はどうなんでしょうねえ」私はレイを見た。
「たぶん、孤狼族が代表になると思いますが、そうなれば出てくるのは兄ですね」とレイ
「あああの族長の孫な。例の暴れ狼の」モーラが思い出して言った。
「はい、もしかしたら今回の件だとこちら側になっちゃうかもしれません。でも、孤狼族は出てこないかもしれませんよ。一応里の掟がありますから」レイは別に誰が来ても良いや的な反応です。
「ドワーフ族は、誰が来るかわかるか?」モーラは言い出しっぺのパムに尋ねる。
「たぶん族長の息子だと思われます。私の祖父に対する族長の行動に対してあまり良い感情は持っていませんでしたが、それを前面には出してこないと思いますので、中立の立場で望んでくれると思います」パムは感情を出さないよう、努めて冷静に答えています。さすがですね。
「あとは、ホビットとドリュアデスくらいじゃな?」モーラがそう言った。
「どちらも会議には参加していても姿は見えないのですが、まあ連絡は森に行けば可能だと思いますよ」ミカさんがそう言いました。もしかして族長会議に出た事があるのでしょうか。
「ドリュアデスって何ですか?」私は知らない言葉を聞いたので尋ねました。
「おや、あなたは知らなかったのね。草木のドラゴンの縄張りに住む木の妖精ね。そういえば、あのエルフの森の騒動の時は騒がなかったけど、どうしてたのかしらね」アンジーがそう言いながら首をかしげている。
「ふむそれは気になるな。まあよい、ダメで元々じゃ掛け合ってみるかのう。だめならこの2人で強硬じゃ」
「一度私は戻ります」ミカさんがそう言った。
「私もよ、魔法使いの里からは、たぶんナンバー2が出てくると思うのよ。であれば、早めに連絡を取りたいの。ドラゴンの里も動けば私たちも当然動くはずだわ。つまりはそういうことよ」エリスさんもそう言った。
「お互い牽制し合っておるのか?」
「お互いに貸している借金や借りている借金が山になっているのよ、精算のあてもなくね」エリスさんが乾いた笑いをしながらそう言った。
「確かにそうじゃのう」
 そうこうしているうちに例の獣人が帰ってきた。
「話はまとまったが、立会人はいつ来るんだい?」
「来ているんだけど、どうも頼りなくてねえ、次の人選をしている所よ」アンジーがそう言った。
「そうか。いつ頃になるのかなあ。あの子がだいぶまいっていたんだよ。それがかわいそうで」獣人さんも心配そうだ。
「だいぶ疲弊しているのか」モーラが真剣な顔で聞いている。
「両親と一緒なのは良かったんだが、外に出られないのが子どもにはつらいのだと思う。全く元気がないんだよ。両親でもどうしようもないらしい」獣人さんが頭をかいている。
「子どもは外に出て遊ぶものじゃからなあ。それでも今なら出られるぞ。まあ遊び相手がいないか」モーラが私達を見ながら言った。ユーリはソワソワしているが、パムとエルフィとレイが何か相談している。パムがこちらに来た。
「ぬし様提案があります。私たちを使者として各部族へ行かせてください」後ろにいるエルフィとレイも頷いています。
「皆さんの気持ちは大変ありがたいのですが、この件については、そんなに力を入れているわけではないのですよ」
せっかくのパム達の提案ですがそこまでの事とは思っていないのです。
「そうじゃ。実際、族長達に呼びかけをするのはドラゴンの里でやってくれるはずじゃ。無理をしなくてもよいのではないか」
「いえ、3人で話したのですが、私たちの家族が静かに暮らすためには必要なことだと思っています」パムの発言に後の2人も頷いている。
「確かに静かに暮らすためには、私たちは関与していないと認める者が必要です。だからといってあなた達が行く必要はありませんよ」
「ですが、私たちが動けばより一層代表を出させることが可能になります」
「そうでしょうか?」
「ええ、たとえ脅迫になろうとも」
「お主らの気持ちはわかるがのう。その獣人の話しを聞いたであろう、あの子が体調不良らしいのじゃ、急いだ方が良さそうなのじゃ」
「そうですか。モーラ様にお願いしてでも里に行きたいと思いましたが残念です」
「あなた達のその気持ちだけで私達は幸せですよ。ありがとうございます」私はそう3人に告げて、立っている3人をまとめて抱きしめる。
「うむ。ではレイ、ユーリ、すまぬが元魔王のところへ、わしの使いとして行ってきてくれぬか。何か遊ぶ物を持っていってくれ。そしてしばらくの間、あの子の遊び相手になってやってくれ。ただし外には出るなよ。何が襲ってくるかわからんからな」モーラは最後だけちょっとオーラを出した。いや怯えさせてどうしますか。
「はい」そう言ってレイとユーリは出て行った。背負った鞄に遊び道具を抱えて。
「さて私も戻るわ、役に立たなくなったと報告しにね」エリスさんが扉に向かう。
「私もそうします。そして会議の開催を伝えてきます」ミカさんも席を立った。
「ミカ、ドラゴンが各種族を回って連れてくるように手配してくれんか。それも一刻も早くじゃ。元魔王の子どもの心が濁ったなら、また何か起きるかもしれんからな」モーラが真剣な顔で言った。
「わかりました。明日とは言えませんが、明後日には開催日時を決めます」そうして、ミカとエリスさんは出て行きました。
「俺はどうしたらいい?」獣人さんは所在なげです。
「しばらくここで足止めです。あとドリュアデスさんと連絡が取れますか?」
「いや、俺たちの中でも存在を否定する者もいるくらいだから会ったこともないし、連絡方法も知らない」残念そうに言った。
「エルフィあたりは、存在を知っていて会うことができそうですがどうですか?」
「残念ですが~その人達と連絡を取る方法は~知りません~もしかしたら森に行って呼びかければ~出てくるかもしれませんよ~」エルフィが思い出そうと考えながら言いました。
「それはいつでもですか」
「これから森に行きましょう~」エルフィはそう言って立ち上がった。
「ここでもできるのですか」
「森に木や草があれば呼ぶだけはできますよ。来るのかどうかは保障できませんけど」
「では森にいこうかのう」
 そうして私達はぞろぞろと裏の庭から続く森の中に入りました。

○自然の妖精
「では呼びかけます。ドリュアス、ドリュアデス、ここに在る者達があなたと話したいと言っています。その姿を現してください」エルフィが両手を祈るように組んで目をつぶり、そう呟きます。私達は一緒になって手を組んで祈り、そして願いました。
「ドリュアス、ドリュアデス、ここに体がないのならば作り、現れてください。お願いします」エルフィが重ねてお願いをしている。全員で手を前に組んで祈っている。しばらくそうしていたが、何も反応が無いので、ちょっとガッカリしていたところ、森の中に響く声が聞こえ出す。
「なんでしょうか。我々のようにこの世界で静かに生きる姿なき者に対して姿を現せという。私達に何を求めるのでしょうか」どこから聞こえるのかわからないので、それぞれが周囲を見回しています。
「お願いがあります。お話を聞いていただいてもいいですか?」エルフィがそう言いました。
「おや、あなた達には見覚えがあります。もしかしてあなた達は、かつて森を黒い霧から救い、そして再生した者達ではありませんか。わかりました。私達は姿を現し、あなた達の話を聞きましょう」そうして私達の前にドリュアデスは姿を現した。長身の美人さんである。もっとも胸はありませんが。そう思った瞬間アンジーとモーラからどつかれました。痛い。
「ありがとうございます。よく私達だとわかりましたね」私はそう言ってお辞儀をしました。
「あの時、あの場で一部始終を見ていましたから」ドリュアデスさんがそう言って一礼を返してきました。
「見ていたのですか」
「はい。あの状態では、私達は見守るしかなかったのです。闇に飲まれていく自分達の仲間をただただ見ているしか無かった・・・」とても悲しそうな表情でそう言われました。
「そうですか。全てを守り切れずにすいませんでした」私は彼女に頭を下げる。みんなも頭を下げる。獣人さんは、あわてて頭を下げた。
「いいえ。再生してもらえただけでも良かったと思っています」
「さて、さっそくですがお願いしたいことがあります。かくかくしかじか」私は簡単に説明した。
「そうですか。わかりました。見ていれば良いのですね」
「立ち会ってもらえればかまいません。あと、元魔王様家族が焼け死ぬのを見ていてもらえれば」
「わかりました。燃やされるのを見ていて証言すればよろしいのですね」
「お願いします」
「では、その時が来ましたらお声をかけてください」
「ここでお呼びすれば良いですか?」
「いいえ、草木のあるところ私はどこにでもおります。ですので、その会議の場所で声をおかけください」
「よろしくお願いします」私は再び頭を下げた。頭を上げた時にはすでにその姿は消えていた。

○自殺の段取り
 ドラゴンの里の素早い対応で、各部族の若手をドラゴンの里の者が抱えて、翌々日の正午に連れてくることになった。場所もモーラの縄張りの端の方。ドラゴンが飛んできたのを見られないように、村とは離れた山間の草原に決まった。
 翌々日の朝には、すでに私達一同と元魔王様家族。そして親衛隊の者達が草原に集まっている。
「さて、もうじき証人も来るところだし、死んでもらいましょうか」私は元魔王様一家と親衛隊の人たちにそう言いました。
「そうね、早いほうが良いわね。場所は、ここから走ってもらって森のそばでいいわね」アンジーが森と草原の境界あたりを指し示す。
「遺体3つの確保が先じゃろう」モーラがそう言いましたが、今から遺体なんて確保できるわけないじゃないですか。
「もう用意してありますよ」私はパムが乗ってきた荷馬車に積んである遺体を見せる。黒焦げ死体です。レイにも匂いを確認してもらっています。
「で、どう入れ替えるのじゃ」
「そりゃあ、自分たちの周りに火を盛大に燃やしてもらって、その間に土の下にある死体と交代して入れ替わってもらいます。ついでに横穴を作っておいてそこから少しだけ離れたところに移動してもらいます」
「なるほどな」
「で、モーラに土の中に移動させるのをやって欲しいのです。お願いしますよ」
「おぬしがやらんのか」
「ええ、私が土関係の魔法を使うとモーラが怒るので」私はサラリとそう言いました。
「おぬし~今ここでそれを言うのか」ちょっとモーラが笑っています。
「だって~モーラが~怒るんですもの~」と私が言った。
「エルフィの真似をやめんか。気持ち悪いわ。わかったわしがやる。まったくドラゴン使いの荒い男じゃ。本当ならわしが関与したらまずいじゃろう」
「多分、元魔王様一家に目が向いているはずですから一番後ろにいるモーラは誰からも見られませんよ。私が手を出していない事を見せておきたいのですよ。お願いしますね」私はモーラに手を合わせてお願いした。
「あとでちょっと練習しておこうかのう」

○族長会議(仮)
 そして、正午近くにドラゴンが到着する。
「あのドラゴンは誰ですか?」私はモーラに尋ねました。
「わからん。人間化しないところを見ると、あまり能力は上ではなさそうじゃ。わしとて全てのドラゴンを知っているわけでは無いからな」
 その手からエルフ、ドワーフ、弧狼族、魔法使いの里の者達がそれぞれ降り立った。モーラがその者達の所に行き、こう言った。
「こんな辺鄙なところに呼び出してすまなかったな。身体に特徴ある種族ばかりじゃ、それぞれの紹介は必要なかろう。ドリュアデスもすでに来ているので、こんな場所で申し訳ないが、早速会議を始めようか」
 モーラは、その場所に土を起こして、円卓と椅子を作り出す。もちろん、私達と元魔王様家族の席もモーラの座る椅子の後ろに作られている。私達はモーラをはさんで両翼に並んで立っている。
「皆、座るが良い」
 全員が着席した。
「すでに会議の目的を話してあったと思うが、わしの縄張りに元魔王一家が現れ保護しておったが、頻繁に元魔王の家族を魔族が襲いに来てな。ここには置きたくないのだよ。それで、この元魔王一家の住むべき所をどこかにしたいのじゃ。どちらかの種族のところへ預けたいのじゃがどうだろうか」モーラは席に座る族長候補の者達を見回す。
「別にどこでも良いですよ。私の所で無ければ」と、エルフ族の若い男は言った。
「同意見です。私の所は場所は知られていませんが、いつかは見つかって魔族から攻撃されることになるでしょう。魔族とは相互不干渉としていますが、その人達を匿う事でそれも反古にされるでしょうから」とドワーフの男が言った。
「そうですね。私の所も同様に無理ですね。仮にそれが恩ある人達からの依頼であったとしても一族の意志は曲げられません」弧狼族の若き男は、少しだけ申し訳なさそうに言った。
「魔法使いの里はどうなのじゃ」
 モーラは、話そうとした魔法使いの里の女性の会話をわざと遮って言った。
「あえてそんな危険な人たちを匿うなんて危険すぎて無理に決まっているでしょう。元魔王様には、これまでの関わりもあるので、できる限り協力はしたいと思うけれど、さすがにそこまでは出来ないわねえ」冷たくもにこやかに笑いながら魔法使いの女性は言った。
「まあ、ドリュアスの所はどうにも出来ぬからなあ」とモーラはドリュアスを見ながら言った。ドリュアデスも頷くだけだった。
「わかりました。所詮私達はどこにも受け入れる先など無いと言うことですね。一生逃げ回ることしか出来ないと」そう言って元魔王様は、急に大声を出して立ち上がる。
「まだ話の途中じゃ。元魔王よ座るがよい」モーラが落ち着かせようと冷静に言った。
「もういいです。さあ行こう妻よ息子よ」元魔王はそう言って、妻と息子の手を取り森の方に向かって走りだす。
「待て。会議はまだ始まったばかり・・・」モーラが止めようと立ち上がる。
「いいえ、私達は所詮魔族に殺される運命なのです。ならばいっそ」振り向いて元魔王様は言ってからまた走り出す。
「いいから待たんか」モーラは、他の種族代表が立ち上がろうとするのを制して、私達に目配せをして私達に追いかけさせた。しかし、親衛隊がそれを防ぎ、元魔王の家族は森近くまで走り続け、そこで立ち止まり。こちらを向いて叫んだ。
「それでは、殺されるのでは無く自らを殺します。さようなら」元魔王は、そう言って自分と家族に火を付けた。
「待て!よさんか。親衛隊も止めぬか」モーラは円卓のところに立ったままで、私達も親衛隊に阻まれてその場所まで行けないでいる。そして、炎はさらに範囲を広げ、かなりの高さまで炎は燃え上がっている。
 すでに3人は、炎の中で体を寄せ合い座り込み、燃え続けていた。数分の後、火はおさまったが、すでに元魔王家族は抱き合ったままの形で消し炭になり、やがて崩れ落ちるように横たわって地面に転がっている。
 席に着いたままだった族長代理達は、最初は呆然とそれを見ていたが、炎が少しずつ小さくなりだしたところで、全員が立って、その死体を見に近付いていく。
 しかし、近づこうとする者達に元魔王親衛隊の魔族は、
「近づくな。魔王様とその家族のご遺体は我々で供養する。決して触れるな」
 そう言って、それぞれのマントをその遺体にかける。
 私が近づくと、親衛隊のひとりが、
「すまないが馬車を手配してもらえないか」と、申し訳なさそうに言った。
「うちの馬車を使いましょう。遺体を入れる棺もご用意しますからここでお待ちください」私はアンジーとメアを除いて手順を話して家に戻ってもらった。
「お手数をおかけします」親衛隊の人が頭を下げる。
「こちらこそ何の手助けもできませんでした。このような結果になったことを残念に思います。あと、遅くなりましたが、お悔やみ申し上げます」
「いえ、何から何までお世話になりっぱなしです」親衛隊の人たちは揃って頭を下げた。

 モーラは、深いため息をつくと、族長代理達にこう言った。
「まあ、一度座り直してくれ」
 そう言われて、族長代理達は座り直した。
「会議を主催したわしとしては、こういう結果になったのは不本意だが、ある意味互いの種族にとっては、幸運だったとも言えるであろう。なので、今回の会議は無かったことにしてくれぬか」モーラの言葉に全員が頷いた。
「では、この結果を持って、それぞれの里に帰って報告してくれ。元魔王様一家が自殺したおかげで会議は行われなかったとな」
「納得できません。念のため死体を確認したいのですが」エルフ族の若い男が言った。
「そうか。確かにそうだな。では見てくるがいい。わしも少し気になるのでなあ」
 そして、親衛隊が見守る遺体の所に全員で移動する。
「遺体に触らないで欲しいのですが」
「わかっておる。しかし、そうもいかんのだ。魔法使いの里の者。どうじゃ調べられるか」モーラは消し炭にかけてあったマントを剥がして、魔法使いに向かって言った。
「確認しましょう」何か呪文を口にして手を動かす。しばらくしてこう言った。
「確認しました。間違いなく正真正銘、魔族の死体が3つですね」
「だそうだ。わしが騙しているとでも思ったか?」
「いえ、決してそのようなことは」エルフの代表の男はちょっとだけビビって言った。
「まあよい、わしの疑いも晴れたであろうからよかったわ」
「信じていないわけでは無かったのですが。念のためと」
「孤狼族の者よ。おぬしの嗅覚ではどうなのだ?」
「間違いないと思います」彼は下を向いたままそう言った。
「だそうだ、全員帰った時に聞かれるであろうからのう。ちゃんと報告するが良い」
「申し訳ありません」
「では、そこに待っているドラゴンに乗り里へ帰るが良い」
 全員が一礼してドラゴンに向かって歩いて行く。ドラゴンの手に乗り空へ飛び立っていった。
「ドリュアデス殿、ありがとうな」
「ええ、本当に死んだようでしたよ。では私はこれで」そう言って草の中に沈んでいった。


続く

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