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第25話 DT神から見放される

第24-9話 段取り終了?

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○その勇者達
 クシュン その噂の勇者はくしゃみをした。
「おやめずらしい。どうしたのですか?くしゃみなんて」そばにいた女性が心配そうに言った。
「誰かが噂をしているのだろう。勇者の噂を」その勇者は嬉しそうにそう言った。
「良い噂だと良いのですが」と優しそうな女性が言った。
「そうだよなあ」と女剣士が言った。
 少し離れたところで、例の男の魔法使いと忍者が話していた。
「あまりにも話がうますぎないか。罠じゃないのか?」怪訝そうな顔で男の魔法使いが言った。
「だからお前に来て欲しいんだよ。話を聞いて欲しい。いや、彼女からは、話だけしてくれと言われていたんだ。言い過ぎた」忍者がつい説得しようとしていたのをやめる。
「洗脳されているわけではなさそうだな」
「ああ、平和を願っていると言っていた」
「それだけでそんな物をくれるというのか。到底信じられない話だ」
「声を荒げてどうしたのですか?」
優しそうな女性がもめ事なのかと心配して近づいてきた。
「もしかして勇者様にも聞こえていましたか?」気にして勇者を見る。しかし寝ているようだ。
「いいえよくお眠りです」
「そうですか、よかった」
「良かったら話を聞かせて欲しいのだけれど。だめ?」
「そうだよ仲間じゃないか」
一緒に近づいてきた女剣士が言った。その横には、もう一人フードを被った男の魔法使いがいつの間にか立っていてうなずいている。
「実は・・・」そう言って話をする。途中から怪訝そうな顔をする一同。
「確かにそこまでしてもらうのは変だ。だが、私達が単身でこの戦争を止めに行くにはそれくらいの格好で行かないと入れてくれさえしないだろう」
女剣士は、悲しそうにそう言った。
「そうよね。今の私たちの置かれたこの状態を打破するにはこれしかないと私はそう思ってしまうのです」
と、やさしそうな女性は、寂しそうに言った。
「そうなんだよ。これだけ頑張っても、じり貧なんだ。最近は特に例のマジシャンズセブンの噂のおかげですっかり勇者に対する期待のレベルが上がってしまっていて、最初の予定とはかなり違っているんだ」
「そうだな、他にも異種族の3人組が、旅先で色々な事件を解決したりして、私達の活躍する機会も奪われていたし」と女剣士が付け加える。
「なあ、俺は直接会って話をしている。だから信じたくなっているんだ。騙されてもいい気がしているんだよ。ただ、たぶんこの取引を受けた時に何か言われるかもしれない。その予感もあるんだ。だから一緒に来て話を聞いてくれ。頼む」
「ひとつ言って良いか」フードを被った男の魔法使いが口を開いた。余りしゃべらないのだろう。みんながビックリしてその男を見る。
「この話のデメリットって何だ。俺たちは名も売れていないから失うものは無い。もしかしたら門前払いをくう。いや、たぶん門前払いをくうんだよ。そこで俺たちの役目は終わりだ。無くすものが何かあるのか?」淡々とだが力強くそう話すその男。全員がうなだれる。
「戦争を止めるという勇者としての責務に失敗したということだね。けっこう後々響きそうだ」
「でも、無名の俺たちに後々はあるのか?これまで失敗を恐れて慎重にやってきた。名声を汚さないように。だが、それではだめなんじゃないのか?」畳みかけるようにそう言った。
「そうかもしれないな」女剣士がそう言った。
「わかった。とりあえず話を聞いてこよう。疑問に思ったらやめてくるけどそれでもいいな」
「ああそれでいい」
「待って私も連れて行って。きっと話してみればわかると思うの」
「確かに、あなたなら違和感に気付くかもしれないね」
「とりあえず、ひとり増えても良いか聞いて欲しい」
「ああすぐ行ってくる」
「大丈夫なの?」
「俺の気配を簡単に気付く人たちだ、行ったら話せると思う」
「そんなレベルの人たちならなぜ自分たちで?」
「勇者ではないのだろう。たぶん」
「でもそれって・・・いいえ、今は気にしないでおきます」
 そうして、忍者は廃城に来てアンジー達の了解を取り、翌朝その男女は川辺から廃城までまっすぐ廃城に向かった。

○面会
 門の手前にさしかかった時に門の前に一人立っていた。
「一般の人に迷惑が掛かるので裏口からお入りください」
門の手前でメイド服のメアがお迎えする。
 静かに中に入り、2階の一室に案内された。
 そこには忍者がすでにいて、ユーリとアンジーがそこに立っていた。やさしそうな女性の方は、アンジーを見るなり、そこに跪き手を合わせた。
「パトリシアどうしたんだい急に」
 パトリシアと呼ばれたその女性は祈るのをあやめない。アンジーが近づき。
「すこしまぶしかったのね。ごめんなさい今は大丈夫よね」
そう言って彼女の手を取り、立たせた。
「どういうことなのですかパトリシア」
「どうもこうもありません。この方は紛れもなく神の使徒様です」
「違いますよ。私は天から地に落とされた身。そのようなものではありません」
「さて、あなた名前を何といいますか」アンジーはそう言って男の方を見る。
「わ、私はライオット・サリンジャー。勇者の仲間です」
「ライオット・サリンジャーですか。ではサリンジャー。あなたは神の宣託を受けたと触れ回っていると聞きましたが本当ですか?」
「本当でございます。確かに声を聞きました」
「その声は神を名乗りましたか」
「はい、私は神であると」
「そうですかわかりました。もうよろしいです」そう言ってからアンジーの表情は急に柔らかくなった。
「さて、聞きたいことは終わったので本題に入るわね」
 まるで憑き物が落ちたかのように口調や雰囲気を変えたアンジーがそう言った。周囲はあっけにとられている。もちろんユーリもメアもだ。顎が落ちている。
「忍者さん。ええとお名前はなんて言ったかしら」
「ダイアン・カーンです」
「失礼、ダイアンさんから聞いていると思うけど、私達からの提案について考えてくれたかしら」
「はい、でもいくつか質問が」
「面倒だから一つにしない?」
「では、この話に何か裏があるのでしょうか」
「そうね、確かに胡散臭いわよねえ。私達が求めることは、この戦争が3国のまま平和になることなの。1国に2国が占領されたり1国が2国に併合されたりするのを望まないのよ」
「そこが貴方たちの利益になると。それが裏だとおっしゃるのですか」
「理解が早いわね。さすがパーティーのまとめ役。頭の回転が速くて助かるわ」
「しかし、私達が1国を説得したところで・・・なるほどそう言うことですか」
「すごいわねえ。ここまでの会話でこの話を理解したの。驚きだわ」
「念のため確認しても良いですか」
「質問ではないということにするのね。いいわよ」
「その3国のうち2国には、それぞれ勇者がいるということですね」
「あなたも噂くらい知っているでしょう?それが答えよ。どう?この話受ける?念のため言っておくけど、私達は、どの国とも通じていないわ。むしろ逆でどの国とも無関係なの。私達にとって大切なのはそれぞれの国に住んでいる人々の安全だから」
 そう言って沈黙するアンジー。ライオットと名乗った者は、パトリシアとダイアンに目で合図する。2人ともうなずいているのを確認して、こう言った。
「わかりました。一度持ち帰って午後からまた伺います」
「話しを断るのなら来なくても良いわよ。貴方たちも忙しいでしょうから。太陽が下り始めたら諦めるわ」
「わかりました。失礼します」忍者は消え、2人は帰って行った。
「アンジー様は、いつもすごいですね。これでは天界も取り戻したくなるわけです」メアが本当に感心している。
「だからいつも言っているでしょう。こんなの天使の本分ではないと」
「確かにそうですが。さらに磨きがかかっていますね」
「いつもは即興だけど、今回は時間があったからね。それでも来た人のなりを見てから少しだけ調整はするのよねえ」
「なるほど。やはり2名来たのも違いますし」
「そうね。あの子パトリシアだっけ。あの子のリアクションがオーバーすぎてそこは失敗してしまったわ」
「あれはちょっとやばかったですね。効果ありすぎました」
「それでもあのライオットさんはすごいですね。こちらの意図をしっかり把握していました」
「話した感じだと、彼の中では、勇者を名乗らない者は利用しても問題ないと思っているのよ。だからこちらがマジシャンズセブンだろうと予想はしても勇者候補でない以上利用すべき者として扱おうとしてくれているわ」
「この話に乗ってきますか」
「勇者次第だけど、乗ってくるでしょうね」

 そのライオットとパトリシアは、自分たちの野宿している場所が川べりなので、道を歩かず草むらを進んでいる。
「はー、すごい方でした」パトリシアがうれしそうに言った。
「そんなにすごいのですか」どうも懐疑的らしい。ライオットが言った。
「はい、あのオーラが見えないなんてもったいないですね」
「そうなんですか。でもあなたにわざと見せましたよね」
「はい、そうしないと話を信じてもらえないと思ったのでしょう」
「そうでしたか。たぶんあれは・・・」
「はい、間違いなくマジシャンズセブンの方達ですね」
「まあ間違いないでしょう。であれば、この話受けるのに何の問題もありません」
「そうなるのですか?」
「ええ、あの人達は自分の住んでいるところが安全であれば良いのです。だから今回の戦争を3国が存在したまま終わらせたいのですよ。そうすればあそこまで侵攻することはないからです」
「でも、そんなことをしなくても攻めてきても追い返せば良いのではありませんか」
 ダイアンが周囲の警戒から戻って来てそう反論する。
「確かにそれはありますが。そうですね。力を誇示したくないのでしょうか。誇示すればするほど敵は増えますからね」
「やはり一般の人々のことを考えているのではないでしょうか」
「そうかもしれません。この戦争で人が死ぬのを早く止めたいと思うのは同じかもしれませんね」
「そうですね。きっとそうなのでしょう」パトリシアが大きく頷いている。
 そうして川べりに戻り、勇者には、彼女らがマジシャンズセブンであることを話さず。話を受けることに決めて、昼前に全員で廃城に来た。
「来たわね」
 アンジーは、微笑みながら裏手に案内し、用意していた武具防具、食料を積んだ荷馬車を引き渡す。
「約束どおり用意したわ。問題ないかしら」
「これほどまでとは、こんな廃城に錆ひとつない武器防具があったのですか」
「昨日の夜、使える物を選別して、ちゃんと修理したわよ。きれいなまま置いてあったわけではないわ」
「なるほど、ありがとうございます」
「あともう一つだけ。このまま逃げても別に構わないわよ。やっぱり私達には荷が重すぎると思ったとしてもそれは仕方ないことだから」
「・・・」
「でもね、それによって戦争が続き、たくさんの死者が出ることも考えて欲しいの。勇者さん達」
「行くにきまっているだろう。俺は勇者だし。みんなは勇者のパーティーだ。しかも今回は魔獣じゃなくて国だぞ。問題ない。そうだなみんな」
 しかし、それ以外の人は不安そうだ。確かにドサ回りから急に国際舞台で劇をやれと言われているようなものだ。さすがに怖いだろう。
「でも、いいかしら。行かないで終わるのではなくて、城の門だけは叩くのよ。断られたらその国に見る目がなかったと堂々と言えるわ。でも門前までも行かなかったら貴方たちが自ら負けを認めたことになるのよ。そうでしょう?」
「確かにそうです。ありがとうございました。頑張ります」
「無理しなくて良いの。でも門は叩くのよ」
 そうして俺様勇者様ご一行は、道を進んでいった。もちろん馬と一行にはアンジーの防御魔法がかけられている。

「ここでの仕事は終わりましたか?」
「そうもいかないのよ。あのライオット様ご一行が到着する直前に国王に入れ知恵しておかなきゃならないのよ。そこで本当の終りね」
 そうして、無事ハイランディスに到着したライオット様ご一行は、城門にて来訪の理由を告げると、本当にすぐ国王に謁見できて、しばらくの滞在となった。
 話によると、ここの水神様から国王に勇者一行を迎え入れろとお告げがあったそうで、臣下がうまくとりなし、城にしばらく滞在できることになったという。
「あの方はもしかして水神だったのか?」
「いいえ違います。水系の方ではなく光属性の方でした」とパトリシアが断言している。
「だとすれば、水神も今回の戦争を止めたがっていると言うことかもしれないな」と思うライオットであった。
「メアありがと。代わりに水神役やってくれて」
「別にアンジー様でも良かったのではありませんか。水神と言わず神と言えば嘘にはならないでしょう」
「まあねえ、やってもよかったんだけど。嫌な予感がしただけよ。それだけなの。ごめんなさいね」
「かまいません。不謹慎ですがおもしろかったので」
「ならよかったわ」
 そうして、アンジーとメアは、モーラの手に乗って家に戻った。

「ただいま~」
「ただ今帰りました」
「お帰り~」
「疲れた~」
「ユーリの所はうまくいっていましたか?」
「ああ、傭兵さん達が合流して、住民を護衛しながら農耕しているわ。しばらくはそんな感じになりそうね」
「そうですか」
「ねえ、孤児院はどうなっているのかしら」
「魔法使いさん達が来て手伝ってくれていますよ」
「あんたのところに勉強しに来ていないの?」
「一応講師として週2回だけ教えていますよ。まだ2回しかやっていませんけど」
「熱心ねえ。もしかして考え方からやっているのかしら」
「そうなりますねえ。やはり魔力量が少ない人たちばかりですので、生き方とかの相談も多くて」
「あら、カウンセリングもしているの」
「話を聞いてあげるだけですよ。それくらいしかしてあげられません。魔法使いの里では、魔法の制御の基礎くらいしか教えていないようで。少し憶えるとすぐ放り出されるらしくて、その後の生活とかのケアまではしてくれないみたいで、これまで生きていくのは大変だったみたいですよ」
「まあ、魔法使いの里も託児施設ではないからしようがないわねえ。これからすぐ見に行くのだけれど。そういえば、あれから獣人とエルフはどうなったの?」
「とりあえず、捕らえていた方の獣人とエルフは、どちらも解放しました。今後、モーラの縄張り内に入った場合には問答無用で殺すとモーラが言い渡しましたよ。残りの真面目な人たちは、人間との交流をしながら適職についてもらいました」
「どういうこと?」
「エルフには、農耕に従事してもらって、獣人には牧畜に回ってもらいました」
「なじむのかしら」
「ノウハウを教えて、違う場所で営農してもらうことになりますが、しばらくは共に生活してもらいますね」
「よかったわ。なら後は、戦争終結だけね。動き出してからまだ一週間なのに長く感じるわ」
「パムからの連絡で、まもなく交渉の日時が決まりますよ」
「段取りの再確認は、孤児院を見てくるから帰ってからにしてね」
「いつもどおり風呂ですよ」
「ああそういうことね」
 そうして、私達は夕食後お風呂に入った。ユーリとパムを除いて。


 ロスティアの城内。拝謁の間にある国王の椅子は空席。その横に王女であり勇者とされているイオナート・ロスティアが立っている。左右には臣下の者達が並んでいる。
 王女の前には謁見のために数人が伏している。
「両国から何の申し立てがあったと言うのか。降伏するとでも言ってきたか」
「いいえ、両国にそれぞれ勇者が訪れ、この戦争をやめるよう進言し、それを了承したとのことであります」
「降伏するのではないのか」
「勇者を仲介人として、戦争を中止したいとのことであります」
「戦闘を開始しおって今更か」
「実際には、負傷者は出ているものの死者はほとんど出ておりません。今回の件は、義勇軍なる者達の勇み足であったとの報告が参っております」
「なるほど、国が宣戦布告をしておいて何を言うのか」
「それについては、何者かが偽りの報告をしたとのことであります」
「確かに本来であれば、正式な書状により宣戦布告があり、それから戦争を始めるのが普通だがそれはなかったな。しかし、戦争が起こっておれば、当然わかるであろう」
「敵国の城塞であることから、事実確認に時間がかかったこと。軍から離反した一部の者達が、武器を強奪して事に至ったという事です」
「それにしても対応が遅くはないか」 
「それについてはお詫びしたいとのことです。ですが、勇者の介入により会議開催を提案してきました」
「両国ともにか」
「はい、マクレスタ公国が先に提案され、それにハイランディスが乗った格好ですが」
「なるほどな、私が勇者を名乗っているから、3勇者による会議とするか。誰が考えたのか」
「提案は、マクレスタ公国の門を叩いた流浪の勇者と聞いています」
「名前は、隻眼のジャガーとその一行です」
「ふむ、一度は聞いたことがあるな。不死身のジャガーと言っている異世界から来た者だろうな」
「もう一組は」
「あの方であろうなあ。このようなことを考えつきそうなのは、名もなき賢者様に違いない」
「いいえ、その勇者の名は、ユージ・イシカリと申します」
「聞いたことがない。ああ、田舎を回る勇者をかたる者か」
「そのようです」
「そうかやはりあの方はでてこぬか。で、私を交えて会議を行いたいと」
「はい、戦後処理ですね」
「では、私は了承せざるをえないな。日時の調整を進めてくれぬか」
「御意」
 そうして3国間における停戦調停会議、勇者会議の開催が決定した。



「やっぱりお風呂は良いわねえ。」そう言ってアンジーは湯船につかっている。
「アンジー様、本当にそうですね」とメアが応えて言った。
「なぜかすんなり入ってきますねえ」と先に湯船に入っていた私が言う。
「いつも通りじゃない、なにが「なぜか」なの」
「一応「入浴中」の札を下げておいたはずですが」
「今、ここにいるのは、あんたかモーラしかいないじゃない。モーラは今出かけているわ」
「そうですが、一応ルールでは、ひとりになりたい時に札を下げることにしたはずではありませんでしたか」
「ああ、エルフィあたりが札を無視してあんたを襲っていないか心配したのよ」そう言いながら私に近づいて腕に無い胸をくっつける。
「そうです。不在の間ご主人様に何か起きていないか心配でしたので」
そう言いながら反対の腕に小ぶりな胸をくっつけるメア。
「あーあんたの魔力落ち着くわね。なんか安心したわ」
「はい、ご主人様の魔力には何か癒やしの作用があるのでしょうか」
「あ!あれよ!まったり空間発生装置」
「確かに安らぎます」
「あのう、わたしも一応男ですし、最近はちょっとまずいのですよ」そう言ってタオルを股間にあてる。
「ああ、すこしは男らしい感情が戻って来ているのねえ。というかこれまでも大した不能者だったわよあんた」
「はい、自覚しています」と言って私は赤くなっておとなしくなる。
 扉が開き、モーラが入っている。
「なんじゃアンジー積極的じゃのう。不可侵協定はあるが本人が同意すればいいのじゃから頑張っておったか。ああ、メアもいたなあそっちも頑張っているのか?」
「大丈夫よまったり空間発生装置に癒やしてもらっているだけだから」
「私はマッサージ器ですか」
「ああ確かになあ。どれわしもそうするか」体にシャワーを浴びたモーラが湯船に入って私のタオルの掛かった股の所に座り込む。
「お、なんじゃ堅いモノが。おお、なんじゃ発情していたのか。少しは男としてましになってきたなあ。でもそなたの世界では、ロ・・・」言いかけたモーラの頭にチョップを入れた。
「最後まで言わせんかまったく。少しはましになってきたなあ」
「そうなのでしょうか」
「ああ、おぬしの愛は肉親への愛情じゃ。まあ家族という定義ではそれはまずいのであろうが、わしらは家族と言っても血のつながりはない。欲情しても問題はなかったのじゃ」
「モーラ様、それでも皆さん種族が違います」とメアがフォローを入れてくれた。私はただ黙っている。
「確かになあ、わしなんかドラゴンだ。こやつは、最初にあの姿を見ても全く動じなかった珍しい男だからな。この形態になったら少しはと思ったが、思いのほかダメな男であった。おお、真面目な話になるとさすがに収まるか。おぬしの理性は鋼のようじゃな」
「モーラ様もご主人様から癒やされているのですか」
「こやつのすごいところは、今言ったとおり、どんなかたちのものでも、それを容認する包容力というかなあ。ものを目で解析できるというのは、逆になにを見ても驚かないし、自分の見たものを信じられるのであろう。もののありようを素直に受け止められるのであろうな。じゃからわしのようなドラゴンを股の間においても動じないし、受け入れもする。だからまったり空間発生装置なのじゃよ」
「モーラ様、納得しました」
「さて本題に入ろうか」
「今回の件、残るは3国戦争の停戦が残っている」
「ええそうです」
「日取りも決まり、会談が終われば終了じゃ」
「そうですね」
「問題は、見えない手がどう動くかじゃ」
「そういえば、ロスティアの王女はどうしたのかしら。放置したわよねえ」
「会談の日時も決まったということは、受けたのでしょうね」
「さて、わしらはどうすればよいのかな」
「もうなにもしませんよ。あきらめました。パムも撤退させます」
「そうじゃな」
「あの子はきっと最期まで見届けたいと言うわよねえ」
「やっぱりそうなるか」
「そうでしょうねえ」
「そういえば、森を騒がせた魔法使いさん達は、今どうしているのですか」
「孤児院を手伝わせていたけど、すぐに里には戻られないでしょうから、旅の支度をさせて、各都市に住む魔法使いのところに向かわせたわよ」
「ああ、それが良いですねえ」
 その時扉がバタンと音を立てて開き、エルフィとレイが入ってくる。
「あー、みんなずるい~」
「あ親方様ー」
 そうして、2人ともシャワーも浴びず浴槽に飛び込んでくる。私の周りの3人はさっと逃げ、逃げ場のなかった私だけが取り残される。
 スローモーションのように私の頭は、エルフィの胸に圧殺され、私の股間はレイが潜り込み、そのまま浴槽の中に沈む。ああ、ここで死んだ場合、死因は胸による圧死と溺死のどちらになるのかなあと考えながら、意識がなくなりました。
「だんざざまぁ~」
「をじゃがだざま~」
 洗い場で意識が戻るとエルフィとレイが泣きながら私を見守っていた。
「大丈夫よ。安心しなさい。頭打っただけだから」あきれ顔でアンジーが言った。いや、タオルで前くらい隠してくださいよ。こちらが恥ずかしいです。
「「ごべんだざい~」」
 私は半身起き上がって、2人の土下座を見ている。そういえば裸土下座は新鮮ですねえ。
「なにくだらない事、考えているんじゃおぬしは。安心させてやれ」
 私は起き上がり、2人の頭に手を当てて、
「そんなに私に会いたかったんですね、久しぶりです。元気にしていましたか?」
 そう言った途端、土下座の2人は飛び起きて私に抱きつく。
「ざびじがった~」
「ぉぐもでず~」
「よしよし」そう言って頭を撫でる。
へくちっ アンジーがくしゃみをしました。
「さあみんなでお風呂に入り直しましょう」
 さすがに生のエルフィの胸は刺激が強すぎます。そう言いながらも手を離そうとしない2人は両隣に座りうれしそうに私の両腕に胸を当てている。
「あ~これですよ~この暖かさですよ~」
「はい~よくわかります。親方様最高です~」
「どう、まったり空間発生装置さん、あんたの立場は決まったわ」ちょっとすねながらアンジーが言った。
「それよりもですねえ、さっきエルフィとレイが飛び込んできた時、3人とも私が動けないように両手両足を最後まで押さえていましたよねえ」
「ご主人様それは違います。逃げ遅れただけです」
「一瞬、頭の中に私を3人で抑えるイメージが見えましたけどあれは錯覚ですか?」
「まあ、おぬしが勝手にイメージしただけじゃろう?このシチュエーションおいしそうとか思ったのではないのか」
「わかりました。そういうことにしておきましょう。だからエルフィとレイはそこまで謝ることではないですよ」
「もういいのです~」
「はい、僕、今、幸せなので~」
「そうそう、エルフィはエルフ族とこの村の皆さんとの間に立って色々していたのでしょう?えらいですね」そうして腕を放してもらってエルフィを撫で撫でしてあげます。
「そしてレイもすごいですね。あなたも獣人達のために頑張ったんでしょう?すごいですね」そうしてレイも撫で撫でしてあげました。
「これがたらしの実力か」とモーラ
「はい、ご主人様の他種族たらしの実力です」とメア
「さすがね」とアンジー。いや、3人ともちょっと怒っていませんか?なんで?
 そして、いつもは幸せな入浴タイムが、私は少し気まずい感じになりましたが、入浴後、居間の大きいテーブルで全員がくつろいでいます。
「さて、パムは誰が迎えに行くんじゃ?」
「アンジーがすでに俺様勇者のところに出向いているので、私が行きましょう」と私が言いました。
「それが一番まずいのではないか?」
「いいえ、会談前に連れ戻しましょう」
「それくらいは良いわね。では行ってらっしゃい。ちゃんと上手くやるのよ」
「頑張ります」

続く
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