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第25話 DT神から見放される

第24-8話 趣味=横やり

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○森の中
 そこにはテントが十数張、設営されていて、その横にエルフ達が一カ所にまとめられている。そして数人が縛られていて、その中にエルフィもいた。
「そこの魔法使い3人。焼かれたくなかったら静かにしていろ」
 モーラは茂みの中から出てきてそう言った。逃げようとした魔法使いは、一瞬にして土壁の中に体だけ埋められ、顔だけが見えている。
「その隙に逃げようとしても無駄じゃ」
 他の2人も同様に壁に塗り固められている。
「そこのエルフ。エルフィの縄を解け」
 そのエルフは、エルフィに近づき縄を解いた。エルフィがすかさずそのエルフの頬を叩いた。あっという間にそのエルフは遠くに吹き飛んでいく。
「この恥知らず」
 エルフィはそう言って、縛られている他のエルフの縄を解きに向かった。
「なるほどな。まあそういうこともある」
「魔法使い達。事情は聞かせてもらうぞ。その格好のままでなあ。もっとも無詠唱で打てる魔法があるなら使え、その代わりどうなっても知らんがなあ。まあ使ったとしても死にはしないからやってみて、後悔するがいい」
 モーラのその言葉に壁に塗り込められた魔法使い達は頭を下げた。

○モーラの洞窟内にて
 私は外から様子をうかがい、不可視化の魔法を使って中に入る。獣人達はその匂いに気付く。当然レイも気付く。
 縛られている獣人とそうでない獣人。レイは縛られている。なるほどそう言う事ですか。
「奴が来たぞ!どこにいる」そこで私はついつい、新しい魔法を使ってみたくなり、あの小石に付与されていた魔法を使う。そこで不可視化の魔法を解いてこう言った。
「本当の敵はそこにいる魔法使いだ」
 そう言って魔法使いを指さす。残り2人の魔法使いも含めて全員がその魔法使いを見て、魔法使い達は魔法を使い、獣人達は一斉に襲いかかった。
 パンッ 私はアンジーが使った柏手を打った。洞窟内に響く柏手の音。しかし一瞬動きが止まっただけで再び襲いかかろうとする。
「あらら私の手ではダメですねえ」私は慌てて、「マインドガード」と叫んだ。すると全員の動きが止まった。
 私はすかさず、魔法使い3人を個別にクリスタル状の土壁に封じ込め、残りの獣人にこう言った。
「はいそこまで」私はレイの元に行き、縄を切った。レイは私に抱きつき顔をなめ始める。
「仲間に裏切られるのは怖かったでしょう。でもね、そうでない人もいます。その人達の縄を外してあげてください」
 レイは落ち着いたのか、その場に立ちすくんでいる獣人達にうなり牙を見せてから、縛られている獣人達のところに向かった。
「一応獣人さん達に言っておきますが、私強いですよ。レイはもっと強いですけどね。ですから、私を襲ったらレイに殺されますから注意してくださいね」
 私はそう言いながら、ひとりの魔法使いのところに向かう。
「この洞窟は、ここの縄張りのドラゴンがかつて使っていた洞窟なのですよ。ここを穢すなんて貴方たちどうなるかわかっていますよねえ。まあ、何をしたかはこれから貴方達にたっぷり聞かせてもらいますよ。ええ、体にね」
そうして洞窟の方もあっけなく片付いた。

○強制事情聴取
 魔法使いを閉じ込めたクリスタルを獣人達が押して、レイを縛った獣人は、私特製のロープで縛って重い足かせをつけて歩かせて、モーラの元に合流する。

「とりあえず貴方達は、どこかに行って欲しいのですが、さすがに戦争の決着がつくまでは放置できないので、この土壁の檻の中で暮らしてくださいね」私は地面の黒い穴を指さす。
「土壁の中って、これは穴の中だろう」
 確かに、地上から見ると長方形に穴を開け、地面に柵を作っただけの粗末なものだ。しかし、深さは10メートル近くあり、オーバーハングをつけて登れないようにもしてある。そこに次々と獣人とエルフを別々に放り込む。さすがにちゃんと着地は出来たようですね。偉い偉い。
「念のため言っておきますけど、このオーバーハングは、登れば簡単に崩れるように作ってありますから、崩れて生き埋めになるかもしれませんよ。まあ試してみてください。そして勝手に死んでくださいね」私は穴を覗き込んでそう言いました。
「それと、ご飯はあげませんから勝手に飢え死にしてください」ついでにそう言いました。
「貴様・・」獣人もエルフの私の事を見上げて睨んでいます。好きに睨んでくださいな。
「いや、飢えたら共食いでもしたら良いでしょう?さっきまで同族を売りとばそうとしておいてそれはないでしょう。それでも、エルフと獣人一緒に入れたら、エルフが先に食われそうですからさすがに別々にしておきましたよ。そうか、土壁を壊せればエルフを食えるかもしれませんよ。ではさようなら。戦争が早く終わることを祈っていた方が良いですよ」
 私はそう言ってその場を離れようとする。さすがに協力しないで縛られていて、地上に残ったエルフと獣人達は私を冷たい目で見ている。
「相変わらずえげつないことをするのう」モーラがヤレヤレという顔で私を見る。
「モーラ、私いつも言っているでしょう。私の家族に手を出した者は、死ぬほど後悔させることにしていると」私は涼しげにそう言いました。まあエルフィもレイも心配そうに私を見ています。
「公にはそうしているがなあ。まあ、レイとエルフィにはわしから定期的に食料と水を与えるよう指示しておくわ」
「よろしくお願いします」
 そうしてモーラはレイとエルフィの所に行った。どうやら安心したようだ。もちろん残された人たちも。
「さて、こっちがまだでしたねえ」
 私は反対側に円を描いて地面に設置された6つのこぶに話しかける。
 そのこぶは、よく見ると6人の人の頭だ。6人とも立ったまま生き埋めにされている。
「いっそ殺せ」一番端に埋められた魔法使いの女が言った。
「嫌ですよ、人殺しなんて。そんな野蛮な。ちゃんと生かしておきますよ」私はそう言って、その魔法使いの所にしゃがんで、ジッとその顔を見ました。
「なにもしゃべらないぞ」動きが取れないのに、正面にいる私から顔を背けます。
「その決意は買いますけど、無駄なんですよね」
「なんでだ」顔を背けていたのにこちらを向いて言いました。
「それはしゃべりたくなるんですよ。不思議ですね?」
 そう言って私は、その人の頭を囲むように手を広げて頭を包む。
「では質問です、貴方達は誰から依頼されましたか。ドラゴンの里ですか?」
「魔王様ですか」
「・・・・」
「ドワーフの里ですか」
「・・・・」
「魔法使いの里ですか」
「・・・・」
「天界ですか」
「・・・・」
 そうですか、魔法使いの里ですか。
「なっ」
「魔法使いの里の誰ですか」
「・・・・」
「ナンバーツーですか」
「・・・・」
「ナンバースリーですか」
「・・・・」
「ナンバーワンですか」
「・・・・」
「そうですか、里の長ですか」
「なぜだ。なぜわかる」その魔法使いは驚いている。
「いや、わかりませんよ。あなたが今自白したじゃないですか」
「今のはフェイクか」私の言葉に明らかに動揺している。
「まあそういうことにしておきましょう。でもね、詳細を知りたい時はこれではわからないんですよ。なので、少し苦しいですよ」私はその魔法使いの頭を両手で抱えて目をつぶります。
「なにをする。なに・・をヲ、ウガアアアアア」その魔法使いは絶叫して気絶した。
「いやまだなにもしてませんよ。まだなのに失神しましたか。しかたないですねえ」
 私はその魔法使いの頭から手を離し、立ち上がって他の5人を見回す。全員視線をそらす。
「あなた、さっき3人セットで動いていた時にリーダーしていましたねー。じゃああなたで」私は目についた真ん中に埋められていた魔法使いのところに行く。
「待って、何をするの?」
「いや、何をするのって、その人に私がした事見てたでしょう」私はしゃがんでその魔法使いの頭を両手で抱える。
「いや、やめて、全部話すから。お願い」
「いいですけど、嘘を言っていると困るので他の人には同じようにしますけどね。他は誰が良いかな?」
「私は何も知らないの、本当よ、だって連れてこられて指示に従っただけだし。本当になにも知らないのっ」必死に私に訴えかける。演技ならすごいですねえ。
「わたしもそう。本当に知らないから。なにをされても答えられない。お願いします、私だけは許して」
「あんたは知っているでしょ!リーダーから教えてもらっていたから。でも私は聞いていないわ本当よだから許してお願い。いえお願いします」
「あんた人を売るような事。この人も横で一緒に聞かされていたのだから同罪よ」
「君たちうるさい。では、話すならひとりずつわたしにこっそり話してください。もし違っていたらどっちが正しいか全員の頭の中に聞きますからね。いいですか」全員がうなずいている。
「では、リーダーさん話してくださいね」
 私にリーダーと呼ばれた人は、必死に話をする。
「ああ、そういうことなのですねえ。わかりました。では次の人」
 そう言って私は隣の人の口元に耳を近づける。その人も必死になって話をしている。
「少し違うけど、こういうことなのでしょうか」
 私がそう言うとその子は必死になって頷いている。
「では次の人」そして5人全員の話を聞いた。
「ありがとうございました。でもね、安心するのはまだ早いですよ。最後のひとりの話を聞きますから。もしその人の話と違っていたら。全員がどうなるかわかりますよね。あと話が終わるまで静かにしていてくださいね。その人が話を終えるまで。もちろんさえぎったらその人が嘘をついているとして全員・・・皆さんわかりましたか?」全員がうなずいている
 私は、眠っている最初の人に声をかける。
「おーい起きてください。大丈夫ですか」
 その人は首を振って目を開ける。
「だいぶ眠っていましたがよく眠れましたか?さて続けましょう」
 私はそう言って一度立ち上がる。どうやらその時に私はにやりと笑っていたようだ。
「ではお話しください」
「ああ、魔法使いの里の長から依頼されたのは、単にこの地方のドラゴンの縄張りを混乱させることにあったのよ。だから、この地に流れ込んだ獣人が出た時に事を起こすだけでいいと言われてきたんだ。それだけだ。もちろん殺す気なんてない」
「それで終わりですか?」
「ああそれで終わりだ」
「やめて。嘘を言わないで」リーダーと呼ばれた人が叫ぶ。
「何を言っている」
「全員本当のことを話したわ。嘘つきはその人よ。お願い殺さないで」
「貴様ら、全員つじつまを合わせておけと言っただろう」
「そうでしょうねえ。そう知っていましたよ」
「なんだと」
「あなたは、私が最初に頭に触った時に絶叫をあげて失神したんですよ」
「え、嘘。そうなのか?」そうして他の人たちをみる。全員頷いている。
「それを見て、皆さん正直に話してくれましたよ。あなた以外はね」
「そんな、目覚めでは気持ちよく寝ていてすっきりしていたのに」
「そうでしたか。気持ちよかったんですねえ。さて、私はね、嘘をつかれるのは嫌いなんですよ。ここで2択です。今のあなたの話が本当なのかそれともあとの5人から聞いた話が本当なのかどっちなんでしょうかねえ」私はにやりと笑って聞きました。
「言い忘れましたが私、執念深いのです。例えば、あなたの話が本当で、あの人達は、魔法使いの里に言い含められて口裏を合わせていたとしましょう。後から正しい答えがわかった時には嘘つきの方を地の果てまで探して復讐しますよ。今のこの状態を見てもわかるでしょう?ですから、そちらの5人にも弁明の機会を与えますが、真実はどれですか。それとも他にあるのでしょうか?」
 私はそう言って全員の顔を見回す。
「あんたの実力は噂でだいたい知っているさ。だから里の長も本当のことは言わずに私らを送り出したんだろう。全部本当のことを言うよ」
「リーダーだめです。それをしたら里から除名されて研究が・・・妹さんが」
「無理だよ。魔法使いの里は、私が断れないのを知ってここによこしているんだから」
「あーもうイライラする」
 私は、怒っています。
「茶番はやめなさい。そのシナリオも破綻していますよ。あなた。リーダと呼ばれた人。名前は、バービス・カストロール。里の中の10番目くらいかな。水系の魔法を操り、他にも色々習得しいていますが、妹なんていない。いたとしてもすでに死んでいるし、そのせいで里に縛られているわけでもない。そうですね」
「どうして真名まで知っている。私の記憶を覗いたのか」
「知りませんよ。子ども殺し!自分の子どもを研究に使って殺した女」
「おまえ、私の記憶を」
「だから知りませんよあんたのことなんか。さて、そこで見てるんでしょ。魔法使いの里の長。降りてきなさい」私は茶番に飽きて空を睨んでそう言った。
「何じゃばれておったか」不可視化の魔法で姿を消していたのか、ホウキに乗った魔法使いがそこに現れる。
「これは、明確な協定違反ではないですか」私はそう言って左手を魔女に向ける。
「その者たちはとうに里から除名しているわ。その事を伝えにわざわざ来たのだから」私の左手など気にしていない風に事もなげに魔女は言った
「そんな。嘘ですよね」
「帰って来ようにも来られぬぞ。鍵は変えてある」
「そ、そんな」全員が絶望した表情になった。
「本当に汚い魔女ですね。でも次こんなことしたら乗り込みますからね」
「なにを言う、里の場所など誰にもわからぬわ」魔女は鼻で笑った。
「ぼけ老人は早く引退した方が良いですよ」
 私は指を鳴らす。魔女の周囲のシールドにヒビが入る。
「まだまだじゃな。それではまたな」そうして魔女は消えた。
 地面には、放心した魔法使い達が土に埋まってうなだれている。私は、重量制御を使って、土の中から彼女たちを土ごと掘り出す。
「さて、私は記憶をのぞけるわけではありませんよ。あなたの情報は意図的に流されていたのです。魔法使いの里からね。私はあなたの名前も素性も何もかも事前に知っていたのです。他の5人分と一緒にね」
「それとこれを」
 私はホログラムを見せる。彼女が叫び声を上げているホログラムだ。
「私は、こういうのも得意なんですよ。なので、あなたに危害は加えていません。怖くないのですよ」
「でも、そんなこと種明かししたら」
「次の人が現れないことを祈りますね。その時には本当にやりますから」
「はい」
「しておぬしら、今回の本当のシナリオは何じゃ」
「リーダーの言ったとおり、獣人とエルフをそれぞれ引き込み分断させて、内部に混乱を起こせと言われていました。そして、あなたかモーラが出てきたら逃げろと。逃げられなければ、助けに行く部隊が待機しているから大丈夫だと」
「これは、あの長である魔女のお遊びに付き合わされたとみるのが正解じゃな」
「大丈夫ですよちゃんとお仕置きしておきましたら」
「なんじゃとシールドに阻まれたのではないのか」
「実は、メアが親書を届けに行った時に、すでにどこに里があるか特定していたのですよ。この世界のどこかにはあるとわかったので、そこに大穴開けておきました。帰ったらそれを見てうれしそうにするでしょうねえ」
「なんということをするんじゃ。全面戦争に・・・ならんか」
「ええ、先に不可侵地域に入ったのは魔法使いです。しかも私達は長がいたのを見ています。つまり里の者ではなくても魔法使いがこの地で悪さするのを止めもせず見ていたのですから、煽動したと取られても仕方ないのですよ。だからこの事を族長会議にかけられるわけないじゃないですか」
「また襲ってきそうじゃな」
「里を移すのにどのくらい掛かるかわかりませんけど、絶対突き止められるよう、一応タネはばらまいておきましたので」
「おぬしは、本当に用心深いのか短絡的なのかよくわからんな」モーラがそう言って頭をかく。
「短絡的で申し訳ないです」私も頭をかく。
「さてポカーンとしている魔法使いの皆さん。怖い思いをしてとっと帰りたいでしょうけど、そこの村の孤児院の手伝いをして欲しいので、そこに行ってくださいね。その前にその村の薬屋に顔を出して、店長のエリスさんにこの顛末を報告しておいてください。しないと・・・」
 一同、ほっとしている様子。そして一礼してそそくさとその場所を後にした。
「よかったのか?」
「里の方はすぐに里に帰れるようになるでしょう。そもそも里から追放は方便でしょうし」
「あそこで言った情報が流されたも嘘じゃな。頭の中を覗いたのであろう?そして絶叫させた」
「本人は憶えていないし。その後頭がすっきりしているみたいだし、足つぼマッサージをしてあげたようなものですよ」
「いつもやりすぎじゃよ」
「この世界は、甘やかすとつけあがる人たちばかりですからねえ」
「確かになあ。こうして離れてみると。この世界は矛盾だらけだしなあ。好戦的な魔族、支配欲の人間、閉鎖的なエルフ。まとまりのない獣人族、無駄な争いを回避するドワーフか。どこも一長一短じゃな」
「一長ありませんよ。一短ばかりですねえ」
「まあそう言うな。村の人だって元魔王の家族だっていい人はいるであろう」
「そうなんですよねえ」

○村の薬屋にて
 エリスの元に魔法使い達が押しかけている。バービス・カストロールが経過を話している。かなり詳細に話させられていた。
「それは本当に災難だったわね、ビスちゃん」
「そのちゃんづけやめてよ。ええとエリス」
「まあ、たぶん里には戻れるわよ、除籍処分なんて嘘よ」
「本当なの?」
「そうなんですか」
「え、どうして?」
「あそこではそう言わないと長がまずいからよ。まあ、あの魔法使いもそう思っているわよ」
 そこで臨時のベルがけたたましく鳴った。
「おや里からねえ。どうしたのかしら」
 裏手に回り何かを操作しているらしい。
「ええ本当なの?里に穴が空いた?誰の仕業?不明?あのバカがやったというの。やられたわ。わかったこっちで裏を取るわ。では」
「里に何か起こったのですか」
「まあ、帰ればわかると思うけど。里にでっかい穴が開けられたそうよ。誰の仕業か知らないけどね」
「え、それってもしかして」
「今の話の中であいつが長に指を鳴らしてシールドを傷つけたとか言っていたわね」
「はい、確かに」
「なるほどね。間違いないわ。でもどうやって里の位置を知ったのかしら」
 エリスは顎に手を当て考え込む。
「やられたわ。あいつメアと私が一緒に行った時に何か仕掛けたわね」
「どういうことですか」
「まあしようがない。あの時は、赤が直接会っているのだから。なんだ、行こうと思えばいつでも行けたんじゃない。でも、里も移動させるかしらねえ。もう昔ほどの体力も残ってないし。おっと」思わず口を押さえるエリス。
「まあ、様子がわかるまではここにいて、何日かは孤児院の手伝いをしていた方が良いかもしれないわね。やっていかないとあいつが見にくるかもしれないわよ」
 それを聞いて全員が怯えている。
 苦笑いをしながらエリスはそう言って。宿の手配と次に来る魔法使いの子達と連絡を取り、日程等を調整して、孤児院に一緒に行って顔合わせをしている。
「アンジーさん来てよ~。ここから先は別料金にしておくわね」
 そう言いながらエリスは、私の家に向かった。

○家にて
 無線機による中継無しでの脳内会話
『アンジーさんありがとうございました。気付きませんでしたよ。本当に助かりました』
『礼ならエリスに言ってちょうだい。あの人のおかげよ。まあこれは、言ってはいけないのでしょうけど』
『本当に良かったです。これは秘密ですねえ』

○ 廃城のユーリとアンジー
「ユーリ、どうしたら良いと思う?」
「私に聞かれても、直接会いに行って説明するとしか答えられませんよ。宣託の件だって、直接聞いた方が良いとしか言えません」
「そうよね。誠意は大事だわ」
 そうしてアンジーが悩んでいると、
「戻りました」と言ってメアが戻って来た
「ありがとう。それでどこにいるのかしら」
「意外と近くの川縁におりました」
「ふ~ん。魚釣りでもしていたのかしら?」
「どうしてわかりましたか?」メアが意外な顔をする。
「ユーリの話だと、馬車もなくあれだけ軽装で旅しているという事はね、食料の備蓄がなくて、日々の食料にも事欠いているとみたわ」
「アンジー様、さすがです」ユーリが驚いている。
「では、こちらの誠意を見せましょう」アンジーがニヤリと笑った。
「アンジー様、誠意とは何でしょうか」メアが少し微笑んで言った。
「ああ、正確には取引ね。それに際して必要なのは、荷馬車と馬と物資ね」
「それは買収とは違うんですか?」ユーリが突っ込んだ。
「違うわよ、宣託の勇者に対する神の施しね」
「なるほど」ユーリは、さすがに突っ込むのをやめた。
「問題なのは馬よ。さすがにうちの馬と荷馬車は優秀すぎて渡せないわ」アンジーが悩んでいる。
「荷馬車も秘密だらけですしね」メアが言った。
「荷馬車と馬ならなんとかしてもらえるかもしれません。あとからお返しすれば」ユーリが悩みながらもそう答えた。
「良いのかしら。ユーリがお願いすると何でもOKしそうよねえ」
「それはありそうです。まずお金を払いましょう。そして違う馬と馬車を保証するというのはどうですか」ユーリがそう言った。
「そうするしかないようね」
「あとですね。あのパーティーの忍者と知り合いになりまして」メアが困ったように言った。
「そうなの?」
「はい。探っていた時にこちらに気付いて戦いになり、私との実力差に白旗を揚げましたので、色々話を聞いたら、結構、パーティーへの不満を爆発してくれました」
「その子は来ているのでしょう?」
「ご賢察痛み入ります」突然天井から声がして、その声の主は、天井から忍者のような出で立ちで降りてきた。
「皆さん私の気配は察していらっしゃいましたよね」忍者は膝をついたままそう言った。
「そりゃあまあ。ユーリを見たら脇差しに手をかけていたし、メアも上を気にしていたからね。私が攻撃されればユーリが動くと思っていたから私はスルーしていたわよ」アンジーがあっさりと答える。
「そんな忍者としても資質が・・・」
「言っておいたでしょう。皆さんただ者ではないと」メアが慰める。
「その少女にさえ気付かれていたとは」
「自信を持ちなさい。あなたは出来る人よ。これからその資質を磨けばきっと優秀な忍者になれるわよ」アンジーがその忍者の頭を撫でる。
「ありがとうございます」頭を撫でられた忍者は顔を上げてアンジーを見る。目が輝いている。
「アンジー様。ここで信者を増やしてどうするんですか」ユーリがあきれて言った。
「ああそうだったわ。跪いている人を見るとつい優しく声をかけたくなるのよねえ。失敗だわ」
「いいえ、その言葉心にしみました。精進します」
「ひとつ教えて欲しいことがあるんだけど良いかしら」おおっとモードチェンジですねアンジー
「は、何なりと」
「あなたのところの勇者さんは、確か神から宣託を受けたと言っているけど本当なのかしら」
「本人が直接宣託を受けたわけではなく、もうひとりの男の魔法使いが宣託を受けたと言っております」
「そうなのね。で、それは本当なの?」
「確かにそれしか言いません。彼が勇者だと宣託を受けたとしか」
「それで、その勇者様には本当に資質があるのかしら。先ほど、この女剣士さんから聞いたことを考えるとどうも勇者らしくないような気がするのだけれど、あなたはどう思うの?」
「確かに言動は粗野ですが、正義のためであるとか、倒す目的が決まると集中して成果を上げるのです。先ほどの件は、さすがに様子がおかしかったのですが、普段はもっと冷静でそれほどでもないのです」
「やはりそうなんですか」ユーリが考え込んでいる。
「それでね、忍者さん。提案があるのだけれど」
「先ほどの馬と馬車のことでしょうか」
「そうよ。代わりにお願いがあるのよ」
「お聞かせ願いますか」
「この戦争を止めて欲しいのよ」
「まだ無理です。私達には実績も名声もありません。誰も私達の言葉などに耳を貸しません」
「そうね。でも実績も名声も今回両方手に入るわよ。手伝ってくれればね」アンジーが忍者の方に手をかけて忍者を立たせた。
「そ、それは確かに。最近伸び悩んでいますし、そのマジシャンズセブンという方々の噂があまりにも桁が違いすぎて、行く先々で勇者を名乗るなら~とか言われています」
「そ・それはまあ仕方がないわ。それは置いておいて、まず資金の問題よねえ」
「はい活動資金が乏しいので、大きな依頼も受けられず、得た収入も食費にほとんど回ってしまうので、装備も更新できずにいます」
「そういうことだったのね。では、今回この廃城にあった昔の装備に中からを使える物を持っていって、装備を一新し、馬と荷馬車と食料を用意しますので、それに乗ってハイランディスに乗り込んで欲しいのよ。悪い取引ではないと思うのだけれど」
「でも、きっと相手にしてくれませんよ」
「そこは大丈夫だから安心しなさい。その宣託を受けた参謀に話して、この話に興味を持ったのなら、あなたと2人で一度ここに来なさい。この話をその人に改めて話してあげるから」
「どうしてそこまでしてくれるのですか」
「それはね、私達が平和を望んでいるからよ。それは貴方達にもわかるでしょう。私達には力はない。貴方達には勇者の資質がある。どう、お互い得するでしょ?」
「平和ですか。そうですね。単なる小競り合いだったものがやはり戦争に発展していましたし。わかりました説得してみます」
「説得はしなくて良いのよ。この事実だけ伝えてちょうだい。いいわね」
「はい」そう言って一瞬で消えた。さすが忍者。
「よかったのですか?あんな嘘を言って」メアがそう言った。
「私天使だから嘘は言っていないわよ、余計な事は言わないだけで」アンジーがなぜ今更そんな事を聞くのか?という顔でそう言った。
「え、でも嘘を言っていませんでしたか?」ユーリがビックリしています。
「だから私は嘘をついていませんよ」アンジーが重ねてそう言った。
「だってこの廃城にある昔の装備とか」ユーリの頭にははてなマークが飛び交っている。
「ああ、嘘は言っていないわよ。一緒に来て」
 アンジーに連れられて、2人は倉庫のような所のさらに奥に入って行く。その先は、柱などが折れて重なっていて部屋であることが一見してわからなくなっている。アンジーは、倒れている柱を器用に越えたり、しゃがんで下をくぐったりしてさらに奥に入って行く。
 アンジーが立ち止まるとそこには、武具や防具が飾ってあった。もっとも、がれきの中に埋もれていて、土埃が覆い、槍などは錆びているのがわかる。
「こんな所どうして知っているんですか」ユーリがびっくりしている。
「前回来た時にユーリが倒れたじゃない。その時にこの建物の中を色々見て回ったのよ。その時にね。これを見つけていたのよ」
「ですが、こんな古くて錆びた物を渡すんですか」メアがおいてある埃まみれの鉄兜を汚いものを触るような感じでつまみ上げる。
「そう思うわよねえ」
 アンジーは笑いながら、そこにあった剣を両手で触りながら目をつぶる。温かい光が剣を包み、錆や傷などが元に戻っていき、新品のようになる。
「光の回復魔法ですか」メアもユーリも驚いている。
「そうね。でも一度古くなっているから、完璧に戻るわけでもないのだけれど、それだって耐久性がやや劣るだけよ」
「エルフィの回復魔法とは違うのですね」メアがそう聞いた。
「そうね、あいつに言わせると神代魔法と一般の魔法では、基礎理論が違うのだそうよ。もっとも使っている人達には理論なんて関係ないのだとも言っていたわ」
「確かにご主人様は、モーラ様にもそう言っていましたね」
「まあ、これは後でも良いのよ。とりあえずあることを確認しにきただけよ。馬と荷馬車を確保しましょう。あ、ユーリ、これを一部もらい受けても良いわよね」
「ええ、私には必要のないものですし、かまいません。ですが、差し上げる物以外で使える物があるなら、住んでいる方々にもお渡ししたいですが」
「お安いご用よ。こんなところで使ってもらえるなら。領主冥利につきるでしょうしね」
 そう言って3人でそこを出て、1階のホールに向かう。そこには困った顔のリアンがいた。
「あ、ユーリさん何とかしてくださいよ」
「どうしたのですか」
「孫に似ているとか、みんなが言い出しまして、色々と世話してくれるのですが、私自身ネクロマンサーなのであまり親しくしたくないんですよ。それにすでにこの周辺に死体を配置しているので、監視に入りたいのですが、他の町の話をして欲しいと言って離してくれないのです」リアンが本当に困っている。
「わかりました。少し話してみましょう」ユーリがリアンの周りにいた人たちに説明をしに近付いて行く。
「お願いします。僕は、鐘楼に上がって監視を始めます」
「お願いね」アンジーが声をかけた。
「まあ、食事と安全と引き換えだから仕方ないけど、本当はひとりで暮らしたいでしょうにね」リアンの後ろ姿を見ながらアンジーが言った。
「そうですね。親しくなれば別れるのがつらくなり、ましてや近所に暮らしています。正体がばれた時に皆さんの見る目が変わるのが恐いのでしょう」メアも悲しげに言った。
「誘ったのは、失敗だったかしら」
「いえ、あの小石の効果を消していないので、同じような事が起きると思われます。なので、あそこにひとりで暮らしているのはさすがに危険かと思います」
「そうよね。さて、この良い匂いは夕食なのかしらねえ。ああ、あの人達にも分けてあげた方が良かったかしら」アンジーはそう言って、上を見上げた。
「いいえ、施しは受けないと、あの勇者なら言いそうです」
「確かにそうね」

 クシュン その噂の勇者はくしゃみをした。


続く
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