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第25話 DT神から見放される

第24-3話 戦争とユーリの旅先

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○戦争のその後を予想する
「戦争やめさせますか?」
 私は正直な気持ちをみんなに伝えた。
「おぬし。他国間の戦争にまで介入する気か」モーラが身を乗り出した。
「だって、子ども達がかわいそうでしょう。本当は親子で暮らしたいでしょう?それにこの村の食料だって無限ではありません。その費用だけを考えたって、うちの村に迷惑がかかっているでしょう」
「まあ費用の面はねえ、たぶんしばらくは大丈夫なのよ。ここファーンと隣町のベリアルからビギナギルへの荷物の輸送は、モーラのおかげで格段に安全になったのよ。それで村で生産している物資の大量輸送が可能になっていて、ビギナギルを中継地にして、ロスティア、ハイランディス、それ以外の国に対して物資を販売してけっこう潤っているのよ」
「なるほど。まあ死の商人でないだけましですが、うちの村はそんなに大量に物資を供給できるようになったのですか」
「あんたのおかげで、綿花の品種改良が進んで栽培量が増えているから、他国に輸出できるようになったのだし、牧畜だって、タグで管理をするようになって、乳牛と食用牛、鶏、豚の世代管理や飼育の合理化ができたおかげで、格段に効率化省力化できたから頭数を増やせたからなのよ。あんた自覚無いの?」アンジーがあきれている。
「そういえば、色々アドバイスしましたねえ。さてパム。この村が戦争に巻き込まれる可能性はありますか」私はパムを少し強い視線で見て尋ねました。
「今回の戦争だけを取り上げれば、巻き込まれる可能性は無いと断言できます。でも、この3国のうちいずれか1国が完全勝利した場合。まずビギナギルが、そして次にここが目標にされるのは間違いありません」
「なるほど。武力を持たない都市は次々と併合していくと。そうしないと戦争には勝ったけれど国民が飢えるということですね」
「そうなると思います。ですから私たちの暮らしに影響が出ないように、この戦争は必ず現状の3すくみのままで終わらせる必要があります」パムが確信を持ってそう言った。おやずいぶんと断言していますねえ。
「そうですか」
「あともう一つ方法がありますが、聞きますか?」
「選択肢は多い方が良いですねえ」
「魔王と呼ばれている者がその全てを蹴散らして3国全てを統治することです。もちろん魔王とは、ぬし様ですけれど。これが一番私達が今後安心して暮らせる理想的な状況を作り出せます」
「私は他国と戦争する気もありませんし、もちろん国など治める気もありませんよ。私の背中に国民は重すぎて抱えきれません」私は棒読みでそう言いました。
「そう言うと思っていましたが念のためお伝えしました。あと、一応これをお渡ししておきます」そう言ってパムは、ちょっと厚めの書類をテーブルの上に取り出した。
「なんですかこの手紙は」
「魔王様に宛てた嘆願書です」
「どんな嘆願を魔王に対してするというのでしょうか」
「私は、戦争に巻き込まれた街の魔法使いさんから、あてがあれば魔王様に渡して欲しいと託されました。村長のところにも同じ物がすでに届いているみたいです。そして村には、戦争の起きている3国の市民がそれぞれ大使を立てて訪れています。誰かに戦争を止めて欲しいと。村長はそんな人はここにはいないと帰ってもらおうとしていますが、見つかるまではと宿に泊まっているようです」
「今度は戦争調停士か。忙しいのう」モーラが私を見て笑っています。人ごとだと思っていますね。
「残念ながら私の背中には荷が重すぎます。そういうことはどこか力のある国に依頼して欲しいのですが」
「他の国では利害関係があって泥沼になりそうじゃなあ。ましてや他の種族では言う事を聞かぬだろうし」
「ビギナギルが立国してハイランディスを牽制して、ロスティアがもう一方の国と膠着状態になっても収まるとは思いますが、残念ながらビギナギルは、傭兵と冒険者はいても兵士がいませんからそうもいかないでしょう」
「ビギナギルは、今回の戦争で一番潤っていそうですからねえ。それを手放してまで戦争に介入しないでしょう。あと、私は魔王でもありませんし、ただの一村民ですよ。さてアンジーさん。これからどうしたらいいですかねえ」私はアンジーに話を持っていく。
「3すくみが一番無難よねえ。まあ、あんたもよく考えて好きにすれば良いでしょ。私が今一番困っているのは、次に孤児院に行ったらその人達に捕まるだろうということくらいよ。私が天使様と呼ばれていることを察知しているでしょうし、魔王様にお取り次ぎを~とか言い出しそうだしね。いや、天使が魔王の取次ぎをするなんて冗談が過ぎるでしょう。それはまあ良いとして、あんたはどう思うのよ。魔王として何とかしてあげたらどうなの」アンジーは私を見て言いました。少し笑っていませんか?
「まだ魔王よりも天使様の方が3国の国王に対して発言力がありそうですけどねえ」
「わかっているでしょう?この時代は天使の認知度が低いのよ。だから天使ってなに?魔族の一種?的な扱いになるのは間違いないし、私の神の教義は、戦争を良いとも悪いとも言っていないのよ。しかも悪意に対して無抵抗が原則なのよ。戦争を起こした方に無条件降伏しろっていうのが考え方なんだから誰も従わないわよ」アンジーがあきれてそう言った。
「殺すくらいなら殺されろですからねえ。無抵抗主義もここまでくればどうにでもなれですね」私もその教義にはちょっと意見したいです。
「今回の事、魔族側はどう思っているのでしょうか」不安そうな顔でメアが言った。
「そうじゃなあ。アンジー聞いてみてくれぬか」
「わかったわ。ちょっと行ってくる」
「一緒に行きましょうか」メアが心配そうに言った。
「そうねメア。一緒に来てくれるかしら。私を保護したことにして孤児院に連れて行って欲しいの」
「わかりました」
「ではこのフードをかぶってください。そして外に出たら汚れをつけて」 
「はいはい。森の中を遠回りしてここから出たことを気付かれないようにするわ」
「アンジー、申し訳ありませんが、少し待ってもらえませんか。それはすべての話が終わってからにしてもらえませんか。魔王様にはこちらの解決策も聞いて欲しいですし」
「そうするわ。しかしそんなにこのあたりも物騒になっているのかしら」
「最近この辺を変な人がうろつき回っています」とメア
「特使の方達ですか?」
「いえ。戦争を起こしている3国の間者です。多分魔王を探し出して味方についてもらおうとしているのでしょう」
「前回の魔法使いの時には、探したら行方不明になるということが噂になって、下火になっていましたけど、怖くないのですかねえ」私はあきれ返っています。
「それをおしてもなお、あるじ様が必要なのでしょう」
「確かにそんなに強い者なら、味方につけたところが勝つことになるからなあ」とモーラが言った時に扉が開いてレイが入ってくる。
「あの~遊園地にたくさん人が引っかかっていました。けが人は出ていませんけど。このままにしますか?」レイがそう言った。
 遊園地とは、以前作った間者撃退用の罠のことです。今はレベルをかなり低くして、子どもでも遊べるようにしてあります。子ども達は素直なので変なことはしないですし、低身長の人達の視線にあわせて順路の矢印も作ってあります。引っかかるのは心の汚い人達だけです。ちなみにレイはたまに遊びに行っているようです。この辺は娯楽がありませんからねえ。
「本当に間者が増えてきたのですねえ。魔王登場は考えられませんが、私は動かないでなおかつ3国いずれも勝たせないように画策しなければならないという事ですね」少しだけ私はワクワクしてきました。裏から世界を操るって面白そうじゃないですか。
「どうするつもりじゃ」モーラが怪訝そうな表情で私を見ます。
「ふとロスティアの事を考えたんですが、一番先に王女様の顔が思い出されましてねえ。勇者パーティーなのに自国民のために戦わざるを得なくなっているのだろうなあと思いましたよ。そして、あと2組勇者パーティーがあるんですから、それぞれの国に派遣して戦いをやめさせることができないかなあと、今思いつきました」私は自分のアイディアが妙に気に入りました。
「ふむ。おもしろそうだな」
「その王女様ですが、ハイランディスではなくマクレスタと戦っていて、殺さないように頑張っているようです」とパムが付け加える
「勇者として悩んだ末のことなんでしょうねえ」
「まあ、殺すよりもケガをさせた方が相手の戦力をそぐことになりますから当然と言えば当然ですが。思ったよりも軽くしかケガさせていないようで、戦力をそぎ切れていないようです」
「それもまた悲しいことですね。少しは手伝いたくなりましたよ。それと、ジャガーさん達は今どこにいるかわかりますか」
「旅先でお会いしましたが、マクレスタ国の近郊にいました。ジャガーさんは参戦したがっていますが、フェイさんがなんとかなだめているようですよ」
「さすがフェイさん。賢明ですね。さて、最後の俺様勇者さん達ですが、どこにいるのでしょうか」
「もしかしたら、ユーリと出会うかもしれません」パムが言いづらそうに言った。
「え?」
「パム。おぬしもしかして」モーラがパムをジロリと見ました。
「いえ本当に偶然です。まあこの場合、偶然は必然なのかもしれませんけど。実は、彼らの噂を聞けるのは、冒険者組合があるような国の辺境の地方なのです。その方達は、冒険者組合で依頼を受けて、魔獣討伐などを行って、その成果で自分達の名前を広めているようなのです。しかし、冒険者組合があって、かつ辺境の地方などというところはもうほとんど回ってしまっていて、残っているのはロスティアに滅ぼされたユーリがいるあの一帯と冒険者組合の加入条件が厳しいビギナギル。冒険者組合を最近作った、ここファーンとベリアル位なのですよ。
 そう考えますと、一番遠いここファーンかベリアルが最後で、この中ではあそこの地方に現れるのではないかと思います。私は情報を整理して予測しただけです」
「それをわかっていて、おぬし、ユーリを誘い出したのではないか」
「私は、家族のためにならない事はするつもりはありません。私が戦争の様子を見に旅立つ時にどこに行くのかと聞かれ、ロスティア、ハイランディス、マクレスタに戦争がありそうだと話すと、ユーリからあの地方はどうなのかと聞かれて、わかる範囲で調べましょうと言っていたのです。しかし、その時から私と一緒に行きたいそぶりを見せていました。
 今回戻って来た時に、モーラ様との脳内会話をユーリも聞いて、あの地方の状況を詳しく聞かれました。さらには、ぬし様に願い出て出立するつもりだが、荷物は何を持てば良いのかと内密に相談されました。
 ただ、あの地方の状況は本当にわからなかったので、わからないと答えたのですが、それでも略奪の可能性などをしつこく聞かれたので、しかたなく可能性はあると話したのです。ユーリは、「やっぱり行くしかないですね」と私に言いました。ですから最初からユーリの気持ちは決まっていたのです。その後やめるように私が止めても覆らないほどに」
「そうか、そうであったか。すまぬ。どうも誰でも疑ってしまいたくなっているようじゃ。わびさせてくれ」
「いつも思うのですが、モーラ様は謝ってばかりですね。私にはその疑う言葉さえ家族を思う気持ちが含まれているのが伝わってきます。ですから気にしないでください」パムはやさしくそう言った。
「いや。おぬしにはそういう事ばかり頼んでいるのにこういう時には疑ってしまう。わしの心根の問題じゃ」
「さて話を戻しましょうか」
「はい。で、ぬし様どうするつもりですか?」
「今の話を聞いて、やはり3勇者による戦争中止を行わせるのが良さそうだなあと思いましたね。特にジャガーさんについては、やる気満々のようですから、操りやすそうですしね」私はニヤリと笑って言いました。
「この戦争そのものが悪だと言えば止めに入るだろうな」
「残りの俺様勇者さん達が中心となってこの戦争を止めて、彼らを一躍有名にするというのはどうですか?」と私は続ける。
「なるほど。それが一番角が立たないな。さて、その話をどう持って行くのか考えようか」
「そういえば。その勇者一行は、自分たちこそが勇者で、神から宣託のあったのは我々だけだと公言しているそうです」とパムが言った。
「神から宣託があったと言っているの?ありえないわよ。今代の神は何もしていないし、天界にもほとんど声をかけていらっしゃらないのだから。そもそも宣託などあるわけがないのよ」アンジーが珍しく声を荒げる。
「なるほど。嘘を言っているのか、本当に宣託を受けたのか、それとも」
「誰かが神をかたって彼らに宣託をしたか・・・ですね」とパムが言いました。モーラはおいしいところを持って行かれてパムを恨めしそうに見ている。おお、ちょっと可愛い。
「まあそんなところじゃろうなあ。アンジー、魔王にコンタクトを取った後で、おぬしが気にしていることを確かめるために早めにユーリのところへ行ってきてくれんか。わしもちょっとドラゴンの里に行ってくるわ。あとレイ。ちょっとこっちへこい」
「はいわかりました。洞窟に行って獣人さんに話をしてくれば良いのですね」
「ああ、わしには言いづらいこともあるじゃろう。無理に聞き出さなくても良いから、もう一度こちらに来た時の話を詳しく聞いてくれぬか」
「わかりました。聞いてみます」
『エルフィ聞こえておるな。わしのいない間、わしの縄張りの見張りをよろしくな。あと、森にいるエルフ族の者達の世話を頼んだぞ』
『はい~わかりました~』
「何かが動き出しましたね」パムが言った。
「しかし想定外じゃ」
「そうなんですか?」パムがびっくりしている。
「ああ、動きが早すぎる。またいつもの「見えない手」がわしらをどうかしようとしているとしか思えん。とてつもなく不安じゃ」
「確かに各種族の一部離反は、ある程度想定していましたが、戦争が起きたタイミングや不可侵地帯への他種族の移動。魔王の噂の広まり方も早すぎますね」パムがそう言った。
「いったい何をさせたいのじゃろうか」
「モーラ様考えないようにされていませんか」
「あ?わしがか」
「はい。ぬし様の気持ちを優先しすぎていませんか?」
「ああそうか。そういうことか。確かにこやつを箱に入れておくには良い手ではあるな」
「そうなのです。ぬし様に首輪・足かせをかけることになります」
「なんなのですかそれは。私に首輪とか足かせとか」
「ここにぬし様の国を作らせるのです」
「ああ。おぬしに3国の対立を平定もしくは占領させ、その力を世界に示して独立国家を作らせるという筋書きではないのかとな」
「もしくは、3国が統一され、次の矛先がぬし様に向いて、それを撃退して自分の住む地方を守るために国を作らざるを得なくなる。そうすれば国民を人質としてぬし様に対して色々な行動制限を掛けたり要求できるようになります」
「いやいや。その論理は前提から破綻していますよ」
「なんじゃいってみよ」
「私が守るのは家族だけです。その家族でさえ人質に取られたら、そんな卑怯な手を使う者には家族の生死に関わらず反撃するのです。そんな私に対して国民を人質にするというのですか?ちゃんちゃらおかしいですよ。残念ながら私は、国民が死ぬことなんて気にせずに完全に反撃しますね。別に国民から不平を言われたって、だったら他の国へ行きなさいと言ってしまうでしょうし」
「確かにおぬしはそう言う奴であった。今回の事を起こした敵はそこまで読み切っていないのかもしれないしなあ」
「ぬし様の気持ちはわかりました。ですからこれを阻止する方向で、さきほどの勇者による3国3すくみを実行しましょう」パムが軌道修正した。
「ああそうじゃな。戦争が3すくみで終結して、それをおぬしがやっていないとすれば、そもそも国など作ることなどしなくても良いのじゃから」
「真の敵がいるのならそこまで読み切っていませんか?」
「そうかもしれん。しかしなあ。わしらを手玉に取る奴らを相手にわしらの稚拙な頭ではこれが精一杯じゃ」
「そうですね。とりあえず戦争を早くやめさせましょう」
「パムすまんが」
「はい。私はジャガーさんの元に参ります」
「わしは、念のためドラゴンの里に行き、この件の裏を取る」
「私はルシフェル様に聞いてくるわ。その後ユーリの所に向かうわ」
「私は、全員が配置についた後にロスティアの姫のところに現れましょう。交渉のテーブルにつくようにね」私も少しは活躍したいのですよ。蚊帳の外は嫌ですね。
『エルフィとレイにはここを守ってもらいましょう。いいですか?』
『『はい』』良いお返事ですね。心が揃っています。

○フェルバーンにて
 ユーリは胸騒ぎが収まらない。あるじ様におでこに長いキスをしてもらった時だけドキドキした。でも、クウに荷馬車をつけ、多少なりともメアさんからいただいた生活物資を乗せて、あの地を目指しクウを走らせていると、そのドキドキもどこかに消えてしまった。あとには不安しか残っていない。
 どうしてあの地が気になるのだろう。自分の記憶や思い出があるわけではない。おぼろげながら城の中を思い出すだけなのに。それでも、そこに暮らす人々を守らなければならないという強い義務感が生じている。そんな自分に苦笑いしている。あの時この地とは関係ないと言い切った私が、今こうして駆けつけようとしている。
 私はなぜ馬を走らせているのか。一度は振り切った場所、思い出もうろ覚えな廃墟。そこにいて頭を下げてくれた人々の事がなぜか思い出される。私は今だけでもこの地を守りたいとなぜか思ってしまった。王になるつもりはない。手助けしたらきっとすがられる。でもその時再び裏切る事になっても、今生きている人を守りたい。それが今の嘘偽らざる気持ちだ。わからない。
 エルフィだって、嫌いだと言っている里を守るために必死だった。それとは少し違うかもしれないけど、私は命が失われるのが嫌なのだ。知らなければきっと何もしなかったのだろう。知らずにそこに暮らす人が死んでしまっても何も感じなかったかもしれない。でも知ってしまった今。こうしないときっと後悔するのだ。あるじ様は動けない。私もあるじ様のそばを動いてはいけないのかもしれない。でも許されるなら見覚えのある人達の命を少しでも多く救いたい。死んでないのなら戦争が終わるまでは守りたい。そう感じている。
 なぜあの時にはそう思わなかったのか?今はどうしてそう思うのか?きっと自分に家族ができたからなのかもしれない。自分がやっと安心できたから、余裕ができたから。いつでも戻ればそこに家族がいるから、私はわがままを言えるのかもしれない。そう思ったら少しだけ気が楽になった。これは私のわがままで私にはわがままを言える家族がいる。だからできることなのだと。だからしばらくの間。戦争が終わるまで離れることを今は寂しく思わないでいられそうだ。
「クウごめんね、無理しないで」そう言いながらも、短い休憩を挟んで駆けさせている。モーラに頼めばすぐに到着するというのにこうして馬で駆けている。
『ユーリ聞こえるか。わしじゃモーラじゃ。里に行くついでじゃわしの手に乗れ』
『いいのですか?』
『ああ、パムも別な場所に送っていくところじゃ。問題ない。それに戦争は膠着しているらしいから、近隣の集落は簒奪に遭いやすいらしい。急いだほうが良いようだぞ』
『了解しました』
 そうして私は、途中でモーラの手に乗り現地に到着した。そこにはまだ普通の集落がありました。
 集落の手前のロアンの所に少しだけ荷物を持っていく。
「ロアンいますか?ユーリです。わかりますか」
 周辺に向けて大声を出す。ゾンビが近づいてくる。
「ご主人様・・・じゃないか。あなたの友達を呼んでください」
 ゾンビはその意味を理解したのか体を揺らしながらどこかに向かっていく。しばらく待つとゾンビと共に彼がやってくる。
「いったいどうしたのですか一人でこんな所へ。ここは戦争中なのです。大変危険なのですよ」
 ユーリは会って早々、彼に怒られました。
「あるじ様の他、うちの皆さんが心配していましたよ。大丈夫なのかと。安心しました。これをどうぞ」
 ユーリは数箱の荷物を荷馬車から降ろして手渡す。
「これはいったい。生活物資ですか?」
「すべてをお渡しするわけには行きませんが、この辺の方々におわけしようと思って。その様子だとこの辺はまだ襲撃されていないのですね」
「ええ。数日前にここを迂回路にして兵士が通っていきました。兵士の姿から、たぶんハイランディスを背後から襲うつもりのロスティアの兵士ではないかと。その後は現れていませんが、もしかしたら戻りしなに、簒奪に現れるかもしれません。ですからこうして隠れていたのです」
「この物資のうち一週間程度暮らせる分をお渡しします。必要になればまた差し上げます。とりあえず、この先に住んでいる人達の様子を見に行こうと思います」
「ありがとうございます。たぶんあの廃城に隠れているのではないかと思います。私も呼ばれましたがお断りしましたので」
「そうですか。一つだけお願いがあります。私に何か不慮のことがあったならば、私の家族がここを訪れた時にその事をお伝えください」
「いいのですか」
「もちろん死ぬつもりはありませんよ」
「お気をつけて」
「ありがとうございます」
 ユーリは荷馬車に乗り、ゆっくりと自分が生まれた廃城に向かう。城に近づくにつれて懐かしさを感じる。自分の記憶には本当はないはずだ。私は生まれてから城から出たことがほとんどないはずなのだから。廃城に近づくに従って、廃城からの視線を感じる。そして外門の所に人影が見える。
「姫様ですな」
「いいえユーリです。姫ではありません」
「そんなことはどうでもいいことです。どうしてこちらに。ここはもうじき戦場になるかもしれないのですよ。大変危険な場所です。お帰りくださいますようお願いします」
「ならばどうして皆さんここにいますか」
「我らのような年寄りは、襲われて手持ちの蓄えまでとられたらこの乾期をこせますまい。ならばここで最後の戦いをと考えております」
「逃げることはできませんか」
「もう逃げるのは無理です。あてもありませんので」
「助けも求められませんか」
「ここは、誰か助けが来るような所ではありません。魔獣が襲いにくるか、簒奪者が荷物を奪いに来るかそのくらいしか現れません」
「やはりそうですか」
「姫様はどうしてここへ。まさか私たちを助けに」
「あるじ様の許可をもらってここに来ました。ですが・・・」
「その手を血で染めてはいけません。それくらいなら私たちが盾になってでも」
「そうではないのです。私は、あるじ様から不殺という考え方を教えられております。今はまだ未熟で、その道の途上にて試行錯誤を繰り返しております。これまで一対一での戦いでは何とかなってきました。しかし、一対多の場合はどうだろうと」
「言い訳はよろしいです。年寄りに理屈は必要ありません。助けに来てくれてうれしいです。ありがとうございます」
「ここにいる人達がすべてですか」
「いいえ、家から離れようとしない者が数人おります」
「私が説得に行きます」
「ありがとうございます。すぐに行きましょう」
「クウ、もしここが襲われるようなら私の匂いを追って知らせに来てください」
 ユーリは、クウにつけていた荷馬車を外して、鞍を付ける。
「ヒン」
「では行きましょう」
 その人は、中の人に何かサインを送ってユーリと共にそこから移動した。

○簒奪者
「あそこの家が最後です」
 遠い家から順番に回り、その人達を連れて、道を避けながら遠回りをして最後の家に近づいた。そこには数人の男がその家を取り囲んでいた。
「いい加減出てこいや」その中のひとりの男が扉を叩きながら叫んでいる。
 ユーリは、その下卑た声を聞くと、何も言わずに数人の兵士に向かって走り出していた。
 ユーリの足音に気付いて振り向く兵士達。ユーリのまとう怒りのオーラに思わず剣を抜く兵士達。ユーリは脇腹のベルトに差している短剣に手をかける。
 ユーリは、剣を構えた兵士の目の前で加速して、その間を駆け抜けていた。一瞬に数回の金属音がして、兵士達は、何が起こったかわからないまま呆然と立ちすくむ。その後すぐに軽い金属音が数回響き、兵士達の持っていた剣が鍔元から切られて足元に落ちているのに気付いた。
「に、逃げろ」
 兵士のひとりが叫ぶと一目散に森の中に逃げていく。ユーリは、兵士達が森の中まで消えるのを確認してから、家の中の人に声を掛けて説得を始める。簡単に説得に応じたその夫婦を連れて、一緒に廃城にもどろうとしていた。ユーリが連れているのは十人くらいになっている。そして、あの城が見えるあたりで、城に煙が上がっているのが見え、こちらにクウが走ってくる。
「私は馬で先に行きます」



Appendix
わかりました。とにかく彼を表舞台に引きずり出せばいいのですね。
姫騎士さんがゆかりの土地に向かったようですから何かを起こしましょうか。
そして彼が姫騎士を助けに来た時に遭遇したロスティアの兵士と戦ってもらうように仕向けます。


続く
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