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第23話 アンジー天界から用事を言いつけられる

第23-6話 親書は届くよどこまでも(先着順)5 パム

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○ ドワーフの里へゆ~びんで~す
 たぶんパムが最後に到着したのだ。みんなのことを考慮すれば、10日目ギリギリに到着するべきだと考えたからだ。
 出発する時に、パムはウンに対して、
「ウン、すまないがペースを上げて走りたいのだが。大丈夫だろうか」
 パムはウンの首を優しくなでてそう告げた。
「ヒン」ウンは、パムに頭をすりつける。
「ありがとう。では行こうか」
 パムは鞍をつかみ軽く乗り、そっとお腹を蹴る。思わず落ちそうになるくらい鋭いダッシュをするウン。
「おいおいそんなペースで持つのですか?無理してバテないでくださいね」
 その言葉に少しスピードを落とすが、いつもの馬車を引くスピード時とは段違いの速さだ。
「疲れたら休んでください。ペース配分はまかせますよ」
 そして見慣れた道を走り出した。
 それからはあまり憶えていない。ウンの方が先に魔獣を発見しスピードを上げようとする。しかしスタミナが無いのであまりあがらない。落ち着かせて速度を落として休憩させる。その間に魔獣が追いついてくるので、パムが一撃で倒し、その肉を周囲にばらまいたりしている。
「いけるかい?」
「ヒン」
 そうして、普通に休憩する時、魔獣と遭遇するタイミングで休憩する時など、休憩を挟むインターバルを細かくして走って行く。
 町に近づくと何度か盗賊が現れた時には、ウンだけをゆっくり走らせ、盗賊が馬を取り囲んだ時に後ろから一人ずつ昏倒させていった。
「本来は皆殺しにするのですが、私のぬし様のお考えゆえ殺さずに去ります。これを機に心を改めるように」
 首領らしき男にそう言い聞かせ、パムは馬に乗ってそこを去る。
 それでも、7日ほどで里から一番近い町に到着し、アンジー様に言われたように宿に2部屋取って、その宿の馬小屋で眠った。翌朝、案の定、部屋を荒らされた様子がある。
「アンジー様はどうしてここまで想定できていたのでしょうか。確かに個別に襲撃されることは予想していましたが。親書のシステムを知らない者の仕業なのでしょうか?」
 パムはそうつぶやき、今度は宿を引き払い、野宿のための場所を探して町を出た。
 町を出た時には、すでに周囲に気配がある。野宿の場所を川縁に決めて、そこから動かないでいたが、周囲の気配も動こうとしない。うっとうしいが、何もしてこなければこちらから手を出さないように言われていた。そして、9日目の朝、里に向かって馬を走らせる。しばらく走って、ついに砂漠地帯に入ろうとした。目的地がわかったのか、周囲に潜んでいた者達はいなくなり。代わりに待ち受ける数人の影があった。
 パムはウンから降りてその場に待たせて、そちらに歩いて行く。
「馬には手を出さないでもらいましょうか。もっとも馬の周りにシールドを張っているので攻撃はできません。まあ、馬を殺されたとしてもこの距離なら親書を届けることはできます」パムはその人影に向かってそう言った。
「親書を渡してもらおうか」
 中央に立っている男が言った。
「それはできません」
「ならば力ずくとなるが、かまわないか」
「ええ、別にかまいませんよ。後ろの方達は怯えているようですけど、全員で襲えば少しは恐くないでしょう」パムは彼らがドワーフである事、見知った者達である事を確認して、ヤレヤレといった感じでそう言った。
「あれは、お前が長老にした仕打ちを見たことがトラウマになっているだけだ」中央のドワーフは語気を強めて言った。
「ということは、あなた達は里の者と言うことですね」パムはわかっていながら、あえて確認する。
「今更それを言うか。あの町に着いた時からわかっていたのだろう?」
「いいえ、先ほど知りました。まさか里の者が親書を奪おうとするなんて考えていませんでしたから」
「お前は、里を信用していないのではなかったのか?」
「それはそうです。信用していません。ですが、対外的な事にまでおかしな事をするとは思ってはいませんでした。非情に残念です」パムは本当に残念そうだ。
「まあいいから親書をよこせ。俺が新しい長老に渡す」
「残念ながら私は新しい長老を知りません。私が渡すのは私が無残に両手両足を不自由にしたあの人のことです」
「ああそうだ。まだ生きてはいる。しかしあの人はもうダメだ。狂ってしまった」
「お気の毒です」
「お前がやったのだろう」やはり怒りが言葉に出てくる。
「はい。殺したかったのですが、ぬし様に止められましたので」パムも負けずにそう言い返した。
「残りの連中も何人かには、同じようなことをしたろう」
「はい。祖父の死の真実と両親の死の真実を聞き出すために」パムは当たり前の事をしたかの用に平然と答える。心情はわからないが。
「そうだったのか」その男は何も知らされていないのか複雑な表情をして言った。
「私はその事を心に刻み、ぬし様と共に生きていきます。ぬし様に何か危害が加えられることになるなら、私が呪いをかぶっても守り抜きます。それが今の私の気持ちです」パムは本当に素直にそう言った。表情は晴れ晴れとしているようにも見える。
「それほどに惚れたか」あきれたようにそう聞く。
「はい。共に生活すればするほど、その考え方には感服させられます。私が愛し、仕える人はぬし様以外にはいないとそう思えるくらいには」パムは嬉しそうに言った。
「洗脳されているのではないか?」
「何を言いますか。魔法耐性を持つ我々にそういう類いの魔法を効きません。いや私は、私自身を洗脳しているのかもしれませんね」
「ならば何も言うまい。親書をかけて勝負してもらいたい」
「嫌です。意味がありません」
「勝負しないだと?」
「はい。結果も見えているので、無駄なことはしたくありません」
「なんだと・・」
「これまで私に一度でも勝ったことがありますか?」
「・・・」
「全員でかかってくれば、まだいくばくか可能性が生まれるかもしれません。または、ここに罠でも仕掛けてあれば、それも効果的です。でも、この人数でこのような形で対峙した段階で、その可能性もないと断言できます」
「罠を仕掛けていないとでも?」
「ええ、それについては、昨日の夜から一度この範囲を確認していますからまずありません」
「お前は、ずっと寝ていただろう?」
「だからそれを見抜けない程度なのですよ。あなた達は」
「・・・」
「さて、私の今の実力がどれくらいか教えましょう。1対1ではすぐ終わりそうなので、全員でかかってきてください」
「ふざけるな。1対1で十分だ」
「それは自己評価が高すぎませんか?もっと謙虚になりませんと」
「お前だってそうだろう」
「謙虚に申していますよ。それだから申しています」
「じゃあまず1対1だ」
「どんな手を使ってもかまいません。卑怯とも言いません。殺すつもりで全力できてください。誰か合図を」
 そう言うとパムは小さい体のまま自然体のままそこに立っている。
「なぜ大きくならない」
「必要ないからです。ではどうぞ」
「馬鹿にしやがって」いきなり組み付こうと近づく。パムは消え後ろに回り込んでいる。
「まず一回死にましたよ」
 パムはその男の頸椎に指を当てている。
「なるほど。速さで勝つと」
「いいえ、そうではありませんよ」
 パムはその場で二回り大きくなり、スピード重視の体型でなく、体力重視の体型に変化させて、その場を離れて再び向き合う。
「ではどうぞ」パムがそう言いかけると、その男は突進してくる。またもパムは消え、その男の後ろに回り込み、
「はい。二回死にましたよ」
 パムは、同じように首に指を押し当てて言った。
「体が大きくなっても速度が落ちないと?」
「いえ、体が小さい時にスピードを抑えていましたから」
「それであのスピードなのか」
「まだ本気ではありませんよ」
 パムは体をいつもの大きさに戻してその男と距離を取る。男はジリジリと近づき、しかし近づきすぎず、徐々にパムの回りを回り始める。パムは、その男に向かい合うでもなくただ立っている。その男がパムの真後ろに来た時、ふいにその男はパムに襲いかかる。パムは、ふっとその攻撃をかわし、くるりと回転する。男は、よろけて数歩歩き、立ち止まるとパムに向き直る。そして先ほどと同じようにジリジリと間合いを取りながらパムの後ろに回り込む。そして、またも掴みかかろうとする。しかし今度は、パムに近づく直前でピタリと止まる。いや止められた。男の顔にはパムの足がピタリと当たっており、男はそこに倒れ込んだ。パムの後ろ蹴りが決まっていたのだ。すぐに意識が戻ったのか頭を左右に振り立ち上がる。
「さて、次は首に・・・」パムが相手に向かってかかってくるように手を招く。
「もういい。おまえの実力はわかった。だが親書は渡してもらう」
「どうやってですか?」
「こうやって捕まえてだ」
 そう言ってロープをパムに投げつけ、そのロープは生き物のようにパムに絡みついた。
「なるほど。道具を使いますか。賢明な考えですね」
「その縄は魔法が付与されていて、千切れないようになっている。お前に魔法耐性があったとしても、お前に魔法を掛けているわけではない。さあ観念して親書を渡せ」
「この魔法はどのくらいの力まで持つのでしょうか。ちょっと試してみましょう」
 そう言ってパムは、筋量を増加させ始める。するとロープが簡単に千切れた。
「そんなばかな」周囲の人たち共々驚いている。
「さて他に何かありますか?それとも全員とやりましょうか」
「いやいい。このまま通れ」
「ではそのように」
 パムはお辞儀をした後、ウンの方に歩き、ウンに乗って砂漠を渡りはじめる。
 残された男は「畜生」と言ってその場に跪き、砂を握りしめていた。
「クウごめんね。砂は走りづらいだろう。右の方が地盤が固いからそっちに移動して走って」
 砂漠の中を走っているので、周囲に気配もなく進んだ。途中水の補給のために休む程度で、夕方近くには里の見えるところまで到着した。そこは、里を見下ろすことができる場所で、少しだけ木が生い茂っている。そこで野宿することにして馬を下りる。ウンはその木の下生えの草などを嫌そうに少し食べ、途中でやめた。
「ここの草はやっぱりまずいよね」
 パムは、馬に積んでいた干し草を出して食べさせる。それも嫌そうだ。
「帰りはおいしい草を見つけながら走ろうか」そうして頭をなでる。
 パムは、火をおこすでもなく干し肉を口にして、少しだけ水を口に含む。
 里には、いくつかの家に灯りが点りだした。
「そういえば、こんな風にあの里を見たことはありませんでしたね。それにしても薄暗くほの暗い感じがします。私の気分がそう見せているのでしょうか」
 その風景を見ながらパムは膝を抱え朝まで眠ってしまった。
 翌朝、太陽の光は容赦なくパムを照らし始めた。パムは膝を抱えたまま体が固まってしまっていたので、少しずつ体を起こし、ウンの様子を見て大きく伸びをする。
「さて行こうか」
「ヒン」
 野宿の後を片付け、ウンの手綱を手にゆっくりと歩いて里に向かう。砂の固いところを確認しながら歩いていたが、固かったはずの地面が急に柔らかく沈み始める。流砂か?と思って、とっさにパムは、馬の鞍をつかんで、その砂の外に向かってちゃんと立てるように放り投げた。馬が倒れず立っているのを確認してから、自分の状況を確認する。ウンがその砂のギリギリの所まで顔を見せる。
「どうやら罠だったみたいですね」パムは徐々に沈み始めるからだを見ながら、動こうにも動けず、考えてもしようが無いと思い始めた時、一本のロープが投げ込まれた。
「ウン?」どうやらウンがロープを投げてくれたようだ。
「ヒン」さすがにロープの束を蹴り飛ばすだけで精一杯だったのだろう、たぶん鞍を自分で外して、ロープをくわえて端まで持ってきて、そこから蹴り飛ばしたようだ。
 パムは、ロープの端を自分にくくりつけてそのロープの反対側に持っていたナイフをくくりつけてウンのいる方角の上空に放り投げる。
「クウ悪いけど刺るようなら土に刺して」
 パムはロープに手応えを感じたので、ロープに体重をかけ、自分のそばの砂をかき、固い岩の部分を見つけてそこにナイフを打ち込む。そこに足を掛けて蟻地獄から飛び出した。脱出した時に蟻地獄は動きを止めた。
「魔法なのか?」そう思いながらもナイフとロープを回収しようとしたところ、ナイフはクウが踏みつけ、ロープはクウの足に絡みついていて、絡みついた部分は傷になって血が出ていた。
「クウ・・・お前」クウは褒めて欲しそうだ。
「本当に良い馬だなお前は」撫でて、撫でて、撫で回した後、薬草を取り出してクウの傷に当てる。
「痛かったろう。ありがとう」
 そうして、パムは息を吸い。叫んだ。
「私の家族が傷つくような罠を設置した者に告げる。制裁を加える」パムは大声でそう言うと同時に体の筋量を最大にして、パムは、その蟻地獄の手前の地面に向かって拳を叩きつける。
ドッゴウ という鈍い音と共にその砂が空中に飛び散る。砂の中には人が潜んでいて、砂と共に空中に飛び出した。
 パムは高く飛び上がり、その男を捕まえて、空中で何かを蹴って飛び出した場所に戻る。
「お前がやったんだな」
 その男は震えてただ頷くだけだった。パムはその男の矮小さに冷静になり、ひとつ質問をした。
「お前もしかして、ファウデの壺を盗んだ時に地震を起こした奴か?」
 その男は今度は青ざめている。どうやらそうだったらしい。
「どうやらそうらしいな」
「何個か質問する。答えて欲しいがどうだろうか」パムが急に優しい声になって尋ねると、その男はかえってブルブル震えだして頷いた。
「今回の事、誰から命令されたのでしょうか」その男は首を立てに振る。
「じゃあファウデの壺の時は誰に頼まれましたか」
「あの国の政務官です」
「やっぱりそうなのですね。再度お尋ねしますが、今回の件は誰から命令されたのですか」
「言えないのではなく知らないのです。ファウデの壺の件をばらすと脅されてここに来ました。本当に誰か知らないのです」
「わかりました信じましょう。ただファウデの壺の件については、水神様には報告します。もっとも、あなたは何もされないと思いますけどね。すべて終わったことだと聞いておりますので」
「はい」
「もし危機が迫ったら辺境の村に逃げなさい。それが良いと思います」
「どうしてそこまで親切にしてくれるのですか?」その男は顔を上げパムを見ている。
「私のぬし様はそういう人だから、それに習っているだけです。さあ早くここから逃げなさい」
「本当にありがとうございます」そう言って立ち上がって、その場所から逃げ去った。
「ウン。これでよかったかい?」パムはクウを見てそう言った。
「ヒン」ウンは誇らしげに頭を上げた。
「さて、あともう少しです」
 そこからさらに先に進むとようやく里の入り口が見えてくる。扉の所には数人立っている。その中には支えられて長老の姿もあった。
 そこにウンを連れて近づいていく。
「お久しぶりですね、長老」
 パムの声を聞いて長老は、怯えて訳もわからない叫び声を上げて暴れた。それを両隣にいた者がそれを抑える。
「どうしてくれる。お前のせいでこうなったんだが」暴れるのを抑えている者ではなく、違う者がそう言った。
「そうされるような事をその人がしたせいです。自業自得と思いますが」
「だとしても、ここまでするか」
「殺すよりはましだと思いますが」
「これはさすがにひどいだろう」
「そうですか?私は何もしていませんよ。何かしようとしただけでその様子なのですから」
「そうなのか?」
「ええ、あなた達から教えてもらった尋問方法を使いますと言っただけでその状態です。その時に私は、傷一切つけていませんよ」
 もちろん傷がつかないように責めることはできます。骨をきしませるとか、頭蓋骨をきしませるとか、心理的な圧迫はかけようと思えばかけられるのですよね。
「そうなのか?」
「そもそも心が弱いからなのではありませんか。さて、これがその親書です。その方の指でこの封蝋に触れてもらえますか?」
「あ、ああ」
 パムは、親書を差し出しながら長老に近づき、嫌がる長老の腕をつかみ、握った手を無理矢理開かせて指を親書の封蝋にあてる。封蝋は赤から白に変わった。
「これで私の仕事は終わりました。失礼します」
「そうか」
「一族の皆様にはご壮健であらせられますように御祈念いたします。では失礼します」
 パムは一礼して、後ろをくるりと向き、馬に戻ろうとする。
「き、貴様のような奴は、も、もう二度と、も、戻ってくるなあぁぁぁぁ」
 それまでろれつの回っていなかった長老が突然叫んだ。
 パムは振り返りもせずこう言った。
「もちろんそのつもりです。あなたが死ぬまではこのような用事でもなければ来たくありませんから」
 そしてウンに近づいて手綱を取り、そこから歩いて砂漠を渡り始める。
「ごめんねウン。水とか干し草とか、本当ならもらってから出たかったのだけれど」
 ウンは、パムの頬を伝う2つの水をぺろりとなめて
「ヒン」と啼いた。
「ありがとうウン。さあ帰ろう。私達の家族の元へ」
 砂漠をわたるまでしばらく歩いていた。砂漠の端の草原に近づいた時、そこに人影があった。どうやら先ほどの魔法使いのようだ。
「逃げないと本当に殺されるかもしれませんよ?」
「お願いがあります。近くの街までで良いです。同行してもらえませんか」
「私も帰りを急ぐ身ですが、ついてこられますか?」
「それは」
「そういう意地悪な事を言っても、どうやら後ろめたくなるようになってしまいましたね。わかりました。ただし、馬に乗って移動していただきます」
「え?」
「ウン。私のわがままを聞いてもらえますか?」
「ヒヒン」ウンの啼き方がどうも何かを企んでいるようです。
「では失礼して」彼は馬に乗りました。
「とりあえず振り落とされないように」
「はい」
 そうしてパムは、少しだけ体型を変化させた。もちろんスピードに特化した体型だ。
「ウン。行きますよ」
「ヒン」ウンは、最初はゆっくりと走り出し、徐々に速度を上げ、森の中に入って行く。
「うわわわわわわ」
 その魔法使いは振り落とされそうになる。しかしかろうじて捕まっている。ウンはさらに動きを変化させて走っている。どうやら遊んでいるようだ。その男が落ちそうになると落ちないようにうまく調整して、もてあそんでいるようだ。
 併走しているパムは、その辺のところがわかったのか、笑いを抑えながら走っている。
 休憩を挟みながら、しばらく走った。
「馬が必要ないのでありませんか?」お尻をさすりながらその魔法使いは言った。
「いえ、さすがに長時間走り続けることはできません。いつかは限界が来ます。その点ウンは、スタミナは無いですが、私が走るよりもさらに速く走れますので」
「そうなんですか」
「あの、聞いても良いですか?」
「なんでしょうか。話せないこともありますが」
「賢王をご存じですか?」
「ええ、知っております」
「そこの王女様が勇者として扱われていることも知っていますか」
「はい知っております。それがどうしたのですか?」
「私はあの国の国家魔法士として国のために働いていましたが、壺の件で国外追放となりました」
「そういう事だったんですね」
「はい。それからは、冒険者と一緒に仕事をしたりしていました」
「私もその事は詳しくは知らないのです」
「噂で、あのマジシャンズセブンの一翼と言われている方なんですよね」
「マジシャンズセブン?なんですかそれは?」
「はい。優れた魔法使いと7人の女性達がいると。それぞれ特殊な技能を持ち、世界で並ぶ者がない集団だと」
「詳しく聞かせてください」
「はい。1人の男性魔法使いと7人の女性は、7人全員その男性に隷属していて、その男の人は、全員が逃げられないくらいの高位の魔法使いらしいと」
「そうなのですか」パムは少し笑ってしまった。
「その7人の女性は、土のドラゴンの末裔、天使の末裔、女魔法剣士、ハーフエルフ、ホムンクルス、獣人の娘、そしてドワーフと聞いております」
「なるほど。それがどうしたというのですか?」
「あなたは、その一人とお見受けしました」
「違うとも違わないとも言えません。噂は所詮噂なのですよ。そして、自分が違うという事の証明は難しいのです」
「違うのですか?」
「多分、そうではないのでしょう。8人組という事は、集団で移動しているのでしょうね。もしその人達の一員であるならば、私はなぜ独りで動いているのでしょうか」
「確かに。でも私は、土の中から見ていました。あなたの戦い方を見てそう思ったのです」
「まあ、だからどうだというところですが。その集団だからすごいという事はありませんか」
「聞いてみたかったのです。もし私がそんな人たちと一緒に冒険者として戦えたらと。でも、あなたを見ていて、このような高いの能力の人たちの中に混じるのは私は難しいかもしれないと。でも、騙されてあの国を追放にはなりましたが、あの王女様にならついて行けるのにとは思いました。もう一度あの国に戻れるのならば、王女様のパーティーに入れないかと」
「そうでしたか。なかなか難しいとは思いますね。違う勇者ではダメなのですか」
「他の勇者も知っているのですか?」
「はい。今はどこを回っているかわかりませんが、定期的に連絡がありますから。真面目にしていれば会えると思います」
「ありがとうございます。生きる希望がわいてきました」
「もちろん紹介するだけで相手が了承するとは限りませんよ」
「連絡が取れるのを待ってみようと思います」
「私がこの先、旅先で死んで連絡が取れなくなったとしてもですか」
「待ちます。それが運命なら」
「わかりました。それでは、急いで次の町に行って連絡先を作りましょう。でも、修練して自分の能力をさらに磨いていかないと、入れてもらえないかもしれませんよ」
「はい」

○敵
 一番近い町まで到着した時に、その町にいる薬屋や魔法使いに連絡を取ってもらうように話をして、彼と別れた。
 そうしてしばらくウンで走っていると、やはり気配がある。
「やはり彼にではなく、私に向けられた刺客という事ですか」パムは独り言を呟いた。周囲に感じる気配が彼の方に移動しなかった事で、周囲にいる者達の目標はパムという事がわかった。
「ウン、町の近くでは危険なので少し離れましょうか」ウンに乗り、森の中を目指す。途中でウンから降りて独りで森の中を動き回る。
「こんなところか」そうつぶやくと少しだけ木の少ない場所に中腰で構える。
「さて、私に用事のようですが、早く用件を終わらせたいので、出てきてくれませんか」
 そう声を掛けると、パムに向けてナイフが数本違う方向から飛んできた。
「そうですか。姿を現せないのであれば、こちらから行きますね」
 パムはそう言うと、近くの木の枝に飛びつき姿を消した。風がそよいでる。時おりガサガサと草の音が聞こえドサリと土の上に何かが倒れる音がした。数回同じ事が起きた時にふいに声が聞こえる。
「ああもういいわ。こんな面倒なことはやめよう」
 そう言って出てきたのは、魔族だった。その巨大な体躯をどうやって草むらに隠していたのか不思議なくらいだ。
「そうだなそうしよう」
 そして、その魔族の隣に象に似た獣人が現れる。
「どうせ周りにいたドワーフ族の奴らを倒したのだろう?だったら問題ない。あいつらが待てというから待っていたが、そいつらもいないんだったら出てきてやろうぜ」
「わかりました」
 パムはそう言って2人の立っている後ろに姿を現す。
「そっちにいたのか。気配どころか匂いまでしないなんてなあ」
「それはお互い様です。大柄なおふたりがどこにいらっしゃったのかわかりませんでした」
「大柄な2人ねえ。まあいいさ。とりあえずやろうぜ。殺し合いを」
「こちらには理由がありませんが」
「こっちにはあるのさ。なあドワーフ族ナンバーワンの凄腕さん。あんたを倒しただけで名声が入ってくるって寸法さ」
「残念ですが、私は一族と袂をわかっております。今の凄腕は違う人だと思いますよ」
「だからさ。ドワーフ族に気兼ねなく潰せるってことだろう?」
「そうさ。ドワーフは他の種族とは争わないからなあ。こうでもしないと実力はわからないからな」
「なるほど実力を測りたいと」
「それもあるけど、測るだけじゃすまないな。多分あんたを壊す事になりそうだ」
「壊すように依頼されているのですね?」
「それは言えないねえ」
「わかりました。それではお相手します」
 パムはそう言って体に巻き付けていた鉄のベルトを外す。一振りしてそれがひとつにつながり大剣になる。
「すごい仕掛けだな」
「はい。私のぬし様が、素手でも暗器でも戦うだろうからと体にまとう形で剣を持てるようにしてくれました」
「随分うれしそうだな」
「はい。私のためだけに特別に作っていただいた剣ですので」
 パムは片手で剣を振ると剣が少しだけ太くなり、接合した部分が消えていく。
「つなぎ目が消えた?」
「はい。大きな力がかかった時に折れてしまわないように接合部を強化しているようです。私にはうまく説明できませんが、多少の魔力を加えるだけでできるそうです。さあよろしいです。どちらから来ますか。私は、お二人一緒でもよろしいですよ」
「なめられたものだな」
「いえ、こちらは急いでいますので、早めに終わらせて旅を続けたいのです」
「本当になめてやがる」
「ああ本当だ。なめられて黙ってはいられねえ」
 獣人の方が先に動いた。鈍い金属の音と共に一合目が終わる。早い剣だがそうでもない。正面から顔を突いて来たのをパムは剣で受け流している。
「なるほど。俺の速さに追いつけるか」
「獣人の速さは獣化してからでしょう?」
「なるほどな」
 獣人はそう言って後ろに飛びさると剣をそこに捨てて獣化を始める。
 パムは剣を構え直す。獣人は膝をかがめ、次の瞬間には姿が消えている。そして金属の鈍い音と共にガチッと刃を噛む音が聞こえる。パムがその獣人の口の中に剣を入れ、獣人は、剣の刃を歯で噛んですんでの所で止めていた。獣人は歯でそれをくわえてぶら下がっている。パムはゆっくりと下に降ろし、足が着いたところで、剣を抜いた。
「おやおやお優しいこって」魔族の方はニヤニヤ見ている。
「さて、次に参りましょうか」
 パムは、剣を魔族の方に向ける。
「おいおい、そっちはまだ終わってないぜ」
「別にいつ襲ってきてもかまいません。さあやりましょう」
「はいはい」
 魔族の方は、そう言ってやる気の無い振りをしていたが、いきなり下に降ろしていた剣を振り上げる。しかし、パムは紙一重でそれをかわす。
「ちぇ、おもしろくねえ。こんな誘いにも乗らねえか」
 そう言うと魔族は、剣を青眼に構え、剣に魔力を込め始める。
「いつでもどうぞ」
 パムは獣人に背中を向けたまま、魔族と同じように青眼に構えて呼吸を整える。
「なめやがって」
 獣人は、いつの間にか獣人化していて、叫びながら置いていた剣をつかみ、パムに迫る。
 パムは、その言葉に動じることもなく、横に薙いできた剣を腹で受ける。
「切れないだと」
「硬質化か?」
「いいえ違います。特殊繊維で編まれていて、この体型の時には固くなるようになっています。ご覧ください。服は破けていないでしょう?」パムはそう言ってお腹を見せている。
「なるほど。なら服ごと切るか。それにそこが切れなくても頭や手足は切れるわけだ」
「そうなりますね。では服のハンデを解消しましょう」
 パムは、筋力を増大させ通常より大きい体になる。
「なるほど伸びる服か。そうなると効果が無くなるということか?」
「そうですね。ですから」
 獣人が再び背中から切りつけてくる。それを紙一重によける。
「服が破かれないように避けなければなりません」
「わかった。さて、お前は騒ぐな。まず俺と一対一でやらせろ」
「わかった」獣人は横によけてパムの視界に入る位置に移動した。
「いくぞ」
「どうぞ」
 魔族は、片手で剣を振り回す。パムはかわしながら後ろに下がっている。しかし、後ろの木に阻まれ下がれなくなる。
「行くぞ」
右斜め上からパムに切りつける。パムは、くるりと木の後ろに消える。その木は、あっけなく切り倒された。
 その様子を見てパムはぽつりと
「ユーリの真似をしてみましたが、やはりうまくいきませんね」と言いました。
「何を言っている?」
「では、本来の私のやり方に戻しましょう」
 そう言ってパムは、大上段に振りかぶり、ゆっくりとそのまま魔族に向かっていく。急な方針変更に戸惑いながらも魔族は、剣を両手に持ちかえて応戦をしようとする。
「このまま行くと剣が折れて私の剣があなたの頭にあたって死んでしまいますよ」
「それはしかたないな」そう言いながらも魔族は受けきるつもりでそのままでいる。パムは相手の剣の上から頭部に剣を当てて剣を止める。
「死なれては困りますので一度引きます」パムは相手を剣で押し戻して、後ろに下がった。
「さて、仕切り直しましょう。たぶんお二人は、連携技が得意なのでしょう。ですから2人でやりませんか」
「なめられてるが、やるしかないな」
「ああまったくだ」
 お互いに頷きあうと一斉にパムに斬りかかる。両側からお互いに相手が作った隙に剣を打ち込んでくる。
「なるほど、さっきより思い切りもいいですし早いですね」そう言いながらも防御に徹するパム。
「これだけの手数を受けきるのはすごいが、このままいけそうだな」
「ああいける。防戦で手一杯のようだからな」
「そう見えますか、それなら良かった。では続きを」
「どういう意味だ」
「ではいきますよ」
 パムはそう言って、剣速を上げ、相手の剣を受けるのではなく撥ね返し、のけぞった相手にさらに剣を横薙ぎにする。その隙にもうひとりが横から切りつけるが、一瞥してその剣を受け、はじき、また横薙ぎにする。
「なんて力だ。俺の剣をはじき返すとは」
「ああ、こんなにドワーフって力があるのか」
 2人は、一度間合いを取ってパムに対峙する。
「でも今のを決められないならまだやれるな」
「ああいくぞ」
「ここでやめないようでは、死にますよ」パムは冷静だ。
「はあ?さっきの攻撃を決めきれなかったくせに」
「しゃべりすぎました」そう言ってパムは動いた。2人には一瞬消えたように見えたが、一瞬にして気配が間近に迫ったことを感知してそこから離れようとする。しかし、
「遅いですよ」
 避けようとした方向にすでに剣がある。ひやりとした剣の冷たさが魔族の首に感じられる。切られたと思ったが痛みはない。一瞬。ほんの一瞬だった。パムの気配はすでに獣人の方に移動して、やはり首に剣を当てている。
「さてあなた達はすでに死にましたよ」一瞬だけ獣人の首に剣を当てていたが、今は2人から離れた場所にいる。
「ああそうだな。おまえ遊んでいたのか」
「いいえ、実力を測っていただけです。もしかしたらフェイクを仕掛けられていて、こちらの実力を測っていたのかと疑っていました。私を油断させているのかと」
「疑い深いんだな」
「それで死んだ人達をたくさん知っていますから」
「ならば殺してもよかったんじゃないか」
「いいえ、今はぬし様のお気持ちに従い、殺さないことを是としています」
「ああそうかそうなのか。それで死んだらどうするんだ」
「いいえ死にません。というか死ねません。もちろん窮地に立ったら殺してもいいとは言われていますから生き残ります。それはぬし様と約束しましたから。お互いに絶対死なないと」
「そうなのか」
「では、もう私を追わないでくださいね」
「ああ、実力が違いすぎる。どうしてそんなに強くなれたんだい?」
「井の中の蛙ではいけないと言われました。それと私は、良い家族に恵まれました。ともに技術を高め合う人達と暮らし、とても充実しています。それが強さの原因ですね。守るための強さです。ああしゃべり過ぎましたね。どうも会話すること自体がうれしくなってきています。自重しないと」
「もうおまえの旅の邪魔はしない。すまなかったな」
「あなた達はまだ成長できます。強くなれますよ」
「ありがとうよ」
 そうして魔族と獣人と別れたパムは、ウンに乗るとその場を去った。
「もしかしたら、ぬし様も危ない目に遭っているかもしれない。急ぎましょう。ウン」
「ヒン」
 そしてスピードを上げるウンであった。
 ウンの休憩とパムの休憩をあわせて、時間を短縮しながら走って行く。ウンのまぐさだけが問題だったが、途中の町で買いながら走って行く。
 それでも家までは絶対的な距離があり、焦燥感がパムを襲っていた。
『おおいたいた。パムわしじゃ』
『モーラ様迎えに来てくださったのですか』
『ああ、家がちょっと大変なことになっているのでな。ほれ、わしの手に乗るが良い』
 不可視化の魔法を解いた手だけが見えている。ウンに乗ったまま手の上に乗る。乗った後ウンから降りた。
『家はともかく、ぬし様は大丈夫なのでしょうか』
『まあ、あやつは大丈夫じゃろう。とりあえず家まで連れて行き、その後あやつを探しに行こうと思う』
『わかりました』
『ほら見てみい、あれが我らが家じゃ』
「え?家が・・・そんな」
 そこには巨大なクレーターとその中心に家と馬小屋と倉庫だけがある。そして、他の家族はすでに到着していた。ぬし様を除いて。


Appendix
ここまでの間に2回罠を張る。往きと帰りだ。帰りはもちろん往きが失敗した場合だ。
その時はどうしても倒したいと言っている魔族2人に襲わせる。まあ我々がしくじった時の保険だな。
復路は長の息子がどうしても戦いたいと言って聞かない。何度も独りでは無理だと言っているのに。



続く

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