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第22話 天使の柱

第22-4話 DT大道芸を見る

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○迷走する打開策
「どうなの、何とかなるの」アンジーが城を出てから質問してきました。手は繋いだままです。
「・・・・」
「正直なところを教えてちょうだい。騙されるのは嫌よ」私の手をギュッと強く握って尋ねます。痛いです。
「これから、ヒメツキ様、いや水のドラゴンのところにお願いに上がります。無理かもしれませんけど」私はそう呟くように話した。
「まさかあそこを水没させるの?」アンジーがビックリしたような顔をしているのがわかります。見ていませんけど。
「半分当たっています。水没させて土と入れ替えます。そうしないと崩れます」
「あんたそういうのも得意でしょ。そいうえば、前の世界で見たわコンクリート。あれを作ればいいじゃない」
「アンジーさんごめんなさい。私はあの作り方を知らないのです。それに一度にあんなに大量に作れないのです」
「ごめん。言い過ぎたわ。あんたなら何でも出来るからつい・・・ごめんなさい」いや、謝られても困ります。
「アンジー、良いんですよ。自分の家族のために必死になるのは当たり前のことです」
「さて、パム達にはこの事を伝えて3人で行こうかのう」
「パムは連れて行きたいわ。あの子も何か策を考えてくれそうだから」
「じゃあ全員で行きますか」そうして皆さんと合流したのですが、ユーリとエルフィとパムは、残ると言い出した。
「私はその兵士達と連絡をとりましょう。避難にあたっては、私も協力することになると思いますので」
「連絡方法がありませんよ」
「見張られているのであれば、私達が別れて行動した時にあちらから接触してくるでしょう」
「私も~残って~居酒屋で冒険者さん達に顔を覚えてもらおうと思います~」
「おぬしは、酒が飲みたいだけじゃろう」
「え~違いますよ~半分はそうですけど~」
「まあ、おぬし達の考えはようわかった。わしらはこの国の者では無いが人死は少なくしたいからのう」
「メアはわしらと一緒に行くとしてレイ、お前はどうする」
「僕は親方様と行きます。できるだけ強い人を見ておけと言われていましたので、ヒメツキ様にももう一度お会いしたいと思います」
「おおかた、ヒメツキにもふってもらいたいのだろうな」
「・・・少しはあります」
「残る3人は気をつけてな。まあ、パムは別行動だろうし、残り2人は、か弱い少女と馬鹿そうなエルフ女の2人連れになりそうだから襲われるかもしれん。酒の飲み過ぎには気をつけてな」
「ひ~ど~い~」
「わかりました。気をつけます」
「ユーリも~否定してよ~」
「さて行こうか」
 そうしてモーラは、大きい方の馬車を手に乗せて水の神殿に向かう。その間に城の地下の状況をメアとレイに話す。
「そのコンクリートと言うのはどう作るのですか」知っているはずのメアが尋ねる。
「石灰石とかを混ぜて高温を加えて粉にするんです。そして確か高温で熱するというか焼いて一気に冷やすとセメントになって、それに水とか砂を混ぜると固まるのだけれど、工程がいろいろあってたぶん無理なんですよ。あと非常に重くなるので、地盤がしっかりしていないとコンクリートごと沈んでいくかもしれないんですよ」
「洞窟に砂を入れてはどうですか」メアが再び尋ねる。
「モーラどうなんですか」
『砂をどこかから持ち込まねばならんのじゃ。わしにも何も無いところからの生成は難しいからなあ』
「いつもの土壁はどうやって作っているのですか」私は、そう言えば知らなかったと思い聞きました。
『土の中から持ってきているし、空中に出現する時は、たぶん空中から生成しているのであろう。だが、空中からではそんなに大きくて大量のものをあの洞窟内部で作ると周囲の土まで使ってしまう事になるじゃろうな』
「なるほど」
『そろそろヒメツキの縄張りに入るから不可視化を解くぞ。そしてすぐ到着じゃ』
 減速によるGが体にかかり、それにあわせて降下するGもかかり、やがて地面に到着したようだ。そこで馬車に乗り、神殿の回廊まで移動する。そこからは、馬を残して神殿までの洞窟を台車で移動する。一度来た道なので問題なく到着する。しかし神殿には誰もいない。
「ヒメツキ!わしじゃおらんのか」神殿内にモーラの声が響く。しかし反応は無い。
「おらんのか。しかたがないなあ。そういえば、あの街を出てからは会ってないなあ。まあ、あそこでミカだとかキャロルだとかと暮らして色々世話してやったのに、こういう時に捕まらんとは不義理な奴じゃ。ああ、元魔王の子を預かった時にもミカだけよこしてドラゴンの里に行ってたようだし、わしらとは付き合えないくらい偉くなったのかもしれないな。では、無駄足だったようじゃ戻ろうか」モーラはそう言って神殿に背を向ける。
「まるで私があなたに不義理をしているみたいじゃない」ヒメツキさんの声が洞窟内に響き渡る。
「おやいたのか。これは失礼。居留守を使っていたとはなあ」
「はあー全く。こうしてわざわざ里から戻ってきてみれば言いたい放題ね。私の苦労も知らないくせに」やはり声だけで姿を現さない。
「聞いていないから知るわけ無いじゃろう」
「あんたなら察しがついているでしょうが」
「それが真実かどうかなんて聞かされなければわかるものではあるまい。会って直接聞かなければそれが単なるわしの妄想かもしれないであろう」
「それは確かにね。さて何をお願いしに来たのかしら」
「察しが良いのう。さすがわしのお目付役じゃなあ」
「そこがもう間違っているわ。それは終わっているのよモーラ。あなたが縄張りを持った段階でね。用件を早く教えて欲しいの。これでも色々しなきゃならないことが多くてね」
「今回の件もそうなのであろう?」
「はーーーーー。わかっているなら動かないでよ。モーラ!」
「いや、わしは何もしておらんぞ。わしはこやつらから「お願い」されて手伝っているだけじゃ。ここにだって連れてきただけじゃよ」
「そう言う屁理屈は良いから。土のドラゴンが水のドラゴンのところに来たと言うだけで周りは気にするのよ。わかるでしょう?」
「ああ、ましてや、土のドラゴンが草木のドラゴンのところで何やら動き回っているらしいとな」
「それがわかっていながら、突然草木のドラゴンのところに現れて何かを話し、そして今度は私のところに来たでしょ。何かあるに決まっているのでしょう?」
「まあそうだわなあ」
「ニヤニヤ笑いながら言わないでよ。どうせ、草木もあんたも里から呼ばれたって適当に答えるだけでしょうから、結局私に調べろと言ってくるのよ。だからあんたと会いたくないのよ。事実を知ったらそれを里に報告しなきゃならなくて、やばい話しなら報告した私が色々言われて、結局何とかしてこいって言われるのよね」ため息までリアルに聞こえますよ。
「わかっておるではないか」
「わかっているなら、私がいなかったならあきらめて帰ってくれれば良いのに、ああやって挑発めいた事を言って、出てこなければならなくしたわよね」
「まあなあ、こちらも切羽詰まっているからなあ。でも、話をした後、お互い会えなかった事にできるではないか」
「はいはい、そんな理屈が里に通用するとは言えないけど一応それで通してみるわ。で、どんな話なの」
「実は・・・」
 私は事のあらましをかいつまんで話した。ただ、土地の崩落の件は詳しく語った。
「本当にため息しか出ないわね。結論を言っておくわね。無理よ」
「・・・」
「まずね、他人の縄張りであること。そこの地下であろうとその力を行使する事はまずいのよ。モーラはやる気だろうけど、もしやったら里から処分が降りる。まあ、縄張り剥奪のうえ、里のどこかに幽閉して謹慎になるわね」
「そんな事になるのですか」思わずモーラを見る。モーラも呆然としている。
「当たり前じゃ無い。なんのための縄張りだと思っているの。そんなことが横行したら、お互い好き勝手にやって諍いが起こるに決まっているでしょ」
「相手の許可を取ったとしてもか」
「モーラは、ドラゴンの里を甘く見すぎ。わかってて言っているわよね。無理矢理相手を屈服させて、口封じだって出来るでしょう。事実上縄張りを自分のものにしてしまえるのよ。ドラゴン同士の諍いだと言い張っても、納得ずくだと言っても、里はそんなの認めないわ」
「それに発端となった草木のドラゴンと人間との問題は、草木がすでに結論を出しているのでしょう?だから何も出来ないし、しないのよ。そして、崩落についても人の自業自得だから何も出来ない。最後に天使の件は天界と人間の問題でドラゴンは介入してはいけないわ。そういう事よ。だから私は手伝えない。モーラ、あなたも手を出せば里に戻される。これだけが予想外だったでしょうけど。あなただけ例外にしてもらえるかもと思っているかもしれないけどそうはならないわよ」
「ありがとうな。姿を現さずに話してくれて」
「会った事実は残したくないしね。あなたの家族にも聞いて欲しかったし。まあ、心残りは、レイという獣人に直接会って、もふりたかったけれど機会を逃したこと位かしらね」
「ふふ」
「あとね、あそこを水で満たしたとしても今度は水没するかもしれないわよ。やって失敗したらかえって悪化する事になるからおすすめしないわ」
「わかりました。一度戻って根本的な対策を考えます。ありがとうございました」
 私は誰もいない神殿に響くように大きな声で言った。しかし返事は無かった。
「ふうん、そこで引き下がるんだ」神殿の人影がつぶやいた。
 私達は神殿の洞窟を抜けるまで一言も話さず馬車に戻った。
『あれは誰なのだろうかなあ』脳内会話に切り替えたモーラが言った。
『告げ口するならドラゴンの里の者でしょうけど、違う気がしますね』と私。
『さてどこの者かのう』
『どうするのよ、方法が無くなったわけじゃない?』アンジーがちょっと焦り気味にそう言った。
『いいえ、期限はまだ3ヶ月あるのです。なので最も原始的な方法でやってみようかなと』
『どうするつもりじゃ』
『手ですよ』
『手?』
『まあ、戻ってからお話しします』
『大丈夫なのかしら』アンジーが自分の手を見ながら不安そうに言いました。

○芸人現る
 城下町に戻り、皆さんに連絡を取ると居酒屋にいるというのでそこに行きました。
 居酒屋にユーリとエルフィとパムもいました。ここで合流したようです。先ほどまでユーリは、近所の市場や洋服店など女性の多い場所に行っていたし、パムは、他種族の集まるところや冒険者ギルドなどに顔を出して、色々話を聞いていた。エルフィは、案の定居酒屋に行って酔っ払っている。
「あ~ユーリとパムだヤッホー」そう言って誰かと一緒に飲んで手を振っている。
「なんだ、このねーちゃんの仲間かい。おもしれえねーちゃんだな。よくこんなのと一緒に旅していられるなあ」
「まあ、確かに酔っ払うととてつもなくダメですけど実は優秀なんですよ」とパム
「確かにすごいスキルを持っているのに酒好きなだけでマイナスなのです」とユーリ
「あ~ひどい~」
「お嬢ちゃん達も飲まないか」
「私はいただきましょう、ユーリはあまりお酒が得意ではないので」
「まあいい、しかしこのエルフの嬢ちゃんそんなにすごいのかい?ただの飲んべえにしか見えないけど」
「ええ、多分酔っていても反対側の壁にかけてある的に矢を当てるくらいなら簡単にできますよね」
「いや、そんなの誰でも・・・」
「えー、できますよー。ちっちゃい弓作ってやりますね」
 目が据わったエルフィは、そこにあった曲がったスプーンの両端に自分の抜けた髪をゆいつけて、おいてあった爪楊枝のようなものをつがえて放つ。
「えい」その矢は、緩やかなカーブを描いて的の中心に当たる。
 周囲は一瞬静かになり、そして
「おおっすげえ。どうやるんだそれ」
「え、なになにもう一回みたい」
 と大騒ぎになり人気者になった。
「さて、私達はこの隙に他の人たちから」
「わらしにだけやらせてず~る~い~」エルフィは、そう言ってユーリの腕をつかむ。
「ねえ、姫ちゃんあれやってあれ」エルフィそんなに近付くとお酒臭いです。
「なんですかあれって」ユーリもどうしていいかわかりません。
「コインを切るやつ~」エルフィが手刀を作り横にスパッと切る真似をする。
「コインを切る?どうやってだ」周囲で聞いていた酒場の人たちが興味を持った。
「姫ちゃんね~コインを投げたら切っちゃうんですよ~それも~回転していても~切れるんですよ」
「おもしろそうじゃないか、是非見せてくれ」
「そうだそうだ、おもしろかったら酒代おごるぜ」
「いや、僕飲まないですし」ユーリは、パムを見る。やれやれといった顔で頷いた。
 ユーリはため息をついて
「では、どなたかコインを投げてください。私が騙していな事がわかるように受け止める方も用意してください」
「では、俺が投げよう」
「じゃあ俺が受けるぜで速度はどうする?」
「どのような速度でも良いですよ」
 そう言って両端に立った二人の中央にユーリは立った。そして腰の脇差しに手をかけて少しだけ左足を前に出して腰を落とす。
「いつでもどうぞ」
 居酒屋全体が静かになり見ているものが全員ゴクリと息をのんだ。コインを持った男がゆっくりとコインを投げる。コインは放物線を描いてユーリを超えて反対側の男に届くように投げた。
 キン 金属の鳴る音が聞こえ、ユーリの手には抜かれた脇差しがあり、コインは反対側の男に届いた。
「え?切れていないじゃないか。・・・え?」手に取った男は、コインを確認する。コインはその厚みを半分にして切れていた。コインがまるで2枚のように見える。
「どうやってこんなふうにコインを切ったんだ?」
 その男は、2枚になったコインをみんなに見せる。
「手品かよ。魔法使いか何かか?」盛り上がらず疑いの目でざわついている。
「だから嫌だったんですよ。疑われるから。はいはい魔法です。手品と言うことにしておきましょう」
「さて、もう一人、残ったこのドワーフの嬢ちゃんは何が出来るんだい?」
「そうですねえ、ユー・・・おっと姫ちゃんの技があまりにも現実離れしていて疑われてしまいましたから、今度は私がやりましょう。そこの手品じゃ無いかと言った人。申し訳ありませんがその的のところに立ってください」
「いや、そういうつもりで言ったわけじゃないんだが」
「今度はきっと手品とは思いませんよ」
「ほら行けよ男らしくよ」その男はとぼとぼとその的の前まで言ってこちらを向く。
「では行きますよ」パムは、手を一閃して、立っている男の頭の真上にナイフを投げて的に当てる。
「ひっ」その男は声を出すも動けずにいる。
「動いたら当たりますよ。動かないでください」
 パムは、笑いながら、横を向いたり、後ろを向いたりしてナイフを投げる。さらに左手でも次々と順番に投げて頭部を囲むように刺さっていく。その男は動かないではなく動けない状態になっている。
「これが最後です」そう言って両手で二本立て続けに打ち、最初の一本がその男の目の前に飛んでいき。それを二本目が後ろからはじき、両方とも的の両側に刺さった。
「皆様のお目汚し程度になりましたでしょうか」そう言ってお辞儀をするパム。
 周囲から拍手が起きる。パムは、壁の的に向かって歩いていって、打ち込んだナイフを回収していた。そうしているうちに居酒屋には再び喧噪が戻ってくる。
 3人ともカウンターに戻り酒を注文する。みんなビビって声を掛けてこない。
「ムーちゃんやり過ぎ~」
「すいません。ユー・・・姫ちゃんのことを馬鹿にされたら黙っていられなくて」
「いいえ、すかっとしました。ありがとうございました。でも、エルフィなんですか姫ちゃんって」
「ごめんね~、名前出しちゃ行けないと思ってとっさに出ちゃった」舌を出すエルフィ。
「まあいいですけど。じゃあエルちゃんですね」
「あ~それいい~今度からそう呼んでね~」
「こういう場だけですけどね」
 そうやって話していると後ろに人影が差す。いやオーラをまとった小さい影が差す。
「おぬしら~」モーラのオーラです。
「居酒屋の外から見ていたわよ。面白かったわ~」アンジーが冷ややかな目をして手を叩いている。
「いや、それはですねえ」パムが珍しく動揺している。
 私は、パムの耳元で
「これはあなたにとっては、良いことでしたよ」そう言って、軽く肩を抱きしめる。
「あ~ずるい~私も~」
「あんたはこっちに来なさい」アンジーが飛び上がってエルフィの耳を引っ張り、酒場の端の方に連れて行って説教している。
「ユー、おっと姫ちゃんも珍しいですね」私はそうユーリに尋ねる。
「実は、パムとレイと3人で旅をした時にたまにやらされていました」
「そうだったのですか」
「まあ、パムさんから何か芸が無いと旅先では困ると言われまして。でも、手品と言われたのは初めてでちょっとムッとしてしまいました。まだまだ修行が足りませんね」
「いや、あれは立派な特技ですよ。普通コインをあんな風には切れませんから」
「それにしても私達を見る目がちょっと変わりましたね」パムが私の所に来て小声でそう言った。
「これはまずいかもしれませんね」ユーリも雰囲気に気付いたようです。
 周囲の人達はこそこそとこちらを見ながら何か言っている。
「おい、あれってもしかして噂の・・」
「いやこんな田舎の街に来るわけ無いだろう」
「弓のエルフに天使様、ドワーフに・・・さっき姫って呼んでいたろう姫騎士じゃないのか。いや、そのほかにドラゴンと獣人とメイドのはずだ。まさかなあ」
「ああ、さすがにそれはないだろう」
「あ、いたいた、親方様~」そう言って獣人のレイとメイド姿のメアが入ってくる。
「ひのふのみ・・・やばい本物だ・・・見たら死ぬぞ」
「とっとと出ようか」
「ああ、不興を買って殺されないうちにな」
 そうして、反対側に座っている男を除いてみんな出て行ってしまった。
「意外にみんな噂には敏感なんじゃな」
「そうみたいですね」
「マスターすいません、出て行ったあの方達の分のお支払いをしたいのですが」
「大丈夫ですよ。あの方達はすぐ戻ってきます。あなた達に見られても死なないことがわかって、今度は興味を持って戻ってきますよ。あと、他に行くところがありませんから」笑いながらましターは言った。
「一応、ご迷惑を掛けたようなので、これを」
 私は、お金を少しだけだしました。
「何か飲むかい?いつものやつかい?」
「ああ、あなた。そうでしたか。ではこの子達でも飲めるものをなにが良いですか」
「麦の泡のやつ」
「透明のお酒」
「オレンジジュース」
「バーボン水割り」
「ああ、わたしもオレンジジュースで」
「私は~」
「おまえは水じゃ、それとわしには、透明のお酒じゃ」
「それと、私達を怖がらないあのテーブルの人にも何か」私はテーブルの方を見ないでそう言った。
「あ?人がいたのか。いや、いないじゃないか」
「おや、今いたように見えたのですが。私の勘違いですねえ」
「久しぶりですねえ。いつここにこられたのですか」マスターは私に向かって言う。
「昨日ですねえ。まあ、人を連れてくるという用事があったので」
「そうでしたか。私を追ってきたのかと思いましたよ」
「そんな、どこに現れるかわからないあなたを追うことなど出来ないでしょう?」
「そうですね。ここには数ヶ月前からいますよ。また寄ってくださいね。もっともいる間に来られたらでしょうが」
「3ヶ月くらいはいますから寄らせてもらいますよ」
「ああ。ほらあれを見てください」マスターが窓の外を目で示す。
 窓の外には窓にへばりついて覗いている男達がいた。ひとりが恐る恐る入ってくる。
「お詫びに一杯だけおごってくれるそうですよ。何が良いですか」最初の人にマスターが声を掛ける。
「本当かい?ならバーボンを・・・」そう言うなり定位置のテーブルに座っている。メアが気を遣ってマスターの代わりにグラスを持って行く。
 その様子を見てほかの男達は我先に中に入って次々と注文をする。アンジーもモーラもレイも子どものフリをしてお手伝いをする。当然モーラは、何杯か盗み飲みをしているので結構顔が赤くなっている。まっさきにその人達の所にエルフィが入って行き、ユーリとパムが引き込まれて話しの中に入って行く。一通り酒が配られた時にその中でも頭の良さそうで誠実そうな男がカウンターに来て私の隣に来た。
「まあ、その、俺も含めて悪い奴らじゃ無いんだ。ただ、こんな田舎じゃ他から人も入ってこないし、噂のその・・・」気まずそうにそこで言いよどむ。
「マジシャンズセブンですか?」
「ああ、噂に近いあんた達が来てちょっとなあ。まあびびっちまったんだよ」
「出会うと殺されると」
「まあ、そうだな。でも結局何も起こらないし、むしろ子どもが2人だろ、噂と違いすぎだろうと話しあって様子を見に戻って来たんだ」
「噂に会えると思ったのに?」
「まあ出会って死んだならそんな噂も立つわけが無いって、わかってはいるんだがなあ」
「ですよね~」
「はは、でもほっとしたよ。きっとあんた達は本物で誤解が噂になっているんだろうなあって」
「そちらの噂は信じて良いんですか?」
「こちらに危害を加えなければ誰だって飲み友達だ。そうだろう?」
「確かにそうですね」
「俺が不思議なのは、なぜこんなところにわざわざ来たのかという事くらいさ。ひょっとしてここで何か事件が起きるのじゃあ無いかとね」
「心配ですか?」
「この土地は昔話にあるんだが、ドラゴンとの因縁の土地だ。そして天使に関しても変な噂が立っている。そんなところにあんた達が来た。何か起こるんじゃ無いかと心配になるだろう」
「あなた何か見えていますね」
「まあ冒険者なんてやっているとどうしてもそうなるんだよ。あの2人の子どものうち、小さい方は年齢を偽っているだろうなとか、大きい方は、どうみても仕草や立ち回りに気品が感じられるのさ。だから、本当にドラゴンと天使ではないかとね。そうなれば、噂どおりのマジシャンズセブンではないかと。もっともあいつらは、誰も信じてはいないだろうけどね」そう言ってすでに酒盛りを再開している周囲を見渡す。
「まあ、仮にそうだったとして、何を知りたいのですか」
「あんた達がこの土地の者達をどうしたいのかと思ってさ」
「この土地の者達・・・ですか。国民では無くて」
「俺達は国というものに縛られている訳ではないからさ。土地がたまたまこの国の中にあるだけなんだ。土地に縛られているってやつだ。しかし、離れられないからこそ、何かあったら困るんだとね」
「私達がここで何かをすると思っているのですね」
「何かをするのでは無くて何かが起きるんだろうと思ってさ」
「何かが起きると」
「俺が冒険者として他の街に行くと酒場では色々な話を聞く。本当なのか嘘なのかわからないが、あんた達の話もよく出る」
「どれも必ず2つに分かれる。英雄か悪魔か」
「英雄か悪魔ですか」
「ああ、例えば水神に依頼され壺を取り返そうとして、城の一部共々壺を粉々に砕いたとか。実際は、真夜中誰もいないはずなのに壺を手品のように消して神殿に取り戻したとかね。もっともこの辺は天使様が行ったことになるのだろうけど。そのおつきの魔法使いが代わりに行なったと言われているね」
「なるほど。色々な噂があるんですね」
「ああ。だからその人達が現れる所にはきっと何かが起きるのでは無いかとね」
「まあ私達はその人達ではありませんが、この国に来たのは理由がありました。私の所に尋ねて来ていた魔法使いさんを送ってここまで来たのです」
「無事送り届けたという事かい」
「でも、その方のお母さんのお体の調子が悪くてね。何とかしないと、と思ったのです。それでこちらの土地には何か伝説とか言い伝えが無いか調べようとしていたのですが、あまりそう言うことに慣れていないので、彼女達が大道芸みたいな事をして仲間に入ろうとしていたのです」
「そうなのですか。でも、先ほど見ていましたが、芸と言うにはあまりにもすごい技術だと思いますが」
「彼女達は努力家ですので、腕を磨いている間に出来るようになったのでしょうきっと」
「そうなんですか。才能もあるのでしょうが」
「さて、私はここの土地の者ではありません。国ではなくこの土地にどのくらいこだわりがあるかわかりませんのでお尋ねしますが、この土地を守るために一度ここを離れなければならないと言ったらどうしますか?」
「一生ですか?いや、一度と言われましたから、期間はどのくらいをお考えですか」
「3ヶ月くらいですけど」
「そうですね。それならば多少は我慢できますね。ただし、3ヶ月間どこに住むかを考えなければなりませんが」
「それもありますね」
「病弱の者や動けない者などのことを考えなくてはなりません」
「結構難題だと思いますが、どうですか?あくまで仮定の話ですよ。深く考えないでください」
「すいません。つい考え込むのは癖でして。もし明日もこちらに来られるのでしたら、私なりの答えをお話しできると思います」
「そこまでのお話ではありませんが、お答えをお聞かせいただけるなら明日。そうですね、夕方皆さんと食事をしながらではどうでしょうか。マスターどうですか」
「食事を作るだけのスペースはないから、私の所へはその食事のあとに来てくれないか。食事のできるような他の店を紹介しよう」
「ああ、それなら私の行きつけの所にしよう」
「さてみんな、それぞれまだ話し足りないだろう。明日の夜に食事を兼ねて飲み直そうじゃ無いか」
 そうして、私とモーラ、アンジー、メアは、その冒険者に連れられて次の居酒屋に向かって行く。

○ドラゴンの里
 ヒメツキが始祖龍に会っている。
「そこは簡単にはいかないでしょうね」
「報告はそれだけかな」
「はい始祖龍様。私がお話しできるのはここまでです」
「ふむ。釘はさしておいたのだな」
「はい。土は幼少より里を出ておりますゆえ里の規則に疎いのでちゃんと釘をさしておきました」
「嫌な役をさせてすまなかったな」
「でも、里に戻すには格好の理由だったのではありませんか?」
「そうだな、しかいあの男と隷属したままでは里に置くことはできないのでなあ。外部から無理に解除しようとすると何かしら影響がでるかもしれん。むしろ里に戻したくないというのがわし個人の気持ちじゃ」
「ああ、そこまでお考えでしたか」
「考えてはいない。だが、あやつにドラゴンの守るべき一線越えてはいけないラインを覚えてもらわないとな。忠実に守っているという実績も必要なのだよ。いつまでもルールブロークンでいてもらっては困るのだ」
「里をまかせるつもりですか?」
「まだその時ではないし、あやつはまだ経験を積む必要がある。これからこの世界でドラゴンが生きていくためにはな」
「期待しているのですね」
「他の長老どもにはわからんよ。格式や慣習だけではもう乗り切れなくなってきているのだから。
 だがな水よ。それはお前や風、氷、それに火、闇、 光、金、草木にも同じことがいえる。全員が全員。経験を積まねばならぬ。この世界でドラゴンがドラゴンでいるためにな」
「そうですか」
「ああそうだ。おぬしだって人との関わりを持っている。氷もだ。今草木もそうなっておる。ドラゴンと人との境界が近付いているのだ。だから火も焦っている。人を拒むのか受け入れるのか、その距離を測りかねている。だから火は、わしが好きであり嫌いなのだよ」
「そうなのですか」
「もっともわしの和風建築趣味は知り合った男の影響だがな」始祖龍様は笑って言った。
「それを火に言ってあげてくれませんか?」
「聞いて納得するならな」
「はあ」
「さて。あやつの動静は見守れ。やりすぎには草木からチャチャを入れて妨害させて、ドラゴンが直接手を出していないことを確認しておけ。族長会議で糾弾されるのはかなわぬからな」
「火の動向はどうしますか」
「あやつは今動かぬ。大丈夫じゃ。魔族と通じて別の案件に関わっているらしい。もっとも今回の件に少しは手を出すかもしれぬが、問題ないわ」
「そちらは大丈夫なのですか?」
「あやつは土ほど感情的ではない。自分は表に出ないで魔族側を動かしているからな。今はまだ準備段階らしいのでなあ」
「そこまで知っているのなら阻止しないのですか?」
「わしはそれさえもこの世界がさせていると思っているのでなあ。やめさせるように動いてもいつかは動き出す。その者の心なんてそういうものだ。そして」
「そして?」
「それを阻止しようとする者もまた現れるからな。その結果を見てわしは考えようと思う」
「なるほど。お心はわかりました。今回の件監視したいと思います」
「おぬしとて人と関わる身ゆえ様々な感情があるだろうが、よく観察するようにな」
「はい。それでは失礼いたします」
「うむ」
 ヒメツキは、始祖龍の館から出るとスペイパルの方角に飛び始めた
「暗い顔をしてどうしたのさ」
「ああ風じゃない。よくここを飛んでいるのがわかったわね」
「そりゃあねえ。私だもの」
「そうね。暗い顔の原因はねえ。始祖龍様には頭があがらないわ」
「そんな事?今更ね」
「今回は特にそう思ったわ。土の行動を手に取るように理解していてフォローしているのよ。どうやったらあんな風に考えられるのかしら」
「昔はかなり苦労しているとは聞いているけどね」
「どこで聞いているの?」
「先代よ」
「あああなたもそうなのね。でも先代はなんでも教えてくれたの?」
「「風はすべて見聞きして知っていなければならない」が先代の言葉よ」
「そうなのね」
「「知っていても必要がなければ伝えない」というのもあるわね」
「そうなのか」
「さて、土の所に行くのでしょう?」
「ええ監視にね」
「氷もきているはずよ」
「氷が?なんで?」
「まあ、あの男が気になるのでしょうね」
「そんなものかしら」
「いやいや。ドラゴンにたてつく人間なんて普通面白いと思うわよ。しかも相応の実力を持っているのだし」
「あなたも見に来たのかしら」
「草木に会いに行くのよ。始祖龍様からの伝言をね。「風と一緒に里に来い」とね」
「それなら私でも良いのにね」
「私を行かせて無理矢理にでも里に来させたかったのでしょう」
「そういう事なのね」

 そうして再びドラゴンの里。始祖龍の前には風と草木のドラゴンが座っている。
「さて、2人にはわざわざ来てもらってすまなかった」
「・・・・」
「まず草木よ。今回の件どう思う?」
「「どう思う」ですか?」
「ああそうだ。おぬしの縄張りに土が来て居座っている。何か思う事があるのではないか?」
「正直、今回の件に関わるなら今更来るなよとは思ってはいました。手を出さないと本人は言っている。でも自分の縄張りに居られるのはちょっと複雑だよ・・・です」
「それは本音か?もし本心でそう思っているのなら、あ奴を退去させるが。もし、わしの前で建前で言っているのであれば本音で話してみろ。長老どもには何も言わせぬ」
「そうですか。なら言わせてもらうよ。土のやつにはすまないと思っている。ドラゴンの矜持で放置をしていたが、人はもう少し早く考え方を改めるだろうと思っていたのに、ゆがんだ形で自分たちを豊かにしてしまった。もちろん天使というイレギュラーが入り込んだせいではあるが、結果的に人は災害に見舞われようとしている。だが、縄張りを見守る私が手を出せないのは少し歯がゆい。私の気持ちをしらないはずの土の奴が現われて解決に向かっている。これはどういう事なのかと複雑な気持ちでいるよ。俺としては、俺の縄張りに住む人族が死ぬのは嫌だよ。頑張って土地を豊かにしていた者達も見てきている。だから今は土を頼るしかない。あいつは手を出さないがあいつの仲間、家族は何とかしてくれる。そう信じているよ。あいつが私の縄張りにいることをしばらくは黙認して欲しい」
「わかった。これは例外だと思え。本来他人の縄張りに長居するドラゴンは認めておらぬ。見て見ぬふりをしているのだと」
「始祖龍様。土は水の所に1年近くもいたじゃない。じゃなかった。いたではありませんか」
「あれはな。水の所で縄張りを持つ研修をミカと共に行っていたのだそうだ。今回はそうではないからな」
「なるほど理由があったのですねえ」風が笑って言った
「人の子を保護する名目もあったようなのでな。ほとんどこっちも黙認だったがな。さて、ならば土の滞在は黙認とする」
「よろしくお願いいたします」
「ああ。水にも言っておいたが、土が暴走しそうなら必ずとめるように」
「わかりました」


続く
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