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第15話 帰還

第15-4話 DT服屋と洞窟へ行く

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○パム、服屋に連行される
 ファーンに戻ってきました。家も新築しました。当然、パムの服も新調しなければなりません。
「これも試練と言えば試練よね」アンジーが服屋まで歩きながらそう言った。
「そうじゃな。もっともわしらは毎回試練じゃがな」モーラが深刻そうな顔で言った。
「不安がらせないでください。怯えていますよ・・・エルフィが」メアさんは、不安そうなパムを見ながらエルフィに向かって言った。私の服の袖を握って付いてきている。
「相変わらず人見知りしておるのか。あの店長とは結構会っておるじゃろう。いい加減慣れんか」そう言って、モーラがエルフィのお尻を叩く。
「エルフィは会話もしてないでしょう?」ユーリまでがツッコミを入れています。どんどん私の後ろに下がって行くエルフィ。
「話が通じないです~あと強引で怖いです~」私の肩の横から顔を出してエルフィが言いました。
「エルフィ。あれは野獣ではありませんよ」メアがたしなめる。
「でも~」まあ、あの言葉が通じない感じは納得しますねえ。私はそこで頷いてしまいました。
「おぬしまでパムを不安がらせてどうするのじゃ」モーラがあきれています。
「こんにちはー」私は扉を開けながら挨拶をした。
「こんにちはー。あらDTさんじゃないですか。あの後すぐ来てくれるかと思ったのにー」明るく挨拶をするナナミさん。うむこうしてじっくり顔を拝見すると、久しぶりなのに久しぶりな感じがしませんねえ。
「それはすいませんでした。今日はお願いしますね」
「はい。おや後ろの方は一」ナナミさんは私の後ろに隠れているエルフィのさらに後ろにいたパムを見つけた。
「はい。新しい家族です」私はパムを前に連れてくる。エルフィ邪魔です。どいてください。
「初めまして。ドワーフのパムです。よろしくお願いします」パムがどことなく挙動不審に挨拶をしています。怯えていますねえ。
「ああ!!それでですかー。あ、失礼しました。こちらこそよろしくお願いしますねー」ナナミさんはパムにお辞儀をしました。
「それでとはなんじゃ?」モーラが周囲を見回しながら言った。
「店長がですねー。インスピレーションがわいたーとか叫びながら店に帰って来て、アトリエに旅立ったのです~。町中でパムさんを見かけたのですね~」
「ああ成程な」モーラはそう言いながら、ホッとした表情になりました。
「成程です~」エルフィは急に元気に言いました。
「成程だわ」アンジーも少しだけ明るく言いました。
「それは成程です」ユーリが腕を組んでウンウン頷いています。
「皆さん納得していますが、 何が成程なのですか?」パムが首をかしげています。
「あんた教えてあげなさい」アンジーが私を押す。
「いやメアさんお願いします」私の口からは言えません。
「では僭越ながら。多分パムさんを町中で見かけたのです。それで服のデザインイメージが湧いて違う町にあるアトリエに向かったのではないかと」メアはそう言ってナナミさんを見る。
「大正解~。でも~帰ってきたらパムさん大変かもしれないですね~」
「どう大変なのですか」パムは怯えている。何も知らないという事は恐怖ですよねえ。
「たくさんの衣装を着せられると思いますー。それも、とっかえひっかえ試着室でー」ナナミさんもなぜか嬉しそうです。
「私のような武骨な者で着せ替えをするのですか?」どうもイメージが湧いていないようです。
「その認識は違いますよ~」エルフィが嬉しそうに言った。
「可愛いというよりは美人さんですからねー。いつもとは違うデザインの服がみられますよー楽しみですー」ナナミさん飛び上がりそうに浮かれていますね。
「ナナミさんも嬉しそうですね」
「久しぶりなのですよ一。最近はあまりデザインしていなかったしー。しかも子供服がメインだったので~」
「そんな状態で服屋を維持できるのか?」モーラがいぶかしげに言った。
「他にもモデルさんはいるのですが、あんまり華がないんですよー」
「私に華がありますか?」パムはピンときていないようです
「そうですねー。では試着室の方へどうぞー。ああ、DTさんも一緒に来てくださいねー」そう言ってナナミさんはパムの手を取り、私の手も取り試着室へ向かう。他の皆さんもぞろぞろとついてくる。
「ではーこれを着てくださいね」ナナミさんは、メアに合図をしていたらしく、メアから受け取った一枚のエンジのロングドレスをパムに渡しました。
「これを着るのですか?」
「試着室へどうぞー」ナナミさんは戸惑っているパムを無理矢理フィッティングルームに押し込み、カーテンを閉める。
「これはどう着れば良いのでしょう」カーテンから顔だけを出してパムがナナミさんを見る。
「メアさんお願いします」ナナミさんの言葉にメアが一瞬で試着室に入った。おお神業です。カーテンの裾が揺れただけでカーテンの開いた音さえしませんでした。
「あ、これはだめです。やめましょう。恥ずかしいです」カーテンの奥から本当に恥ずかしそうなパムの声が聞こえます。
「あきらめてください。背中のファスナーを上げますから後ろを向いて」
「え、ああ・・・はい」パムさんの声が諦めたようです。そしてカーテンが開けられました。
「おお!!」そこには、やや胸のあたりが空いてノースリーブのロングドレスを着たパムが恥ずかしそうに下を見ながら立っています。メアが手を取って用意してあったサンダルを履いてフィッティングルームの外にでました。
「う~ん見立てはバッチリですね~。もう少しサイズが大きければ良かったのでしょうけれど、これでもうちのサイズの一番大きい奴ですからね~」顔を真っ赤にして出てきたパムは下を向いたままです。メアが親指を立ててグッと前に腕を出しました。それに対して、全員がグッと親指を立てました。さらにナナミさんが色々な角度からパムを見ていますがまだ下を向いています。
「DTさん見てないでこっちに来てください。ほら!2人並んでみるとわかりますよー」私はナナミさんに引っ張られてパムの隣に立たされる。メアに肘を曲げさせられて、そこにパムの腕が重なる。パムが私を恥ずかしそうに見上げました。なんか見つめ合ってしまいました。おや恥ずかしくて目が潤んでますね。可愛いです。
「ほう確かにな」モーラが見ながら頷いています。
「それはそうね」アンジーも同じ感想ですか。
「これは~まずいかも~」エルフィが何か焦っています。ユーリは声もださず、自分の胸と見比べています。
「さあ鏡を見てください~」背中を向けていたフィッティングルームの中の鏡に振り返って立ちました。ああ、確かに様になりますねえ。でもヒールだったら私より背が高くなってしまいますから私がちょっと厳しいですねえ。
「パムさんどうですか?」私もちょっと照れくさいです。しかも皆さんの視線が痛い。
「そ、そうですね。ちょっと言われた意味がわかりました。自分を過小評価していたかも知れません」そう言いながら、また視線を下にしてしまいます。
「ああそれはよかった。でもメアさんも試着しませんか?」私は恥ずかしさについ他の人を標的にしました。ずるいですね。
「メアさんにはこれを!!」ナナミさんが走って奥の部屋に行き、すぐ戻ってきました。そしてメアに服を差し出す。
「私はメイド服が似合います」ちょっと怒り気味に言いましたが、怒りきれていません。
「そう言わずにお願い。同士!!」なぜかナナミさんが手を合わせてお願いしています。メアはため息をついてからフィッティングルームに入り、カーテンを開ける。
「どうですか?」同じようなロングドレスですが、赤を基調として両肩とスカートの裾にフリルをあしらってあります。ああ、メイド服にイメージが近いのでしょう。メアは両腕をちょっと上げて脇の状態を左右見ながら確認しています。
「新鮮ね」アンジーが言いました。ええ、私もそう思います。
「やっと念願のメアさんのドレス姿が見られました~」ナナミさん涙ぐんでいます。
「そういえば昔から断り続けていましたね。これまですいませんでした」メアがなぜか謝っています。
「いいえ。この日がくるのを待ちに待っていました。嬉しいです」ナナミさん。ハンカチ出して、涙拭いています。
「ではメアさんもどうぞ」私は空いているもう片方の腕を曲げてメアの前に出す。
「では失礼して」メアが私の腕に手を入れる。ああ私幸せです。鏡の中に自分のにやけた顔が写ってしまい。思わずキリリと顔を直しました。その顔を見て全員がゲンナリしています。
「おぬしの顔は真面目な顔をするとおかしい顔になるなあ」モーラがため息をついています。
「そうね。どこか一本ネジがはずれた感じになるわね」アンジーもため息です。
「でも~うらやましい~」エルフィが腕を上下に動かしておぱーいが揺れています。
「私もです大人の雰囲気が出ていてうらやましいです」ユーリが言いました。でもまだあなたには未来があるのですよ。
「わかりました。そろそろ脱いでも良いでしょうか。かなりタイトなので動きが制限されます」そう言ってフィッティングルームに入り直すパム。メアも同じように別のフィッティングルームに入った。私は両腕から美人がいなくなり。置いて行かれたようでちょっと寂しかった。
「さて、この服を買いましょうかねえ」私は、家に帰って着てもらおうとナナミさんに言いました。
「お待ちくださいご主人様」カーテンが開いてメアがメイド服に着替えて出てきました。着替えが早すぎます。
「あのーメアさん申し訳ありませんが背中のファスナーをお願いします」
「わかりました。少しお待ちください」一瞬でフィッティングルームのカーテンの中に消えるメア。そして、パムも出てくる。
「ご主人様。まず私の服ですが、これは店長さんが手放しません」メアがナナミさんに自分の持っていた服を渡しながら言った。
「ああ例のルールですね」私は残念でなりません。
「例のルール?」
「うちのダヴィ店長は、自分がデザインして「この人に着せたい」と言って作った服は渡さないのです」ナナミさんは残念そうに言いました。
「はあ。そうなのですか」パムが事情がわからないまま返事を返しました。
「そして、パムさんが今着た服ですが、そもそもサイズが合っていません。しかも服のあわせに余裕がないので直しがきかないのです」なぜかメアがそう説明して、パムから服を預かり、ナナミさんに渡している。
「そうなのですよ~私としても非常に残念です」ナナミさんが残念そうです。
「それにね、あれ晴れ着なのよ。派手すぎて普段着にはできないわよ」アンジーがフォローをする。
「このツルツルの素材すごいですね。初めてのさわり心地です」パムはナナミさんのところに行って、ドレスを触らせてもらっている。
「ダヴィ店長は、特に生地にこだわりを持っていますからねえ」ナナミさんがウンウン頷いて言いました。
「そうなのよねえ」アンジーも同視しています。
「それでも普段着だって値段が高い割に分洗濯にもヘタしたりしませんよ。しっかりしています」メアが言いました。
「良質なものを作っているのですよ。もっともそれなりのお値段がしますけどね?でも長い間飽きずに着られてお得なんですよ?」ナナミさんが嬉しそうに言いました。
「はあ」パムはどっちでもいいという感じで同意しています。
「ということでナナミさん。パム用の服から下着まで3セットくらい用意して欲しいのよ。お願いできるかしら」アンジーが商談に入る。
「アンジーちゃん・・・おっとアンジー様了解です。おまかせください」
「言っておくけど本人の好みをちゃんと聞いて優先してあげてね。あなた、たまに自分の趣味を押し付けるから」アンジーが釘を刺しています。
「多少は許してください」そう言ってナナミさんは手を合わせて拝みます。
「特にエルフィについては、本人からちゃんと聞いて売ってちょうだい」アンジーがそう言った。
「ええ~~~ひどい~恥ずかしくて話せないのに~」エルフィが口をとがらせて言った。
「あんたは、ナナミさんの言いなり買ってきて、胸を強調する服ばかりで結局着てないでしょう!」子どもに説教される大人を久しぶりに見ました。
「着た時は似合っているんです~」おおエルフィ言い訳をしていますね。
「だったら普段も着て歩きなさいよ」アンジーの説教モードはいりました~
「だって恥ずかしい~」エルフィが顔を隠して恥ずかしがっている。
「ナナミさん。この子の性格から派手なのは無理なので、地味な感じの着痩せして見える服をお願いしますね」
「了解しました。エルフィさん。普段着はちゃんと着てあげないとその服も服を作った人も可愛そうなのです。ですから私の言いなりで服を買わないでくださいね?」いや、言いなりとか言わないで。
「はい」エルフィがしょんぼりしています。まあ、服も着て欲しいと思っていますから着てあげてくださいね?
「ナナミさんよろしくお願いします」パムが頭を下げた。
「パムさんの好みとDTさんの好みを聞きましょうか~」
「なぜよ」アンジーがそこで間髪を入れずに聞き返す。
「共用できる服もあると楽しいですよ~」なぜかナナミさんがパムと私を見て何かを想像してうっとりとしている。
「ああそういうことですか。なかなかない発想ですね」アンジーがため息をついています。そんなにため息をつくと幸せが逃げますよ?おっとアンジーに睨まれました。
「ナナミさん。本当はそっち系なのですか?逆だと思っていましたが」アンジーに睨まれてしまい、私はナナミさんについつい尋ねてしまいました。
「私なんでもありなのです~決まっていればなんでも~」そうやて両手を握ってくねくね踊るのを止めませんか。変態度が増します。
「何を会話されているのです?」パムがよくわからないので聞きました。
「腐った人たちの会話です。付き合ってはいけません」メアがぴしりと言いました。
「こんな時代からあるのねえ」アンジーが言いました。
「私の世界では神話の時代からですよ」私はついつい言い足してしまいました。
「そういえばそうだったわねえ」
「さて、これからは皆さんは服を選ぶと思うので、私は用事がありますからこれで失礼します」私はそこから逃亡しようとしました。
「ぬし様のご意見をいただくようにとモーラ様から言われております」そう言ってパムが私の腕をガッシリと掴んで離しません。
「いなくなっちゃダメ~」エルフィも私の服の裾を掴みました。
「そうでしたねえ」私はさらに逃げ道をユーリに塞がれて、観念しました。
「どうしてこう男は、こういうのを嫌がるのかのう」モーラがしみじみ言いました。
「照れくさいのもあるのかもしれないけど、女の子はいて欲しいものじゃない?この男は前の世界でも・・・おっといけない余計な事を」
「なんじゃあ?」
「何でも無いわよ。言い間違っただけだから」アンジーが慌てていますが、モーラ以外誰も聞いていませんでしたよ。
 そして服を選びます。語彙の少ない私には拷問の時間です。だって「可愛い」とか「綺麗」以外にボキャブラリーを持たないんですから。
 服屋を出るまで、エルフィとパムのどちらかが、私のそばにいて監視していました。さすがにもう逃げませんよ。
 パムの服は、頻繁に出るサイズではないので、インナー以外は取り寄せになり、他の人たちは数着買いました。全部が入った袋は当然私が持っています。とほほ。

○モーラの洞窟へ遠足
「起きろ!ダメ人間!」アンジーの叫び声が頭に響きます。脳内通信と2重で倍うるさいです。
「ダ~メ~人間~」アンジーの後ろでエルフィが踊っています。いつもなら最後に起こされているはずのエルフィが起きています。これは私もまずいかもしれません。
「モーラの洞窟ができたのよ。今日は作業があるの。いつものように寝てはいられないのよ」アンジーはそう私の耳元で叫びました。
「そうでしたか。ついつい研究に没入してしまいました」私はあくびをしてのびをしながらそう言いました。
「いいから起きなさい。仕事があるのよ」アンジーはそう言って1階に戻りました。エルフィはその後を「ダ~メ~人間~」と踊りながらついて行きました。私は着替えて階段を降りて居間に向かいます。
「あるじ様。寝癖がカッコ悪いです」ユーリに冷たい目で指摘されました。触ってみると左側だけ髪が立っています。おおパンク。ぜひ両側立てたい。そう言って自分の席に座る。
「ああすいません。ではお祈りを」以前から食事の前にアンジーが祈っていたのですが、ここに来てからは、全員で祈るようになりました。アンジーは神に感謝していますが、私は日々おいしい食事ができることに感謝しています。
「いただきます」お祈りの後、日本語で私が言って、全員で復唱しています。最初に言葉の意味は説明しましたが、理解しているのかは不安です。
「今日の予定ですが、天気の良い内にモーラ様の洞窟を見に行きます」食事が終わり、お茶を飲んでいる時にメアが言いました。
「おうよろしくな。ところで歩きか?」メアを見てモーラが聞きました。
「馬車が走れるようなルートを作らなければなりませんので、一度その洞窟まで歩くことになります。出発したら、前の洞窟で休憩した後、新しい洞窟まで一気に進みます」メアが仕切っています。
「結構大変ですねえ」私は距離がどの位かわかっていないのにそう言いました。
「はい。かなりの距離がありますので、今日中に新しい洞窟に到着して宿泊の後、翌朝、道をどこに作るかルートを検討しながら帰ってくることになります」メアの冷たい視線が痛いです。これは足も痛くなりそうです。
「すまぬな。道は必要ないとは思うが、一度は来て場所を覚えてもらわないとまずかろう」モーラも結構真剣です。私達は、お尋ね者で指名手配犯あつかい。何かあった時に逃げ込む場所が必要かも知れません。
「今回の目的は、モーラ様の私物を古い洞窟から新しい洞窟に移動させる事です。もちろん洞窟の中の掃除もありますし、移動させるためには馬が走られるくらいの獣道は作らないとだめだと思います」メアのお片付け心がこの行動を駆り立てているのかも知れませんね。
「その辺も見極めないとなりませんね」パムが頷いています。
「ですね~」
「では準備はできています。行きますよ」メアの声に従って出発をする。
 私達の背中には、荷物を背負っています。アンジーもモーラも背負っています。でもモーラは必要ないのではありませんか?」
「そうはいかんじゃろう」
「こうなると私が一番体力がなさそうですねえ」
「重力魔法を使えば良かろう」
「体力がなくなったら使いますね」
「まあ頑張れ」
 そうして古い洞窟までは簡単に到着しました。当時私が迷って到着できるくらいの距離ですからすぐつきました。
「ここは近いですからねえ」
「馬車で来ても良かったのではありませんか?」ユーリがそう聞いた。
「明日まで馬をここで待機させるわけにも行きませんから」メアがそう答える。
「確かにそうですね」私も同意しました。まあ、アとウンなら勝手に帰りなさいと言ったら帰りそうですけどね。ああ、馬具を外せませんね。外せるように改良しておきましょう。
「さて、少し休憩してすぐ出発します」
「はい」全員で荷物を背負って出発しました。
 そこからは勾配のある道を進みます。徐々に勾配がきつくなっていきます。
「この勾配は馬が昇っていけますか?」パムがメアに聞いた。
「迂回ルートを作れれば良いのですが、どうでしょうか」
「モーラあとどのくらいですか?」
「ああ。まだ先じゃなあ」
「モーラに送ってもらった方がよかったんじゃないかしら」
「上空からでは木に阻まれて起伏が見えません」メアが即座に答える。まあ、歩く以外の選択肢がないのでしょう。
「確かにな」
「一度昼食にしましょうか」
「わしならひと飛びなのじゃがなあ」
「こいつがまだバテていないからまだ行けるわよ」アンジーが私の様子を見ながら言いました。
「「「「「なるほど」」」」」そこで全員で頷かないように。こんな事で心を揃えないでください。
「あともう少しです」メアがそう言いました。一度モーラに乗って場所を確認しているようです。ひとりだけはぐれても迷子にならなくて済みそうですね。
「到着しました」洞窟というよりは、崖に作られる反政府軍の航空機のハンガーのようです。とても広い。
「おぬしの頭の中にあった飛行機というのが出入りするのを真似てみたぞ」モーラがなんか威張って言いましたが、この辺ではあまり意味がありませんよ。
「横にそんなに広げなくても良かったのではありませんか?」パムが不思議そうに尋ねる。
「この洞窟を襲われたら横に広くないと、逃げられないのじゃよ。山の中腹に上空脱出用の穴が作ろうと思ったが、わしの体が通る穴を作ったら、山自体が陥没するかもしれぬのだよ」なんでモーラがすまなそうなのでしょうか。
「そういえば、モーラの大きさってどの位なのですか?この洞窟の中で実際にドラゴンに戻ってもらえませんか」ユーリがちょっとワクワクして言いました。
「ああ」モーラはそう言ってドラゴン本来の姿に戻った。空中に浮かんでいる時は比較できるものがなかったのですが、実際にこうして見ると大きさがかなり違います。で、でかい。
「大きいです。ちょっとどころかかなり大きいです」ユーリがびっくりしています。
 そんな話をしていると、陽はすでに傾きかけていて、さすがにこのまま下山はできません。
「メアさんどんな感じですか?」
「傾斜自体は迂回しながらの道であれば問題はなさそうなのですが、馬車が通れるような道が作れないかもしれませんね」メアはそう言ってエルフィを見ました。
「エルフィどうですか?」私はエルフィに聞きました。
「太い木ばかりで~伐採すると~木の太さの分だけ道ができてしまって~洞窟に簡単に到着できてしまいますよ~」 
 さすが森の専門家。的確です。
「今回の目的はモーラの私物 (光り物)の移送ですから少し離れたところまで道を作ってその後は背負って届けますか」
「わしがやっても良いのじゃが」
「子ども体形で古い洞窟から私物を掘り起こしてここまで持ってくるのでしょう?一人では大変ですよ。みんなで一気に持って来た方が早いです。そもそもの発想が、この場所を知られたくないから頻繁に飛ばないで済まそうということからでしょう?」私は、ここまで登ってくる時にメアさんから聞いていた事情を確認する。
「わしの洞窟が断定されるとやっかいな事になりそうなので、あまり見られたくはないからなあ」
「食事の用意をしますので洞窟を出ましょう」
 洞窟の端のほうに持参したキャンプ用品を使ってテントを張り、食事のためのかまどを作った。
 食材も持参していて、それをメアが調理してみんなで食事をしました。久しぶりでもないはずなのに妙に懐かしかったのです。
 さらに持参した毛布にくるまって夜を明かします。モーラはドラゴンに戻って寝ていました。モーラの寝息は意外に静かなのですねえ。
 翌日、古いほうの洞窟に戻って私物を確認しましたが、少人数ではとうてい運びきれる量ではない事を確認しました。
「やっぱり私の空間魔法を使いましょう」私は頷きながら言いました。
「やめておけ」
「モーラ様が知らないだけで、空間魔法は存在しておりますし、使う事も可能なのです」メアがそう言った。
「そうなのか?」私とモーラは顔を合わせています。
「はい。最初にご主人様がお風呂で空間魔法を使った際、エリス様にその事を話をした折、そう申しておりました」
「そうか。ならば堂々と使わせてもらおう」
「マーカーは、新しい洞窟に打っておきましたのですぐに作業できますよ」私はそう言って、私物の置いている場所の横に立った。
「用意周到じゃな」
「緊急時の脱出用のつもりで打ち込みましたよ。この世界では何があるかわかりませんから」
「ああ確かにな」
 そうして、空間をつなげてモーラの私物は無事に新しい洞窟に移動することができました。空間をつないだままですので、そこを往き来してみたのですが、問題はありませんでした。そして、全員で元いた洞窟に戻りました。
「この魔法を使って家に戻らんのか?」モーラがどうせなら帰ろうと提案します。
「ここは家から近いのですから。歩きましょうよ。遠足は家に帰るまでが遠足ですよ?」私はそう言いました。
「体力ない割にそういう事を言うのね」アンジーが冷たい目で言いました。あなたも早く帰りたいのですねえ。
「不便も知らないと便利な事に感謝しなくなりますよ」これは本当です。ありがたみが薄くなって当たり前になるのです。それは駄目です。
「それはそうなのよねえ」
「おや馬車を引いてアとウンが来てくれましたよ。どういうことですか」
「さすがあんたの買っている馬ねえ。下僕体質が染みついているわね」
「どうしてそうひねくれたことを言うのですか。良い子達でしょう?」私は近付いて馬を撫でます。
「単に走りたかったのではありませんか?」ユーリがそう言って馬を撫でています。
「そうかもしれませんねえ」
「暇だったみたい~出番が欲しいって~」エルフィが馬の言葉を翻訳しています。
 私達は全員で馬に乗って家に戻りました。めでたしめでたし。

Appendix
わしはもうだめかもしれぬ。この子の体力についてゆけぬ。
誰かわしとこの子を殺してくれぬか。お願いだ。
しかし、長がいなくなれば、この里も絶滅かもしれぬがな。
ああ、孫娘の事もある。まだ死ねぬか。


続く
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