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第12話 襲撃と告白と会ってはイケない人達

第12-5話 プリカミノへようこそ

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○ 賢者への道
 さて、朝を迎えて全員で遙かに見える城塞都市に向かおうとしていましたが、メアとユーリが馬に乗って都市に行って馬車を調達してくると言い出しました。
「ここからなら距離も近いので、馬にも私達にも負担がかからないと思います」ユーリが馬を見てそう言いました。
「馬たちが乗って貰えずにへこんでましたからねえ」私の言葉にエルフィも頷いています。なだめ役ご苦労様でした。
「エルフィは行かないの?」アンジーが意地悪そうに言いました。その言葉に馬の反対側にエルフィが隠れるます。
「アンジー様の意地悪~」馬の背中越しにアンジーを見るエルフィ。そう言うところも可愛いですねえ。
「旦那様のバカ~」エルフィはそう言って横を向いてしまいました。歩きながらは大変ですねえ。
「相変わらずの人見知りですか。少しは慣れなさいよね」アンジーがため息をつく。
「まあ、よせ。今回の都市は初めての都市じゃ。エルフが入れるかどうかもわからん。下手に騒ぎになってわしらの事がバレても困るであろう」モーラがそう言った。
「では、お願いします。駄目でも戻ってこないで、都市内部の市場調査なんかをお願いします」私はそうお願いします。
「あと美味しいご飯と宿屋も調べて欲しいわ」アンジーが言いました。
「お、お酒も~」エルフィがそーっと手を上げて小声で言いました。
「ご希望に添えるよう行って参ります」
「ユーリも気をつけてね」私はポンと肩をたたきました。
「はい!」2人はそうして馬に乗って駆けていきました。
「本当は私が行きたいのですがねえ」私はそう言いました。
「やめておけ。保護者が子どもを置いて先に行ってどうする」モーラはそう言って私の手を握る。
「そうよ。保護者の責任は全うしなさいね」そう言って反対の手を取るアンジー。
「旦那様~」そう言って後ろからぶつかるように胸を押し当てて両手を回してギュッと抱きしめるエルフィです。
「エルフィ。それじゃあまるで大きい子どもですよ」私はそう言いながらもちょっと嬉しくてしばらく層のまま歩いていました。

「そろそろ昼じゃのう」モーラが足を止めます。途中何度か休みながら歩いてきましたが、休む頻度が多くなっています。途中で行き会う馬車もなくて、乗せてもらう事もできませんでした。
「食事は、どうしましょうかねえ」私も道ばたに座り込んでしまいました。水は手に入りますので、全員に水を飲ませます。
「大丈夫ですよ~戻ってきたみたいです~」エルフィが座り込みながらも耳を傾けています。
「やったー。私も大分疲れていたのよねえ」
 道の先のカーブを曲がって馬車が走ってきました。ユーリが手を振っています。私はモーラに手を貸して立ち上がらせて、お尻についた土を払います。
「お待たせいたしました」メアが馬を降りて丁寧にお辞儀をします。
「ありがとうございます。それと食事の」
「はい、ご用意してあります」メアが馬車の中に誘導してその中で食事にしました。
「大変でしたでしょう?」私は2人に尋ねました。
「私のようなメイド服を来た方もけっこういらっしゃいましたのですが、視線は感じていました。それでも馬車の店などは教えて貰えましたが、どうもぎこちない感じでした」
「そうなのです。大剣を持っているのを不思議そうに見ているのかと思いましたが、どうも怪しい人を見る目なんですよ」
「ふむ。わしらの事が噂されているのかもしれないな」
「ありますねえ」
「二手に別れるしかないわね」アンジーが食事をしながら言いました。
「そうしましょう。エルフは街中にいましたか?」
「何人かは見かけましたので、大丈夫だと思います。街に入れないという事はありませんね」
「では、私とアンジーとモーラで歩いて入りましょう」
「それが良さそうね。ユーリとメアとエルフィは馬車で中に入ってちょうだい」アンジーが言いました。3人とも頷いています。
「では出発しますね~」食べ終わったエルフィが御者台に向かう。
「旦那様~アーちゃんとウン君が~馬具を調整して欲しいって~」
「ああそうでしたね。ちょっと待ってください」私は馬車から降りて馬具の調整に向かいます。
「うちの馬たちはわがままじゃのう」モーラがため息をつく。
「そうかしら?実際山の中からここまで逃げようと思えば逃げられたのに逃げないのよねえ」
「どちらの馬も私とメアさんを落とさないように慎重に走ってくれました。すごい馬ですよ彼らは」ユーリが褒めている。
「なるほどねえ。モーラのしつけがしっかりしているからかしら?」アンジーがモーラに声を掛ける。
「最初は脅したとはいえ、その後は優しく接しているわ。優秀なだけじゃろう」苦笑いをするモーラ。
「じゃあ出発しまーす」エルフィの声がして、馬車は動き出す。私が中に戻ってきたが、中は揺れが結構ひどい。
「これが本来の馬車の揺れか」モーラが前後左右に揺れている。他の皆さんの動揺に揺れている。アンジーは飛び跳ねたりしている。
「やっぱりあんたは優秀なのね。日常生活便利グッズ製作者としてだけど」アンジーが笑いながら言った。
「街に着いて宿屋が決まったら。数日掛けて改造・・・調整をしますね」私はあえて言い直しました。
「頼む。この揺れはさすがにひどいわ」
「そうね。最初の馬車もこんな感じではなかったわよねえ」
「あの時も多少はいじっていましたが、こんなものですよ。大きい馬車に荷物が何も載っていないと揺れが大きくなるのです。街に着くまでは辛抱してください」
「あるじ様はやっぱりすごいのですね」そう言いながらもユーリは揺れを余り気にしていません。傭兵時代にはこんな感じだったのでしょうねえ。
「そうです。不便さを実感して一層ご主人様の偉大さがわかりますね」メアさんそう言いながらさりげなく私の手を握りましたね。ちょっと照れますよ。
「街が見えてきましたよ~」エルフィの声がしました。馬だとやはり一瞬・・・というか速度を出しすぎていたのではありませんか?だから揺れがひどかったのでは?

 馬車を降りて私とモーラとアンジーは歩き出しました。メアが気を利かせて買ってきてくれていたフードを3人ともかぶっています。替えの服も防寒具も下着も全部焼けたのですから。収穫祭の時のメイド服さえも。
「モーラ、背負いましょうか?」私はモーラに声を掛ける。
「まだ大丈夫じゃ。しかし、この体は不自由すぎるなあ」モーラは結構つらそうです。
「そうよね。人間に模しているとわかっていても制限がありすぎるわね」アンジーも結構きつそうです。
「ドラゴンに戻れば何とかなるのだろうが、さすがにできぬしなあ」
「背負いますね」モーラに手を貸して背中に背負う。モーラは手を伸ばして私の首に腕を回しました。
「何するんですか」私はびっくりしてちょっとふらつきます。
「魔力補充じゃ。しばらく頼む」モーラがそう言って肌と肌をあわせています。
「ああ、その方法があったわねえ。次は私もお願いしようかしら」アンジーが私を見て言いました。
「もう街の入り口に着きますので夜まで我慢してくださいね」私はそう言ってアンジーと手をつなぎました。
「仕方が無いわねえ。これで我慢するわ」そう言ってアンジーは、つないだ手を前後に振って歩いています。うれしそうですねえ。
「さて、街に入りますよ」
 そうしてその城塞都市に入りました。
「城塞都市プリカミノへようこそ」街の入り口で兵士さんに挨拶されました。良い都市なのですねえ。

 街の荷馬車を止めるところでユーリが手を振ってくれています。馬たちはそこにいてもらう事にして、念のためシールドで保護した後、全員で街に入りました。街を歩いていると、行き交う人々から好奇の目で見られています。そして避けるように逃げていきます。
「なんか見られ方が他の町と違うのじゃが」モーラが周囲の人を見ながらそう言いました。
「そうですね。物珍しいものを見ると言うより汚い物を見るような感じがしませんか」
「やっぱり変な噂がした先行しているのかしら」アンジーはため息をついている。
「もしかして、あの不死身の勇者が何か誤解を招くようなことを言い回っていませんか」メアがそう言うとユーリとエルフィも嫌な顔をしています。きっと彼の事を思い出してしまったのでしょうね。
「ありそうじゃな」
 メアが一度来た時には、衣類と食料だけを手に入れて私達の所に戻ってきたので、宿までは確認していなかったのですが、この雰囲気では行き交う人に宿の場所を訪ねる訳にも行かず、宿屋を探して街の中心地に向かう大通りを歩いています。
「まあ遠巻きにされているだけなら余り気にしないのですが、人々が道の両端に足を止めていて、どうしても道の真ん中を歩く事になっているのが嫌ですねえ」
「ああそうじゃなあ。そちら側に寄っていくと人はよけるのだが歩こうとすると立ち止まっている人を避けてどうしても中央に寄る事になるな。困ったものじゃ」
「誰かが来るのを待っているようにも見えますね」ユーリが周囲を見ながら言います。
「私達を見ては、私達の歩いて行く先をチラチラ見ています」メアが周囲を警戒しています。
「前方から馬がたくさん走ってきますよ~」エルフィはメアの後ろについて歩きながらそう言いました。
「どうやらこれを待っていたのか」モーラが納得しています。
 城塞内を流れる川をまたぐ大きな橋を渡っている時に周囲が急にざわめきだし、私達の目の前に馬に乗った集団が立ちはだかりました。先頭の数人はきらびやかな鎧を着ています。その後を歩兵が走って到着しました。
 騎馬の人たちは、全員馬から下りて、先頭に立つ綺麗な女の人がすらりと剣を抜き私の眼前に突きつけました。
「現れましたね女性の敵。いや人類の敵」涼やかで綺麗な通る声です。橋を渡っていた人達が足を止めて、何事かとこちらを見ています。見世物になったようで嫌な気分ですねえ。
「なんじゃ。やっぱり敵扱いじゃのう」想定したとおりの対応にモーラは嫌そうに言いました。
「あのう剣を収めてもらえませんか?危険なので。ほらケガしてしまいます」私は剣を向けている若い女の人に言いました。
「危険なのはおまえだろう!死んでしまえ」横から同じように鎧を着て剣を手にしてる変な女が口を挟んできました。よけいなお世話です。
「誤解を解きたいので剣を収めてもらえませんか?これで私からのお願いは二度目ですよ。こちらは攻撃の意思はありません。わかりますか?誤解を解きたいと言っているのです」私は怒りを押し殺しながら言いました。当然目は怒りの目をしていたと思います。
「・・・・」剣を私に向けている女性は、私の言葉に何も言い返さず何かを考えているようです。
「あのう。あなたは「バカ」なのですか?礼儀を知らないんですか?礼儀正しく接している人に対して無礼に対応する。それがそのような甲冑を着ている騎士のすることなのですか?剣を収めなさい」私はだんだん怒りがこみ上げてきて、しかしそれを抑えるように丁寧に告げました。
「貴様!王女様を愚弄したな」再び横から口を出してきたのは先ほどの女剣士です。
「ああ?王女様だったんですか。礼儀を知らない「バカ」にはそれなりの対応をすると言っているんです。わかりませんか?王女が「バカ」なら仲間も「バカ」だと判断しますが、それでいいですか?あなた達は名誉ある騎士では無いんですか?」ここでやっとその王女と呼ばれた女性は、剣を収める。
「ここまで言われないと剣を収めないとか、すぐ無抵抗の魔物を殺すタイプですね」私はだんだん怒りを抑えられなくなってきました。どうやら私は怒りをため込んで一気に吐き出すタイプのようです。
「なんだと!」横の女は前に出てきました。
「そうやって常に戦う気でいるのがおかしいと言っているのです。常に先手で攻めないと恐くて戦えない口ですか?」私はついつい相手を挑発する発言をしました。手を出させるつもりも少しありました。
「貴様!」
「よけいな戦いをして民衆が迷惑していないとでも思っているんですか?」
「姫は、民衆が苦しんでいるのを見ているからこうして戦っているんじゃないか」
「今までの戦いで民衆に迷惑を掛けていないと誓えますか?食料とか無理矢理供出させていませんか?」
「貴様、何を言って」
「民衆の声はあなたたちにまで届いていないかも知れませんが、市井を歩いてきている私の耳には入ってきていますよ」
「なっ」
「あなたは自分の手で作物を作ったことがありますか?ただそれを民衆からもらったものとしてあたりまえのように食べていませんか?感謝の気持ちがありますか?」
「・・・・」
「あなたは、魔物を討伐するのが仕事かもしれません。でも、あなたが生活するには、食べ物を作ってくれている人、武具を作ってくれている人、いろいろな人がみんなであなたを支えているのです。それを理解していますか。あなたがいなくてもみんながいなくてもこの世界は成立しない。全員平等なのです。わかりますか?あなたが戦って帰ってきたら死んで誰もいなかったらどうしますか。あなた一人で畑を耕し、農具を作り、食事を作り、服を縫い、そんな生活になるんですよ。よく考えてもっと民衆を大切にしてください」
「・・・・」
「で、言いたいことはですね、誰に対しても無礼な態度を取ってはいけないということです」私はやっと冷静になれました。
「おぬしは妙に饒舌じゃのう」モーラがあきれています。まあそうなんですよ。
「え?剣を突きつけられて混乱して何を言っているかわからなくなっているだけです」私はちょっと恥ずかしくなりました。
「そうなのか?」
「姫様はそんなことはありません、平民の私に対しても平等に扱ってくれています。能力を見いだされここにこうして一緒に戦わせてくれています」王女の反対側に立っていた魔法使いらしき杖を持った女の子が言いました。
「それは、あなたに対してだけですよね。すべての平民に優しいわけではない、戦うために必要なスキルをあなたが持っているから平民でもこうやって一緒にいさせてもらえているんですよ。そんな事も理解していないのですか」私は辛辣に言葉を返します。
「そんな」その子は言われて反論できずに沈黙する。
「さすがに全ての平民に平等であれとは、私も言い過ぎだと思います。でもね、平民が税の取り立てで苦しんでいる。それは、魔物の討伐に必要だからしようがないことです。だからこそ平時には、平民のためにあろうとしなければならない。それが王位につく者、勇者を名乗る者のすべきことでしょう。ことさらここで争いを起こして民衆に何のメリットがありますか?私は誤解があるから解きたいと申しておるのです。それを言語道断、一刀両断とか。王女として勇者としてあるまじき行為でしょう」
「すまなかった」王女は頭を下げる。
「騒ぎすぎました。少なくとも民衆の前であなたをおとしめたことにはお詫びします。場所を替えましょう」
「はい。ここの城主のところではどうでしょう」ああ、なんか立場が逆転したような気がしました。
「わかりました同行させていただきます」
 彼女たちはたぶんこの城塞都市の城主のところに先に向かったのでしょう。私達は残っていた兵士に誘導されてその城に向かいました。
 向かった先は、高い壁に囲まれた城塞都市の中央に位置してる大きな城です。その城も周囲を堀に囲まれていて、吊り橋を渡らなければ入れないようになっています。吊り橋が下がってきてその上を兵士と共に・・・いや、兵士に囲まれて中に入りました。まるでとらわれた虜囚のように。とほほ。

続く
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