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第13話 迷いの森と隷属の呪い

第13-2話 再会

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○エルフィの事
 エルフィは迷いの森に着いた。いつも綺麗な金髪は薄汚れて、着ている服も所々裂けたりりしている。さすがに傷はない。しかし疲労が顔に出ている。満身創痍だ。森を抜け山を越え、魔獣の追撃をかわして、ほとんど不眠不休で迷いの森の前まで来たのだから。
「帰ってきちゃった」声のトーンはいつものエルフィではない。
「でも」行くしかないと心の中でつぶやく。
「森よ。私を受け入れてください」その声に森が答えてくれるわけではない。森はただ在るだけ。受け入れてくれるかどうかは、入ろうとする本人自身の気持ちの問題だと言われている。
 ゆっくりと森の中に入っていく。風が吹き、枝が葉がざわめく。葉の間を光がきらめく。歩きながら周囲を眺める。いつもと変わらないいつもの森。錯覚なのだろうがいつでも同じに見えてしまう。同じ道を同じように繰り返し歩いているように見える。どこまで続くのか不安になるが、いつの間にか森の出口に着く。よかった。私はまだ受け入れてもらっている。
 ツタの絡まる木の城壁が囲うエリア。間違いないエルフの里だ。いろいろな思いが錯綜する。少しずつためらいがちに歩を進める。
「まて!ここはエルフ族の里。無断で入ることはまかり成らん」いつの間にか城壁の上にエルフがいる。
「私の名はエルフィ・ドゥ・マリエールと言います。この里の者です」
「そんな奴知らないぞ!ってええ?、あのエルフィか、漆黒のエルフィ・・さんですか」なぜか急に話し方が丁寧になる。と言うより怯えているようだ。
「そうよ。だから開けて。他に誰もいないわ」
「お待ちください。長老ー。来ましたよ」
 重い扉が開き、見たことのない数人の若いエルフにじろじろとなめ回すように見られ、まるで罪人のように取り囲まれて、長老の家に連れて行かれる。ああ、傷だらけだし、疲れているし、着替え位させて欲しいと歩きながら思った。あとお風呂・・・ってここでは水浴びしかできないか。温かいお風呂が懐かしいな~もう入られないかもしれないな~そう思いながら歩いている。
 里の奥の方にある見慣れた長老の家に到着する。ああ、古くて太い木の地面から少しだけ高いところにある家。一度外に出て戻ってくるといかにも陳腐だ。おかしくなって少し笑いそうになる。
 中には簡単なテーブルと椅子が並べられていて、奥の方にいつもの長老連中が座って待っていた。私はまるで尋問されるかのように入り口手前にぽつんと置かれた木の丸い椅子に座らされる。
 久しぶりにこの部屋を見回すと、もっと広かったような記憶がある。そうかこの部屋に入ったのは、数十年前の子ども時代の事だったのか。
 中央に座った長老連中の長が口を開いた。
「よく戻ってきたなエルフィ。ずいぶん傷だらけだが、かなり急いで戻ってきたのか」
「はい、里の・・いえ森の危機だと書いてありましたので」私はさすがに丁寧に話し始める。
「良い心がけだ。しかし、おぬしの伴侶が一緒じゃないようだが。連れてこなかったのか」長の下卑た目がいやらしく感じる。
「そんなことは、私個人のことでこの里の危機とは全く関係ありません。そもそもだんな・・・あの人は勇者ではないのですから」私は無事に着いた事を心配するでもない言い方に相変わらずだなあと、ついおかしくなる。おっと笑ってはいけない。
「なるほど、勇者ではない男とちぎったのか。相変わらず使えんなあおまえは」長は、からかうように笑って言った。
「それでかまいません。でも、森は今どういう状況なのですか」
「ああそれか。今調査を始めたところだ。まだ時間がある」
「では、あの手紙は一体」
「こうでもしないとおまえは帰ってこないと思ったからな。いつまでもその転生者と暮らすような感じだったから連れてくるよう催促したまでだ」やはり下卑た笑いをして言った。品性とかないですねえ。
「そうですか」私は少し安心した。森はまだ大丈夫なのだ。
「それでその男はいつ連れてくる」
「あの手紙は本当にそれが目的だったのですね。森の危機とは関係ないと。私達を呼び出す口実としては、卑怯なやり方だと思いませんか」私はつい反抗的な言い方になる。
「いかに里が閉ざされているとはいえ外の世界とは多少はつながっているのでな。特にそれぞれの一族の長同士は、定期的に連絡を取っているから情報は入ってくる。そのエルフの族長がお主が転生者と暮らしている事実を他の者から聞かされては、事実確認をしておかねばなるまいと思ったまでの事よ」にやついた笑いと共にそう言った。
「ああそうでしたか。なぜ水神様が私の里のことを知っているのか不思議でしたが、そういうことでしたか」
「だから、勇者でないにしてもその男は使えそうだからぜひ連れてきて欲しいのだ。いや、一族のため連れてきなさい」急に言い方が丁寧になったがそれはいつものやり口だ。
「他の優秀なハイエルフ達がいますよね。当然彼らなら優秀な勇者なり戦士なりを見つけているのでしょう?あいつらが・・おっとあの人達が連れてきた方々で十分じゃありませんか」私は予想はしているが念のため尋ねる。
「今のところ誰も連れ帰ってはいない」言いづらそうに長はそう答えた。
「そういうことですか。彼らは私に「おまえなんかが行く必要はない。私たちが連れてくる」と、あれだけ大口をたたいて私のことを馬鹿にして出て行ったのに一体どうしたんですか?」私は少し嬉しかった。そうそう勇者なんか見つかるものではない。勇者候補なんて3人くらいしか知られていないのだから。
「まあいろいろとあってなあ」目をそらす長老達。
「その辺は聞きたくもありません。残念ですが私のだん・・・あの人は、ここには連れてきません」そう。この人達に、この里に関わらせては絶対にいけない。もちろん他のエルフに取られる危機感もあると言えばそれもあるけど。
「そうか、まあおぬしが連れてくるか、森が迎えない限りはこの森には無理に入ることはできないからな」
「はい。長老達がどう画策しようとこの森は変わらないでしょう。まあこの森のことは、私よりもご存じかと思いますので今更でしょうけど」私は皮肉を込めてそう言った
「おまえ。わざとじゃな」長は私を怒りの目で見て言った。
「はい。わざとです」私はにこりと笑って言った。今日初めての最高の笑顔です。
「わかった。一度家に帰れ」長老は、私にさっさと帰れというようにしっしっと手を振った。ああそうだ。小さい時に呼ばれて何か会話をして、あきれたように長老は今回と同じようにしっしっと手を振ったのだ。変わらないなあと、そして少し悲しいなあと思った。
 そうして私は長老の家を出された。中では、まだ何か会議が続いている。長は、何でも無いと話していたが、森の危機は私も感じている。何かモヤモヤとした不安が私の中にくすぶっている。ぼんやりと里の中を歩いて家に着いた。里の外れに大きい木があり、その中腹に私の父母が住んでいる。木の下に見覚えのある2人の影があり、すぐに両親だとわかった。駆け寄ろうと思ったが、ここを出た時の両親の表情が思い出されて駆け寄ることができない。歩いて近づいていく時も2人の顔を見てこれまでにあった軋轢やケンカを思い出して憂鬱になる。
「お父さんお母さんお久しぶりです。お元気でしたか」そう声を掛けるのが精一杯だった。
 それに対する母の第一声がこれだった
「どうして連れてこなかったの?勇者なんでしょ。いい男なの?さあ話してよ」
 横で止める父親を振り切り、私の両肩を揺さぶりながら母は言った。ああ変わってない。いや変わるわけもない。100年ずっとこの調子なのだから。私がいなくなれば少しは変わってくれるかもしれないと思ったけれど、それは無理なのだろう。
「私のあの人は勇者ではないのよ母さん」
「なんだそうなの」感心を無くした母がっくりしたように手を離す。
「まあいい。とりあえず中に入って休みなさい傷だらけじゃないか」父はそう言いながら、私をなめるように見る。ああ、この人も変わっていないんだ。
「私の部屋はまだ残っているのかなあ」一応聞いてみる。
「ああ、部屋は残っているよ。ただ」母は、そこで言葉を濁す。多分そうなのだろ予想はしている。
「ああいいわ。実際見てみるから」私はそう言って、一番高いところに作った自分の部屋に登っていく。
 その部屋は、私が自分で作って、何度も手直したお気に入りの部屋だ。その扉を開く。しかし、そこには何も無かった。私が作ったベッドも机も棚も衣装箱も額縁もカーテンも何もかも無かった。そうだった。私の物はみんな誰かにあげたんだね母さん。
 ガクリと膝を突き、手を突いてからそこに崩れ落ちる。もう涙なんか出ないと思ったのに。悲しい涙なんか流さないと思ったのに、あの街でみんなと一緒に騒いでいた時に楽しい涙しか流さなくてもいいのにと思っていたのに。なぜが涙が床に水たまりを作る。ああそうだった。この両親は、いや母親はいつもこうだった。人に気に入られるため家の物はすべて人にあげる。それが私の大切な物でも何でも。私がこの部屋に暮らしている時にはそれをさせなかった。どうやら私の木工技術は、かなり優秀らしく、私の作った家具などは目をつけられていたとは思う。でもその時は、私に聞いてくれてその大事さもわかっていてくれたはずなのに。そして、その事を諫めない父も同じだ。母だけでここから家具などを降ろせるわけもなく、数人で手伝ってここから持ち去ったのだろう。ああそうだ、ここには私の物は何も無い。かえってすっきりした。泣きはらした後、私はすがすがしい顔になって両親の家に行く。
「私の家具とかはどうしたの全部無いけど」
「皆さん気に入ってくれたのであげたわ。喜んでくれてるわよ」何でも無い事のように言う母親。
「そう、私に了解もなくあげたのね」
「だってあなたいなかったじゃない」
「いないからってあげていいものではないでしょ!」私もこの会話何度もしているはずだったが怒ってしまう。
「はいはいわかりました。今度から気をつけます」
 私は、父親を睨み付けた。視線を外しあらぬ方向を見ている。一瞬だけ殺意がわいた。
「それはそうとして、なぜ勇者様を連れてこなかったの、みんな見たがっているわよ、あなたの認めた人を」母親が今話した事を忘れてそう尋ねる。相変わらず自分本位な人だ。頭が痛くなる。
「いままでだって紹介はしていませんよ」
「あなた里の誰とも付き合わなかったじゃない」
「小さい時に私をいじめていた奴と誰が付き合うって言うんですか。成長したら手のひらを返したようにすり寄ってきてるような奴に」そうだそれも心の中にくすぶっている。
「みんな子どもだったのよ」
「ママだって私がいじめられていたの見て見ぬフリしていたじゃない」つい、昔のように呼んでしまった。ああ、やっぱり変わっていない。旦那様に言われて少しは変わっているかと期待してしまっていた。そうだよ、百年単位で変わらないんだから、変わるものでもないし、変えられるものでもない。ここにはいたくない。でも森の危機だと聞かされてきたのだけれど、何が起きているのかそれだけは確認しておかないと。
「ねえママ、里の危機って聞かされてきたのだけれど。一体何が」
「それがねえ、里からかなり遠いところの森の一部が枯れ始めているのよ。しばらく様子を見ているけど原因がつかめないらしくて」母親が知っている。いやこの人は噂好きだから情報も早く手に入れているのだ。
「広がっているの?」
「それがね、枯れた後は何も起きないの。草木が生えても来ないの」
「新芽も生えないの?」
「そうなのよ」
「長老達はどうしているの」
「すでに何カ所かで同時に起きていてその調査をさせているみたい」
 私は、その足で私の理解者である叔父のところに行って、長老達が行かせている調査隊から情報をもらい、単独で行動を起こした。あと寝具も借りた。
 数日して、枯れた原因を直接見に行って帰ってきたら、門のあたりで何やら騒いでいる。
 ああ、見慣れた荷馬車が門の前に止まっている。
 そうですか。来ちゃいましたか。でもなんでしょう、頬を温かいものが伝って落ちています。呼吸を整え頬をぬぐい気合いを入れてから近づく。
「ありゃ~来ちゃったんですか」
「来ちゃったんですか~じゃないでしょもう。置き手紙なんかして。探すに決まっているじゃないですか」アンジーが怒っています。そうアンジー様はそうでなければね。
「探せないと思っていたんですよ~さすがですね~」私は頭をかいて上を向く。涙が落ちないように少しだけ呼吸を整える。
「ああ門番さん、この人達は大丈夫ですよ~私の知り合いです。里の規則は知っていますよね。迷いの森を抜けてきた者は里の客人足る資格ありと。私も保障しますから入れてください~」
 そうして、ほんの短い間だけの孤独な時間は終わった。

○到着しました
 門の前でエルフィに会うまでは、しばらく門番と押し問答をしていました。あのままエルフィが帰ってこなかったら、門の前で野宿しなければならない状況でしたねえ。
 本当にしぶしぶ門が開きました。開いた門がさっと閉じられ、回りには誰もいなくなり、エルフィと私たちだけになりました。
「さて。納得できる言い訳を聞きたいのですが」私はちょっと怒っているフリをして言います。
「え~言い訳と言っている段階で納得できると思っていませんよね~」エルフィがなぜか楽しそうです。
「ほほほ、ケンカするほど仲が良いのか」2人の横から声がしました。じじいの声ですねえ。
「誰ですかこの人」
「あ、うちの長ですが」
「はあそうですかどうも」軽くお辞儀をしてからエルフィに向き直る。
「さあ。どういう言い訳をするのですか」
「貴様、長が話しているんだぞ」取り巻きが私の肩をつかむ。
「長さんですか?私たち間の話に口を挟まないでください。邪魔です」
「なんだと」
「いいから静かにしてください。家族の話なんですから」
「家族じゃと」
「はい、ここにいるのはすべて家族です。お偉いエルフの里の長様が、たかが一家族の話に割って入るのはやめていただきたいのですが」
「貴様、この里に入れてやったのに何という言い草だ。そんなに言うなら出て行け」
「まあ待て」
「しかし長。こいつは」
「エルフィが婿にと願う位の者じゃ丁重にもてなさないとなあ」にやりと笑ってその長が言う。
「ここは騒がしいので場所を移しましょう。どこか他の場所はないですか」私は長の会話を意に介さずエルフィと話をする。
「ありがとうございます。もうどうしていいか。うわぁーん」エルフィが鳴きながら膝をつきました。
「おおよしよし、えーとメアさん」私は頭を撫でながら、メアを呼びました。
「はい」
「いやーおんぶー」
「もうこうなると聞かないんですから」私はエルフィを背負ためにかがんだ
「はい乗ってください」
「うん、ありがと~旦那様大好き~」
「はいはい。どこに行けば良いですか」
「あっち」そう言ってエルフィは、里の外れの大木を指さした。
「メアさん馬車をお願いします」
「わかりました」メアさんは馬を誘導し、他の人は私についてきます。ぞろぞろと心配そうに。それを、遠巻きにエルフの方々が見ています。ああそういうところなのですねえ。
 エルフィは、その大木の前で背中から降りて、その大木のかなり上にある小屋に向けて声を掛ける。
「父さん、母さん、お目当ての人が来ましたよ」話し方がいつもと違って固い感じです。
 その家からご両親が顔を出しました。大人数にびっくりしたようで、
「家の中は手狭なのでお一人だけ上がってもらいなさい」
「そうします」
 そう言ってエルフィは、私の手を取りその木を登る。途中から手を離して木に取り付けた足場をぴょんぴょんと跳びはねてその家に着く。私は足場に気をつけながらゆっくりと登っていく。
 玄関前には、お二人並んで待っていて、家の中に誘導された。
「おじゃまします」私はそこにあるテーブルに置かれた椅子にエルフィから促されて座り、その隣にエルフィが座る。
「樹上生活ですか大変そうですね」私は会話が進まないのでそう尋ねた。
「歳を取ると下に下がっていきます」エルフィの父親がそう答えた。
「家を変えるんですか」
「はい、若い人が上の方に住みます」
「なるほど」
「登れなくなる事が、木の上の物が取れなくなることが、私たちの生と死の境界線ですので」
「そうですか」
「さきほどはエルフィを連れてきていただいて、ありがとうございました。あなたが、その旦那様と呼ばれている方なのですね」
「はい」
「では、本人は嫌がるとは思いますが、昔話を少しだけ聞いていただけますか。これは大事なことですので」
 母親とエルフィは何も話さずじっとしている。
「この子は、小さい頃から、魔力量、回復魔法、そして弓の技量などがずば抜けていまして、最年少でハイエルフと認められた数少ないエルフなのです。しかし、私の祖父が人間の魔法使いであったので、人の血が少しだけ混じっているのです。ですから、生まれた時から周囲の者からいろいろな目で見られていました。そして、同じ年頃の子ども達からはいじめられていました」父親の話に、下を向いているエルフィの膝に置いた手が強く握られた。
「それでも、この子は相手に反撃する事もなく黙っているような優しい子でした」
「私は、そんなこの子に何もしてやれないまま今まで過ごしてきました。むしろ、この母親が周囲の人達にいろいろな物を差し出して自分の保身を図っていることも見て見ぬ振りをしていました」エルフィが顔を上げて父親の顔を見る。
「私は良いのです。人である父がエルフである母を愛し、そして私が生まれたのですから。父も母も私を守ってくれていました。そんな中、私も伴侶を得てエルフィが生まれました」そこで少しだけ彼は目をつぶった。
「しかし私の両親でありエルフィの祖父母は、とある戦に巻き込まれて命を落としました。そこから少しずつ歯車がずれ始めました。この里は、手のひらを返したように私たちに冷たくなりました」
「私たちは、この里に住み続けるために、保身に走りました。そうこの子を人身御供にしたのです。守り切れなかった。今思えばどうしてそんなことをと思いますが、その時にはそうする以外無いと思い込みただだまって回りのいいようにされていたのです」
「ですから、私たちはこの子の親としては失格です」
「あなた」
「お前がしてきたことは、自分を守るためであってこの子を守るためではないと何度も言ったよね。そして私には、あなたに流れる人間の血が憎いとまで言ったよな。私もそれを言われると何も言えなかった。同罪だ」
 そこで、全員沈黙する。
「ですので、エルフィが選んだあなた様。お願いです。どうかエルフィに幸せな家庭、楽しい家庭を私たちの家庭では味わえなかった時間をお願いします」そうしてご両親は、私に頭を下げた。
「パパ、ママ」
「ご両親、お顔をお上げください」
「エルフィは、そのどちらも手に入れていますよ。自分の手で」
「そうなんですか」
「はい、そうだよねエルフィ」
「は・・い・・・ぞぅでず」泣きながらエルフィは、うなずく。
「それはよかった」
「では、エルフィ。私たちとの縁はこれまでだ。里を出なさい」
「え?」
「ここを出る時には、親でも子でもない。縁を切る」
「ご両親どうしてですか」私は尋ねずにはいられませんでした。
「残酷な話ですが、先ほど話したとおり私達はこの子の両親として失格であり、そして里でも邪魔者扱いです。もうじきこの里を守っている森は、原因不明の黒い霧に侵食されようとしています。たぶん里はなくなるでしょう。その時真っ先に私達は切り捨てられると思います。ですから」
「縁を切る必要はありませんし、むしろこちらに引っ越されてはいかがですか」
「私も妻も里から出た事はありません。この森が亡くなったら私達は暮らしていけないでしょう。恐くて」
「まだ最悪の状態は訪れていませんよ」
「いずれにしても里が移動しても私はここから離れるつもりはありません」
「決心は変わらないと。奥様もそうですか」
「・・・・たぶん恐くて動けません」
 ノックがあり外から
「外から失礼します。ご主人様。長からこちらにお越しくださるようにと伝言がありました」メアさんの声ですね。
「メアさんわかりました。少し待ってください」私は外に向けて大声で言いました。そいてエルフィの父親に向かって
「わかりました。その話は最悪の事態になった時に改めてお話ししましょう。とりあえず、長からもお話をお聞きします」
「いいえ、里の事は良いのです。エルフィの事をよろしくお願いいたします」
「エルフィはよい子です。私の家族です。それは間違いありません。これからもずっとです」
「ありがとうございます」
「では失礼します」
 私はエルフィと共にその家を出る。
「パパは・・・いえ父は何もかも知っていたのですね」
「きっとエルフィに気を遣わせたくなかったんだね」
「私も気づけなかったのかもしれない」
 木を降りて、私はエルフィと共に長老のところに行き、中に入った。
「勇者でなければ歓迎などせぬ」
「残念ですが私は勇者ではありません。もちろん歓迎の必要もありません」
「なるほど。混血のエルフにはふさわしい無礼な輩じゃな」今度は態度があからさまに変わりました。
「別にそれでいいですからかまわないでください」
「それならば、エルフィ、おぬしは、両親に後ろ足で砂を掛けるようなことをするのだなあ、感謝してもしきれない親の愛情に」
「何を言っているのですか」
「ああ、おぬしには黙っているよう言われていたがな、どうせ里を出て行くのだ教えてやろう。おぬしが小さい頃に魔力の制御ができない時にこの里に甚大な被害がでたのじゃ、その負債は誰が払っていると思う。まったくそれも知らずにいじめられたとかよく言えたものだな」
「私の物がなくなっていたのは、そういうことだったの」
「ああ、おぬしの作る木工作品は人気でな。欲しがる者も多くて、わしもたまに外からの注文にあり物を見繕って借金のカタにもらっておったわ」
「ゲスですねえ」私はその言葉を鼻で笑って言いました。
「なんだと」周囲の長老の方から声がしました。
「どうせ借金なんてもうないのでしょう?いい加減にしたらどうですか」
「あ、ああ、今回のエルフィの部屋の物で終わりとするつもりじゃったが、まだもう少し働いてもらうか」
「パパとママをだましていたんですね」
「あやつらまじめだからなあ」
「私、パパとママの所に行ってきます」
「そうしなさい。さて、長さん私にその事を話したのは、どうしてですか?」
「なーにどうせいなくなるのだから、手土産代わりだ。どうせこの森はおぬし達を通さなくなる」
「なるほどね。でも森が通してくれたらどうしますか?」
「その時は一族の掟どおり客として歓迎してやるわ」
「わかりました。周りの人たちも覚えておいてくださいね」
 誰も返事を返さない。私はそこを出て皆さんの元に戻りました。

 そうして全員で森を出た。エルフィももう泣いていない。
「さて原因を調べないと本当にここの森まで枯れてしまいますよ」
「モーラさん飛べますか?」
「ああ大丈夫じゃ。この辺は不干渉地帯らしいからな」
「うっ」私は胸に強烈な痛みを感じ、見ると服の下からびしゃびしゃになるほど出血している。そして意識が一瞬飛びそのまま倒れた。
「おぬしどうした!!」モーラの叫び声に意識がもどる。
「わかりません。が、どうやらパムさんに何かあったようです。殺されかけていますね。ああそうではなくてパムさんを通して私を殺すつもりのようです」私は目を閉じて何かを見て言っています。
「エルフィ治癒じゃ!傷口を!はよう」モーラが慌ててエルフィをせきたているようです。
「はい」エルフィは私の服を破き、胸元を開くと綺麗に切り開かれた内臓が見える。
「ちょっとこれは」エルフィは一瞬戸惑ったもののその傷口に手を当てて傷口を閉じようとしながら回復魔法を使っている。
「まさかとは思うが、パムが受けた傷がこちらに転移されているというのか」モーラがその様子を見て呟いた。
「どう・・・やら・・・そうらしいです」私は意識が途切れないようにモーラに返事をしました。
 エルフィの両手から輝く光が、そしてアンジーも涙で顔をくしゃくしゃにしながら両手を傷口に当てているのがうっすら見える。
 しかし傷は、直ってもすぐ傷口がひらき、さらに別の傷がついている。
「どういうことじゃこれは。こんなはずはないぞ」


隷属の呪いへ続く

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