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第8話 宝石の罠

第8-2話 デート!デート!デート!

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○ユーリは乙女
 最初はユーリになった。じゃんけんで一番に決まったときにガッツポーズをする。やはりどんな勝負でも勝ちたいのでしょうか。
 早速出かけることにして、街までの道すがら、これまで聞いてみたかった、私に会う以前のことを聞いてみた。そういえば聞いたことが無かったような。
「いつからここに暮らしているのですか?」私はそう言いながら手をつなごうとユーリの手を取る。ユーリは少し照れながら手をつなぐ。
「暮らしているのはここではなく、外にある大きい家に住んでいました。それでもここ数年ですね。」
「昨日の話では、いろいろあるような話もしていましたが、それでもここには帰って来たいでしょうね。」
「・・・はい。でも、みんなに迷惑がかかるのならその方が嫌です。」そこでユーリは私の手を強く握った。
「話を変えましょう。昔の話を聞かせてください。ちょっと深い話を聞きますが良いですか?」
「はい、何でも聞いてください。」
「両親とは、疎遠なんですか?」私の問いにユーリの手が少し硬くなるのを感じました。
「私が生まれてすぐ死んだと聞いています。でもよく憶えていないんです。一番昔の記憶は、祖父とともに剣の練習をしていることだけで、それ以前のことは何も憶えていないのです。祖父も教えてくれなかったので。」
「知りたいと思ったことはありませんか?」
「意を決して一度だけ祖父に聞いた時に、祖父は口を開けず、聞いてはいけないという雰囲気を出していて、それ以降は聞けませんでした。そのうちに傭兵団のところに移りましたので、それっきり聞いていません。傭兵団に入ってからは、祖父に連絡もつきませんし、そんなことを考える暇もありませんでした。」
「今はどう思っていますか?」
「祖父との暮らしも傭兵団での暮らしも、剣術の訓練に明け暮れていましたし、女の子とばれないように静かにしていましたので生活とは言えませんでした。今は余裕ができましたので、両親の事を考えることも、家庭とはどういうものかということを考えることもできるようになりました。皆さんとの暮らしを幸せだと感じています。家族のようだと。
 それに、街中の家族連れを見ても、血縁というものがイメージできないからなのか、うらやましいとも感じてはいないのです。」
「そうですか。繰り返して聞きますが、自分の生まれを知りたいとは思いませんか?」
「今は知るのも恐いのでそっとしておきたいです。みんなといられる今の幸せを壊したくない。壊されたくない。そう思っています。たとえ、」
「たとえ?」
「すべての障害を排除しても・・・です。」
「すべてのですか?」
「はい、僕の・・私の力は微々たるもので皆さんの力には及びませんが、皆さんとの暮らしを脅かす者に対しては、全力で向かっていきたいです。たとえ、自分が壊れてもです。」決意がつないだ手からヒシヒシと伝わってきます。
「そこは踏みとどまってください。あなたもみんなの中に入っているのですから」
「はい、うれしいです。でも」
「自己犠牲は何も生みませんよ。全員で幸せにならなければ意味がありません。」
「でもあるじ様は、誰かが傷つけられたらと言っていましたよね」
「それによってみんなと一緒に幸せにくらせることができなくなったらです。その怒りによるものでしょうね。あとは、」私はそこで一度息を止める。
「あとは?」ユーリが尋ねる。
「自分の力のなさ加減に自暴自棄になってというところですか。」
「はい心します。あるじ様の前には絶対に死ねない、死なないという事を自分に言い聞かせます。」
「話がそれました。今回の事に対するユーリの気持ちを聞かせてください。」
「はい、僕・・・私の気持ちは変わりません。あるじ様にみんなについて行きます。あるじ様の決めたことにはついて行きたいです。」
「ありがとうございます。一つだけお願いがあります。これからもこんな事があったときには、自分がこうしたいとか、こうできませんかとか、気持ちを正直に言ってください。お願いします。」
「本当は、あるじ様を独り占めにしたいのですが。それは言ってはダメですか?」いたずらっ子のように笑いながらユーリは言った。
「その気持ちを伝え続けるのは大事なことだと思います。でも、今はまだ誰に対してもそういう気持ちになれません。私にとっては、ユーリの気持ちと同じでせっかく得た家族ですからね。つらいですか?」
「いいえ、僕にもこの気持ちのありようがわからないのです。ただ叫びたくなる時があります。でも、みなさんとも一緒にいたいのです。関係を悪化させたいとも思っていません。」複雑そうな顔をしてユーリが言いました。
「今はその気持ちを大事にしてください。ユーリ、あなたの心の成長にはきっと必要なのです。」これまで自分の気持ちを表すことができていなかったのでしょう。こういう感情を憶えたての子どもなのですから、どんどんぶつけなければならないのでしょう。ただ、こんないびつな関係の中で曲がらないで欲しいと思うのは、私のわがままですかねえ。
「僕はあるじ様が好きだーーーー。」家に帰る道すがら叫んでもねえ。砂浜とか海岸とかならまだ。
「ユーリ、おでこを当ててみてください」「え?」それだけでも顔を赤らめている。初々しいですね。おでことおでこをつけて、私の中にある、海岸の、海の、波のイメージを見せる。
「これが海ですか。見たいなあ。」
「まだまだ世界は広いです。いろいろな所にみんなで一緒に行きましょうね。」
「はい」
 こうして、ユーリとのデートは終わった。

○メアは気にしている
 メアさんとは、買い物をしながらということになりました。本人が希望しましたので。
「いいのですか?手をつないだりしなくて。」
「はい、後ろ姿を見ながら歩くのが好きなので。」
「以前もそうしていたのですか?」
「いいえ、あまり出歩かない方でしたので、」
「でも、もう少し横に並んでください。そうでないと話しづらくて。まるで、独り言を言っているように見えます。」
「失礼しました。」メアはすっと横に並ぶ。
「新鮮で良いですねえ」私は正直に今の気持ちを言いました。
「はい、少し不思議です。」メアが照れているように見えます。
「最初にメアさんが私の所に来てくれたときは、正直困惑しました。でも、これまでずーっと一緒にいてくれて、うれしいです。ええ、大変うれしいです。でも、不安もあります。逆にいなくなった時に困りそうで不安です。」
「それはありません。私の心と体はこれからもずっとご主人様とともにあります。」
「それはうれしいのですが。以前私は、もし前の主人が生きていたらどうしますかとお尋ねしたことがあると思います。その時には・・・」
「それはありません。私は、もし仮に生きてお会いできたとすれば、今はこの方がご主人様であると誇らしくお話しをしたいと思っています。これは隷属とかではなく本心からそう言えます。あと私を作ってくれた事への感謝を申し上げたいのです。」
「ありがとうございます。私はあの時も言ったように前のご主人さまは、死んでいないと思っています。探したら嫌ですか?」
「それは、私の密かな願いでもあります。生きていて欲しいと。生きているなら一度だけでいいからお話をしたいと。そして恨み言の一つも言いたいと思っています。だからと言って、無理矢理探しに行くというのも雲をつかむような話で、どこから手をつければ良いのかわかりませんし。」
「わかりました。今回の事はどう思っていますか?」
「私は、ご主人様のしたいことを手伝うだけです。」
「そうではありません。冷静に見て今回の事をどう考えてどう思っていてどうしたほうが良いのかと聞いています。」
「まず、情報がどこからどこへ流れているのか不思議です。こんなに早く私たちと壺の一行を合致させて考えた者がいたことをです。あまりにも早すぎます。ですので、」
「ですので?」
「罠の可能性が非常に高いと思います。」
「そう考えるのが妥当ですか。」
「はい。でも私のご主人様はこの依頼から逃げたりしないのではないですか?」メアがそう聞き返す。
「どうしてそう思いますか」
「それは優しすぎるからです。自分たちが罠にかかることでこの街に危害が及ばないようになると考えていると思います。でも、私は思いますよ。すべてを救うことはできません。私は、周囲の人のためにユーリやエルフィやアンジー様を失ってしまうのでは意味がないと思っております。ですから逃げるべきだとは思います。」
「やはりそうなりますよねえ。」
「でもご主人様は、そうはしたくないと思っていますよね。」
「みんなも気付いているのでしょうか。」
「薄々は。ただそう思って行動したときにモーラ様がどう動くかがわかりません。」
「単独で何かしようとすると言う事ですか。」
「ドラゴンのルールブロークンですから。人間界への直接干渉も辞さないかもしれません。」
「そこまで考えていますか。」
「はい、自分のせいでとかなり思い詰めていると思います。」
「そうではないのですがねえ。」
「そうではないのです。ドラゴンの行動さえも操ろうとする見えない手なのだと思います。ですからここでモーラさんが出て行ってしまえばもしかしたら相手の思う壺かもしれません」
「陰謀論はちょっと置いておきましょう。今回の領主様の依頼に応えて、同行したと仮定したらどうしたらよいですかね」
「わかりません、ご主人様の考えで動くしかありません。」
「そうですね。」
「一つだけ意見しても良いですか?」
「はい、ぜひ」
「自分を犠牲にして何かをなそうとすることだけはおやめください。それはみなさんを悲しませることになりますので絶対におやめください。特に私は、もう二度とご主人様を失いたくありません。私の望みは高齢となったご主人様が幸せそうな顔で死ぬのを看取り、その後を追うことです。まあ、ご主人様の場合は、老衰では死にそうにありませんので、私の方が先になるかもしれませんけれど。」
「ああ、何重にも縛りができてハードル高いですねこのミッション。」
「進む道によっては、です。ご主人様の進まれる道は一つなのでしょうけど」
「そうですね」
「あと、私もご主人様を大好きです。ユーリのように大声では言えませんが。」
「ありがとうございます。でも、」
「でも、”今はまだ、誰に対してもそういう気持ちになれません。私にとっては、せっかく得た家族ですからね。つらいですか?”ですよね」
「聞いていたのですか?」
「いえ、ユーリが残念そうに、でも明るくみんなに話してくれました。実は、ユーリの声は、全員の脳内通信でダダ漏れだったのですから、すでにみんな知っていましたが。」
「ユーリには魔法を制御する方法を勉強してもらわないとなりませんね。」
「はい、私はもう少し、魔力に頼らない体術を習得しなければなりません。ユーリのような不殺の極意を」
「まだまだみんな修行しますか。これ以上強くなってどうしますか。」
「ご主人様が幸せにしたいと望んでいる全ての人が幸せに暮らせるようにするにはどうしても必要です。それは、相手を殺さないで屈服させることも含めてです。もちろん、猛獣や獣では無く意志をもっている種族に対してだけですけれど。」
「見透かされていますねえ。でも、そんなところまでは考えてはいませんよ。私が望むのは私の周りの人達だけですから」
「わかりました。あと、ご主人様は、いつも前の主人の事を気にされていますけれども、実のところ私の扱いはけっこうひどかったのです。最後の方のほんの数十年だけは急に優しくなりました。ですから、ご主人様が気にされるほど、私は前のご主人様には執着はありません。気にしないでください。これは心からのお願いです。」
「さすがに気にしますよ。と言いたいですが。気をつけます。」
「私の中に前のご主人様を見ないでください。私はご主人様を本当の意味で好きです。愛しているんです。」
「あわわ」
「でも、今の状況は私も大事にしたいのです。」
「愛は重いですねえ」
「はい重いです」
「他には何か言っておきたいこととかありますか。」
「はい、私も裸で添い寝して良いですか?」
「他の誰かと一緒であれば」
「っく。この流れで了解を得られると思ったのに残念です。」
「いや、この流れでどう了解できるのでしょうか。」
「残念です。」
「いやあなたのその考えが残念でなりません。うれしいですけれどね。」

○エルフィは人気者
 エルフィとは、居酒屋みたいなところの外の椅子席でデートです。中ではすでに常連さん達が飲んでいるみたいです。
「ここのお酒がおいしいのです。」
 そう言って昼間だというのに、かなりのハイピッチで飲んでいます。
「お酒弱いんだから無理しないで。」私は来て早々すごい勢いで飲み始めたエルフィにびっくりしています。
「大丈夫れす。街の人はみんな優しいのれす。もちろんエルフという種族であるという目では見られているですが、ハーフクオーターとかハイエルフとか関係ないのれす。普通に見られていれ、とってもありがたいのれす。」
 すでにろれつが回っていないエルフィですが、言いたい事は伝わってきます。この街で本当の自分に戻れたのですね。
「わらしはこの街がすきれす。ほどよく無関心でほどよく親密で。あ、今、頭のらかにヤマアラシのジレンマとかイメージしましたね。そうれすそんなかんりなのれす。」エルフィがそこでバンと机をたたいて睨む。
「れすから、守りたいろねす。あははは。」今度は笑い上戸ですか。ふっと限界が来たのかテーブルに突っ伏すエルフィ。しかし、頭はテーブルについていない。両手をついてお願いしている。
「だんなさま。お願いれす。この街を見捨てて出て行くようなことはしないでくらさい。ここに戻ってきて、みんなとおいしいお酒を飲みたいれす。お願いしやす。」顔がテーブルすれすれで高い鼻がテーブルに着きそうなくらいです。
「お酒の力を借りなければ言えないことですか?」私は酔っているエルフィに真剣に尋ねる。
「いいえ。でもこんな姿をさらしても、みんな心配してくれてるのれす。周囲を見てください。きっと心配して私をみていると思いますれす。違いますれすか?」相変わらず手をついて下を向いたままエルフィは言いました。
「そうですね、私を睨んでいる人もいますね。」私は酒場の方を見ました。そこにはこちらを見ている人たちであふれています。男達はほとんど全員私を見てにらんでいます。
「何回か一緒に飲んららけで、冒険者のあらしであっれエルフの私らないじゃない本当の自分を見てくれているのれす。それがうれしいのれす。」テーブルについていた手から力が抜け頭がテーブルにぶつかり、ほどなく寝息を立て始めた。
「私も大事にしないといけませんねえ。」私はエルフィの頭をなでながらしばらく眺めていましたが、ある決心をしました。
「わかりました。」そう言って席を離れ、居酒屋の中に入っていく。
「何かあったのかい?ケンカかい?」
 心配そうにおかみさんが私に声を掛ける。
「皆さんのことが大事なんだそうです。守りたいと。一緒に守ってくれと言われました。」
「これから何か起きるのかい?」私をじっと見ておかみさんが言いました。
「いえ、起きないようにするために彼女は私にそう言ったのです。」
「あの子らしいねえ。」ため息をついておかみさんは言った。
「そうですか。」
「ああ、あの子は人見知りのくせに人なつっこくてね。一人で飲みたいときもあるだろうに私らの誘いは断らないのさ。そうして楽しそうにみんなと飲んでいたのさ。そして、あの子のすごいところは、普通、酔い潰れたときには、だれもが無警戒になるはずなのに、誰にも指一本触れさせないんだよ。最後の一線は本能的に守っているんだ。不思議な子だよ」
「本能的に?」
「ああ、そうだよ、だ・ん・な・さ・ま。酔い潰れても冷めるまで机につっぷしていることがあっても、近づいてくる男が肩に手をかけようとしたら反射的に手を払っているのさ。もちろん好意で近づいてもだよ。だから誰も手を出せない。もちろんやましい事を考えている奴はもっと手ひどい反撃を受ける。だから誰も手を出さない。女のあたしでも優しく手を払うのさ。そしてね、ただひとりだけ触れる男がいるんだ。酔い潰れたあの子に触れられるのはあんただけさ。」
「そうなんですか。」
「そうさ。一度だけあんたが連れに来たときがあったろう?まあ、男達は妬みもあったんだろうが、何も言わず見ていたんだよ。もちろんあんたが殴られるのを少し期待したのさ。でもこの子は何もしやしない。むしろすぐに背中に乗っていただろう?」楽しそうにおかみさんは言った。
「そんなものだと思っていました。不用心な子だと。」
「昔からいろいろあったんだろうねえ。そうやって回りの不埒なやつらから逃げていたんろうさ。それでも私たちの前では笑っていた。笑った顔しか見たことが無いくらいだ。だから、今日のように無理に飲み過ぎて、べろんべろんになって机をたたいて、泣きそうな顔であんたに何かを言っている。それをわたしらは初めて見たのさ。びっくりしてね。それだもの見てごらん、回りの誰もがあんたが何かしたんじゃ無いかと疑って見ている。」そう言っておかみさんは周囲の男達を見回す。
「いい人達と友達になりましたねえ。」
「ああ、ここの飲んべえどもは悪い奴はいない。それは保証するよ。」おかみさんが自信を持って言った。
「このおかみさんが自分が気に入らない奴は、たたき出しているからなあ。」話しが聞こえていたのだろうか、そばに寄ってきた男がそう言った。
「私に怒られるようなことをするからだろう。だからね旦那様?」おかみさんは私の方に向き直ってにらむ。
「はい」
「頼むからあの子を悲しませるようなことはしないで欲しい。」少し悲しげな目でおかみさんは言った。
「ああそれが、俺たち飲み友達が言える精一杯だ」男が続けた。
「あんたの噂は聞いているよ。女の子達を奴隷にしている奴隷商人で、ひどい奴だって噂がね。でもそうじゃないのもわかっているさ。それはあの子があんたのことをうれしそうに話しているからなんだ。だからこそお願いだ、あの子のことをよろしく頼むよ。泣かせること悲しませるようなことはしないで欲しいんだ。」
「ありがとうございます。彼女の置かれた境遇などは、なかなかに話せることでも理解されるところでもありませんが、皆さんのように接してもらえて、彼女は癒やされているのでしょう。皆さん彼女の心に安らぎを与えてくれてありがとうございます。」
「よせやい、そんなつもりじゃないわ」
「そうだそうだ。わしらにとって楽しい酒とエルフィはほとんど同じなんだよ。だからもっと飲みに来て欲しいんだ。」徐々に私とおかみさんの周りに人が集まってくる。
「あんたら静かにしてろって言ったろう。すまないねえ。みんな自分の娘や恋人のようにあの子のことを想っているのさ。だから勘弁してやって」
「はい、これからも彼女をよろしくお願いします。それでは、連れて帰りますが、よろしいですか。」
「ああ、すまなかったね引き留めて。たぶんあの子もとっくに酔いが覚めて、狸寝入りしている頃だと思うから。」
「はい」そう言って酒場から出て外のテーブルに近づく。
「エルフィ帰れるかい?」
「おんぶがいいれす。」突っ伏したままエルフィが言った。
「え?」
「いつかのようにおんぶしてくらさい。」耳が真っ赤です。酔っているからなのか恥ずかしいからなのかきっと両方ですねえ。
「いいですよ。」
「わーいやっらー」そう言ってぱっと立ち上がり、私の後ろに回り込む。しようがないのでしゃがんで待つ。
ドンと思い切り飛び込んだらしく。思わず倒れそうになる。
「ちぇー、みんなに旦那様の頼りないところ見せようと思ったのに」嬉しそうにエルフィが言った。
「普通は、私を立てるものじゃないですか?」私はそう言いながら背中にエルフィが乗ったのを感じて立ち上がる。
「でも、ダメなところもみんなに話していたのれすよ。」
「後で、その件についてはきっちり聞かせてもらいましょうかね。」
「あ、ま~ず~い~」
「そういえば、かなりオーバーに話すクセがあるようですので、その辺ちゃんと聞かせてもらいます。」
「え、えへへ。」
「ついでに歩きなさい」
「やらー、このままおんぶしてもらって帰るーーー」
「しようがないですね」
「えへへ、だから旦那様好きーー」
 そうしてエルフィとのデートは終わった。
 すでに夕暮れが近づいている。


○アンジーは子ども
 そしてアンジーの番だ。暗くなり始めていたので、用心のため手をつないで街まで行く。
「まーったく、あんたは本当に巻き込まれ体質よね。」
 つないだ手を思い切りぶんぶんと振りながら歩いている。とても楽しそうですが、容姿の年齢よりさらに幼いことをしていますね。
「すいません。」
「まあトラブルのほとんどは、モーラが持ってきているんですけどね。」
「その事ですが、モーラがだいぶ気に病んでいるご様子なんですよねえ」
「はあ?ばっかじゃないの。なんでモーラがへこむ必要があるのよ。まったくあとで説教だわ。確かにちょっと変だったから気にはなっていたけどそんなことを気に病んでいるの」
「ぜひ、モーラにそう言ってあげてください。」
「あんたも言うのよ。これまでのトラブルの責任は、あの時に了解した私にあるのだからだと。」
「そうですね。モーラの嘘に乗ってしまったのですから。」
「それだけじゃないわ。私たちは一緒に旅をしているのよ。一蓮托生なのよ。誰の責任でもないの。全員の責任なの。」
「こうしてこの街まで一緒に来ていますしね。」
「私はね、天使の役を無理矢理やらされてはいたけど、天使として行動できることが、天使と呼ばれることが本当はうれしかったのよ。そう、あれだけ嫌がっていたのにね。」
「・・・」
「私は天使だったけど、天使の中の一柱になれるほど清廉潔白ではなくて、果てには僻地に送られるような、なまぐさな天使なのよ。それでもモーラに言われて、この世界で天使としての役目を与えられたんだとすごくうれしかった。」足下の石を蹴るアンジー。私の手を離し、飛んでいったその石をさらに蹴りに行きます。
「だからそれ自体にも問題は無いの。だからこのまま国王に会いましょう。私は私の役を最後まできっちり演じきってみせるわ」
「そうしましょうか。」
「必ず道は開けるわ。」
「そうですね。」
 そして、街に到着して、すでに終わりかけていた露天でアクセサリーをねだってきました。
「これはモーラの分ね。ああ、それから他の3人にも買わないとね。」
「お揃いにしないんですか?」
「それってなんか恥ずかしいじゃない?でもそれも良いかもしれないわねえ。」
 アンジーが気に入った物は、あいにく2つしかお揃いはありませんでした。
「モーラとお揃いにしませんか?」
「ああ、そうするわ。他の人には悪いけど。」
 そして、街から帰る道には、手をつなぐ2人の影が伸びている。
「ねえ肩車してよ。」
「ええ?モーラより体大きいですよね」
「いいから」
 街中を外れてからアンジーを肩に乗せる。
「そうそうこれこれ、ちょっと高いけどこのくらいの高さが良いのよね。」
「このくらいの高さが、丁度良い高さなんですか?」私にはよくわかりません。
「そうよ。一番しっくりくるの。」
「背が高い天使なのですね。」
「身長は確かに高いけど。そうじゃなくて・・・浮いているのよ。」
「ああなるほど」
「さすがに浮遊感は無いわね。でも温かいわ」
そうして、私の頭におなかを乗せると私を上からのぞき込む。
「街まで行くときには、一緒に国王のところに行って演じてみせると言ったけど、あくまでその結論にあんたが至ったときの話よ。あんたが違う道を選んだとしてもそれに従うわ。まあ、あんたの頭の中では、すでに結論は出ているんだろうけど。私は必ずついて行くから。」
 そして肩から降りて、照れくさそうに手をつなぎ直して家まで帰りました。
 夕食は普段どおり・・と言いたいところですが、エルフィはお酒を飲み過ぎたせいで食欲がなく、早々に部屋に戻り、ユーリとアンジーは恥ずかしそうに食事後部屋に戻ってしまい、居間には私とモーラと片付けを終えたメアが残りました。


続く


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