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第6話 エースのジョーでしょうリターンズ

第6-7話 わざと襲われるまで待ってましたよね

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○ 盗賊は続々
 そして、ついに盗賊の第2波がやってくる。今度は前回よりもかなりの人数で襲ってきましたので、最初から防戦一方です。
「これはやばそうじゃのう。」モーラが周囲の様子を聞いています。
「あともう少しで街に着くんですがねえ。」私は出番がない方が良いのですが
『エルフィ、持ちこたえられそうか。』
『五分五分ですね~。今回もユーリを中心に陣形を作って何とかしのいでいますけど~こちらの全体の戦力を使って~少しずつ相手の戦力を削って相手が逃げ出すのを待つ~という戦法ですけど~今回はあまり減っていません~あ~また同じ人が戻ってきました~どうやら倒されてもまた戻ってきて戦っているようです~』
「そうか気付かれたか。ユーリは優しいからのう」
「ええ、ユーリは盗賊相手にも軽いケガにとどめているようで、戦線復帰する盗賊がいます。こちら側が相手を殺せないのを見透かされていますね。これはまずいです」致命傷までとは言わなくても深い手傷を負わせないとならないんですよね。
「あやつの優しさが裏目に出ているな。」
「それを味方も真似してしまっているのでしょう。」
「ああ、そういうことか。」
「確かに人を殺すことにためらいがあるでしょうが、ここを吹っ切らなければいけないのです。ですが、このままでは押し切られるかもしれません。」
「ユーリは、これまでもこうして切り抜けてきたのじゃろうなあ。自分は人を殺さずに」
「ええ、殺さずにね。たぶん魔獣や獣なら容赦していないんでしょうが。」
「同族殺しじゃからな。わしらではさすがにできん。」
「私が出ます。」
「おぬし行くのか。」
「今更ながらですが、あの子に人殺しをさせるわけにはいかないと気付きました。」
「わしらの責任か」
「はい。本来なら傭兵時代に人を殺めているはずだったのでしょうが、あの傭兵団の団長がかばっていたのでしょう。そして私にあとを頼むと言ったのです。これは責任重大でしたね。」
「おぬしは殺せるのか?人を」
「たぶん技術的には簡単に殺せてしまうでしょう。たぶん一瞬で。でも、今の戦闘スタイルで空気球をぶつけてころすのは、抵抗があります。ただ腕の1本くらいはもらうつもりです。そのあと出血多量で死んでもそれは仕方がないことでしょう?」
「ひどい殺し方じゃな。おぬしはケガさせただけ。あとはケガが悪化して死ぬだけか。」
「それでも、殺さずに収めたいですね。」幌をあげ両腕を回してから深く息を吸ってから飛び降りて、相手の右翼に突っ込みます。
「こちらから奇襲です!!」私はそう叫んでこちらに注意を引きつけて、一番近くにいた敵に加速して一気に近付きました。相手の不意を突いて脇腹に空気球を打ち込むいつものスタイルです。相手の方が戦闘経験は上ですからこういう奇襲以外太刀打ちできないでしょう。
 空気球を打ち込んだ男の体がくの字に曲がり、私の体に重なって私の姿が周囲から死角に入ったところで、その男を盾にしながら次の相手に近づきます。最初に私が声をあげ注目を集めた後の私の動きが速すぎて、敵も味方も共に手が止まり呆然と私を見ています。
「今です!!みんな手を止めないで攻撃を再開してください!!」ユーリの声に味方が反応して敵より一瞬早く行動を起こす。私が近づいた右翼側は、私の動きに注意を向け、どう対処していいかわからず躊躇している。当然正面に対する動きは止まる。しかしそこまでだった。
 私が武器を持っていないことに気付いたようで、私を囲むように数人が立ちはだかり動きを止められた。どうやら奇襲はこれまでのようです。しかし、中央付近の戦闘に割かれていた敵は、少しだけこちらに向かせることができました。
 そしてユーリのかけ声のおかげでできた一瞬の差が、敵を押し返すには充分だったようです。それから少しだけ膠着状態が続きましたが、多勢に無勢、また徐々に押されるようになってきています。
 私は奇襲がメインなので、見つかって囲まれてしまえば動く事もできずに囲まれたままです。ここで魔法を使って形勢を逆転させても良いのですが、それでは皆さんがせっかく積み上げてきた経験を無にしてしまう気がします。魔法に甘えてしまいそうですし。
『ユーリが詠唱に入りたいと言っているが』モーラが私に連絡する。魔法剣を使いたくなるほど追い詰められましたか。
『我慢してください。そうしないと・・・』私は、そうしないとどうなるのか一瞬考えてしまう。村のみんながユーリを手放さなくなるという考えが一番最初に浮かびました。
 やっぱり私はユーリを手放したく無いんですね。
 さらに、ユーリが魔法剣を人に使って殺してしまったらユーリの人生が変わってしまう。ユーリは人にそれを使ってはいけないのです。しかし、一方でそれも仕方の無い事だと。ユーリがこれから生きていく上で必要なことだと、言い訳を考えてもいるのです。
 そんな時に反対側から叫び声が聞こえる。何が起きたのか。
『メアが街まで応援を呼びに行こうとして、近くにいたの援軍を見つけたようじゃ。』
『なるほどその手がありましたか。というかそんなに街に近かったんですか?』
『最初から盗賊たちの動きを察知していたようですね。この距離を街から来られるわけがありません。』メアさんからの言葉が届く。たぶんエルフィが中継しているのか。もしかしたらエルフィが敵かと思いサーチしていたのでしょうか。
 とりあえず、盗賊は逃げ出して我々は助かりました。ユーリを探すとユーリは腰が抜けたように座り込んでいました。メアが助け起こすとユーリは、膝は震えているけど何とか立てました。私はユーリのそばに行き反対側から肩を貸します。ユーリは両肩を持ち上げられて、中途半端に足が浮いています。
「大丈夫ですか?」私はユーリを見ながら声をかけます。
「はい大丈夫です。でも、」そう言ってから、すすり泣きの声が聞こえます。両肩を抱えられているので泣き顔も隠せない。それでもかまわず泣いている。こんなにこの子の心は弱かったのでしょうかか。私とメアは、自分達の馬車の所に少しだけ移動してユーリを座らせる。落ち着いたのかユーリは下を向いてこうつぶやきました。
「あの時、薬屋さんで言われたことがやっとわかりました。敵に手加減してはいけない。全力でと言われていたのに・できませんでした。僕にはとても人を傷つけることはできませんでした。殺すのが恐くて。とても」
 私も膝をついてユーリのユーリの頭を優しく抱きしめていると人影が近づいて来ました。私はその人を見てこう言いました。
「それを肩代わりしていたのですね団長さん」そこには傭兵団の団長が立っていました。どうやら助けに来たのはあの商人さんに雇われている傭兵団だったようです。
「そうです。私がそばにいて人を殺させないようにしていました。」逆光で団長さんの顔には影が差していて表情は見えません。
「ありがとうございます。殺させないでくれて。」私はユーリをメアさんに託して深くお辞儀をする。
「でも私がこの子をこんな風に弱くしてしまった。自分が守るべき信頼できる仲間のためになら、もしかしたら覚悟できるようになるかとも思ったのですが。」その声は少しだけ悲しげでした。
「いいえ、この子は人を殺してはいけないのです。人殺しは彼女が背負う業ではありません。それはそばにいる我々大人が背負うものです。彼女にそうさせないことが私の果たすべき責任です。」
「でも、僕は人を殺そうとしました。」すがるような目で私を見てユーリは言った。そう言いながら自分の足でユーリは立ち上がった。私も立ち上がりました。
「いいえ。殺そうと思う事と殺してしまう事は、気持ちは同じでも全然別物です。人を殺してしまってからでは後戻りできないのです。人を殺すということはそういう事なのです。」私はユーリを見ながらそう言った。
「・・・・」ユーリはそれに対して何も答えず下を向いてしまう。
「団長さん助けていただいてありがとうございました。」私は心の底から感謝を込めてお辞儀をしました。
「商人さんに頼まれてこの辺の盗賊を少し間引きするよう言われていたのですよ。たまたまです。たまたま。」そう言ってお茶目にウィンクしますか。知っていましたね、私達が来るのを。
「これは借りを作ってしまいましたねえ」私は、商人さんの先見の明にちょっとびっくりです。もしかして私達が突然いなくなったので行動してくれたのでしょうか。それならば感謝しかないですね。
「その借りは、うちの街での優先販売権をというところではないですかな?」団長さんはわっはっはと笑っていますが、もしかして本当に襲われるのを知っていながら襲われるまで黙って見ていたということはありませんか?
「街まであとどのくらいですか?」私はため息をつきながら話題を変えます。あの時の感覚だとあと3日くらいかと思いますけど。
「そうですね、5日というところですか。天使様のご威光をもってすればですが。」
「今はそんなにわからなくなったの。ごめんなさい」そう言いながらアンジーがこちらに来た。
「そうなんですか?やはりあの時が特別だったんですねえ。」団長さんはアンジーに声をかける。
「はい、今回はけっこう襲われてここまできました。実際はこんなに大変だったんですね。あの時は本当に幸運だったとしか言えません。」本当に今回はかなりの日数がかかってしまいました。
 ここでふと考えた事があります。今更ですが、アンジーが「わかる」と言うのは、嘘をついているのではないのでしょうか。天使は嘘をつかないのでは無かったのではないでしょうか?ねえアンジーさん。
『モーラから教えてもらって「わかる」んですから。嘘は言っていませんよ。』それって詭弁ですよねえ。
「今回の襲撃で、回りの盗賊達は散り散りになったので、しばらくは動きがないでしょう。私の方の目的は果たしたようですので街まで一緒に行きましょう。」
「そうですか、ありがたいお言葉ですが、それは、あそこにいる商隊のリーダーに話してください。私たちは乗せてもらっているだけなので。」
「そうなんですか?失礼しました。天使様が同行する商隊と聞いていましたので、てっきりリーダーはあなたかと勝手に思っておりました。それにしても、いつあちらの村にお戻りになられたのですか?」
「急な用事ができまして。急ぎ伝えに来てくれた人がおりまして」これは本当です。人ではありませんが。
「あれからそんなに経っていませんよね。かなりの早馬でお戻りになられたのですねえ。」
 確かに知ってから急ぎ帰って、また戻ってきていますから、期間を考えると確かにつじつまが合いませんねえ。まあ、ごまかすしかありませんねえ。
「家が壊されそうだったみたいなので大変でした。」
「そうなんですか?」
「ええ、実際、村の中の民家は壊されていましたから。危なかったのです。結果的に私の家は無事だったのですが。」
「どうやってお知りになったのですか?」話題が元に戻ってしまった。確かに気になりますよね。
「この子がすぐ帰ろうと言ってくれたのです。これまでの事を考えるとそういうことなんだろうと急ぎ戻りますと、途中で知らせてくれた人と会いまして。ああやっぱりと。」
「ああ、なるほど。」それで納得しますか。さすがアンジー教の信者様です。
「では馬車に戻ります。助けてくれて本当にありがとうございました。」改めてお辞儀をする。
「ありがとうございました。」アンジーがすかさずお辞儀をする。
「アンジー様、ここからは私たちも一緒に街まで参りますので安心してお休みください。」
「ありがとうございます。よろしくお願いします。」
「はい、おまかせください」そう言いながら団長さんは周囲を見回してこう言った。
「あの、モーラ様は?」団長の声にモーラが反応した。
「あー、あの時のおじちゃん。助けてくれたんですね。ありがとう。」とっとっとと小走りに駆けてきて団長の腕にしがみつく。
「またお会いできてうれしいですよ。モーラ様」団長はモーラのために膝をついて目線を合わせて言った。
「モーラって呼んで。」ちょっと怒った顔も可愛いですね。そして両手を広げて抱っこするようせがむ。
「では、モーラ。これから先は私にまかせてくださいね」言いながら抱きかかえる団長。
 モーラが首を抱きしめる。
「ありがとうございます。きっとあなた様の加護もありますね。」
「頑張ってね」モーラはそう言った後、降りたがったので団長はモーラを降ろしました。
「それでは馬車に戻ります。本当にありがとうございました。これからもよろしくお願いします。あとうちの商隊の人達にいろいろとアドバイスをしてあげてください。」
「わかりました。それでは」そう言って傭兵団の団長さんはうちの商隊の人達のところに向かった。
『ふむ、彼を表すのに、おぬしの頭の中のアンジー教という言葉がまさにうってつけじゃのう。』
『そんな信徒いらないわよ。うちの教義は人を殺さないんだから。』
『そうなのか?』
『そうよ。以前守護していた人は人殺しをして私共々破門されたのだから。』
『いきなり何を言い出すのですか。』
『いきなりも何も話す機会なんてこんな時以外ないでしょう?』
『殺しをした人を許すことはないのですか。』
『殺すくらいなら殺されろ、ですからね。』
『その方は本当に殺したのですか?』
『いいえ、手に持っていた果物ナイフに相手の女が勝手にぶつかってきたのよ。それで、その女がそのまま、抱きついて離れなかったのね。大量に出血して意識が途絶えるまでね。』
『それは、結果から見たら殺人に見えますよね。』
『手に持った果物ナイフに相手が刺さりにきたのは、料理を作っていた周囲の人が証言してくれて、その信徒は、社会的にはおとがめなしだったのよ、でもまあ宗教上はね。一応かばったのだけれど。だめだったわ。』
『・・・・』
『その時にこの神に仕える気持ちが失せてしまったんだけどねえ、一度生を受けるとなかなか死ねないのよ。死ぬ方法もなかったの。だからこの天使という仕事は、使命ではなく義務感で続けているのよねえ。』
『そんなことがあったのですか。』
『天使の事情なんてそんなものよ。神の意にそぐわないことをすれば、当然僻地送りだし。私の場合は、いろいろあってここにいるんだけどね。』
『おぬしも不憫よのう』
『だから、殺すとか殺されるには、多少ナーバスになるのよ。ごめんなさいね。』
『いえ、うかつに信徒とかいってすいませんでした。』
『ああ、そういうのは慣れているから大丈夫よ。気持ちと職業とは別でもいいと私は思っているわ。教義とは別。』
『それならやっぱりアンジー教じゃないか。』
『この世界の神様に失礼ですよ。いるのならばね。』
『いるはずじゃがなあ』
『でも、そういう話もした方が良いのでしょうね。特にユーリとは。』

○閑話 
「みなさんの考えを聞きたいですね。」その日の夜の事です。食事をして、馬車に戻ってきた時に私から皆さんに尋ねました。
「いきなりじゃなあ。」
「ユーリがナーバスになっているのよ。」アンジーが言う。
「それは自分で克服すべき事じゃないのか」
「そうなんですが。私も皆さんのというか異種族の死生観に興味がありましてね。」
「ああそうか。ちなみにどう思っているのじゃおぬしは。」

DT曰く
「私からですか。そうですねえ。先ほどモーラに言いましたが、一瞬で相手を殺せる技術を持っているので、殺す事は簡単なのです。そして、私にはたぶん何の躊躇もなく人を殺せる時があります。それは、ここにいる家族、親しくしている人達が殺された時ですね。それ以外は、たぶん相手が死のうと生きようと関係ないのでしょう。もっとも恨みを持たれたら殺されるかもしれませんし、家族以外の事で何か恨んでも殺すことはないでしょうね。」
「わしらが、家族が人質に取られたらどうするのじゃ。あの時は相手を殺してわしらを助けると言っておったが、相手が複数いたら無理かもしれんじゃろう」
「まえに会った魔法使いの時と変わりませんね。相手を殺して家族を救うつもりです。ただ、その結果、家族が死んだら後悔にさいなまれて自死しますね。」
「なるほど。死なばもろともか。」
「ええ、私の死と引き換えに家族の命を助けると相手が言ったとして、その保証はどこにもありませんから。」
「ブレないの」
「絶対にタダでは死にません。」
「はいはい、死ぬなら勝手に死んでください。隷属が解けますから助かります。」ヤレヤレというポーズでアンジーは言った。
「そういうアンジーはどうなのじゃ」

アンジー曰く
「私は天使で光なので、めったな事では死なないし死ねないと思うわ。もっともこの光の力を使い切ったときに塵になって消えるのだけれど。消えることについては運命だとあきらめるわよ。恨んだとしても何も残らないもの。私が人を殺すことについては、別に何のためらいも無いと思うわよ。だって、私の仕えている神の教義は「人を殺すな」なんだけど、私はその教義の解釈で揉めてこの僻地に飛ばされているのだから。これ以上何をしても変わりませんからねえ」
「殺伐としていますね~。善行を積めば返り咲けるとかはないのですか~?」エルフィが言った。
「これからどれだけ徳を積めば返り咲けるのか考えただけでも憂鬱よ。すでにあきらめているわね。」

エルフィ曰く
「そういうエルフィはどうなんじゃ。妖精神も殺しには否定的ではなかったか?」
「そうらしいですけど、あまり気にしませんね。人間にしても、エルフにしても殺意を向けられたら、殺すことにためらいはありません。もっともエルフ族なら殺意を向けてきた時に即座に殺したいと思うでしょうけど。」
「おぬし、それは同族殺しじゃないか。」
「私の場合、ほとんどエルフでほんのちょっと人間です。エルフに対しての方が近親憎悪が強いのです。最後に皆さんは私の本当の意味での家族ですので守りますよ~自分が死んでも守りますよ~」
 エルフィの言葉にユーリが言った。
「それはだめです。みんな一緒じゃないと」いろいろな話を聞きながら考えていたのだろうか。
「確かにそうじゃなあ」
「メアさんは、どうなんですか。」ユーリが聞いた。

メア曰く
「私は、ご主人様の命令であれば誰でも殺しますよ。命令でなければ殺しません。家族は、たぶんご主人様が守れと言うと思いますのでその指示に従います。」
「こやつに家族を殺せと言われたらどうするのじゃ。」
「殺します」おや、即断ですね。
「操られているとしたらどうするのじゃ。」
「それは・・・それでも殺すと思います。残念ですが」
「命令に疑問がある場合に聞き返せるような符丁が必要ですねえ」私はつぶやくように言った。
「そもそも私にモーラ様を殺すだけの能力はありません。さらに言うならご主人様を操れるような敵であれば、他の方々もその方達に殺されていると思いますが、いかがでしょうか」
「なるほどのう。確かにそうじゃ。」
「確かにそうね。では、最強のモーラさんは、どうなのよ」アンジーが尋ねる。

モーラ曰く
「わしとおぬしらの違いは、人やエルフを殺すことに”関心”が無いというところじゃな。まあ、この幼女の時には、殺される可能性もあるが、塵にでもされない限りは、最悪元に戻ればなんとでもなると思っているのでなあ。わしを殺すなど無理な相談じゃ。
 でも、ここにいる家族が殺されたらたぶんその者達を皆殺しにするかもしれんな。それは、ドラゴンとしての不文律である「この世界への不干渉」を逸脱することになるが、わしはあまりそもそも逸脱しておるしなあ。」

「さて、いろいろ聞いてきましたが、ユーリ参考になりましたか。」
「ええと、人それぞれだと言う事がわかりました。僕は僕の考え方でいいんですね。」
「そういうことです。人を殺さない剣というのを極めても良いかもしれませんね。」私はユーリにそう言った。
「そういう考えもありますが、こうしてエルフやドラゴン、天使様までも仲良くさせていただけるのであれば、魔族でも友達になれるかもしれませんよね。でも、そうなった時に相手が殺意を持って向かってきたらどうなるかわかりません。相手を抑えこんで、おとなしくさせるだけの力がないかもしれませんので。」
「殺されそうになったら殺してもしようが無いじゃろう」モーラがあきれたようにユーリに言った。
「確かにそうですねえ」私はそう言いました。横ではエルフィが眠そうにしています。今夜は私達の夜番はないので、全員で馬車の下に入って一列に並んで寝ました。

○訓練~それからの街までの旅
 それからきっちり5日であの街に到着しました。村から旅をしてきた男達は、この5日間の方がきつかったようです。
 なにせ、傭兵団が盗賊役になり、不意を突いて戦闘を仕掛けるというかなりハードな実践訓練を行いながら旅しましたから。もちろん夜襲ありなのです。気が抜けません。
「いやー、久しぶりに盗賊をやるとおもしろいですな。」夜に少しだけお酒を飲みながら団長さんが笑っている。
「あのー今、久しぶりに盗賊をやるとか言いましたけど、盗賊役の間違いですよね。」
「いいえ、盗賊がどこかの商隊を襲ったと聞いた時は、探し出して逆襲したりしますから。盗賊から盗みますね。」
「なるほど。物を奪い返すのですね。では、盗品はどうするのですか」 
「襲われた商隊にやや値をつり上げて売ります。もちろん買い取って売れば遠征の人件費が出るくらいの値段にしますがね。」
「なるほど。」
「まあ、悪質な商人とかにはねえ、多少お仕置きも必要でしょ?」団長さんが私にウィンクをしながら言いました。お茶目な顔がセクシーです。結構男前だったのですねえ。
「いや、そういう話は聞かせないでください。」私は犯罪者とはあまりお近づきにはなりたくないのですが。
「冗談ですよ。顔を見られていますから、バレたら傭兵団の信用が落ちるじゃないですか。もちろんしませんよ。」
 なんか夜陰に乗じてやっていそうで恐いです。

 そして、別な日の休憩の時に団長さんから聞かれました。
「ユーリのことですが、戦闘に対する意識が少し変わってきましたね。何かありましたか?」
 私は先日あった魔法使いの襲撃の件を話しました。詳細は省いています。お漏らしの件は特に秘密です。
「なるほど。魔法使いと対峙しましたか。それは貴重な経験をしました。命拾いをしたというところもそうですが、そうんなことがあったのですね。」
「はい。見ていてわかりますか?」
「ええ、特に1対1の討ち合いの時の気合いが違うのと、あとは目線ですね。相手の動きを全体で見て、視線などをそらさないようにしながら周囲も見ているようになりました。その魔法使いの戦い方は、卑怯な手ではありますが、正しいですからね。」
「杖の先に作った魔方陣を切り捨てるというのは、あなたが教えたのですか?」
「残念ながら違います。あの子のおじいさんが教えたのかも知れませんが、それを体得したのはユーリの天性のものでしょう。手や腕ではなく魔方陣を切るなどという事は、教えて憶えられるものでもありません。私ならその間合いまで入ったなら間違いなく手か腕を切り落としています。」
「優しいからですか?」
「確かに優柔不断なのかもしれませんが、逆にそれだけの技量を見せられれば、普通の相手は降参しますから。今回の相手はそれを楽しんでいたようなんですよね?相手が悪すぎました。でも良い経験にはなったと思います。躊躇すればやられたかもしれないということを実感したと思うので。」
「そうですか。そんなにユーリの技術はすごいのですか。」
「あのまま傭兵団に残っていたら、一生使われずに埋もれてしまっていたかもしれません。ありがとうございます。」
「いえ、そのような窮地に至らせたこちらの落ち度です。」
「いいえ、これからもよろしくお願いします。」
「はい、できる限り。」
「団長。ここにいたんですか。皆さんが呼んでいますよ。」ユーリが呼びに来ました。
「ああ、それではまた」
「はい、また」
「何を話していたんですか。」ユーリが団長さんが離れた後、恥ずかしそうに尋ねてきた。
「ユーリは変わったねと。あとすごく成長したんだねって話をしていましたよ」
「まだまだです。あと変なことは話していませんよね。」
「何のことですか?」
「あの時のことです」
「あの戦闘のことですか?話しましたけど。」
「ええ?話しちゃったんですか?どうしよう明日からどんな顔をして会えばいいんですか。」
「ああ、その話はしていませんよ。ちゃんとエルフィを守ってくれたとしか。」
「え?そうなんですか。全部話されたのかと思っていまいました。びっくりさせないでください。」
「あなたはちゃんとエルフィを守りました。家族として、そして騎士として。そうですよね。」
「はい」
 私を見上げるユーリの顔がまぶしいです。その撫でて撫でてという期待のまなざしがワンこです。思わずナデナデしてしまいます。だめですその目を閉じてうれしそうな顔は。なでくりまわしてほおずりしたくなります。しかしそれは我慢です。ここでしてはいけません。
「そうです。さすがにここでやってはいけません」メアが私の顔を見つめながら真面目な顔で言いました。私の心の声を聞かないでください。
「そうですよ変態!ユーリも聞いていますよ」アンジーがそう言って冷たい目で私を見ます。私は期待しているユーリの顔を見て、あとでねーと心の中で叫びます。もっとも阻止されるでしょうけど。
「まったく、本当に変態じゃ」
「まったくです~でも変態でも好きですよ~」
「あるじ様は変態ではありません。かっこいいです。」
「”ユーリ補正”はもういいわよ。」
「さて、みなさん帰りましょう。」
「「「「「「はーい」」」」」」ああ、心が揃っていますねえ。

 そうして、やっとビギナギルに戻ってくることができました。
 でも、トラブルは次から次へとやってきます。とほほ

続く

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