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第5話 DTちょっとだけ巻き込まれる

第5-2話 湿っぽいのと過激なルールと下見

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○ 危機は去った
「大丈夫ですか。」
 メアがユーリに近づいていく。ユーリは炎をよけようとして後ろに倒れ込んだポーズで座り込んでいる。
「ほら立ってください。」
 メアに促されても、ユーリは涙目でイヤイヤをしている。メアはため息をついて、ユーリをそのままにして。今度はエルフィのところに行く。エルフィは座ったまま両手を前に出して固まったままだ。
「大丈夫ですか?」
 メアがのぞき込んで尋ねても、エルフィはぼーっとしている。頬を軽くたたいてみるが反応しないので、メアはおっぱいをぐっとつかむ。
「何するんですか。」と言って我に返るエルフィ。胸を腕で抱きかかえ涙目になっている。
「立てますか?」
 メアはエルフィに手を貸して立たせようとする。しかし、本人も立とうとするが、どうやら腰が抜けていて立てないようだ。
 メアは再びユーリのところに行く。こちらはメアを悲しそうな目で見上げてモジモジしている。座っているあたりの地面がなにやら濡れている。メアは察してこう言った。
「タオル取りに行ってきますね。」
 メアの言葉にユーリがイヤイヤをする。メアの袖をつかんで離さない。再び襲撃者が襲ってくるかもしれないと思っているのだろう。

『メアさん聞こえますか?』私は連絡をいれました。
『ご主人様、こちらは敵が逃げました。そちらはどうですか。』
『あ、聞こえた。良かったー。アンジーは無事なようです。私はまもなくそちらに到着できそうです。』
 会話を聞いて袖をつかんでいるユーリがイヤイヤをしている。それでも何とか立ち上がれたようだ。
『できればアンジー様との合流を優先してください。こちらは大丈夫ですので、』
『そうですか?近くまで来ているので、皆さんの無事な顔を見たいのですが。』
『無事ですので安心してください。家で合流しますのでその時に。』
『本当に大丈夫?誰かに言わされていない?』
『はい。大丈夫です。』
『念のためエルフィの声を聞かせて。』
『ご主人様、だ、大丈夫でぅ。しばらくすれば立てまふ』エルフィは動揺して舌をかんだようだ。
『ぼ、僕も大丈夫です。立てるようになりました。』ユーリは努めて落ち着いて話す。立ち上がって、濡れたスカートが肌にまとわりついているのを何とかしようとしている。
『立てるようになった?なら、手伝いが欲しいのではないですか?』
『いえご主人様。ユーリと2人で足りていますので。』
『まあ、もう着いちゃったし顔見せてよ。』メアとユーリが顔を見合わせています。
「とうちゃーく」
 私は、そう言ってその場所に到着して、ユーリと目が合う。彼女はパンツを片手に持っている。当然下半身は裸だ。
「ええー。あるじ様見ないでください。うぇーん。」ユーリは、濡れたパンツを持った手で顔を隠してしゃがみ込んでしまう。
「あ?ああ、顔が見られたので退散するね。メアさんあとよろしく。」
「はい、お気をつけて」冷静にお辞儀をするメア。
「うぇーん、あるじ様ひーどーいー」メアがユーリの頭をなでていた。その頃にはエルフィも立ち上がっていて、ユーリを後ろから抱きしめていた。

 しばらくして全員が家に戻った。
「とりあえず風呂じゃ。」そう言ってモーラが風呂に向かう。すでにユーリがお風呂に入っている。全員でぞろぞろと脱衣所に向かう。
「いつも全裸で入浴しているとは言え、脱ぐときは見られたくないものなのじゃ。おぬしはあとからはいれ。」
「はいいっ」ユーリの件もあり、どうにもぎこちなくなる私。
「もうよいぞ」浴室の扉をあけてモーラが言った。
「というか私が一緒に入る意味がありませんよね」私もどうユーリに接して良いかわからないままシャワーを浴びています。
「何を言うか。おぬしが風呂場に厳重な盗聴防止とステルスの結界を張ったのじゃろう。風呂が見つからないようにとな。当然盗み聞きもされんじゃろうが。」
「ああそういえば!他の人に見つからないようにかなり厳重に張りましたね。」
「だからじゃ。わしもさすがに疲れたのでのう。ピト」モーラは湯船の中で私の腕に胸を押しつける。ムニュと言う感触があります
「なに胸当ててんですか。」無い乳と書いて無乳という。くだらないダジャレが思い浮かびました。いったい私は何を動揺しているのだろう。あれは幼女ですよ幼女。
「魔力の補充じゃ。今日は使ったからのう」こちらの動揺をスルーしてします。スルー力半端ないですねモーラさん。まあ、その言葉自体は知らないでしょうけど。
「あ、私も~」アンジーがそう言ってわざわざ反対側から人をかきわけて寄ってきました。
「お主は気絶していただけじゃろう。」モーラがアンジーにどかされてちょっとムッとして言いました。
「ユーリおいで。肩を揉んであげよう。」恥ずかしそうに後ろを向いているユーリに私は声をかける。
「うわ、気持ち悪い。なんですか急に」アンジーが冷たい目で私を見て言った。ユーリのよそよそしい態度に何かを察しているようだ。それでもユーリが背中を向けたまま近づいてきたので私はユーリの肩をやさしく揉んであげる。
「今回の功労者だからねえ。魔力も補充しないと」肩をもまれてユーリが幸せそうにしている。
「何があったのじゃ。」モーラのその言葉にユーリの幸せそうだった顔が曇り、うつむくユーリ。エルフィが代わりに答える。
「たぶん女だと思いますが、私達は襲われました。名乗りませんでしたが魔法使いでした。かなり強力な魔法を使っていました。連絡が取れなかったのも結界を張られていたからでした。」ポツポツと事実だけを感情を込めずに短い語句で語りました。思い出したくないのかも知れません。
「なるほどのう。しかも脳内での会話を聞かれていて2人の時を狙って襲われたようだと。この家は見張られていたということか。」
「テストを兼ねて街中と森の間で頻繁に会話をしていましたからではないですか。さすがに家での会話までは聞かれていないと思います。」メアが言った。私もそう思います。
「できるだけ意味の無い話をしていたつもりだったんですが、さすがに波長が合いましたか。」
「波長も何も~魔法使いだから~気付いたんだと思います~そもそもこんな長距離で会話するなんて~なかなかできることではありませんよ~」あら、エルフィさんもうのぼせてきましたか。口調が元に戻ってますよ。
「これからしばらくは全員で移動しないとまずいですかねえ。」私は皆さんと一緒の方が安心できます。
「街中はさすがに大丈夫じゃろう。もちろん2人組で行動するに越したことはないがな。」
「そうなりますね。そうなると薬草採取も密集して行うことになりますかね。」
「そやつが使ったように結界をはるのじゃ。誰かが侵入して来たら教える簡単なものでよかろう。」
 そうして入浴を終えて居間でくつろいでいます。冷たい水を冷蔵庫から出してみんなで飲んでいます。ソーダ水も作りたいところですが、保管方法を現在検討中です。

○笛の話
「あと、わしらを見張っていたやつの持っていた笛は何だったのじゃ。」
「まだちゃんと解析していませんけど、笛のだす音の音域・周波数が、我々の聞こえる範囲を超えていて、実際に音は鳴っているのです。その音を魔法で飛ばしているだけですね。相手側がそれを音として聞き取れる仕組みがあるんでしょう。術自体はたいしたことないと思いますね。」
「笛の出す音域とか周波数とか、よくわからん用語がでるのう。また転生者か。」
「可能性はありますけど、こちらにいる高位の魔法使いではないですかね。」
「高位の魔法使いなら可能な技術なのか?」
「この笛の魔法は、見たところ既存の魔法の積み重ねでできていますから。新しい考え方を取り入れているわけではないようです。犬笛の延長ですからね。転生者ならもう少し効率を良くするか、便利な機能をつけるように手を入れるでしょう。」
「そもそもその犬笛とやらがわからないのじゃが」
「そうでしたね。私たちの耳では聞こえないですが、犬には聞こえる笛のことです。なので、犬を調教したり訓練するときに重宝しますよ。ドラゴンさんに聞こえて我々には聞こえない音もきっとあるんですよ。たぶん。」
「わしまで調教するつもりか。」
「あくまで知能レベルが低い動物に訓練するときに使う笛です。人語を解するなら笛は不要ですよね。」
「確かにそうじゃな」
「さて、明日、薬屋の魔法使いさんのところに行ってきましょうか。全員で行くのもあれなので、街中は、2手に分かれましょう。戦力が偏りますが、私、メアさん、モーラが一緒に魔法使いさんのところに行って、アンジー、ユーリ、エルフィで買い出しをお願いします。小路とかに気をつけて。特にアンジーは、2人と出来るだけ手をつないでいてください。」
「仲の良さそうな姉妹に見えればよいのう」
「そうですねえ。ぜひ仲良くしてください。」耳が少し違うのは、気にしませんよね。
 そして、その日は家から出ずにあり物の夕食ですませ、早々に寝ることにした。
 もちろん皆さん、それぞれ自分の部屋で寝ました。皆さんは、色々考えている様子でした。

○ 魔法使いのルール
 翌日私は、メアとモーラと一緒に薬屋さんのところに伺いました。
「こんにちは」
「あらいらっしゃい。残念ですけど、まだそんなに売れていませんよ」
「そうですよねえ。まだ数日しかたっていませんから。実は、家を借りたのでそのご挨拶に。あと、なにか情報が無いかと思いまして。」
「そうでしたか。そうね、ここに来たのは良い判断ですね」
「そうですか。」
「何かきな臭い匂いがしていますよ。」
「と言いますと。」
「もっとも情報を得るには対価を必要としますが、今回はあくまで世間話としてお話ししましょう。いかがですか。」
「ええぜひお願いします。どこかに出かけて話しますか?」店長さんの目がメアに移る。
「ああ、私がやりますね。」メアが奥の方に入っていく。
「ごめんなさいね。独りになると自堕落になってしまうものだから。」
「やっぱり・・・」
「そう言う意味ではありませんよ。私は独りを楽しんでいますから。私は、メアと一緒にいる前は、独りの期間もけっこう長かったのよ。それに私は方々飛び歩いている性分なので、メアを置いて長期間いなかったりもしたのよ。その時には、メアには寂しい思いをさせていたと思うわ。」
 お茶の用意ができて、茶器を持ってメアが入ってくる。お茶ってあるところにはあるんですねえ。
「どう?幸せ?」店長はメアを見ながらそう言った。
「はい、皆様と一緒に生活していて楽しいです。これからもずっと一緒にいたいと思っています。」
「そうなの。それは良かったわ。なら、なおさらあなたには長生きしてもらわなければね。」店長は私の方に視線を移してそう言った。
「そんなにヤバい状況ですか。」
「私たち魔法使いも様々なのよ。枯れて引退・隠居を決め込む者、研究熱心で暴走する者、世間を騒がせるのを楽しみにしている者とかいろいろね。」メアが入れたお茶を一口飲んで、店長は言った。
「はあ」
「一応、魔法使い同士には暗黙のルールがあるのよ。お互いの行動には一切関知しないということね。でも」
「でも?」
「自分もしくは自分の関係者に危害が及ぶ場合を除くとしているのよ。」
「自分の関係者ですか。」
「そもそも魔法使いになる人なんて利己主義者がほとんどだから、関係者なんてほとんどいないのよ。だからそうそうぶつかることもないの。でも、まれにそういうこともあるわけ。私のように街にいて人と関係をもっている者なんかがね。」お茶をもう一口飲んで店長さんは続ける。
「魔法使い同士でトラブルが起きた場合、まず相手に警告をします。しかし、それで引き下がればよいのだけれど、そうならない場合もあるの。
 そうなると、魔法使い同士の争いになるか、お互い無視し合うかを決める必要があるの。当然、誰からも仲裁は入らない。でも、わたしのように街に住んでいて、そこに危害を加えられる可能性がある場合でてくるのね、そうなると魔法使い同士では無く、魔法使い対街全体ということになる場合もあるわけなのよ。」
「仮に魔法使い同士が戦った場合は、決着はどうつけるのですか」
「提案された方がルールを決めて勝敗を決める場合もあるし、ガチで戦闘して生死の瀬戸際まで行くこともあるわ。」
「なるほど。」
「それが魔法使い同士の争いなのよ。理解できたかしら。」
「興味深いです。ちなみに最近そういう勝負は行われたのですか?」
「いいえ、ここ50年くらいはないわ。」
「その時の勝負は・・・」
「ガチなやつだったのね。結局、両方死んだのよ。それからは勝負を避けるようになったわ。お互い死んだらそこで終わり。研究できなくなったらそれこそ本末転倒だもの。」
「なるほど。」
「ちなみに、魔法使いの戦いは、魔力量では勝負は付かないのよ。これだけ長く魔法使いをやっていると互いに知っているからね。でも、どんな技術や修練をしているかはお互い秘密ですからね。勝負になって生死がかかってくれば、いきなり最終奥義とか発動もしちゃうわけなのよ。50年前の最後の勝負がまさにそれだったのよね。勝てないと判断した時に関係者を守るために切羽詰まって相打ちに持ち込んだようなのよ。」
「・・・」
「話は戻るけど、最近魔法使いを狙っている魔法使いがいると聞いているわ。転生者なのかもしれないけど、その辺はわからないの。襲っているだけで殺すわけではない。しばらく戦っていて、膠着すると撤退するとは聞いているわ。歯が立たなかったのか、それとも技術力を試していたのかわからないけどね。襲われた方も怪我をしてもたいしたことなくて、死んだ魔法使いもいないし、実害はさほど出ていないのよねえ。」
「それは迷惑ですねえ。おもしろがって襲っている可能性もありますね。」
「そうですね。ということでわたしから話せることはこのくらいね。あと、メアはわたしの手を離れたことになるので、わたしの関係者ではないということになりますよ。よろしいですか?」
「そうなりますよねえ。でも今回のは違いますよねえ。」私は、今回の誘拐未遂事件をかいつまんで話しました。
「そうですか誘拐ですか。それは誰かに雇われたのかもしれませんね。魔法使い単独でないのならわたしが調べても大丈夫そうですね。」
「そういうものなのですか?」
「ええ、魔法使い個人の意志で何かを成すのと誰かと共同で何かを為すのでは本質が違います。魔法使いは基本独りで何かを成さねばならないのですよ。」
「それもルールですか。」
「もっとも新参者には気にしない者達もいるのね。魔法使い同士で結託するならまだしも誘拐に加担するなんて魔法使いの風上にもおけませんね。そういう人たちに魔法使いとしての不文律を教えるのも先輩の役目なのよ。」
「なるほど。そういうものですか。仮にそう言う人が転生者の場合はどうするんですか?」
「まあ、最初は静観ね。何か勘違いをしていれば忠告もしますけど。聞き入れてくれないなら、まあ、相手次第ね。最終的に”静か”になってもらうことになります。最悪、命を奪う場合も出てきますね。」
「世界を破壊する力を持っている人でもですか。」
「むしろそういう人の方がすぐ抹殺しちゃいますね。世界征服を考えて行動し始めたと我々の耳に入った段階でね、忠告をしてやめなければ殺します。たかが一個人なら24時間起きていられるわけでもありませんので。魔法使いが全員で休みなく攻撃をし続けるというのも可能なので。我々魔法使いがこれまでの歴史の中でどれだけ修羅場をくぐって生き残ってきていると思いますか?」
「そうですねよねえ。私も野望を持っていなくて正解でした。」
「あなたは典型的な巻き込まれ型のパターンですものね。」
「やはり薄氷の。おまえもそう思うか。」そこでモーラさんが口を挟む。
「そりゃあそうですよ、天使にドラゴン、剣士にホムンクルス、はてにハーフクォーターのハイエルフが仲間に加わるとか。狙われない訳ないじゃないですか。」
「ハイエルフの事まで知っておるのか。早耳じゃのう」
「おっと、これはまずいですね。話し過ぎました。」
「その話の情報源を聞きたいのですが。」
「残念ながらそれは無理ね。」
「ですよねえ」
「まあ、私の頼みを早く片付けてくれたら話さなくもないですけどね。」
「いいんですか。そんなことを約束して。」
「それは契約ですからね。こちらの要求に対する対価としてあなたが要求するのは問題ないと思いますよ。こちらも多少色をつけて対価を払うくらいは問題ありませんからね。」
「そう言う解釈か。念のため再度確認するが、今回の契約とはその箱を持ち帰ることでよいか。それと持ち帰れない場合は壊してもよいのか。」
「できれば壊さず持ち帰って欲しいというのは変わっていませんよ。ただし、その箱しか無かった場合は、あの子がごねるかもしれないですね。その場合は破壊せざるを得ないこともあるでしょうしね。」
「それが聞けて安心したわい」
「あなた達は目立つのですから、とにかく身辺には気をつけてくださいね。一人一人がとても貴重な価値ある存在ですからね。」
「はい、ありがとうございます。」
「わしもか?」
「そうですね。ドラゴンの里で噂になっていると聞きましたよ。真偽の程はわかりませんがね。」
「どういう反応なのじゃ、余計な事をとか、ドラゴンの面汚しとか言ってなかったか?」
「何しているの?ふ~んという感じらしいですけどね。ただ、噂になるほどには気にされているようですね。」
「意外に知られているのじゃな。まあ、わしはわしじゃからどうということはない。」でも、顔はちょっと不安げですね。
「このくらいしかお茶うけ話はありません。依頼の件は、さきほど急がせるようなことを言いましたが、そんなに慌ててやる必要もありませんよ。むしろ急いで最悪の結果にならないようにして欲しいですね。」
「もちろんそうしたいですよ。そうそう、今度私の家にお見えになりませんか。一緒にお食事など。」
「そうですね。まだお目にかかっていないハイエルフの方にはお話しを聞きたいのですが、これから私も不在がちになると思いますので、またの機会にお願いします。」
「魔法使い。おぬしも元気でいてくれ。」
「はいはい。元気にしていますよ。あなたもね。」
「そうするつもりじゃ。」
「お茶ごちそうさまでした。」
「気をつけてお帰りなさいね。」
 メアが最後に店を出て深くお辞儀をして扉を閉じた。
「今回は雇われ魔法使いの線が濃厚ですねえ。また現れますか?」
「失敗しておるからのう。雇い主によるじゃろうな。もっともプライドを傷つけられた本人がリベンジに来るという事もありそうじゃ。まあ、冷静に状況を判断する奴らしいから、しばらくは何も無い・・・と思いたいがなあ。」
「魔法使いさんにはああ言われましたけど、例の箱の件は早めに片付けたいですねえ。」
「複数の問題がある時は、隙ができやすいのでな。その方がよいじゃろう。」
「今夜、夜の警備の状態を見に行きますね。」
「そうじゃのう。他の者を家に残して行くのは心配じゃが。」
「お昼前にもう一度、倉庫の様子を見てからみんなと合流しますか。」

○現地視察(下見とも言う)
 時間つぶしがてら3人で、その子の元の家を見に散歩をしている風にして歩いて行く。でも、メアさんはメイド服なのでした。ああ、この街には領主様とかのところにメイドさんがいましたねえ。
 メイドを連れた親子連れに見えるはずなのですけど、さすがにメイドさん連れではじろじろ見られるのはしょうがないのかもしれません。
 そんなくだらない事を考えて歩いていると、町外れにあるその家が見えてきました。店舗兼住居で店先は閉まっていて、軒先に割れた看板らしき物が寂しげに揺れていた。
 モーラが、その店舗側に走って行き、興味深げに窓から覗いている。私はモーラを連れ戻すためにその窓に近づき、メアもまた、私についてきて窓の中を見ています。
 店舗の内部は、紙などが散らばったままで、現在使われているようには見えません。そもそも出入りさえしていないようです。裏手の倉庫には人がいて作業をしていました。
 モーラは子どものフリで走って近づいていきました。私としては、その見張りの人に顔を見られたくなかったのですが、なかなか帰ってこないのでしかたなく呼びに行きます。
「すいません。うちの子がこちらに来ていませんか?すぐどこかに行ってしまうので。」
「ああここにいますよ。丁度休憩中だったので私と一緒に遊んでいましたから大丈夫です。でもここは危ないので目を離さないでくださいね。」人の良さそうな若者がモーラと一緒に遊んでいました。モーラは、私が来るのを見て、逃げるように倉庫の裏手に走り出します。メアがその後を追っていった。
「危ないんですか?」
「ええ泥棒よけのために扉の取っ手に仕掛けがしてあるのです。取っ手を触ったりすると子どもだったら怪我するかもしれません。」
「そうなんですか。」
「はい、最近盗みに入ろうとする者も増えているので用心のためです。」
「それは大変な出費ですね。」
「どうなんでしょう。それはオーナーに聞いてみないと。」
「別に値段を聞きたいわけではありませんよ。」
「何かといわくのある倉庫ですからね」彼は何やら話がしたそうです。一人でいるので暇なのですね。
「そうなんですか?私、こちらに来たばかりで知らないのです。」
「そうですか。実は、この倉庫の元の持ち主は、息子さんを残して自殺したのです。」噂話が好きそうな人です。乗せるとドンドンしゃべりそうですねえ。
「そうなんですか?では、その息子さんが跡を継いで商売を続けているのですか?事務所の方は使われている感じではありませんでしたが。」
「自殺した理由が、商売敵の人達ともめたせいで経営が傾いたらしくて、しかも息子さんはまだ子どもなのです。この倉庫はそんないわくがあるのでさすがに誰も引き受けず、商売敵の中心だった人もいなくなったので、うちの店主がここを引き取って倉庫として使っているのです。」
「そうなんですか。経営を引き継がれた方も大変ですね。」
「うちの店主は、商売敵が2人も消えたおかげでだいぶ持ち直したみたいです。ただ、今も残った同業者同士で、いろいろ揉めているんですよ。それでも2つの商売敵が消えたので販売量は増えているのです。それなら給金を上げて欲しいんですが、なかなかしぶくてねえ。」
「でも、このお店を使うというのは気になりませんか。私ならそんないわくのある家を使う気にはなりませんけどねえ。」
「それなんですが、元の店主とうちの店主が仲が良かった頃に「私には魔法使いの加護があるので、商売は安泰なんだ、この家があれば絶対大丈夫」と言っていたそうで、不気味さよりもその運が欲しいからだと言っていました。本当は単純に倉庫とその中の物資が欲しかっただけだと思いますけどね。」
「物資は、本来その息子さんの物ですのにねえ。」
「借金の返済に家と物資を巻き上げたと言っていましたから。たぶんその息子をだましたんでしょうねえ。」
「そういうことですか。では、その息子さんもこの街を出たんですね。」
「いいえ、この街の露天商の元締めさんのところで働いていますよ。寂しいでしょうにけなげに元気に振る舞っていますねえ。」
「この家を取り返そうと思って頑張っているんでしょうね。頑張ってほしいものです」
「それがそうでもないのです。この倉庫が今の店主の手に渡ったときに私物が残っていないか探しに来たのですが、もうこの家には未練は無いと言っていました。それは私も聞いています。噂ではあまり親に愛されていなかったらしいですから。」
「商売をしていれば、それなりに裕福で苦労もしてないでしょうから。急に質素な暮らしを強いられお金を稼がなければならないなんて、結構大変ですよねえ。」
「あそこの元締めさんは、割と面倒見が良いので大丈夫だとは思いますよ。たまに見かけますけど、元気にしているようです。私の立場からはあまり声を掛けることはしませんけど。ああ、余計な話をしてしまいましたね」その人は、倉庫の反対側からモーラを連れたメアが戻ってきたのを見てそう言った。
「お仕事の邪魔をしてすいません。」
「裏手は何も仕掛けをしていませんから怪我はしないと思いますよ。」
「え?でも入り口にそんな危ない仕掛けをしておいて、裏には何もしていないわけがないでしょう。」
「玄関は警告だそうです。裏は、逆に中に入ってから大変なことになりますよ。ですから子どもが壁に触ったくらいでは何も起きません。」
「夜なんかに子どもが抜け出して、扉に触りそうですが大丈夫なんですか」
「我々が交代で見張っていますから。」
「そうなんですね。夜に抜け出した子どもが、こちらで怪我でもしたら大変ですものね。」
「うちの店長もなぜか子どもに対しては気を遣っているみたいで。こうして、触りそうなときには付き添っている親御さんに必ずお話ししています。あと、子どもだけで見に来る子には私たちが厳しく言っております。」
「お仕事の手を止めさせてすいませんでした。」
「いえいえ、気をつけてくださいね。それでは。」
「おじちゃんばいばい」モーラがメアに手をひかれて振り向きながらその人に手を振る。
「はい、ばいばい」その人もモーラに手を振っている。いい人そうだ。
 そうして、3人でその倉庫をあとにしました。
「どうでしたか。」
「セキュリティの話は本当じゃ。倉庫の外壁に仕掛けはない。念のため触って確認した。」
「よく触りましたね。」
「わしにもそれくらいはできるわ。」
「メアさん。隠し部屋はありましたか?」
「はい、前回確認したときと同じです。存在は間違いありません。いじられた形跡もないようです。」
「立てるくらいのスペースはありますか?」
「奥行き2メートルくらいです。高さは、壁に梁があったので、もしかしたら、1メートルくらいで仕切られている可能性もありますが使い勝手が悪いのでその可能性は低いと思います。」
「幅はどうですか。」
「幅は、梁が縦に2メートル間隔で立ててありますので、中に仕切り壁を作っていれば、最小で2メートルですね。」
「そうですか。それだけスペースがあれば他に荷物が入っている可能性が大きいですね。彼に渡す高価な物があれば良いのですが。」
「うむ、その箱しか無かったときが問題じゃな。」
「そうですね。ちょっと魔法使いさんのところに戻ります。先に合流していてください。」
「気をつけてな。」
「はい」



Appendix
「最新の情報が必要だったわ。剣士は魔法剣を使うし、エルフはただのエルフじゃなくてハイエルフだったし、おかげで失敗したわ。
 その代わりに楽しみは増えたのだけれど。あんな魔法剣士とハイエルフを従えている男はどんな男なのかしら。興味がわいてきたわ。そうね、あれだけやりがいのあるメンツそうそういないもの。この依頼受けてよかったわ。」

続く

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