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第4話 爆乳!激怒!借家改造

第4-1話 DTはだかんぼさんを見つける

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○ 借家内覧会(幽霊付)
 翌朝、宿屋の一階にある食堂で食事のテーブルにつきました。皆さん無性にそわそわしています。
 メアがにやりと微笑んで、スッと例のブツを出しました。店主に見られないようにそれぞれの料理に少しずつかけて次の人に回しています。そう、昨日の夜使った魅惑の調味料、醤油です。
「一度知ってしまうと普通の料理が物足りなくなるのう」モーラが嬉しそうに料理を食べています。
「そうなのよねえ。純粋な肉料理でも塩こしょうだけでは物足りないときがあるから。そういうときにこれが欲しくなるのよねえ。」アンジーもうれしそうに食べています。
「贅沢は敵じゃが、もうもどれんなあ」モーラがお腹をポンポン叩いて満足そうに料理を平らげています。
「それはよろしいことです」メアがうれしそうだ。

 朝も早いというのに、例の物件の話を聞いた人のところに向かってます。5人揃ってぞろぞろと。その人のところに到着して、物件の場所を聞くと
「本当に見に行くんですか?」と聞かれました。
「本当に幽霊が出るのか実際に見て確かめます」と私は答えました。
「知りませんよ。そうやって興味本位で見に行った人は、ことごとくおびえて何も言えずに帰ってきていますから」心配してくれるのはわかりますが、それは仲介する人が言ってはいけない言葉ではありませんかねえ。
「私たちも切実なのです。この大人数を抱えて、宿屋ではお金が減る一方なのです。ぜひとも原因を見つけて。仮に幽霊ならば説得して一緒に暮らしてでも何とか住んでみせます」私は決意をキラキラした目で表現しながら言いました。
「そこまで言うのであればわかりました。ここです」と、簡単な道順を教えてくれました。道順に道沿いにある背の高い木の本数を数えるという説明だと、家を見つけるのは大変かも知れません。実はそれで挫折した人もいるのではないでしょうか。
 そうして街を出てしばらく道を歩いていますが、なかなか見つかりません。
「こっちかな?」ユーリが木の数を指折り数えながら歩いています。
 私達は、何度か行ったり来たりを繰り返しています。木の本数なんて途中で数え間違いますよ。メアさんなら覚えていられそうですが、眉間にしわを寄せて考えながら歩いていて、一言も声を発しません。
「あ、木が折れていますよ。数え間違いではなかったのですね」ユーリが倒れている木を発見しました。何本かおきに折れていて数え間違えていたようです。
「確かに説明は間違っていないが、どうしてこんなに状況が変わっているのかのう」モーラが不思議そうに首をかしげる。
「魔物や獣が出て木を倒したとかなのかな」アンジーも不思議そうだ。
「そんな場所であれば、危険すぎて住居にならんじゃろう」
「確かに説明に嘘はないですが、たどりつけないように誰かが何か細工していますかねえ」道順は単純なのに見つからないというのも変です。これは事件ですよ!事件!
「まあ、わしは面白くなってきたがのう。宝探しの冒険をしているようじゃ」モーラはそう言って腕を回し始める。いや力仕事をするのではありませんよ。家を探すのですよ。
「あ、あれじゃないですか?」ユーリの元気な声が響き渡ります。小一時間かけてやっとたどり着いたみたいです。
 到着してみると、道からその家までの小道と玄関のあたりまで、高く成長した雑草で覆い隠されていて見えなくなっていたのです。確かに家自体もやや奥まったところに建っているので、余計に見つかりづらかったみたいです。
「たぶんこれですねえ」雑草もかなり高く生い茂っていて道からだとほとんど隠れて見えません。私たちが住むには絶好な物件ですが。
「荒れ果てていますね」ユーリが残念そうに言う。
「なるほどそう見えるか」モーラが不敵に笑う。
「そうですねこれは偽装しています」アンジーが言う。
「え?偽装?これがですか?」私はびっくりしています。
「はい、間違いありません。偽装していますね」メアさんもそう言う。
「皆さんわかるのですか?」ユーリがびっくりしている
「まあ、なんとなくですけど」アンジーが言った。
「術者は、へたじゃのう」
「これは、結界?」
 私はそう言われて目を凝らして見ました。そして、地面に違和感があったので触ってみました。これは魔力の残滓なのでしょうか。その結界を解除してみると、雑草まみれだった小道がはっきり現れて、いままで古びて見えていた家が綺麗に見えはじめた。やはり何かの魔法が掛けられていたようだ。
「これは幽霊ではない。誰かが使っておるな」モーラがユーリに聞こえるように大きな声で言った。
「中に誰かいるはずです。とりあえず中に入りましょうか」私がそう言うと、ユーリが先に扉の前に行った。
「扉が開きません」怖がりのはずのユーリがそう言ってがちゃがちゃと扉の取ってを動かそうとしています。幽霊じゃないと聞いて急にやる気が出てきましたか。意外に現金な子ですね。
「うわ、なに?」ケロイドのある手が扉を通して中から出てきて、取っ手をいじっていたユーリの手をつかんだ。
 思わず手を離すユーリ。するとその手は扉の中に消えていった。ユーリが涙目で尻餅をついている。メアが近づいて立ち上がらせるとユーリはメアに抱きついて離れなくなってしまった。
「なるほどそれが幽霊の手というわけか。おもしろい」モーラが不敵に笑う。
「さて、メア」ユーリが落ち着いて自分一人で立っていられるようになってから。モーラがメアにうながした。メアはうなずくと扉に手を掛けました。
「全然動きません。壊しても良いですか?」メアは取っ手を掴んだまま振り向いて私の判断を仰ぐ。すると先ほどのケロイドの手がまた伸びてきて、今度は手ではなくメアの首を絞める。冷静なメアは、逆にその手をつかんだ。
「首を絞めたら苦しいでしょう。何をするんですか」その手は、メアの首から手を離して何とか逃げようともがいているが、メアの力が強いからなのか逃げられない。
「メア、そのまま逃げられないようつかんでいて、握りつぶしちゃだめですよ」手はびっくりして抵抗をやめる。
「さてどうしようかしらね」アンジーは、笑っている。
「扉を壊すのは忍びないのう」モーラは、楽しんでいる。
「ですね。中から開けてもらいましょう。きっと理解ある幽霊さんならこの状況でこちらに悪意がないことをわかっていただけるはずですから。メアさん手を離してあげてください。こうしてつかめるのであれば幽霊ではないでしょうし、実体があるなら物理的な攻撃も効くはずです」ちょっと脅し気味に言ってみました。
「もちろん家ごとな」モーラが相手に聞こえるように言った。その直後メアはパッと手を離した。すると手が中に消え、開いていないはずの扉の閉まる音がして、扉がぼやけて違う扉になり、ひとりでに扉が開きました。私は先頭に立ってこう言いました。
「入りますよ。危害を加えないでくださいね。こちらも危害を加えるつもりはありません。よろしければお話を聞かせて欲しいのです。了解していただけるなら一度、嫌なら二度、音をだしてください。いいですか?」中からトンと音がしました。
「わかりました。では入ります」そうして私達は中に入って部屋の中を見渡します。そこはかなり広い部屋になっていて、中央に大きなテーブルが置いてあり、テーブルに椅子が数脚置いてありました。
「大勢で失礼します。お話ができるのであれば会話でもよろしいのですが、お話できますか?」
「声は出せます。でもどこにいるかはご容赦ください」
 広い部屋の中に声が響く。残念ながら声の方向がわからない。
「わかりました。こちらもその方がよろしいです。まずは、突然おじゃまして、あなたの平穏を乱したことをお詫びします」私は深々とお辞儀をすしました。みんなもあわてて真似をしてお辞儀をしています。
「ですが、ここは借家と話を聞いてきました。幽霊が出る借家だと。あなたは幽霊ですか?」もっとも幽霊に幽霊と聞いても違いますとしか言いませんよね。
「違います。幽霊ではありません」
「私たちの事が見えていますか?」これもあたりまえです。メアの首をつかんでいるんですから。
「はい見えています。先ほどはそちらの方に失礼なことをしました。どうもすいません」
「いえ、あの時は怒ってみせましたが、首を絞めるつもりのない掴み方でしたので私も手を押さえるだけにしていました」メアが代わりに答えます。
『おぬし気配を感じるか?』モーラが脳内に話しかけてくる。モーラの視線の先にたぶんいるのだろう。奥の部屋へと続く出入り口のあたりに立っているようだ。
『魔法使いですかねえ。どういう事情なのでしょうか』
『聞いてみたら?』アンジーが言う。
「ごほん、言いづらいかも知れませんがあえて聞きます。あなたは魔法使いですか?」
「・・・」沈黙が答えですか。
「私たちは旅の者で、この家を数ヶ月使いたいと思って見に来たのです。街の人に話したりするつもりはありませんよ。あなたは魔法使いですか?」
「私は魔法使いではありません」おや違いましたか。
「事情を話してもらえませんか。あと、長くなりそうですからお互い座りませんか?こちらは手近にある椅子に座りますけどかまいませんか?」
「かまいません。あの、この中に魔法使いの方はいらっしゃいますか?」逆に問いかけられました。どうしましょう。まあ知られても問題ないですかね。
「いますよ。あまり他人には知られたくないですけど。私は魔法使いです」
「ああ!!やったー!!わが妖精神のお導き~。あっ」そこで声が途切れる。
『妖精神ってなんですか!』
『なるほど。慌て者だのう正体を現しよったわ』
『なんなの?』
『エルフ族じゃ』

○幽霊さんは、エルフ
『ああーそうなんですか。はいはい。でもなんで透明?』
『それは聞かんか』モーラの声からあきれた感じが聞き取れてしまう。そうですよねー。
「ごほん。種族についてはあえて聞きませんがなぜ透明になったのか教えてください」一応もうばれていますよーとほのかに匂わせています。
「ありがとうございます。少し前に人族の方達とパーティーを組んでこの近くを通ったのですが、魔族に追われてパーティーが散り散りになってしまいました。その時に追い打ちのように盗賊に襲われて、とっさに持っていた姿を消す薬を使って身を隠しました」
 なるほど。それで透明ですか。それから?
「その場は難を逃れたのですが、どういうわけか透明化が解けないのです。それと、その時にパーティーの魔法使いの方が掛けてくれていた、お互いに位置がわかる魔法も消えずに継続されてしまっていて、そちらも解除できないのです」
「ピンチは逃れたけれど、違うピンチが続いていると」私はついついそう言ってしまった。
「はあ、ピンチというのはスラングですか?」いや、そこ突っ込むところですか?
「はいはい、そうですね。危険という意味のスラングです」
『で、どうするのじゃ』
『とりあえず、魔法の成り立ちを見てみないとわかりませんとしか』
「それで、お願いなのですが。私は今、周囲の草花を食べてしのいでいますが、そろそろ限界なのでなんとか透明化の魔法を解除してもらいたいのです。できませんか」
「この家にいた理由はなぜですか」
「はい、効果が切れたときにどういう状況になるかわからないので、パーティーの人に見つけてもらえるまで動かない方がいいかなと。そう思っていたらこの家がありましたので黙って使っていました。すいません」
「私たちは迷惑を被っていませんので謝る必要はないですよ。さて、話はわかりました。できるかどうかはわかりませんが、その魔法を見てみたいのでどこにいるか教えてください」
「はい」私は席を立って、テーブルを回っているであろう場所に近付きました。すると気配が近づき、私の顔に手を触れてくれました。はいはい、その手を私が握り目をつぶります。ええ、見えます。からんでもつれてねじ曲がった魔方陣が見えます。これは雑な魔方陣ですね。私は素人ですが、私にもわかるような穴がたくさんあります。よくこんな魔法を使って仕事をしていますね。ああ、ここにほころびがあるので定期的に位置を知らせる魔方陣が魔力を吸って、位置を知らせもせず、透明化の魔法の維持に使われてしまっています。なるほど、こういうデメリットが出るんですね。ふんふん。おもしろいですね。
「あのう、わかるんですか?」手を握られたままなので少し不安なのか聞かれました。
「ああすいません。どうも他人が作る魔方陣というのを初めて見るのでめずらしくて見入ってしまいました。こんなに杜撰な魔方陣でも魔法は発動するんですねえ」
「大丈夫でしょうか」
「ええ、かなり簡単な魔法ですから。透明化の魔法の穴と定期的に位置を知らせる魔法の穴を埋めればおさまりますよ」
「そうですか。よかった」
「はい、それではいきますよー」
 私は、他人の作って魔方陣を直すことができてうれしくてすぐに修復させてしまいました。ええ、すぐに。
 周りの人達は私を止めようとしていたのですが、すでに手遅れでした。
 私の目の前で不可視化の魔法が徐々に消えていき、顔が現れれました。おお美人です。耳も少し形が違いますね。
「あ、ちょ、ちょっとまってください。ダメ。キャーッ」徐々に全身まで現れ始めます。そこにはナイスバデーな美人の女性がおりました。ええ、裸で。
 両手で胸を隠してしゃがみこんで私を睨んでいます。
 でも私は、いつも似たような形で裸を見ているので、あまり気にならなくなりました。EDかもしれません。
 今回の違っている点は、両手で隠した豊満なおぱーいが隠しきれずにあふれ出ているところですね。
 先ほどから繰り返していますが、おぱーいがでかくて全裸なのに全然気になりません。おかしいですね。私貧乳派になってしまったのでしょうか。大事なことなので2回言いました。
「ご主人様やっぱりやってしまいましたね。不可視の魔法は体にしかきかないので、解除したら裸体なのです」
 メアが冷たく言い放つ。
「あんた知っててやったわね」アンジーがジト目で言う。
「あるじ様、知っていたんですか?」ユーリが軽蔑の目で残念そうに言う。
「この場合知っていても知らなかったと言うじゃろうなあ」ニヤニヤ笑いながらモーラが言う。
「本当に知らなかったです。すいません。すいません。すいません」何度も平謝りである。
「魔法を改変できるスキルがある人なのに知らなかったのですか?」そのエルフは言いました。
「私は、なりたての魔法使いなのです」
「その歳でですか?」エルフさんの方がびっくりしています。
「はい、私もびっくりしています。ごめんなさい」もう、本当に申し訳なくて謝り倒します。
「わかりましたから。謝るのをもうやめてください」
「この者がなりたての魔法使いであることはわしが保証しよう」いや、尊大な態度の幼女に言われても説得力無いわ。エルフさんも態度の尊大な幼児にびっくりしています。
「あ、これを」私は着ていたローブをエルフに渡しました。
「ありがとうございます。服も外でボロボロになってしまって」
「メアさん。すみませんが・・・」
「はい、衣類を調達して参ります」そう言ってかき消すようにいなくなる。
「あのう、あなたたちは一体・・」エルフさんは今のメアの瞬間移動みたいな動きを見て少しビビったようです。顔が引きつっています。
「ただの薬売りの行商じゃ。かっかっか」モーラ、どこぞのご老公みたいな物言いですね。私の頭から何か見ましたか?
「薬売りにしては、おかしな・・・家族なんですか?」
「ええ、私とこの子達は家族です。さきほど出て行ったの人は、そうですね付き添いのメイドさんですか」私はそう言いながら、そばにいたユーリとアンジーの肩を抱きます。ユーリはうれしそうですがアンジーは少しむっとしています。モーラには距離が遠くて肩を抱けなかったのです。少しむっとした風ですが顔色は変えていません。
「薬売りなのに付き添いのメイドを雇っているのですか?」
「う~ん、彼女は家族同様なので雇っているというのはちょっと違いますね。でも奥さんではないですし」
「はあ」
「して、おぬし名前は」
「失礼しました。私は・・・」そう言ってそのエルフさんは立ち上がろうとしました。
「ちょっとまってください。フルネームを言わないでくださいね」私はこれ以上、他の人を巻き込みたくないので止めました。
「え?どうしてですか?」エルフさんは不思議そうに首をかしげる。
「まあ、愛称略称偽名などを名乗るのじゃ。決して真名などもらすでないぞ」モーラも止めています。
「ですが、こうして危機を救われた身。私たちの種族では真名を明らかにしてこれから恩返しをしろと教えられています」エルフさんは真面目な顔で言いますが、片手でおぱーいを別の手で下を隠していますから、どうも真剣さが伝わってきません。そして、立ち上がらないで欲しいのです。目のやり場に困りますから。目をそらしていますが、ついつい見てしまいそうになります。まあ私EDなので立ち上がりませんが。
「してはならぬ。絶対にな」なぜか真面目にモーラが止めています。どうしたのでしょう。いつもなら隷属に持って行こうとするのに。不思議です。
「そうです。これ以上パーティーメンバーが増えたら収拾がつかなくなります」アンジー変なことを言わないでください。
「パーティーメンバー?やはり冒険者なのですか?」
「いいえ違います。ですが真名をこの場で言う事や私に償うとか従うとか言わないで欲しいのです」
「はあそうですか。そうします。それで私の名前ですが」
「もどりました」メアが背中に袋を抱えて戻ってきました。いや一人分ではないでしょうそれ。
「は、早い。どういう人なんですかその人。忍者ですか?」
「いえ、ただのメイドです」スカートをつまみ、かるくお辞儀をする。
「とりあえず奥の部屋で着替えてください」
「はい、ありがとうございます。ええと」私を見る目が恥ずかしそうだ。
「後ろを向いていますから大丈夫です」私はクルリと後ろを向いた。
「おぬしは外へ出ろ」モーラから怒りのオーラが感じられます。モーラのオーラ(微少)ですね。
「はいはい」私は少しムッとして言いました。覗くと思っているんですかねえ、失礼ですね。覗こうと思えばいくらでもできるんですよ魔法使いなんですから。まあしませんけど。そう思いながら外に出ました。
『そうしておけ。信用は大事じゃぞ』あら、聞こえていましたか。このジャミング魔法はすぐ解除されてしまいますねえ。興奮したり混乱したりすると解除になるみたいなので改良したいんですが、とっかかりがわからないのでできません。うっ、師匠が欲しい。
「ほれ、もういいぞ。入れ」モーラに促されて中に入ります。まるで叱られて外に出されていた悪ガキのようにしょんぼりと。
 そこには、袖なしのセーターのような服を着て短いスカートをはいたエルフさんがいました。セーターがパンパンになっていて。ちょっと刺激的です。
「さて、おぬしが外にいる間に我々の事情は話しておいたわ」モーラがそう言いながらテーブルの椅子に座る。アンジーとそのエルフも座る。ユーリとメアは台所から持ってきた椅子に座ったので、私もテーブルの椅子に座りました。
「そんなに簡単に話していいんですか?」
「事情を聞いたらのう。しばらく一緒に生活せざるをえんようじゃ。なのでお互いの秘密を守るということで合意したからな」
「って、私は呼ばれなかったのですか」仲間はずれですか。少し寂しいです。私。
「んー、まあおぬしにいえぬ事情もあるらしいのでな」顔を見ると頬を染めている。何か女の子的な事なのだろうと判断して何も聞かないことにします。
「ではしばらく一緒に生活をするということですか」
「はいお願いします。あと、できればこれからの旅にも同行させていただきたいのですが」
「え?他のパーティーの人が迎えに来るのではないのですか?」
「そう思いたいのですが、たぶん期待できないだろうと」
「はあ」
「魔物に襲われた時には、町からの依頼に失敗してケンカをしていた時だったのです」
「マーカーを付与されていたのではないですか?」
「それは失敗した依頼を始める前に付与してもらったものです。なので、魔獣に襲われたときには、どこで合流とか決めていませんでした。しかもマーカーが作動しているのに迎えに来ないという事は、他の人達は死んでいるかあるいは、私が取り残されたかだと思います」
「でもマーカーは作動していませんでしたよ」
「ええ?でも魔力は微量ですけど消費していましたよ」
「マーカーは動作不良で、マーカーが吸い上げた魔力を不可視化の魔法に流していたのです」
「そうですか。だから不可視化の魔法の効果が切れずに・・・ならばよけいに探してはいないでしょう。マーカーの発信が消えていたということは、死んだと思われたんだと思います」
「なるほど。でも、こちらから連絡を取った方が良いのではありませんか?」
「依頼のために集まったその場限りのパーティーでした。面識もなく連携もめちゃめちゃでしたので、たぶん失敗した段階で解散するつもりだったのではと思います」
「そうですか。でも依頼主には報告しなければなりませんね」
「はい。ですので一緒に旅をさせていただきたいと」
「報告はその町に行く商隊に頼めば良い。エルフおぬしは少し休め」
「ありがとうございます」丁寧にお辞儀をする。礼儀正しいですねえ。
「聞いたであろう。おぬしもそれでいいな」
「ええ、家も格安で借りられそうですし、よかったですね。でも、なんて呼べば良いですか?」
「一度救われた身です。前の名前を捨てて新しい名前をと思います。お好きにお呼びください」そう言って立ち上がり彼女は両手を組み、何かを祈るように目をつぶって何かをつぶやいている。
 命名するのに立ち上がるのが習慣なのだろうかと私も立ち上がります。洗礼みたいな感じでしょうか。
「いいんですか?」私は皆さんを見回しました。モーラがうなずき、アンジーがいやーな顔をして、ユーリが不安そうな顔をしています。メアは・・・表情が硬くて感情が読み取れません。私は何か嫌な予感もしていますが。
「じゃあ、エルフなので、エール、エーリッヒ、あ、これは男名か。エルフィ。エルフィでどうです?エルフィ・ドゥ・マリエールとかかっこいいなあ」周囲が一斉に青ざめ、エルフィと呼ばれた彼女の顔が明るく輝きだした。そして、
「私はあなたに従います」そう言って膝をついた。すでに見慣れたほんわかした光が彼女を包む。
「え?あれ?どうして?」
「わしの頭を覗いたのか?」
「そんなことできるわけありませんよ」
「まあ、するわけがないし、できんわな。よい。とっと儀式をすませよ」
「これってまさか」
「ああ、いつものじゃ」そう言って横を向くモーラ。私は膝をつく彼女の頭をなでる。光は収まり彼女は立ち上がり、私に抱きついた。
「ありがとうございます。生涯ともに歩みます」
「ええ?生涯ってどういうことですか?しばらく一緒に暮らすだけですよね」
「エルフィおぬし図ったな」
「え?何のことですか~?」エルフィはペロリと舌を出してウィンクをしてそう言った。そのペコちゃん顔可愛いですね。歳の割に。
「お主の真名が浮かぶようにこやつの意識に暗示をかけたな」モーラがにらんで言った。
「え~そんなことできませんよ~うふふ~」エルフィは不敵に笑った。いやーん、私だまされた?
「ぬかったわ。この小娘。かなり年齢をいつわっておるな。長命なエルフだけに」
「当然ですよ~これはという男を見つけたら~絶対離れるつもりなんて~ありませんでしたから~」
「エルフ族は外からの血を嫌っていると聞いていましたが、そうでは無いのですか?」ユーリが不思議そうだ。そんなことが伝説になっているのでしょうか。
「うちの里は~そんなことは言いませんよ~私も実は少しだけ人間の血が混じっていますし~むしろ最近の統計では~魔力量の豊富な人間との間では~ほとんど外れなくできの良いハーフエルフが生まれているみたいで~むしろ推奨しているくらいです~。あ~もっとも~一族に従順な子だけが優遇されるんですけどね~」
「ちょっと待ってください。私がいない間に何を話していたのか聞かせて欲しいのですが」私も今回ばかりは混乱しています。
「はあ、こうなるとはある程度予想していましたけどね」アンジーがため息ついて話し出す。
「正式な名前や真名を呼ぶと隷従されることを話したのよ。そして、別な名前をつけてもらうことに同意してくれたのよ。ただ、この子は呼ばれる名前はあんたに決めて欲しいと言い出したのね。しかし逆手にとって隷属するとかありえないわよ。またメンバーが増えてしまいましたよ。神は一体何をさせようというのでしょうか」アンジーさんついに胸の前で十字を切っています。あれ?それ逆じゃないですか。
「まあ~いいじゃないですか~」エルフィがうれしそうにアンジーの背中をぽんぽんとたたく。私はエルフィに近づき手を取る。
「すぐ解除できるか魔法の跡を見てみましょう」私は私からエルフィにつながっている首輪とその鎖を可視化する。しかし、ひどいものを見てしまいました。
「これはすごくゆがんでいる。もしかしてあなたは魔法に対して耐性を持っていませんか?」
「あはは~わかりますか~。実はそうなんですよ~。おかげで治癒の魔法が効いたり効かなかったりして大変なことになったりしま~す。でも~自分でも治癒魔法を使えるので~問題は無いんですよ~」
 なるほど、マーカーの魔法も透明化の魔法もどちらも魔方陣がずさんな訳ではなくてエルフィにかけたからこうなった可能性もあるのですね。勉強になります。
「これを解除するとなるとかなりかかりますねえ」私は頭が痛いです。
「隷属の魔法も~もしかしたら成功しないかもと思いましたけど~じわじわ~と屈服させるように魔法が効いてきましたよ~。すごい魔力量ですね~。私、からだが熱くなりました~。ハアハア」何恍惚とした表情浮かべて興奮しているんですか。こういう人は、スルーするのが一番です。
「とりあえず、そのエルフィさんが着替えられたので、みんなで大家さんのところへ行きましょう」メアが冷静にこの場を仕切ってくれました。ありがとうございます。
「幽霊騒ぎの結果はどうするのじゃ」
「幻覚でも見ていたことにしましょう。私たちには何も起こらなかったと」
「その線で行きましょ~ほらレッツゴ~」うれしそうにエルフィが同意する。
「あなたが原因でしょう」
「てへ」
「ちなみに年齢を申してみい」
「今年20歳です!」元気よく手を上げて言いました。
「下二桁だけ言うんじゃない」
「百20歳です」
「本当か?」
「暦が無かったので正確ではないですが~。季節はそのくらい巡っていましたよ~。」
「ふむ、まさかそんなところでサバは読まんじゃろう」
「さて、本当に行きますよ。」メアが言いました。
「途中で何か食べ物が欲しいのですが~」
「エルフは植物以外たべられんのじゃろう。干し草でも食っておけ」
「ひどい~そんなことはないので~す。それは偏見で~す」
 おなかを空かせたエルフィにフードをかぶせて街を歩いていると、皆さんの私を見る目が厳しい。さながら新しい奴隷を連れた奴隷商人を見るような目になっています。まあ、その周囲の目も最近はとっても快感・・・・な訳ないです。とほほ。
 家主さんに問題は解決した事としばらく住んで様子を見る事を話すと猛烈に感謝されました。取り決めは、ほとんどこちらの要望どおりとなりました。壊れたらこちらで補修して、出るときには現状を見てもらい直しが必要なところはこちらで直す。というものです。問題なく契約できました。はいしかもかなりお安くです。
 お昼ご飯とエルフィの生活用品を買い足して宿屋に戻ったところ。やはり宿屋の主人に睨まれました。しかし、数日中に出て行くことを話すと少し寂しそうな顔をしたのを私は見逃しませんでしたよ。やっぱり楽しみにしていたんですね。あ、宿賃が入らなくなるからですか。そうでしたか。とほほ
 引っ越し前に、家主さんと一緒に家の中を見てもらいました。幽霊騒ぎからほとんど近づいていなかったそうで、ほとんど変わっていないと安心していました。
「荷物はほとんどないので、厩舎を横に作りますが、良いですかねえ」
「かまいませんけど、無駄になりませんか」
「はい、簡単な物でひさし程度ですから」
「かまいませんご自由にどうぞ」
「ありがとうございます。助かります」
 そうして家主は帰っていった。


Appendix 4-1

「おお来たか」
「はい」
「出立前に一つ話しておこう。 おぬしを送り込む先は、辺境になるが、どうやらすごい魔力量の転生者が来ているようじゃ。
 お主には期待しておらぬが、他のエルフが嫌がっておってなあ。さりとて他に適任もいないのでお主に行ってもらうぞ。有望そうなら婿として連れてくるがいい。その時はおぬしともども優遇してやるぞ」
「・・・・・」
「すまないが支度金もだせん。悪いが冒険者などして、働きながら辺境まで行ってくれぬか。頼んだぞ」
「はい」

続く



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