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第3話 僕と人形。ついでに魔法使い

第3-4話 DT入浴し、翌日探偵の真似事をする

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○ 夜中にお風呂
「ふーっ」食事の後の風呂は格別です。まあ、もう夜中ですけどね。
 交替で入ろうと提案したのですが、なぜか全員で入っています。一番恥ずかしがっているのは、私とユーリですね。あとの3人は気にしていないようです。もっともアンジーやモーラは、しょせんは仮の姿です。
 メアさんは、女豹のような目で何かを狙っていますよ。ええ、ある一点に目が集中しています。私は思わず視線の集中している所を手で隠します。やめて!恥ずかしいから!
 それにしてもメアさんの製作者の意図が私にはわかりません。もう少しナイスバディにしても良かったと思うのですが、スレンダーなのです。おしい。黒髪のロングストレートで茶色い目。キリッとした顔立ちで、顔といい背格好といいストライクゾーンなんですが、そこが最大のネックです。製作者は貧乳派だったのでしょうか。
「この風呂という文化は一度憶えるとやみつきになるのう」顔の肉が崩れているモーラが言いました。
「そうですね。やばいです」とユーリが言った。女の子なんですから「やばい」とかあまり使わないようにして欲しいものです。
「メアはびっくりしてないわね」アンジーがチラリとメアの胸元に目をやりながら言う。
「はい、前のご主人様もこうして入浴されていました」
「ということは、こやつと同郷ということか」
「はい、おそらくは」
「どんな感じの人でしたか?」
「最後の方は優しい人でした。でも、目的があると言われて、私を置いてどこかへ行かれました」
「目的・・・その目的については、何か話してくれなかったの?」アンジーがなぜか興味を示した。
「この世界の深淵とか秘密とか言っていました。それをはっきりさせるのだと。そうすればもっとこの世界は住みやすくなるのにと・・・」
「この世界を好きだったのね」
「そうですね。私に優しく接してくれるようになってからはずっと「私はね、この世界を気に入っているのですよ」と繰り返し言っていましたから」
「それっていつ頃の話なの」
「ええ、暦ができたのが最近なので、正確ではありませんが季節が100回は変わっていると思いますから100年前くらいかと」
「え?それって、あの薬屋の魔法使いもそのくらいは生きていると」
「そうですね、私が預けられてからは、80年くらいですか」
「魔法使いはなんらかの延命策をもっているらしいぞ。だから長生きなんじゃ」
「ばばあみたいな格好をしているけど、きっと美肌で若いんだ。くそー」アンジーがなぜか悔しがっている。
「アンジー、あなたも長命ですよね」
「私はそもそも光だから年齢という概念もないけど長命というか半不死なのよね。モーラだってそうでしょ?」
「まあなあ、わしらの寿命は1000年単位じゃからな」
「一番分が悪いのはわたしとユーリですねえ。普通の人間ですし」
「おぬしとてやろうと思えば若返られるんじゃないのか?心臓も止めたくらいだし」
「できそうではありますけど。細胞の活性化なんて試したことはありませんよ」
「それって、もしできるなら、ほとんど寿命がないのと同じではありませんか?不老不死なのでは?」メアがそう聞きました。
「不老不死ではありませんよ。細胞を活性化させるためには、意識がないとダメですからね。一瞬で殺されれば、復活するのは多分無理でしょう」
「私が死なせません」メアが立ち上がって胸の前で強く握りこぶしを作ってきりりと言う。全裸で言ってもねえ、見てるこっちが恥ずかしいだけです。まあうれしいですけど。とりあえず全裸で立っていないで前を隠して欲しいものです。
「この中では僕です。普通の人間です」おや僕っこになりましたか。なかなか良いですね。
「そうよね。でも、一番生に満ちあふれているわ。特にここが」アンジーはそう言ってユーリの”ない胸”を揉んでいます。だから揉んでも大きくなるわけではないのですよ。
「明日は、薬草を卸してその後どうしますかねえ」私は騒いでいる2人を見ないように視線を外してそう言いました。
「長期に滞在するなら宿屋は不経済じゃろう」
「ですね、家族が増えたのでどこか借りますか」
「わかりました。私とユーリで探します」メアが目を輝かせている。なぜだろう寒気が。
「ふむ、あの男の子のところに行って例の商店の場所を聞いてくるかのう」モーラが言う。
「わたしもそうするわ。子どもなら遊びに行っても怪しまれないだろうし」アンジーが同意している。
「私は・・・」どうやら私は取り残されるらしい。ちょっと寂しいです。
「おぬしは、わしらと一緒に例の露天商の大将のところに行って昨日の報告をしてから、領主のところに根回ししてこい。あと、あのえらそうな商人にも情報聞いてこい。変に勘ぐられないよう気をつけてな」
「え~、一番それが厳しそうですねえ。逆に情報を搾り取られそうです」
「おぬしが受けた依頼だろうが。シャキッとせんかシャキッと」
「なし崩しですねえ」
「この作戦がうまくいけば、わしらの今後の旅が格段に楽になるのじゃ。必ず成功させるのじゃ」モーラが突然阿智上がって胸の前で強く握りこぶしをつくっている。気合い入っていますね。無い胸が丸見えです。
「つ、強い意志を感じます」ユーリが何かわからないが賛同しています。
「まあ、あの魔法使いの・・おっと、つい名前を呼びたくなるが、今はエリスと名乗っていたな。あれは魔女にかなり近い魔法使いなのだ。もしかしたらすでに魔女と呼ばれているかもしれん。魔女は数人しか生存していないと言われている最古の魔女達の末裔、もしくは最古の魔女。なればこやつに恩を売っておけば、間違いなく今後の旅に有利に働く。わしらの名が各地方の町に住んでいる魔法使い達に知られるはずじゃ。そうなれば、決して悪いことにはならん。そうじゃな」モーラの言葉にメアがうなずく。
「だからこの依頼は完璧に成功させる。完璧にな」モーラが妙に気合いを入れていたのはそう言うことだったのですか。
「はあ」
「それによって、私達の利用価値があがって、各地でトラブルを押しつけられて小間使いにされそうですけどね」
 アンジーがぼそっと言う。それも一理ありますね、それも今回の件を我々に押しつけた理由かも知れませんね。魔女達のトラブルバスター的な存在にされそうです。
「もちろんそれもあるじゃろうが、それでもこれから行く先々で我々がトラブルに巻き込まれた時や何かトラブルを起こしてしまった時に助けてもらえるかもしれんのじゃ。わしが面倒になって都市を滅ぼすよりは、いくぶんかましじゃろう」
「そうですけど。あまり関わりにならないほうが我々のためだと思うのですけどね」アンジーとしては、あまり名前が広まったりする事やこの世界の人の世話になることが嫌なんだと思います。その気持ちは、なんとなくわかりますよ。
「一般の人々に迷惑は掛けられませんしね」ユーリが言った。あなたは優しいですね。あなたが一番最初に迷惑を掛けられた人かもしれないのですが。
「さて、明日の方針も決まったことじゃしあがるとするかのう」
「あ、ユーリがのぼせている」アンジーが真っ赤な顔をしてボーッとしているユーリを見て言った。
「まだ慣れんようじゃのう。メア、体を拭いて服を着せてくれんか」
「はい」そう言いながらも私の顔をうかがう。
「お願いに対しては、私を見ないであなたの判断で決めてください。お願いします」
「わかりました」不満そうですねえ。指示して欲しいんですかね。
「これからは、自分の判断というものを意識してください。自分のしたいことしてあげたいことなどを・・ってなにしますか」
「私のしたいことをしています」ええ、こんなことですか。
「私を抱き上げてどうする気ですか」
「このまま、お部屋にお連れしようかと」
「ですから、それは、相手の気持ちを考えて」
「それは、先ほどの指示と矛盾します」
「確かに自分の判断と言いましたが、相手の気持ちも考えてください」
「迷惑ですか?」
「気持ちというか状況を考えてください。周囲の視線とか」
「視線は別に気にしません。ご主人様と私の関係が大事です」
「それではだめなのですよ。というかタオルで体を拭いて服を着ましょうね」
「はい」
「これは大変だのう。あの魔女はそういうことは教えなかったのか」
「はい。私のしつけはおまえが気に入った者に習えと。その者のルールがお前のルールになると」
「なるほどそうなんですか」ユーリが意識が戻ったのか感心しています。
「ですから吊りも縛りもOKです」ニコッと笑ってすごいことを言う
「そこで、どうしてそういう方向に行きますかねえ」
 思わずボンデージファッションにムチを持ったメアさんを想像してしまいました。
「マニアックじゃのう。おぬしの頭の中も」あ、アンジーがジト目で見ています。誤解です。

○ 商人側の証人1
 翌朝、馬車に積んであった薬をすべて台車に乗せて全員で薬屋に行きました。
 昨日あった営業中の札はかかっていませんでしたが扉が開いています。そこには昨日いなかった鳥がドアそばの止まり木にいました。
「おはようございます。薬はそこに置いてください」鳥はその言葉を繰り返している。
「わしらだとわかってしゃべっているのか?それとも誰が入ってきても同じ事をしゃべるのか?」
 不思議そうにモーラが見ている。ねえ、わざと鳥と話して遊んでいますよね。こっちを手伝ってください。
 手伝わせようとするのもめんどうなので、メアとユーリと私で荷物を中に運び入れました。アンジーは非力なのに頑張って手伝ってくれます。力のあるモーラがサボってどうするんですかまったく。
 薬を置いて店の扉を閉めて歩き出すと、背中越しに扉に鍵がかかった音がして、振り向いて再度入ろうとしても扉が開かなくなっていました。
「さすがじゃのう。これは、盗みに入った泥棒が何されるかわからんな」
「そうですね」
「次は、あの露天商の元締めか」
「メアとユーリは別行動じゃ。家を探してくれ。昼は好きに食べてくれ。お金はあるな」
「はい」
 台車をガラガラと押しながらメアとユーリが台車を置きに宿屋に向かいました。
 そういえば、ユーリが受け取ったあの大量のお金はどうしたのでしょうか。銀行とか無いのにどこにしまってあるのですかねえ。
「さて、行こうかのう」モーラとアンジーと3人で露天商の元締めさんの店に到着した。
「こんにちは」
「お、おう、何かあったか?」私を見て怯えていませんか?昨日みたいに上からガハハと笑って話してくれませんか。調子が狂います。
「いえ、無事にお願いできましたのでそれを報告に」
「あの人なら受けてくれると思ったよ」何か物腰が丁寧になっています。何かあったのでしょうか。
「そういえば、連れて行ってくれた男の子はどうしていますか?彼にもお礼を言いたいのですが」
「ああ、その辺に・・・・いたいた。おい!昨日の人が来ているぞ」
「あ、こんにちは。どうしました?」その子がこちらに来る。
「うちの子達があなたに会いたがりましてね」私が言った時にはすでに2人は彼にまとわりついている。演技力はオスカー賞ものだ。え?オスカー賞って何?
「そうですか。では、店長少し時間良いですか」彼はすまなそうに店主を見た。
「ああいいぞ。相手してあげなさい」その姿に目を細めている。子ども好きなのでしょうか。
「ありがとうございます」その子はうちの2人に手を引っ張られてそこからいなくなる。
「なああんた。あの薬屋の店主とはうまくやれそうか?」
「はい、薬は扱ってくれるそうです。ただ」
「ただ?」
「少量ずつになるからあまり期待しないでくれと」
「そうか、まあ妥当な判断だな」
「はい、ありがたいことです」
「何か言ってなかったか?」
「いえ、何も」
「あいつの事もか」
「何かあるのですか?」
「あいつは両親と妹を亡くしているんだが、あの薬屋はあいつの両親とは懇意にしていてな、世話になっていたのさ」
「そうなんですか。そんなに親しくなさそうでしたがねえ」
「そうか。まあいいか」
「さしでがましいのですが、あの子の両親と妹さんの3人もお亡くなりになった原因はなんだったんですか」
「ああ。急に金回りが悪くなって、商売に行き詰まっていたのさ。それが理由なのか知らないが無理に商売を広げようとして、同業者と争いが起きたんだ。俺も一応たしなめたんだが聞き入れてもらえなかった。
 その後、最後まで争っていた同業者と潰し合いになったところで、落ち着いたように見えたんだが、急に自殺したんだ。
 後で聞いた話では、商売敵もけっこう厳しい追い込みをかけたらしくてな、経済的にではなく精神的に追い込まれて自殺したらしいよ」
 さすがに資金提供をしたことは話しませんねえ。
「そうでしたか。では、その商売敵の人がその商売を引き継いだのですね?」
「いや、俺の知り合いだったのだが、やり過ぎたせいからか周りの目もあってなあ。違う町へ行ったはずだ」
「そうですか。それならその両方の方が所有していた建物とかはどうなっているんですか」
「ああそういうことか。あの子の親の資産も街を出て行った奴の店もどちらも店も残った同業者が買い取って使っている。出て行った奴の店はそのまま店として、彼の親の店は倉庫代わりになっているはずだ。残念だが薬屋として出店はできないと思うぞ」
「勘違いさせてしまいましたか。私は薬を自分で売るつもりはなくてですね、数ヶ月こちらにいることになりそうなので、宿屋を出て家を借りようと思いまして、住居兼倉庫を借りられたら良いなあと聞いてみたのです」
「そうかい。ならばこの辺の家を貸しているものに探させようか?」
「ありがとうございます。今うちの者が探しています。もし、見つけられなかったらその時はお願いさせてください」
「あまり人は頼りたくないのか」
「人数が増えまして、それぞれが色々な要望を勝手気ままに言い出したものですから。そんなにわがままを言うなら自分で探しなさいと言ってしまいまったのです」
「そうか、どうしてもだめだったら私の所に来なさい」
「ありがとうございます」
 その後、この辺の物価、流通品目などを教えてもらっていた。そうこうしているうちに3人が戻ってきた。
「どこまで行ってきたんだ?」
「商店街を抜けて少し外れまで」
「そうだったか」
「2人と遊んでいただいてありがとうございました。何か買ってくれとかせがまれていませんでしたか?」
「・・・」その子は何も言わず2人を見る。
「やっぱり何かせがまれましたか」
「これ~きれいでしょ~」
 モーラが何かキラキラした物を見せてくる。演技だと思うけどうまいですねえ。
「こんな高そうな物を。すいません、買わないと言ってください。わがままになってしまいます」
「いいえそこの露天で売っていたものですから」
「おいくらでしたか?」
「あげるつもりでしたので。お金はいりません」どうも歯切れが悪い。結構高い物をねだったのでしょうか。
「では、今度お会いした時にお食事でも一緒にどうですか」
「ぜひお願いします」
「商売の邪魔をしてすいませんでした。それではまた」
「ああ、また来なさい」
 うちの2人が手を振っているので、店主もその子も手を振り返している。可愛い子どもは得ですね。
 商店が見えなくなる頃あいで表情を変えてモーラが言った。心の中で。
『倉庫を襲う件は大丈夫じゃ。問題ない』
『そうですか』
『気になるのは、小僧の話が本当なのかという事じゃ』
『なるほど。もしかしたら泥棒の片棒を担がされるということですか』
『回りの人たちの小僧を見る目が冷たいのじゃ。死んだ両親に人徳があればその子どもに憎しみの目は向けないであろう?』
『そうですね。そんな気もします。どうも元締めの話もそんな感じでしたねえ』私はかいつまんで話しました。
『自分が後ろめたいなら自分に都合の良いように話すわよね』アンジーも会話に加わる。
『もう少し客観的に両者を見られる人から話を聞きたいですね』
『そうなるよのう。して次はあの商人のところじゃな』
『いないかもしれませんよ』
『その時はその時じゃ』


続く

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