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第2話 旅立ちの時は来た~

第2-1話 DT青春の旅立ちと出会い

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○青春のぉ~旅立ぁちが~始まるぅ~

 村での立ち位置が、厄介者から解決屋に変わっていったところで、そろそろ旅立ちです。
「青い~銀河を~背ぇに~うけて~」私は記憶の中からかなり古い特撮の主題歌を口ずさんでいます。
「なんじゃその銀河というやつは、それに「背に受ける」って文章になっていないじゃろう」
「そう言われればそうですねえ」
「あんた歌詞が違うわよ。「青い」じゃなくて「蒼い」よ」
 アンジーが真面目な顔で突っ込みます。それにしても私の歌を聴いて漢字の違いなんてわからないでしょう。
「あんたの心の声がそう歌っているのよ」
 アンジーは何を怒っているんですかねえ。そもそもそうやって私の心の声を聞き取らないでくださいよ。
「あんたの心の声はダダ漏らしなのよ」
 いや、ダダ漏らしって日本語になってませんよ。ダダ漏れです。言葉の乱れは心の乱れですよアンジー。
「おぬしら頭おかしいのではないか」私とアンジーの会話を聞いてモーラが呆れています。
 それはさておき

 準備ができた段階で早々に出発しました。村長さんと宿屋のおかみさんには挨拶しましたが、他の人には告げずに出発です。
「やっと旅立てましたねえ」
 手綱を握りながら私は言いました。
「そうね、でもモーラという用心棒が一緒に来てくれて安心だわ」
 隣でアンジーがうれしそうだ。
「そうじゃろう?わしが大概のことは何とかしてやるぞ。」
 私の反対隣にいたモーラが、無い胸をどんとたたいている。
「他のドラゴンさんの縄張りに入るのですよねえ」
「まあ、ドラゴン同士のもめ事は、あまりないからなあ」
「本当ですか?大丈夫なんでしょうね」アンジーお姉さんぽいですね。
「少なくとも、次の街までは大丈夫じゃ。安心せい」
 その言葉どおり旅は順調です。本当に魔物や獣が一切襲ってきません。
 出発の時に村長やおかみさんからはかなり心配されたのですが、どうやらそんなに高い確率で遭遇しないものなのですね。
 なので、数日は何もありません。本当に順調です。馬車にゆられすぎて、お尻が痛くなりました。
 馬具は、馬が痛くないように調整したので問題なさそうですが、予想外に道が悪いので、この旅が終わったら馬車を少し改良しないといけませんね。
 私は、どこをどう改良するかいろいろ考えて少しウキウキしていました。
「おなかが空いたのう」
 幌の中から顔を出してモーラが言った。
「おばーちゃん、さっき食べたばかりでしょう。我慢してください」
 アンジーが優しく言いました。
「なんですか、認知症の義母を介護しているお嫁さんのような会話は」
 また私の記憶を本人の承諾無く覗いていますね。私もあまり憶えていないのに。
「いやわしは本気じゃが」
 むっとしてモーラが言った。
「手持ちの保存食が心許ないのです。少し我慢してください」
「そういえば、最近狩りができていないのう」
 そうですか、肉が食いたいですか。でもですね・・・
「いや、旅の最初から狩りができていませんよ」
 私は、現実をお話ししています。
「そうなのか?新鮮な肉が出てきていたから、てっきりわしの眠っている間に狩りでもしたのかと思っておったが」
「馬車を操作しながら狩りができたらそれはそれですごい事ですけど、私はそんなに器用ではありませんよ。事実、狩りを全くしていません」
「どうやってあの新鮮な肉を用意しているのじゃ」
「それは、簡易冷凍庫を馬車に積んでいるからですよ」
「なんと、おぬしの家にあったものを積んでいるのか」
「周囲にばれたら困るので、あれの簡易版ですが。まあ、私の世界では冷凍庫と言われるものですけど。木箱に偽装しています」
「夜に氷を生成して木箱と箱の間に吹き付けていますよね」
 アンジーが訳知り顔で言っています。
「そうです。そうすると生肉も長期間保存できます」
「ぬしはそういう知識が豊富じゃのう。して、もう在庫がないのか」
「もう何日かしたら、干し肉にチェンジですね」
「そうかー、では狩りでもするか」
 そうして額に手を当てるモーラ。たぶん周囲を索敵しているのだろうと思います。
「無理だと思いますよー」
 アンジーが意地悪そうに言う。どうしたんですか、何があったのですか。いじられ続けて反撃に出ましたか。
「周囲に全然獲物がいないではないか。どうしたというのじゃ」
 驚いたようにモーラが叫ぶ。え?気づいていないの?このドラゴン。
「当たり前じゃないですか。ドラゴンが気配まき散らしながらゆっくり進んできているんですよ。逃げるに決まっているじゃないですか」と私は当たり前のことを当たり前に言いました。
「おお!そうであった。それは獲物はいなくなるわ。盲点であった」
「それ、今気づく事ですか?」
「いやー、失敗、失敗。気配を消すとしよう」
 いや、気配消せるんですか。すごいですねえ。でもねえ。
「だから、今度は襲われっぱなしになっちゃいますよ」
「なんでじゃ」
「たった2人の人間の気配を感じれば、獣は当然襲ってきますよ」
「いいことじゃろう」
「今度は、襲われすぎて進めなくなりますよ」
「そうか難しいのう」
「二人とも良いかしら。気配は消せても、匂いは消せないわよ」
 アンジーが私たちをジト目で見てあきれたように言いました。
「あ・・・」
 そもそも論ですよねえそれ。

○出会ったのは商人さん(と傭兵団の団長さん)

 そんなくだらない話(実は本質ですよ)をしていたら、アンジーが道の先の遠いところに目をやりました。
 モーラは、さきほどの索敵ですでに気づいていたようです。
「道の先に大きい商隊が止まっているわよ」
 アンジーにそう言われて、道の先を見ると米粒のようなところに人影がたくさん見える。どうやったらあれが人だと、商隊だとわかるんですかね。
「まだ朝早いのにもう休憩の段取りをしているように見えるわね」
 さらにアンジーが言いました。
「なんじゃろうな。待ち伏せしてわしらを襲う気か?」
 そう言ったモーラの言葉の端々にウキウキ感が感じられますねえ。
「襲う気なら隠れて待ちますよね。普通」私はあまり騒ぎになっては困るのでそう言いました。
「なんじゃ面白くない。おなかが空いているので、襲われたら逆に食料奪ってやろうと思ったのに」
 と言ったモーラの言葉に私はこう言った。
「もしそうなったら手加減してくださいね」
 私は本心からそう言いました。私もおなかが空いてきているのです。
「もちろんじゃ。ていうか、わしを止めんのか。ドラゴンが世界に介入しようとしているのじゃぞ」モーラがそう言ってセルフ突っ込みです。おお、最近余り見ませんが。
「まあ、モーラが手を出さなくても、あちらが先に手を出してくれれば、正当防衛ですので、私が対峙します。もとい退治します」
「なにやら、おぬしの頭の中には「専守防衛」とか「過剰防衛」という言葉も浮かんでいるようじゃが」
「この世界には警察もいませんし大丈夫でしょう」
 私は言いながらふふふと不敵な笑みを浮かべてみました。すると、なんですかアンジー、やれやれと言ったポーズでため息つかないでください。ちょっとへこみます。
『アンジー聞こえておるか』なにやら頭にモーラの声が響きます。
『聞こえます。どうしたんですかいったい』
『うむ、わしらの場合、他人に聞かれるとまずい話もあるじゃろう』
『そうですね』
『そういう場合は、こうやって話そうではないか』
「え、わたしは、参加できないのですか?」
『はあ、これだからあなたは。今のが聞こえているのでしょう?会話しているじゃないですか』
『そうでしたねえ、私の頭の中を覗いているんでしたねえ』
『あまりそういう状況になりたくないがな』
「そうですねえ」
『とりあえず、やってみるがいい』
『あー、あー、テステス。こんな感じですかねえ』
『なんだすぐできたではないか。というか今のかけ声は何じゃ』
『私の国では、聞こえているかどうか試してみるときに使います』
『なるほどなあ』
『私としては、天使とドラゴンを連れているとは知られたくないですね』
『それと転生してきた魔法使いだという事もでしょ?』
『それも隠さないといけませんねえ』
 そうこうしている間にその商隊に近づきました。相手はこちらに対してはあまり警戒している風ではありません。むしろ不思議そうに眺めている感じです。まあ、親子連れの馬車なんてこんな危ない場所に走っていませんよね、普通。
「近づきますよ」
 アンジーが超警戒モードです。そりゃあそうです。一番弱いのは自分なのですから。真っ先に殺されるか、人質に取られるか、考えただけでも恐いですよね。
 通り過ぎようとすると、品の良さそうな男が近づいて、馬車を止めるように言った。
「ここから先は危険ですから、先に行くのはやめたほうがいいですよ。」心配そうに彼は言った。
「何かあったんですか?」
 私は馬を止めます。でも馬車から降りずに話をします。一応まだ逃げられるようにしておきます。馬を下りて油断したところでというのも想定としてありますから一応警戒モードです。
「うちの斥候部隊がこの先に魔物がいるのを見つけて、それが移動するまで待機しているのですよ」丁寧にそう話してくれます。ああ、話し方に品があります。
「そうでしたか。ありがとうございます。それでは見習ってここで待ちます」私はそう言って手綱から手を離しました。
「そうしなさい。こんな小さな馬車で、子ども2人つれて魔物と遭遇したら大変だ」
 どうやらいい人のようですね。安心しました。
「そうですね。子ども達を危険にさらす訳にはいきませんね。それに少し馬も休ませます」
「もう何日かで次の街ですから、少しだけなら干し草も分けてあげましょう」
「ありがとうございます。大丈夫と言いたいところですが、心許ないのでいただきます」
「どこから来たのですか?」
「はあ、ファーンという名も無い村です。この先のビギナギルまで行くつもりです」
 おっとここで最初の村の名前が出てきました。今まで名前出していなかったのに。これからも使う事になるのでしょうか?さてどちらでしょう。
「ええ!あそこから?子ども2人連れで?よくここまで来られたものだ。あそこからここまでの間は、獣が多くて非常に危険なのに」
 横にいた精悍な顔つきのおじさまが言いました。
「はあ、何とか無事にここまで来ました。運が良いんですかねえ」
 さすがにドラゴンがいるので襲われないなんて話せませんしねえ。
「お姉ちゃんがね。わかるの」
 突然モーラが話し出す。なに子どもごっこをしているんですか。気持ち悪いですよ。このロリババア。
『まあそう言うな。わしらも早く次の街に着きたいのじゃろう?面白いものを見せてやるわ』
 モーラの声が頭の中に響いた。何を考えているのやら。何か楽しそうなのが伝わってくる。
『何を急に言っているんですか。私を巻き込まないでください』
 アンジーの声には、困惑の感情がくみ取れます。
「何がわかるの?」
 その紳士は、子ども好きなのか、相手をしてくれる。本当にいい人そうだ。
「この先に危ない物がいるかどうか、わかるの」
 モーラが誇らしげに言う。それは演技ですよね。でも言われた私達はびっくりする。
 アンジーからは、『ええええええ』と心の叫びがそのまま私の頭に響きます。いや、その声大きすぎます。というか全方位に発信しているのでしょうか?
 それはさておき、アンジーが、いや天使様が素で驚いている。モーラなんちゅう無茶ぶりですか。
 アンジーもいきなり振られたのだから返事に困る。アンジーは私を見ますが、私もアンジーを見つめたままになって動けなくなりました。もちろん動揺を隠せません。いや、リアクションできません。そのアンジーと私の様子に何を勘違いしたのか真面目な顔でその紳士が聞き直す。
「お姉ちゃんは、魔物の居場所がわかるの?」
「うん」
 元気に満足げにモーラが言う。誇らしげではなく満足げに見えるのは私だけ?
「そうなんですか?」
 子どもには優しそうな微笑みで見ていたが、私の方に顔を向けた時には、怪訝そうな顔になって聞いてきた。私は、話をごまかすために、
「この子はやたら勘が良くて、それで獣や魔物に会わずにすんでいるようで、あははは」頭をかいてごまかします。
「そうなの?」
 今度は、その人からアンジーが言い寄られる。いつの間にかお姉ちゃんにされたアンジーピンチ。
「なにか嫌な気配を感じるので。だから気持ちが不安になるので近づかないようにお父さんにお願いしています。」
 うわ、アンジー演技うまいですね。こうやって今まで切り抜けてきたのですか。すごいです。なんというアドリブ力。見習わなければ。相手が何かを考えている間に、アンジーが私を見て涙目になっている。私もやれやれという感じでため息をつく。
 人は自分の都合の良い方に物事を考えるものなのです。相手は、この一連の表情を見て「あの地方からここまで無事に旅をしてこられたのは、姉の勘の良さに頼っていたからで、他人に知られないように姉の能力を隠していたのに、幼い妹の空気を読まない発言でばれてしまった。このまま、そんな事が知られてしまえば、親子共々周囲からいじめられるとおびえる姉。そして、その小さい方の娘の行動を責めるに責められない父親」に見えた。いや、見た。
 紳士は満足そうにうなずくと、アンジーの前に立ち、真剣な目でこう言った
「お嬢ちゃん、今は嫌な感じがするかい?」
 アンジーは、私を見て、モーラを見る。私はただ見ているだけ、モーラは、その人からは、見られていないので、満足げにうなずく。意を決してアンジーは、
「もう嫌な感じはしないです。」と言った。
 私は、モーラの意向とこれからの流れを考え、その紳士にこう言った。
「私たちは路銀もつきかけ、早々に次の都市に到着して薬を売らないと困る状態です。この子の話は信じられないと思いますし、実は私も信じていません。でも、さきほどのあなたのお話しから、これまでこの子の忠告に従って来たからここまで無事に来られたのだろうと思います。なので、私たちは先に行きますから、その結果を見てから進まれると良いかと思います」
 うまい言い訳だと思った。心の中で自分にグッジョブのサインを出してあげたい。しかし、『なに心の中で叫んでおるのじゃ。まだじゃ』とモーラが叫ぶ。
 私と馬車を見てその紳士は言った。
「私もにわかには信じられません。ですが、あなたがあの村から来たとすれば、この馬車の状態や、あなたの服装の状態、子ども達の状態を見れば私を納得させるには十分です。なので」
「なので?」
「お願いがあるのですが」
「はあ」
「是非私たちと一緒に次の街まで行ってくれませんでしょうか?」拍子抜けしてしまった。
『よし!こうでなくてはな!』
 モーラが心の中でガッツポーズをとるイメージが見える。いや、実際には見えていませんが。
「よろしいですけど、どうして急に」
「ここで休憩するよう指示はしたのですが、ここで休むと日程的に厳しいのです。ですが、魔物と戦いたくもない。ですから、先ほどの話を信用して、お子さんの予想を頼りに一緒に行きたいと思います。いかがですか?」
「はあ、本当に信じて良いのですか?ここまでは、たまたま運が良かっただけで、ここで不運になる可能性もあります。実際のところ私でさえ信じていないのですよ」
「ここまでの道すがら魔物にあったのですか?」
「いいえ、魔獣には会っていません。なにぶん初めての旅ですので、こんなものかと思っていましたから」
 実際、村で言われていたよりかなり楽な旅でしたしね。
「でしょうね、私の経験上全く遭わないということはまずありえません。ですからここは、私もあなたの娘さんを信じてみたいのです」
「そこまで言われるのでしたらかまいません。ですが、そちらに何かあったら申し訳ありませんので、私たちが先行します。そして、少しだけ距離を置いてついてきてください。そうすれば私たちが魔獣に襲われたとしても私たちを置いて逃げれば良いことですから。それならお互い安心です。私たちは路銀惜しさに襲われた悲しい旅行初心者ということになり、あなたたちを巻き添えにしないですみますから」
「一応、先遣隊を出していますから大丈夫と思いますよ」
「着いてくるのが遅くなると、もしかしたら状況が変わるかもしれません」
 私は真剣な顔で言う。それはそうだ魔獣はドラゴンを避けているのであって、過ぎ去れば状況は元に戻る。もしかしたらさらに悪化するかもしれない。なのでできるだけドラゴンの気配の恩恵のエリア内に常にいてもらう必要がある。
 私の真剣な顔に何かを感じたのか
「わかりました少しだけ距離をとってついて行きます」
「よろしくお願いします。先遣隊には、私たちと同じぐらいのところにいて。私たちの様子をみながら、その合図をそちらの隊列に連絡しながらついてきてください」
「そうします」
 そうして我々はその場所を出発した。当然魔物はいなくなっており、アンジーはぶんむくれて荷台に座っていた。
「そうむくれるな」モーラがなだめる。
「なんで自分じゃないんですか!」
「この先、おぬしの天使としての格が必要になることもある。その布石じゃ」
「言っている意味がよくわかりません」アンジーは本当にむくれています。
「つまりな。羽の生えた人間が高度な予言をする。神様の予言をご神託するということで人気になる」
「嫌ですよそんなの。この世界の神に恨まれてしまいます」
「じゃが、名前が知れる事は良い事では無いか。その転生した者と出会う機会も増えよう」
「そうかなあ」
「よいか、転生時の記憶の断片ではどこかの高貴な家のお嬢様として転生をしたのじゃろう?ならば有名になればなるだけ会う可能性があがるじゃろうが」
「それはそうですけど。私は相手の気配とかを知っていますけど、相手は私の事知らないんですよ。私は守護する者であって、簡単に言うと背後霊みたいに後ろにとりついていただけなのです。もしかしたらこちらも転生後の本人と会ってもわからないかもしれません」
「何にしても、徐々に周囲に知られていった方が何かと良いのじゃ」
「丸め込まれませんからね」
「まあ、今のところはそう思っておけ」クスクス笑うモーラ。
「はあ、あんまり目立ちたくないんだけどなー」アンジーは、素がだんだん出てきましたね。
 そうして私たちは商隊が出発の準備をするまでしばらくそこにいた。

 御者台でそんな話をしているとは知らず、商隊は後ろをついてきている。当然夕方まで魔獣にも獣にも一度も会いません。日も暮れる頃、伝令が今日の宿泊に良い場所を確保したので道を戻るようにと伝えに来ました。宿泊場所に戻って来てみると、そこにはすでにおいしそうな匂いが漂っています。
「ありがとうございます。今日一日でこんなに進めるとは思っていませんでした」
 うれしそうにダンディな紳士が言った。
「いえ、偶然そうなっただけでしょう。私はそう思います」
「ははは、私もそう思う事にします。夕食はどうなされますか」
「手持ちの食料があまりないので、簡単にすますつもりです」
 いや、ごちそうになりたいという本音は隠していますがバレバレですね。
「では、数日間は一緒に旅するのです。私たちと一緒に食事をしませんか、おもてなししますよ」
「わーい!」
 大きい声でモーラが言った。あなたそういう時だけ元気ですね。
「良いのですか?そちらも長旅だと思いますけれど」
 一応、遠慮というものを私は知っています。大人ですから。
「途中いろいろ襲われていましたので、肉には困っておりません」
「「お肉!!」」
 今度は2人ともですか、今朝までけっこう新鮮な肉を食べていた人の言葉とは思えませんね。
「この子達もうれしそうにしていますので、ご相伴にあずかります」頭を下げる。
「いやいやこちらこそ、この後の旅もこんな感じで行ければ良いですな」隣にいた人はそう言ってチラリとこちらを見る。
「そうですね」
「そういえば、名乗っていませんでした、私は、オズワルド、商人をしております。それと、こちらが傭兵団長のマッケインと言います」
「マッケインと言います。この旅の間よろしくお願いします」そう言うとマッケインと紹介された男が怪訝そうな顔で私を見ながら軽く会釈をする。まあ、疑いますよねえ色々と。
「私は、DTと言います。子ども達の名前は、大きい方がアンジー。小さい方がモーラです。あと私は、薬を売っています。よろしくお願いします」
 私は、少し猫背気味にオドオドと挨拶をする。正直。権威には弱いです。
 はははとカラ笑いを返す私。アンジーとモーラの2人はすでに肉を焼いているところに走って行ってしまった。おいてきぼりですか汚いですね。あとは私に押しつけですか。

 一応、お客様扱いされていて、その人、レイモンドと名乗る商人さんとあと、傭兵団の団長さんのマッケインさんとともに食事をさせていただいています。あの2人は、子どものように肉を焼いているところやおっさん達に愛想を振りまいています。気になって会話を聞いていると演技とは言え、時たま年の功がでるのにひやりとさせられます。
「私は、商人として各地から買い付けをしておりまして、ベリアルという町で作られている、布を買い付けて戻るところでした」
「途中にそのような町はありませんでしたが」
「道が枝分かれしていまして、この道は合流後の道なのです」
「それでも魔獣が出てくるのですか」
「この辺一帯は魔族との境界線に沿って道がありますから」
「そうでしたか」
「どうして家族で旅をすることにしたのですか?」
「実は、あの子達は私の本当の子どもではありません。たぶん何かの事情で親とはぐれた子ども達なのです」
「そうですか。迷子、もしくは捨て子ですか。」
「はい。独り身であっても身寄りのない子どもを預かるのがあの村の、ファーンのならわしとかで」
「確かにあそこは、来る者は拒まず、去る者は追わずの寛容な村ですし、魔族や獣に襲われた人々などが、あそこの村に流れてきて居着いたりしていますね。そして、共同体の中で生活するならば、強要ではないが、出来るだけの事はしなさいみたいな雰囲気がありますね」
 商人さんがそう言いました。行ったことがあるのでしょうか。
「はい。ですので、あの子達を預かる事になりました。私もあの村に流れ着いてみなさんに良くしてもらえておりますので恩返しもかねて」
「それにしても、3人で旅とは危険すぎますよ」
 団長さんが言った。口調が少し怒っています。
「ええ、それについては色々考えたのですが、何やら上の子が会いたい人のところに行きたいと言いまして。危ないと何度も説得をしたのですが、独りでも行くと言い出しました。さらに下の子も行こう行こうと騒ぎ出しまして、2人して家出をしそうになりまして。まあ、家出をされて死なれるよりは、と恐る恐る旅を始めたのです」
「ほうほう、して薬を売って旅をすると」
「はい、私は少し薬草の知識がありまして、薬草の見分けもできました。そして、あの村で少しは売れる事がわかったので、売って歩けば何とかなるかなと」
 そりゃあ魔法使って配合しているから効果は抜群です。しかし、あまり効果がありすぎて人の目についても困るので、この辺で売られている薬よりちょっとだけ効果を高く、しかも、即効性を重視して作っています。ただ、少しだけの量しか売らないようにしようと思っているのは、さすがに言えませんねえ。
「どんなものがありますか?」
「薬として作った物と薬草を単に干した物があります」干した物にも微妙に薬効を増やしてあります。もちろん、魔法使いが見ればわかる程度にはしてありますので、不審な薬にならないようにしてます。
「ほうほう、明日にでも見せていただけますか」
「一般に売っている傷薬と、あと万能薬みたいな物ですよ。たいした物ではありません」
「いえいえ、薬というのは薬効が大事でして、高名な魔法使いが作った物は薬効もあらたかだそうです」
 商人さんは私の顔を見ながら言いました。もしかして、私が魔法使いであると疑っていますか? 
「私は残念ながら魔法使いではありませんので、そのような大それた物は作れません。ただ、薬の効果については私の故郷の秘伝を少しばかり教えられていますので、けっこう自信があります。一度使ってもらえればと思います」
”実家の秘伝”といえば納得させられると何かで読んでいましたので。
「それでしたらぜひ見せてください」
「では、明日にでも」
 そのような話をしながら私も肉料理をご相伴にあずかり、やはり香辛料は大事だなと痛感して馬車に戻ってきました。商人さん達はいろいろ手に入って良いですね。
 戻ってきてみると本当におなかをパンパンに膨らませて寝っ転がっているアンジー(きっとやけ食いですね。おなか出して寝るとおなか下しそうですが。)とその横でそれを眺めて座っているモーラがいた。
 モーラは私が近づいて横に座ると
「なんじゃもう戻ってきたのか。楽しめたのか?」
「いや、何を話して良いやら。あと、詮索されそうなので戻ってきましたよ」
「あっちはそのような野暮なことを聞いてくることはあるまい」
「でもですね。私のような者ではついぽろりと余計な事を言ってしまいそうで、」
「何を聞かれたのじゃ」
「薬の事を少々。薬の事はある程度想定していましたからうまくかわせましたけど、深く突っ込まれていたら魔法使いとばれていたかもしれませんね」
「商人ならば、他国で魔法使いが重宝されているのも知っておろう。大事ないのではないか」
「うまく魔法を使えませんので知られるのはちょっと嫌ですね。ですけど、モーラはモーラでいいようにやってもらって良いですよ。今回だってあそこで強行突破していたら不信感でこんな感じにはならなかったと思いますし」
「まあ、わしにも考えがあってな。しかし、あやつも演技がうまいのう」
「あの村では、最初の頃は、他人がいるとほとんどしゃべらずに暮らしていて、家を作って一緒に住むようになってようやく村の人と会話するようになったくらいで、どの程度話せるのか知りませんでしたねえ」
「体型の割に年齢はかなり上なのじゃろうなあ。まあ、わしほどではないじゃろうが」
「でしょうねえ、モーラおばあちゃん」
「愚弄するな。わしはドラゴンの中でも一番若い・・・」
「はいはい、結界は張ってありますが、あまり大きな声は出さないでくださいね。あと、そんなに怒ると血圧あがりますよ」
「なんじゃその頭の中の老婆のようなイメージは」
「あら、見られましたか。失敗失敗」
「おぬし!わざとじゃな、わざと見せたな」
 そう言って私の体をぽかぽか叩いてきても子どもの力では可愛いだけです。もっとも、全力出されたら吹っ飛びますけどね。
「おやすみなさい」
 軽い毛布を体に掛けて横になる。もちろんアンジーにはすでに毛布は掛けてあります。
「くっ、おやすみ」残念そうに毛布をかぶるモーラ
「う~ん髪の毛ベトベト~」
「ああ、アンジーの寝言か、確かにわしも脂っぽいのう。3人だけなら今日はお風呂の日だったはず。こりゃ失敗したかのう」
「いや、夕食ごちそうになっておいてそれはないでしょ。それに交替で見張りとかもしなくて済んでいますし」
「何じゃ起きていたのか。そこはそれ、これはこれじゃ。はよう寝るがよい」
「はいはい」

Appendix2-1
「不思議な人たちですねえ。あなたどう思います?」
「得体の知れない人は色々見てきたつもりですが、これほど得体の知れない家族は初めて見ますね」
「そうでしょうね。あの男もそうですが、予言する子と小さい方の子モーラと言いましたか。どう見ても見た目と精神年齢が違うようですねえ」
「やはりそう見えますよね。アンジーちゃんの方の予見は、間違いなさそうですが」
「予見と言うより厄除けなのではありませんか」
「守護者というところですかねえ。ならば大丈夫なのではありませんか」
「このまま一緒に旅を続けて良いと思いますか?」
「利害が一致している間は大丈夫だと思いますね」
「もう一日様子を見ましょうか」
「そうしましょう」


続く
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