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第18話 人柱ならぬ天使柱
第18-2話 天使様
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私、モーラ、アンジーとその子を乗せた、アのひく小さい方の馬車は、彼女の道案内で城に向かう。残りの5人は、ウンとクウがひく大きい馬車で城下町の観光もとい敵状視察に向かいました。
城塞都市の中央の一段高い城壁のところに城があり、そこで門番に来訪の目的を告げる。程なく衛兵が集まってきたので、馬車を降りて4人で中に入って行く。
兵士達は、どうして良いのかわからないのでとりあえず周りを囲んだまま、フェイの案内で玉座の間に到着し、王様の前に連れてこられた。
「母を見捨てて脱獄したのに帰ってきたのか。」
高い段の椅子の上から見下ろしながらその王は言った。
「母を見捨てたわけでも脱獄したわけではありません。」
この子は毅然とそう言った。
「ほう、どういう理由だ」
そこで、私が前に出てお辞儀をしながらこう言った。
「初めまして、彼女は、私の実験の失敗により飛ばされただけなのです。」
「どういうことだ。」
「彼女にお会いした時に記念として、特殊なペンダントを差し上げたのですが、彼女が運悪く引きちぎってしまい、発動したようなのです。」
「どのような魔法なのだ」
「はい、彼女と共にその周囲の物を飛ばすことができます。」
「それは転移魔法では無いか。おぬしもしや・・・」
「のう国王よ、」
モーラが前に出て尊大な態度で国王に口をきく
「そこの子ども、なにをえらそうに。わしはこ・・」
そう言いかけて、その国王は、モーラの後ろに巨大なドラゴンを見た。
「おまえ、天使を地下に縛り付けておるそうじゃな。」
「いったい何の話をしておる。」
「この娘から話は聞いた。おぬしには天罰がくだるぞ。」
「先代にも先々代にも何も起きておらんわ。」
「じゃあ今代で起きるな。」
そうしてモーラは、おどすつもりで少しだけ地面を揺らした。しかし、少しゆらしたはずが、揺れが収まらない。モーラも予想以上の揺れにびっくりしている。
「モーラ様おやめください。ここの地盤は緩いのです。少しの振動でも、共振して城が崩壊しかねません。」彼女が慌ててモーラを止めた。
「そうか。すまなかった。」
「さて、国王様、少しは肝が冷えたでしょう、私はこう見えて天使の代理なのよ。地下に投獄されている天使に会わせてもらえないかしら。」
今度はアンジーが強い口調で国王に言った。
「そんな者はおらぬ。」
「いいわ、勝手に探すから。」
そう言ってアンジーは、一瞬で光になり扉を通り抜けて飛んでいく。
「こっちです。」
その子は私とモーラの手を引いてその部屋を出ようと扉まで走りだす。
「こら、またぬか。衛兵!」
後ろから国王の声が聞こえたが無視して走る。
扉の前で私達を止めようとした衛兵をうまくかわして扉を開く。しかし、モーラは、かわした衛兵を蹴って、壁までふき飛ばした。余計なことはしないで欲しいのですが。
そうして、その子を道案内に地下に続く階段を降りていく。それもかなりの階段を降りて、広く大きな洞窟のようなところに到着した。そこは、天井がとても高い空間で、横に無数の穴があり、その一つにほんのり灯りがついている場所があった。その穴には、鉄格子がはめられ、両手を天井から吊り下げられて、置かれたベッドに座っている女の人がいた。その横には、アンジーが天使の姿になって立っていた。
「ルミア様」アンジーがそう呼ぶと。
「あらアンジー早かったわねえ」ルミア様と呼ばれた女性は顔を上げて微笑んだ。
「だいぶおやつれになって。」アンジーは、そばに寄ってしゃがんで顔を近づける。
「ここは陽も当たらないしね、しようがないわ。」
「あんた、なんとかして。」
近づいた私にアンジーは、振り向いてこう言った。そして、振り向いたアンジーは、涙を流している。私は、その鎖を破壊して腕と足が自由に動かせるようにした。
「いいのよアンジー。これは私の罪なのだから。」
「こんなことは、贖罪にはなりませんよ。わかってくださいルミア様」
「いいのそれでもいいのよアンジー」
「お母さん。」
ルミア様と呼ばれた女性はその声に視線を動かす。
「フェイまで来たの。お仕事はどうなの?」
その問いに戸惑うフェイ。私はすかさず
「彼女は、牢獄に手錠を掛けられて入れられていましたよ。」
私は、もしかしたら嘘をつくかもしれない親孝行娘を制して先に話してしまう
「あなたは、ああ、噂の魔法使いさんね。3千人の兵士を相手に戦ったという。」
「残念ながら戦ってはいません。もちろん人は誰も死んでいませんよ。」
「そうですか。それはよかった。人を殺してはいけませんよ。たとえ」
「たとえ自分が殺されても、ですよね」
涙を拭うでもなく泣き濡れたままの顔でアンジーは言った。
「そうよ。それが神の教えです。殺人は許されないのです。」
手かせの後をさすりながら、ベッドのそばに跪いているアンジーの頭を撫でながらそう言った。フェイもそれを見て反対側に膝をついて座った。
「彼は包丁を持っていただけ、そこに彼女が体を押し当て無理矢理押し込んだだけです。彼に殺す意思はなかった。それでも殺人ですか。」
アンジーが泣きながら叫んでいる。
「あなたとは、その話しを何百回と話しましたね。それでもやっぱりそれは殺人なのです。」
「そうでしたね。考えは変わりませんでしたね。」
「彼に殺す意思があろうと無かろうと、彼が持つ包丁で彼女は死んだのです。」
「彼が包丁を握っている手を彼女が上から握りしめそして彼女のおなかに誘導し、そのまま抱きしめたのですよ。腹に十分刺さってから。握った手を離し抱きしめ直したのですよ。」
「それでも彼が逃げずに包丁を持っていたのです。ねえ、アンジーこの話はもうやめましょう。彼を救うことはもうできないのですから。あなたのその気持ちが彼を救いました。もうその事にこだわるのはやめてください。」
「うぁああああああああああ」
アンジーが泣き崩れた。モーラがそのそばに行き、やさしくその肩を抱いている。
「あなた、名も無き魔法使いさん。ありがとう娘に会わせてくれて。最近会えなくて寂しかったの。フェイ、顔を見せて。」
「はい、お母さん」そうして母と子でお互い見つめ合っていた。
しばらくしてから私は言った。
「ここの土地を崩落させないであなたを解放する方法は何かないのでしょうか。」
「私は豊穣の天使でしかありません。残念ながらこの土地のことはよくわかりません。」
「そうですか。モーラわかりますか。」
「ここからではなんとも言えん。元々ここはどのドラゴンの縄張りなんじゃ?」
「草木のドラゴンさんです。」
「じゃが奴は、ここを放置しているのだろう。」
「それは、仕方の無いことらしいですよ。」
「そうか、わしが会って聞いてみなければわからないな。」
「ぜひお願いします。」
そう言って私は、モーラの横に近づき、モーラの肩を強く握った。
大勢の人が階段を降りてくる音が聞こえた。ああ、来てしまいましたか。
「とりあえず、この子と絆をつないでください。」
「この土地の中であれば何もする必要はありません。」そう言ってその母と子は、同時に頷いた。
「わかりました。一度ここを離れます。アンジー立てますか。」
「は・・・い」
泣き崩れた時から少女の姿に戻っていましたが、憔悴しきった顔をしています。私は、アンジーを背負う。
そして、ついに衛兵達が近くまで到着してしまいました。
「ここで暴れるつもりはありませんよ、城まで壊して天使様まで潰してしまっては元も子もないので。」
そうして、私たちは、地下の洞窟から再び国王の前に連れて行かれる。アンジーも自分で立てると言い、背中からおりた。
「そもそもここに来た理由は、あの子が渡したペンダントを誤って作動させて私のところに来てしまったので、あの子が帰りたいというので連れてきただけです。あの子からつながれている母である天使様がいると聞いたので、お会いするために来ただけなんですよ。あの子に何があったとしても私には、関係ありません。それだけは、話しておきます。」
何も答えない王様。
「ただですねえ、地下の天使様とあの子の置かれている状況を見てしまいましたら、このまま放置するのはどうかと思い直しましてね、天使様とあの子を何とかしたいと。この国から解放したいと思うようにはなりました。」
アンジーがちょっとうれしそうです。でもすぐ悲しそうな顔に戻りました。
「とりあえず、一度戻りますので、また来ます。その時まで、あの子は牢獄に戻さず、できれば、地下の天使様と同じあの牢獄で一緒にしていて欲しいのです。もっとも一緒にしなかったら、さきほどよりもっとひどい天罰がたぶんおりますよ。それでは、」
私は、モーラとアンジーの手を引いてその部屋から出ようとした。しかし衛兵にとめられ、私は、衛兵達を手を使わずに風で飛ばして、その部屋をでて、振り返り、風の力で扉を閉めました。そこで不可視化の魔法で消えて、急いで城から逃げ出しました。
「あの子を残してきて良かったの?」
アンジーが心配そうだ。
「様子を見て何かするようなら考えます。とりあえず、彼女の服を濡らしておきましたから、何かあれば見ることが出来ます。」
「ああ、ドラゴンの儀式の時に使ったあれね」
「はい、大丈夫だと思いたいですねえ。」
そして私達は、誰にも気付かれることなく、馬車を置いてある場所まで行き、馬車も不可視化してからその城を出ました。しばらくしてから不可視化の魔法を解き、残してきたみんなと合流するために城下町を馬で進んでいます。
「わしは、ちょっと用事がある。草木の奴に会いにいってくるわ」
「そうですか、草木の方によろしくお伝えください。」
「まあ、やさしいあいつが人間を滅ぼす側に回っていた理由がこの辺にあるのだろうが、あいつはどんなことにも真面目じゃからなあ。」
「理由を聞けなくても、モーラが話しをするだけでもだいぶいいのではないかと思います。」と私は言いました。
「わかった、話してみるわ」
モーラはそう言って動いている馬車から飛び降り、消えた。
「ドラゴンが人にここまでの事をするというのは、一体何が起きていたのかしら。」
「そうですね、何しろ人間のすることですから。」
「そうね。人だものね。」
モーラは、子どもの姿のまま不可視化して空に飛び上がり、ドラゴンに変化した。不可視化のまま、モーラは叫んだ。
「この地を縄張りとする草木のドラゴン。わしが縄張りを越えてここにいるのはわかっているじゃろう。姿を現さぬか。」
その声は、風を震わせる雄叫びのよう。地面からはかなりの高さがあり、地上には聞こえていない。
「おまえが縄張りを荒らすとは思えないが、ここに来たのは何か理由があるんだろう。だったら、好きにすればいい。ただ、見てはいる。それにやり過ぎるようなら止める。」
「話がある。わしは地上に降りるから姿を現さぬか。」
モーラは、少女の姿になり山あいの森の中の広場のようなところに降り立つ。
「ああいいよ。」
その言葉とほとんど同時に草木のドラゴンが空中に現れ人の姿になり、モーラの横に立つ。
その姿は、黒髪の長髪、目が隠れてよく見えない。細身の男だった。
「そう言う姿だったか。雰囲気が違うが何かあったか?」
「姿を作る時に気分が反映するから今はどうしてもこんな感じだよ」
「そうなのか」
「さて、話したいことは大体わかるよ。でも手は出せない」
「ここは、おぬしの縄張りなのじゃろう。」
「ああ、そうだよ」
「ならば・・・」
「それは、してはだめなんだよ。」
「なんでじゃ、」
「これは、人間に課せられた罪、償わなければならない贖罪なんだよ、だから手を出してはいけないんだ。」
「お前は手を出してはいないが、人間達は、天使を地下につないでその罪をしのごうとしていて、おぬしはそれを見て見ぬ振りをしている。手伝っているのと同じであろう」
「あの天使の行動を見逃しているだけさ」
「同じではないか」
「俺もこんな状態のままの土地なんて嫌だから手を出したいんだ、草や木が正しく育っていくようにしたいんだ。でもな、人族が自分の暮らす土地でこれだけ広範囲に渡ってやらかしてしまってはね。」
「おぬしの領地じゃぞ。」
「だからだよ。私が手を出して、元通りにしてしまうとそこに住んでいる人族にとって、それが当たり前になってしまうんだ。」
「ああ、そうか。確かにそうだな。」
「わかってくれ。」
「それはしかたがないことだな。じゃがわしのところの名もない魔法使いが何とかしようとするじゃろう。それは問題ないか」
「ああ、人と人との問題には干渉しないつもりさ。」
「それは、城の地下につながれている天使についても同様にしてよいか。もっともそれによっておぬしの縄張りの土地が崩れたりすることがあるかもしれないが。」
「それは、お前の領分だろうさ。お前は、土地を汚したり、使えなくしたりすることを最も嫌うのだから、お前がそばにいて見守って人が何かするのならきっと大丈夫だと思っているよ。」
「そうか」
「ああ、土がなければ草木は成り立たない。草木がなければ土はいずれ風化してそこにあり続けられない。そうだろう?」
「そうじゃな。まあ、あやつがやり過ぎるようだったらお主も登場してもらってかまわない。やり過ぎだと忠告してくれぬか。」
「わかったそうするよ。」
「うむ、話せて良かったわ」
「ああ、俺もさ、そうそう、前回会った時にも言ったけど。エルフの森の件はありがとうな。」
「なんじゃ今更」
「さらにこんな事まで関わらせてすまん」
「いや、わしもあやつについてきただけじゃからなあ。では、あやつらのところに戻るわ」
「ああ、またな」
そうして、2人は別れて飛び去った。
私達は、残るみんなと合流して、馬を預け、街の中の露天商の並ぶ通りの串焼きの店先のテーブルに座っていた。そこにモーラが戻ってくる。串焼きをメアに渡されてそれを食べ始める。
「ドラゴン同士のお話し合いは終わりましたか。」
「ああ、とりあえず終わった。あいつは、事情があるから手は出さないということらしい。」
「では私は私なりに手を出させていただきます。」
「ああ、それについては了解を得た。わしの力を使って土地を復活させるか?」
「いえ、あの親子が幸せに暮らせるようにするだけです。私は国が誰かを犠牲にして幸せを享受しているのが許せないのです。」
「そっちだけなんじゃな」
「人のしでかしたことなら人が解決するべきです。天使を使ってとかありえませんよ」
「まあ、そうじゃな。」
翌日、私はアンジーとモーラとともに再び城門の前に立った。
「国王に謁見をお願いします。」
昨日の騒動を知っているのか、簡単に国王の前に連れて行かれた。
「昨日も来たが、いったいお主は誰じゃ」
「私は、あなたが探している魔法使いです。」
「やはりか。たったひとりで3千人の兵士を相手にしたという噂の」
「はい、彼女はそのことを知らずに私に会ったのです。私の作ったゲームを無事クリアしたので、記念にペンダントの渡したのですが、そのペンダントのせいでこうした事態になりましたので、お詫びをしに参りました。」
「どう詫びるというのだ。」
「その壊した牢屋を直しにきました。」
「それですむと思うのか」
「それ以外に何がありますか?何か不利益を被りましたか?」
「・・・・」
「そうでしょうねえ。さて、その牢獄については、補修をしましょう。場所はどこですか?」
「昨日は、天使についても何か話をしていたようだが。」
「それについては、もう一度天使様にお会いしてから考えたいと思います。」
「一体何をするというのだ。」
「まだ、何も考えてはいません。しかし、私を止めますか?」
「・・・いや、止めてもどうなるものでもなかろう。三千人を破ったのだから」
「実際に誰かが見ていたわけではないのですか?」
「ああ、見た者はこの国にはいない。」
「そういうことですか。」
「何が言いたい?」
「私は、3千人を殺したことになっているのでしょうか?」
「いや、囲んでいた魔法使いをすべて殺し、残りの兵士の士気をさげて、指揮官である勇者の姫の側近を倒し、敗走させたと。違うのか?」
「なるほど、微妙に事実ですね。わかりました。では、私に手を出せば当然何か起きると考えていますよね。」
「そうだ、現に今、手を出しあぐねている。」
「わかりました。まず私は、牢獄を補修しましょう。」
「そんなことまでするのか。」
「私のせいで壊れたのですから、私が直すのがスジでしょう?」
「確かにな。」
「では補修をしに行きましょう。」
「ああ、わしが代わりに修理しよう。」
「やはりドラゴンを使役しているのか。」
「使役はしていません。お願いはしますがね。」
「おなじことであろう」
「全然違いますよ。そこの兵士さん。壊れた牢屋はどこですか?連れて行ってください。ああ、アンジーさん先に地下の牢獄へ行っていてください。」アンジーは頷くとそこから部屋を出る。
「天使まで味方にしているのか」
「念のため言っておきますが、私の家族ですからね。」
私はそう言い捨てて、モーラと共に兵士に連れられて牢屋へと向かう。
そこには、すでに修理が始められている牢屋があった。
「ああ、そこの者達、後はわしがやるから。帰っていいぞ。」
モーラはそう言うとその牢屋の壁に手を当てて、削られて穴の空いた壁を一瞬で塞いでしまう。
「やはりモーラはすごいですねえ。」
「こんなことは、児戯に等しいわ。さて、わしらの用は済んだ。そこの兵士、国王に報告してくれ、わしらは、このまま地下の牢獄へ向かうとな。ああ、何もせんが、心配なら誰か呼んでわしらを監視するがよい。」
そう言ってモーラは、私を連れて地下の牢獄に向かう。
地下の牢獄には、親子でベッドに仲良く座っていて、アンジーがそばに居た。
「この地下深くにつながれたのは、わざとですよね。」
「あなたは聡いからわかってしまうのね。天界の目を逃れるためでもあったのよ」
「それで、こんなにやつれて。おいたわしい。」そう言ってアンジーは、涙をぽろぽろと流している。まるで少女が母の事を想うように。
「触れてはいけません。」
「わたしは、堕天しています。しかし、天使の力はまだあります。その力を少しですが分けさせてください。」
「アンジーは、やさしいわね。」
「見ていられないだけです。」
「アンジー様ありがとうございます。私の母のために。」
「あなたもできるわよ。ほらこうして。」
「ああ、そうなんですね。私はお母さんの力をちゃんと継いでいたのですね。」
「ああ、フェイありがとう。あなたはあまり無理しないでね。いきなり力を使っては、体調を崩します。そして、寿命もほんの少しだけれど削られてしまいます。」
「大丈夫です。頑張ります。」
「無理しないでね。練習のつもりで少しだけよ。」
そんな会話をしていると、モーラに手を引かれた私が到着する。
私には、母親の膝元にいる2人の子どもに、まるで3人とも家族のように見えました。
「アンジー、私の用事は終わりましたよ。ちゃんと牢屋を修理してきました。もっともモーラにやってもらいましたけど。」
「そうなのね、では用事は済んだと」
「私の用事は終わったのですが、アンジーの用事が新たにできたようですね。」
「まあ、そうなのよ。お願いしてもいいかしら。」
私は、3人に近づくと膝をついて目線を合わせてからこう言った。
「あなたは寂しくないのですか。実の子と暮らせなくて」
「それは、しかたのないことです。私は天使ですから。一緒に暮らせなくてもこの子とはつながっております。そして、夫との約束もあります。」
「お母さん」手を握り合う2人。
「その約束は、この子が死ぬまでかこの子がこの地を離れるまでのどちらかということでいいのでしょうか。」
「確かに夫とは、この子が里から出る時までと約束しています。ただし、この子が先に死んでしまった場合は、旅だったと同じですから天に戻ります。」
「里の方の土地はあなたが離れても問題は無いんですね。」
「ええ、あの里の土地はもう私の力を必要とはしていません。すでに、私の力など必要がないほど元に戻っていたのです。それでもあの人との約束もあり力を与え続け、豊かになりすぎてしまい、このようなことになってしまいました。」
「そうだったのですね。」
私は、少し考えた後、こう言いました。
「状況はわかりました。数日の後にまた会いに来ます。それまでにお二人の扱いが悪くなるようなら、すぐにでも乗り込みますが、とりあえず我慢していてください。」
「何をなさるつもりですか。」
心配そうにフェイの方が見上げてくる。
「あなた達が短い間だけでも一緒にいられるようにしたいのですが、それではだめですか?」
「それは、わかっていたことです。いつかは来るであろう事を。そして、その時は近いことも気付いておりました。」
ルミア様は、覚悟を決めた表情で私を見つめる。その顔に何かを感じたのかフェイが不安げに母親の顔を見上げる。
「お母さん。」
「あなたも気付いていたでしょう?その時が近いことを。私が天界に還る日が近いことも。」
「は・・・い」
フェイは叱られた子どものように頭をうなだれた。
「あなたとさようならを言わずに消えてしまうのは、私もいやです。」
「私は別れたくないです。でも、このような姿でお母さんをやつれさせるのは、やっぱりつらい。」
「のう、名も無き魔法使いよ。この親子の決心はついたようだ。どうするつもりじゃ」
「これから考えます。まず、お二人は一緒にいてください。本当はこの状態でも幸せなのでしょうが、この国が崩壊したのでは、無くなった旦那さんに申し訳が立ちませんからねえ。」
「あんた・・・」
「アンジー、とりあえず宿に戻って考えましょう。こういうことは、急いではいけません。パム達がなにかつかんでいるかもしれませんし。」
「わかったわ、ルミア様、フェイ。私たちは、一度宿に戻ります。予感していることがあるなら、ある程度自分たちの採るべき方法を考えていてね。」
そうして、私たちは地下の牢獄を出て、城を出た。兵士には、国王にしばらく宿に滞在していること、また天使様に会いに行くことを伝えてくれと言っておいた。追いかけられもせずに城を出ることが出来た。
続く
城塞都市の中央の一段高い城壁のところに城があり、そこで門番に来訪の目的を告げる。程なく衛兵が集まってきたので、馬車を降りて4人で中に入って行く。
兵士達は、どうして良いのかわからないのでとりあえず周りを囲んだまま、フェイの案内で玉座の間に到着し、王様の前に連れてこられた。
「母を見捨てて脱獄したのに帰ってきたのか。」
高い段の椅子の上から見下ろしながらその王は言った。
「母を見捨てたわけでも脱獄したわけではありません。」
この子は毅然とそう言った。
「ほう、どういう理由だ」
そこで、私が前に出てお辞儀をしながらこう言った。
「初めまして、彼女は、私の実験の失敗により飛ばされただけなのです。」
「どういうことだ。」
「彼女にお会いした時に記念として、特殊なペンダントを差し上げたのですが、彼女が運悪く引きちぎってしまい、発動したようなのです。」
「どのような魔法なのだ」
「はい、彼女と共にその周囲の物を飛ばすことができます。」
「それは転移魔法では無いか。おぬしもしや・・・」
「のう国王よ、」
モーラが前に出て尊大な態度で国王に口をきく
「そこの子ども、なにをえらそうに。わしはこ・・」
そう言いかけて、その国王は、モーラの後ろに巨大なドラゴンを見た。
「おまえ、天使を地下に縛り付けておるそうじゃな。」
「いったい何の話をしておる。」
「この娘から話は聞いた。おぬしには天罰がくだるぞ。」
「先代にも先々代にも何も起きておらんわ。」
「じゃあ今代で起きるな。」
そうしてモーラは、おどすつもりで少しだけ地面を揺らした。しかし、少しゆらしたはずが、揺れが収まらない。モーラも予想以上の揺れにびっくりしている。
「モーラ様おやめください。ここの地盤は緩いのです。少しの振動でも、共振して城が崩壊しかねません。」彼女が慌ててモーラを止めた。
「そうか。すまなかった。」
「さて、国王様、少しは肝が冷えたでしょう、私はこう見えて天使の代理なのよ。地下に投獄されている天使に会わせてもらえないかしら。」
今度はアンジーが強い口調で国王に言った。
「そんな者はおらぬ。」
「いいわ、勝手に探すから。」
そう言ってアンジーは、一瞬で光になり扉を通り抜けて飛んでいく。
「こっちです。」
その子は私とモーラの手を引いてその部屋を出ようと扉まで走りだす。
「こら、またぬか。衛兵!」
後ろから国王の声が聞こえたが無視して走る。
扉の前で私達を止めようとした衛兵をうまくかわして扉を開く。しかし、モーラは、かわした衛兵を蹴って、壁までふき飛ばした。余計なことはしないで欲しいのですが。
そうして、その子を道案内に地下に続く階段を降りていく。それもかなりの階段を降りて、広く大きな洞窟のようなところに到着した。そこは、天井がとても高い空間で、横に無数の穴があり、その一つにほんのり灯りがついている場所があった。その穴には、鉄格子がはめられ、両手を天井から吊り下げられて、置かれたベッドに座っている女の人がいた。その横には、アンジーが天使の姿になって立っていた。
「ルミア様」アンジーがそう呼ぶと。
「あらアンジー早かったわねえ」ルミア様と呼ばれた女性は顔を上げて微笑んだ。
「だいぶおやつれになって。」アンジーは、そばに寄ってしゃがんで顔を近づける。
「ここは陽も当たらないしね、しようがないわ。」
「あんた、なんとかして。」
近づいた私にアンジーは、振り向いてこう言った。そして、振り向いたアンジーは、涙を流している。私は、その鎖を破壊して腕と足が自由に動かせるようにした。
「いいのよアンジー。これは私の罪なのだから。」
「こんなことは、贖罪にはなりませんよ。わかってくださいルミア様」
「いいのそれでもいいのよアンジー」
「お母さん。」
ルミア様と呼ばれた女性はその声に視線を動かす。
「フェイまで来たの。お仕事はどうなの?」
その問いに戸惑うフェイ。私はすかさず
「彼女は、牢獄に手錠を掛けられて入れられていましたよ。」
私は、もしかしたら嘘をつくかもしれない親孝行娘を制して先に話してしまう
「あなたは、ああ、噂の魔法使いさんね。3千人の兵士を相手に戦ったという。」
「残念ながら戦ってはいません。もちろん人は誰も死んでいませんよ。」
「そうですか。それはよかった。人を殺してはいけませんよ。たとえ」
「たとえ自分が殺されても、ですよね」
涙を拭うでもなく泣き濡れたままの顔でアンジーは言った。
「そうよ。それが神の教えです。殺人は許されないのです。」
手かせの後をさすりながら、ベッドのそばに跪いているアンジーの頭を撫でながらそう言った。フェイもそれを見て反対側に膝をついて座った。
「彼は包丁を持っていただけ、そこに彼女が体を押し当て無理矢理押し込んだだけです。彼に殺す意思はなかった。それでも殺人ですか。」
アンジーが泣きながら叫んでいる。
「あなたとは、その話しを何百回と話しましたね。それでもやっぱりそれは殺人なのです。」
「そうでしたね。考えは変わりませんでしたね。」
「彼に殺す意思があろうと無かろうと、彼が持つ包丁で彼女は死んだのです。」
「彼が包丁を握っている手を彼女が上から握りしめそして彼女のおなかに誘導し、そのまま抱きしめたのですよ。腹に十分刺さってから。握った手を離し抱きしめ直したのですよ。」
「それでも彼が逃げずに包丁を持っていたのです。ねえ、アンジーこの話はもうやめましょう。彼を救うことはもうできないのですから。あなたのその気持ちが彼を救いました。もうその事にこだわるのはやめてください。」
「うぁああああああああああ」
アンジーが泣き崩れた。モーラがそのそばに行き、やさしくその肩を抱いている。
「あなた、名も無き魔法使いさん。ありがとう娘に会わせてくれて。最近会えなくて寂しかったの。フェイ、顔を見せて。」
「はい、お母さん」そうして母と子でお互い見つめ合っていた。
しばらくしてから私は言った。
「ここの土地を崩落させないであなたを解放する方法は何かないのでしょうか。」
「私は豊穣の天使でしかありません。残念ながらこの土地のことはよくわかりません。」
「そうですか。モーラわかりますか。」
「ここからではなんとも言えん。元々ここはどのドラゴンの縄張りなんじゃ?」
「草木のドラゴンさんです。」
「じゃが奴は、ここを放置しているのだろう。」
「それは、仕方の無いことらしいですよ。」
「そうか、わしが会って聞いてみなければわからないな。」
「ぜひお願いします。」
そう言って私は、モーラの横に近づき、モーラの肩を強く握った。
大勢の人が階段を降りてくる音が聞こえた。ああ、来てしまいましたか。
「とりあえず、この子と絆をつないでください。」
「この土地の中であれば何もする必要はありません。」そう言ってその母と子は、同時に頷いた。
「わかりました。一度ここを離れます。アンジー立てますか。」
「は・・・い」
泣き崩れた時から少女の姿に戻っていましたが、憔悴しきった顔をしています。私は、アンジーを背負う。
そして、ついに衛兵達が近くまで到着してしまいました。
「ここで暴れるつもりはありませんよ、城まで壊して天使様まで潰してしまっては元も子もないので。」
そうして、私たちは、地下の洞窟から再び国王の前に連れて行かれる。アンジーも自分で立てると言い、背中からおりた。
「そもそもここに来た理由は、あの子が渡したペンダントを誤って作動させて私のところに来てしまったので、あの子が帰りたいというので連れてきただけです。あの子からつながれている母である天使様がいると聞いたので、お会いするために来ただけなんですよ。あの子に何があったとしても私には、関係ありません。それだけは、話しておきます。」
何も答えない王様。
「ただですねえ、地下の天使様とあの子の置かれている状況を見てしまいましたら、このまま放置するのはどうかと思い直しましてね、天使様とあの子を何とかしたいと。この国から解放したいと思うようにはなりました。」
アンジーがちょっとうれしそうです。でもすぐ悲しそうな顔に戻りました。
「とりあえず、一度戻りますので、また来ます。その時まで、あの子は牢獄に戻さず、できれば、地下の天使様と同じあの牢獄で一緒にしていて欲しいのです。もっとも一緒にしなかったら、さきほどよりもっとひどい天罰がたぶんおりますよ。それでは、」
私は、モーラとアンジーの手を引いてその部屋から出ようとした。しかし衛兵にとめられ、私は、衛兵達を手を使わずに風で飛ばして、その部屋をでて、振り返り、風の力で扉を閉めました。そこで不可視化の魔法で消えて、急いで城から逃げ出しました。
「あの子を残してきて良かったの?」
アンジーが心配そうだ。
「様子を見て何かするようなら考えます。とりあえず、彼女の服を濡らしておきましたから、何かあれば見ることが出来ます。」
「ああ、ドラゴンの儀式の時に使ったあれね」
「はい、大丈夫だと思いたいですねえ。」
そして私達は、誰にも気付かれることなく、馬車を置いてある場所まで行き、馬車も不可視化してからその城を出ました。しばらくしてから不可視化の魔法を解き、残してきたみんなと合流するために城下町を馬で進んでいます。
「わしは、ちょっと用事がある。草木の奴に会いにいってくるわ」
「そうですか、草木の方によろしくお伝えください。」
「まあ、やさしいあいつが人間を滅ぼす側に回っていた理由がこの辺にあるのだろうが、あいつはどんなことにも真面目じゃからなあ。」
「理由を聞けなくても、モーラが話しをするだけでもだいぶいいのではないかと思います。」と私は言いました。
「わかった、話してみるわ」
モーラはそう言って動いている馬車から飛び降り、消えた。
「ドラゴンが人にここまでの事をするというのは、一体何が起きていたのかしら。」
「そうですね、何しろ人間のすることですから。」
「そうね。人だものね。」
モーラは、子どもの姿のまま不可視化して空に飛び上がり、ドラゴンに変化した。不可視化のまま、モーラは叫んだ。
「この地を縄張りとする草木のドラゴン。わしが縄張りを越えてここにいるのはわかっているじゃろう。姿を現さぬか。」
その声は、風を震わせる雄叫びのよう。地面からはかなりの高さがあり、地上には聞こえていない。
「おまえが縄張りを荒らすとは思えないが、ここに来たのは何か理由があるんだろう。だったら、好きにすればいい。ただ、見てはいる。それにやり過ぎるようなら止める。」
「話がある。わしは地上に降りるから姿を現さぬか。」
モーラは、少女の姿になり山あいの森の中の広場のようなところに降り立つ。
「ああいいよ。」
その言葉とほとんど同時に草木のドラゴンが空中に現れ人の姿になり、モーラの横に立つ。
その姿は、黒髪の長髪、目が隠れてよく見えない。細身の男だった。
「そう言う姿だったか。雰囲気が違うが何かあったか?」
「姿を作る時に気分が反映するから今はどうしてもこんな感じだよ」
「そうなのか」
「さて、話したいことは大体わかるよ。でも手は出せない」
「ここは、おぬしの縄張りなのじゃろう。」
「ああ、そうだよ」
「ならば・・・」
「それは、してはだめなんだよ。」
「なんでじゃ、」
「これは、人間に課せられた罪、償わなければならない贖罪なんだよ、だから手を出してはいけないんだ。」
「お前は手を出してはいないが、人間達は、天使を地下につないでその罪をしのごうとしていて、おぬしはそれを見て見ぬ振りをしている。手伝っているのと同じであろう」
「あの天使の行動を見逃しているだけさ」
「同じではないか」
「俺もこんな状態のままの土地なんて嫌だから手を出したいんだ、草や木が正しく育っていくようにしたいんだ。でもな、人族が自分の暮らす土地でこれだけ広範囲に渡ってやらかしてしまってはね。」
「おぬしの領地じゃぞ。」
「だからだよ。私が手を出して、元通りにしてしまうとそこに住んでいる人族にとって、それが当たり前になってしまうんだ。」
「ああ、そうか。確かにそうだな。」
「わかってくれ。」
「それはしかたがないことだな。じゃがわしのところの名もない魔法使いが何とかしようとするじゃろう。それは問題ないか」
「ああ、人と人との問題には干渉しないつもりさ。」
「それは、城の地下につながれている天使についても同様にしてよいか。もっともそれによっておぬしの縄張りの土地が崩れたりすることがあるかもしれないが。」
「それは、お前の領分だろうさ。お前は、土地を汚したり、使えなくしたりすることを最も嫌うのだから、お前がそばにいて見守って人が何かするのならきっと大丈夫だと思っているよ。」
「そうか」
「ああ、土がなければ草木は成り立たない。草木がなければ土はいずれ風化してそこにあり続けられない。そうだろう?」
「そうじゃな。まあ、あやつがやり過ぎるようだったらお主も登場してもらってかまわない。やり過ぎだと忠告してくれぬか。」
「わかったそうするよ。」
「うむ、話せて良かったわ」
「ああ、俺もさ、そうそう、前回会った時にも言ったけど。エルフの森の件はありがとうな。」
「なんじゃ今更」
「さらにこんな事まで関わらせてすまん」
「いや、わしもあやつについてきただけじゃからなあ。では、あやつらのところに戻るわ」
「ああ、またな」
そうして、2人は別れて飛び去った。
私達は、残るみんなと合流して、馬を預け、街の中の露天商の並ぶ通りの串焼きの店先のテーブルに座っていた。そこにモーラが戻ってくる。串焼きをメアに渡されてそれを食べ始める。
「ドラゴン同士のお話し合いは終わりましたか。」
「ああ、とりあえず終わった。あいつは、事情があるから手は出さないということらしい。」
「では私は私なりに手を出させていただきます。」
「ああ、それについては了解を得た。わしの力を使って土地を復活させるか?」
「いえ、あの親子が幸せに暮らせるようにするだけです。私は国が誰かを犠牲にして幸せを享受しているのが許せないのです。」
「そっちだけなんじゃな」
「人のしでかしたことなら人が解決するべきです。天使を使ってとかありえませんよ」
「まあ、そうじゃな。」
翌日、私はアンジーとモーラとともに再び城門の前に立った。
「国王に謁見をお願いします。」
昨日の騒動を知っているのか、簡単に国王の前に連れて行かれた。
「昨日も来たが、いったいお主は誰じゃ」
「私は、あなたが探している魔法使いです。」
「やはりか。たったひとりで3千人の兵士を相手にしたという噂の」
「はい、彼女はそのことを知らずに私に会ったのです。私の作ったゲームを無事クリアしたので、記念にペンダントの渡したのですが、そのペンダントのせいでこうした事態になりましたので、お詫びをしに参りました。」
「どう詫びるというのだ。」
「その壊した牢屋を直しにきました。」
「それですむと思うのか」
「それ以外に何がありますか?何か不利益を被りましたか?」
「・・・・」
「そうでしょうねえ。さて、その牢獄については、補修をしましょう。場所はどこですか?」
「昨日は、天使についても何か話をしていたようだが。」
「それについては、もう一度天使様にお会いしてから考えたいと思います。」
「一体何をするというのだ。」
「まだ、何も考えてはいません。しかし、私を止めますか?」
「・・・いや、止めてもどうなるものでもなかろう。三千人を破ったのだから」
「実際に誰かが見ていたわけではないのですか?」
「ああ、見た者はこの国にはいない。」
「そういうことですか。」
「何が言いたい?」
「私は、3千人を殺したことになっているのでしょうか?」
「いや、囲んでいた魔法使いをすべて殺し、残りの兵士の士気をさげて、指揮官である勇者の姫の側近を倒し、敗走させたと。違うのか?」
「なるほど、微妙に事実ですね。わかりました。では、私に手を出せば当然何か起きると考えていますよね。」
「そうだ、現に今、手を出しあぐねている。」
「わかりました。まず私は、牢獄を補修しましょう。」
「そんなことまでするのか。」
「私のせいで壊れたのですから、私が直すのがスジでしょう?」
「確かにな。」
「では補修をしに行きましょう。」
「ああ、わしが代わりに修理しよう。」
「やはりドラゴンを使役しているのか。」
「使役はしていません。お願いはしますがね。」
「おなじことであろう」
「全然違いますよ。そこの兵士さん。壊れた牢屋はどこですか?連れて行ってください。ああ、アンジーさん先に地下の牢獄へ行っていてください。」アンジーは頷くとそこから部屋を出る。
「天使まで味方にしているのか」
「念のため言っておきますが、私の家族ですからね。」
私はそう言い捨てて、モーラと共に兵士に連れられて牢屋へと向かう。
そこには、すでに修理が始められている牢屋があった。
「ああ、そこの者達、後はわしがやるから。帰っていいぞ。」
モーラはそう言うとその牢屋の壁に手を当てて、削られて穴の空いた壁を一瞬で塞いでしまう。
「やはりモーラはすごいですねえ。」
「こんなことは、児戯に等しいわ。さて、わしらの用は済んだ。そこの兵士、国王に報告してくれ、わしらは、このまま地下の牢獄へ向かうとな。ああ、何もせんが、心配なら誰か呼んでわしらを監視するがよい。」
そう言ってモーラは、私を連れて地下の牢獄に向かう。
地下の牢獄には、親子でベッドに仲良く座っていて、アンジーがそばに居た。
「この地下深くにつながれたのは、わざとですよね。」
「あなたは聡いからわかってしまうのね。天界の目を逃れるためでもあったのよ」
「それで、こんなにやつれて。おいたわしい。」そう言ってアンジーは、涙をぽろぽろと流している。まるで少女が母の事を想うように。
「触れてはいけません。」
「わたしは、堕天しています。しかし、天使の力はまだあります。その力を少しですが分けさせてください。」
「アンジーは、やさしいわね。」
「見ていられないだけです。」
「アンジー様ありがとうございます。私の母のために。」
「あなたもできるわよ。ほらこうして。」
「ああ、そうなんですね。私はお母さんの力をちゃんと継いでいたのですね。」
「ああ、フェイありがとう。あなたはあまり無理しないでね。いきなり力を使っては、体調を崩します。そして、寿命もほんの少しだけれど削られてしまいます。」
「大丈夫です。頑張ります。」
「無理しないでね。練習のつもりで少しだけよ。」
そんな会話をしていると、モーラに手を引かれた私が到着する。
私には、母親の膝元にいる2人の子どもに、まるで3人とも家族のように見えました。
「アンジー、私の用事は終わりましたよ。ちゃんと牢屋を修理してきました。もっともモーラにやってもらいましたけど。」
「そうなのね、では用事は済んだと」
「私の用事は終わったのですが、アンジーの用事が新たにできたようですね。」
「まあ、そうなのよ。お願いしてもいいかしら。」
私は、3人に近づくと膝をついて目線を合わせてからこう言った。
「あなたは寂しくないのですか。実の子と暮らせなくて」
「それは、しかたのないことです。私は天使ですから。一緒に暮らせなくてもこの子とはつながっております。そして、夫との約束もあります。」
「お母さん」手を握り合う2人。
「その約束は、この子が死ぬまでかこの子がこの地を離れるまでのどちらかということでいいのでしょうか。」
「確かに夫とは、この子が里から出る時までと約束しています。ただし、この子が先に死んでしまった場合は、旅だったと同じですから天に戻ります。」
「里の方の土地はあなたが離れても問題は無いんですね。」
「ええ、あの里の土地はもう私の力を必要とはしていません。すでに、私の力など必要がないほど元に戻っていたのです。それでもあの人との約束もあり力を与え続け、豊かになりすぎてしまい、このようなことになってしまいました。」
「そうだったのですね。」
私は、少し考えた後、こう言いました。
「状況はわかりました。数日の後にまた会いに来ます。それまでにお二人の扱いが悪くなるようなら、すぐにでも乗り込みますが、とりあえず我慢していてください。」
「何をなさるつもりですか。」
心配そうにフェイの方が見上げてくる。
「あなた達が短い間だけでも一緒にいられるようにしたいのですが、それではだめですか?」
「それは、わかっていたことです。いつかは来るであろう事を。そして、その時は近いことも気付いておりました。」
ルミア様は、覚悟を決めた表情で私を見つめる。その顔に何かを感じたのかフェイが不安げに母親の顔を見上げる。
「お母さん。」
「あなたも気付いていたでしょう?その時が近いことを。私が天界に還る日が近いことも。」
「は・・・い」
フェイは叱られた子どものように頭をうなだれた。
「あなたとさようならを言わずに消えてしまうのは、私もいやです。」
「私は別れたくないです。でも、このような姿でお母さんをやつれさせるのは、やっぱりつらい。」
「のう、名も無き魔法使いよ。この親子の決心はついたようだ。どうするつもりじゃ」
「これから考えます。まず、お二人は一緒にいてください。本当はこの状態でも幸せなのでしょうが、この国が崩壊したのでは、無くなった旦那さんに申し訳が立ちませんからねえ。」
「あんた・・・」
「アンジー、とりあえず宿に戻って考えましょう。こういうことは、急いではいけません。パム達がなにかつかんでいるかもしれませんし。」
「わかったわ、ルミア様、フェイ。私たちは、一度宿に戻ります。予感していることがあるなら、ある程度自分たちの採るべき方法を考えていてね。」
そうして、私たちは地下の牢獄を出て、城を出た。兵士には、国王にしばらく宿に滞在していること、また天使様に会いに行くことを伝えてくれと言っておいた。追いかけられもせずに城を出ることが出来た。
続く
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