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第16話 魔族の子

第16-5話 獣人さん

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「何をしておる」滞空して巨大な姿のまま一喝する。そして、いつもの子どもの姿となり地面に降りる。
「さて、その方ら、わしの縄張りで何を騒いでいる。」周囲にいるすべての者達を見渡す。アンジーが馬車の幌から飛び降り、静かにやってくる。そして、こう言った。
「土のドラゴンモーラ様。この魔族達は、道に迷ったのです。」魔族達はおもわずびっくりした顔をしている。それはそうだ、当然なんらかの罰をと考えていただろうから。
「ほう、道に迷ったと。それにしては、3組ほど戦っていたような気配があったが。」
「はい、道に迷って動転していたのでしょう。こちらも急な来訪者に動揺しまして。」
「なるほど、してどうなった。」
「はい、この魔族の方が傷を負いましたが、私どもが直しましたので。」
「なるほど、魔族の者よ間違いないか。」
「はい、そうであります。」
「ここは私、土のドラゴンの領域である。早々に立ち去るが良い。」
「わかりました。このことは、」
「何も無かったのであろう。であればもちろん何も無しじゃ。」
「はい。」
「よいか、もし仮にここで戦ったとしてもじゃ、そのことはお互い秘密じゃ。お主らは、わしの縄張りに入りかけただけ、わしが現れ、早々に立ち去るように言われ仕方なく去った。当然争いも何もなかった。そういうことでよいな。」
「はい。」
「さらに戦いも何もなかったのなら、その者らの顔も名前ももちろん覚えておらんな。」
「はい」
「あとは、仮に捜し物をしていたとして、見失った時にドラゴンが現れ、早々に立ち去るように言われたため断念したと言うが良い。」
「ありがたき幸せ。土のドラゴン様のご配慮に感謝します。」
「うむ、早々に立ち去れい」
「はい。失礼します。」
そうして魔族の3人は帰って行った。
「モーラ様かっこいいです。」ユーリの尊敬のまなざしがキラキラしてまぶしい。
「まあ、本来のドラゴンとはこうあるべきなんじゃがなあ。わしにはどうも分不相応で」
「久しぶりにモーラのドラゴンらしさを見た気がするわ」アンジーが不敵に笑う。
「ばかにしおって、こんなことやりとうないわ。」
「でも、助かったわ。」
「あ、目を覚ましましたよ~」
「ああ、このにおいあんた達か。良かった、とうとう到着したか。長かったぜ」
「おや、あの時、カレーシチューを最後までおかわりしていた人ですね。」メアさんが思い出したようでそう告げる。
「そういう憶えられ方はねえなあ。恥ずかしい限りだぜ。」
「では、馬車で我が家に戻りましょう。」
「モーラは、一度洞窟に帰ってね。一緒に帰るとまずいので」
「あ、そうじゃな。わかったそうするわ」しょぼんとしているモーラ
「馬車に乗って出発~」エルフィが手綱をピシリとたたくと馬は走り出す。ユーリは、その後をクウに乗ってついて行く。
『ひとりは寂しいのじゃー』頭の中にモーラの叫び声が響く。
『やかましいわよモーラ』
『モーラ様、先ほどの威厳はどこにいったのですか、しゃんとしてください』ユーリにたしなめられる。
『ドラゴンは孤独じゃーーー』

『はい、だいたいは、会話を聞いていましたのでわかりました。早く戻ってください。』
私は、皆さんが大丈夫だったので一安心です。
「さて、その話は、とりあえず誰にも言いませんので。」
「はい、ありがとうございます。」
「ぬし様なら、聞いたからと言って対応を変えたりしませんでしょうし。そのほうが良いかと思います。あと、少なくとも皆さん薄々は気付いていますので。」
「気付いていないのは私くらいですか」
「はい、ぬし様くらいではないかと。」
「話す時が来ても、そんなのすでに知っていましたよ、くらいは言いそうですねえ」
「そうですね。」
「まあ、あなたが言いたくなったら言ってください。タイミングとかは、考えずに」
「はい」
「そろそろ帰ってきたようです。」
「では、みんなで一緒に出迎えますか。」
「私もですか」
「ええ、玄関までなら大丈夫ですよ」
「ありがとうございます。」
「帰ってきましたよ。」パムが玄関から外に出て道まで迎えに出る。
応急措置のせいか、少し足を引きずっている獣人にメアさんが肩を貸して馬車から出てきた。
「    」言葉にならない声を上げながら、その獣人に駆け寄り抱きつくその子。
パムは冷静に「結界から出ていますけど、良いのでしょうか」ある方角を見ながらパムが言った。
「私にはあの子を止めることはできませんよ。たとえ誰かが私の家の見張っていてあの子がここに居ることが判明したとして、あのうれしそうな泣き顔で飛び出して行かれてはね。」
「それでも昔の私なら止めていましたかもしれません。でも、今はもうできませんでした。」
「それでいいのです。それが心のあるがままに生きるということです。」
「ですが」パムはある方向を見ています。当然私も見ています。
「はい、対応せざるを得ませんね。ちょっと行ってきます。」
「私もついて行きます。」メアさんが言った。
「じゃあ競争です。」私は先に転移魔法を使いました。逃げそうだったので
「ご主人様ずるいです」

家の玄関から直線上にある小高い丘がある。そこに草に隠れて2人の人影があった。獣人のようだ。
「やはりあの家にかくまわれていましたか。監視を続けて今の今まで、本当にここにいるのか疑っていましたが、やはりあの方の言葉は間違いなかったのですね。」
「これだけずーっと家の中にいることなんて普通できませんよ。外に出られないってかなり苦痛のはずですが。」
「それは、何かやり方があったのかも知れません。」
「相変わらずすごい家族です。人種のごった煮ですねえ」
「さて、確認できましたので、早々に撤収しましょうか。」
「え?このまま継続して見張るんじゃないんですか。」
「そのつもりでしたが、どうやら気付かれたようです。見てください。」そう言うともう一人の獣人が視線を家の玄関の方に向ける。
「あら、本当だこちらをじっと見ていますねえ。」
「これは、早々に立ち去らないとかなりまずいですよ。」それでも余裕があるのか周囲の持ち物を整理しようと動き始めると。
「はい、その通りかなりまずいです。」
「おや、もうここまで来ましたか、速いですね。でも、あなたはひとり、私たちは二人ですよ。どちらかが逃げ切れば良いのですから。」落ち着いて荷物の片付けを続けながら、話しかけてくる。もう一人はすでに荷物も持たず逃げようとしている。
「安心してください。2人とも逃げられません。」
「ふっ」その2人は、何か合図を決めていたのか、同時にその場から消えた。しかし、消えたと思った瞬間、2個の球体の中に捕らえられた。
「なるほど、2人とも捕まってしまいましたか。それにしても面白い球体に入れられてしまいました。土の薄い壁のようですねえ。」ひとりは冷静にいつもの球体シールドをなでたりたたいたりしてどういうものなのか調べている。もうひとりは、パニックになっているのか、どんどんとシールドをたたいている。しかし、壊せるわけもなくついには座り込んだ。いつの間にか到着したメアさんは、その2個の球体を、小高い丘から家の方に向かって蹴り飛ばした。さすがに高低差がかなりあるので、しばらくは転がっていき、平地に係る頃には、停止した。さすがに丘から転がり続けて、具合が悪そうだ。その後もメアさんと私で蹴り転がし続け、ついに家の前まで到着する。
目を回してはいるものの気絶まではしていない2人に向かい、メアさんは、
「あなた達の行動は筒抜けでした。泳がせていたのです。しかもご主人様が罠を仕掛けておいてくれました。」
「・・・・」
「ええ、そうです。実は私たちの家を監視するにはこの位置しかないのです。森の中は結界が張ってあり、近づけば気付かれる。結界の範囲の外で一番近く家が見える位置がここなのです。」
「・・・」
「大丈夫です。こちらでもあなた達を見張っていましたので、あなた達から連絡が途絶えたとしても、次の者が来るまでしばらくの間、具体的には、5日間程度の余裕があるのはわかっていますので。」騒いでいた方が、がくりと肩を落とす。
「このシールドの中で持ってきた糧食を食べて生き延びてください。まあ、糞尿まみれにはなるとは思いますが、生きてはいられるでしょう?」それを聞くと再びどんどんとシールドをたたき何かを叫んでいる。最後にはあきらめて座り込んだ。もうひとりは、座り込み、何かを考えているようだ。
玄関の騒ぎを聞きつけて、みんなが出てくる。獣人も出てくる。
「ああ、すまない。そいつらは、俺の仲間だ。出してやってくれないか。」
「そうですか、ならばあなたもこの子を狙う人達の仲間だったのですね」
「いや、違うんだ。俺たちは、その、なんだこの子の敵ではないとしかいえないが、」
球の中で、座り込んで考えていた獣人が立ち上がり、
「ここにきて、事情を隠してもしようがないでしょう。このままでもなんです。ここから出してはもらえませんか?ちゃんと話をさせてください。」そう言った。
「話をさせて欲しいと言われれば、あんたは断れないわよね。」アンジーが笑って言う。
「そうですね、会話しないとうそも見破れない。」鳴らない指をパチリとしてシールドをとく。メアさんとパムがそれぞれの後ろに立ち、その気配でにらみをきかせる。
「私たちより速いってことなのかしら。」一瞬で後ろに立たれ、動かそうとしていた手が中途半端な状態で止まっている。
「はい、その通りです。申し訳ありませんが、妙な動きはしませんように。」
「同じく、自分の命を軽んじる行動はおやめください。無駄死になりますよ。」
「はいい・・・」おびえてこくこくと頷くもうひとり。
「それでは、皆さん中に入って座りましょうか。」私は緊張の張り詰めた中そう言った。
いつものテーブルであるが狭く感じる。獣人達3人を扉側に座らせてその後ろにはメアさんとパムさんが立っている。その反対側に私と魔族の子が座り私の逆隣にモーラが魔族の子の隣にユーリ、めずらしくアンジーがモーラの隣に座っている。あと、お茶はエルフィが配膳している。レイは相変わらずその子の膝の上です。
「まずは、助けてくれてありがとう。礼を言わせてくれ。」男の獣人が頭を下げる。
「うちの領地で起きたことですから、助けないわけにはいきませんから。」そう冷たく言う。
「この家を見張っていたのは悪かった。これはアドバイスがあったからだったんだ。」
「この子を飛ばした土地は、土のドラゴンの縄張りだから、保護されるとすればきっとあなた達だろうと。その隠し方は巧妙で、見つからないようにしている。だから常時監視していないと見つからないだろうと。」
「確かに予想の範囲内ですね。」
「俺が追われていたのは本当にたまたまだと言いたいが、やはり逃げる方向として土のドラゴンのところならもしかしたら助けてもらえるかも知れないと期待したところもある。」
「ここにいる私たちがあの時の一行だと知っていたのですか。」
「いいや、あの時の一行があんた達だとは知らなかったよ。だから俺がボスの言う事を聞かないで手を出していたらひどいことになっていたなあとは、あとからその事を知ったときに思ったよ。」
「ヒウマそれ以上無駄な話はしないで」
「ああ、そうだな。すまなかった」
「この男を助けていただいたのも感謝していますし、この子を保護していてもらったのも感謝しています。でも、私たちが心配しているのは、これからどうするつもりなのかということです。それをお聞かせいただきたいのですが。」
私は、モーラを見た。モーラは頷いている。アンジーを見ても同じだ。本当の事を言っているのは間違いない。
「ところで、あなた達にアドバイスした人は一体誰なんです?」
「そ、それは」
「そ、それはちょっと」
3人とも話の流れから言わなければ、話が進まないとは思うけど、話して良いものかどうか逡巡しているのがわかる。そう、ならば答えをこちらから提案しましょう。
「元魔王様ですね。」
3人とも声にならない。3人とも頭をうなだれてしまい視線を合わせない。
「今更隠せることでもないでしょう。この子を転移させてその転移位置をほとんど、知られていないはずの土のドラゴンの縄張りに置き、後催眠で動かし、騒動を起こさせ、保護させて、そこに住んでいる魔法使いを監視しろなんて、誰が指示できますか。現魔王でさえ私たちの住んでいる正確な位置など知らないというのに。」
「そうじゃな。わしがこの縄張りをここに持っているのは、ドラゴンの里しかしらないことじゃからなあ。」
「ねえ、さいはての・・もとい田舎の賢者様」アンジーわざと間違えましたね。
「誰が田舎の賢者じゃ。アンジー、失礼にもほどがあるぞ。確かにここは超絶田舎なのは間違いないが。」
「いや、聞きたかったのは、この子が現れたときから、ドラゴンの里が知っていたと思っていたのね。」
「まあ、裏でなにやら取引しているとは思っていたが、こんな具合に、わしに全部おしつけようとしていたとは思わなかったわ。」
「なるほど、話を戻しましょう。ドラゴンの里とコネクションがあり、ここの様子がわかっている。そんなの魔王とかそういうクラスの人達しかいないんですよ。あきらめてその人が誰なのか言ってください。」
「俺からは言えないんだ。」
「ええ、私たちの口からは言えません。」
「何か言えない事情があるのはわかりました。」アンジーさんモーラさん。どうですか。
「まあ、間違いないな。」
「そうね、ビジョンは不明確だけどそうみたい」
「では、直接口から聞くことはあきらめましょう。元魔王様がこの芝居を組んだことは間違いないですね。面識がないのに私たちを勝手に利用して、困りごとを持ち込んだ。直接会って文句を言いたいです。」
「それは、すまねえ。俺と俺のボスがあの人に話しちまったんだ。」
「え?私たちが噂の魔法使い一行だと、あの時疑ってはいましたけど確定はしていませんよね。」
「ああ、あの時、うちのボスは、あんたと話した時に確定はしていない。でも、変な奴が通ったと俺らと晩飯を一緒にして話をして悪い奴じゃなかったと話したのさ。」
「それでも、あの時は、私たちは別な街に住んでいたので、ここに住んでいることは、知らないはずですが。」
「ああ、そうだな、俺たちは、変な家族が通っていった。もしかしたら噂の魔法使いじゃないかって話しただけだ。」
「そこからですか。」
「たぶん、それで興味を持って情報収集したのだと思います。」
「情報提供したのは、もしかしたらドラゴンの里でしょうかね。」モーラを見る。
「もしかしなくてもあそこ以外にあるまい。おそらくは、なにか別の情報との取引はあったのだと思うが。」
「はあ・・・・」
「それで、この子を連れ戻しに来たのですか」
「いえ、実は事態はもっと深刻です。あの方達は捕まっています。」
「なんですって?」私は魔王の子の顔を見る。青ざめている。
「あの方は、奥さんとともにその能力を制限されどこかに幽閉されているらしいのです。」
「そうなんだよ、それと俺の仲間も一緒にいるらしいんだ。それを助け出して欲しい。俺が追われていたのは、その場所を知っていると思われていたからなんだ。」
「誰もその場所を知らないし、捕まっている理由も脅迫もないということですか。」
「誰かに対して脅迫しているかも知れないが、少なくとも俺は知らない。」そう言って他の2人にも視線を向けるが、同様に首を振る。
「見つけてさらに助けて欲しいと。」
「無茶なお願いだとは思っている。だが、この子をかくまってくれるような人ならもしかして頼めるのではないかと。」
「もうひとつ、あなた達は誰に連絡しようとしていましたか?」
「それは、」肘でつつき、
「もう言っても良いでしょ。」
「はい、あの里を抜け出した者達です。」
「なるほど。真相を知っている方達ですね。ならばあなたたちも当事者なので大体のことがわかっているはずですよね。話してもらえませんか。」
「どこからお話ししましょう。」
「当日の人の動きがよくわからないのです。」
「あの日は、朝から人間の荷馬車が入ってくることにしていました。里に持ってくるのは、いつもの里では手に入らない輸入品と今回は、荷台に隠した油漬けにした死体3つです。」
「油漬けにした死体ですか。誰の死体ですか?」
「実は、あなた達がエルフの森で殺した死体です。時間も経過していましたが、何体かを確保しました。」
「それはおかしいぞ、あの時わしの脱皮ですべてが草木の肥やしになったはずじゃが。」
「周辺で打ち落とされた死体が残っていました。」
「ああ、浄化ののち、その地域にしか影響させなかったからなあ。」
「影響させなかったのはどうしてですか。」
「わしの皮の栄養で成長が促進されすぎて、植生が変わりそうでなあ。無理しなかったのじゃ。」
「なるほどねえ」
「話が横にそれているな」
「戻しましょう。死体は一度凍らせその上で油に漬けました。体型の似たような死体が手に入りました。」
「そうして、人間の荷馬車が来る予定でしたが、昼になったころようやく来たのです。しかも、死体は乗せていませんでした。事情が変わったと。何かに怯えるようにその話をしてくるので、何かあったんだと察せられました。」
「なるほど。」
「とりあえず、輸入品を下ろし、必要最低限の荷物を積み、第1陣が里を出発しました。」
「交代するように荷馬車が入ってきて第2陣も出発していき問題は第3陣だったのです。」
「空のはずの荷馬車に人か魔族の気配がしていたのですが、開けて見ると誰もいなかったのです。そして、元魔王様が殺されかけました。」
「なるほど」
「その者達は、眠らせたスパイ達を殺し、さらに元魔王を殺そうとしていたのです。」
「そこで、」
「しかし、傷を負った元魔王夫婦は、子どもを転移させ自分たちは傷の治療もせず。里を出ました。」
「第4陣の馬車が来て私たちが出るときにはまだその事は知りませんでした。」
「家が燃やされていなかったのでは?」
「第1陣が来た段階で死体の話はご破算になり、元魔王様は普通に脱出する手はずでした。その件はあきらめると。そこからは、ただ脱出するだけなので、お互い連絡を取らないようにすると連絡があり、それ以後の事は後から知りました。」
「そうか、お互い連絡を取らないようにしたのがあだになったか」
「はい、連絡を取り合うと誰かが捕まったときに話が漏れてしまうので、」
「して合流地点はどこじゃ」
「合流地点はありません。私たちが泊まるところを数カ所指定していて、そこに連絡員が来ることになっています。」
「様子を見て危なそうなら連絡を入れないで様子を見ると。」
「はい、最終的に定住する予定の場所は、先遣隊の数人しか知らないと思います。その場所を知っている人の名前も人数も知らされていません。」
「もし、先遣隊の人達が殺されていれば、行き先はなくなるのだな。」
「誰に何を聞けば良いかの連絡符丁があって数人の連絡員にすべてを聞けば場所はわかるようになっています。」
「でも、連絡場所は次々移動すると言っていましたが。」
「それで、行方不明の里の者がいるというのはどこで知ったのじゃ」
「私たちは、連絡員と接触ができました。その時に連絡員から話がありました。他の者達とはすでに連絡がついている。数名の獣人と元魔王夫婦だけと連絡が取れないと。」
「現段階でも、元魔王と、捕らわれた仲間の行方は不明という事で良いか?」
「はい。」
「ユーリ、レイ、あの子のそばにいてやってくれないか。わしらは話がある。」
「はい、」
「私たちもその子と一緒にいて良いですか。」
「かまわぬよなあ」
「ええ、その子と何かお話があるのなら、ユーリもレイもお邪魔でしょうか。」その子の悲しい顔に彼らは、「一緒にいてください。その、そちらのお話に支障が無ければ。」
「レイ、ユーリどうしますか?」レイとユーリは、頷きあい「僕が残ります」と、レイが言い、ユーリは、切なそうに見上げるその子にしゃがんで目線を合わせ頭をなでる。そして、
「ごめんね、大事なお話しをしてくるよ、我慢できるかな。」仕方なく頷くその子の頭をくしゃくしゃになでて、我々の方に来た。
『本当は、こうして話ができるのですけど、一応けじめです。』
『わかりました。』
そうして、狭い客間に4人と1匹をおしこめ、我々は客間テーブルに座る。
「さて、どうしましょう。」
「その前に客間にあの子と一緒に入れて大丈夫なんですか?襲われたりしないですか?」
「レイが、あの子の膝の上にいることを選んだのだと思いますし、あれだけあの子に慕われていて、さすがにそれはないでしょう。まあ、やれるならやってみろと言うところです。」
「確かにあの男が来てから離れませんよね。ユーリがちょっとかわいそうで。」
「いえ、むしろ、その方が良いと思います。」以外に淡々としているユーリ。
「さてポイントは元魔王夫婦の監禁場所の特定、彼の仲間の監禁場所の特定というところですか。」
「そうじゃな、元魔王を拉致監禁されていると仮定して、監禁している者の目的が不明だが、救出しなければならない。」全員頷く。
「そして、獣人の仲間達が拉致監禁されているのも、救出しなければならない。」
「さらにその上で、全員を新しい土地から連絡が来るまでに保護しなければならない。」
「そんなところですかねえ。」私は、すでにどうするかを考え始めていた。
「申し上げにくいことですが、あの子と元魔王夫婦を引き合わせ、獣人の仲間達を助けたところで、私たちの役目を終える方がよろしいのではないでしょうか。」パムが告げる。
「そうね、私もそう思うのよ。元魔王は、魔族が束になってもかなわないくらいの実力の持ち主だから、追撃などするはずがないと思うのよ。まあ、今は、殺したり傷つけたりしたくないと言っているから、どのくらいの反撃ができるかわからないけど、魔族や訳のわからない陰謀を企む者達と関わるべきでは無いと思うわ。」アンジーが追撃する。
「しかしそれでは、・・・」私はどうも納得できずにいた。
「気持ちはわかるわ、でもね、正直そのまま守り続けると、今度は、魔族と私たちの全面抗争が始まる可能性が限りなく高くなるのよ」
「やはりそうなりますか。」
「そんなに高いのですか?」ユーリが尋ねる。
「最初に言っておけば良かったのだけれど、今回の話で問題なのは、誰がこの茶番劇を操っているのかわからないってことなのよ。」
「茶番劇ですか」
「そうよ、私たちが最近始めたチェスを思い出してご覧なさい。その黒幕は、自分の思ったように自分の手駒と相手の手駒の区別無く、盤面にあるすべての駒をいいように操っているのよ。まあ、私たちもその中の手駒の一握りでしかない。しかも、私たちは、敵の目的がわからないから、勝利条件はわからないし、この後、相手の目的がわかって阻止したとしても、たぶん引き分けが精一杯だと思うの。そう、一方的に殴られて、最後に一発軽く殴って痛み分けというところね。今もこちら側は手詰まりで、相手の思うように動かざるを得ない、動きながら、情報を集め、逆転の一手を探るしか無い状態なのよ」
「裏でこの状況を操っているのは一体誰なんでしょうか」
「少なくとも里の移転の件から今まで、私たちを巻き込んだ段階で、私たちがどう動くのか推測できていることから考えると、敵は絞れるのだけれど。」
「ああ、あまり考えたくはないがな。」
「どういうことですか。」
「まあ、執念深い火のやつかのう。それ位しか思いつかんな。」
「仮にそうだったとして、火のドラゴンさえも盤上の駒に過ぎないと思うのよ。そのドラゴンにこっそり入れ知恵している黒幕、チェスをプレイする棋士がいるのよ。」
「なるほど、盤上を俯瞰してみている棋士か。」
「そう考えるとすべての事柄を知りうる者。ドラゴンの里、魔法使いの里、現魔王というところか。」
「現魔王は、元魔王の存在を知らなかったのですが。」アンジーが言った。
「それを隠していた可能性もあるじゃろう。今でもお主と直接連絡できないでいるんじゃろう?」
「ああ、確かにそうですね。」
「あとは、神のみぞ知るというところですかね~」エルフィがお気楽に発言する。
「神ですか。」顔色を変えるアンジー
「エルフィ、相変わらずお主は鋭いのう。その可能性を失念していたわ」
「別にそういう意味で言ったつもりはありませんよ~」
「じゃが、わしらの持てる情報ではこれくらいじゃな、考えるだけ無駄かもしれん。」
「そうね、そう思うわ、今しなければならない事にポイントを絞りましょう」2人とも話題を避けましたね。


 続く
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