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ブレンダムにて
赤髪の幼女?
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出発から五日目の夕方。
レオン達は険しい山岳地帯を抜け、ブレンダムの町に到着した。
眼下に広がるのは無機質な石造りの建造物群とドワーフ達の喧騒、そしてなにより大きく響き渡る鉄を打つ音がこの町の特色を如実に表していた。
「やっと着いた……疲れたぁ……」
「はは……もう魔獣何体倒したか覚えてないもんな……」
「それで? どこの鍛冶屋に行くの? ずいぶんいっぱいあるみたいだけど」
リンネの言う通り、現在レオン達の歩いている通りだけでも五軒は鍛冶屋を見つけることができる。
しかし、ブレンダムに来た目的はこの鍛冶屋にはない。
「ああ、実は師匠が知り合いを紹介してくれていてな。ビーディーさんって人らしい」
レオンが言うと、道を歩いていた老ドワーフが少々驚いたように話しかけてきた。
「なんだいお前さんら、ビーディーのやつの所に行くのかい」
「はい。腕利きの職人だと聞いているので。もしかしてお知り合いですか?」
老ドワーフはあからさまに顔をしかめて、それから一つため息をついた。
「あいつのことなら、よっぽど若い奴でない限り誰でも知っとるさ。にしてもあんな奴を紹介するというのも奇妙な話じゃが……まぁいい。せっかくブレンダムに来たんだ。あいつの鍛冶場まで案内してやろう」
「本当ですか! ありがとうございます!」
ここまで過酷な旅路であったために、レオン達は老ドワーフの申し出がより嬉しく思えた。
それはもう、老ドワーフの物言いに少し引っかかる部分があることなど気にならなくなる程に。
「ここがビーディーの鍛冶場じゃ」
そう言って老ドワーフが立ち止まったのは、半ば廃屋と化したボロ家の前だった。
「……え?」
「おいビーディー! お前に客じゃ!」
出入口らしき場所から、老ドワーフが中に向けて叫ぶ。
すると中の暗闇から、なにやら赤くて小さいものがのそのそと出てくるのが見えた。
「るっせーなじじい……くそ朝っぱらから大声出しやがって……」
暗い室内から出てきた赤が日に当たり、その姿を露わにする。
それは、地面に着きそうな程の赤髪を携えた少女、否、幼女だった。
「こっちは二日酔いで頭いてーんだよ……ちったぁいたわりやがれ」
幼女はその愛らしい声に似合わない荒っぽい口調で老ドワーフに話しかける。
にわかには信じがたいが、本気で頭を痛そうに抱えている辺り、二日酔いというのは本当なのだろう。
「いたわるのはお前の方じゃろうが! 年寄りに舐めた口利きやがって。客の前でくらいピシッとせんか!」
「あ? 客?」
幼女はようやく顔を上げ、レオン達の姿を捉える。
細められたルビーのような瞳は、じっくりと吟味しているようにも見えた。
「あ~……すまん。誰?」
「なんじゃお前客に向かってその態度は!」
老ドワーフが怒鳴ると、幼女は煩わしそうに耳をふさいだ。
「いちいち怒鳴るんじゃねぇよくそじじいが……あ~わりぃけどあんたら、鍛冶の依頼なら帰れ」
「え?」
「誰から聞いたか知らねぇけど、鍛冶の依頼なんて今は請け負ってねぇんだわ。夜の依頼なら別だけどな!」
そう言い放って幼女はガハハと笑う。
その言動に可愛らしさはほんの少しもなく、神はなぜこの人にこの見た目を与えてしまったのだろう、とレオンは思った。
「ま、そういうわけで用が済んだなら帰んな。武器が欲しいならこの爺さんの弟子のとこにでも行ってくれ」
「ちょ、ちょっと待ってください! 俺たち師匠……シンピの紹介で来たんです!」
「シンピだと?」
ボロ家に戻ろうとしていた幼女の足が止まる。
老ドワーフも、少し驚いたように「ほう」と己の顎髭を撫でた。
「……入れ。荷物は適当に置いていい」
そう言って、幼女、ビーディーはレオン達をボロ家の中に招き入れた。
レオン達は険しい山岳地帯を抜け、ブレンダムの町に到着した。
眼下に広がるのは無機質な石造りの建造物群とドワーフ達の喧騒、そしてなにより大きく響き渡る鉄を打つ音がこの町の特色を如実に表していた。
「やっと着いた……疲れたぁ……」
「はは……もう魔獣何体倒したか覚えてないもんな……」
「それで? どこの鍛冶屋に行くの? ずいぶんいっぱいあるみたいだけど」
リンネの言う通り、現在レオン達の歩いている通りだけでも五軒は鍛冶屋を見つけることができる。
しかし、ブレンダムに来た目的はこの鍛冶屋にはない。
「ああ、実は師匠が知り合いを紹介してくれていてな。ビーディーさんって人らしい」
レオンが言うと、道を歩いていた老ドワーフが少々驚いたように話しかけてきた。
「なんだいお前さんら、ビーディーのやつの所に行くのかい」
「はい。腕利きの職人だと聞いているので。もしかしてお知り合いですか?」
老ドワーフはあからさまに顔をしかめて、それから一つため息をついた。
「あいつのことなら、よっぽど若い奴でない限り誰でも知っとるさ。にしてもあんな奴を紹介するというのも奇妙な話じゃが……まぁいい。せっかくブレンダムに来たんだ。あいつの鍛冶場まで案内してやろう」
「本当ですか! ありがとうございます!」
ここまで過酷な旅路であったために、レオン達は老ドワーフの申し出がより嬉しく思えた。
それはもう、老ドワーフの物言いに少し引っかかる部分があることなど気にならなくなる程に。
「ここがビーディーの鍛冶場じゃ」
そう言って老ドワーフが立ち止まったのは、半ば廃屋と化したボロ家の前だった。
「……え?」
「おいビーディー! お前に客じゃ!」
出入口らしき場所から、老ドワーフが中に向けて叫ぶ。
すると中の暗闇から、なにやら赤くて小さいものがのそのそと出てくるのが見えた。
「るっせーなじじい……くそ朝っぱらから大声出しやがって……」
暗い室内から出てきた赤が日に当たり、その姿を露わにする。
それは、地面に着きそうな程の赤髪を携えた少女、否、幼女だった。
「こっちは二日酔いで頭いてーんだよ……ちったぁいたわりやがれ」
幼女はその愛らしい声に似合わない荒っぽい口調で老ドワーフに話しかける。
にわかには信じがたいが、本気で頭を痛そうに抱えている辺り、二日酔いというのは本当なのだろう。
「いたわるのはお前の方じゃろうが! 年寄りに舐めた口利きやがって。客の前でくらいピシッとせんか!」
「あ? 客?」
幼女はようやく顔を上げ、レオン達の姿を捉える。
細められたルビーのような瞳は、じっくりと吟味しているようにも見えた。
「あ~……すまん。誰?」
「なんじゃお前客に向かってその態度は!」
老ドワーフが怒鳴ると、幼女は煩わしそうに耳をふさいだ。
「いちいち怒鳴るんじゃねぇよくそじじいが……あ~わりぃけどあんたら、鍛冶の依頼なら帰れ」
「え?」
「誰から聞いたか知らねぇけど、鍛冶の依頼なんて今は請け負ってねぇんだわ。夜の依頼なら別だけどな!」
そう言い放って幼女はガハハと笑う。
その言動に可愛らしさはほんの少しもなく、神はなぜこの人にこの見た目を与えてしまったのだろう、とレオンは思った。
「ま、そういうわけで用が済んだなら帰んな。武器が欲しいならこの爺さんの弟子のとこにでも行ってくれ」
「ちょ、ちょっと待ってください! 俺たち師匠……シンピの紹介で来たんです!」
「シンピだと?」
ボロ家に戻ろうとしていた幼女の足が止まる。
老ドワーフも、少し驚いたように「ほう」と己の顎髭を撫でた。
「……入れ。荷物は適当に置いていい」
そう言って、幼女、ビーディーはレオン達をボロ家の中に招き入れた。
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