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ー序章(プロローグ)ー

1話

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 「ただいまー!!」
 朝靄が今に晴れようとする中、少年の声が周りの家とは一風変わった家に転がり込んだ。

 年月を経てボロボロに朽ちている木の門を挟み両側には家二件分はある塀そびえている。
 塀も年月だけでなく、いたずらでつけられた傷や落書きの消した跡で近付き難いオーラをかもし出していた。

 門をくぐると目の前に現れた家の玄関には入らず、玄関と門の間の軒下を歩いていく。
 そこには広々とした庭があり、奥には木造の道場があった。
 立て付けの悪い木戸を開けて上がり込むと、中はくたびれた外見とは打って変って隅々まできれいに掃除されており、正面の壁には"石動道場"と光を反射するほど磨かれた看板が貼り付けられていた。
 
 少年は中央まで歩を進めると正座し、背筋をのばして目をそっと閉じた。

 四月になっても朝の寒さは和らぐ事無く吐く息を白く染める。
 ピンと張り詰めた空気にちらほらと庭に残る雪が、冬の冷たい香りをのせて開けた木戸から上がりこんでくる。


 「勇人ー・・・勇人ー・・・まだ帰ってねぇのかー?」
 眠気と朝の倦怠感が混ざった声が僕を呼びながら近づいてくる。
 黙祷をしていた勇人が静かに目を開けると道場と家を繋げる戸が開いた。
 「はやとーっと…いんじゃねぇか」
 胸元をぼりぼりと掻きながら寝巻きの甚平をだらしなく着こなす男が立っていた。
 「親父こんな早く起きてどうしたの?」
 「いやーお前の事だから高校の入学式が楽しみすぎて、黙祷しながら永遠にニヤニヤと妄想にトリップしてんじゃねぇかと思って、引き戻しにきてやったんじゃねぇか」
 「とっとっ...トリップってっ!!・・・入学式が楽しみすぎるってそんな子供じゃない・・・ってかニヤニヤってなんだよ!」
 完全に見透かされた恥ずかしさを隠すため声を荒げて言い返した。
 「はいはい、悪かったよ…でもちゃっちゃと風呂入って飯つくってくれよー。腹減ったから」
 家に戻っていく際、戸を閉めながら「まさか当たるとは・・・」というつぶやきの置き土産に、勇人は睨みを効かせた視線を送り返すのだった。
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