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第二章

ルームメイトガチャ(9/23一部修正済み)

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*説明等が多く、今回の話はかなり長くなっています。お気を付けください。
*途中文章がダブってしまってる部分がありましたので修正致しました。大変申し訳ありません!
また、ご指摘いただき大変助かりました!今後とも拙作をよろしくお願いいたします。
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「さて、本日のガイダンスは以上となります。明日から授業が始まりますので、この教室に始業の鐘が三回鳴るまでに集まってくださいね」
 お疲れ様でしたと言い残し、ルーク先生は教室を後にした。途端ざわめきが広がる教室の隅っこで、俺は不機嫌なリヒトをなだめていた。ちなみにリリーはツアーの途中で飽きたらしく、何かあったら前渡した石を握って念じなさいと言い残してどこかへ飛んで行ってしまった。

「どうして僕とリュヌが別の部屋なわけ」
「しょうがないだろ……てか棟は一緒だしクラスも一緒だし良いじゃん。そんなずっと引っ付いてたらお前友達できないぞ」
「友達……いらないもん」
「急に年相応に駄々こねるんじゃないよまったく」
 学院では原則皆親元を離れて寮暮らしをする。俺もリヒトも例にもれず初等部用の寮をあてがわれているのだが、その部屋割りがお気に召さないらしい。なーんでこいつ俺にこんな懐いてるってか、執着するんだ?
「食堂でも会えるし、離れるのはほんとに寝る時間とか放課後とか……とにかくほとんど一緒に過ごすんだし、お互いプライベートの時間は大事だろ?」
「む……」
「ほら、とりあえず飯、食いに行こ?」
 頬を膨らますリヒトの手を無理やりひっぱり、ツアーの時に案内してもらった食堂に向かった。

「おぉ、やっぱり立派だなぁ」
 高い天井には大きなシャンデリアが輝いており、オレンジ色の壁やまばらな木目の床を温かく照らしている。食器の音や学生たちのにぎやかな声、美味しそうな料理の香りや料理人たちの活気に満ちた声が合わさり、食堂内は煩雑でありながらほっとする雰囲気に包まれていた。

 この食堂は学院の教職員や在学生ならば無料で利用することができる。学費の中に食費等の生活面での費用も組み込まれているからというのもあるが、入学希望者ならば貴賤や家庭の金銭事情は関係なく受け入れているため、学費を払えない者ももちろんいる。その分は、有志の寄付、在学生の制作物や授業の一環で行われる冒険者活動やちょっとした仕事の報酬等で賄われているそうだ。
 開放時間は朝一番の鐘から閉門の鐘が鳴るまで。結構長い間開放されているから各々空き時間に食事を摂るスタイルだ。

 さて、注文はどうするんだったかな……。人が多い中まごまごしていると、恰幅の良いTHE食堂のおばちゃんという感じの女性に手招きされた。
「あら、あんたら新入生だね! ようこそルーナ学院へ! なんかわかんないことがあれば気軽におばちゃんに聞きな」
「ありがとうございます! じゃあ早速……今日のおすすめは何ですか?」
「そうだねぇ、今日は上級生の課外授業で肉がたくさん獲れたからね。スタミナ丼なんてどうだい?」
「じゃあそれで! あっ、リヒトはどうする?」
「同じの」
「じゃあ二つで!」
「あいよ! そんじゃこの札もって待ってな。できたら呼ぶからね」
 お茶目にウインクするおばちゃんに礼を言い、どこか空いている席が無いか探していると、食堂の隅の方に他とは違う区切られた場所があるのに気づいた。
「あれ、なんであそこだけ分けられてるんだろ」
「ん……あぁ、王族とかそこらへんのめんどくさいのが集まってる」
「え、えなんでわかったの?」
「視ただけ」
 俺が指し示した方をじぃっと見たかと思うと、リヒトはそう答えた。なに、鑑定もできれば透視もできるわけ? パーテーションみたいなので全く見えないんだけど。試しに俺も見えろー見えろーと念じてじっと見てみたが、特に中が透けて見えるわけでもなかった。ただなんとなーくキラキラと光りが集まってるように感じるレベルだ。
「あ、リュヌあそこ」
「お、おおありがとリヒト。あそこ座るか」
 そんなこんなしてるうちにリヒトに手を引っ張られる。ついていけば良い感じに目立たない席が二人分空いていた。ラッキーラッキー。

「45番~!45番の人おいで~!」
「俺達の番号だな。ちょっと取ってくるわ」
「僕も……」
「良いから良いからゆっくりしてな。それに席の目印無いと迷っちゃいそうだから待っててくれよ」
「……わかった」
 随分声が通るんだなぁなんて思いながら先ほどのおばちゃんのもとに行けば、あいよと言いながら二人分の丼を同じトレイに乗せて渡してくれた。
「二人分だけど持てるかい?」
「大丈夫です! どうもありがとう」
 心配してくれるおばちゃんには悪いがこのくらいなら危なげなく持てる。トレイを抱えながら席を探してきょろきょろすると、綺麗な金髪が見えた。うん、やっぱり良い目印になるな。
「おまたせ~。さ、食おうぜ」
「ありがと」
 ほい、とリヒトに渡すとすぐ食うわけでもなく静かに目の前の丼を見つめていた。
「どした? 実はあんまこういうの好きじゃないとか?」
「なんでもない。変なのが入ってないか調べただけ」
 俺が声をかけると何事もなかったかのように丼に手をつけはじめた。なんだなんだ、もしかして毒見係とかがいるような家庭の出身なのか? 俺は若干の闇を感じながらも特に言及することはなく、いただきますと手を合わせた。
 あれ、てか普通に流してたけど丼ってこの世界で一般的な料理なのか……? しかもスプーンと箸と両方用意されてるし。でも家で出てきたご飯は大体洋食だったし今まで触れて来た文化的な部分も前世の記憶でいうヨーロッパ風なんだよな……。
 横のリヒトが何の不自由もなく箸で丼を食べている光景にどこか面白さを感じるが、まあ俺としてはこういうった食事の方が記憶の中では大変馴染み深い。試しに家では使わなかった箸を手に取ってみれば、よく手に馴染む気がした。
 ま、こんなこと考えたってキリないか。今は前世でよく食べてたものが普通に食べられることに感謝しとこ。
「てか美味いなこれ」
「うん。美味しいね」
 甘辛く味付けされた肉と野菜は香ばしく、少し多めにかけられたタレがご飯に絡んでどんどん箸が進む。寮の食事がまずかったら嫌だなぁなんて少し思っていたが杞憂に終わって良かった。衣食住の充実は大事だし。
 衣も食もなんの問題も無いとして、あとは住か……。俺にあてがわれたのは三人部屋、ということはこれから二人のルームメイトができることになるのだが、一体どんな子たちなのだろう。そんな不安がどんどん湧き上がってきた。
 
 食事を終え、共同浴場に向かっている間も、お風呂に浸かっている時も、ぐずるリヒトを部屋に向かわせている間も、一度感じた不安は中々消えることはなかった。
「やべ、めっちゃ緊張する」
 俺は一人、自分のネームプレートが貼られた部屋の前で突っ立っていた。
「シャルル君、とハリマ君か……よし、行くぞ俺!」
 ルームメイトの名前を確認し、小声で気合を入れ、控えめにノックした。
「は、はい!」
 中から少し上ずった声で返答があった。よかった~これでノックした瞬間怒鳴られたりしたらもう心が折れるところだった。

「失礼しまーす……」
 中に入ると、部屋は思っていたよりも広かった。
 入口から見て正面には仕切り付の机が三人分、左右には壁に沿うように二段ベッドが二台設置されており、プライバシーのためかカーテンも付いている。
 とってもシンプルだが、トイレや風呂、談話室といったものが外に用意されている分、自室はこのくらいで十分なのだろう。天井にはこれまたシンプルなペンダントライトが吊り下げられており柔らかな光を放っている。
 
 さて、でも肝心のルームメイトが入口からは見当たらない。返答はあったんだけどな……。
「あのぉ……」
「あ、ご、ごめんなさいっ!」
 俺が声をかけた瞬間、ベッドで陰になっているところから人が飛び出してきた。どうやら奥の方にもスペースがあるらしい。
「あ、どうも。これから同室になるリュヌです。よろしくお願いします」
「は、初めまして。僕はハリマです。あの、こちらこそよろしくお願いしますっ」
 ペコリと頭を下げる少年、ハリマ君に握手のため手を差し出すと、おずおずと返してくれた。
 うん、絶対良い子だこの子。しかも俺みたいな瓶底とまではいかないが中々の重たい眼鏡を身に着けている。なんか同じオーラを感じるというかなんというか、良い意味でキラキラしていない!
「ハリマ君って呼んでも良い? 俺のことはリュヌでもなんでも好きに呼んでね」
「だ、大丈夫! じゃあリュヌ君って呼ぶね」
 少しぎこちなくはにかむハリマ君に俺も笑顔を返す。多分ここに第三者がいればお互いガッチガチで面白いんだろうな。
「そうだ、もう一人のシャルル、君? にはもう会った?」
「ううん。まだ来てない、と思う。荷物も見当たらないし……」
「そっかぁ。そうだ、荷物ってどこに置けば良いのかな?」
「あ、ごめんっ! こっちに置いたら良いと思う」
 ふむ、どうやらハリマ君ももう一人のルームメイトにはまだ会っていないらしい。うわ、今更ながらこれラストだったら二人に迎えられる形だったのか……もっと緊張しただろうな。

「多分このクローゼットを使えば良いと思う」
「あれ、これはハリマ君の荷物?」
「う、うん」
 少し進むと、ベッドの陰になっている部分にクローゼットが三人分並べて置いてあった。反対側の壁にはテーブルとソファが置いてある。なんだ、結構充実しているんだな。
 どれどれ、とクローゼットを開こうとしたとき、床にハリマ君のものと思われる荷物が置いてあるのが見えた。本人の控えめな感じを表したかのように、小さくまとめられている。
「クローゼット使わないの?」
「えっと、先に使っちゃうの申し訳なくて……」
 どうやら先に自分が好きなところを選んで使うのが落ち着かないらしい。……めちゃくちゃ良い子、てか気を遣う子なんだなぁ。
「そっかそっかぁ。……あ、ハリマ君これ見て」
「な、なにかあった?」
「これこれ、よく見たら名前書いてあった」
「え、あ、ほんとだ! 僕、全然気づかなかったや……へへ」
 クローゼットの右上の方、少し小さいがネームプレートが貼られているのを見つけた俺はハリマ君にもそれを見せた。恥ずかしさを誤魔化すように急いで自分のクローゼットを開けるハリマ君に思わず笑みがこぼれる。
 もう一人の子がどんな子かわからないけど、この子が同室なら問題なさそうだ。そんなことを考えながら俺も自分の荷物を整理するためにクローゼットを開けると、そこには制服や白衣がかかっていた。どうやらこれを明日から着ろということらしい。他にも寮暮らしについての注意点をまとめた冊子や小さい鍵付きのボックスが置いてあった。貴重品はこれで管理しろ、ということなのだろうか。

 お互いまだあまり距離感がわからず会話もなく荷物整理をしている時、コンコンとノックの音が聞こえた。
「あ、もう一人の子かな?」
「そ、そうかも」
「とりあえず返事、だよね?」
 互いに顔を見合わせ、俺は「はーい」と返事をした。あぁ、迎える方も緊張するんだなと思いながらドアが開くのを待っていると、おずおずと少年が顔をのぞかせた。……あれ、なんかめちゃくちゃ眼光鋭いな?
「ど、ども」
「え、あ、ああどうも」
「あ、は、はじめましてっハリマですっ!」
 おお、少し声が裏返っているがハリマ君が先陣を切った! まずい、俺も名乗らなければ……。
「初めまして、リュヌです。ど、どうぞよろしく」
「あ、えと、シャルル、です。よろしくお願いします、です」
 俺より頭一つ分背の高いシャルル君に手を差し出すと、おろおろし始めた。
「え、ええと、もしかして握手は嫌い?」
「あっ、あぁ握手……ごめん」
 入室時よりも鋭くなった眼光にドキドキしたが、こちらの手を握る力は案外優しかった。
 俺よりも小柄なハリマ君に対してもかなり優しく触れているように見える。
「シャルル君、て呼んでも?」
「う、うす。好きによんで」
「じゃあシャルル君で。俺のことも好きに呼んでね」
「僕もシャルル君って呼ぶね。あ、もちろんこっちのことは好きに呼んでもらって良いから!」
「じ、じゃあオレもリュヌ君とハリマ君で……」
 とりあえず、各々緊張でガッチガチだが自己紹介(あまりに簡潔)は終わった。シャルル君も眼光は鋭いが口ぶりからはあまり悪い感じはしない。とりあえずハチャメチャなヤンキーとか元気が過ぎる問題児みたいな子に当たらなくて良かった……。

 とはいえ、俺含め三人ともあんまりコミュニケーション能力に長けていないのか、積極性が無いのか、自己紹介や簡単な部屋の案内、それぞれが使うベッドの場所を確認した後は会話がゼロになってしまった。静かすぎてそこまで薄い壁ではないはずなのに、隣から仲を深めようとしている声が聞こえてくるくらいだ。
 うん、脳内では通夜のような空気という表現と、とても今の状況を表しているとは思えないどんちゃん騒ぎの通夜とやらの光景が反復横跳びしている。
 ちら、と向かい側のベッド上段を見ると、この静けさに俺と同じように気まずさを感じているのか、何か話そうとしては口をつぐむハリマ君が見えた。わかるわ~一言目って緊張するんだよねぇ。しかも何話して良いかわからないし。
 さて、シャルル君はというと自分のネームプレートが貼られている机に向かい、支給された教科書をパラパラしている。落ち着いているように見えるが、さっきから何往復してるんだというくらい同じ教科書を始めから終わりまでパラパラしているためなんとなくでやっているのだろう。
 
 あんまり気乗りはしないけど、ここは今後のためにも前世の記憶を含めたら一番年上であろう俺がなんとかするしかないか……
「そ、そういえばさ、二人は何歳?」
 今リリーがいたらは? とか言われてたんだろうな。くそ、会話ってどうやって始めりゃ良いんだ……。
「あ、ぼ、僕は8歳。次の冬で9歳になるんだ。シャルル君は?」
 それ意味ある? なんて言われそうな唐突な質問にも関わらずハリマ君は丁寧に答えてくれた。そうか、8歳か……おいめっちゃしっかりしてるな。
「オレは10歳、です。多分」
「おぉ、じゃあ俺と同い年だ……って多分?」
「うん、オレ、正確な誕生日がわからないから。オヤジに拾われた時から数えて10歳、です」
「な、なるほど……」
 はい、会話終了~。しかもなんかシャルル君にとってはもしかしたらあんまり触れられたくなかった話題だったかもしれないしミスったなぁ……。

 やべぇ次はどうしよう……と思っていると、ふとシャルル君がぽつぽつ話し始めた。
「でも、オレ今10歳で良かったです」
「え? どうして?」
「だって、これでもしほんとは11歳だったら、ハリマ君、とリュヌ君、と会えなかったかも」
 そう言って、ぎこちなく微笑むシャルル君を見て、思わずハリマ君と顔を見合わせてしまった。
「……シャルル君ってさ、めっちゃ良い人ってよく言われない?」
「え、え?」
「リュヌ君もそう思う? 僕自分より大きな人って正直苦手なんだけど、シャルル君もリュヌ君もなんだか親戚のお兄さんみたいで安心できるって言うか……」
「あら、俺も一緒に褒められちゃった。いやほんと、最初目力すごとか思ったけどさ、めっちゃ優しいんだね」
 ねー、なんてハリマ君と言い合っていると、背中を丸めてうつむくシャルル君の耳がほんのり赤く染まってるのが見えた。おいおい、二人ともこりゃ世話焼きたくなっちゃうじゃん。

 男三人で褒め合いからのきゃいきゃいしていると、お互い緊張も解け、だいぶ話し方も気楽になってきた。シャルル君は敬語よりも気楽な話し方の方が楽そうなため、全然気にしないでねと伝えると結構話してくれるようになった。
「てかさ、俺達皆ルーナクラスだよな? てことはあのキラキラ軍団見た?」
「キラキラ軍団?」
「あぁ、オレわかったかも……」
 二人ともしっかりしているなと思っていたら、どうやら同じルーナクラスだったらしい。同室だからといってクラスまで一緒とは限らないようだしかなりラッキーだろう。こうしてクラスの話も気軽にできるし、何より授業で一緒になれるし。
「あれ、ハリマ君はピンと来てない感じ? ほら、あの加護持ち集団」
「もしかして、アリステラ殿下とご友人のこと?」
「オレみたいなのからしたら雲の上の存在というか……まさか普通に教室内にいるとは思わなかった」
「はえ~アリステラっていうんだ」
「リュヌ君、呼び捨てはちょっと……」
「オレ、流石に王族は呼び捨てにできねぇや。すごいねリュヌ君」
「へへ、ごめん」
 ハリマ君は話し方と言い所作といい、結構良いところの子なのだろうか。俺をたしなめつつあの軍団について少し教えてくれた。

「アリステラ殿下はこの国の第三皇子だよ。この国では王族も結構オープンだし学院内では身分は関係ないとされてるけど、流石に王族は別だよね」
「まあ、なにかあったらこっちの首がとぶだろうしねぇ」
「オレ、絶対近づかないようにしよ……」
「俺も~。あんな目立つ集団怖いしなんか粗相しそうだし」
「あんまり大きな声では言えないけどちょっと落ち着かないよね……周りのご友人の方々もかなりの地位の方だし……何より加護持ちだし」
「やっぱりさ、加護持ちって珍しい?」
 リリーは大したことないって言ってたし、リヒトもあんまり気にしてないようだったが、ハリマ君の反応を見るにあまり普通のことではないのだろうか? 周りにあんまり一般的な価値観を持った人がいないから、シャルル君とハリマ君の反応はかなり新鮮に感じられた。
「そりゃあそうだよ! 加護をもらったってだけでもすごいのにあんなに綺麗に見た目に現れているし、それに僕はちゃんと見たことないけど、殿下は瞳にも加護が現れているとかなんとか……」
 眼鏡の奥の瞳をどこかキラキラさせながらハリマ君は続けた。
「それに、ご友人は皆将来有望な方なんだって! ご自分の実力はもちろん、ご両親は宰相や騎士団長、魔法師団長に王弟殿下、最上級の冒険者等々、物凄い功績の持ち主なんだ」
「はぇ~……本来なら会うことが無いような存在なんだなぁ」
「ほんとに。てか、ハリマ君もすげぇよ。そんなすらすら情報出てきてさ」
「え? へへ、実は僕英雄伝みたいなのが好きでさ、生きる伝説みたいな彼らのご両親の話も好きなんだ」
「なーるほど。俺知り合いにも言われるくらいそういうのに疎くてさ、ハリマ君みたいに色々知ってる子がいると心強いや」
「オレも全然そういうのわからないから、すげぇ助かる」
「え? そ、そうかなぁ……あんまり褒められることないからなんか恥ずかしいや」
 照れ隠しか、ハリマ君は眼鏡を直すとうつむいてしまった。ほんと、控えめな子なんだな。

「なんか、親元離れるとか初めてだし、あんまり勉強とかもしっかりやってこなかったし、初めてだらけで不安ばっかだったんだけどさ、二人が同室ならうまくやってけそうだ」
 そろそろ明日に向けて寝ようかという時、ふと、そんなことを思ってしまった。声に出す気はなかったけど、予想以上の居心地の良さについこぼしてしまった。
「オレも、年齢も正確にはわからないし捨て子だし、言動も目つきもあんまり印象良くないからさ、クラスメイトとかルームメイトとか、周りの人とうまくやっていけるのか心配だったけど二人とならなんとかなりそう」
「ぼ、僕も、さっきも言ったけど自分より大きな人って苦手だし、ルーナクラスには入れたけどついていけるかも心配で……。でも、二人がいればなんとかなりそうって思えるんだ」
「へへ、俺達なんか似た者同士だな」
「「たしかに」」
「ま、とにかく、これからよろしくな!」
「うん!」
「うす、よろしく!」
「じゃあ明日の朝ハリマ君起こして~」
「え、えぇ!?」
「オレ、オヤジの手伝いで早起き得意だからハリマ君がダメだったら任せて」
「いや、僕も朝得意だよ!? って張り合うことじゃないか……」

 なんだかんだ興奮状態だったのか、俺たちは結局その後もとりとめのないことを話し続け、眠りにつくのはかなり遅くなってしまった。消灯の鐘が鳴った後も、しばらく起きていたのがたたったのだろう、翌朝、俺とハリマ君は朝から鋭い眼光のシャルル君に優しく揺り起こされ、急いで準備をすることになったのだった。
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