上 下
6 / 15
第一章

何事も始める前が一番不安

しおりを挟む
「リュヌ~!! この寝坊助!」
「ごめんよぉフォル兄」
 ぐすぐす鼻を鳴らしながら抱き着いてくるフォル兄をよしよしとなだめる。後ろから少し遅れて来たマウ兄も落ち着いてはいるが、その目は涙で潤んでいた。うん、我が兄ながらとても可愛らしい。
「とにかくなんともなくて良かった……」
「ありがとうマウ兄。ほんと心配かけてごめんなさい」
ぺこりと頭を下げると、不器用ながらも優しく頭を撫でられた。その感触がどこかくすぐったくてくふくふ笑みがこぼれてしまう。
「ほらほら、リュヌが元気になったのが嬉しいのはわかるけど、早く朝ごはん食べちゃいなさい」
「「はーい」」
 マウ兄とフォル兄が席に着くのを見届け、既に朝ごはんを済ませてしまった俺と母さん父さんは改めてこれからの話をするために別室へと移動した。
 結局トールとリリーはあの後二人でなんだかんだ揉め、それじゃと突然いなくなった。ほんっと嵐のような奴らだ。リリーはトールがいなくなってからこっそり、「学校には私も行くからね」と一言告げていなくなったし。妖精を連れて登校とか、ますます中二心をくすぐられるというかなんというか……。
「リュヌ?」
「ああ、大丈夫大丈夫」
 そんなことをぼーっと考えていると、父さんの書斎にたどり着いた。トールとリリーが来ていたあの時間、父さんと母さんはある程度二人で俺の入学に関して話をまとめていたらしい。何かと動きが早い不思議な両親にしたってあまりにも話の進行が早すぎるし、元々商人になりたいか聞いてきたときには学校の話も決まっていたのだろう。
「それで、改めて確認だけど、リュヌは父さんと母さんみたいな商人になりたい?」
「もちろん今なりたいと返事したからって将来が確定したわけじゃないよ」
 父さんと母さんはあくまでも現時点でどうしたいのか聞きたいと、念押しして俺の意思を聞いてきた。
 前世の記憶を思い出す前から答えは決まっている。俺は、父さんと母さんのような商人になりたい。
「なりたい。父さんと母さんみたいに、どこにでも現れてどんな商品でも用意できる、そんな素晴らしい商人になりたい!」
 どんな辺鄙な場所でも誰かに求められれば現れて商品を提供する、時に幻とも謳われる商人。そんな仕事ができるようになるには自分には想像もつかないくらいの試練があるのかもしれないが、今はとにかく面白そうという気持ちが大きかった。それに、前々から憧れていたのだ。目立たないけどなんか凄い奴に。
「やっぱり、リュヌならそう言うと思った」
 母さんは俺の迷いのない返答に少し困ったように笑いながらそう言った。父さんもやれやれと言いたげに額に手を当てている。
「まあリュヌだしなぁ。……よし、それじゃあ父さんたちも商人として必要なことを少しずつ教えていくことにするよ。とりあえずは来月から始まる学校生活の準備をしなきゃな」
「え、もう来月から行けるの?」
「ちょうど来月から新学期が始まるのよぉ。これから少し慌ただしくなるわねぇ」
 あれやこれやと入学準備の話に花を咲かせる両親を眺めながら俺はほっと一息ついた。どうやら話は完全にまとまったらしい。まあ入学時期に関しては自分で想像していたよりもかなり早かったが、長引いても不安がより増していくだけだ。俺はこれから始まる新生活にワクワクしながらも、一抹の不安を抱えながら両親の話に加わった。
「そうだリュヌ、学校では制服が支給されるけど絶対このローブは脱いじゃだめだぞ」
……友達何人できるかな、なんて少しワクワクしていたが、どうやら友達づくりの難易度は跳ね上がりそうだ。だって、どこからか取り出した真っ黒い怪しげなローブなんて羽織っていたら避けられまくりだろうし。
「……わかったよ父さん」
 初めての学校生活、何事もなく過ごせますように、なんて、後々考えてみれば叶いっこない願いを胸に俺は新生活へ思いを馳せるのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

僕はお別れしたつもりでした

まと
BL
遠距離恋愛中だった恋人との関係が自然消滅した。どこか心にぽっかりと穴が空いたまま毎日を過ごしていた藍(あい)。大晦日の夜、寂しがり屋の親友と二人で年越しを楽しむことになり、ハメを外して酔いつぶれてしまう。目が覚めたら「ここどこ」状態!! 親友と仲良すぎな主人公と、別れたはずの恋人とのお話。 ⚠️趣味で書いておりますので、誤字脱字のご報告や、世界観に対する批判コメントはご遠慮します。そういったコメントにはお返しできませんので宜しくお願いします。 大晦日あたりに出そうと思ったお話です。

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

主人公のライバルポジにいるようなので、主人公のカッコ可愛さを特等席で愛でたいと思います。

小鷹けい
BL
以前、なろうサイトさまに途中まであげて、結局書きかけのまま放置していたものになります(アカウントごと削除済み)タイトルさえもうろ覚え。 そのうち続きを書くぞ、の意気込みついでに数話分投稿させていただきます。 先輩×後輩 攻略キャラ×当て馬キャラ 総受けではありません。 嫌われ→からの溺愛。こちらも面倒くさい拗らせ攻めです。 ある日、目が覚めたら大好きだったBLゲームの当て馬キャラになっていた。死んだ覚えはないが、そのキャラクターとして生きてきた期間の記憶もある。 だけど、ここでひとつ問題が……。『おれ』の推し、『僕』が今まで嫌がらせし続けてきた、このゲームの主人公キャラなんだよね……。 え、イジめなきゃダメなの??死ぬほど嫌なんだけど。絶対嫌でしょ……。 でも、主人公が攻略キャラとBLしてるところはなんとしても見たい!!ひっそりと。なんなら近くで見たい!! ……って、なったライバルポジとして生きることになった『おれ(僕)』が、主人公と仲良くしつつ、攻略キャラを巻き込んでひっそり推し活する……みたいな話です。 本来なら当て馬キャラとして冷たくあしらわれ、手酷くフラれるはずの『ハルカ先輩』から、バグなのかなんなのか徐々に距離を詰めてこられて戸惑いまくる当て馬の話。 こちらは、ゆるゆる不定期更新になります。

転生したら貴族子息だった俺は死に場所を求める

リョウ
BL
王子主催の夜会が開かれた日頭の中に流れ込む記憶があった。 そして、前世を思い出した主人公はふと考えていたことを実行にうつそうと決心した。 死に場所を求めて行き着いた先には 基本主人公目線 途中で目線変わる場合あり。 なんでも許せる方向け 作者が読み漁りした結果こういうので書いてみたいかもという理由で自分なり書いた結果 少しでも気に入ってもらえたら嬉しく思います あーこれどっかみた設定とか似たようなやつあったなーってのをごちゃ混ぜににしてあるだけです BLですが必要と判断して女性キャラ視点をいれてあります。今後1部女性キャラ視点があります。 主人公が受けは確定です 恋愛までいくのに時間かかるかも? タグも増えたり減ったり 話の進み方次第です 近況報告も参照していただけたら幸いです。

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

光る穴に落ちたら、そこは異世界でした。

みぃ
BL
自宅マンションへ帰る途中の道に淡い光を見つけ、なに? と確かめるために近づいてみると気付けば落ちていて、ぽん、と異世界に放り出された大学生が、年下の騎士に拾われる話。 生活脳力のある主人公が、生活能力のない年下騎士の抜けてるとこや、美しく格好いいのにかわいいってなんだ!? とギャップにもだえながら、ゆるく仲良く暮らしていきます。 何もかも、ふわふわゆるゆる。ですが、描写はなくても主人公は受け、騎士は攻めです。

幽閉王子は最強皇子に包まれる

皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。 表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

【完】僕の弟と僕の護衛騎士は、赤い糸で繋がっている

たまとら
BL
赤い糸が見えるキリルは、自分には糸が無いのでやさぐれ気味です

処理中です...