聖女の証を義妹に奪われました。ただ証だけ持っていても意味はないのですけどね? など 恋愛作品集

にがりの少なかった豆腐

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従順そうな妹が良いとおっしゃいますが、本当にその子で大丈夫ですか?

呼び出し

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 監視が終わった2日後。私は学生寮の談話室に呼び出されていた。

 学生寮の談話室は基本的に予約制の部屋で、使用率はそれほど高くはありません。一々予約する手間もありますが、使用した者が最後に部屋を整えなければならないという規則が、貴族の者としてあまり受け入れられていないということなのでしょう。
 使用人に任せてしまえば事足りることではありますが、複数人で予約を取った場合、誰の使用人を使うかで揉めることがあるため、それが嫌で予約をしない人が多いのです。それに無関係な者に見られる可能性はあるものの空き教室はいくつもありますし、教室の清掃はそれを仕事にしている者が学園内に居ますので、そこを使用してしまえば面倒なことをしなくて済みますからね。

「失礼します。レインです」
「入れ」

 談話室のドアをノックして中へ声を掛けると、中から入室の許可が聞こえてきました。既に談話室へ来ている人が誰なのかがわかっているので、なるべく粗相のないように気を付けながら入ります。

「お久ぶりです、お父さま。それと――」

 談話室の中に居たのはお父さまとそのお付きで来ているコルト。そしてもう1人の男性とその付き人。

「二レス伯爵さまもお久しぶりですね」
「あ、ああそうだな」

 ニレス伯爵はグレイの父親です。
 今回、この談話室に集まった理由は私とグレイの婚約を破棄するための話し合いをするためのものです。なのでグレイも呼ばれているはずですが、まだ来ていないようですね。
 それに、ニレス伯爵が私に対して少し申し訳なさそうな態度を見せていますね。いえ、それはお父さまにもその態度は向けられているようです。

 おそらくグレイからの報告が嘘であったことを知ったのでしょう。もしかしたらお父さまがコルトに私たちの監視をさせたのと同じように、ニレス伯爵も監視役を付けていたのかもしれません。こちら側だけの情報だけではこうも態度は変わらないでしょうから、その可能性は高いでしょう。

「失礼します」

 その様な事を考えていると、いきなり談話室のドアが開き、グレイがそう言って中に入ってきました。中に目上の方が居ることがわかっているはずなのに、一切の確認を取らないのはなかなかに問題ある行動ですね。

 少し視線を動かしてみるとニレス伯爵が眉間を抑えているのが見えました。さすがに息子の行動に問題があることを認識しているようです。
 そしてグレイの方へ視線を向けてみると、グレイは私に向かって勝ち誇ったような表情を浮かべました。

 何故そこでそのような表情をするのかが理解できません。もしかして、この場が自分の意見が通って婚約が破棄されたとでも思っているのでしょうか。

 婚約破棄自体は確かにグレイの意図するところでしょうけれど、場の空気をもう少し読み取れるようになった方が良いと思うのですよね。
 ニレス伯爵が先ほどよりも険しい表情になっているところなど、察すべき箇所は多いと思いますから。

「グレイ。部屋の中に誰かが待機しているとわかっている場合は入室の許可を取ってから入ってきなさい」
「えぇ? ですが中に誰が居るのかはわかっていますし、別に構わないでしょう? そもそも私は呼ばれた側ですから」

 論外。お父さまの表情からきっぱりとそう読み取れました。ニレス伯爵の方は……ああ、もう完全に手で顔を覆ってしまっていますね。
 呼ばれたと言っても、招待ではないのです。普通に目上の方からの呼び出しですから、今のグレイの態度はあり得ないもの。気の短い方でしたら既に話し合いは無効か破談になっているでしょう。
 今回は婚約を破棄するための話し合いですから、そのようなことはないでしょうけれど、今後の立ち位置が大分変ることになりそうですね。

 ニレス伯爵は昔から子煩悩なところがありましたから、これまでかなりグレイの事を甘やかしてきたのでしょうね。最低限の作法すらできないところからして相当です。いえ、これはグレイ自身の気質でしょうか?

「それで、今回の話は私とレインの婚約を破棄する物で良いですよね?」

 どうしてグレイが話を進めるのでしょうかね? しかも最後に来ておいて謝罪の言葉もない上に、本来話を進めるべき両家の当主が居るというのに何様のつもりなのでしょうか。

「ニレス伯爵。先に話しておいた通りレインとその者の婚約は破棄で進める。それに伴い、契約の履行も白紙にする」
「は、はい。申し訳ありませんでした。我が愚息が……」
「謝罪は要らぬ」
「そ、そうですか」

 お父さまはグレイの言葉を無視して話を進めて行きます。むしろ存在すら無視しているのかもしれません。

 自分の事を無視されていることに気付いたグレイが不機嫌な表情をしていますが、口を出すべきではないことは理解しているのか、開きかけた口を閉じました。

 立場的にはニレス伯爵家よりも我が家の方が上です。同じ伯爵家とはいえ、経済状況や領地の大きさなどで上下はありますからね。我が家より下位に当たるニレス伯爵の息子であるグレイがこのような態度をとったのは、ニレス伯爵家にとって最悪な展開でしょう。
 それに我が家とニレス家は私たちの婚約を持って協力関係にあった訳です。それも今回の事で破談になった形ですね。

 ニレス伯爵にとってこの結果は最悪の事態でしょうが、家での教育が至らず自身の息子がやらかした結果なので、しっかりと受けてもらいませんとね。

 こうして私とグレイの婚約の破棄は書面に記載され正式に決定しました。
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