28 / 40
従順そうな妹が良いとおっしゃいますが、本当にその子で大丈夫ですか?
朝の学生会
しおりを挟む朝の一幕を終えた後、学生寮を出ました。
学生寮は学園の敷地内にあるため、学園の校舎までの移動にはそれほど時間はかかりません。えぇ、それほどかからないのです。問題は校舎の中。
長い歴史を持つこの学園は、時の流れとともに貴族の数が増えた際や学園長の威厳の誇示などによって校舎の増築を繰り返し、今ではとても広い建築物となっています。
校舎の端から端までの移動など、講義の間の時間では到底辿り着けないくらいには距離があります。まあ、そのような移動を求めるような講義は存在しませんので問題はないですし、実際に使われている教室など全体の半分を少し超える程度なので、使用されている教室がある範囲はそれほど広くはありません。
そんな感じの校舎に入ると、私は先に学生会室へ向かいます。学生会室は校舎の入り口からそう遠くない場所に位置しているため、比較的すぐに到着します。
これでも私は学生会の役員をしているのです。
学生会に入った理由はグレイに対する指摘に正当性を持たせるとか、指摘や注意を私とグレイのやり取りではなく、学生会の役員の注意として矛先の的を大きくする目的もあったのです。まあ、それも残念ながら今回の件で無に帰すことになってしまいましたけど。
学生会室のドアを開け、中に入ります。
時間が少し早いこともあり、部屋の中には誰もいませんでした。しかし、この時間に部屋の鍵が開いていたことからして、誰かが先に来ていることは確実でしょう。おそらく他の用事が出来て席を外しているのでしょうね。
学生会室に置かれている机に荷物を置きます。そしてそこから一番近い位置にある椅子に座り、前日に提示されている教師から要望書を確認します。
うーん。確認した限り、私が出来るようなことはないですね。ということは、今日は補助の予定は無しですか。
実のところ、学生会の仕事はそれほど多くは無いのです。校舎内の見回りは警備の騎士が常駐して見回っていますから、やるのは自由ですし、取り締まりなども貴族としての立場がありますから下手なことは出来ないので、基本的にそれは教師がしています。
では学生会の役員が何をやっているかというと、主な役割は教師の補助になります。あくまでも、参加している講義に限った話ではありますが、現状、ほぼすべての講義の補助が出来る程度には学生会に参加している生徒は存在しているのです。
多くの学生会の参加者は教師からの評価を上げるためにしているようなものですが。
「おや、もう誰か来ているようだね」
要望書の確認が終わり、時間つぶしのためにこの後の講義で使う資料を読み込んでいると、誰かが学生会室へ入ってきました。
学生会室に入ってきたのは副会長であるケイニー様。家格は侯爵家となるため、私よりも上の方で学年も1つ上になります。
「おはようございます。ケイニー様」
この方は私と同じように率先して教師の補助をしている方で、割と気の合う方ですね。
これまでも何度かこの方が婚約者だったらいいのに、と考えたことが有りましたが私には婚約者としてグレイが居ましたし、ケイニー様にも婚約者が居ますから叶わぬ願いでした。
「ああ、おはよう。レイン。学園の中では家格で上下関係を作ってはいけないという規則があるのだから、出来れば様付けは止めて欲しいのだけど」
「学園の規則ではそうかもしれませんが、実際のところ気にする方が多いので無理ですよ」
「私は気にしないのだけどね」
「こればかりはケイニー様に言われても難しいです」
本人が気にしていなくとも周囲の人がどう捉えるかなんてわかりませんからね。
学園に所属している学園生は家の家格を誇示してはならない。という規則があるのは事実です。ですが、先の事を考えればそんなことをするのは無理ですし、規則があったところで、それを無視している学園生を教師陣が取り締まれる訳でもないのです。
学園には教師が絶対上位という物もありますが、学園生の裏に付いている当主の影がある以上、強く出られない現状があります。
最初期の学園では、それが徹底されていたようですが今の状況を見る限り、それは疑わしいところですね。
これらについては私がどうこう思ったところでどうなるものではないので、この規則に従うのは悪手でしかないのです。
「残念だ。……ああ、そう言えば昨日は散々だったね」
「はい?」
「食堂での件だよ」
「見ていらしたのですか」
周囲に多くの学園生が居たとはいえ、ケイニー様にまで見られていたとは。恥ずかしい限りです。
「いや、直接は見ていないよ。他の人たちが噂にしていたから知ったんだ」
「あ、そういう事ですか」
直接見られていなかったことに安堵しますが、知られていることに変わりはありません。それに噂が広がっているのですか。普段から同じようにしているので似たような噂はいくらか流れたことが有りますけど、それは数日で収まる範囲でしたからね。今回の件は数日で収まりそうな気配が一切しないので、少々厄介そうです。
それを思うとあの時、もう少しグレイの事を抑えられていればと思わずにいられません。
―――――
次の更新は明日(2024年10月18日)のお昼となります。
290
お気に入りに追加
1,063
あなたにおすすめの小説
だってお義姉様が
砂月ちゃん
恋愛
『だってお義姉様が…… 』『いつもお屋敷でお義姉様にいじめられているの!』と言って、高位貴族令息達に助けを求めて来た可憐な伯爵令嬢。
ところが正義感あふれる彼らが、その意地悪な義姉に会いに行ってみると……
他サイトでも掲載中。
私を棄てて選んだその妹ですが、継母の私生児なので持参金ないんです。今更ぐだぐだ言われても、私、他人なので。
百谷シカ
恋愛
「やったわ! 私がお姉様に勝てるなんて奇跡よ!!」
妹のパンジーに悪気はない。この子は継母の連れ子。父親が誰かはわからない。
でも、父はそれでいいと思っていた。
母は早くに病死してしまったし、今ここに愛があれば、パンジーの出自は問わないと。
同等の教育、平等の愛。私たちは、血は繋がらずとも、まあ悪くない姉妹だった。
この日までは。
「すまないね、ラモーナ。僕はパンジーを愛してしまったんだ」
婚約者ジェフリーに棄てられた。
父はパンジーの結婚を許した。但し、心を凍らせて。
「どういう事だい!? なぜ持参金が出ないんだよ!!」
「その子はお父様の実子ではないと、あなたも承知の上でしょう?」
「なんて無礼なんだ! 君たち親子は破滅だ!!」
2ヶ月後、私は王立図書館でひとりの男性と出会った。
王様より科学の研究を任された侯爵令息シオドリック・ダッシュウッド博士。
「ラモーナ・スコールズ。私の妻になってほしい」
運命の恋だった。
=================================
(他エブリスタ様に投稿・エブリスタ様にて佳作受賞作品)
妹が私の婚約者と結婚しちゃったもんだから、懲らしめたいの。いいでしょ?
百谷シカ
恋愛
「すまない、シビル。お前が目覚めるとは思わなかったんだ」
あのあと私は、一命を取り留めてから3週間寝ていたらしいのよ。
で、起きたらびっくり。妹のマーシアが私の婚約者と結婚してたの。
そんな話ある?
「我がフォレット家はもう結婚しかないんだ。わかってくれ、シビル」
たしかにうちは没落間近の田舎貴族よ。
あなたもウェイン伯爵令嬢だって打ち明けたら微妙な顔したわよね?
でも、だからって、国のために頑張った私を死んだ事にして結婚する?
「君の妹と、君の婚約者がね」
「そう。薄情でしょう?」
「ああ、由々しき事態だ。私になにをしてほしい?」
「ソーンダイク伯領を落として欲しいの」
イヴォン伯爵令息モーリス・ヨーク。
あのとき私が助けてあげたその命、ぜひ私のために燃やしてちょうだい。
====================
(他「エブリスタ」様に投稿)
無実の罪で投獄されました。が、そこで王子に見初められました。
百谷シカ
恋愛
伯爵令嬢シエラだったのは今朝までの話。
継母アレハンドリナに無実の罪を着せられて、今は無力な囚人となった。
婚約関係にあるベナビデス伯爵家から、宝石を盗んだんですって。私。
そんなわけないのに、問答無用で婚約破棄されてしまうし。
「お父様、早く帰ってきて……」
母の死後、すっかり旅行という名の現実逃避に嵌って留守がちな父。
年頃の私には女親が必要だって言って再婚して、その結果がこれ。
「ん? ちょっとそこのお嬢さん、顔を見せなさい」
牢獄で檻の向こうから話しかけてきた相手。
それは王位継承者である第一王子エミリオ殿下だった。
「君が盗みを? そんなはずない。出て来なさい」
少し高圧的な、強面のエミリオ殿下。
だけど、そこから私への溺愛ライフが始まった……
私と婚約破棄して妹と婚約!? ……そうですか。やって御覧なさい。後悔しても遅いわよ?
百谷シカ
恋愛
地味顔の私じゃなくて、可愛い顔の妹を選んだ伯爵。
だけど私は知っている。妹と結婚したって、不幸になるしかないって事を……
私から略奪婚した妹が泣いて帰って来たけど全力で無視します。大公様との結婚準備で忙しい~忙しいぃ~♪
百谷シカ
恋愛
身勝手な理由で泣いて帰ってきた妹エセル。
でも、この子、私から婚約者を奪っておいて、どの面下げて帰ってきたのだろう。
誰も構ってくれない、慰めてくれないと泣き喚くエセル。
両親はひたすらに妹をスルー。
「お黙りなさい、エセル。今はヘレンの結婚準備で忙しいの!」
「お姉様なんかほっとけばいいじゃない!!」
無理よ。
だって私、大公様の妻になるんだもの。
大忙しよ。
大公殿下と結婚したら実は姉が私を呪っていたらしい
Ruhuna
恋愛
容姿端麗、才色兼備の姉が実は私を呪っていたらしい
そんなこととは知らずに大公殿下に愛される日々を穏やかに過ごす
3/22 完結予定
3/18 ランキング1位 ありがとうございます
私が妻です!
ミカン♬
恋愛
幼い頃のトラウマで男性が怖いエルシーは夫のヴァルと結婚して2年、まだ本当の夫婦には成っていない。
王都で一人暮らす夫から連絡が途絶えて2か月、エルシーは弟のような護衛レノを連れて夫の家に向かうと、愛人と赤子と暮らしていた。失意のエルシーを狙う従兄妹のオリバーに王都でも襲われる。その時に助けてくれた侯爵夫人にお世話になってエルシーは生まれ変わろうと決心する。
侯爵家に離婚届けにサインを求めて夫がやってきた。
そこに王宮騎士団の副団長エイダンが追いかけてきて、夫の様子がおかしくなるのだった。
世界観など全てフワっと設定です。サクっと終わります。
5/23 完結に状況の説明を書き足しました。申し訳ありません。
★★★なろう様では最後に閑話をいれています。
脱字報告、応援して下さった皆様本当に有難うございました。
他のサイトにも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる