26 / 53
従順そうな妹が良いとおっしゃいますが、本当にその子で大丈夫ですか?
翌日
しおりを挟むグレイから婚約を破棄しようと提案された翌日。
昨日の内にお父さまへグレイから婚約を破棄する提案を受けたことの報告は送っています。早ければ今日の内に返事が届くと思うのですが。
「あら?」
私に割り振られた学生寮の一室で朝の支度をしていると、ドアを叩く音が聞こえてきました。おそらく私が寮生活をする上で一緒について来ているメイドのレアによるものでしょう。
「お嬢様、中へ入ってもよろしいでしょうか?」
「入って良いわよ」
声を掛けられたことで相手が誰なのか判断出来たのですぐに私は入室の許可を出した。
「失礼します」
「何かあったのかしら、レア。いつもより早い時間だけど」
部屋に入ってきたレアにさっそく声を掛ける。
メイドであるレアは学園がある日は毎朝、私の支度を手伝いにくる。それはここへレアが居る理由ではあるのだけど、基本的にいつも同じ時間に部屋にやって来る。
そのため、少しではあるけれど、早く来た、という事は何かしらの理由があるという事なのでしょう。
「あ、はい。それなのですが、当主様からのことづけが一件」
当主から、という事は、昨日お父さまへ送った報告の返答が早朝にレアのところへ届いたという事ね。
「それと、それに関係して……」
「何かしら?」
何故かレアが言葉を言い淀んだため、その先を促すように問いかける。
「それが、あの……」
「すまないが時間が無いので、入らせてもらいますよ」
「は、え?」
「お嬢様失礼します」
レアが言い淀んでいる内に部屋の外で待機していたのだろう、人物が部屋の中に入ってきた。
その人物は、最近は見ていなかったものの見知っている人物だった。
「えっと、お父さまの秘書がどうしてここに?」
「昨日の報告について、そうレアが言っていましたよね? それに関係しての事です」
たしかにレアが『それに関係して』とは言っていた。ただ、その先の事を一切言わなかったので、すぐに目の前の光景が一致しなかった。
「ああそう。とりあえず、貴方がここに来たという事は、昨日私が送った報告についての返答を貴方が伝えてくれるという事で良いのかしら?」
「はい。それも含めて、いくつか質問があるのでお答えいただきたい」
「質問? まあ、いいですけれど……」
送った報告の返答を聞くだけだと思っていたのに、それについて質問されるなんてどうやら面倒なことになっているみたいね。
お父さまの執事、コルトは質問の準備として鞄の中から立ったままでも使える書版を取り出した。
質問に対する私の答えを書きとるものなのだろうけど、いつもとは違い少し手間のかかることをしているような気がしますね。いつも通りであれば、聞き取っただけで、そのまま直接お父さまや情報を管理している人たちに言伝で渡していたような記憶があるのですが、やはり婚約を破棄するというのはちゃんとした手続きが必要ということなのでしょう。
「昨日の報告についてですが、グレイ様から婚約破棄の提案をされたというのは本当のことですか?」
「? ええ、そうよ」
根本的な部分から疑われていることに少し疑問を持ちながらもそう答える。
「理由はお嬢さまが、グレイさまが複数の女性を侍らせていることを注意したという部分もですか?」
「うん、そうよ」
昨日の状況をほぼそのまま報告書に記載したのだけど、その内容自体が疑われているようね。まあ、婚約者が居る男性が他の女性を複数侍らせている、という状況は見ていなければ理解できないのはわかるけど。
「そうですか。……普段から、似たようなことをしているのでしょうか?」
「そうねぇ、頻繁とは言わないけど、数日に一回くらいかしら。グレイはあれでいて見た目は良いし上辺の愛想も良いから、他の女が寄って来るみたいなのよ」
昨日のことは初めてではない。あの時のように、婚約を破棄するといった話を出されたのは初めてではあるけれど、注意自体は普段から割としていた。
「……わかりました。お嬢さまからの報告についての質問はこれで終わり……いえ、もうしわけありません。もう1つありました。サシアさまとグレイさまを会わせる、というのは何処から来たのでしょうか。理由が理解できないとご当主が嘆いていましたが」
「えぇ、書いた通りなんだけど。一々注意してきて面倒な私よりも大人しくて従順そうに見えるサシアの方が良いって言うから、いっそのことサシアと会わせてその幻想を壊してあげようと思って、ね?」
私の言葉を聞いて、コルトは呆れたようにため息を吐いた
「最後の一言を省かないでください。その部分が無いと、どうして会わせようとしたのか、理由がさっぱりわかりませんでした」
「え、あ、あれ? 書いていなかったかしら? ごめんなさい、無意識の内に端折っていたのかも。でも、貴方だってある程度の理由は察することはできたのでしょう?」
「まあ、そうですね。ですが、確証を得ることは出来ませんでしたから」
コルトは少し疲れているような表情でそう言いながら書版に今の事を書き込んでいた。
341
お気に入りに追加
998
あなたにおすすめの小説

だってお義姉様が
砂月ちゃん
恋愛
『だってお義姉様が…… 』『いつもお屋敷でお義姉様にいじめられているの!』と言って、高位貴族令息達に助けを求めて来た可憐な伯爵令嬢。
ところが正義感あふれる彼らが、その意地悪な義姉に会いに行ってみると……
他サイトでも掲載中。
義妹の嫌がらせで、子持ち男性と結婚する羽目になりました。義理の娘に嫌われることも覚悟していましたが、本当の家族を手に入れることができました。
石河 翠
ファンタジー
義母と義妹の嫌がらせにより、子持ち男性の元に嫁ぐことになった主人公。夫になる男性は、前妻が残した一人娘を可愛がっており、新しい子どもはいらないのだという。
実家を出ても、自分は家族を持つことなどできない。そう思っていた主人公だが、娘思いの男性と素直になれないわがままな義理の娘に好感を持ち、少しずつ距離を縮めていく。
そんなある日、死んだはずの前妻が屋敷に現れ、主人公を追い出そうとしてきた。前妻いわく、血の繋がった母親の方が、継母よりも価値があるのだという。主人公が言葉に詰まったその時……。
血の繋がらない母と娘が家族になるまでのお話。
この作品は、小説家になろうおよびエブリスタにも投稿しております。
扉絵は、管澤捻さまに描いていただきました。

私を棄てて選んだその妹ですが、継母の私生児なので持参金ないんです。今更ぐだぐだ言われても、私、他人なので。
百谷シカ
恋愛
「やったわ! 私がお姉様に勝てるなんて奇跡よ!!」
妹のパンジーに悪気はない。この子は継母の連れ子。父親が誰かはわからない。
でも、父はそれでいいと思っていた。
母は早くに病死してしまったし、今ここに愛があれば、パンジーの出自は問わないと。
同等の教育、平等の愛。私たちは、血は繋がらずとも、まあ悪くない姉妹だった。
この日までは。
「すまないね、ラモーナ。僕はパンジーを愛してしまったんだ」
婚約者ジェフリーに棄てられた。
父はパンジーの結婚を許した。但し、心を凍らせて。
「どういう事だい!? なぜ持参金が出ないんだよ!!」
「その子はお父様の実子ではないと、あなたも承知の上でしょう?」
「なんて無礼なんだ! 君たち親子は破滅だ!!」
2ヶ月後、私は王立図書館でひとりの男性と出会った。
王様より科学の研究を任された侯爵令息シオドリック・ダッシュウッド博士。
「ラモーナ・スコールズ。私の妻になってほしい」
運命の恋だった。
=================================
(他エブリスタ様に投稿・エブリスタ様にて佳作受賞作品)
もう私、好きなようにさせていただきますね? 〜とりあえず、元婚約者はコテンパン〜
野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
ファンタジー
「婚約破棄ですね、はいどうぞ」
婚約者から、婚約破棄を言い渡されたので、そういう対応を致しました。
もう面倒だし、食い下がる事も辞めたのですが、まぁ家族が許してくれたから全ては大団円ですね。
……え? いまさら何ですか? 殿下。
そんな虫のいいお話に、まさか私が「はい分かりました」と頷くとは思っていませんよね?
もう私の、使い潰されるだけの生活からは解放されたのです。
だって私はもう貴方の婚約者ではありませんから。
これはそうやって、自らが得た自由の為に戦う令嬢の物語。
※本作はそれぞれ違うタイプのざまぁをお届けする、『野菜の夏休みざまぁ』作品、4作の内の1作です。
他作品は検索画面で『野菜の夏休みざまぁ』と打つとヒット致します。

大公殿下と結婚したら実は姉が私を呪っていたらしい
Ruhuna
恋愛
容姿端麗、才色兼備の姉が実は私を呪っていたらしい
そんなこととは知らずに大公殿下に愛される日々を穏やかに過ごす
3/22 完結予定
3/18 ランキング1位 ありがとうございます
ハズレ嫁は最強の天才公爵様と再婚しました。
光子
恋愛
ーーー両親の愛情は、全て、可愛い妹の物だった。
昔から、私のモノは、妹が欲しがれば、全て妹のモノになった。お菓子も、玩具も、友人も、恋人も、何もかも。
逆らえば、頬を叩かれ、食事を取り上げられ、何日も部屋に閉じ込められる。
でも、私は不幸じゃなかった。
私には、幼馴染である、カインがいたから。同じ伯爵爵位を持つ、私の大好きな幼馴染、《カイン=マルクス》。彼だけは、いつも私の傍にいてくれた。
彼からのプロポーズを受けた時は、本当に嬉しかった。私を、あの家から救い出してくれたと思った。
私は貴方と結婚出来て、本当に幸せだったーーー
例え、私に子供が出来ず、義母からハズレ嫁と罵られようとも、義父から、マルクス伯爵家の事業全般を丸投げされようとも、私は、貴方さえいてくれれば、それで幸せだったのにーーー。
「《ルエル》お姉様、ごめんなさぁい。私、カイン様との子供を授かったんです」
「すまない、ルエル。君の事は愛しているんだ……でも、僕はマルクス伯爵家の跡取りとして、どうしても世継ぎが必要なんだ!だから、君と離婚し、僕の子供を宿してくれた《エレノア》と、再婚する!」
夫と妹から告げられたのは、地獄に叩き落とされるような、残酷な言葉だった。
カインも結局、私を裏切るのね。
エレノアは、結局、私から全てを奪うのね。
それなら、もういいわ。全部、要らない。
絶対に許さないわ。
私が味わった苦しみを、悲しみを、怒りを、全部返さないと気がすまないーー!
覚悟していてね?
私は、絶対に貴方達を許さないから。
「私、貴方と離婚出来て、幸せよ。
私、あんな男の子供を産まなくて、幸せよ。
ざまぁみろ」
不定期更新。
この世界は私の考えた世界の話です。設定ゆるゆるです。よろしくお願いします。

無実の罪で投獄されました。が、そこで王子に見初められました。
百谷シカ
恋愛
伯爵令嬢シエラだったのは今朝までの話。
継母アレハンドリナに無実の罪を着せられて、今は無力な囚人となった。
婚約関係にあるベナビデス伯爵家から、宝石を盗んだんですって。私。
そんなわけないのに、問答無用で婚約破棄されてしまうし。
「お父様、早く帰ってきて……」
母の死後、すっかり旅行という名の現実逃避に嵌って留守がちな父。
年頃の私には女親が必要だって言って再婚して、その結果がこれ。
「ん? ちょっとそこのお嬢さん、顔を見せなさい」
牢獄で檻の向こうから話しかけてきた相手。
それは王位継承者である第一王子エミリオ殿下だった。
「君が盗みを? そんなはずない。出て来なさい」
少し高圧的な、強面のエミリオ殿下。
だけど、そこから私への溺愛ライフが始まった……

お花畑な母親が正当な跡取りである兄を差し置いて俺を跡取りにしようとしている。誰か助けて……
karon
ファンタジー
我が家にはおまけがいる。それは俺の兄、しかし兄はすべてに置いて俺に勝っており、俺は凡人以下。兄を差し置いて俺が跡取りになったら俺は詰む。何とかこの状況から逃げ出したい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる