聖女の証を義妹に奪われました。ただ証だけ持っていても意味はないのですけどね? など 恋愛作品集

にがりの少なかった豆腐

文字の大きさ
上 下
22 / 53
いまさら愛せと言われましても

出会いは

しおりを挟む
 
 ロレスとの出会いは彼と出会うよりもずいぶんと前だった。
 私とロレスの関係は遠方の親戚にあたる。その家は我が家と同じく子爵家にあたり、子爵家の内での家格もほぼ同じくらい。
 歳はロレスの方が2つ程上ではあるものの、貴族の婚姻で男性側の方が年が上であるのは普通であるし、私としても婚約するにあたり特に忌避感はなかった。

 当時はお互いにこれといった恋意識はなかったものの、何かと惹かれ合う部分はあった。しかし、会っていた時もあくまで親戚筋の歳が近い者ということだったため、互いの婚約者候補として名が上がることもなく、そして私に婚約者が出来たことで、それからは殆ど会うことはなかった。

 しかし、私の婚約が破棄されたことで、もう一度ロレスに会う機会が訪れたのだ。そして、どうやらロレスの方も私と同じく婚約者がいなくなってしまっていたらしく、途方に暮れていた。故に互いに行く遅れにならないようにと親戚ではあるけれど、婚約者として関係を再構築することになった。

 そこからは小さい頃の思い出話に花を咲かせて、気持ちを確かめ合って、今に至るわけです。彼には関係ない話ですけれどね。


「ああそうかよ」

 私が発した言葉を聞いた彼の表情が一気に黒くなる。色合いがという訳ではなく、怒気を通り越して表情が抜け落ちているものの殺意を秘めているような明らかに危ない表情だ。

「仕方ない」

 彼はそう言うと着ていた服の内側に手を入れた。そして、服の内側から出した手には大き目のナイフのような刃物が握られていた。

「お前が居なくなれば俺がその位置につけるよな。いや、無理やりにでもつかせてもらうが」
「この場でそのような物を出すとは、正気ですか?」

 彼が刃物を取り出したことに気付いたロレスがすぐに警戒し、彼に問いかける。それと同時に、突然のことで呆けていた私はロレスの手によって少しでも距離を取るようにと数歩後ろに下げられた。

 近くに待機していた使用人たちも、彼が武器を手にしたことに気付いたようで、一部は別の場所へ応援を呼びに行ったようです。残った者たちは何かあった際にすぐ彼を取り押さえられるよう先程よりも近くで待機しています。

「何だ説得でもするつもりか? 死にたくないからって今更過ぎるだろ」
「いえ、そんなつもりは一切ありませよ。ただ、本当に馬鹿なことをしているな、と思っただけです」

 本当に呆れかえっているのがわかる表情でロレスが彼へ返事する。それを聞いた彼は怒り心頭といった感じで顔を赤く染めた。

「そんなに死にてぇならさっさと死ねよ!」

 そう言うよりも早く彼はロレスに向かってナイフを突き出した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

だってお義姉様が

砂月ちゃん
恋愛
『だってお義姉様が…… 』『いつもお屋敷でお義姉様にいじめられているの!』と言って、高位貴族令息達に助けを求めて来た可憐な伯爵令嬢。 ところが正義感あふれる彼らが、その意地悪な義姉に会いに行ってみると…… 他サイトでも掲載中。

妹が私の婚約者と結婚しちゃったもんだから、懲らしめたいの。いいでしょ?

百谷シカ
恋愛
「すまない、シビル。お前が目覚めるとは思わなかったんだ」 あのあと私は、一命を取り留めてから3週間寝ていたらしいのよ。 で、起きたらびっくり。妹のマーシアが私の婚約者と結婚してたの。 そんな話ある? 「我がフォレット家はもう結婚しかないんだ。わかってくれ、シビル」 たしかにうちは没落間近の田舎貴族よ。 あなたもウェイン伯爵令嬢だって打ち明けたら微妙な顔したわよね? でも、だからって、国のために頑張った私を死んだ事にして結婚する? 「君の妹と、君の婚約者がね」 「そう。薄情でしょう?」 「ああ、由々しき事態だ。私になにをしてほしい?」 「ソーンダイク伯領を落として欲しいの」 イヴォン伯爵令息モーリス・ヨーク。 あのとき私が助けてあげたその命、ぜひ私のために燃やしてちょうだい。 ==================== (他「エブリスタ」様に投稿)

私と婚約破棄して妹と婚約!? ……そうですか。やって御覧なさい。後悔しても遅いわよ?

百谷シカ
恋愛
地味顔の私じゃなくて、可愛い顔の妹を選んだ伯爵。 だけど私は知っている。妹と結婚したって、不幸になるしかないって事を……

私を棄てて選んだその妹ですが、継母の私生児なので持参金ないんです。今更ぐだぐだ言われても、私、他人なので。

百谷シカ
恋愛
「やったわ! 私がお姉様に勝てるなんて奇跡よ!!」 妹のパンジーに悪気はない。この子は継母の連れ子。父親が誰かはわからない。 でも、父はそれでいいと思っていた。 母は早くに病死してしまったし、今ここに愛があれば、パンジーの出自は問わないと。 同等の教育、平等の愛。私たちは、血は繋がらずとも、まあ悪くない姉妹だった。 この日までは。 「すまないね、ラモーナ。僕はパンジーを愛してしまったんだ」 婚約者ジェフリーに棄てられた。 父はパンジーの結婚を許した。但し、心を凍らせて。 「どういう事だい!? なぜ持参金が出ないんだよ!!」 「その子はお父様の実子ではないと、あなたも承知の上でしょう?」 「なんて無礼なんだ! 君たち親子は破滅だ!!」 2ヶ月後、私は王立図書館でひとりの男性と出会った。 王様より科学の研究を任された侯爵令息シオドリック・ダッシュウッド博士。 「ラモーナ・スコールズ。私の妻になってほしい」 運命の恋だった。 ================================= (他エブリスタ様に投稿・エブリスタ様にて佳作受賞作品)

婚約者様。現在社交界で広まっている噂について、大事なお話があります

柚木ゆず
恋愛
 婚約者様へ。  昨夜参加したリーベニア侯爵家主催の夜会で、私に関するとある噂が広まりつつあると知りました。  そちらについて、とても大事なお話がありますので――。これから伺いますね?

婚約破棄?から大公様に見初められて~誤解だと今更いっても知りません!~

琴葉悠
恋愛
ストーリャ国の王子エピカ・ストーリャの婚約者ペルラ・ジェンマは彼が大嫌いだった。 自由が欲しい、妃教育はもううんざり、笑顔を取り繕うのも嫌! しかし周囲が婚約破棄を許してくれない中、ペルラは、エピカが見知らぬ女性と一緒に夜会の別室に入るのを見かけた。 「婚約破棄」の文字が浮かび、別室に飛び込み、エピカをただせば言葉を濁す。 ペルラは思いの丈をぶちまけ、夜会から飛び出すとそこで運命の出会いをする──

【完結】旦那様、わたくし家出します。

さくらもち
恋愛
とある王国のとある上級貴族家の新妻は政略結婚をして早半年。 溜まりに溜まった不満がついに爆破し、家出を決行するお話です。 名前無し設定で書いて完結させましたが、続き希望を沢山頂きましたので名前を付けて文章を少し治してあります。 名前無しの時に読まれた方は良かったら最初から読んで見てください。 登場人物のサイドストーリー集を描きましたのでそちらも良かったら読んでみてください( ˊᵕˋ*) 第二王子が10年後王弟殿下になってからのストーリーも別で公開中

もう私、好きなようにさせていただきますね? 〜とりあえず、元婚約者はコテンパン〜

野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
ファンタジー
「婚約破棄ですね、はいどうぞ」 婚約者から、婚約破棄を言い渡されたので、そういう対応を致しました。 もう面倒だし、食い下がる事も辞めたのですが、まぁ家族が許してくれたから全ては大団円ですね。 ……え? いまさら何ですか? 殿下。 そんな虫のいいお話に、まさか私が「はい分かりました」と頷くとは思っていませんよね? もう私の、使い潰されるだけの生活からは解放されたのです。 だって私はもう貴方の婚約者ではありませんから。 これはそうやって、自らが得た自由の為に戦う令嬢の物語。 ※本作はそれぞれ違うタイプのざまぁをお届けする、『野菜の夏休みざまぁ』作品、4作の内の1作です。    他作品は検索画面で『野菜の夏休みざまぁ』と打つとヒット致します。

処理中です...