聖女の証を義妹に奪われました。ただ証だけ持っていても意味はないのですけどね? など 恋愛作品集

にがりの少なかった豆腐

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婚約破棄? いえ、そもそも貴方の家は先日お取り潰しになっていますよ?

閑話 またとない機会 ※キレス視点

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 私には婚約者はいない。正確に言えば婚約者候補は数人いるが正式に決まっている訳ではない。なので、候補者以外に婚約を求めることは別に問題はなかった。
 しかし貴族社会の中で、上位爵位の者であっても婚約者が居る相手に婚約を求めるのは外聞が悪い。罪に問われるようなことではないが体裁を重んじる貴族としては、そのような事をするのはご法度でしかない。

 この考えがあることによって私の初恋は幕を閉じた……ように見えた。そう、今回の件でその相手である息子がノエルの婚約者から外れることになったのだ。

 その相手の両親が不正を行ったことで、処刑が実行されることになれば、ほぼ確実に家は取り潰しになるだろう。そうなればその家の息子も貴族の籍から外れることになる。
 
 その不正を知ることになったのは偶然だった。侯爵家を継ぐ者として父上からの買合いを進める中で情報を集めていたところ、不自然な金銭の動きがあったのだ。そしてそれを調べて行くとその相手の家名が出てきた形だ。
 これを見つけた時、私は歓喜した。既に婚約している相手がそうではなくなるのはそうそうない。これは、またとない機会だったのだ。

 基本的に貴族の婚約は家同士のつながりを求めて行うものだ。例外もあるが、早々あるものでもない。
 だから、貴族ではなくなった相手を何時までも婚約者として留めておくことはない。例外として、過去に貴族籍から外れた者がそのまま婚約者と婚姻を結んだこともあるが、それは籍を向けた側に責が無く、また元は上の爵位だったため、降爵したという形にして婚姻を進めた形だ。

 ただ、今回に限ればその相手も不正に関わっているようである以上、そのような措置はとられないだろう。だからこそ私はそれを聞いて喜んだわけだが。

「父上の方へ報告を回しておいてくれ。あの家は早急に潰しておかなければ」
「今回の件が確実だとわかった時点で旦那様への報告はしております」
「それは助かる。それと、この書類も父上の方へ送って欲しいのだが」

 事前に用意していた婚約者についての提案をまとめた書類が入った手紙を執事に渡す。

「承知しました」

 執事はそう言って手紙を受け取るとすぐに懐へそれをしまう。
 これでこの報告が終わればすぐに父上のところへ届けれくれるだろう。他の者に取られるわけにはいかないのだ。取れる先手は取るべきだろう。


 そうして、報告が終わると同時に執事が私の元から離れて行った。

 父上は普段から私の婚約者について自分で決めろと言っている。さらに言えば候補者以外からでも問題はないとの言質を貰ってもいる。高確率で手紙に書いた内容は受け入れてもらえるだろう。問題があるとすれば彼女の家だが、両親の方は家格の関係でこちらが提案すれば断ることは無いだろう。しかし、彼女の方はどうなるのかはわからない。

 いや、断りはしないだろう。

 彼女も貴族だ。両親と同じように家格から拒否することは出来ないはずだ。私から婚約の打診を受ければ、内心どう思おうと断ることは出来ないものだ。
 強引に婚約に持ち込みたくはないという思いはあるが、あちらから私へ婚約の打診を持ってくることはあり得ないだろう。伯爵家の者が侯爵家の者へ婚約の打診をする等普通ならあり得ないのだから仕方がない事だ。

 ならば、最初がどうあろうとも婚姻を結ぶまでに私の事を好きになって貰えば良いのではないか。

 そう私はまだ先、いや、もうすぐ起こるであろうことを少し先走りながら考え続けていた。


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