UWWO ~無表情系引きこもり少女は暗躍する?~

にがりの少なかった豆腐

文字の大きさ
上 下
257 / 260
ハウジングとイベント

84:新しいレシピ

しおりを挟む
 
 軟化剤の作り方を教えてもらうことになり、ガルスが材料を取りに工房の奥に行った。
 お店の方はガルスが奥に行く前に離席中の立て札を置いていたので問題はない。

「軟化剤で使う素材はこれだ」

 奥から戻ってきたガルスがそう言いながら作業台の上に素材を3つ置いた。その内の2つは見覚えがあったが、残り1つの素材は見たことがないものだった。

「こっちからダン木の実、マッヒカン茸、水面菊の3つだな。他には水と塩が必要だ。軟化剤自体の作り方はそこまで難しくないが、この素材を集めるのが少し面倒なのがネックだな」

 ダン木の実もマッヒカン茸も第3エリアに生えている素材だし、数もそれほど手に入らないからちょっと面倒だね。前に教えてもらった強化剤の素材にもマッヒカン茸があったし、実の方じゃなかったけどダン木の枝も使ったから、この2種類は防具関係の薬剤によく使うのかもしれない。

 そういえばダン木の実と枝は手に入れたことはあるけど、樹木の方は見たことがないような、第3エリアで樹を伐採しているときにも手に入れたこともないし、どこに生えているんだろうか。

 あとは今まで見たことのない水面菊。名前的に水の中に生えている植物だと思うけど、これがどこに生えているのかわからない。今まで水中の素材を採取しようとしたことがなかったから、水生植物は結構盲点だったな。
 師匠問題が解決したらちょっと探しに行ってみよう。

「軟化剤はダン木の実をすり潰して一度ペースト状にしたものと、マッヒカン茸と水面菊を細かく刻んだものを、一緒に煮込むことで完成する。途中の火加減さえ気を付けていればそこまで難しくはない」

 説明しながらガルスは私の前にすり鉢と鍋、素材を刻む用の包丁セットを用意してくれた。
 やることは簡単だし失敗はしないかな。ちょっと煮込むとどうなるかがわからないからそこが一番心配どころだけど。

「今の説明でわからないところは、……ないようだな。それじゃあ、とりあえず説明したとおりに作ってみてくれ」
「はい」

 前に強化剤を教えてもらった時は材料はこっち持ちだったけど、調合用の道具は貸してくれたし、ガルスってかなり親切だよね。他の師匠もこんな感じなのか、ガルスが特別親切なのか。まあ、多分後者なのだろうね。最初に装備を作ってもらった時も素材を融通してくれたし。

 説明してもらった通り、ダン木の実をすり鉢ですりつぶして、マッヒカン茸と水面菊を細かく刻む。そしてそれを水と塩を入れた鍋の中に投入して工房に設置されているコンロの上に置いて火にかけた。

「火加減は弱めにしてくれ。沸騰してしまうとダン木の実の粘りが強く出てしまって軟化剤として使えなくなるからな」
「うん」

 沸騰NGね。確かに現実でも粘度が高い液体を沸騰させると酷いことになるから気を付けないとね。

 火加減に気を付けながら、鍋の中に入れた物をしっかり混ざるように撹拌する。次第にダン木の実ペーストと水が混ざりはじめ、とろみが付き液体が白濁していく。そして徐々にマッヒカン茸と水面菊の成分が溶け出してきたのか茶色がかってきた、……かと思ったら一気に薄青色の透明感のある液体に変わった。

「え?」
 
 突然の変化に驚いて声を上げてしまう。
 茸と植物が入っているから茶系の色に落ち着くと思っていたら急激に色が変化して最後には透明な薄青色になるとか想像できないでしょ。

「どうした? ああ、完成したのか」

 これで成功なのか。いや、まあ失敗しているような色合いではないけどさ。何がどう変化してこの色になったのだろう。ダン木の実のペーストとか一切透明感がないのにどうしてこうなる? 青色要素どこにもないよ。

「QuはCか。初めて作ったにしては上出来だろう」

 驚いていて【鑑定】するのを忘れていたけど、確認してみれば確かにQuはCだった。効果はガルスの言っていた通り硬質な皮素材を柔らかくさせるための薬剤と書かれている。
 他に効果はなさそうなので皮を柔らかくさせるだけの薬剤なのだろう。

「軟化剤ができたわけだが、さっきの素材で試してみるか?」

 軟化剤を瓶に移し終えたところで、ガルスからそう提案される。

「今日はいい」
「ふむ、そうか」

 オーレスワイバーンの素材はもう少し数が集まってから何かを作る時にいっぺんに加工したい。

 使った道具を【生活魔法】のクリーンを使ってきれいにして、ガルスに手渡したところで工房の床が視界に入った。

「うん?」

 今まで気にしていなかったけど工房の床に使われている木材、イスタットの宿屋に使われていた木材の色と似ているような。よく見るとちょっと違う色合いだけどこの木材の色の木材も見たことないのだよね。色は違うけど多分同じ系統のものだよね?

「どうかしたか?」

 道具を手渡したところで不自然に動かなくなった私が心配になったのか、ガルスが私の様子を伺うように顔を覗き込んできた。

「この床に使われている木材って何が使われているの?」
「床材? ここで使っているのはイスタットで取れるケンロク樹の板材だな」

 ケンロク樹ならここに来る前に伐採したし、やっぱり何かしらの加工がされているということか。

「色が元と違うのは何か加工されているから?」
「そうだな。工房で使うにはそのままだと耐久値が低いから、防火処理と防腐処理を施している」
「なるほど。イスタットの宿屋も同じようなものが使われていたけど」
「ああ、だから気になったのか。イスタットは火を扱う工房が多いからな。その周辺にある建物は基本、防火処理を施したものが使われているんだ」

 なるほど防火処理か。確かにイスタットは鍛冶が主要産業って設定があるし、それで宿屋に使われていた木材が防火処理を施されたものだったということね。

「興味があるなら、これも教えるが」
「本当に?」
「専門じゃないから基本的なレシピしか教えることはできないが、それでいいならいいぞ」

 ガルスのその言葉に頷き、木材用の防火、防腐処理用の薬品の作り方を教えてもらってから、師匠の話を聞きに行くためギルドに向かった。



 ―――――
 最後に教えてもらった薬剤はハウジング用の物のため、杖や盾などに要居られる木材に使っても効果を発揮しない。
 また、このレシピは基本的なもののため、どこかの書庫や図書館へ行けば見つけられるものです。専門ではないガルスが教えられたのはこれのおかげ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

追い出された万能職に新しい人生が始まりました

東堂大稀(旧:To-do)
ファンタジー
「お前、クビな」 その一言で『万能職』の青年ロアは勇者パーティーから追い出された。 『万能職』は冒険者の最底辺職だ。 冒険者ギルドの区分では『万能職』と耳触りのいい呼び方をされているが、めったにそんな呼び方をしてもらえない職業だった。 『雑用係』『運び屋』『なんでも屋』『小間使い』『見習い』。 口汚い者たちなど『寄生虫」と呼んだり、あえて『万能様』と皮肉を効かせて呼んでいた。 要するにパーティーの戦闘以外の仕事をなんでもこなす、雑用専門の最下級職だった。 その底辺職を7年も勤めた彼は、追い出されたことによって新しい人生を始める……。

我が家に子犬がやって来た!

もも野はち助(旧ハチ助)
ファンタジー
【あらすじ】ラテール伯爵家の令嬢フィリアナは、仕事で帰宅できない父の状況に不満を抱きながら、自身の6歳の誕生日を迎えていた。すると、遅くに帰宅した父が白黒でフワフワな毛をした足の太い子犬を連れ帰る。子犬の飼い主はある高貴な人物らしいが、訳あってラテール家で面倒を見る事になったそうだ。その子犬を自身の誕生日プレゼントだと勘違いしたフィリアナは、兄ロアルドと取り合いながら、可愛がり始める。子犬はすでに名前が決まっており『アルス』といった。 アルスは当初かなり周囲の人間を警戒していたのだが、フィリアナとロアルドが甲斐甲斐しく世話をする事で、すぐに二人と打ち解ける。 だがそんな子犬のアルスには、ある重大な秘密があって……。 この話は、子犬と戯れながら巻き込まれ成長をしていく兄妹の物語。 ※全102話で完結済。 ★『小説家になろう』でも読めます★

スキル盗んで何が悪い!

大都督
ファンタジー
"スキル"それは誰もが欲しがる物 "スキル"それは人が持つには限られた能力 "スキル"それは一人の青年の運命を変えた力  いつのも日常生活をおくる彼、大空三成(オオゾラミツナリ)彼は毎日仕事をし、終われば帰ってゲームをして遊ぶ。そんな毎日を繰り返していた。  本人はこれからも続く生活だと思っていた。  そう、あのゲームを起動させるまでは……  大人気商品ワールドランド、略してWL。  ゲームを始めると指先一つリアルに再現、ゲーマーである主人公は感激と喜び物語を勧めていく。  しかし、突然目の前に現れた女の子に思わぬ言葉を聞かさせる……  女の子の正体は!? このゲームの目的は!?  これからどうするの主人公!  【スキル盗んで何が悪い!】始まります!

冤罪を掛けられて大切な家族から見捨てられた エアコンまとめ

エアコン
恋愛
冤罪を掛けられて大切な家族から見捨てられた とエアコンの作品色々

月が導く異世界道中

あずみ 圭
ファンタジー
 月読尊とある女神の手によって癖のある異世界に送られた高校生、深澄真。  真は商売をしながら少しずつ世界を見聞していく。  彼の他に召喚された二人の勇者、竜や亜人、そしてヒューマンと魔族の戦争、次々に真は事件に関わっていく。  これはそんな真と、彼を慕う(基本人外の)者達の異世界道中物語。  漫遊編始めました。  外伝的何かとして「月が導く異世界道中extra」も投稿しています。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

処理中です...