228 / 260
ハウジングとイベント
61:隣の芝
しおりを挟む気まずい。
相手のプレイヤーも私の存在に気づいて戸惑っているのか、こちらを見て動く様子が見られない。
こういう時って別に何があるというわけではないのだけど、なんとなく同じ方へ進もうとしているプレイヤーがいると、ちょっとタイミングをずらしたくなるのだよね。
知り合いだったとしても本当に親しければいいのだけれど、顔見知りとか少しだけ一緒にプレイしたことがあるくらいだと気が引けるというか。そういう意図がないとはいえ、ストーカーっぽくなるのが嫌というか。
相手にそう思われる可能性が少しでもあるというのがモヤモヤする感じ。
見る限り今まで会ったことのないプレイヤーなのだけど、なんとなく私と同じ気配がするし、同じように動きが止まっているということは多分そういうことなのだと思う。
それとあのプレイヤーは白いコートを羽織っていて、その隙間から見える防具も白系のものでまとめられていて森の中では相当目立つ見た目のはずなのに、そういった印象はほとんど受けないのだよね。なんとなく意図的にあのプレイヤーから意識を逸らされているような気配。
それに視界に入るまで気づけなかったということは、あのプレイヤーも【認識阻害】系のスキルか、その効果が付いている装備を持っているということだ。
意図してそういうことをしているということは、私と同じようにソロプレイヤーだろうし、あまり他のプレイヤーと一緒にプレイしたくない人なのだと思う。勝手な妄想だけど。
ただ、このままだと気まずいので、敵意はないと示すために軽く会釈だけしておく。無視して他の方行へ進んでもいいのだけど、それはそれで視線が合ってしまった相手にするのは失礼な気がする。ゲームの中だし問題はないのだけどね。
私が会釈すると相手も同じように小さく会釈してくれた。そして、そのプレイヤーは私から視線を外して川の向こうに視線を移した。
その様子にこちらを気にする必要がないと理解したのかな、と思ったところでそのプレイヤーの背中から羽が生えて、ぴょーんと一跳びで幅が10メートルはある川を軽々と飛び越えていった。
それはずるくない?
RACEの特性という意味では私も人のことを言えないとは思うけど、ヴァンパイアは戦闘系の特性だし、移動とかちょっとしたことを補助してくれる系の特性は羨ましい。
まあ、隣の芝生は青く見えるってやつなのだけど。
今のステータスでも流石に10メートル以上を一気に跳び越えていくのは、しっかり舗装されている場所じゃなければ無理だ。川辺は結構大きめな石が乱雑に堆積しているから、ジャンプの踏み込みをするには向いていないし着地にも向いていない。助走をつけて跳ぼうとすれば絶対に滑って転ぶ。最悪、中途半端に跳んで川の中に落ちかねない。
なので確実に目の前の川の向こうに行くには、最初に利用した橋脚が残っている場所まで移動しないといけない。
だからあのプレイヤーも同じように橋脚の場所まで行くと思ったのだけど、そうではなかったようだ。
ジャンプするようなスキルがあればいけるかもしれないけれど、私はそのスキルを取得していないし取得可能一覧にも記載されていない。
少し前のアップデートで一部スキルの取得条件が緩和されて、移動に使える【走法】や【跳躍】といったスキルの取得が簡単になったから、少し頑張れば取得可能にはなると思うのだけどね。
どれだけ時間が掛かるかわからないから、今それをやろうとは思わないけども。
とりあえず、あのプレイヤーも先に進んでいったので私もこのままここにいないで、川を渡るために橋脚があった場所まで移動することにしよう。
川辺を進んで私が最初に川を渡った時に見つけた橋の残骸である橋脚のある場所に到着した。
橋脚は私が使っていた時と同じまま、誰の手も入っていない状態で残っていた。
掲示板で橋を修復するとSTP/SKPが手に入るっていう情報が出ていたのだけど、誰も手を出していないのか。おそらくここがあの廃村から一番近い橋のはずなのだけどな。
距離とか周囲のエネミーの強さとか、割と狙い目の橋だと思っていたのだけど、他のプレイヤーにとっては違うのだろうか。
それとも川を渡る分には問題ないから誰も修復しないのかな。
そんなことを考えながら橋脚の前までやって来ると目の前にウィンドウが表示された。
『この橋は修復することが可能です。
必要スキル:【木工】50%以上
必要素材:木材(角)Qu:C以上 100
:木材(板)Qu:C以上 200
:丸太Qu:B以上 10 』
前にここにきた時にはこのウィンドウは表示されなかったのだけど、今回は表示されるのか。
これは条件を満たしたから出るようになったということだよね。そうではなかったら最初の段階で出ているはずだし。
修復条件に【木工】のスキルがあるから、それを取得していれば表示されるようになる感じなのかな。そうだとすれば【木工】スキルはそれほど人気がないらしいし、取得している人が少ないから修復できるプレイヤーがここまで来れていないというだけかもしれない。
ただ、私の【木工】スキルの熟練度ってようやく40%を超えたところなのだよね。廃村の復興素材として丸太を大量に送っていたから、【伐採】スキルは2次スキルの【上級伐採】まで上がっているのだけど。
とにかく【木工】スキルの条件を満たせていないから、生産用の道具を持っていたとしても今この場で修復するのは無理だ。修復に必要な木材を加工していれば50%を超えるかもしれないけど、今やりたいことではないから放置かな。
1人でやる分にはSKP/STPは美味しいし、他の生産スキルに比べてあまり上がっていない【木工】の熟練度も上げられるからやってもいいとは思うのだけど、結構時間が持っていかれそうだよね。少なくとも素材の加工だけで2時間くらいはかかりそうだし。
まあ、今優先すべきは初期地点に戻ることだし、ここであれこれ考えていたところで意味はない。さくさく進んでいこう。
11
↓
私はかわいいテイムモンスターたちに囲まれてゲームの世界を堪能する
↓
森の中でひっそりと生活しようとしたのだが
いつの間にかハーレムになっていた
フリースペースに別作品のリンクを貼ってみませんか?
↓
フリースペースに他の作品のリンクを貼りたいのだー!
お気に入りに追加
1,217
あなたにおすすめの小説

少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
追い出された万能職に新しい人生が始まりました
東堂大稀(旧:To-do)
ファンタジー
「お前、クビな」
その一言で『万能職』の青年ロアは勇者パーティーから追い出された。
『万能職』は冒険者の最底辺職だ。
冒険者ギルドの区分では『万能職』と耳触りのいい呼び方をされているが、めったにそんな呼び方をしてもらえない職業だった。
『雑用係』『運び屋』『なんでも屋』『小間使い』『見習い』。
口汚い者たちなど『寄生虫」と呼んだり、あえて『万能様』と皮肉を効かせて呼んでいた。
要するにパーティーの戦闘以外の仕事をなんでもこなす、雑用専門の最下級職だった。
その底辺職を7年も勤めた彼は、追い出されたことによって新しい人生を始める……。

我が家に子犬がやって来た!
もも野はち助(旧ハチ助)
ファンタジー
【あらすじ】ラテール伯爵家の令嬢フィリアナは、仕事で帰宅できない父の状況に不満を抱きながら、自身の6歳の誕生日を迎えていた。すると、遅くに帰宅した父が白黒でフワフワな毛をした足の太い子犬を連れ帰る。子犬の飼い主はある高貴な人物らしいが、訳あってラテール家で面倒を見る事になったそうだ。その子犬を自身の誕生日プレゼントだと勘違いしたフィリアナは、兄ロアルドと取り合いながら、可愛がり始める。子犬はすでに名前が決まっており『アルス』といった。
アルスは当初かなり周囲の人間を警戒していたのだが、フィリアナとロアルドが甲斐甲斐しく世話をする事で、すぐに二人と打ち解ける。
だがそんな子犬のアルスには、ある重大な秘密があって……。
この話は、子犬と戯れながら巻き込まれ成長をしていく兄妹の物語。
※全102話で完結済。
★『小説家になろう』でも読めます★

月が導く異世界道中
あずみ 圭
ファンタジー
月読尊とある女神の手によって癖のある異世界に送られた高校生、深澄真。
真は商売をしながら少しずつ世界を見聞していく。
彼の他に召喚された二人の勇者、竜や亜人、そしてヒューマンと魔族の戦争、次々に真は事件に関わっていく。
これはそんな真と、彼を慕う(基本人外の)者達の異世界道中物語。
漫遊編始めました。
外伝的何かとして「月が導く異世界道中extra」も投稿しています。

勇者パーティを追放された聖女ですが、やっと解放されてむしろ感謝します。なのにパーティの人たちが続々と私に助けを求めてくる件。
八木愛里
ファンタジー
聖女のロザリーは戦闘中でも回復魔法が使用できるが、勇者が見目麗しいソニアを新しい聖女として迎え入れた。ソニアからの入れ知恵で、勇者パーティから『役立たず』と侮辱されて、ついに追放されてしまう。
パーティの人間関係に疲れたロザリーは、ソロ冒険者になることを決意。
攻撃魔法の魔道具を求めて魔道具屋に行ったら、店主から才能を認められる。
ロザリーの実力を知らず愚かにも追放した勇者一行は、これまで攻略できたはずの中級のダンジョンでさえ失敗を繰り返し、仲間割れし破滅へ向かっていく。
一方ロザリーは上級の魔物討伐に成功したり、大魔法使いさまと協力して王女を襲ってきた魔獣を倒したり、国の英雄と呼ばれる存在になっていく。
これは真の実力者であるロザリーが、ソロ冒険者としての地位を確立していきながら、残念ながら追いかけてきた魔法使いや女剣士を「虫が良すぎるわ!」と追っ払い、入り浸っている魔道具屋の店主が実は憧れの大魔法使いさまだが、どうしても本人が気づかない話。
※11話以降から勇者パーティの没落シーンがあります。
※40話に鬱展開あり。苦手な方は読み飛ばし推奨します。
※表紙はAIイラストを使用。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる