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ハウジングと第3エリア
運営裏話・6
しおりを挟む全体が薄ら青白く光る室内。光の具合は眩しいと感じることのない適度な加減が保たれ、その中で複数の人影がモニターらしきウィンドウを操作して作業している姿が見えた。
部屋の内装は、かなり広いオフィスといった感じで、いくつも机のような台が何台も置かれ、そこで多くの職員が作業を進めている。
「ボスの討伐状況って情報上がってますか?」
「今日の報告はまだないな。すぐに必要なのか?」
「出来れば、といったところですね。そこまで急ぎという訳ではないのですが、イベントまで残りの日数が少なくなってきたので、全体の進捗に合わせてそろそろイベントに出すボスエネミーのLVを調節をしておきたいんです」
「確かにそうだな。今のボスエネミー担当は誰だ?」
質問をされた男が、最後の一言だけ少し声量を上げてボスエネミー担当の人物を探す。
この場所はオフィスのような空間ではあるが、席などは決まっていないフリーアドレス形式のため、担当している者がどこに居るかわからない。そのため、このように一々探す必要がある。まあ、部署内で常に情報のやり取りはしているので、タイミングが合わない限り担当者を探す必要はないのだが。
「私ですが」
「今現在の状況はどうなっている? それと、共有情報は提出できるか?」
「今の情報ですか……、とりあえず今すぐにというのは難しいので少々お待ちください。それと、共有の方は今纏めているところです」
「よろしく頼む」
「はい」
「ボスの討伐状況は昨日と変わりはないですね。ウエストリアの森に居るボスがそろそろ討伐されそうではありますが、調べた感じ今日明日で倒せるという感じでもなさそうです」
「なるほど助かった。共有情報の方は」
「すでにまとめてアップしてあります」
「それなら問題ない」
しばらくして情報をまとめた職員から報告を受けた男が頷く。その隣にいた最初に質問をして来たイベント担当の者は、それを聞いた後に感謝を述べてから元居た場所へと戻っていった。
「ああ、それと廃都スタートのプレイヤーですが、そろそろキメラに接触しそうです」
「は? え、嘘だろ? 廃都側からあいつに接触するには、高レベルのモブエネミーと連戦しないといけなったはずだぞ」
「何か倒せちゃったみたいですね。先ほどこれについて調べていたのですが、しっかり記録には残っていたので間違いはないですね」
「いやいや、碌に武器も防具も手に入らない中であれを突破できるとは思えないんだが。……そのプレイヤーは誰だ? まさかあれの関係者じゃないよな?」
「あれの関係者は、もれなくアカウントを破棄されて再登録不可になっているはずなので、それは無いと思いますが」
「そうなんだがな。ああいう輩って言うのは悪知恵ばかり働くからなぁ」
「そうですね。……突破したプレイヤーのNAMEはアトラスと……オグラント? 2人で突破したみたいですね」
「2人か。なら……それでも難しいと思うんだがなぁ」
「アトラスは初日からプレイしているプレイヤーですね。RACEは闇属性のドラゴニュートでLVキャップも開放済みですね。これなら武具がなくても十分戦えるかと思います。
オグラントの方は2陣のプレイヤーのようです。RACEはホブゴブリン……え、ゴブリン? ゴブリンでプレイする人っているんですね」
「そりゃいるだろ。初日からオオカミでプレイしているプレイヤーが居るくらいだ。むしろ人型であるゴブリンの方が居ても不思議じゃない」
「いえ、わかってはいるんですけどね。まだ無制限解放していない中でいるとは思っていなかったので」
「まあ、普通だったら選ばないだろうからな。そう思うのもわからなくはない。しかし、なるほど」
「なるほど? とは」
「ゴブリンはエネミーRACEだからJOBを決める必要がないんだよ。人類RACEだとJOBを設定しないとステータスに補整値が乗らないし、攻撃系スキルの倍率も低いままだ。しかし、ゴブリンの場合はそんなことは必要ない。それに他のRACEに比べてLVも上がりやすいからな」
「ああ、そのままでも十分戦えるRACEだからってことですね」
「まあ、そういうことだな」
「ハウスのクエストが初めてクリアされていますね」
「どこのやつだ?」
「えーと、サウリスタのものですね」
「サウリスタか。……RACE関連のやつか? たしかリザードマン関連であっただろ」
「いえ、全RACE用のものですね。手に入れたプレイヤーもヒューマンですし、特殊な物ではないですね。ハウスのランクも4なのでそこまで難しい依頼でもないですし」
「ランク4なら想定内…いや、少し遅いくらいか?」
担当者はそれを聞いてからウィンドウを開き、UWWOの進捗スケジュールを確認する。
「ううーん…まあ、想定内の範囲でしょう。ワイバーンが想定よりも早く倒されてしまったので、ハウスに関してはほぼこちらの計画通りに進んでいて安心できますね」
「あれは管理していた奴も落ち込んでいたからな」
「何だかんだ人が関わっている限り、予定通り進むことなんてそうそうないんですから、気にしすぎるのは良くないですけどね。それに遅いよりはましでしょう」
「そうだな。物によっては遅れられると困るのもあるからなぁ」
「グランドディアとかがそれですね」
「あいつもそろそろ倒されて欲しいんだが。そうしないと先に進まん」
「あれ? それってあの村を復興させてからの話じゃなかったですっけ?」
「いや、村の復興はその後になるだろうという想定だった。今の進捗だと先に村が復興しそうだけどな。こちらの見立てだと早々にレイド組んで討伐されるだろうって予想だったんだが」
男は儘ならんと言いながら大きくため息を吐いた。
「村の復興も最初の予想だと次のイベントの直前あたりになりそうって感じでしたもんね。想定よりもかなり早いです」
「むしろ村を優先しすぎなんだよなぁ。たしかに前線のリスポーン地点として使えれば便利ではあるんだが」
「まあ、多少順番が前後するくらいなら問題ないんじゃないですか」
「う、んーまあ、そうか。村が復興すればグランドディアは速攻倒されるだろうし、誤差の範囲か」
「ですです」
「そう言えば第3エリアにレアRACE関連のハウスがあったよな? それのクエストってどこまで進んでいる?」
「RACE関連というと純血のヴァンパイアのやつが一番近いですかね。うーん、ああ。場所の特定までは出来ているみたいですね」
「それはもうすぐクエストが終わるってことじゃないのか。想定よりも大分早いぞ。しかもこの段階であのランクのハウスを手に入れるのはちょっと困るな。1人だけ先行することになるぞ」
「まあ、その辺りは大丈夫でしょう。あのクエストには特定の装備かアイテムが必要ですし、それらを作るために必要な素材が手に入るのはまだ解放されていない場所なので」
「解放されていないって言うと、ウエストリアの先か。たしかにあそこはまだボスが倒されていなかったな」
「このプレイヤーは普段からソロで活動しているようですし、少し前ではありますけどイスタットの鉱山でボスに挑んであっさり負けています。なので、ウエストリアの方も当分はクリアできないと思いますよ」
「ま、それなら安心だな」
―――――
なお、この話をしてからしばらくしてアユがハウスを手に入れた模様
次話から3章後編になります
7
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私はかわいいテイムモンスターたちに囲まれてゲームの世界を堪能する
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森の中でひっそりと生活しようとしたのだが
いつの間にかハーレムになっていた
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