UWWO ~無表情系引きこもり少女は暗躍する?~

にがりの少なかった豆腐

文字の大きさ
上 下
198 / 260
ハウジングと第3エリア

38:姉弟子

しおりを挟む
 
 ガルスの工房に弟子入りした翌日。

 昨日はあの後、工房についての説明をしてもらったところでログアウトの時間が近付いていたため、そこで一旦そこで切り上げた。

 今日はレシピについて説明してくれる予定になっていたのだけど、私が到着した時からなかなかプレイヤーが途切れない状況で、待ちぼうけを食らっている。
 待ちぼうけと言っても、他の作業をしているので完全に棒立ちという訳でもないのだけど。

 ガルスの工房は大型の装備を作ることがあるようで結構な広さがある。
 10メートル四方以上の一室に水道などの固定された物を除けば、大き目の机が2つ、壁の近くに普通サイズの机が1つ。後は壁際にいくつか棚があるくらいで、結構さっぱりした工房だ。大きな机の上には素材がいくらか載っているので何か装備を作っている途中なのだろう。
 お店側の扉の反対側には同じような扉が2つあるけど、これは素材をストックしておく部屋と住居部分に繋がっている感じなのかな。

 UWWOでは結構な場所でインスタンスエリアが存在していて、この工房もその1つのよう。インスタンスエリアはどうやら通常エリアとは異なるサーバーなのか、別空間扱いのようなので外部からその中を確認することは出来ない。その逆もしかり。そのため、工房側からお店側の状況が確認出来ないので、ショップ内にプレイヤーが居るのか居ないのか、後どれほど待てばいいのかもわからない。

 手っ取り早く工房に入ったらすぐにレシピを覚えられれば良いのだけど、それだと弟子入りする意味がほとんどないし。中にはASで買えるレシピもあるらしいけど、それは今のところプレイヤーメイドPMレシピだけみたいだしなぁ。

 とりあえず、熟練度上げの時に手に入れたQuの低い素材を錬金で合成してQuを上げていく。
 合成すると素材の数が減ってしまうけど、Quが低い素材を使うと出来上がったアイテムの性能も下がってしまうから、使うのは避ける。
 そんな感じでちまちまと作業を進める。

 素材の合成を初めてしばらく。インベントリに入ってい低Quの素材の合成を終えてもガルスが工房側に入ってくることはなかった。もしかしたら面倒なプレイヤーに捕まっているのかもしれない。

 まあ、お店を開いている時間は基本的にそっちに居るらしいから、私の方がついでなのだろうけど、これはもう少し待たないと駄目かな。

 そんなことを考えたところで工房に誰かが入ってきた。

「失礼しま…す。……どうも」
「…どうも」

 工房へ入って来た白トラの猫系獣人 ――セントリウスのギルドで何度か見たことがあるプレイヤーでNAMEはもちもっち、今も頭上に表示されているので間違いない―― が私に気付き一瞬間をおいて頭を下げて来た。それに合わせて私も頭を下げる。

 まさかガルスではない人が工房の中に入って来るとは想定していなかったのでとても驚いた。でも、そう言えば昨日の話の中で既に1人弟子を取っているとガルスが言っていたので、その1人というのがこの人なのだろう。

 気まずい。
 たぶんあっちも同じく私がここに居るとは思っていなかったはずで、同じように気まずいと思っているのかあまり音を立てないようにしているのがわかった。

 うーん、これ私が一旦外に出た方が良いのかな。ガルスも来そうにないし、仕切り直しということで間を空けてから来た方が良いのかもしれない。

 私がああだこうだと考えている内にもちもっちは生産用の道具や素材を用意していく。

 やっぱり外に出た方が良いのかもしれない。ギルドでも私と同じように殆ど他のプレイヤーに絡まないような人だったし、もし神経質な人だったら邪魔になってしまうかも。

「あの」
「あ、はい」

 工房から出て行こうと道具をまとめているところでもちもっちが声をかけて来た。
 ここで声をかけて来るということは何か用があるのか、もしかして出て行こうとしていることがばれて引き留めようとしているのかもしれない。

「ガルスさんから伝言です」
「伝言?」
「先に済ませないといけない用事が出来たから、申し訳ないが指導の方は姉弟子にあたる私に任せると」
「えっと」

 ガルスに用事が出来たから予定していたことが出来なくなったのはわかった。でもプレイヤーがプレイヤーに工房のレシピを教えるのは良いのだろうか? 不安とかではなく、工房の在り方として有りなのかどうかっていう意味で。
 まあ、兄弟子や姉弟子が、新しい弟子を指導するのは変な事ではないのかな。現実だとむしろ工房主に直接指導される方が珍しいかもしれない。あくまでも私のイメージだけど。

「突然、ガルスさんではなく私が指導すると言われて戸惑うのはわかる。かく言う私も困惑しているし、いきなり言われても困る。そもそも私は【調合】の熟練度がそこまで高くないから教えるのはちょっと」
「えぇと」

 想像していたより話すのかこの人。今までの様子から私程じゃないにしても、口数は少ない方だと思っていたのだけど、そうではなかったようだ。

 今日は調合の方のレシピを教えてもらう予定だったから今日は裁縫メインじゃないのだよね。もちもっちはギルドでも裁縫の作業を良くしていたから裁縫メインのプレイヤーっぽいし、この工房に入れたということは鍛冶も取得しているだろうし、それが2番目に熟練度が高い生産スキルなのかな? 今の感じからしてこの工房に入るまでは調合には触れてもしていなかったのかもしれない。

「あの、私は後日でも問題ないので……」
「おっと、ごめんなさい。別に嫌というわけではないので気にしないで大丈夫。それに貴方の事は前から気になっていたから」
「え…それはどういう」
「あぁ、変態的な意味合いではないよ。さすがにそれはない。あくまでも同じ生産者として気になっているという意味。それに私はダンフォーレさん以外のプレイヤーは殆ど興味ないので」

 私の表情が一瞬曇ったのに気付いたのかもちもっちはすぐに深い意味は無いと訂正した。

 ああ、そういうことか。私と同じようにギルドで作業しているのを見ていてちょっと気になっていた程度ってことかな。
 でも、ダンフォーレってどこかで聞いたような。どこだったかな。

「先ほどもまさか貴方がここにいるとは思っていなかったから、驚いてガルスさんからの伝言を伝えるタイミングを逃しました」
「そ、そうですか」

 まあ、見たところ同じJOBでもない顔見知りが同じ工房に居るなんて普通は想定しないよね。私は全く知らないプレイヤーよりは良かったと思ったけど、驚いたのは間違いないし。

「では、指導…と言ってもレシピを教えるだけですが、今からでも大丈夫ですか?」
「大丈夫です」

 私が何処かへ行こうとしていたのに気付いていたのか、やんわりとこの後の予定を聞いてきた。

 指導って大雑把に言えば教えるだから、そこからレシピを伝授するにつながる感じなのかな。基本的なレシピなら、レシピ情報を見せ合うだけで覚えられるのだけど、ガルス経由でレシピを覚えようとしたらもうちょっと手間はかかりそう。工房で手に入るレシピが同じように行くかどうかはわからないけど。

「それじゃあ、布素材強化枠のレシピはっと、その前に注意点があったのを忘れていた」
「注意点?」
「はい。注意点は工房で教えられるレシピは通常のレシピとは違ってすぐに覚えられないこと。レシピを完全に覚えるには何度も製作しないといけないから、それまでは何かにメモをするなどして忘れないように。まあ、忘れたらガルスさんか私に聞けばいいんだけど、それをすると完全に覚えるまでの時間が増えるらしいから気を付けて」
「なるほど」

 ガルス経由とかプレイヤー経由とか関係ないものだった。
 基本レシピとは覚え方が違うのか。まあ、工房で教えられるレシピなのだからそう簡単にはいかないよね。それにプレイヤー経由で簡単に教えられたら弟子入りするメリットがほとんどなくなるし。
 それと、何度もレシピについて聞くと登録までに時間がかかるということは、レシピを覚えることも修行の一つということなのだろうね。

 そうして最初に覚えるのはこれから、ということでもちもっちから2種類の強化剤のレシピを教えてもらい、製作する際に必要な素材も自力で集めないといけないらしいので、そのレシピに必要なアイテムを取りに行くことにした。



―――――
アユは第1回目のランキングを確認していないのでダンフォーレのNAMEを見たことがあるのは掲示板のみです。イベント1位のNAMEを出されても誰? って感じになる
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

我が家に子犬がやって来た!

もも野はち助(旧ハチ助)
ファンタジー
【あらすじ】ラテール伯爵家の令嬢フィリアナは、仕事で帰宅できない父の状況に不満を抱きながら、自身の6歳の誕生日を迎えていた。すると、遅くに帰宅した父が白黒でフワフワな毛をした足の太い子犬を連れ帰る。子犬の飼い主はある高貴な人物らしいが、訳あってラテール家で面倒を見る事になったそうだ。その子犬を自身の誕生日プレゼントだと勘違いしたフィリアナは、兄ロアルドと取り合いながら、可愛がり始める。子犬はすでに名前が決まっており『アルス』といった。 アルスは当初かなり周囲の人間を警戒していたのだが、フィリアナとロアルドが甲斐甲斐しく世話をする事で、すぐに二人と打ち解ける。 だがそんな子犬のアルスには、ある重大な秘密があって……。 この話は、子犬と戯れながら巻き込まれ成長をしていく兄妹の物語。 ※全102話で完結済。 ★『小説家になろう』でも読めます★

屋台飯! いらない子認定されたので、旅に出たいと思います。

彩世幻夜
ファンタジー
母が死にました。 父が連れてきた継母と異母弟に家を追い出されました。 わー、凄いテンプレ展開ですね! ふふふ、私はこの時を待っていた! いざ行かん、正義の旅へ! え? 魔王? 知りませんよ、私は勇者でも聖女でも賢者でもありませんから。 でも……美味しいは正義、ですよね? 2021/02/19 第一部完結 2021/02/21 第二部連載開始 2021/05/05 第二部完結

悪役令嬢、資産運用で学園を掌握する 〜王太子?興味ない、私は経済で無双する〜

言諮 アイ
ファンタジー
異世界貴族社会の名門・ローデリア学園。そこに通う公爵令嬢リリアーナは、婚約者である王太子エドワルドから一方的に婚約破棄を宣言される。理由は「平民の聖女をいじめた悪役だから」?——はっ、笑わせないで。 しかし、リリアーナには王太子も知らない"切り札"があった。 それは、前世の知識を活かした「資産運用」。株式、事業投資、不動産売買……全てを駆使し、わずか数日で貴族社会の経済を掌握する。 「王太子?聖女?その程度の茶番に構っている暇はないわ。私は"資産"でこの学園を支配するのだから。」 破滅フラグ?なら経済で粉砕するだけ。 気づけば、学園も貴族もすべてが彼女の手中に——。 「お前は……一体何者だ?」と動揺する王太子に、リリアーナは微笑む。 「私はただの投資家よ。負けたくないなら……資本主義のルールを学びなさい。」 学園を舞台に繰り広げられる異世界経済バトルロマンス! "悪役令嬢"、ここに爆誕!

忌むべき番

藍田ひびき
恋愛
「メルヴィ・ハハリ。お前との婚姻は無効とし、国外追放に処す。その忌まわしい姿を、二度と俺に見せるな」 メルヴィはザブァヒワ皇国の皇太子ヴァルラムの番だと告げられ、強引に彼の後宮へ入れられた。しかしヴァルラムは他の妃のもとへ通うばかり。さらに、真の番が見つかったからとメルヴィへ追放を言い渡す。 彼は知らなかった。それこそがメルヴィの望みだということを――。 ※ 8/4 誤字修正しました。 ※ なろうにも投稿しています。

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました

ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

間違い転生!!〜神様の加護をたくさん貰っても それでものんびり自由に生きたい〜

舞桜
ファンタジー
「初めまして!私の名前は 沙樹崎 咲子 35歳 自営業 独身です‼︎よろしくお願いします‼︎」  突然 神様の手違いにより死亡扱いになってしまったオタクアラサー女子、 手違いのお詫びにと色々な加護とチートスキルを貰って異世界に転生することに、 だが転生した先でまたもや神様の手違いが‼︎  神々から貰った加護とスキルで“転生チート無双“  瞳は希少なオッドアイで顔は超絶美人、でも性格は・・・  転生したオタクアラサー女子は意外と物知りで有能?  だが、死亡する原因には不可解な点が…  数々の事件が巻き起こる中、神様に貰った加護と前世での知識で乗り越えて、 神々と家族からの溺愛され前世での心の傷を癒していくハートフルなストーリー?  様々な思惑と神様達のやらかしで異世界ライフを楽しく過ごす主人公、 目指すは“のんびり自由な冒険者ライフ‼︎“  そんな主人公は無自覚に色々やらかすお茶目さん♪ *神様達は間違いをちょいちょいやらかします。これから咲子はどうなるのか?のんびりできるといいね!(希望的観測っw) *投稿周期は基本的には不定期です、3日に1度を目安にやりたいと思いますので生暖かく見守って下さい *この作品は“小説家になろう“にも掲載しています

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

処理中です...