上 下
48 / 72
辺境伯領での生活

後手 ※他視点

しおりを挟む
 
「ぬぅ」

 ガーレット国の大臣が騎士団からの報告書を眺めながら唸る。
 この報告書はレミリア・オグランを連れ戻すためにアレンシア王国へ派遣した者たちが書いた物だ。この報告書の内容はある意味想定内で想定外の物だった。

 大臣も今回の遠征は追い返される可能性が高いと睨んでいた。そもそもこの遠征も一番の目的はレミリア・オグランを匿っている貴族へ当人の囲い込みをしないようにとのけん制だ。故に連れ戻すのは2の次でもあった。しかし、まさかアレンシア王国内に入る事も出来ず追い返されるとは微塵も思っていなかったのだ。

「おや、どうしましたか?」
「宰相か」

 どうしたものかと眉間にしわを寄せ書類を睨んでいた大臣が顔を上げる。

「その書類は?」
「この前、其方からの報告を受けアレンシア側へ騎士を送った際の物だ」

 大臣はそう言って宰相に報告書を渡す。

「……ああ、なるほど。確かにこう言われて追い返されればどうすることも出来ないでしょうね」
「ああ、どうすることも出来ん。一応、国王の方へ掛け合ってアレンシア王国からの許可を得る手続きをしているが、さてな」
「許可をえられるかどうかはともかく、難しいでしょうな」

 指示書もなく騎士団が国境を越えようとしたことにより、ガーレット国がレミリア・オグランを連れ戻そうとしているのがアレンシア王国側に伝わってしまった。これからの行動はどうあっても後手に回ることになってしまうだろう。
 もし、アレンシア王国側がレミリア・オグランを確保しようとしているならば、連れ戻されないようここで何かしらの策を打って来るはずだ。あの人物はそれくらいに価値のある存在なのだ。

「いろいろと後手に回り過ぎている。あれが逃げ出したという報告もなく、同程度の腕だと報告されていた妹は全く姉には及ばない」
「確認不足ですな。手が少なくなっているとはいえ、第2王子周りの管理が甘くなっていたのが原因でしょう」
「理解している」

 第2王子の婚約発表の際に婚約者が変わっていることにすぐ気付けば、変わった婚約者に関する報告をしっかりと確認していれば、今の事態にはなっていなかった可能性は高い。

 それを理解している大臣は第2王子の周囲の観察がおざなりにしていたことを後悔していた。

「ともかく、少しでも可能性があるならアレンシア王国への騎士団の派遣は実行するつもりだ」
「そうですか」

 宰相は大臣の発言に諦めが悪い、そう思いながら返事をする。

「しかし、今回の結果から騎士団の者だけでは交渉が上手くいくとは思えんな」
「ああ。それでしたら私の関係者を交渉役として随行させましょうか?」
「本当か?」

 大臣は宰相が交渉ごとの達人であることを知っている。その関係者であれば同程度とは言わないまでも、相当交渉の上手い相手なのだろうと想像した。

「ええ」
「なら、申し訳ないが交渉役の方はお願いしよう」

 願ってもいない。大臣はそう思いながら宰相へ協力の願いを申し入れる。

「わかりました。派遣する日時が決まり次第、こちらに連絡をください」
「了解した」

 そうして、再度アレンシア王国へ騎士団を向かわせる計画の準備が進んで行った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】幼馴染と恋人は別だと言われました

迦陵 れん
恋愛
「幼馴染みは良いぞ。あんなに便利で使いやすいものはない」  大好きだった幼馴染の彼が、友人にそう言っているのを聞いてしまった。  毎日一緒に通学して、お弁当も欠かさず作ってあげていたのに。  幼馴染と恋人は別なのだとも言っていた。  そして、ある日突然、私は全てを奪われた。  幼馴染としての役割まで奪われたら、私はどうしたらいいの?    サクッと終わる短編を目指しました。  内容的に薄い部分があるかもしれませんが、短く纏めることを重視したので、物足りなかったらすみませんm(_ _)m    

目を覚ました気弱な彼女は腹黒令嬢になり復讐する

音爽(ネソウ)
恋愛
家族と婚約者に虐げられてきた伯爵令嬢ジーン・ベンスは日々のストレスが重なり、高熱を出して寝込んだ。彼女は悪夢にうなされ続けた、夢の中でまで冷遇される理不尽さに激怒する。そして、目覚めた時彼女は気弱な自分を払拭して復讐に燃えるのだった。

(完)あなたの瞳に私は映っていなかったー妹に騙されていた私

青空一夏
恋愛
 私には一歳年下の妹がいる。彼女はとても男性にもてた。容姿は私とさほど変わらないのに、自分を可愛く引き立てるのが上手なのよ。お洒落をするのが大好きで身を飾りたてては、男性に流し目をおくるような子だった。  妹は男爵家に嫁ぎ玉の輿にのった。私も画廊を経営する男性と結婚する。私達姉妹はお互いの結婚を機に仲良くなっていく。ところがある日、夫と妹の会話が聞こえた。その会話は・・・・・・  これは妹と夫に裏切られたヒロインの物語。貴族のいる異世界のゆるふわ設定ご都合主義です。 ※表紙は青空作成AIイラストです。ヒロインのマリアンです。 ※ショートショートから短編に変えました。

やっかいな幼なじみは御免です!

神楽ゆきな
恋愛
有名な3人組がいた。 アリス・マイヤーズ子爵令嬢に、マーティ・エドウィン男爵令息、それからシェイマス・パウエル伯爵令息である。 整った顔立ちに、豊かな金髪の彼らは幼なじみ。 いつも皆の注目の的だった。 ネリー・ディアス伯爵令嬢ももちろん、遠巻きに彼らを見ていた側だったのだが、ある日突然マーティとの婚約が決まってしまう。 それからアリスとシェイマスの婚約も。 家の為の政略結婚だと割り切って、適度に仲良くなればいい、と思っていたネリーだったが…… 「ねえねえ、マーティ!聞いてるー?」 マーティといると必ず割り込んでくるアリスのせいで、積もり積もっていくイライラ。 「そんなにイチャイチャしたいなら、あなた達が婚約すれば良かったじゃない!」 なんて、口には出さないけど……はあ……。

幼馴染みに婚約者を奪われ、妹や両親は私の財産を奪うつもりのようです。皆さん、報いを受ける覚悟をしておいてくださいね?

水上
恋愛
「僕は幼馴染みのベラと結婚して、幸せになるつもりだ」 結婚して幸せになる……、結構なことである。 祝福の言葉をかける場面なのだろうけれど、そんなことは不可能だった。 なぜなら、彼は幼馴染み以外の人物と婚約していて、その婚約者というのが、この私だからである。 伯爵令嬢である私、キャサリン・クローフォドは、婚約者であるジャック・ブリガムの言葉を、受け入れられなかった。 しかし、彼は勝手に話を進め、私は婚約破棄を言い渡された。 幼馴染みに婚約者を奪われ、私はショックを受けた。 そして、私の悲劇はそれだけではなかった。 なんと、私の妹であるジーナと両親が、私の財産を奪おうと動き始めたのである。 私の周りには、身勝手な人物が多すぎる。 しかし、私にも一人だけ味方がいた。 彼は、不適な笑みを浮かべる。 私から何もかも奪うなんて、あなたたちは少々やり過ぎました。 私は、やられたままで終わるつもりはないので、皆さん、報いを受ける覚悟をしておいてくださいね?

無実の罪で聖女を追放した、王太子と国民のその後

柚木ゆず
恋愛
 ※6月30日本編完結いたしました。7月1日より番外編を投稿させていただきます。  聖女の祈りによって1000年以上豊作が続き、豊穣の国と呼ばれているザネラスエアル。そんなザネラスエアルは突如不作に襲われ、王太子グスターヴや国民たちは現聖女ビアンカが祈りを怠けたせいだと憤慨します。  ビアンカは否定したものの訴えが聞き入れられることはなく、聖女の資格剥奪と国外への追放が決定。彼女はまるで見世物のように大勢の前で連行され、国民から沢山の暴言と石をぶつけられながら、隣国に追放されてしまいました。  そうしてその後ザネラスエアルでは新たな聖女が誕生し、グスターヴや国民たちは『これで豊作が戻ってくる!』と喜んでいました。  ですが、これからやって来るのはそういったものではなく――

婚約者の妹が結婚式に乗り込んで来たのですが〜どうやら、私の婚約者は妹と浮気していたようです〜

あーもんど
恋愛
結婚式の途中……誓いのキスをする直前で、見知らぬ女性が会場に乗り込んできた。 そして、その女性は『そこの芋女!さっさと“お兄様”から、離れなさい!ブスのくせにお兄様と結婚しようだなんて、図々しいにも程があるわ!』と私を罵り、 『それに私達は体の相性も抜群なんだから!』とまさかの浮気を暴露! そして、結婚式は中止。婚約ももちろん破談。 ────婚約者様、お覚悟よろしいですね? ※本作はメモの中に眠っていた作品をリメイクしたものです。クオリティは高くありません。 ※第二章から人が死ぬ描写がありますので閲覧注意です。

【完結】婚約者?勘違いも程々にして下さいませ

リリス
恋愛
公爵令嬢ヤスミーンには侯爵家三男のエグモントと言う婚約者がいた。 先日不慮の事故によりヤスミーンの両親が他界し女公爵として相続を前にエグモントと結婚式を三ヶ月後に控え前倒しで共に住む事となる。 エグモントが公爵家へ引越しした当日何故か彼の隣で、彼の腕に絡みつく様に引っ付いている女が一匹? 「僕の幼馴染で従妹なんだ。身体も弱くて余り外にも出られないんだ。今度僕が公爵になるって言えばね、是が非とも住んでいる所を見てみたいって言うから連れてきたんだよ。いいよねヤスミーンは僕の妻で公爵夫人なのだもん。公爵夫人ともなれば心は海の様に広い人でなければいけないよ」 はて、そこでヤスミーンは思案する。 何時から私が公爵夫人でエグモンドが公爵なのだろうかと。 また病気がちと言う従妹はヤスミーンの許可も取らず堂々と公爵邸で好き勝手に暮らし始める。 最初の間ヤスミーンは静かにその様子を見守っていた。 するとある変化が……。 ゆるふわ設定ざまああり?です。

処理中です...