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辺境伯領での生活

報告とは異なる結果 ※他視点

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 執務の合間、少し休憩しようと執務室を出たところでガーレット国の大臣は王宮内が騒がしいことに気付いた。

「何を騒いでいる?」

 すぐに近くに居た執事に話かける。

「あっ、大臣良いところに!」

 声を掛けた執事にそう言われ大臣は眉間にしわを寄せた。
 自身が頼られる事態となれば面倒なことが起きていることは明白だったからだ。

「何事だ?」
「グリー王子がですね……」

 その名前を聞いて大臣の眉間のしわはさらに深くなった。

「あの馬鹿王子がどうした?」
「あ、いえ大臣。この場でそう言うことを言うのはちょっと。他に聞いている者がいるかもしれませんし」
「構わんだろう。どうせ他の者も同じように思っているはずだ。して、その皇子がどうした」
「あ、そうでした」

 急いでいる、急を要するはずの要件であったにもかかわらず、この反応からしてグリー王子の王宮内からの評価が伺えた。

「グリー王子が先ほど、腹部刺され、片腕に大きな火傷を負った状態で搬送されて来たんです」
「は?」

 今までも同じように怪我を負って戻って来たことはあった。しかし、刺されたのは今までに一度もない。

「意識は?」
「ありません。見た所、止血自体は済んでいますので当分の間は大丈夫そうです。しかし、このまま放置、となりますと……」
「ふむ」

 大臣は、第2王子に対してこれは灸をすえるという意味でアリではないかと一瞬だけ考えた。しかし、よく考えれば気絶している以上意味は無いと思い至る。

「なので、大臣から聖女様へ回復魔法のお願いを……」

 現在、ガーレット王国の聖女は、第1王子の夫人が勤めている。他国から嫁いできた者ではあるが、その力は前に聖女と呼ばれていたレミリアを凌ぐと言われている。

「いや、あの方を呼び出すことは出来ない。それに、あれの婚約者も回復魔法を使えたはずだ。聞いている限りでは前の婚約者ほどに使えるらしい。呼ぶならその者にしろ」

 大臣として、いや、国の重要機密を知っている者として今の聖女を呼び出すことは出来なかった。
 それは、今の聖女が元の聖女の力よりも圧倒的に劣るからだった。故に人前に出し、その力を行使させる訳にもいかないのだ。

 5年前、政治的にも追い込まれていたガーレット国は他国に頼るほかなかった。そのために王族に他国の王族を招き入れることを優先した。その中で、相手となる国の意向で当時の聖女を排し、新しく他国から聖女として第1王子の配偶者を得ることとなったのだ。
 これについてはガーレット国としてあまり望ましい事ではなかったが、立場上相手国の意向を拒否することは出来なかった。

「そう言えばそうでしたね。その方を呼んできます!」

 そう言って執事は全力で大臣の前から走り去っていった。そしてその後大臣は事態の確認のために第2王子が運ばれた救護室へと向かった。



 暫くして執事が救護室へ第2王子の婚約者を連れて来た。

 大臣が第2王子の婚約者と会うのは数度目だが、毎度その態度に不快な思いをしているため、あまり良い印象を持っていなかった。

「リーシャ殿、来られましたか。ではこちらに来ていただきたい」

 そう大臣が声を掛けるが王子の婚約者であるリーシャの反応は芳しくない。明らかに大臣の事を誰なのか分かっていない態度だった。

「グリー王子? これはどういう事なのかしら?」

 明らかに慣れていない。第2王子の状態を見て一瞬息を呑んだリーシャの態度から大臣はそれを理解した。

そしてリーシャは執事からこうなった状況の説明を受けた後、王子に向かって回復魔法を発動させた。

「む?」

 大臣は回復魔法を掛けている様子を見て違和感を覚えた。今回の怪我は今までよりも大きい物だ。そのため回復させるまでに時間が掛かることはわからなくはない。しかし、それを考慮しても今まで見た回復魔法よりも回復する速度も深さも悪い。

 報告では前の婚約者であったレミリアと同じ程度の実力を持つとあった。しかし、目の前の光景を見るとそれは疑わしい。下手をすれば現聖女よりも劣る可能性がある。

 そして王子の怪我の回復が終わりしだい状況を見て、大臣がいくつか質問をしたことで、この者の生家であるオグラン侯爵家、及び、この者による王家への虚偽報告の疑いが浮かんできた。

 これは早めに確認しなければならない。そう判断し大臣はすぐさまその場を離れ、これに関する報告書が置かれている場所へと向かった。
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