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騒動の収束
オグラン侯爵 ※他視点
しおりを挟む「オグラン侯爵殿。貴方にいくつか聞きたいことが有るのだがよろしいでしょうか?」
グリーが王族の籍から除された翌日。第1王子はオグラン侯爵家の屋敷を訪れていた。
これは今回、レミリア・オグランが国外へ亡命し、そのまま他国の貴族と婚姻を結んでしまったこと、それの責をオグラン侯爵家へ示すことを目的としている。
第1王子は、オグラン侯爵の真意を確かめるためにいくつか質問を繰り返していく。そして、質問が終わった後、王子は減責の提案をした。
「上の娘の婚約を破棄され、すぐにあの第2王子と婚約を結ぶとなった時に私がそのことを拒絶しようとした際、『私は一度でも婚約している者は家を出ていると考えている。そのため其方の許可は必要ないのだ』こう其方ら王族にそう言われ、上の娘の婚約を強引に進められたのだ。今回もその例に沿って私の許可など必要ない、そう判断しているに過ぎない。何か問題はあるか?」
父親として、レミリアの婚姻に異を唱えれば罪を軽減すると提案したものの、オグラン侯爵はそれを拒否し、過去の王族とのやり取りを例に挙げる。
「それは……」
先にそれを言ったのは王族だ。それを出されてしまえば反論は難しい。しかし、異を唱えること自体は可能であることは間違いない。
「あれは、あくまでも国内の情勢を考慮しての事です。今回の事と一緒にしないでもらいたい」
それを聞いてオグラン侯爵は鼻で笑うような態度を示す。
それを見て第1王子は気分を害するが、ここで声を荒げてしまえばオグラン侯爵の思うつぼだと判断し、極力反応を示さないようにふるまった。
「第1王子。其方もレミリアと婚約していた身のはずだ。今回の件について何か思うところはないのか?」
「この国の貴族として存在しているというのに、どうしてあんなことをしたのか、と思っています。ですが、それは貴方だって同じではないでしょうか。オグラン侯爵」
第1王子のその発言を聞いてオグラン侯爵は完全に王子の事を見放すような視線を向ける。
「私としてはレミリアの行動について思うところは何もない。しかし、今までの事を考えればあの行動は無理もない事だとも思う。さらに、今までの事も含めこの国の王族の対応について私は多数思う事がある」
「それはどういう事でしょうか」
王族に対して不満がある。そう言われ第1王子は内心オグラン侯爵の発言は不敬だと考え、表情をすこし歪ませる。
「……当時は国王からの指示だから断れば妻と子の立場が悪くなると判断し、其方との婚約を受け入れていたが、今は違う。自ら進んで行くならともかく、使い潰されることがわかり切っている先に自身の子を差し出すのは、先立ってしまった妻に申し訳が立たぬ」
「リーシャの言葉によれば、貴方も最初はレミリアをこの国に留めようとしていたはずですが」
「なに、あの場でそれを拒否すれば、あれはさらにあくどい手を使ったであろうよ。だから便乗した態でそれとなく逃げだし易い環境を作り出しただけだ。それに私はこの国に対する忠誠心など既に持ち合わせていないのだ。この国から逃げ出すことを止めるつもりは最初からない」
オグラン侯爵のその発言に王子は息を呑む。まさか、国の重鎮として座していた者にそのような事を言われるとは思っていなかったのだ。
「なぜ、そのような事を言うのですか。貴方は今までこの国に尽力してくれていた。それなのに忠誠を誓えないなどと」
王子の言葉を聞いてオグラン侯爵は大きくため息を吐いた。
「確かに私はあの時までこの国に尽力してきた。しかし、どうだ。あの遠征で妻を亡くしたというのに、こちらに謝罪もなければ補填もない。むしろこれまで受けていた物は妻が居なくなったからとそれも打ち切られた。まあ、それは無くとも問題はないが、国のために尽くしていた妻を死んだからとすぐに切り捨てたのは其方らだ」
「いえ、当時はそれどころでは」
「あぁ、わかっている。次の世代の教育も進んでいない状況で国王が早世したのだ。色々なところに不備が出るのも仕方がない」
「だったらなぜそのような事を言うのです」
「だからと言って全て受け入れることは出来ない。それに、あの遠征の責任を我が家に取らせようとしたのは誰だ? 其方らだろう。そんな事をされて忠誠が変わらないはずがない。当初は我が家に批判が相次いでいたというのにさらにそれで悪化したのだ。そもそもあの遠征の失敗は私の妻には一切関係ない。原因は碌に情報を精査しなかった軍の斥候や諜報員だろうに」
そう言われ王子は言い返せずに黙る。
そもそも王子は当時12歳だ。詳しい内容は知らないだろうし、自らに入って来る情報は王家にとって都合のいい内容だけだっただろう。さすがに今では責任の所在は理解しているだろうが、王族である以上オグラン侯爵の言葉を肯定することも出来ない。
「今回の件もそうだ。其方との婚約を破棄され、次に婚約した第2王子はあの愚図。そしてその後の扱いからしてレミリアを軽視していないという発言に、何の説得力もなかろう。いきなり第2王子の婚約者が変更になったことも、国外に亡命していることにも直ぐ気付けなかったことからして、それは確実だろう」
「そんなことは」
「さきも言ったが、その言葉に説得力は皆無だ」
「国情が悪いからと今まで重視していた者を軽視し、誤報を一切正さず、むしろそれを是とした王族など、私はどうなっても良いのだ。このような国、滅ぶならさっさと滅べばよい」
「……オグラン侯爵。それは我が国への謀反、反逆の意があるという事ととらえても良いのですか」
「構わん」
脅すように言った王子の問いに間隔を空けずにオグラン侯爵はそう答えた。
「重罪ですよ」
「どうなろうとも、今の発言を取り消すことはない。私が生きていたところで妻がよみがえることはない。子もどうあれ家を出た。既に生きている意味はなくなった」
「わかりました。後日また伺わせていただきます」
王子はそう言ってオグラン侯爵の返答を聞かずに屋敷を出て行った。
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