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母国の騒動
手遅れ ※他視点
しおりを挟む「ようこそ。ガーレット国の騎士団がここへ何の用でしょうか」
隊を持ってガーレット国の騎士団、約30名がグレシア辺境伯の屋敷の前に整列していた。
屋敷の目の前にいる騎士団は敵意を表すことはないようだったが、どうにも緊張した面持ちで待機しているため、その様子を見た屋敷に仕えている使用人の一部に緊張が走っていた。
「ああ、グレシア辺境伯殿。お初にお目に掛かります。ホレス・デファルと申します。少々ここに居るであろう人物に用がありまして。少しで良いのでその人物をここへ呼んでいただけないでしょうか」
「ああ、よろしくデファル殿。して、その人物とは?」
「レミリア・オグランというのだが、ここに滞在していると聞き及んでいるのですが」
「はて、そのような家名の者はこの屋敷には滞在しておりませんな」
とぼけたようなグレシア辺境伯の対応に騎士団の一部が殺気を飛ばす。しかし、それをグレシア辺境伯は気にすることはなくそのままの態度を崩すことはなかった。
「そんな訳はない。確実のレミリア・オグランはこの屋敷に居るはずだ。下手に隠そうとしないでいただきたい」
「そのようなつもりは一切ないですよ。本当にレミリア・オグランという人物はこの屋敷には居ません」
グレシア辺境伯のその言葉を聞いて今まで表情を変えていなかった騎士団を率い、話をしていた者の表情が歪む。
「冗談はよしていただきたい。我々がここへ来た理由は不当な理由で国外へ逃亡したレミリア・オグランを連れ戻すことだ。それを庇うようなら我が国と敵対する、そう捉えられると思っていただきたい。出来る限り私は穏便に済ませたいのですよ」
「おや? たしか貴方たちガーレット国の方たちは友好のために国境を越えて来たのでしょう? 私はそのように窺っているのですが。それが亡命した者を捕らえるためとは、国境を越えるために理由を偽って申請を通したという事でしょうかね?」
「っ!?」
本来の目的などアレンシア王国側に察せられているであろうと事は承知していても、表向きは友好の行動として国境を越えている訳だ。故に本来であれば自ら言うべきことではないにもかかわらず、ホレスは事が進まないことに苛立ちそのことを漏らしてしまう。
それを指摘され、ホレスは言葉に詰まりほんの少しではあるが表情をひきつらせた。
「あの宰相の関係者という事でしたから、もう少し切れ者がやって来ると思えばこの程度でしたか。これはそこまで気を張る必要は無かったのかもしれませんな。少々期待外れでしたよ。余程、ガーレット国は人員に余裕がないと見える」
「貴様!」
自身を馬鹿にされたことでホレスは内に秘めていた怒気を顕にする。それを見たグレシア辺境伯はさらにため息を吐いた。
「報告として挙がってきてはいたが、本当に人材不足のようだな」
さらに声を荒げ、反論をしたい気持ちを抑える。
煽られている。そのことを理解しながらも下手に手を出してしまうのはホレスとしても十分に理解している。
国を通しての友好としているが、立場としては現地の貴族であるグレシア辺境伯の方が上だ。さらに言えば本来ホレスたちがここへ立ち寄る予定を先に知らせていない。王命を持って正式な通達を持って来ていれば話は違ったのだろうが、今回はどうあってもそれは覆らない。今回のホレスたち騎士団の遠征は表面上あくまでも領国間の友好を深める目的をもって行われているものだ。
「……グレシア辺境伯殿。そのような探り話にしてもらいたい。私は、いやガーレット国はこの件について内密に且つ穏便に話を進めたいのだ」
「ふむ、とは言え、本当にこの屋敷にはオグランの家名を持つ者は滞在していない」
この言葉を聞いて、ホレスはようやくグレシア辺境伯の言っていることについての違和感を覚えた。
「それは……」
「ああ、ですが、レミリア、という名前を持つ者なら我が一族の中に居ますよ。2人目の息子の妻ですがね」
「それは、どういう事でしょうか。まさか……!」
ホレスがグレシア辺境伯の言葉を聞いて動揺する。それをみてグレシア辺境伯は勝を確信したような笑みを浮かべた。
「そのレミリア殿の元の家名はどのような物だったのか、グレシア辺境伯殿、貴方は存じているのですか」
「いえ、他国から逃げて来たという事しか知りませんね。何か、嫌なことが有ったのかあまり元居た場所のことは話してもらえませんでしたから」
知らないという事はあり得ない。それはホレスにもわかっていた。
妻となっている以上、婚姻を結んでいることは確実。そして貴族は血筋を尊ぶ者たちの集まりであり、婚約や婚姻を結んだのであればその際に素性を調べないはずがないのだ。
しかし、それを指摘したところで躱されるか誤魔化されることは容易に措定できる。
この結果は自分の力不足。それが無い訳ではない。話の進め方が稚拙なのはホレス自身も理解している。しかし、今回はそれ以上に捜索に乗り出すのが遅かった。これはホレスの所為ではなく国の失策だ。
それを含め、自身の不甲斐なさと完全なる手遅れに気付き、ホレスは周囲に気付かれないよう歯を食いしばる。
これでは期待された仕事を完遂することが出来ない。
最初は国家間の問題を提示すれば容易に事が運ぶと想像していた。口の拙い自分でも問題なく遂行できると思っていた。しかし、ふたを開けてみれば、自身の力ではどうすることも出来ない事がわかっただけだ。
今回の遠征は誰が来ようと結果は変わらなかっただろう。それはホレスもわかっている。自分だから出来なかった。そういう訳ではないことを。しかし、結果は結果だ。失敗に変わりはない。
「……申し訳ない。通達もなく訪れていてなんですが、早々に国へ帰らなくてはならない理由が出来た」
「そうですか。問題は無いと思いますが、道中、気を付けてお帰りください」
「……ああ、それでは失礼する」
そうしてホレスが率いて来た騎士団は国境を跨いだ当日、早急にガーレット国へ戻る事になった。
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