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母国の騒動
アレスの気持ち 後
しおりを挟む私を見つめる視線は昔から、お母さまの子供、回復魔法の使い手、聖女といった者を見る目で、私個人を見られたことは殆どありません。近付いてくる人も大体はそれを目的としていて、私というよりもそれに付属する物を見ていただけでした。
ですが、アレスの視線は……
「俺はお前のことが好きだ。初めてそう言ったのはこの前だが、小さい頃からずっとお前に好意を寄せている」
「え?」
小さい頃から? そのような事まったく知りませんでした。そのような素振りもありませんでしたし。
「お前は他国の貴族だったし、親が重役を負っていた。将来的にも国内の貴族に嫁ぐことは小さかった俺でも理解できた。だから、一切俺の気持ちは伝えていなかったんだ」
「そう……だったのですか」
まったく知りませんでした。年に数度だけ会える相手に好意を寄せるというのはどのような感じなのでしょう。私はアレスの事を年に数度会える友人くらいの感覚で会っていたのですが。
あら? ですが、会えなくなった後も伝書鳥でとは言え、やり取りをしていたのは少なからず好意を持っていたからとも取れますね。同性であれば普通の範疇かもしれませんが、異性となると普通ではないような……。それに私も進んで連絡を取っていたような気もします。
「俺はお前が好きだ」
咄嗟に出た言葉ではなく真剣な目を向けられて言われると、どうして良いのかわからなくなります。しかし、アレスの真剣な表情から、本心からの告白であることは理解できました。
どう言葉を返していいのかわかりません。
アレスにとって私との婚約は負担ではないことがわかったので憂いは無くなりましたし、アレスの告白を受け入れるのは問題ないのです。ですが、この場合どう返したらよいのでしょうか。
「レミリア?」
さすがに何も返事を返さないのが気になったのかアレスが問いかけてきます。
「あ……いえ、えっと……」
本当にどう返事をしたらよいのでしょう。
「嫌ならそう言ってくれ。俺はどんな返事でも受け入れる」
「そ、あ……えっと、ですね。嫌ではないのです。ですけれど、どう返事を返したらよいかよくわからなくて」
本来ならアレスに聞くべき内容ではないのですが、どうしたらよいかわかりません。
今までの婚約はほぼ強制だったのでこういう状況にはなりませんでしたし、どう返事をしたら正解なのかわからないのです。
「あー、何だ。少し混乱しているのか? 何時もだったら言わなそうなことも言っている気がするし、あれか。はい、いいえで答えられる感じの方がいいんだな」
「え……えっと」
アレスの真剣な表情が少し柔らかくなりました。なるべく普段通りにと繕っているつもりだったのですが、どうやら今の私は普段とは違うようです。
「レミリア。俺はお前のことが好きだ。お前が不安に思っていることも理解できるし、俺の事を恋愛対象としてあまり見ていないのも知っている。本当なら少しずつ距離を詰めて行きたいところだが、事情からそうも言っていられない。だから形だけでも俺と婚約してくれないか?」
「形だけ?」
それはアレスに対して不義理すぎます。
「ああ、少なくともその場しのぎにはなるだろう。それに俺はレミリアがここからいなくなるのはどうあっても嫌だ」
「え?」
「それに形だけで済ませるつもりは一切ない。少しずつでもレミリアが俺の事を好きになってくれるように努力するつもりだ。だからレミリアがここからいなくなるのを俺は許容できない」
アレスはそう言うとまた真剣な表情になりました。
「俺はお前の事を諦めたくはない。必ず幸せにするしお前の不安は俺がどうにかする。だからレミリア。俺と婚約してくれ」
そう言ってアレスは手を差し出してきました。
アレスの言葉を聞いて、少しだけ体が温かくなったような気がします。
私はアレスのように恋はしていないでしょう。恋愛感情が無いとは思わないけれど少なくとも今、アレスに恋している訳ではないはずです。ですが、アレスの様子を見て何となく受け入れて良いと思いました。
そうですね。この人は私の事をしっかり見てくれている。受け入れても大丈夫。
「はい」
そうして私はアレス、アレクシス・グレシアの婚約者になりました。
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