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母国の騒動

話し合いと私の価値

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 ガーレット国の国力はあの事件の後からずっと低迷し続けているので、他国の貴族、それ国の領土に隣接している領地を持つ貴族との繋がりを得られるのは、ガーレット国としての利に繋がるでしょうし、安易に拒否することも出来ないはずです。

 あと辺境伯様が言う時間稼ぎとは、婚約の手続きを進めるためのものでもあるでしょうけれど、私が他の場所に逃げるための時間を稼ぐ、という意味もあるでしょう。ただ、私はグレシア辺境伯以外に他国の貴族に対する伝手は無いですし、その後に捕まったらどうすることも出来ませんね。

「それでだ」
「はい」
「レミリアはどうするつもりだ?」

 実のところ、辺境伯様と話をした翌日からアレスの私に対する態度が変わったのです。それまでは何かにつけて話しかけて来ていたのにそれが殆ど無くなったのです。おそらく辺境伯様から私が嫌がっているという内容の話を聞いたのだと思いますが、その所為でかえって踏ん切りがつかなくなったと言いますか、今までやんわりと避けていた話題をこちらから切り出すのはどうかと思うのです。

 ですが、どちらかと言えば私がグレシア辺境伯家に助けを求めた形なので、この話しに関しては私から願い出る方が良いのかもしれません。

「それは……」

 私はそう言ってアレスの顔を確認すると、何となく察しているような表情でこちらを見ていたアレスと目が合いました。

「え、あ……えっと」

 言葉に詰まります。言葉に出すべきことはわかっているんです。私から婚約して欲しいと言えばいい。それだけなのですが、それはアレスの事をいいように扱っているだけで、私のために貴方は犠牲になってください、と言っているのと同義なのです。
 アレスが本当に私の事が好きなのであれば、その気持ちを踏みにじる行いです。そう思ってしまうと、声を出すことが出来なくなりました。

 確かに私は強力な回復魔法を使えます。そのお陰で国からの待遇は良かったですし、不自由なく過ごせていました。アレンシア王国に来てからも回復魔法が使えるから、辺境伯軍の回復士として働けています。
 私がアレスと婚約することは、アレンシア王国やグレシア辺境伯家にとっては利として扱われるでしょうけど、アレスにとってはどうでしょう。
 これは辺境伯様から婚約の話を出された時からずっと考えていたことです。アレスにとって私はそれほどの価値があるのかと。

 正直なところ、私は人の感情の機微を察するのがあまり得意ではありません。表情などにわかりやすく感情が出ていれば察することが出来るのですけれど、貴族は基本的に感情を笑顔で塗りつぶしますから、殆どわからないのです。
 なのでアレスが本当に私の事を好いているのかも、未だに確証は持ててはいません。

「申し訳ありません父上。少々時間を貰ってもよろしいですか?」
「ん? ああそうだな」

 アレスがそう言うと辺境伯様は一瞬私の事を確認しました。アレスは許可を貰ったことで席を立ちました。
 どういう事でしょうか。私が何も言わないから一旦話し合いは終わりという事になったのでしょうか。

「レミリア」

 席を立ったアレスが私に向けて手を差し出してきました。おそらく私が立つための補助として手を差し出してくれているのでしょうけれど、それ以外の意図がわかりません。

「ほら」
「え?……あ」

 半ば強引にアレスによって私はソファから立ち上がりました。

「それでは父上。次は……」
「夕食の後で構わない」
「わかりました。それでは夕食後に」

 辺境伯様に頭を下げてすぐにアレスに手を引かれ執務室から退室しました。
 
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