上 下
42 / 72
辺境伯領での生活

救護室の王子 ※リーシャ視点

しおりを挟む
 
 グリー王子の浮気現場を見つけてから1月ほどが経過した。

 あの女は既に王宮内には居ない。私が手を回した、というよりは正式に王宮に使えていた訳ではなかったので、指摘したらすぐに王宮から追い出されていた。
 当然、それだけで終わらせるつもりはなかったので、裏からしっかり手は回している。

 あれはすでに届いているでしょうね。

 あの女がどうなったかを想像して私は笑みを浮かべた。



 暫くして、自室で休んでいると側仕えが部屋に飛び込んで来た。

「リーシャ様! 至急、回復魔法が必要になったため王宮の救護室に出向せよと、大臣からの指示がありました!」
「何かしらね? 今日は演習とかがあるとは聞いていないのだけど」

 私が、というよりもお姉さまがグリー王子と婚約していたのは回復魔法の使い手を王族が確保するためという理由があった。それは婚約者が私に変わっても変わりはない。

 そのため、緊急で回復魔法が必要になった場合は今回のように呼び出されることが有る。
 正直、乗り気にはなれないけれど、回復魔法が使えるから王族に鳴れているような物なのよね。仕方ないけどやるしかないわ。

 第1王子の相手も回復魔法が使えるのだけど、滅多にと言うか使っている所を見たことが無いのよね。本当に使えるのかは怪しいところだわ。

 騎士用の救護室ではなく、王宮に努める貴族用の救護室に着くと救護室に勤務している使用人たちや、雇われの医師が慌ただしく動いていた。しかし、中には呆れたような表情をしている者も居た。

 ここに呼ばれたのは初めてだけど、どうしてあんな表情をしている使用人がいるのかしら? 対応の流れからして突然ではあるけど慣れている感じはするわね。まあ、救護室なのだからいきなり患者が来ることは多そうだし、慣れているのはおかしくはないわね。

「リーシャ殿、来られましたか。ではこちらに来ていただきたい」

 こいつ誰だったかしら? 話しかけてきたところからして上位の人物。もしかしてこいつが大臣かしらね。……多分そうよね。

 大臣と思われる男の後をついて行くと、そこには救護用のベッドに横たわるグリー王子の姿があった。

 グリー王子の腹部には刺されたように服が避けている場所があり、そこから赤い血が服に跡を作っていた。それに、服の隙間や腕などの皮膚が直接見えている個所では、ところどころ皮膚が赤く爛れている場所が見られる。

「グリー王子? これはどういう事なのかしら?」

 王族であるグリー王子が重傷を負って目の前に居ることが理解できないため、私をここに連れて来た男に聞く。

「ああ、これはまぁ、痴情の縺れと言いますか。リーシャ殿も知っているこの前追放した使用人に関する問題ですな。まあ、グリー王子に関しては自業自得ではありますがな。今回が初めて、という事ではありませんし。とりあえず、回復魔法を掛けて頂けると助かります。このまま放っておいても死ぬことはないでしょうが、これでも一応王族ですからな」

 この国の第2王子に対する目の前の男の対応の悪さに驚く。
 こいつが大臣だったとしても、立場は第2王子の方が上のはずよね。それなのに、これでも一応王族、と言った感じの見下すような発言は問題しかないんじゃないかしら。それにグリー王子を見下すという事は、同時に私の事を見下している、という事になるのよね。とても受け入れられるものではないわ。

 とは言え、ここで同行できる問題でもない。とりあえず、そう自分にそう言い聞かせて痛みによって顔を歪ませているグリー王子に回復魔法を掛けて行った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】幼馴染と恋人は別だと言われました

迦陵 れん
恋愛
「幼馴染みは良いぞ。あんなに便利で使いやすいものはない」  大好きだった幼馴染の彼が、友人にそう言っているのを聞いてしまった。  毎日一緒に通学して、お弁当も欠かさず作ってあげていたのに。  幼馴染と恋人は別なのだとも言っていた。  そして、ある日突然、私は全てを奪われた。  幼馴染としての役割まで奪われたら、私はどうしたらいいの?    サクッと終わる短編を目指しました。  内容的に薄い部分があるかもしれませんが、短く纏めることを重視したので、物足りなかったらすみませんm(_ _)m    

目を覚ました気弱な彼女は腹黒令嬢になり復讐する

音爽(ネソウ)
恋愛
家族と婚約者に虐げられてきた伯爵令嬢ジーン・ベンスは日々のストレスが重なり、高熱を出して寝込んだ。彼女は悪夢にうなされ続けた、夢の中でまで冷遇される理不尽さに激怒する。そして、目覚めた時彼女は気弱な自分を払拭して復讐に燃えるのだった。

【完結】 いいえ、あなたを愛した私が悪いのです

冬馬亮
恋愛
それは親切な申し出のつもりだった。 あなたを本当に愛していたから。 叶わぬ恋を嘆くあなたたちを助けてあげられると、そう信じていたから。 でも、余計なことだったみたい。 だって、私は殺されてしまったのですもの。 分かってるわ、あなたを愛してしまった私が悪いの。 だから、二度目の人生では、私はあなたを愛したりはしない。 あなたはどうか、あの人と幸せになって --- ※ R-18 は保険です。

婚約破棄したくせに、聖女の能力だけは貸して欲しいとか……馬鹿ですか?

マルローネ
恋愛
ハーグリーブス伯爵家には代々、不思議な能力があった。 聖女の祈りで業務の作業効率を上げられるというものだ。 範囲は広いとは言えないが、確実に役に立つ能力であった。 しかし、長女のエメリ・ハーグリーブスは婚約者のルドルフ・コーブル公爵令息に婚約破棄をされてしまう。そして、進めていた事業の作業効率は計画通りには行かなくなり……。 「婚約破棄にはなったが、お前の聖女としての能力は引き続き、我が領地経営に活かしたいのだ。協力してくれ」 「ごめんなさい……意味が分かりません」 エメリは全力で断るのだった……。

婚約を解消してくれないと、毒を飲んで死ぬ? どうぞご自由に

柚木ゆず
恋愛
 ※7月25日、本編完結いたしました。後日、補完編と番外編の投稿を予定しております。  伯爵令嬢ソフィアの幼馴染である、ソフィアの婚約者イーサンと伯爵令嬢アヴリーヌ。二人はソフィアに内緒で恋仲となっており、最愛の人と結婚できるように今の関係を解消したいと考えていました。  ですがこの婚約は少々特殊な意味を持つものとなっており、解消するにはソフィアの協力が必要不可欠。ソフィアが関係の解消を快諾し、幼馴染三人で両家の当主に訴えなければ実現できないものでした。  そしてそんなソフィアは『家の都合』を優先するため、素直に力を貸してくれはしないと考えていました。  そこで二人は毒を用意し、一緒になれないなら飲んで死ぬとソフィアに宣言。大切な幼馴染が死ぬのは嫌だから、必ず言うことを聞く――。と二人はほくそ笑んでいましたが、そんなイーサンとアヴリーヌに返ってきたのは予想外の言葉でした。 「そう。どうぞご自由に」

全てを捨てた私に残ったもの

みおな
恋愛
私はずっと苦しかった。 血の繋がった父はクズで、義母は私に冷たかった。 きっと義母も父の暴力に苦しんでいたの。それは分かっても、やっぱり苦しかった。 だから全て捨てようと思います。

【完結】私を捨てて駆け落ちしたあなたには、こちらからさようならを言いましょう。

やまぐちこはる
恋愛
パルティア・エンダライン侯爵令嬢はある日珍しく婿入り予定の婚約者から届いた手紙を読んで、彼が駆け落ちしたことを知った。相手は同じく侯爵令嬢で、そちらにも王家の血筋の婿入りする婚約者がいたが、貴族派閥を保つ政略結婚だったためにどうやっても婚約を解消できず、愛の逃避行と洒落こんだらしい。 落ち込むパルティアは、しばらく社交から離れたい療養地としても有名な別荘地へ避暑に向かう。静かな湖畔で傷を癒やしたいと、高級ホテルでひっそり寛いでいると同じ頃から同じように、人目を避けてぼんやり湖を眺める美しい青年に気がついた。 毎日涼しい湖畔で本を読みながら、チラリチラリと彼を盗み見ることが日課となったパルティアだが。 様子がおかしい青年に気づく。 ふらりと湖に近づくと、ポチャっと小さな水音を立てて入水し始めたのだ。 ドレスの裾をたくしあげ、パルティアも湖に駆け込んで彼を引き留めた。 ∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞ 最終話まで予約投稿済です。 次はどんな話を書こうかなと思ったとき、駆け落ちした知人を思い出し、そんな話を書くことに致しました。 ある日突然、紙1枚で消えるのは本当にびっくりするのでやめてくださいという思いを込めて。 楽しんで頂けましたら、きっと彼らも喜ぶことと思います。

【第一章完結】相手を間違えたと言われても困りますわ。返品・交換不可とさせて頂きます

との
恋愛
「結婚おめでとう」 婚約者と義妹に、笑顔で手を振るリディア。 (さて、さっさと逃げ出すわよ) 公爵夫人になりたかったらしい義妹が、代わりに結婚してくれたのはリディアにとっては嬉しい誤算だった。 リディアは自分が立ち上げた商会ごと逃げ出し、新しい商売を立ち上げようと張り切ります。 どこへ行っても何かしらやらかしてしまうリディアのお陰で、秘書のセオ達と侍女のマーサはハラハラしまくり。 結婚を申し込まれても・・ 「困った事になったわね。在地剰余の話、しにくくなっちゃった」 「「はあ? そこ?」」 ーーーーーー 設定かなりゆるゆる? 第一章完結

処理中です...