64 / 66
追加閑話
隠れ家
しおりを挟む堀の中からようやく向けだし、魔物の森の中にある隠れ家に到着した。
森の中は魔物が多く住んでいるが、ここは魔物除けの魔道具が常時起動しているので、この家の周囲であれば魔物に襲われる心配はほとんどない。稀に魔物除けの効果が無い存在もいるが、そういった魔物は力が弱い物がほとんどなので、少なくとも近付いてきたところで襲われることはまずない。
背負っていたとはいえ、長い距離背負われていたことでアイリはかなり疲れている表情をしていた。
出来れば早い内に今後について話しておきたいところだが、これは先に休息を取った方が良いかもしれない。それに俺もここに着くまでに結構気を張っていたからなのか、どっと体が重くなっていること気付いた。おそらく安心できる場所について気が抜けてしまっているのだろう。
仕方ない。今日のところは早く休息をとって今後の事は明日話し合うことにしよう。
翌日、余程疲れがたまっていたのか起きれば既に日は高くなっていた。これはどう見ても昼は確実に超えているだろう。
隣のベッドで寝ていたアイリの様子を確認するが、既に起きていたようでそこにアイリの姿はなかった。
ここにいなければあそこだろうと、少し狭い寝室から出てキッチンのある部屋に向かう。
隠れ家は他の人に見つからないようにしているためかなり狭い。先ほどまでいた寝室も大きめのバッドを1つ置いただけでほとんどが埋まってしまうほどの広さしかない。今から向かうキッチンのある部屋も狭いが、普段過ごすスペースも兼ねているので寝室よりは広くなっている。
狭く短い廊下を移動してキッチンのある部屋に行くと、アイリがキッチンの前で何かをしていた。俺もそうだがアイリも食事を作ることはできない。アイリはかろうじてそれっぽいものを作ることはできるが、俺は本当にダメだった。
とはいえ、今のアイリではろくなことはできないだろう。
「アイリ」
キッチンの前にいたアイリに声をかけるとこちらを向き、それから少し呆れた表情をしてきた。
「あら、やっと起きたの」
「ごめん」
本当だったら俺のほうが先に起きて、動きにくくなっているアイリ補佐をすべきだったのに、実際は俺のほうが後に起きてきているわけだ。
「あなたの分はないわよ」
俺がアイリのことを見ていたら、どうやら自分が食べているものを欲しがっていると思ったようで、アイリは俺から食べているものを守るように体を移動させた。
「え、いや。そうじゃなくて、その……大丈夫だったの?」
「はあ? 何それ。私には料理ができないって馬鹿にしてるの?」
「あ、ごめん。そうじゃなくて」
料理があまりできないことを指摘されたと思ったらしく、アイリは怒りの表情で俺のことをにらんできた。しかし、俺にそんな意図はないのですぐに経て位の言葉をかけた。
「その…体――」
「あ?」
俺がアイリの体の状態を指摘しようとした瞬間、アイリはすごい剣幕で俺のことをにらんできた。
「あなた。人が気にしないようにしているのにどうしてそんなことをいうのよ!」
しまった。これは言わないほうがよかったか。
俺に怒っている様子のアイリだったが、明らかに先ほどの落ち着いている様子ではなくなっている。どうやら本当に指摘してはいけない部分に触れてしまったようだ。
「ご、ごめん」
「ちょっとは自分の発言には気をつけなさいよ! どうして私があんたの言葉で嫌な思いをしないといけないのよ! そんなだからあなたは出来損ないの王族とか言われていたのよ」
「そ…そうだね」
嫌な思いをさせてしまったのは申し訳ないし、そう言われていたのは事実だ。それに、今回みたいな迂闊な言動や行動が多かったのも今思えばそうだった。
「は?」
しかしそんな俺の発言が気に食わなかったのかアイリの表情がさらに不機嫌になった。何が癇に障ったのかはわからないが、これもあまりいい発言ではなかったようだ。
「デリウス、あなたね。今までいいように使われていた相手に、こんなことを言われて、どうしてそんな態度をとれるの? 馬鹿なの? アホなの?」
アイリが本当に馬鹿にしている表情でそう言ってきたが、俺はいいように扱われていたとか、そんな風に思ったことはない。
だって俺もアイリのことを利用していたのだから。
―――――
いろいろあってアイリは精神的に相当不安定になっています
あと、元王子はもとから気はそんなに強くないです。最初の強気な態度は魔法の影響です
23
お気に入りに追加
2,018
あなたにおすすめの小説
[完結] 私を嫌いな婚約者は交代します
シマ
恋愛
私、ハリエットには婚約者がいる。初めての顔合わせの時に暴言を吐いた婚約者のクロード様。
両親から叱られていたが、彼は反省なんてしていなかった。
その後の交流には不参加もしくは当日のキャンセル。繰り返される不誠実な態度に、もう我慢の限界です。婚約者を交代させて頂きます。
【完結】どうやら私は婚約破棄されるそうです。その前に舞台から消えたいと思います
りまり
恋愛
私の名前はアリスと言います。
伯爵家の娘ですが、今度妹ができるそうです。
母を亡くしてはや五年私も十歳になりましたし、いい加減お父様にもと思った時に後妻さんがいらっしゃったのです。
その方にも九歳になる娘がいるのですがとてもかわいいのです。
でもその方たちの名前を聞いた時ショックでした。
毎日見る夢に出てくる方だったのです。
【完結】不貞された私を責めるこの国はおかしい
春風由実
恋愛
婚約者が不貞をしたあげく、婚約破棄だと言ってきた。
そんな私がどうして議会に呼び出され糾弾される側なのでしょうか?
婚約者が不貞をしたのは私のせいで、
婚約破棄を命じられたのも私のせいですって?
うふふ。面白いことを仰いますわね。
※最終話まで毎日一話更新予定です。→3/27完結しました。
※カクヨムにも投稿しています。
なんで私だけ我慢しなくちゃならないわけ?
ワールド
恋愛
私、フォン・クラインハートは、由緒正しき家柄に生まれ、常に家族の期待に応えるべく振る舞ってまいりましたわ。恋愛、趣味、さらには私の将来に至るまで、すべては家名と伝統のため。しかし、これ以上、我慢するのは終わりにしようと決意いたしましたわ。
だってなんで私だけ我慢しなくちゃいけないと思ったんですもの。
これからは好き勝手やらせてもらいますわ。
公爵令嬢の辿る道
ヤマナ
恋愛
公爵令嬢エリーナ・ラナ・ユースクリフは、迎えた5度目の生に絶望した。
家族にも、付き合いのあるお友達にも、慕っていた使用人にも、思い人にも、誰からも愛されなかったエリーナは罪を犯して投獄されて凍死した。
それから生を繰り返して、その度に自業自得で凄惨な末路を迎え続けたエリーナは、やがて自分を取り巻いていたもの全てからの愛を諦めた。
これは、愛されず、しかし愛を求めて果てた少女の、その先の話。
※暇な時にちょこちょこ書いている程度なので、内容はともかく出来についてはご了承ください。
追記
六十五話以降、タイトルの頭に『※』が付いているお話は、流血表現やグロ表現がございますので、閲覧の際はお気を付けください。
裏切りの先にあるもの
マツユキ
恋愛
侯爵令嬢のセシルには幼い頃に王家が決めた婚約者がいた。
結婚式の日取りも決まり数か月後の挙式を楽しみにしていたセシル。ある日姉の部屋を訪ねると婚約者であるはずの人が姉と口づけをかわしている所に遭遇する。傷つくセシルだったが新たな出会いがセシルを幸せへと導いていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる