48 / 66
これから貴方と過ごす場所
使役された魔物
しおりを挟む目の前にいる魔物は未だに動く気配がない。
呼吸はしているから死んでいるということはないだろうけど、ここまで動かないとなると、明らかに異常だ。
いきなり動き出す可能性を考慮して、少し距離を取りながら魔物を観察する。
私が周りをぐるりと回っても、この魔物は興味を示すどころか視線すら動かさない。
ここまで反応しないのは本当に生きているのか怪しいわね。持っている魔力もなんか安定していないし、この状態にしている何かがあるってことなのでしょう。
それに辺境伯に使役されていたということは、何らかの魔法か道具で従えているのでしょうけど、この大きさの魔物となればそう簡単に使役することは出来ないはず。魅了系の魔法は人向けの魔法だから魔物には効きにくいし、どうやったのかしら。
辺境伯がこの手の才能を持っていた可能性もあるけれど、そうであればもっとうまくスタンピードを起こしていたでしょうし、その線は薄そうよね。
魔法的な何かによって使役されているのなら、触れば何となくわかるとは思うのだけど、何が起こるかわからないから下手なことは出来ない。
「ふん、そんな物さっさと殺してしまえばいいものを、お前は何をしているのだ?」
「ん?」
慎重に魔物の事を確認しているといつの間にか辺境伯が気絶から回復していた。これ、最悪気付かない内に魔物に近付いていたら攻撃されていたよね? わざわざ声を掛けてくれたからそんなことにはならなかったけど。
「なぜすぐに殺さなかった。今なら容易に殺せるだろうに」
「どうしてそんなことを聞くのかしら?」
これは何か意図がありそうね。言い方からしてこの魔物を殺したいみたいにも聞こえるけど。
「そんなことはどうでもよかろう?」
「じゃあ答える必要もないわね」
私がこの魔物をすぐに倒そうとしない理由は、そうしたら後が面倒なことになるからだけど、ここで質問の意図をはぐらかすということは時間稼ぎの可能性もあるわね。他に協力者がいる可能性は十分あるし、ここはこの魔物を放っておいて辺境伯を先にギルドへ運んだ方が良いのかしら。
「無駄だぞ」
「はい?」
既にロイドによってロープで拘束されているから、何をしても憐れにしか見えないわね。
「嗾けた部下の大半を失うことになったが、そいつは捕まえる時に相当痛めつけたからな。今は魔力で無理やり生かしてはいるが、お前が何をしないまでも近いうちに死ぬだろう。お前が欲しがったところでもう遅い」
別に欲しいから倒さなかったわけではないのだけど。でも、なるほど。この魔物の魔力が不安定だったのはそれが原因か。たぶん、それを利用してこの魔物を従えさせていたのね。
だとすれば、その魔力を抜けば辺境伯の支配下からこの魔物は脱する。ただ、同時に死に近づくわけだけど。
まあ、それは回復魔法を使えば解決するのよね。この大きさの魔物を回復させるには相当魔力が必要だから、普通だったら現実的ではないけれど私なら問題ないだろうし。堀や塀を作ったからその分魔力は減っているけれど、あれから少しとは言え時間は経ったし、多少魔力は回復しているから問題はないでしょ。
「お前が殺さないのであれば私が命令して自害させてやろう」
辺境伯がそう言うと同時に目の前の魔物が苦しみだし、悲鳴を上げ藻掻きだした。
「グ、ギャアァァアア!!」
別に欲しいわけではないけど、死なれても困るのよね。
私は苦しむ魔物に向かって回復魔法と、辺境伯からの支配を解くための魔力を放った。
24
お気に入りに追加
2,017
あなたにおすすめの小説

思い出してしまったのです
月樹《つき》
恋愛
同じ姉妹なのに、私だけ愛されない。
妹のルルだけが特別なのはどうして?
婚約者のレオナルド王子も、どうして妹ばかり可愛がるの?
でもある時、鏡を見て思い出してしまったのです。
愛されないのは当然です。
だって私は…。

【完結】幼い頃から婚約を誓っていた伯爵に婚約破棄されましたが、数年後に驚くべき事実が発覚したので会いに行こうと思います
菊池 快晴
恋愛
令嬢メアリーは、幼い頃から将来を誓い合ったゼイン伯爵に婚約破棄される。
その隣には見知らぬ女性が立っていた。
二人は傍から見ても仲睦まじいカップルだった。
両家の挨拶を終えて、幸せな結婚前パーティで、その出来事は起こった。
メアリーは彼との出会いを思い返しながら打ちひしがれる。
数年後、心の傷がようやく癒えた頃、メアリーの前に、謎の女性が現れる。
彼女の口から発せられた言葉は、ゼインのとんでもない事実だった――。
※ハッピーエンド&純愛
他サイトでも掲載しております。

婚約破棄で見限られたもの
志位斗 茂家波
恋愛
‥‥‥ミアス・フォン・レーラ侯爵令嬢は、パスタリアン王国の王子から婚約破棄を言い渡され、ありもしない冤罪を言われ、彼女は国外へ追放されてしまう。
すでにその国を見限っていた彼女は、これ幸いとばかりに別の国でやりたかったことを始めるのだが‥‥‥
よくある婚約破棄ざまぁもの?思い付きと勢いだけでなぜか出来上がってしまった。
そんなに妹が好きなら死んであげます。
克全
恋愛
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」に同時投稿しています。
『思い詰めて毒を飲んだら周りが動き出しました』
フィアル公爵家の長女オードリーは、父や母、弟や妹に苛め抜かれていた。
それどころか婚約者であるはずのジェイムズ第一王子や国王王妃にも邪魔者扱いにされていた。
そもそもオードリーはフィアル公爵家の娘ではない。
イルフランド王国を救った大恩人、大賢者ルーパスの娘だ。
異世界に逃げた大魔王を追って勇者と共にこの世界を去った大賢者ルーパス。
何の音沙汰もない勇者達が死んだと思った王達は……

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります>
政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

兄を溺愛する母に捨てられたので私は家族を捨てる事にします!
ユウ
恋愛
幼い頃から兄を溺愛する母。
自由奔放で独身貴族を貫いていた兄がようやく結婚を決めた。
しかし、兄の結婚で全てが崩壊する事になった。
「今すぐこの邸から出て行ってくれる?遺産相続も放棄して」
「は?」
母の我儘に振り回され同居し世話をして来たのに理不尽な理由で邸から追い出されることになったマリーは自分勝手な母に愛想が尽きた。
「もう縁を切ろう」
「マリー」
家族は夫だけだと思い領地を離れることにしたそんな中。
義母から同居を願い出られることになり、マリー達は義母の元に身を寄せることになった。
対するマリーの母は念願の新生活と思いきや、思ったように進まず新たな嫁はびっくり箱のような人物で生活にも支障が起きた事でマリーを呼び戻そうとするも。
「無理ですわ。王都から領地まで遠すぎます」
都合の良い時だけ利用する母に愛情はない。
「お兄様にお任せします」
実母よりも大事にしてくれる義母と夫を優先しすることにしたのだった。
神のいとし子は追放された私でした〜異母妹を選んだ王太子様、今のお気持ちは如何ですか?〜
星里有乃
恋愛
「アメリアお姉様は、私達の幸せを考えて、自ら身を引いてくださいました」
「オレは……王太子としてではなく、一人の男としてアメリアの妹、聖女レティアへの真実の愛に目覚めたのだ!」
(レティアったら、何を血迷っているの……だって貴女本当は、霊感なんてこれっぽっちも無いじゃない!)
美貌の聖女レティアとは対照的に、とにかく目立たない姉のアメリア。しかし、地味に装っているアメリアこそが、この国の神のいとし子なのだが、悪魔と契約した妹レティアはついに姉を追放してしまう。
やがて、神のいとし子の祈りが届かなくなった国は災いが増え、聖女の力を隠さなくなったアメリアに救いの手を求めるが……。
* 2023年01月15日、連載完結しました。
* ヒロインアメリアの相手役が第1章は精霊ラルド、第2章からは隣国の王子アッシュに切り替わります。最終章に該当する黄昏の章で、それぞれの関係性を決着させています。お読みくださった読者様、ありがとうございました!
* 初期投稿ではショートショート作品の予定で始まった本作ですが、途中から長編版に路線を変更して完結させました。
* この作品は小説家になろうさんとアルファポリスさんに投稿しております。
* ブクマ、感想、ありがとうございます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる