(完結)婚約破棄ですか…いいでしょう!! おい国王! 聞いていましたね! 契約通り自由にさせてもらいます!!

にがりの少なかった豆腐

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これから貴方と過ごす場所

使役された魔物

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 目の前にいる魔物は未だに動く気配がない。
 呼吸はしているから死んでいるということはないだろうけど、ここまで動かないとなると、明らかに異常だ。
 いきなり動き出す可能性を考慮して、少し距離を取りながら魔物を観察する。

 私が周りをぐるりと回っても、この魔物は興味を示すどころか視線すら動かさない。
 ここまで反応しないのは本当に生きているのか怪しいわね。持っている魔力もなんか安定していないし、この状態にしている何かがあるってことなのでしょう。

 それに辺境伯に使役されていたということは、何らかの魔法か道具で従えているのでしょうけど、この大きさの魔物となればそう簡単に使役することは出来ないはず。魅了系の魔法は人向けの魔法だから魔物には効きにくいし、どうやったのかしら。
 辺境伯がこの手の才能を持っていた可能性もあるけれど、そうであればもっとうまくスタンピードを起こしていたでしょうし、その線は薄そうよね。

 魔法的な何かによって使役されているのなら、触れば何となくわかるとは思うのだけど、何が起こるかわからないから下手なことは出来ない。

「ふん、そんな物さっさと殺してしまえばいいものを、お前は何をしているのだ?」
「ん?」

 慎重に魔物の事を確認しているといつの間にか辺境伯が気絶から回復していた。これ、最悪気付かない内に魔物に近付いていたら攻撃されていたよね? わざわざ声を掛けてくれたからそんなことにはならなかったけど。

「なぜすぐに殺さなかった。今なら容易に殺せるだろうに」
「どうしてそんなことを聞くのかしら?」

 これは何か意図がありそうね。言い方からしてこの魔物を殺したいみたいにも聞こえるけど。

「そんなことはどうでもよかろう?」
「じゃあ答える必要もないわね」

 私がこの魔物をすぐに倒そうとしない理由は、そうしたら後が面倒なことになるからだけど、ここで質問の意図をはぐらかすということは時間稼ぎの可能性もあるわね。他に協力者がいる可能性は十分あるし、ここはこの魔物を放っておいて辺境伯を先にギルドへ運んだ方が良いのかしら。

「無駄だぞ」
「はい?」

 既にロイドによってロープで拘束されているから、何をしても憐れにしか見えないわね。

「嗾けた部下の大半を失うことになったが、そいつは捕まえる時に相当痛めつけたからな。今は魔力で無理やり生かしてはいるが、お前が何をしないまでも近いうちに死ぬだろう。お前が欲しがったところでもう遅い」

 別に欲しいから倒さなかったわけではないのだけど。でも、なるほど。この魔物の魔力が不安定だったのはそれが原因か。たぶん、それを利用してこの魔物を従えさせていたのね。
 だとすれば、その魔力を抜けば辺境伯の支配下からこの魔物は脱する。ただ、同時に死に近づくわけだけど。

 まあ、それは回復魔法を使えば解決するのよね。この大きさの魔物を回復させるには相当魔力が必要だから、普通だったら現実的ではないけれど私なら問題ないだろうし。堀や塀を作ったからその分魔力は減っているけれど、あれから少しとは言え時間は経ったし、多少魔力は回復しているから問題はないでしょ。

「お前が殺さないのであれば私が命令して自害させてやろう」

 辺境伯がそう言うと同時に目の前の魔物が苦しみだし、悲鳴を上げ藻掻きだした。

「グ、ギャアァァアア!!」

 別に欲しいわけではないけど、死なれても困るのよね。
 私は苦しむ魔物に向かって回復魔法と、辺境伯からの支配を解くための魔力を放った。
 
 
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