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これから貴方と過ごす場所
2つ目の契約
しおりを挟む「さて」
関所の門の近くに作られていたおそらく有事の際に使われる会議室に着き、私たちが長机に備えられている椅子に座ったのを確認してから国王が口を開いた。
「レイア。お前を呼び戻した理由は既に手紙で伝えてあるから、その辺りの説明は省くぞ」
「ええ、問題ないわ」
そう返事をしつつ隣に座っているロイドの方を確認する。
これから私と一緒に居る以上、この話をしっかり聞いて欲しい。そう思っていたのだけど、どうやらそこは気にしなくてよかったようだ。見る限り、国王を前にして少し緊張しているようだけど、しっかりと背筋を伸ばし話を聞く姿勢が整っていた。
緊張してはいるけれど、いつも通り横顔も凛々しくて素敵だ。ずっと見ていたい気分に駆られるわね。
「レイア。惚れた相手が隣にいるからといってこちらを無視するでない」
「え?」
国王の一言を聞いてロイドが私の方を向いた。
何か私だけ適当しにしているみたいになっちゃったじゃない。私はロイドが心配で確認していただけなのに。ロイドもしょうがないな、みたいな表情でこっちを見ないでほしい。
「ああ、レイアがこんな状態だから、レイアの相手も話はしっかり聞いてくれ。今後のことに関わるからな」
「え…あ、はい!」
あ、うーん。ロイドが余計に緊張してしまった。
最初の原因は私とはいえ、出来れば余計なことを言わないでくれると良かったのだけど。でも、これはあれね。今後のことを考えての修行みたいな感じでとらえた方が良いのかしら。
ロイド的にはあまり受け入れたくはないでしょうけれど、今後は嫌でも国王と関わることになりそうだから、目上の人を対処するのが得意ではないロイドは、少しでも経験を積まないといけないのよね。
「それでスタンピードの予兆があったとのことだけど、場所はわかっているのよね?」
「ああ、わかっている」
まあ、場所がわかっているからこそ予兆の観測が出来たということでしょうし。
「どの辺りかしら?」
「辺境伯領に接する魔の森だ」
「え? まさか、本当にそこなのですか!? 私の予想当たったの!?」
「ああ、ここまでお前の予想が当たるとは思っていなかった。よもやお前に予知能力があるのではと思う程だ。ここまで来るとお前の手の内で転がされているような気がして、いささか気に食わないがな」
いや、そんなことを言われても、私もまさか思った通りの流れになるとは思わないわよ。でも、そのお陰で私の希望は叶いそうだから気持ちがはやるわね。
この予想に関しては、私がこの国を出る前に使った国王との契約書と少なからず関係している。いえ、結構関係しているわね。
実のところ、私と国王で交わした契約は1つではなかった、というわけ。
「まあ、予想が当たったのは偶然だと思いますけど、とりあえず契約書を出しますね」
そう言って空間魔法でしまっていた契約書を取り出す。そしてそれを机の上に広げた。
この契約書に記載されている内容は簡単に言うと、
『この契約書を記載されている契約者名に書かれた者の力が必要とする事態が起こった場合、この契約書に記載されている契約を執行することで、契約者名に記載された者の行動を強制することが出来る。ただし、この契約による強制力は人間の尊厳を傷付けるような行為には働かない』
要するに命令を無理やり聞かせる契約書だ。正直なところこの契約はあまり良い物ではないのだけれど、私にとっては必要な物でもあるのよね。
そしてこの契約書の内容にはそれ以外にもこういう文言が組み込まれている。
『自国の辺境伯領で問題が起き、この契約書を使用できる条件がそろった場合、この契約書は必ず使用しなければならない。使用しなかった場合はこの契約書は効力を失う』
いや、本当にこれが機能する時が来るとは思っていなかった。もしかしたら私には予知能力とは言わないまでも、先見の明はあるのかもしれないわね。
最初の文言の『契約者名に書かれた者の力が必要とする事態』って言うのが曲者で、これの基準って国王にあるのよね。だから、もしこの文言を入れていなかったら、ずっと国王に私に対する強制命令権を所持されている状態になっていた可能性があったわけだし。
「では、契約書を使いますね」
私はそう言って契約書に魔力を通し、契約内容を発動させる。そして、前と同じように契約書は効力を発揮し、私と国王の契約が成り立った。
「うむ、しっかり効力を発揮しているようだ」
「そうですね」
契約書がしっかり発動している印として、私と国王の左腕に契約していることを示す痣が現れていた。
「それで、契約は成立しましたが、条件の方はしっかり満たせるのですか?」
「問題はない。あれについては今回の件に関わっていることがわかっているのでな。この件が終われば、問題なく満たせる」
「そうですか」
む? 関わっているということはこのスタンピードって?
「それで、今後のことだが、出来る限り早く辺境伯領へ向かってくれ」
「え? もしかしてあまり猶予はないのですか?」
私の思考を遮った国王の発言に少し驚いた。
いや、だって手紙内容的に焦っている感じはなかったから、普通ならある程度猶予があると思うでしょう?
「ああ、予兆であるのは間違いないが、既に少なからず被害が出ている。まあ、現状だと現地の傭兵で対処出来ているから、今すぐに甚大な被害が出るわけではない。しかし、何時、本格的にスタンピードが起こるかがわからない以上、早めに対処する必要があるのは当然だろう」
「まあ、そうですね。わかりました」
確かに、まだ大丈夫と思っていたら、いきなり起こる可能性もあるか。だからそれに備えるためにさっさと行けと。まあ、もう契約の効力が発揮されていて拒否できないから行くけどね。
そうして国王との話し合いが終わってから私たちはあまり寄り道をすることなく、辺境伯領に向かった。
―――――
次話の更新は夜、21時頃になります
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