上 下
35 / 66
これから貴方と過ごす場所

なぜ貴方がここにいる?

しおりを挟む
 
 ロイドと付き合う前まで泊まっていた宿を出て、少し大きな部屋がある宿の一室を借りてロイドと2人での生活が始まってからそろそろ1年というところ。
 ロイドは相変わらず手を出してくるような様子はないけれど、貴族関係の心配事が無くなったからなのか、前よりも遠慮が無くなったような気がする。それに、手を出してこないけれど、こちらから手を出す分には前のように拒絶というか嫌がるような反応はしなくなった。
 そんな感じに、なかなかにいい雰囲気の充実した日々を過ごしていた。

 しかしそんなさなか、傭兵ギルドに私宛の手紙が届いた。

 内容は、まあ簡潔に言えば、国に戻ってこい的なやつだった。
 もう少し詳しく言うと、国のある領地にて突発的モンスター群衆パニック現象、要するにスタンピードの予兆が確認された。なのでそれに対処するために私の力が必要だから戻って来てくれ、って感じね。

 たぶんだけど、このスタンピードは国軍だけで対処できるのだと思う。出来ないならもっと切羽詰まった感じの手紙になるだろうし、手紙の文の中には至急戻れみたいな文言もなかったから。
 だから、おそらく私に貴族籍を与えるための功績を与えようとしているのだと思う。

 確かに何も功績がないまま貴族籍を与えれば、他の貴族から不平不満の声が出て来るだろうし貴族になった後でもいろいろと言われるのが容易に想像できる。そういった面倒を回避するためには、こういった功績はあった方が良いのはわかる。
 それは私も十分に理解しているし、今後のためには必要なことだから願ってもいない。なので頑なに拒否する理由もないんですよね。

 そういうわけで、今日を以てこの国での生活を終えることになった。

 もうこれで完全に自由な生活を送ることが出来なくなるけれど、今後のことを考えればそう悪くない選択だと思う。少なくとも王子と婚約していた頃みたいに完全に束縛された生活ではないのだし、ロイドが一緒なのだからどこでだってやっていける。

「ロイド、準備は出来たかしら?」
「ああ、大体は済んでいる。元々そんなに物は持って来ていないから」

 ロイドはそう言って少し大きめの鞄を示した。まあ、どんなに荷物があったとしても私が空間魔法で収納するから運ぶのに苦労はかからない。

 ロイドの準備が済んだところで、宿を出る。
 宿の方は週単位で借りていたから数日分過剰に代金を払ってしまっているけれど、早く出て行くからといって差額分を返しては貰えない。まあ、ちょうどいい時期に出ていけるなんて最初から考えていなかったから、その辺りは割り切る。

 ギルドの方には昨日の段階で国を出ることを言ってあるし、ロイドの家の方は直接言ったわけではないけれど、ロイドが手紙を出していたので問題はないはずだ。

 そうして私たちは街を出て、隣国、と言うか私が元々居た国に向かった。



 足早に国境に向かうこと半日。街道に出た段階で移動速度を上げるための魔法を使っていたから、本来数日掛かる国境の関所までの距離を既に踏破している。まあ、私が国を出た時も同じことをしたのだけどね。馬車も出ていたけど、無駄にお金をかけたくはなかったし。

 そして、印章を出して国境の関所をさっさと通過して、目的地に向かおうとしたところで後ろから声を掛けられた。

「ああ、ようやく来たか。もう少し早く来られなかったのか?」

 声がした方を振り向く。聞き覚えのある声だったのでその声の主が誰だったのかは見当がついだけど、まさかここに来ているとは思っていなかったからその姿を見て少し驚いた。

「何で貴方がここに居るのですか? 国王」

 いや、本当に何でここに居るの? もしかして暇なのか国王って。いえ、むしろ暇じゃないから、私を急かすためにここに来ているのかも?

「呼び出しておいてなんだが、国に帰って来てもお前がすぐに俺の所に来るとは思えなかったからな」
「ああ、そうですか」

 一応国に着いて直ぐに王へ連絡するつもりだったのよ? まあ王の言う通り、多少連絡するのに何だかんだ時間が掛かったかもしれないけれど。

「それで、そいつが候補か?」

 今まで話の蚊帳の外に居たロイドに国王が視線を向ける。それに気づいたロイドは少し身を固め、背筋を伸ばした。

「いえ、候補ではなく確定です!」

 そう言ってロイドの手を握る。それを見た国王は少し安心したような表情になった。

「まあ、その方が良かろう。今日の段階で候補も居ないようだったらこちらで用意することも考えていたからな」

 おい国王。なに勝手に私の結婚相手を探そうとしているのよ。貴方、人を見る目があまりないのだから止めてくれないかしら。

「要らないです」
「ああ、その辺りはもう必要ないことだな。決まった相手がいるのならこちらも手間がかからず助かる。それで、ここで立ち話をするわけにはいかんから関所の一室で話をする。着いて来い」
「わかりました」

 そうして国王の言葉に従い、私たちは国王の後を着いて行った。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!

gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ? 王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。 国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから! 12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

王子妃教育に疲れたので幼馴染の王子との婚約解消をしました

さこの
恋愛
新年のパーティーで婚約破棄?の話が出る。 王子妃教育にも疲れてきていたので、婚約の解消を望むミレイユ 頑張っていても落第令嬢と呼ばれるのにも疲れた。 ゆるい設定です

完結 「愛が重い」と言われたので尽くすのを全部止めたところ

音爽(ネソウ)
恋愛
アルミロ・ルファーノ伯爵令息は身体が弱くいつも臥せっていた。財があっても自由がないと嘆く。 だが、そんな彼を幼少期から知る婚約者ニーナ・ガーナインは献身的につくした。 相思相愛で結ばれたはずが健気に尽くす彼女を疎ましく感じる相手。 どんな無茶な要望にも応えていたはずが裏切られることになる。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

兄を溺愛する母に捨てられたので私は家族を捨てる事にします!

ユウ
恋愛
幼い頃から兄を溺愛する母。 自由奔放で独身貴族を貫いていた兄がようやく結婚を決めた。 しかし、兄の結婚で全てが崩壊する事になった。 「今すぐこの邸から出て行ってくれる?遺産相続も放棄して」 「は?」 母の我儘に振り回され同居し世話をして来たのに理不尽な理由で邸から追い出されることになったマリーは自分勝手な母に愛想が尽きた。 「もう縁を切ろう」 「マリー」 家族は夫だけだと思い領地を離れることにしたそんな中。 義母から同居を願い出られることになり、マリー達は義母の元に身を寄せることになった。 対するマリーの母は念願の新生活と思いきや、思ったように進まず新たな嫁はびっくり箱のような人物で生活にも支障が起きた事でマリーを呼び戻そうとするも。 「無理ですわ。王都から領地まで遠すぎます」 都合の良い時だけ利用する母に愛情はない。 「お兄様にお任せします」 実母よりも大事にしてくれる義母と夫を優先しすることにしたのだった。

政略より愛を選んだ結婚。~後悔は十年後にやってきた。~

つくも茄子
恋愛
幼い頃からの婚約者であった侯爵令嬢との婚約を解消して、学生時代からの恋人と結婚した王太子殿下。 政略よりも愛を選んだ生活は思っていたのとは違っていた。「お幸せに」と微笑んだ元婚約者。結婚によって去っていた側近達。愛する妻の妃教育がままならない中での出産。世継ぎの王子の誕生を望んだものの産まれたのは王女だった。妻に瓜二つの娘は可愛い。無邪気な娘は欲望のままに動く。断罪の時、全てが明らかになった。王太子の思い描いていた未来は元から無かったものだった。後悔は続く。どこから間違っていたのか。 他サイトにも公開中。

処理中です...