上 下
36 / 47
あれそれの結末

デスファ侯爵家の存在意義

しおりを挟む
 
「あの、これはデスファ侯爵家から送られてきた書類……なのですか?」
「そうだ」

 信じられない、そう思いアグルス様に確認を取りましたが短くそう返されました。
 アグルス様の反応からしてそれが普通、いえ、デスファ侯爵家の本来の姿を知っていたのでしょう。思い返してみればアグルス様はデスファ侯爵家についてあまり意見を述べていませんでした。
 今までは何となくあまり関わりたくはないのだろうと考えていましたが、あのような悪評が立つ理由を知っていたからなのでしょう。

「それを読めばある程度わかると思うが、デスファ侯爵家の役割はナルアス辺境伯家の役割や国の中での立ち位置は似ている」
「はい」

 ナルアス辺境伯家は隣国に接している重要な領地であり、国防の要所です。主な貿易の拠点はレセンダル領ですが、ナルアス家は軍事境界線に接しているため隣国ににらみを利かせる、という意味ではレセンダル領よりも国の重要度は高いです。まあ、近年は多くの国が軍事行動を取っていないので緊張感は薄いですが、何時どうなるかなどわかる訳がないので常に警戒はしているのです。

 そしてナルアス辺境伯家の役割が国外に睨みを効かせるであれば、デスファ侯爵家は国内に睨みを効かせる役割があるという感じでしょうか。
 表立った物ではないので少し違う気もしますが、役割は似ています。不正や反乱分子の抑制、スパイなどの他国から入って来た者を捕らえるなど。国内に潜む敵、を排除するのが役目なのでしょう。これだけ見れば暗部のような活動内容ですね。そう言えば似たような噂がデスファ家にはありましたが、あながち間違いではなかったようです。

 書類の後半、私に向けた部分を確認します。内容は基本的には関係者になったので今後はよろしく、と言った感じの内容です。立場上、直接の関りはないでしょうけれど、何かがあった際に口裏合わせなりする必要があるという事でしょうか。

 書類の内容を確認し終え顔を上げるとアグルス様が私の様子を伺っていました。真剣な目で見られていたことに少し背筋がひやりとしましたが、書類をアグルス様に返します。

「おおよそ理解しました」
「ならいい」

 今確認した書類の主な内容は先にアグルス様が述べていたように国としては、ゼペア商会は商会長を挿げ替え存続させる方針のようですね。ですが、さすがに今のまま、という訳ではなくいくつかの商会に別ける、要は取り込まれていた商会を元に戻す、という訳です。まあ、これでも問題が無いという訳ではないのですが、制御できない商会を維持するよりは良い、という判断なのでしょう。

「このような状況の中で渡したという事で察せているだろうが、この書類の内容とデスファ家のことは、この家の者であったとしてもここに居る者以外には他言無用だ」
「わかりました」

 アグルス様と私を抜いて、現執事長以外に知っている者はいないのですか。
 これはアグルス様の妻である以上に、私の事を信頼してくださっているという事でしょうか。そうだとしたら嬉しいですね。

 しかし、最低数の者にしか伝えない情報、いえ、これは確実に信頼できると思える者が他に居ない、ということなのかもしれません。前執事長の件で多くの使用人が新しく入って来ていますし、その可能性は高いでしょう。
 さすがに、当主とその妻である私を抜いて1人しか情報を把握していないというのは不都合が多いはずですから、今後、知らせても問題ないと判断できる者が出てくれば、この情報を共有する者も増えていくでしょうね。

「今回の話はこれで終わりだ。次にこの事について進展があった時、また呼び出すことになるだろう」
「はい。それでは私は戻ります」
「ああ」

 そうして私はアグルス様の執務室から退出しました。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】妹が欲しがるならなんでもあげて令嬢生活を満喫します。それが婚約者の王子でもいいですよ。だって…

西東友一
恋愛
私の妹は昔から私の物をなんでも欲しがった。 最初は私もムカつきました。 でも、この頃私は、なんでもあげるんです。 だって・・・ね

【完結】小国の王太子に捨てられたけど、大国の王太子に溺愛されています。え?私って聖女なの?

如月ぐるぐる
恋愛
王太子との婚約を一方的に破棄され、王太子は伯爵令嬢マーテリーと婚約してしまう。 留学から帰ってきたマーテリーはすっかりあか抜けており、王太子はマーテリーに夢中。 政略結婚と割り切っていたが納得いかず、必死に説得するも、ありもしない罪をかぶせられ国外追放になる。 家族にも見捨てられ、頼れる人が居ない。 「こんな国、もう知らない!」 そんなある日、とある街で子供が怪我をしたため、術を使って治療を施す。 アトリアは弱いながらも治癒の力がある。 子供の怪我の治癒をした時、ある男性に目撃されて旅に付いて来てしまう。 それ以降も街で見かけた体調の悪い人を治癒の力で回復したが、気が付くとさっきの男性がずっとそばに付いて来る。 「ぜひ我が国へ来てほしい」 男性から誘いを受け、行く当てもないため付いて行く。が、着いた先は祖国ヴァルプールとは比較にならない大国メジェンヌ……の王城。 「……ん!?」

妹が嫌がっているからと婚約破棄したではありませんか。それで路頭に迷ったと言われても困ります。

木山楽斗
恋愛
伯爵令嬢であるラナーシャは、妹同伴で挨拶をしに来た婚約者に驚くことになった。 事前に知らされていなかったことであるため、面食らうことになったのである。 しかもその妹は、態度が悪かった。明らかにラナーシャに対して、敵意を抱いていたのだ。 だがそれでも、ラナーシャは彼女を受け入れた。父親がもたらしてくれた婚約を破談してはならないと、彼女は思っていたのだ。 しかしそんな彼女の思いは二人に裏切られることになる。婚約者は、妹が嫌がっているからという理由で、婚約破棄を言い渡してきたのだ。 呆気に取られていたラナーシャだったが、二人の意思は固かった。 婚約は敢え無く破談となってしまったのだ。 その事実に、ラナーシャの両親は憤っていた。 故に相手の伯爵家に抗議した所、既に処分がなされているという返答が返ってきた。 ラナーシャの元婚約者と妹は、伯爵家を追い出されていたのである。 程なくして、ラナーシャの元に件の二人がやって来た。 典型的な貴族であった二人は、家を追い出されてどうしていいかわからず、あろうことかラナーシャのことを頼ってきたのだ。 ラナーシャにそんな二人を助ける義理はなかった。 彼女は二人を追い返して、事なきを得たのだった。

【完結】婚約破棄はしたいけれど傍にいてほしいなんて言われましても、私は貴方の母親ではありません

すだもみぢ
恋愛
「彼女は私のことを好きなんだって。だから君とは婚約解消しようと思う」 他の女性に言い寄られて舞い上がり、10年続いた婚約を一方的に解消してきた王太子。 今まで婚約者だと思うからこそ、彼のフォローもアドバイスもしていたけれど、まだそれを当たり前のように求めてくる彼に驚けば。 「君とは結婚しないけれど、ずっと私の側にいて助けてくれるんだろう?」 貴方は私を母親だとでも思っているのでしょうか。正直気持ち悪いんですけれど。 王妃様も「あの子のためを思って我慢して」としか言わないし。 あんな男となんてもう結婚したくないから我慢するのも嫌だし、非難されるのもイヤ。なんとかうまいこと立ち回って幸せになるんだから!

虐げられていた姉はひと月後には幸せになります~全てを奪ってきた妹やそんな妹を溺愛する両親や元婚約者には負けませんが何か?~

***あかしえ
恋愛
「どうしてお姉様はそんなひどいことを仰るの?!」 妹ベディは今日も、大きなまるい瞳に涙をためて私に喧嘩を売ってきます。 「そうだぞ、リュドミラ!君は、なぜそんな冷たいことをこんなかわいいベディに言えるんだ!」 元婚約者や家族がそうやって妹を甘やかしてきたからです。 両親は反省してくれたようですが、妹の更生には至っていません! あとひと月でこの地をはなれ結婚する私には時間がありません。 他人に迷惑をかける前に、この妹をなんとかしなくては! 「結婚!?どういうことだ!」って・・・元婚約者がうるさいのですがなにが「どういうこと」なのですか? あなたにはもう関係のない話ですが? 妹は公爵令嬢の婚約者にまで手を出している様子!ああもうっ本当に面倒ばかり!! ですが公爵令嬢様、あなたの所業もちょぉっと問題ありそうですね? 私、いろいろ調べさせていただいたんですよ? あと、人の婚約者に色目を使うのやめてもらっていいですか? ・・・××しますよ?

王太子様には優秀な妹の方がお似合いですから、いつまでも私にこだわる必要なんてありませんよ?

木山楽斗
恋愛
公爵令嬢であるラルリアは、優秀な妹に比べて平凡な人間であった。 これといって秀でた点がない彼女は、いつも妹と比較されて、時には罵倒されていたのである。 しかしそんなラルリアはある時、王太子の婚約者に選ばれた。 それに誰よりも驚いたのは、彼女自身である。仮に公爵家と王家の婚約がなされるとしても、その対象となるのは妹だと思っていたからだ。 事実として、社交界ではその婚約は非難されていた。 妹の方を王家に嫁がせる方が有益であると、有力者達は考えていたのだ。 故にラルリアも、婚約者である王太子アドルヴに婚約を変更するように進言した。しかし彼は、頑なにラルリアとの婚約を望んでいた。どうやらこの婚約自体、彼が提案したものであるようなのだ。

婚約破棄宣言は別の場所で改めてお願いします

結城芙由奈 
恋愛
【どうやら私は婚約者に相当嫌われているらしい】 「おい!もうお前のような女はうんざりだ!今日こそ婚約破棄させて貰うぞ!」 私は今日も婚約者の王子様から婚約破棄宣言をされる。受け入れてもいいですが…どうせなら、然るべき場所で宣言して頂けますか? ※ 他サイトでも掲載しています

初耳なのですが…、本当ですか?

あおくん
恋愛
侯爵令嬢の次女として、父親の仕事を手伝ったり、邸の管理をしたりと忙しくしているアニーに公爵家から婚約の申し込みが来た! でも実際に公爵家に訪れると、異世界から来たという少女が婚約者の隣に立っていて…。

処理中です...