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辺境伯様の元へ

行動の理由

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 そもそも、なぜ執事長が不正をしていたのか、その理由は本人からは直接聞くことは出来ませんでした。ですが、ナルアス辺境伯家に執事長と同じく長い間、使用人として仕えていたメイド長からおそらくこれが理由だろう、という話しを聞きました。

 執事長はアグルス様のお父様である前辺境伯様が当主になった時から仕えており、当時は今の態度からは想像できないくらい、まじめに仕事をしていたようです。

 しかし、先代の当主様が亡くなった際に何やら思うところがあったらしく、最終的に不正に手を出すほど変わってしまったそうです。
 そうなってしまった理由は、時折メイド長に愚痴、というよりもアグルス様への嫌がらせに加担するよう誘っていた際に、アグルス様が流行り病に見せかけて先代を殺した、と言っていたそうです。

 メイド長もそれは執事長による妄言だと言っていましたし、先代の当主様の死因は流行り病によるもので間違いないのです。診察した医師による診断書にもそう書かれているらしいですし、貴族院の記録にもそう明記されているそうですから。もし不自然なことがあれば貴族院の調査が入ることになるので、そう明記されている以上、それ以外の死因は考えられないという事なのです。

 さらに言えば、先代の当主様が流行り病にかかった時期には、アグルス様は王都で執務をしていらしたので、流行り病に見せかける、というのは無理な話なのです。それに、アグルス様がお屋敷に駆けつけて来た時には、先代の当主様はすでに危篤状態だったらしいので、さらに無理な話しでしょう。

 執事長は前当主様に忠誠を誓っていたほどらしいので、突然の主の死に絶望する中、アグルス様に行き場のない感情を向けてしまったのが始まりなのではないでしょうか。それが時間をかけて、最初は苦言程度だったものが徐々にエスカレートし、最終的には不正にまで手を伸ばしてしまった、という事なのかもしれません。

 結局のところ、悪いのは執事長なのです。ただ、アグルス様が全く悪くない、とも言えないのです。少なくとも私がナルアス辺境伯家にちゃんと関り始めたのは最近からですし、今までどのようなやり取りがあったかもわかりません。しかし、執事長の嫌がらせが軽い内に無理やりにでも話し合うべきだったと思います。
 確かに、碌な引継ぎも出来ない状態で当主になってしまい、手続きなどで時間に余裕がなかったのも理解しています。ですが、どうやっても出来なかったという訳ではないでしょうし、そうすればここまでの事にはならなかったかもしれません。もしかしたら、良い主従になれたかもしれないのですから。

 ともあれ、もう過ぎたことですし、執事長の件が片付いたのはアグルス様にとって良い事なのですから、懸念が解消できてよかった、という事にしておくべきですね。

 ただ、執事長の指示に従って嫌がらせをしていた使用人への対応が残っているので、完全に片付いたとは言えませんけれど、少なくとも扇動する者が居なくなったのですから、今まで以上に悪い状況にはならないでしょう。
 
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